| もしも、レゼーヌとズィックの立場が逆だったら……≪T≫ | |||||||||
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「よっ。クライヴ、今日は俺が同行するぜ。」
「…………。」
クライヴは目の前にいるこの天使が苦手だった。守護天使としては良くやってくれているのだが、それ以外の時には油断のならない天使だった。
何時も分かっているのだが、その度に酷い目にあっている。だから同行をすると言われると顔が変わるらしい……本人にその自覚はないが。ほらまた……
「何だ〜? その嫌そうな顔は。」
「…………。」
「まったくよ、なんでお前は何時もそう無口なんだ?」
クライヴよりも背の高いズィックは腰に手を当て、首を曲げてクライヴの顔を覗き込んだ。そのクライヴはと言うと、そのままズィックを見据え言った。
「貴様には関係のない事だ。」
「なくねえよ。ここの守護も仕事だけどお前達勇者の管理も仕事の一つだからな。それにはお前達の事をよく知っておかねえとな。」
そんな事はクライヴにも分かっていた事だったが、何か言う度に色々付け加えて言葉を返してくるこの天使には余計な事は話したくなかった。だから本題に入る事にした。
「……何処へ行くのだ。」
「また移動だってよく分かったな。」
「貴様が来る時は必ずだからな。」
それに、もう二年間もこのアルカヤを守る為に勇者と守護天使と言う関係を続けているだから分かって当然である。
「そう言えばそうだな……ま、動かねえと強くなんねえからな。でだな、今日はここへ行くぞ。」
今クライヴ達がいる周辺の地図を取り出し『ここ』…と言ってもただの町を指差した。
「………ここに何があるというのだ。」
「ふふふ、良くぞ聞いてくれた。ここにはな、幻の銘酒と言われている酒があるらしい。」
別に誰が聞いている訳でもないのに声を潜めて話すズィック。
「…………。」
「…なんだクライヴ、お前は飲んでみたくねえのか?」
「いや、飲んでみたくない訳ではないが……何処でそんな情報を仕入れてくるのだ。」
天使と言う者はこんなにも地上界の事に詳しいのかとクライヴは疑問に思った。
その質問にズィックは丁寧に答えた。
「天界に書庫があるんだけどよ、地上界に関するのも入っててな、俺の幼馴染が毎日そこに通ってんだ。で、昨日会ったら銘酒があるって事をそいつから聞いて、早速飲んでみたくなったんだけどよ、一人じゃつまんねえだろ? だからこうしてお前を誘って飲もうと思ってな。」
「…一番近いのが俺だったと言う訳か。」
「あ?…それは違うぞ。もっと近いのがいたけどよ、そいつまだ未成年だか酒飲ませたら俺が罰せられちまう。だから、近くにいて尚且つ酒が飲める年齢の勇者と言う事でお前。」
片手に地図を持っているので、開いている方の手でクライヴを指差しにやりと笑う。
この笑いがクライヴは苦手だった。まるで、何もかも見通されているようで。
「……分かった。」
「お、今日は物分りが良いな♪ そうか、じゃあ行くとするか。」
クライヴは諦めていたのだ、以前ズィックの依頼を断った事があった。その時は『ふ〜ん。あっそ。』と言ってあっさりと引き下がったのだが、次の依頼からはクライヴが苦手な水関係の依頼しか持ってこなくなった。
『何の真似だ。』と聞いたところ、『嫌がらせだ。』と言う返答が来たのだった。それ以来クライヴは本当に引き受けられない理由のない依頼は引き受けるようになった。
「マスター、お勧め料理を……とりあえず5人前と、ここにあるって言う銘酒を頼む。」
酒場に入ってカウンター席につくなり注文をするズィック。
「…お客さん、その事はいったい何処で知ったんだ。」
「それは教えられねえな。兎に角飲んでみてえんだ。」
「分かったよ。で、他にも来るのか?」
「?…何がだ?」
この質問には本当にズィックも分からなかった。いったい何が来ると言うのか、もしかしたら自分の聞き間違いで本当は『で、他にも食うのか?』と聞かれたのかと思った。
「何って…人さ、もっと来るんだろ? こんなに料理を頼んで、まさか二人で食べるわけじゃないだろう。」
「……こいつはそれ以上を食べるぞ。」
今まで黙って腕を組んで椅子に座っていたクライヴが言った。その言葉に続いてズィックはその先を話す。
「あ、ああ。俺言ったよな、『とりあえず5人前』って……それ食べてからまた後3人前ぐらい頼もうと思ってたんだけどよ……。」
「はっはっは、冗談が下手だねお客さん。そんな量普通の人が食べれる訳ないって。」
事実、普通の人ではないズィックには可能な事だ。しかし、言ったところで信じるわけがなく、案の定他にも来るのだろうと言う事で済まされる事に。
「直ぐにでも友人が来るんだろう。分かったよ、俺も直ぐに料理に取り掛かるとするよ。」
そう言ってすぐにマスターは店の奥に引っ込んで行った。ズィックはクライヴの方を向いて笑った。
「……本当なのにな。」
「…信じないのが普通だろう。」
「ま、そうだろうな…。さて、あのマスターを驚かせるためにじゃんじゃん食べて、飲むか♪」
「……俺はもういい。」
「何言ってんだよ、クライヴ。まだこれからだろう。」
……テーブルの上には酒の瓶が4本に全て平らげた料理の皿が山積みになっていた。 が、それは今現在テーブルにある物のみの話しだ。本当は片付けられた物も入っているのでいったいどれくらいを胃の中へ収めたのかは不明である。
「お客さん、もうそろそろ止めておいた方が良いんじゃないか?」
その様子を見ていたマスターはズィックの食欲に驚きつつも共に飲食していたクライヴの心配をして止めた。
「う〜ん……じゃあ、ちょっとゲームでもしながら飲むか。」
ズィックの頭の中には途中で飲むのを止めると言う文字がないのだろうか……。
「…ゲームだと?」
顔を下に向けていたクライヴは顔を上げ、いったい何を言い出すのだと思う反面、ゲームと言うのが好きなこの天使を止める事は出来ないと言う諦めが混じった声を出した。
「そ。お前さ、モールス符号って知ってるか?」
「ああ。」
「げ!?……なんでそんなの知ってんだよ。普通知らねえぞ。」
だったら何故、そんな普通知らないような物を使ってゲームをしようとしたのか……ズィックの頭の中は誰にも分からない。
「俺もお前と同じで普通ではないからな。」
「あ、そう言われればそうだったな。じゃ、話は早いな。お互いがそれぞれモールス符号を使って言葉を伝える、相手のそれを答える、答えれなかった場合は酒を一気飲みする。どうだ?」
どうしても共に酒を飲みたいらしい。
「……駄目だと言ってもやるのだろう。だったら受けて立とう。」
「そうこなくっちゃな♪ じゃあ、どっちからにするかな…。お前からやっても良いぞ。」
「分かった。……テーブルを叩けば良いか。」
「ああ。テーブルでもなんでもようは『ト』『ツー』が分かればそれで良いだろう。」
ズィックは静かに目を閉じ、クライヴの出す問題を聞く体勢を整えた。
注:ここから先の《〜モールス符号〜》は《・》=ト《-》=ツーに置き換えてお読み下さい。
「……《--- ・- --・・ ・・ ・-・-・ -・--・ --・・ ・・-・・ ・--- ---- ・-・- ---・- 》……。」
思い切り眉間に皺を寄せ目を開けるズィック。
「……お前さ、もうちょっとましなものってねえのか?」
「そんな事は関係ない。答えないのか?」
「答えるぜ、『レイブンルフトを殺す』だ。」
「ああ、正解だ。貴様の番だ。」
今度はクライヴが目を閉じる番だった。いったいこの天使は何を出すのだろうと……。
「俺はだな…《-・-・ ・・・- -・-・- -・-- -・-・ ・・・- -・-・- -・-- 》……。」
「…それでよく人の事を言えるな。『肉、酒、肉、酒』。」
「今のはお前に対抗してだ。ここからが腕の見せ所だろう。ほれ、お前の番だ。」
またしてもクライヴの苦手な笑いを投げ掛ける。
こうして97順は二人ともお互いのモールス符号を当てていった。そして、98順目……。
「じゃあ、《・-・・・ --- -・・・ ・-- ・・-・- ・・-- ・-・・・ ・・- --・-・ ・・ -・ ・・ 》…。」
「…………。」
クライヴはテーブルの上で組んでいる手を強く握った。ズィックに対する怒りを込めて…。
「ん? 答え分かんねえのか?」
「……(言えない、俺にはあんな言葉を言う事は…例えゲームだとしても……くっ)……分からん。」
「じゃあ、一気にいけな♪」
いかにも愉快愉快と言った感じでコップに酒を注ぎそれをクライヴの前へ。負けは負けなので言われた通り一気にいくクライヴ。
「…………。」
「お前の番だぞ。」
「分かっている。…《-・-- ・-・-・ --・-・ ・--- ・-・・ -・--- ・-・- 》…。」
半分自棄になっているクライヴ。これでなら本音も言えるというのだろうか。
「ひでえな、この俺以外に適任なのっていないぞ。答えは『天使を変えろ』じゃ、俺な。次は英数字で…
《・-・ ・- -・・・ ・ -・ ・-・・ ・・- ・・-・ - ・-・・ --- ・・・- ・ 》…。」
「…(またしてもこいつは……それだけは口が避けても決して言えん)………分からん。」
「なんだ? また分かんねえのか? ったく、しゃあねーな。ほれ一気。」
『しゃあねーな』と楽しそうに言いながら先程よりも多めに酒を注ぐ。クライヴはそれを飲み干し暫し考えた。では、いったいクライヴが何を考えているのか見てみるとしよう。
こいつには何を言っても無駄なのか?
いや待て、天使と言えど嫌いな言葉の一つや二つあるはずだ、それが分かれば……
あるのか……? 待てクライヴ、落ち付いて良く考えてみろ、相手を天使だと思わなければいいのだ、ただの男だと思えば……
……駄目だ、こいつには何を言っても効果がない……それとも、俺が分かっていないだけなのか?
何か一言でも良い、このままこいつの思うままにさせておいてたまるものか
「《-・・ ・・ ・・・- -・・・ -・・・ ・・--・ -・・・ ・・--・ ・-・・ ・・ -・ ・・ ・- ---・- -・-・・ 》」
Fortsetzung folgt