闇に映える<VII>

空に広がる漆黒の闇を、アメジストの瞳は捕らえていた。
ただ外の景色を眺めては、軽く溜め息を零す。
(…何故、あんな言葉を言ってしまったのだろうか……)
先ほどからそればかりが頭の中を巡るに巡る。
"後悔先に立たず"と何かの言葉であるが、調度それが今の自分だと思った。
あの後、宿屋に戻ったらアイラの姿は無かった。
リリィの話しによると、他の勇者から呼び出されて行ったらしいが…
正直、その場に居てくれなかった方が俺の為だったのかもしれない。
あのままだと、その先何を口走るか判らなかったから。
(………変わったものだな 俺も)
多分、出会った時から何かを気付いていた。
初めて"俺"と言う存在を見てくれたような気持ちになった。
闇に紛れて生きていく自分から暖かな晄を注ぎ込んでくれた彼女へ、
自分も知らない感情が芽生えた。
言葉に表せない、表し尽くせないものが。
この感情が普通の女性に対してのものだったのならばまだ良かった。
だが彼女は天使、俺とは全く正反対の清らかな存在。
胸の内にある想いを告げることすら罪なのかもしれない。
だから今は、これ以上言う事無く過ごそうと思っている。
それに言ったとしても、彼女は判ってくれないだろう。
フロリンダの話では、そういう感情が判らないらしいからな………
(……………)
一瞬瞳を曇らせ、静かに瞼を閉じた。
瞼の裏にも仄かに月明かりは指しこみ、そしてその先には自然とアイラの姿が浮かんでくる。
真っ直ぐ伸びた赤銅の髪も、いつも覗き込んで来るこげ茶の瞳も、例え様の無い笑顔も…
(…どうしようもないな)
ただ部屋には、何度吐き出されたか判らない溜め息だけが聞こえていた。

「…クライヴ?」
「!」
聞き覚えのある声で呼ばれ、バッと後を振り返る。
間違えるハズが無い。 この透き通る声の持ち主は…
「……アイラか」
いつもなら来ていれば気配で判るのに、今日は色々と想いを巡らしていて気付かなかった。
ある意味、剣士にとっては不覚の事態だ。
そんな彼を不思議に思いながらアイラは言葉を返す。
「えぇ、様子を見にきました。 ですが、珍しいですね。 貴方が私の気配に気付かない何て
 どうかしたのですか?」
「……まぁ、色々とな」
頭の中で考えていた事を言えるハズもなく、ぶっきらぼうに答え再び目線を外に向ける。
実際、どう接して良いのかも判らないのだが…
そんなクライヴの事をお構いなしと言わんばかりにツカツカと歩み寄り、少し腰を屈めて
視線を合わす。
「!」
「…クライヴ、本当にどうかしたのですか? いつもと様子が違うように感じますよ…?」
(……彼女は……何も思っていないのか…?)
いつもと変わらず自分に接してくる目の前の天使に困惑を隠せずつい凝視してしまった。
何故か目線は逸らせず、そのままで…
確かにあの一言だけでは気付きにくいかもしれないが、そう何も無かったかのようにされると
こっちの対処も困る。
そんな風に思っているのは、俺だけかもしれないが

「そうだ。 クライヴ、外に行きましょう」
曲げていた腰を真っ直ぐ伸ばし、唐突にも彼女は言い放った。
「……どうした突然」
「いえ、何か思いつめた顔をしているので、外に出れば気分転換になると思いまして」
「別に俺は…」
「行きましょうクライヴ」
微笑みを湛えた彼女の誘いを断れるハズもなく、戸惑いながらもその言葉に応じた。
内心では複雑な想いを抱きながら。


「クライヴ、こっちです」
昼よりさらに冷え込んだ風を躰で感じながら林の中を歩き進んで行く。
最近事件を近辺で解決した所為かモンスターが出現する事はなく、順調に前進して行った。
「…何処に行くつもりだ?」
「もうすぐで着きますよ」
かれこれ20分程歩いたのだろうか?
木の本数が余々に減り始め、視界が切り開いてきた。
そして再び月明かりに照らされるようになる頃には、目の前に洞窟が現われた。
「ここは…」
「着きましたよ 入りましょう」
こんな所に洞窟などあっただろうか…など脳裏で思いながら促されるままに歩を進める。
中はそれ程暗くも無く、狭いと感じる事も無い。
動物などが生活している様子もなく、辺りは静寂に包まれている。
只クライヴの足音だけが響いて。
                          
「ここですよ 如何ですか?」
洞窟の奥に辿り着いたと思われる所で先頭を歩いていたアイラが後を振り返る。
辺りには水晶が無造作にあり、微かな晄を帯びていた。
白、紫、様々な色の水晶があちらこちらに散らばっている。
「私のお気に入りの場所です。 この前探索していた時に見つけたんですけど
 空いている時間とかに結構来ていたりするんですよ この水晶を眺めていると和んで来るよう 
 な気がして」
穏やかに話す彼女を見て、クライヴも自然と落ち着いた。
「綺麗でしょう?」
そう問われ、改めて辺りを見渡す。
「……そうだな。 綺麗だな」
「…クライヴ、ようやく顔が解れてきましたね」
「!」
「先程までは凄く困惑した表情をしていたので安心しました…」
微笑む彼女の表情には安堵の色が含まれていた。
その表情一つでも、自分の中の何かが解き解れてくるのが判る。
                               
別に無理をして結果を求めなくても良い。
そんな事をしても確かな物など得られないのだから。
ゆっくりと、自分の気持ちを明確にして行けば…
そんな事を思わせてくれるような暖かな君の笑顔が愛しく思えた。
                           
「……心配させてすまなかった。 戻ろう」
「はい」
お互い仄かな笑みを浮かべ、歩いて来た道を引き返す。
クライヴの心の中にあった蟠りは、もう無い。

……いつか、君に言える時が来るのだろうか
たった一つの愛の言葉……
                                



 
 (コメント)
 まずはお詫び…
 長い間続編書いていなくてスミマセンでした
 ホントどれくらい期間空けているんだ、ってな感じですが(爆)
 ちなみにクライヴが悩んだ一言は「…君は、俺以外の勇者にも〜」の所です。
 …気持ち判りづらいですね(読み返すと)
 うちの天使は何もないように接してますが、内心微妙に気になってます。
 でもやはり仕事などに支障が出ると思ってそんな風に接しているようです。

                           


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