無貌の月
     〜第二話:再開〜



「清花……」

 愛しい、俺の、半身。

 彼女が、そこにいた。

 蒼い月明かりの下、白い、飾り気のないシャツに、ジーンズという服装で、俺の側にしゃがみ込んでいる。
 以前と同じ、愛おしむような、何かを求めるような、そして儚げな笑顔を、俺に向けながら。

 きっと俺は、ひどい顔をしていただろう。

 涙と、鼻水と、泥で、ぐちゃぐちゃになった顔。

 その俺の顔に、彼女のほっそりとした美しい指が、のばされる。

”ビクッ”

 俺の心の反射的な怯えにより、体が、小さく跳ねる。

 清花はそれを、敏感に感じ取ったようだ。
 ふっと、悲しそうに微笑み、手を引く。

「雅也……」

 その唇から、小さなつぶやきがもれた。
「まだ、私のことを、許してはくれないのね」

「清花……」

 違う、そうではなかった。
 罪は、俺にあった。
 俺が、おまえを傷つけ、そして……。

「どうして、ここに?」

 しかし、俺の口から出たのは、そんな言葉だった。

 五年間、一度も姿を現さなかったのに。

 その問いに対して、彼女は答える。

「約束したでしょ。
 雅也のことは、私が、守るの」

 ……他の、何を犠牲にしようとも。

 その言葉が、思い出される。
 そして彼女は、その言葉通りに……

 奥歯が、噛み合わない。
 自分の意志を無視して、下顎が、ガクガクと小刻みに揺れる。

 そう、俺には分かっていた。
 この、地面で潰れ、今では動かなくなっている少女。彼女を壊したのが、清花の力によるものだと。

 『あのとき』に振るわれた力。それを、再び使ったのだ。
 俺を、守るために。

 体が、震える。もはや理性では、押さえようのない程に。

 ふと、清花が、立ち上がった。

「誰か、来るみたいね。
 私、行くね」

 名残惜しそうに、俺を見る。

 その寂しげな顔に、俺は、何か彼女にかけるべき言葉を、探す。

 何かを、言わなくてはならない。
 こんな顔で笑わなくてはならなくなってしまった彼女のために、俺と彼女にとって、何か、本当に必要な言葉を。

 しかし……、

 俺がその言葉を見つけだすより前に、彼女の姿がかすれ、そして、その空間から、彼女はいなくなっていた。



 二十世紀と二十一世紀の境界に当たる現在、『魔』の存在は、決して物語の中のみの現実ではなかった。
 彼等は、もともと存在していなかったのでも、滅び去ったわけでも、ない。
 ただ、その姿を隠しただけであった。

 あるいは、人の目の届かない、自然の奥地に。
 あるいは、こことは全く違う、別の世界に。

 ……そしてあるいは、人間達の、群の中へと。

 そんな彼等の生き残りを監視、あるいは封印、削除するための機関が、世界各国に存在する。

 防衛庁、陸上自衛隊所属、機甲科・対魔特殊部隊。

 日本国に置いて、これらの活動を執行するために設置された、特殊機関である。

 もっとも、その存在は完全に秘密裏なものとなっており、また、その活動範囲、それに当たり使用される権限も、本来ならば自衛隊の一部隊が持てるものを、完全に超越している。

 正式採用されていない火器類を扱うことができるのもその一つだが、他にも、他の組織、例えば空・海軍への直接交渉の権限や、警察庁への情報や調査の要求など、その力は尋常なものではない。

 それでも、組織的にこういった位置づけになっているのは、以下のような訳である。
 つまり、その存在が不可欠であり、その為にはこうした強力な能力を持たせなくばならない集団に対し、何らかの首輪が必要である、ということだ。

 そして、その部隊は大きく二つに分けられる。

 一つは、正式な隊員達、と言っていいのだろうか。自衛隊、警察の両組織から選抜された人間による、高い素質と、厳しい訓練を受けて造られた、極めて高い能力をもったプロフェッショナル達の集団。
 もちろん、部隊の中核となるのは、こちらである。

 もう一つは、『異常能力者』の集団である。
 何らかの、常軌や常識といったものを超越した能力を持ち、その力をもって、諜報・戦闘活動にあたる者たちだ。



「……では、君は何が起きたのか分からなかった、というわけだな」

 俺の上司、田中が質問してくる。

「気が付くと、その少女の形をした『魔』が、死んでいた、と」

「はい、その通りです」
 俺は、答えた。

 ここは、市ヶ谷駐屯地内部の一室である。

 あのあと俺と、それに少女の死体は、心配して来てくれた浦木さんによって発見された。

 その後は、多少の騒ぎが起きた。
 三体目の『魔』について、彼女(周りの人間は、”そいつ”と呼んでいたが)がどこから現れたのか。索敵担当者及び偵察斑に落ち度はなかったのか。
 そして、彼女がどのようにして、殺されたのか。

 当然、俺にも質問が来た。
 しかし、俺には本当のことを、清花のことを彼等に話す気は、全くなかった。

「あれをやったのが、君の能力ということはないかね?」
 田中が聞く。

 しかし、
「分かりません。少なくとも、俺は、今までで自分がそういった能力を持っていると感じたことは、全くありませんから」

「そうか……」

 田中は、何かを考えているようだった。

 この男、「田中」と名乗ってはいるが、俺はその名前が本当のものかどうか、知らない。
 俺や、麻生のような『特別斑』とは違い、こいつは”正式”な隊員である。

 俺達のような、その超常能力故にスカウトされ、入隊した者は、『特別斑』に含まれることになる。
 そしてこの斑に含まれた者は、他の隊員とは明らかに違う待遇を受ける。

 例えば、ある程度以上の、それこそ健康維持目的程度の肉体的訓練以上は、受ける義務はない。
 入隊に当たり、研修は受けたが、それは本来隊員達が受けている訓練からすれば、お遊びのようなものだったろう。それすらも、俺は受けたが、他の人間は、知らない。

 また、必要とされるとき以外の時間は、どこで何をしていても構わない。もちろん、副業も自由であり、隊員の中には、別の仕事に就いている者も、いる。
 もっとも、いざというとき、例えば作戦時は必ず参加しなくてはならないし、常に連絡が取れる処にいなくてはならない、どこか遠くへ行くときには必ず許可が必要、等の制約はある。
 その為、例えば責任ある仕事に就くことは、できない。

 それでも、例えば俺は、コンビニでフリーアルバイターのような事をやっているし、麻生は大学生らしい。実は、俺はまだ研修を終了したばかりで、麻生以外の班員に合ったことはなく、彼女からの話しで聞いているだけだが、他の面々も同様らしい。
 こうしたことは、むしろ世間からのカモフラージュになる、とのことで、推奨されてもいる。

 それでいて、この『特別斑』に所属すれば、それだけでいい給料が出る。たとえ、出撃が無かったとしてもだ。

 いいご身分だと考えられようが、俺はこのことに、二つの意味が有ると思っている。

 まず、人とは違う能力があり、それを必要とされるなら、そこには正当な報酬があってしかるべきだ、ということだ。実際、我々は、科学技術や、訓練を受けた人間でも、不可能なことを実行する為に、ここにいるのだから。

 そしてもう一つは、俺はこちらの方が本筋だと思うが、要するに、危険な存在には、首輪をつけておこう、ということだと思う。この対魔組織が、自衛隊という組織に組み込まれることにより、体制にとって制御しやすくなっていることと、全く同様ことだ。

 とはいえ、毎日厳しい訓練や作業をしている他の隊員達から見れば、俺達『特別斑』の人間は、”いいご身分”と映っても、それは仕方がないことであろう。
 そうした不満を隠しもせずに、態度で俺達にぶつけてくる奴等も、当然いる。

 この田中も、そんな人間のうちの一人である。

「そもそも君らには、確実性が無さ過ぎる。
 プロとしての、事態に確実に対応するような訓練も受けていないし、組んでる方としては、常に信頼性に欠けるよ。
 こういう人間と実戦時に組むのは、きわめて大きなストレスになる」

”ふざけるなよ” 俺は、心の中で毒づいた。
”おまえは事務担当で、前線には出ないだろうに”

 とはいえ、田中の言うことも、正論ではある。

 実戦の場でもっとも大事なのは、鍛え上げられた思考能力と、それをもとにした行動力であろう。
 たとえ強力な武器を持っていたとしても、事態に即応できない人間など、足を引っ張るだけだ。先日の俺のように、である。あの作戦において、実戦を見学するために連れて行かれた俺は、まさしく”お客さん”であったのだ。

 事実、『特別斑』が同行するの事は、滅多にない。たいていは、”正式な”隊員達のみで、作戦を実行する。その方が、安全で、確実かつ正確であると判断されるからだ。

 ただし、相手は『魔』、常識の通用する相手ではない。
 その為の対応手段が、俺達『特別斑』である。

「……か?」
 突然、田中が何かまた質問してきた。
 まずい、聞いてなかった。

「すみません、ちょっと、考え事をしていて。質問を聞き逃してしまって……。
 申し訳ないですが、もう一度聞いていいですか?」

 田中は「ちっ」と小さく舌打ちすると、不満げに話し始めた。

「つまりな、五年前に君の家で起きた事件。
 あのときと今回とでは、死体の状況が似ているのではないか、ということだよ。
 それについて、何か心当たりは無いかい?」

 ……俺は”ゾッ”とした。

 こいつは、何を言っているんだ?

 ただ、類似性を言っているのか。それとも、今回のはやはり俺の能力で、五年前のそれも同様では、と言っているのか。それとも……、

”まさか、清花のことを……?”

 まさか、こいつは気づいているのか……? 

「さあ、正直、分かりません」
 俺は、ただそう答えた。



 五年前の事件から、この部隊に入るまでには、本当に色々あった。

 各方面に、血縁関係により権力をのばしていた高草木家だが、本家やその近辺で力を盛っていた人間が、皆死んでしまった。
 唯一残った俺も、それ以前に、一族を裏切ったとして、絶縁を宣告されていた男だ。
 残った分家のめぼしい人間達が、醜い争いを始めた。
 当然俺も、その争い中に放り込まれた。

 血縁者同士の、ドロドロとした権力の為の抗争。

 そんなときに、ある筋から俺に対し、部隊への入隊が勧められた。

 いろいろな理由があったのだろう、と思う。
 例えば、分家の誰かが、俺を邪魔と思ったのか。あるいは、高草木家と相対する陣営の誰かが、分家の誰かに俺が利用されるのを防ごうとしたのか。純粋に、俺の能力がスカウトすべき対象と認められたのか。あるいは、財界や政界に力を伸ばす高草木家に、先に言ったような首輪を付け、管理しようと思ったか。

 ……だが、そんなことは、どうでもよかった。

 俺はただ、そんな醜い争いに巻き込まれた状態から、解放されたかった。

 そう、だからこそ、俺はこの部隊に入隊したのである。

 俺は、ここに、逃げ込んだのだ……。



 田中への報告を終わり、部屋を出ると、ドアの脇のソファーに麻生が座っていた。
 彼女は俺が出てきたのを見ると、立ち上がって、話しかけてきた。

「や、大変だったね。
 だいぶ、絡まれたんじゃない? あの田中のバカ、性格悪いから」

 どうやら、と言うか、やはり、麻生もヤツのことは、嫌いならしい。

「そうだなあ……、どっかで、気分転換に、お茶でも飲もうか?」

 彼女は、こういった気の使い方をしてくれる人間らしい。まだ出会って四日ほどであるが、こんなふうに自然な感じで接してくれるのが、とても嬉しい。

 正直な話し、俺のこの外観のせいもあって、こんなふうに開けっぴろげに、かつ気楽に話しかけてくれる同世代の人間は、本当に貴重だった。

 異性ならば、俺に対し、何らかの期待を見せながらすり寄ってくることが多かったし、同性でも、やはり俺とつるむ事で、女の子達にアプローチするのに便利、といった風に寄ってくる連中も、多かった。
 そんなわけで、中学生時代からこっち、俺にとって本当の意味での友人と呼べる人間など、男が一人か二人、異性の友人など、一人もいなかったように思える。

 だから、麻生の存在は、俺がここに入隊してよかったと感じることができる、貴重なもののうちの一つだった。

「ん? どしたの?
 黙り込んで」

「ああ、いや。何でもないよ。
 えっと、どうしようか。この基地の中、まだよく分からなくて。自販機の位置とか、全然知らないんだ」

「ふむ……」麻生は、なにやら考え込むような、わざとらしいポーズを取ったあと、

「ね、今日はもう、用事無いんでしょ?」
 と、訊いてきた。

”確か、俺はもう、基地での用事は無かったはずだよな?” 一応、頭の中で、確認する。
「ああ、大丈夫、の……はず。
 確か、ね」

「そっか、じゃあ、どっか外の喫茶店に行こうよ。
 この基地の中にも、結構いい場所あるんだけどさ。やっぱ私らって、場違いだし」

 確かに。俺も彼女も、軍服とはいかなくとも一応スーツ姿であったが(さもないと、いくら何でも基地内には入りづらい)、その雰囲気からして、この基地内では場違いな、目立つ存在だ。

「それじゃあ、駅の方にでも行こうか?」
 俺も彼女も、中央線沿いに住んでいる。確かお互い、電車通勤のハズだ。

「うん、じゃ、行こう!」

 にぱっ、とでも聞こえてきそうな明るい笑顔を俺に向けつつ、麻生はそう言った。



 二人基地を出て、JR駅の方へと歩き出す。

 壁越しに見上げる基地内の敷地は、春になると満開の桜で彩られるが、今は緑の葉のみが風に揺れ、青い空と相まって、眩しい。
 学生時代、何度か桜の季節にここを通りかかり、「花見のために、入れてくれないかなあ」などとバカなことを考えたものだが、まさか本当に入る用事ができるとは、思ってもいなかった。

 連れだって、歩道を歩く。

 すれ違う人が、自分たちを振り返るのが分かる。

 普段、うっとうしく感じながらももう慣れたそれが、今日はどうでもいいようなことに感じる。
 これも、隣で真っ直ぐ前を向きながら、大手を振って闊歩している、麻生のせいだろうか。
 なんだか、今は気分が軽かった。

 結局、駅近くの喫茶店に入った。

 店中に入ると、クーラーの涼しい空気が、出迎えてくれる。
 やや照明を落とした、こじんまりとした感じの店で、中は割と空いていた。

 俺達は奥の方のテーブルに、相い向かいで席に着いた。
 水を持って来たウエイターに、アイスコーヒーを二つ頼む。

「どう、やっぱ、疲れた?」
 麻生が、そう訊ねてきた。

「うん、さすがにね。
 まだ昨日、山での疲れもとれてないし、今日は今日で、やっぱ緊張するからね」

「……、その、ごめんね」

 突然、上目遣いに人のことを見ながら、謝ってくる。

「って、何が?」 思わず、戸惑う。

「だから、昨日のこと。

 高草木さんのこと、放っておいちゃって。
 何のために私が同行したのか、全然分からないものね。

 他の隊員さん達も、謝ってた」

 ……ああ、そういうことか。
「いや、それはあんまり、気にしなくてもいいよ。
 結局、無事だったんだし。

 それに、あそこで付いてこられてたら、それはそれで恥ずかしかったろうし。
 みんな、気を使って、俺を一人にしてくれたんだろう?」

「そういう訳には、いかないわよ。
 初じめてああいう場所に立つ人間を、実戦の場で一人きりにして、危険にさらしたんだもの。
 客観的に見ても、下手したら始末書じゃすまない問題だよ」

 まあ、そうだろうな。
 とはいえ、今現在において、組織の中での俺の味方は麻生だけなんだし、そうでなくても、良い関係を築きたい相手でもある。こんなところで、溝を造ったりしたくはない。

「ふん、じゃあ、ここの店は、麻生さんのおごりな」

 軽く、笑ってみせる。

 だが、これが逆効果だった。

「なにそれ。こっちは真剣に、謝ってるのに……」

 なんだかこっちを見る目が、恨みがましく変化した。
 表情を見ているだけで、結構楽しい。

「別にふざけてるわけじゃあ、ないよ。

 ただ、俺はこの数日間でも、麻生さんには色々世話になってると思うし、これからも、そうだと思う。
 だから、結果的には大丈夫だったことで、そんなに気を使ってもらいたくは、ないんだ。

 そんなことされたら、明日から、気軽に頼り辛くなるじゃないか」

「そっか、そんなものかなあ」

 納得したのかしないのか、どうにも分からない顔をしながらも、麻生は頷いた。
 そして突然、何かを思いついたかのように笑顔になると、言った。

「でも、それじゃあさ、お互いの呼び方、変えようよ。
 お互いに”さん”付けじゃあ、なんか、仲間って感じが、しないよ」

 ウエイターさんが、アイスコーヒーを二つ運んできた。
 俺達の前にそれぞれ置き、立ち去る。

 俺は自分の分のグラスを手に取ると、言った。

「……その意見には、納得できるかもしれないが、ちょっと話の内容が、飛んでないか?」

「いいじゃん、別に。
 私のことは、呼び捨てでいいよ。名字でも、名前でも、好きな方で読んでよ」

「わかった。俺の方も、呼び捨てでいいよ」

「うん、じゃあ、雅也っ」

「……」

「ん? どしたの?」

 ミルクとガムシロップを、グラスに入れながら、麻生が訊ねてくる。

「いや、別になんでもないよ、麻生」

 ……何というか、多分俺は、感動していたのだろう。恥ずかしいことでは、あるが。
 しつこいようだが、俺は同世代の異性からこんなふうに、ただ親しみのみを込めて、名前を呼び捨てで呼ばれるのは、初めてだったのだ。彼女らは、たいていの場合は、なにか妙な艶めかしさを込めて、媚びるような発音で俺の名を呼んだ。

 だけど、麻生は、違った。
 純粋な、開けっぴろげな親しみを込めた、呼び方。それだけで、こんなに、嬉しい。
 そう、こんな呼び方をしてくれたのは、今までで一人だけ。俺の双子の……

 そう考えそうになり、慌ててその思考を、自分の頭から追い払った。

「あそう〜〜っ?」
 なんだか、不満げな様子である。名前で呼ばなかったのが、気に入らなかったらしい。
 だが俺は、出会って一週間にもならない女の子のことを、名前で呼び捨てにするような度胸を、持ってはいなかった。

「ま、いいか」

 とりあえず、彼女のご機嫌は、直ったようである。
 ストローに口を付けると、アイスコーヒーを飲み始めた。

 その姿を、彼女には気づかれないように苦笑を浮かべつつ、眺める。

 ふと、思いついたことがあって、訊いた。

「今度は、とりあえず、来週に顔を出せば、いいんだよな。
 召集が掛からない限り」

 こくり、と彼女は頷く。
「各週の火曜は、定例会議だからね。今度は、そっか、来週だ。
 まあ、会議って言っても、ほとんど顔見せがメインだけどね」

 アイスコーヒーをひとくちすすり、続ける。

「ああ、そっか。
 私以外のみんなと顔を合わせるのって、雅也、初めてだっけ。

 だいじょうぶ、みんな、気のいい人ばっかだし。……まあ、例外もいるけどね」

「その”例外”ってのが、不安なんだけど……」

 定例会議には、『特別斑』に所属する人間、全員が集まることになっている。それがどんな顔ぶれになるのか、正直見当も付かない。

「あはは、まあ、そんなに心配しなくても、いいよ。
 ちゃんと、みんなに紹介したげるから」

 楽しげに、笑う。

 そんな彼女を見ながら、それでも多少の緊張は拭えないのを自覚する。

”ま、いっか。心配して、どうなるものでもないし”

 そんな風に考えながら、俺もアイスコーヒーをすすった。
 冷たいその液体が喉を通る感触が、たとえ何の味を感じることが無かろうとも、今の俺には心地よかった。




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 第2話です。
 今回の話しで、世界観がだいたい掴めていただけたでしょうか?
 しかし自覚するのは、戦闘シーンがないと、やっぱさみしいのね、私。
 頑張って、ストーリー進めないと……。      藤井 貴文(ふじい たかふみ)

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