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天使の憂鬱〜安息と〜
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「ほ〜お。このユエ様がわざわざ訪問してやったというに、
熟睡ぶっこいてるなんていい度胸してるわね。」
ユエは空中に仁王立ちしていた。
その真下には、彼女の勇者である青年が、すやすやと安らか
な寝息をたてていた。
彼女は今日も大変多忙だった。
まず、寝起きのロクスを訪問し、機嫌が悪い彼と一戦交えた。
(といっても殴り合いではなく、壮絶な舌戦である)
次にフェインを訪問。1時間も延々とアルカヤの歴史につい
て討論を繰り広げた。(ユエはよく歴史書を彼から借りていた)
3番目にアイリーンを訪問して、他愛もない世間話に付き合
わされた。(世間話というよりグチに近い)
2時間ほどしてようやくグチから解放されたユエは、妙に
すっきりした顔のアイリーンに見送られ、疲れきった身体で
次の勇者の元へ向かったのだ。
どの勇者の所でも、頭と口をフル活動させっぱなしだったユエ
は、少しゆっくり休みたかった。
“クライヴなら、恐ろしく無口だから、余計なお喋りして体力を
消耗する事もないわね。“
と、かなり失礼な理由で彼を訪問したユエだったが、時間がま
だ午後の3時くらいだという事をすっかり失念していた。
それで、今に至るというわけだ。
「くぅ〜〜〜。頼みたい依頼があったのにぃ!」
思わず空中で地団駄を踏んでしまう。
どうするべきか、腕組みをし、しばし考えるが・・・・・・・。
「ふん・・。私だってこうやって頑張って、アルカヤ救済の為
に仕事してるんですからね。少しくらい睡眠時間を削って頂いて
も文句はないわよね!」
と、思いやりのない結論に達した。理屈としてはもっともだが、
鬼のような天使である。
クライヴを叩き起こすべく、実体化したユエ。
その身体に手をかけようとして、即座に飛びのいた。
「こっ、この人・・・・。刀抱いて眠ってんの!?」
身体を胎児のように丸め、寝息をたてている姿は、平素の彼
からは想像もつかないほど穏やかだったが、その腕にはしっか
り刀を抱えていた。
ユエの背中を冷たい汗が伝う。もしかして、実は眼を覚まして
いて、その身体に指一本でも触れようものなら、瞬時に刺身にさ
れてしまったりして・・・・・・。
彼女の脳裏に、まだ記憶に新しい、2枚におろされたゾンビ
の姿が浮かんだ。
“と、とりあえず起こすのはやめとこう。うん。私もまだ死に
たくないしね。はははは。“
ユエは引きつった笑いを浮かべると、その場から立ち去ろう
と、転移魔法の呪を唱えかけた・・・が、ある事に思い至り中断した。
簡単に言ってしまうと、性格の不一致から、ユエはクライヴ
を敬遠しがちだった。従って、その顔をまじまじと見た事はま
だ一度もない。となるとこれは、チャンスなのではないか。
ユエは膝をつき、ベットの上に肘を置いて、クライヴの顔を
覗き込んだ。
そこにはひどく静かで安らかな顔があった。まるで、陽だま
りで昼寝する仔猫の顔だ。起きている時、ちらちらと現れる、
苦痛の表情はみじんもなかった。
「・・・・・・・なんというか、ほんっとよく寝てるなぁ。
しかし、刀抱えて眠るってかなり恐いと思うんですけど。」
普段の彼とのギャップに毒気を抜かれながら、ユエは呟いた。
この刀がもし寝ているうちに何かの間違いで鞘から抜け
ちゃったら・・・・・・・辺り一面、血の海になるのでは?
「それって、かなり情けない最期なんじゃぁ・・・。
・・・ってそんな事心配してどうする、私。」
ユエは自分のしたアホな想像に少々げんなりした。
しかし、そういった事がないとは限らないではないか。
“よ〜し。今度聞いてみよう。”
心に誓うユエ。
彼女は飽きもせずクライヴの寝顔を眺めていたが、ふとある
事を思い出した。
おもむろに手をかざす。すると、その手に“くまのぬいぐるみ”
が出現した。先程アイリーンを訪問した時にもらった物で
ある。母に抱かれた赤子のような顔をして眠るクライヴを見て
思い出したのだ。正直、これをどうしたらよいか、悩んでいた
所だったのだが、いい引き取り手が見つかった。
“くまのぬいぐるみ”は安眠に欠かせないアイテムである。
ユエはクライヴを起こさないように注意しつつ、そっと刀を
抱いている腕を持ち上げた。その下にぬいぐるみを座らせる。
そして持ち上げた腕をゆっくりと元に戻した。
“これで、OKっと・・・・・・・・・。ぶっ!!”
思わず吹き出すユエ。くまを抱っこして(本人の意思ではないが)
熟睡するクライヴがものすごく可愛いらしかったからである。
ユエは全く予想していなかった。無口・無表情・根暗の3拍子
揃った彼に、ぬいぐるみなどという、ファンシーなものが似
合うだろうとは。そういうものとは無縁な世界で暮らしている
のだ。(縁があったらそれはそれで恐い気もするが)この組み
合わせは絶対ミスマッチに違いない、と決め付けていた。
それが、どうだ。まるでいつもそうしていたかのように、彼の
腕に収まっている“くま”。
心なしか微笑んで見える(あくまでユエの錯覚だが)クライヴの口元。
もう耐えられなかった。ユエは声を出さないように口にハンカチを
押し込むと、浮かび上がり、空中をのたうち回って笑い転げた。
30分ほど笑い続けて、さすがにユエは疲れてきた。目じり
にたまった涙を手でぬぐう。
このような異常な状況下にあって、クライヴはまだ目覚めない。
ある意味大物である。
そんな彼を宙から眺めながら、ユエはふっと真剣な表情になった。
“クライヴも起きてる時、これくらいリラックスしてたらね。
ちょっと肩の力入りすぎじゃない?“
彼がなにか大きなものを背負っているのを薄々感じてはいた。
それは、深い闇にも似た絶望をともなうもので・・・。
夢の中くらいなのだろう。彼が本当に安らげるのは。
明るい日の下に生きる自分には想像もつかない苦しみ。
「やつらと俺にとって、この暗い世界だけが生きることのでき
る場所だ。」
死んだような瞳をして語るクライヴがふと脳裏をかすめた。
何故か胸の奥が痛んだ気がして、ユエは顔をしかめた。
「なんか無意味に疲れたな。帰るか。でも、まぁ折角来たんだし、
あげるのが“くまのぬいぐるみ”だけじゃぁおそまつ過ぎかな?」
どうやら、ぬいぐるみは置いて帰るつもりらしい。起きた時
のクライヴの反応が楽しみである。
ユエはくすりと無邪気に笑った。
“ではではもう一つ贈り物をあげましょう。
私の勇者にとっておきの祝福を“
ユエは自分の手の平にキスを落とすと、その手でクライヴ
の頬をそっと撫でた。
“おやすみ いとし子よ
せめて今だけはゆっくりおねむり“
クライヴが夢から醒めるのはまだもう少し先である。
その安らぎが、できるだけ長く続くように、ユエは祈った。
たとえそれがかりそめの、つかの間のものであろうと。
END
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(コメント)
大変ごめんなさい!
クライヴさんの2枚目のイメージを壊して
しまいました!
でも、あの寝顔にぬいぐるみって意外と似合い
そうだと思いませんか?
(本当に謝る気があるのか?この女は・・・)
これを読んで気を悪くなさった方、申し訳ありま
せんでした。
こんなんでもいいと思ってくださる方、まだまだ
続くので読んで下さると嬉しいです。
ついでに感想なんか書いて下さるともっと嬉しい
です。
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