闇に映える<III>


「………ふぅ」
先程まで姿を現していた月とは打って変わり、暖かな太陽から発せられる陽光を眩しく感じながら
クライヴは足を止める。
8日前突然、と言ってもいつもの事なのだが、天使がやって来て移動を頼まれたのだ。
それもエクレシア教国方面の事件を。
さほど遠くは無いが、辺境地域からでは何日かは掛かる。
あの天使の話によるとエクレシア専門の勇者が居るらしいが、今は他国へ赴いているらしい。
そこで事件も無く、修行に明け暮れている俺の所に依頼を頼みに来た、と言う訳だ。
まぁ、ただ修行をしているだけでは意味が無いのだから調度良いのだがな。

「…だいぶ、明るくなってきたな」
このまま宿で休んでしまおうかと思ったが、目的地まであと1km程度である。
クライヴの歩調ならばそう長くは掛からないだろう。
「……行くか」
多少疲労も溜まっていたが、今は早めに事件を解決して一つの場所に留まりたかった。
その欲求が強かった所為か、体力が半分近くまで減っているのを本人は自覚していない……


クライヴの目の前に大海が広がる。
空を見上げればウミネコが「ミャーミャー」と言う泣き声と共に餌を捜し求めていた。
端から見ればソレは長閑な風景に見えるだろう。
だが、ココでは歓迎され得ない生物が居座っているのだ。

険しい表情で海を睨んでいるクライヴの視界に一枚の羽が映る。
反射的に上空を見上げるが、ソレは単なるただの鳥の羽でしかなかった。
「…そう言えばここ一週間、一度も姿を見ては無いな…」
ついこの前まで毎日の様に現れていた天使がここ数日姿を現していない。
ガラにも無く、他人の事で少しでも心配をしている自分に苦笑する。
妖精も寄越さないともなると、少なからずそう思うものだ。

「グガァアァガァァ!!」
柄元に手を伸ばし、咄嗟に構える。
海面からは歓迎され得ない生物、海竜が轟音と共に姿を現した。
腹を空かしているのか、かなりのご立腹に見える。
「…来い、お前の相手になってやる」
海竜はその言葉の意味を理解は出来ないが、本能で察知したのだろう。
クライヴ目掛けてブレスを吐き出して来た。
瞬時の判断力で左側の岩山に飛び移る。
海竜の注意がまだクライヴ側に向けられていない今を好機と思い、負けじと死界の脇腹を刀で切り
付ける。

いつものアンデットの様に動きも鈍く無いのでクライヴも苦戦を用いさせられた。
それに、体格の差も歴然としている。
だが、どんな生物でも体力の限界と言うものがある事をクライヴは忘れてはいない。

次第に、海竜の攻撃がクライヴに当たらなくなってきている。
攻撃を受けている内に海竜の体力の限界も近付いて来ているのだろう。
クライヴに殆ど攻撃が当たらなくなり、見る限りあと一撃で仕留められると言う所だった。
(行ける!)
刀を振り上げ、頭部に最後の一撃を下そうとした。
が、次の瞬間、陽光がクライヴの眼を刺し、体勢が崩れ、海竜のブレスが直にクライヴの躰を叩き
付けた。
「ぐっ…!!」
不覚にもその場に倒れこむ。
元々、夜の仕事を生業としているクライヴには、慣れない陽射しの下での戦いは不利だったのだ。
増して、疲労困憊な今の状態では。
(…ここまでか…!)
まともに立つ事すらままならないクライヴは覚悟を決めていた。
だが、海竜は攻撃をして来るような様子は見えない。
海竜も、クライヴの攻撃を幾度となく受けていたので戦闘意欲が薄れていたのだろう。
そのまま、又元の海の中へと静かに姿を消して行く…

辺りは再び静寂に包まれた。
まるで先程の戦いが嘘の様に。
「…ハァ…ハァ……… 一端、戻ら、ないとな……」
重い体を引きずって、クライヴは疲れきった体を癒す為に宿場に足を運ばせた。
もう日は既に高くなっている。


宿屋の主人にケガを見られて驚かれたが、簡単に手続きをしてもらい部屋へと案内された。
適当に傷の手当てをすると、そのまま泥の様に深く深く眠りに誘われて行く…



「あっ、又来てしまいました……」
クライヴが眠りに落ちてから数十分後、今まで所在不明な天使、アイラが訪問してきた。
何か用があって来たみたいだが、当の彼は目の前で熟睡しきっている。
「そう言えば、以前も今ぐらいの時間に来てしまったんですよね。クライヴの活動時間は
 夜だと言うのに…… インフォスにはそんな勇者は居ませんでしたからね……」
どうもアイラは勇者の事をきちんと把握していない様子だ。
この前も、クライヴに用事があって訪問してきたのだが、調度睡眠時間に行ってしまい引き返す事
になってしまったのだ。
今回もそのつもり…のハズだったのだが……
「酷い…傷……」
先程まで海竜と戦って出来た傷は塞がる訳も無く、包帯の間から痛々しくアイラの眼に映った。
血が少し、傷から滲み(にじみ)出ている。
「……ごめんなさい、クライヴ。もう少し早く私が来ていれば良かったですね。貴方になるべく負
 担を掛けさせないようにと新しく武器を持ってきたのですが……」
そう言うとアイラの手が微かに光、形を取り始めて“バスタードソード”に変って行った。
アイラが今までクライヴの元へと訪れなかった理由は、新しくフロー宮に武器などが入ったので
、それらを入手する為にAPを温存していたのだ。
おそらくこの期間中、他の勇者もクライヴと同じ事を思っていただろう。
「クライヴ…今、傷を癒しますね」
アイラが手を翳す(かざす)と、母の様な暖かな光がクライヴの躰に降り注いだ。
傷は見る見る内に塞がっていく。
「………これで、大丈夫です。クライヴ、武器はここに置いておきますね。起こしてしまうと
 いけませんから。それでは良い夢を…」
軽く会釈をしてから窓の側に歩み寄り、翼を広げては天に帰って行く。
そんな天使が来たとは知らずに、癒されし者は今だ夢の中…………


アイラが去ってから有に5時間。
ベットの中ではもぞもぞと身じろぐクライヴが眼を覚ました。
先程まであった物が、今は跡形も無く消えているので違和感を覚える。
「傷が……消えている? それに…何だ? 疲れさえ残っていない………」
目の前で起こっている事を不審に思いながら現状を把握しているクライヴの視界にある物が映った。
それは、まだ微かに光を放っている。
「これは……」

{クライヴ、起こすといけないと思ってバスタードソードをここに置いておきます。 些細な物
 ですが受け取って下さいね。 それと、今は体を休める事に専念して下さい。 壊してしまって
 からでは遅いですから。 何かあったら呼んで下さいね     アイラ }

「……あの天使が…傷を治したのか…」
置手紙を読み終えると、天使からの贈り物に手を掛ける。
柄の部分を握っただけでも力が漲る(みなぎる)ような感覚を覚えた。
「……すまない」
今は何処にいるやも判らぬ天使に一言礼を言う青年の部屋の中は、いつもと違う風が流れている。







  (コメント)

 ちょっと今回のクライヴは、アイラに対して良い印象を持ってくれたみたいですね?(多分…)
 それにしてもあの“ラジェスの海竜”のイベントは本当にクライヴで行かせて、HPが減っている 
 ことにも気が付かずに、妖精も付けないで向かわせてしまったんですよ(爆)
 そしたら案の定瀕死状態になってしまって、ソコで初めて悩殺ポーズ(笑)を見たんです
 (見事に撃沈!)
 たまにはこういうのも良いかな?何て思ってしまいましたけど(爆爆!)
 クライヴ休んでおいて下さいね(by アイラ) そのうちパパとも再会しなくちゃいけませんし

                           


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