天使の憂鬱〜血の狂気 中編〜




「はい。これはクライヴ用の新しい武器ね。それでもってこれが、
フェインの鎧。セシアの弓、ロクスのスタッフそれから・・・・。」
 てきぱきと品物を出してはユエの前に並べるラツィエル。
 うず高く積み上げられたそれらを見て、ユエは引き攣り笑いを
浮かべる。
「げげげっ。これ全部持って行くんスか?」
「何を言ってるの。あなたがマメにここに来ないからこういう事に
なるのでしょう?自業自得よ。」
「・・・・おっしゃる通り。返す言葉もございません。」
 そう言ってユエは頭をかいた。
 ユエはかなりの面倒くさがりやである。その度合いといったら、
妖精界きっての怠け者と称されるリリィといい勝負だったりする。
 彼女はいちいちフロー宮に訪問するのが面倒なので、勇者の
武器・防具はまとめて調達することにしていた。
勇者の数が少ない序盤はそれでも良かった。だが、いつの間
にやら5人にまで増殖していた彼らの武器等をいっぺんに持ち帰
るのはちょっと無理があるかな、と思う今日この頃である。
「全くもう。あなたのために“新作”いくつか用意して待ってたのよ。なのに、ちっとも来やしないんだから。」
「えっ!“新作”!?」
 瞬間ユエの顔には嬉しいような悲しいような奇妙な表情が浮かぶ。ラツィエルの“新作”というとものすごく役に立つ物か、使ったが最後悲惨な目に遭うシロモノかのどちらかに限定されるからである。
「とりあえずは、コレね。“新作”というか、これは既存の物を改造しただけなんだけど。最近アンデット関係の事件が多いって言ってたでしょう?スパイクの刃を純銀製にしてみたのよ。」
 ラツィエルがトンとユエの目の前に置いたのは純白のブーツだった。
「おおー!さすがはラツィエル様っ。気が利くぅー。これでむさ苦しい吸血鬼どもを蹴り殺せるってもんですヨ。」
「あとは、“聖水鉄砲”でしょ。ブーメラン式の“銀のナイフ”に、“にんにくソード”に“トマトジュース”・・・それから・・・。」
 次々と珍妙極まりない武器を出していくラツィエル。
 やや恐怖に強ばった顔でその様を見ていたユエは何か違和感を感じる。
「ちょっと待ったぁぁぁぁ!ナイフとか水鉄砲はいいとして、その“にんにくソード”とか“トマトジュース”っていうのは何なんですかぁっ!?」
 突っ込まれたラツィエルは心外そうな顔をした。
「何って・・・・。吸血鬼のお約束じゃないの。トマトジュースなんかは猛毒が仕込んであるし、にんにくソードだって500年もにんにくエキスに漬け込んだ代物なのよ。今はその鞘に収まっているから何も匂わないけど、一回抜いたが最後、鼻が曲がりそうになるほどの臭気が辺りを覆い尽くすという、世にも恐ろしい武器なのよ。」
「いらんわっ。んなモン!!」
 広々としたフロー宮にユエの怒声が響き渡った。
                              
「ラファエルには私が圧力かけておくから、心配せずにそれで一暴れしてらっしゃい。そうそう。報告レポートの提出期限は1週間だからね。」
 にこにこ顔のラツィエルに見送られてフロー宮を後にしたユエ。その手には勇者用の武器・防具の山とラツィエルの“試作品”が抱えられている。
 ラツィエルは天界と地上界全ての秘密を知っているらしい。それは、大天使達の秘密についても同様のようで、ラファエルもミカエルも彼女には頭が上がらなかった。
 彼女が圧力をかけると言った以上、今回は地上で力を奮ってもお咎めはなしだろう。しかし・・・・・・・・・。
 ユエは大きなため息をついた。
 ラツィエルの“試作品”によって自分や勇者にもたらされる災難は想像するに余りある。
「こうなりゃもうヤケだわ!気の毒だけど天使と勇者は一蓮托生。
一緒に地獄を見てもらいましょーかー。くくくくくく。」
 気色の悪い薄ら笑いを浮かべながら、ユエは哀れな犠牲者の元へと向かったのだった。
                                 
「はろ〜。クライヴ・・・・。仕事・・・持ってきたよ・・・。」
 人々で賑わう宿屋の食堂。人型をとった天使がよろよろとクライヴの居るテーブルに向かって歩いてきた。
 クライヴはその天使の姿を認めた途端、口に含んだスープを
吐き出しそうになる。
風呂敷を担いでうんうんいっている天使の様は、奇妙としか言いようがない。
「・・・・・・・・・・・・。」
 内心の動揺を見事に抑えこみながら、青年は黙々とパンをちぎって口に運ぶ。
「相変わらず、鮮やかなシカトですな。か弱い乙女が重たい荷物を持って立ってるんだから、ここは“俺が持つよ”なんて言って持ってあげるのが“男”ってもんでしょうが!」
 クライヴはフォークに刺したハムを食べようとして、やけに冷たい目をユエに向けた。
「・・・・・その“か弱い乙女”とやらはどこにいるんだ・・・?」
 ユエはその言葉を聞いて唖然とする。
「まさか・・・あんたの口からその類の突っ込みが出るなんてねぇ・・・・。世も末だわ・・・・・。」
 ロクス辺りが言ったのなら納得もするのだが。
 クライヴの意外な切り返しに意表を突かれ、ユエは怒ることを忘れていた。そのまま、脱力したように彼の向かいの席に腰を下ろす。傍らにドスンと風呂敷を置いてほぅっと息をついた。
「・・・・依頼か?」
 肩をコキコキ回しているユエに短く問うクライヴ。
「おうともさ!でも、今食事中でしょ?それが終わってからあなたの自室で詳しく話すよ。新しい武器とかも渡したいしね。」
「そうか・・・・・・。」
 頷いてクライヴは中断していた食事を再開する。ユエは暇そうに辺りを見回したり、隣のテーブルの会話を盗み聞きしたりしていた。
                          
「待たせたな。」
 少し経って皿の物を全て平らげたクライヴは、ナプキンで口をぬぐうと立ち上がった。
「クライヴってば、かなりの早食いだよね。なんというか、皿の上の食物が次々と姿を消していく様は壮観だったよ。うん。」
 妙な所で感心しながらユエも席を立つ。
 クライヴはユエを待たずにさっさと歩き出していた。
「あっ。ちょっと待ってよ!こっちには重い荷物が・・・・あれ?
荷物どこ?」
 傍らに置いておいた風呂敷がない。キョロキョロと見回すユエを少し離れた所で振り返るクライヴ。
「・・・・早くしろ。置いてくぞ。」
 その肩にはユエの風呂敷包みを担いでいる。
「えっ!いつの間に・・・・・・。ああっと。待ってってば。」
 クライヴが自分の荷物を持ってくれたことに驚いたユエだが、
置いて行かれそうになったので、慌ててその後を追った。
                                
「人間ごときに、我らの邪魔などさせるものか!」
 ノスフェラトゥがばさりとマントを翻すと、それが合図になったかのように無数のゾンビや骸骨戦士達が姿を現した。
 ユエはそれらを白い眼で眺めやると、風呂敷を広げて武器を取り出す。
「おーおー。雑魚どもが、数ばっかり揃っちゃって。ま、これで“試作品”を存分に試せるってもんだけどさ。あ、クライヴは雑魚なんかに目をくれないで、憎っくき吸血鬼を殺っちゃって。」
 水鉄砲をちゃきっと構えたユエを奇妙な目で見やって、クライヴは抜刀した。
 ノスフェラトゥは不敵な笑みを浮かべる。両者の間に火花が散った。
                                 
「くらえっ!」
 ユエは迫り来るゾンビに向かって引き金を引いた。銃口から放たれた聖水がゾンビの腹に風穴を開ける。
この“聖水鉄砲”。おもちゃのような見た目に反して、かなり使えるとみた。気を良くしたユエは調子に乗って発砲しまくる。
「バキューン!バキューン!」
 これは銃声ではなく、彼女の口真似である。ゾンビの群れをこれで葬ったユエは、次にナイフを手に取った。
 それを思いっきり骸骨剣士に向かって投げつける。ナイフは唸りを上げて飛び、スカルの手の剣を叩き落とした。そのままブーメランのようにターンしてユエの手元に舞い戻る。
にやりと笑ったユエは再びナイフをスカルナイトに放ち、後ろから迫った骸骨にはスパイクキックをくれてやった。
「わ〜いっ!やっぱ戦闘って気持ちいい〜♪ラツィエル様には感謝しなくっちゃ。」
 次々とアンデット達を消滅させつつ、無邪気に喜んでいる天使だった。







 (コメント)
 あれれ。おかしいな。前後編になる予定が 
 気が付くと前中後編になってるし・・・・(汗)
                 


天使の憂鬱〜血の狂気 前編〜へ 秘蔵書庫へ 天使の憂鬱〜血の狂気 後編〜へ