呪われし運命(サダメ)、血塗られし記憶(カコ)


                           
目を開けると、心配そうに覗き込むセレスティナの顔が其処にあった。
 「気が付いたか………?」
その言葉に小さく頷く。言葉を発するのが酷く億劫だった。
 「そうか……ならいい………」
微かに安堵の表情を浮かべ、セレスティナは長い髪を掻き上げる。一体、何がどうなってい
るのか。全くと言っていいほど自分が置かれている状況が分からなかった。
 「悪い………」
しばらくの沈黙の後、セレスティナがポツリと小さく言葉を漏らした。俯いているため、長
い髪が顔を覆ってしまい、その表情は完全に隠れてしまっている。
 「何がだ?」
たった一言喋っただけなのに酷い息切れがする。体中の力を全て喋る事に回してしまったよ
うな感じだった。
 「何がって………怪我……させた……」
一瞬、呆気に取られたように顔を上げるが、小さくそれだけ言うと、また項垂れるようにして俯く。
 「私は……地上に降りない方が良かったのかも知れない……」
何時もの強気な態度からは考えられないような言葉をセレスティナは呟く。硬く組まれた指
先が、痛々しいほどに白くなっている。
 「怪我のことなら……気にする必要はない……」
この程度の怪我ならば、ハンターを生業としている自分にとっては日常茶飯事だ。生命の危
機にすらあったことがある。
 「それに、治してくれたのだろう?」
その問いかけに対し、セレスティナは小さく頷く。
 「ならば……尚更気にする必要はない………」
 「でも……私のせいで……怪我……させて………」
ポタリ。と、透明な滴が、硬く組まれたセレスティナの手の上に落ちる。
 「私……が……しっかりしてないから……自分の魔力(チカラ)を………上手くコントロー
 ル……出来なかったから………必要のない怪我までさせて……」
次々と溢れる涙を拭うことなく、セレスティナは言葉を続ける。
 「ごめん……本当に……本当に、ごめん………」
目の前で泣き崩れるセレスティナに対して、どうすればいいのか全く分からないままに、鉛
を詰め込まれた様に重い躰にむち打って、左腕をなんとか動かす。
 「泣くな……お前が気にするようなことは、何もないのだから……」
そっと、その頬を伝う涙を拭ってやる。空と大地を思わせる両の瞳が、微かに見開かれる。
 「頼むから………泣かないでくれ……」
それだけ言うのがやっとだった。そのまま、引きずり込まれる様にして意識は深い眠りの中
に落ちて行った。

                               
闇から目覚めて一番最初に目にしたのが、自ら創った血溜まりの中に倒れ伏すクライヴの姿
だった。
 「!」
慌てて駆け寄りその躰を抱き起こす。塞がっていない傷口からは留まることなく血が流れ続
けていた。
 「クライヴ、クライヴッ!」
辺りに漂う、噎せ返るほどに濃い血の臭気に少し閉口しながら、ゆっくりと治癒のための呪
文を紡ぐ。ほのかに白い光が傷口に翳した掌に集まり、吸い込まれるようにして傷口に降り
注ぐ。
 「そんな……なんで塞がらない?!」
普通の傷ならば、それで塞がるはずだった。けれどもどういう訳か、傷口は塞がることなく
血を流し続ける。
 「闇が……」
目を凝らして見れば、傷口の周りにうっすらと影のような物が見て取れる。この傷を塞ぐた
めには、その闇に打ち勝つだけの光が必要だ。思わず唇を噛み締める。
 「出来るか……?私に………」
それは記憶を封じる代償に失った力。そして、その封印が解けた今、理論上は使えるはずだ
った。だが、何十年という間一度も使ったことのない力だ。暴走させずに使えるか、そして
何より、行使するための呪文を正しく覚えているかが問題だった。
 「でも……やるしか、無い………」
ゆっくりと背にしまった翼を広げる。音もなく広がるそれは、正しく光の結晶。その翼に意
識を集中させ、其処に集まった魔力(チカラ)を掌から細く、けれども途切れることの無いよ
うに長く放出する。
 「………………」
額に汗が浮かんでいるのが分かる。慣れないせいか躰に余分な力が入ってしまい、疲労感が
重くのし掛かってくる。永遠とも思える時間の後、全身の力を抜く。
 「終わっ……た」
そのまま深い眠りに引き込まれそうになる意識を宥めつつ、何とか安全と思える場所までク
ライヴを運ぶ。
 「これで………いい………」
ホッとした瞬間を待っていたかの様に睡魔が全身を襲う。その場に崩れ落ちるようにして、
深い眠りに落ちていった。

                                
 「無理、しなくていいからな。」
 「大丈夫だ。」
何度目になるか分からない問答。あの日からすでに10かが過ぎようとしていた。すでに怪
我は完治し、失った体力も9割方回復していた。
 「なら、いいが………」
そう言ってセレスティナは心配そうな顔をして黙り込む。だがそれもつかの間の事。暫く経
つと、
 「本当に、大丈夫なんだな?」
 「あぁ…………」
また、同じ事の繰り返し。責任を感じているのは分かるが、こう何度も同じ事を繰り返して
いると、いい加減辟易してくる。
 「心配してくれるのは有り難いが……これだけは他のヤツに任せる気はない。」
 「それは……分かるけど……」
軽く俯きながら、顔にかかる髪をうっとおしそうに掻き上げる。北の大地を吹き抜ける風に
遊ばれて、毛先が宙に複雑な文様を描く。
 「この前だって、いきなり街中で倒れたし……………」
 「……………」
その言葉に思わず黙り込む。
 「……………あれは昼間だったからだ。」
 「でも自分から言い出した事だろう?」
 「……………………………」
なんとか返した言葉に対して、間髪入れずに返ってくる言葉。かなりムッとしながらも、口
元が軽く緩む。
 「?」
その様子に、訝しげにセレスティナは眉をひそめる。
 「イヤ。ようやく元に戻ったと思ってな………」
あの件から今までの間、セレスティナは妙に大人しかった。最初のうちは珍しいこともある
物だと思っていたが、流石に10日もそれが続くと心配にもなる。
 「………心配………してくれたのか………?」
 「多少はな。」
 「…………アリガト」
 「…………」
それきり、お互い言葉が見つからずに黙り込む。月明かりに照らされた道無き道を黙々と進
むとやがて、目的の場所に着く。
 「………これが……最後だろうな……」
 「……多分………」
城門の前に立ち、万感の思いを込めて小さく呟く。長いようで短い時間だったような気がす
る。暫くの間、黙って2人でその場に立ちすくむ。
 「…………死ぬなよ………」
 「あぁ…………」
長い沈黙の後、短く交わされた言葉。此処まで来たからには、もう、後には引けない。ゆっ
くりと、硬く閉ざされた城門へと向かう。
 「これで……終わりにしてみせる………」
軋んだ音を周囲に撒き散らしながら開いた城門の中に、ゆっくりと進んで行く。呪われし運
命(サダメ)を、今、己の手で断ち切らんが為に。

                              
城の中は、思いの外閑散としていた。予想していた下級モンスター達の出現もなく、“罠に
ハメられたのではないか?”と、思うほどスムーズに城の中央まで進むことが出来た。
 「開けるぞ。」
先刻の門とは異なり、微かな音さえ立てずに巨大な石造りの扉は開いて行く。薄暗い廊下に、
室内の明かりが差し込む。やがて、完全に開いた扉のその先には………
 「レイブンルフト…………」
 「良く来たな………」
不敵に笑みを浮かべ部屋の中央に立つ人物。それが、この城の主でありアンデットたちの王
でもあるレイブンルフトだった。
 「その様子ではどうやら………我等と共に進むために此処へ来たようではない様だな……
 …」
 「………当然だ………」
少し離れた場所で宙に佇みながらその様子を見ているセレスティナは、レイブンルフトの挑
発とも取れる言葉に対して、クライヴが案外冷静なのを見て取り、微かに安堵する。
 「まぁ、お前が有限の命を選ぶというのならば、仕方あるまい。私は、私と私の主、サタン
 様に敵対する者を倒すだけだ。例えそれが、自分の息子であろうとな。」
ほんの一瞬、レイブンルフトはセレスティナの方に目をやり、すぐさま視線を元に戻す。
 「俺は決して貴様のようにはならん………決してだ!」
間合いを取るかのようにクライヴが、剣を鞘から出しつつ大きく後ろに下がる。それと同時
にセレスティナも呪文を唱え始める。
 「?!その剣は…………」
クライヴが手にした剣を目にして、レイブンルフトが微かに目を見開く。
 「そうか………そう言うことか………面白い。」
誰に言うでも無しに小さく呟き、微かに自嘲気味の笑みを浮かべる。
 「……?……風よ!汝の素早さをかの者に分け与えん!」
それを目にしたセレスティナは、ほんの一瞬戸惑いを覚えたが、すぐさまそれを振り切るか
のようにして、唱え終わっていた呪文を解放する。涼やかな声が広間に響き渡る。
 「面白い!私も、全力で相手をさせてもらおう!!」
レイブンルフトが吠えた。それに呼応するかのようにレイブンルフトの魔力が高まって行き、
比例するかのように闇が濃くなって行く。
 「クッ!」
 「ッ!光よっ!!」
斬り掛かろうと、低い姿勢で走り出していたクライヴを衝撃波と化した闇が襲い、クライヴ
は思わずたたらを踏む。セレスティナも唱えていた呪文を急遽取り止め、咄嗟に光の結界を
張る。
 「しまっ!!キャァァァァァッ!!」
 「セレスッ!」
だがしかし、急場しのぎの為に、呪文も無しに力ある言葉(スピリチュアル・ワーズ)だけで
張られた結界で防ぎきれるような生易しいのもではなく、一瞬の後、純度の高いガラスが割
れるような音と供に結界は破られ、その反動でセレスティナは大きく弾き飛ばされる。
 「ッ!クゥッ!!」
 「セレス!大丈夫か?!」
背中から床に叩き付けられるような形になったセレスティナに、慌ててクライヴが駆け寄る。
 「フハハハハハハハハッ!!その程度の力で防ぎきれるとでも思っていたのか?天使よ!
 翼も出さずに私に勝てると思うな!!」
勝ち誇ったようにレイブンルフトは大声で笑う。その言葉に、セレスティナの顔が歪む。
 「セレス………」
 「大丈夫………大丈夫だ………」
叩き付けられたときに口の中でも切ったのか、唇の端から一筋の血が流れていた。それを乱
雑に手の甲で拭いながら、セレスティナは立ち上がる。
 「大丈夫………もう、私は負けたりしないから………」
クライヴに向かい、弱々しく微笑みながらセレスティナは背の翼を実体化するべく意識を集
中する。そして、光が溢れた。

                       
あの時と同じ様に音もなく広がった翼は金色に輝き、舞い散る羽は、燐光を発しながら宙に
溶ける。
 「…………………ッ!」
セレスティナは微かに不快気に顔を歪めた物の、すぐさまいつもの無表情に戻る。
 「無理はするな………」
短く、セレスティナにだけ聞こえるように小さくクライヴが呟いた言葉に、微かに頷く。そ
の額には、うっすらと脂汗が浮いていた。
 「さぁ、始めようではないか。クライヴに天使よ。どちらが正しく、そしてどちらが間違っ
 ているか……今こそ決着を付けるときのようだ。」
 「俺は貴様などに負けはしない!」
そう言って、クライヴは再び剣を構え直す。己に架せられた血塗られし運命(サダメ)と呪わ
れし過去(キオク)と決別するために。そして、この先に広がっているであろう希望(ミライ)
をその手に掴むために…………




 (コメント)
 寒いというか、何というか…………ダメダメ?!
 こんなん楽しいのでしょうか?イヤ、書く分には楽しいんですけどね………書く分には。
 む方はどうなんでしょう?こんな訳が分からない文章………当て字ばっかだし(苦笑)
 ゲーム、無視しまくりですな(^^;)セリフも違えば、いきなりパパさん本気出してるし。
 ちゃんと書こうかなぁ………とは思ったのですが………そんな事したら一体どれだけの量 
 になることやら………余談ですが、これの前、3話はワードで22p行ってます。
 イヤ、マジで。書いてる本人が、“スワ!100k越えてるよ?!”と、かなり焦りましたから。
 (軽くする方法見付けたんで、最終的にはその半分以下でしたけど。)
 何はともあれ、そろそろ折り返し地点ですかね………多分(爆死)
                       

時を越える想いへ 秘蔵書庫へ 永遠(トワ)という名の苦しみへ