魔 導 学 院 物 語
〜氷と呼ばれた暗殺者〜

第三章 英雄と呼ばれた戦士


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「えっ! キースさん、もう帰っちゃったの?」

 そんな驚きの声がクリフの部屋に響いた時、既にキース=レイモンドの姿はそこにはなかった。

 声をあげたのは赤い瞳の学院教師ミーシアだ。彼女はキースに会うということで、ある種の気構えをしてクリフの部屋に来たのだが、当の本人がいないのためにそれも全くの無駄ということになったのだ。

 はぁっと溜息をついた彼女に、クリフはそれまで読んでいた本を机に置き説明するように口を開いた。

「何でも急用ができたらしい。組合も同盟も重要な時期を迎えているからな。何かと忙しいんだろう」

 クリフの言葉を聞き、ミーシアは半分だけそれに納得する。確かに今、魔導同盟と魔物狩人組合は一つの境地にたたされているのは周知のことだ。それは同じ理由からなのだが、それはともかく、それだけでは完全にミーシアは納得できなかった。

「あと、俺達に気を利かせてくれたんだろ」

 しかしミーシアの疑問を解いてくれたのはクリフのそんな言葉だった。彼にはミーシアが納得できなかった理由も、その答えも解っていたのだ。それもそのはずだろう。ミーシアが疑問に感じたことはクリフが疑問に感じたことと同じだったのだから。

 疑問、それは単純な話である。キースという男が律儀であるというのは、彼を知る者ならば皆解っていることだ。最低、いくらか顔の知った相手くらいには挨拶に来るはずの男だ。それがない、ということにミーシアも疑問を抱いたのだった。

 だが、疑問と同じくその答えもまた単純なものだ。彼はミーシアもレイシャのことにこだわっているだろうから、下手に気をつかわせないように会わずに帰った。ただそれだけのことだろう。クリフに対してもそれは同じだ。いくら忙しいと言っても、遣いを出すことすら出来ないことなど有り得るはずがない。あえて面会の時間を少なくすることで、余計な気遣いをさせまいと考えたのだろう。

「律儀な人ね」

 半ば呆れたようにそう言った彼女に、クリフは「そうだな」と同意する。言葉自体も、言葉に含まれている皮肉も否定する気はない。賢い生き方だとは思わないし、それはキース自身理解していることだろう。

「でも、あの人らしいわよね」

 ミーシアはそう言って小さく微笑んだ。

 確かに賢いとは言えない生き方かもしれない。だが、そんな彼がいたからこそ今のジェチナ魔物狩人組合があり、そしてこうして精神的に救われている自分たちがいるのも、また事実なのだ。

 微笑みながら窓際で風を受けている彼女に、クリフはもう一度「そうだな」と相づちをうった。

☆★☆

 魔導学院東棟、そこは主に学院の教室が置かれている場所である。普段ならばもっとも使用の頻度が高い場所なのであるが、まだ夏休暇も終わっていないこともあり、その場所には普段の賑わいはなかった。

 だが全くの無人かというとそうでもない。多くの教室の中に、稀ではあるが生徒の姿を見ることができた。

 雑談の場として使っている者、授業が始まる前の予習を行っている者、やることもなくただ暇そうにしている者、彼らの目的はそれぞれ異なってはいるが、確かにそこに集まっている人間はいたのだ。

 そしてかの騒動教室、クリフ教室にも人の姿はあった。

「つまり、魔導同盟も魔物狩人組合も、提唱者はミカエル様というわけ」

 それはクリフ教室の生徒、サフィアの台詞だった。

 僅かに赤みを帯びた肩ほどまでの黒髪、細く華奢ともとれる体格、どことなくか弱そうな雰囲気を持つ彼女だが、彼女が有能な生徒であることは学院の中では有名なことだ。特に知識を活かした能力においては、学院生徒でも並ぶ者は片手で数えるほどしかいない。

 そのサフィアの話を聞いているのは、二人の少女だ。ネレアとテューズ、お互いにクリフ教室の生徒であり、同学年の少女達である。

「それは聞いたことあるけど、それがどうして同盟の現状に影響しているわけ?」

 そう尋ねたのはテューズだった。彼女は典型的な法族の娘だ。黒髪で黒い瞳、体格も中肉中背で、特徴といえばどことなく少年のようにも見えるその顔立ちだろう。それは彼女の旺盛な好奇心から出ているものだ。加えて、彼女の双子の弟に対する印象もあるのかも知れない。

 話の話題になっているのは、魔物狩人組合の人間がこの魔導学院に来ていることについてだ。とあるルートからその情報を入手したネレアが、予習をしていたこの二人に話題を持ちかけたのがその始まりだった。

 大きな問題は、孫娘の入学視察という名目まで出して、組合の総組合長であるサヴェス=カジバールがこの魔導学院に来ていることだ。その他にも組合の重役が揃っているとなれば、それもただ視察してきたとは考えられない話だ。サフィアは、自分なりのその推論を彼女達に話していたのである。

「同盟も組合も、五皇士であるミカエル様という象徴的存在があったから、大国に張り合えるだけの実権を持っていたということよ」

 サフィアの代わりにテューズの疑問に答えたのは、褐色の肌の少女、ネレアだった。度の高いぐりぐり眼鏡が特徴である娘で、髪が乱雑に伸ばされていることも手伝って不気味な雰囲気を醸し出しているのだが、口調の方は淡々としており、その言葉は冷たいともとれるような発言だった。

 しかしサフィアもテューズも彼女のことは良く知っている。彼女の言葉にそんな意図が含まれていないことは解っている。テューズはそれを気にすることもなく、話を続けた。

「そりゃ、ミカエル様が凄いのは解るけど……。でも、あの方は聖国の大司教だった人よ」

 ネレアの言葉にテューズは不思議そうに言葉を返した。

 ミカエル=ダ=カイザーは龍帝の反乱の英雄、五皇士を束ねた男であり、紅華隊の隊長ディル=カイザーの父親でもある男だ。彼はそれまで緊迫した状態にあった大国をまとめ、龍帝の反乱終結の決定的な要素となった大陸同盟を実現させたのである。

 さらには龍帝の反乱の最終戦とも言うべきノーザンキャッスルの戦いにおいて、ことの首謀者である龍帝を倒し、大陸全土から尊敬と支持を得た男だった。

 過去形になるのは彼が既に亡くなっているためだ。そして、彼は亡くなる直前まで、もう一つ大きな役職に就いていたのだ。

 聖国虎国領大司教。簡単にそれを説明するならば、虎国に対する聖国の親善大使兼、輝神教布教者ということになる。終戦後、大きく改善された大国間の友好関係、それに伴い虎国の帝都ガディラスに輝神教布教のための大教会が建てられたのだ。ミカエルは、その教会の初代大司教だったのである。

「聖国の大司教だった方が、どうして反大国にも似た行動をとって、更に聖国はそれを認めたの?」

 問題はそれだ。如何に英雄といっても、ミカエルは聖国の一僧に過ぎない。その彼が祖国を敵に回すような行動をとり、そして聖国自身が彼を制そうとしなかったのかが、聖国出身のテューズには解らなかった。

「人徳者だったからでしょうね」

 テューズのそんな疑問に、いきなり教室の入り口の方から答えが返ってきた。一同が驚いて見ると、そこには赤い瞳の女と、どことなく幼い顔立ちの青年が立っていた。

 ミーシア=サハリン――昔この教室のクラスリーダーだった女の姿が、不意に彼女達の脳裏に映る。

 しかしその女がミーシアで無いことはすぐに理解することが出来た。確かに面立ちなどは酷く似ているが、そこにいる彼女はどことなく威圧的な雰囲気を持っていた。腕を組んでいたこともあったかも知れない。だがそれよりも、ミーシアは彼女とは違い、友好的な雰囲気を持っている。

「アーシア先輩がここに来るなんて珍しいですね」

 初めに彼女の名前を口にしたのはネレアだった。すると、アーシアが何かを答えようとする前に、彼女の横にいた男が口を開いた。

「おい、俺は無視かよ」

 青年はその表情をしかめながらそう言った。もちろん三人に彼を無視するというような意図は無かったのだが、横にいるアーシアの印象の方が強く、彼に話しかける機会が掴めなかったのである。

 こういうことには気を遣う気質のサフィアが、何とか弁解をしようと言葉を掛けようとするが、それは失敗に終わった。それよりも早く、今度はアーシアが口を挟んだのだ。

「そんな事くらいで一々文句を言うなんて器の小さい男ね。元々どうでもいいことなんだから、話を止めないで頂戴」

「なっ!」

 理不尽な彼女の言い分に、ラーシェルは言葉を詰まらせる。そして何かを言い返そうとするが、今度はサフィアの口出しが成功する。

「ま、まぁ、二人ともこんな所で言い争わないで下さい」

 こんな所と言っても、クリフ教室は半ば騒動を起こすためにあるような場でもある。咄嗟に出した言葉だったために矛盾を含んでいたのだが、幸いそれは他の連中にとっても突然のことだったようで、サフィアが思いついたような突っ込みはなかった。

 取りあえず場の動きが止まったことを確信すると、サフィアは一同が動きを見せるよりも早く、話題を切り替える。

「ところで、二人ともどうしてここに? 何か用があったんじゃないんですか?」

 それは先程から気になっていたことだ。アーシアは夏休暇が始まる少し前までクリフとは対立関係にあったし、ラーシェルがこの教室の人間と親しいと聞いたことはあまりない。そんな二人がここにいること自体が珍しいのだ。サフィアの疑問も当然だと言えた。

 しかし当人達にとってはそれほど意外なことでもなかったらしく、アーシアはさらりとその問に答えた。

「え? ああ、アーバンを探してたのよ。ちょっと聞きたいことがあってね」

「アーバン先輩なら第一修練所にいると思いますけど」

「けど、あそこはまだ使用許可下りてないだろ?」

 サフィアの返答に、ラーシェルが意外そうにそう尋ねた。そう言った学院の施設を管理しているのは彼が務める事務部の仕事だ。彼の記憶が正しければ、第一修練場の使用許可が下りるのは夏休暇が終わったあとからだったはずだ。

「特別に申請が通ったみたいです。昨日、申請に行ったと思うんですけど」

 相変わらずの抑揚のない口調で、ラーシェルの疑問に答えたのはネレアだった。するとラーシェルは今度は呆れたように言葉を吐いた。

「昨日と今日は俺は休みだって一昨日会ったときに言っただろ?」

「そうでしたっけ?」

「お前って、本当に自分の趣味以外には興味ないのな」

「当然です」

 何の悪ぶれもなくそう言葉を返すネレアに、ラーシェルは深い溜息をついた。しかし彼はすぐに自分に向けられている一同の眼差しに気付く。彼女らは意外な物を見るような目でラーシェルに視線を向けていたのである。

「ラーシェル先輩って……、ネレアと仲が良かったんですね」

 それがその視線の理由だった。それを口にしたテューズには、その組み合わせが意外な物にしか見えなかったのだろう。ネレアの交友関係については、テューズはおろか彼女の面倒を見ているはずのサフィアも良くは知らないのだ。

「仲が良いっていうのとは、違う気がする……」

 呻くようにそう答えたラーシェルに、一同は不思議そうな表情を見せるが、ラーシェルはあえてそれを話そうとはしなかった。話すだけの気力が無かっただけと言った方が正確かも知れないが、沈黙を黙って待っているほどこの面子は大人しくはなかった。話はまた異なる話題に切り替わる。

「それで、さっきの話なんですけど、アーシア先輩、どういうことです?」

 さっきの話――その意味が解らなかったのか、アーシアは一瞬首を傾げるが、それはすぐに理解したようで、彼女は小さく口元を緩ませながらテューズの問に答えた。

「人徳者の話ね。そのまま意味よ。ミカエル様は龍帝の反乱の最中で、それまで虐げられていた亜種族能力者の痛みに共感し、戦後、彼らを救済するために力を尽くした。人徳者でしょう?」

「でも、龍帝の反乱を起こしたのは、獣人を主とする亜種族能力者ですよね?」

「そうね」

 アーシアはそれには反論しなかった。それが事実であるからだ。

 龍帝の反乱、約三十年前に勃発したその戦いは、首謀者である龍帝が、多くの亜種族能力者を率いて起こした反乱だった。

 獣人、印族、赤珠族、果てには闇の眷属や普通の人間までもが加わったという戦争で、大陸史上最高規模に発展した戦いだったのである。そして大陸各地では多くの悲劇が起こった。

「けれど、彼らを追いつめたのは大陸の在り方そのものだとミカエル様はおっしゃったわ。特異な力を持つと言うだけで、彼らを虐げるのは間違っていると。自分が亜種族能力者だということまで公言してね」

 それは皆が知っていることだ。聖国の聖都アネスティーンで行われた終戦宣言、そこでミカエルは自分が亜種族能力者であることを公言したのだ。それと同時に、彼はそこで様々な想いを大陸全土に向かって発言したのである。全てを捨てる覚悟を以て。

「でも、だからこそミカエル様は大国からも、亜種族能力者達からも、信頼と敬意を得たのよ。元々、凄く独特の雰囲気を持った、人を引き付ける魅力を持った方だしね」

 その言葉にはテューズも納得する。テューズは聖国司教である父の交友関係で、ミカエルとも何度か会ったことがあるのだが、ひどく暖かい人だったのをテューズは覚えている。

 アーシアはその反応を見て、更に言葉を続けた。

「ミカエル様が亜種族能力者を保護するような行動をとれたのも、あの方のそんな人徳があったから。もっとも、終戦当時大国の国力も低下していて、復興のためにミカエル様の人心を集める力を大国も欲していたからというのも、大きな理由みたいだけどね」

 アーシアの言葉を聞き、テューズは何となくではあるが、それを理解する。おそらく、ミカエルという人間と実際にあったことがなければ、それはただの夢物語に聞こえていただろう。たった一人の人間の影響力が、そこまであるのかと。

 しかし確かに彼は存在したのだ。全てを内包しうる、今は亡き英雄。テューズも彼と会ったことがあるからこそ、それを理解することができたのである。

「それじゃ、話も終わったことだし、私はアーバンを探しに行くわ」

 テューズが納得したのを確かめ、アーシアはそう言い残すと、四人に見送られながら部屋を出ていった。しかしアーシアを見送りながら、ふとサフィアがある違和感に気付く。

「えーっと、ラーシェル先輩は、行かないんですか?」

 自分たちと同じようにアーシアを見送るラーシェルを見て、サフィアは不思議そうにそう尋ねた。すると彼は目をしばたたかせながらそれに答える。

「いや、俺が用があるのはランフォードだし。アーシアとはそこで会っただけだぜ」

「私、ですか?」

 今度はテューズが目をしばたたかせる番だった。ラーシェルがネレアと接点があったというだけでも彼女には意外なのに、今度は自分に用があるというのだ。

(何か悪いこと、したかな?)

 ラーシェルが事務部所属であることもあり、テューズは最近起こした事件のことを思い起こす。騒乱双児トラブルツインズ、そう呼ばれる双子の片割れである彼女の、悲しい性である。

「ランフォード?」

 突然頭を抱えて悩み始めたテューズを見て、ラーシェルは不思議そうに声を掛ける。一方でサフィアはその光景に苦笑し、ネレアは呆れたようにゆっくりと首を振っていた。

「え? ああ、ごめんなさい。そ、それで、私に何か?」

 テューズは明らかに動揺し、顔を引きつらせていたが、何とか作り笑いを浮かべ、ラーシェルにそう尋ねた。ラーシェルは未だ訝しげな表情を浮かべていたが、このままでも話は進まないと思ったのだろう。構わずに話を続ける。

「確か、君の親父さんは五勇士の一人、オーグ=ランフォードだよな」

「ええ。そうですけど」

「じゃあ、他の五勇士にも、直にあったことがあるよな?」

 目を輝かせながらそう尋ねてくるラーシェルの勢いに押され、彼女はただこくこくと首を縦に振った。

 五勇士。それは機国大戦で活躍した、紅華隊の五人の英雄のことをさす称号だ。

 紅華隊には五皇士の娘であるディル=カイザー、ベルーナ=ヴァルギリス、ゼルフィア=カジバールが揃った。そういった理由から、五皇士にちなんで彼女らを含める五人にその称号が与えられたのである。

 そしてその五勇士の一人に、テューズの父親も含まれているのだ。

「やっと手がかりが見付かったぜ。ここ最近、ずっと探してたんだよ、ヴァイス=セルクロードを知っている人間を」

「あ、私、ヴァイス様には会ったことないです」

 テューズのその言葉を聞き、それまで握り拳を作って喜んでいたラーシェルは、一気に失墜したようにその場に膝をついた。

「ご、ごめんなさい。でも、ヴァイス様のことなら学院長や副学院長に聞いた方が早いと思いますけど……」

「クレノフ先生には聞いたんだけどな。上手くはぐらかされた」

「はぐらかされた?」

「ああ。実はヴァイス=セルクロードにはちょっとした噂があってな。多分、それを隠すためなんだろうけど……」

「噂?」

 それはネレアの台詞だった。暗躍や秘密という行為に、酷く魅力を感じるのが彼女なのだが、それはともかく、ラーシェルはゆっくりと首を縦に振る。

「ヴァイス=セルクロードが五勇士と称されるようになったのは、難攻不落と言われた砦をたった一人で落としたからなのは知ってるよな?」

「ええ。ギガント砦ですね。ゴーレム研究所があったという」

「さすがに、その辺のことには詳しいな」

「趣味ですから」

 堂々とそう答えたネレアに、再びラーシェルは呆れる。

「…………と、とにかくだ。ヴァイス=セルクロードはその砦にいたゴーレム技師達を皆殺しにしたっていう噂があるんだ」

「み、皆殺し?」

「ああ。単なる噂なんだけどな。でも、もしそれが確かだとすると、これ以上教師連中から情報を引き出すのは得策とは言えないだろ? だから君に聞いてみたんだけど……。君も知らないか」

 呻くようにそう言ったラーシェルに、テューズは何気ない一言を口にした。

「それじゃ、クリフ先生も駄目ですよね」

「クリフ先生?」

 テューズが出した名前に、その場にいた一同が併せて声をあげる。テューズにはその反応の意味が解らず、「どうしたの?」と彼らに尋ねる。

「先生が、ヴァイス=セルクロード様を知ってるの?」

「え、だって、先生は紅華隊に所属していたんでしょう?」

 サフィアの質問に、テューズは即答する。だが一同は初耳といったような表情で、彼女に視線を送っていた。

「先生が大戦に参加していた話は知ってるけど、クレノフ先生やゾーン先生と仲が良いから、てっきり青嵐隊にいたんだと……」

「違いますよ。だって、私の父と同じ部隊にいたと聞いたことがありますから」

 テューズの返答に、ラーシェルは手を顎に当て、考えるような素振りを見せた。だが、彼はすぐに何かに気付いたように目を見開く。

「そういうことか。なるほどな」

 そしてにやりと笑みを浮かべると、ラーシェルはテューズに「ありがとうな」と礼を言って急いで教室を出ていった。

「何があったのかな?」

「さあ?」

「先輩の考えていることは私にも解りません」

 そして三人はその場に取り残された。


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