| もしも、レゼーヌとズィックの立場が逆だったら……≪ II ≫ |
|
|
|
「は!? クライヴ、お前マジか!?」 ガターン!と大きな音をたてて椅子から立ち上がったズィックの見たものは…… 「何だ、ロクスじゃねえか。何やってんだ?」 見たものとはクライヴに伸されているロクスだった。 「見てないで止めてくれ!」 「ん〜〜クライヴ、一時休戦。」 「……仕方ない。」 そう言ってクライヴは自分の足をロクスから退けた。 「で、今の符号はお前なんだな。」 ロクスが椅子に座ったのを確認してからズィックは聞いた。 「ああ、何か面白い事をしているみたいだったからな。でも、僕はあの符号の意味は知らないぞ。」 「は? じゃあなんで…。」 ロクスはほれと言った感じで後ろのテーブルにいる人物を顎で指した。そこに居たのは…… 「お、クラレンスじゃねえか。こんな所で何してんだ?」 「ま、色々あってここに来ちまったと…。」 人数が増えたと言う事でカウンター席からテーブル席へと移動する4人。 「…今の符号は貴様だったと言う事か……。」 余程先程の符号が嫌だったのか、クライヴからは目にも見えそうな殺気が漂っていた。 「そいつは違うぜ。俺はただ頼まれただけだ。これと一緒にな。」 一体何処に持っていたのか、クラレンスは包みをクライヴに渡した。 「何だこりゃ?」 「さあな、俺はただそれをクライヴに渡して欲しいって言われただけだからな。中身まではな、後あの符号もそいつからだぜ。」 先程の頼まれ事の符号といい、今、目の前にあるこの包み。明らかに奴が関わっていると分かるような物だった。 「「「「…………。」」」」 4人は無言だった。 「「「ははははははははは。」」」 ズィックは床に転がりながら、ロクスは近くにある椅子に覆い被さるようにして、クラレンスはテーブルを叩きながらそれぞれ遠慮の欠片もなく、笑っている。 「何だ、そのセーターは。ははは『パパ大好き』って書いてあるぜ。はははは。」 先程の符号と類似していると言う事からさらに笑い出すクラレンス。 「し、しかも以前君が被っていたあのかつらの元の人物の刺繍が。…なんでまた…はははははは…くっくくくく。」 「極め付けに奴のマスコット人形まであるぜ。ははは……くくっくくくくく、苦しい……ははははははは。」 包みを開けて出て来た物はセーターだった。しかも前には奴。そう、レイブンルフトの顔をデフォルメさせたイラストと『パパ大好き』と言う文字の刺繍が施されていた。 「……何時まで笑っている気だ貴様等。」 「だ、だってよ……くくくくく…はぁ〜…よ……し、………もう大丈夫だ。」 ズィックは何とか笑いを押さえ、元の体制に戻ったが、後の二人はまだだった。 「ははははははは…俺はだめだ…ははははくくくっくくくく。」 「僕も…当分は…ははははははははは。」 笑いが止まる気配まったくなしの2人。 「…………。」 「いい加減にしろって。」 ドスッ ゴン クライヴはロクスを、ズィックはクラレンスを各々の武器で脇腹を突いた。 「…さてと、これどうする気だ?」 本を荷物に突っ込みながらセーターの行く末を聞く。 「捨てるに決まっているだろう。」 当たり前の事を聞くなと言う勢いで言い放ち、ごみ箱へ向かう。そしてその包みを…ポイ。 バン! 包みがクライヴの手を離れるのとほぼ同時に酒場の扉が勢いよく開いた。 「クライヴ!!」 「げ! おっさん!」 入って来たのはレイブンルフトだった。 「……何をしに来た。」 「何をしに来ただと!? 何故お前は父の好意を受け入れようとしないのだ!」 ズカズカと言う勢いでクライヴの真ん前までやって来た。 「あんなもん渡されて素直に受け取る奴なんていると思うのかよ。てか、何だよあのセーターは。」 「これから寒くなるだろう。だからクライヴが風邪をひかないようにだな。」 「いらん世話だ。」 ボソリと言ったクライヴのその言葉が効いたのか、レイブンルフトはよろけながら聞く。 「!?…何が不満なのだ。」 「全てだ。」 「こんなにも息子の事を思っている父親は何処にもいないぞ!!!」 酒場中に響き渡るほど声を張り上げて言う。 「…………。」 このまま生かしておくものかと、クライヴは刀を抜いて斬りかかった。 「あ〜始まっちまった。」 「こ、困るよお客さん。店の中で暴れられちゃ。」 傍観者を気取っているズィックの横で酒場のマスターはおたおたしていた。 「…(そう言えば…店の中だったな〜。ここは一つこの俺が一肌脱ぐとするか)…。」 そう言って自分の荷物をあさるズィック。勿論ロクスとクラレンスは未だ伸びたままである。 「あーあ、只今マイクのテスト中。…良し。えー、皆様。今宵は手品師、ズィック・セナル・フォレシスのマジックショーへようこそ!」 ここで一礼。 「これからこの私が、今暴れている長髪の男を一瞬でこの酒場から消して見せましょう。スリーカウントをしますので、皆様もご一緒に。」 そこまで言ったズィックは身体を客からレイブンルフトへ向け、マイクを持っていない方の手を高々と掲げカウントを取る。 「3・2・1・0!!」 掲げていた手の指をパチーンとならしたと思った瞬間…消えた。 「おおーーー!!!」 客席からは歓声が上がった。そして、ズィックはまた身体を客席へ向け一礼し、マイクを持ち直して言う。 「この通り男もは無事に消えました。これにて、マジックショーを終わらせて頂きたいと思います。お付き合い頂き誠に有難う御座います。」 最後に一番決めとなる礼をして、マイクを片付けクライヴの元へ。 「帰るぞ。あのおっさんなら城へ飛ばした。」 「……分かった。ところであの2人はどうする。」 突きが強すぎたのか、二人はまったく動く気配なし。 「起こすの可哀想だから寝かせておいてやるか。俺って優しいな〜。」 「…………。」 「じゃ、帰るとするか。」 よいしょと言う掛け声と共に自分の荷物を担ぎ、店を出ようとしたがクライヴに止められた。 「金はどうする気だ。」 「…忘れてたな。…流石にこいつらにって訳にはいかねえよな。……払うか。」 「当たり前だろう。」 「ん……。」 払うとか言いつつ手を平を上にしてクライヴへ向ける。 「何だ、その手は。」 「金くれ。」 「……自分で出せ。」 「いやそれがな、なんか財布忘れて来たみたいでよ、これしかねえんだ。」 そう言って担いでいる荷物の中から取り出したのは小銭だけ。それだけでは足りないのは明らかだった。 「…………。」 「ははは、何で忘れてんだろうな♪」 「笑い事じゃないだろう。」 「笑うしかねえだろう♪」 もう忘れてしまったのだから何を言っても遅いのである。クライヴは仕方なく自分の財布を見るが、小さく溜息をつく。 「…俺も少ししかないぞ。」 「って事は…やっぱりここは……。」 荷物を下ろし、中から紙と羽根ペンを取りだし、そこへこう書いた。 『金忘れて足りねえからお前達のちょっと借りるな。安心しろ、ロクスみてえにそのまま踏み倒したりしねえからよ♪ by ズィック・セナル=フォレシス』 「これでよしと。じゃあ、ちょっくら失敬して。」 「…(本当に天使なのか?)…。」 言っておくが、今のはクライヴが心の中で思った事である。 「《--・-・ ・・- --・-・ ・-・-・ --・-・ ・・- -・・・- ・- -・・ ・-・-・ -・・-・ ・・-- ・・-- -・-- ・-・-・ --・-・ -・ ・・ 》」 「!?……。」 「マスター騒がしくして悪かったな。これ勘定な。酒、料理共に旨かったぜ。」 「ああ、そりゃあ良かった。…けどな、あそこで伸びてる二人は良いのか?」 あれから結構経っていると思われるのに、未だに身動き一つせずいる二人……。 「気にしなくても良いぜ。あの2人、只者じゃねえからな。そのうち気付くだろう。しっかりメモも残したし。」 「そうかい。だったら構わないがな。また来ておくれよ。」 「ああ、酒が旨かったから今度は幼馴染でも連れて来るさ。」 ズィックは伸びている二人をそのままにしてクライヴと酒場を後にした。
|