第54話 「”パールさん”」
個性的キャラのパールさん登場であるが、それよりもこの回はサンジの華麗な動きが見所である。
まずはパティから包丁を奪おうとした男を蹴飛ばすシーン。いつものごとくサンジ自身には効果線を入れずに、見事なまでに表現している。
そのあと、海賊がフッ飛んで行くシーンのサンジのポーズも絶妙で、これほど静かな画面に綺麗に動きを見せるのは、なかなか難しい。
これは白い画面にサンジの黒づくめだからこそ映えているのである。
そして、極めつけは大量の海賊相手にスピニングバードキック、もとい回転キックを決めるシーン。
手前にぐっと突き出されたサンジの靴底。この大胆な画面構成。
なんども紹介している、尾田氏の遠近法無視の迫力パースの大成功事例である。
残念なことにこのキックはここくらいでしか見せてくれないのだが、その迫力たるや、
アニメのオープニングでしっかり採用されている所からもすごさが分かろうと言うもの。
この絵はそう簡単に描けるものではない。描き手に相当力が入っている証拠である。
こういう派手な演出の一方で、サンジがパティに包丁を返すとき、直接パティの方を見てないという、
サンジの照れ隠しの表現など、細かい演出も見逃せないところ。
第55話 「”JUNGLE BLOOD”」
前話に続き、サンジの活躍と大胆構図・迫力作画のオンパレードである。
ただ、ゼフのファイアーパール打消しシーンは、ちょっと上手く行ってない。帽子でかすぎ。
面白キャラのパールさんは、あえなくこの話でダウンである。すぐあとで復活するが、ちょっと情なさすぎる。
上手く使えばジャンゴくらいのキャラには育ったろうに、残念なところである。
ところで、彼の技の「パールプレゼント」だが、私どこかで「金、銀、パールプレゼント♪」ていうCM聞いたことあるんですけど、
それが元ネタなんでしょうか?
よく考えるとクリークは金(鎧が金色)、ギンはそのまま名前が銀。そしてパール。「金、銀、パール」である。これって…
第56話 「”やなこった”」
パールさんの大技、パールクローズ。
どこからどうみてもキン肉マンに出てくる、悪魔騎士ジャンクマンのジャンククラッシュにしか見えない。
尾田氏の年齢から言って、丁度80年代ジャンプ漫画で育った頃なので、その影響下に在る事は間違いなく、
パティの包丁に白字で「北斗の拳」と書いてあったりするのだが、その中でも特にキン肉マンのパクリというか、
オマージュみたいなものは散見される。これはその一つだろう。
パンダマンももとはキン肉マンの新超人、という位置付けのようである。
尾田氏の師匠・和月伸広氏の「るろうに剣心」の「サムライスピリッツ」やらアメコミのオマージュは、さすがに行きすぎの観があったが
(元ネタがあまりにもオタクすぎるという点もある)こちらは今の所、気にするレベルではないと思われる。
ただ、連載に疲れて来ると、自分のやる気を奮い起こさせるためにそういうのに走って
独り善がりな楽しみに浸ってしまう危険性は在るので、(るろうに剣心はまさにそれで自滅して行った)そうならないよう、祈るばかりである。
そしてストーリーはサンジの回想シーンへと移って行く。
第57話 「”夢在るがゆえ”」
この辺りをの解説するのは、実は怖い。というのも、サンジファンを敵に回す危険があるからである。
先に言っておくと、私はサンジのキャラは嫌いでは無いし、アニメで最初に見た時は、サンジは印象的だがゾロは地味だな…
と思っていたのだが、コミックを最初から読んで行くと、明らかにゾロに食われていて、サンジのキャラは立ち切っていない。
その要因は幾つか在るだろうが、このサンジの回想シーンもその一つである。
この回想話がまず上手く機能していかないのは、キーワードとなる「オールブルー」という言葉。
ここまで、そんな言葉は全く登場していない。どうも、唐突な感が拭えないのである。
そしてオールブルーの言葉に、ゼフが心動かされるわけだが、ゼフのオールブルーへの意気込みがそこまで全く描かれていない。
そのためゼフの行動にいまいち説得力が感じられない。
それに加えて致命的なのが、サンジは「簡単だろ!野望捨てるくらい!」というとんでもないセリフを先に吐いてしまっていること。
つまり、サンジは「夢を追う青年」ではなく、この直前までは「夢を諦めた青年」として描かれているのだ。
それなのに、突然サンジの夢を追う心にゼフが心動かされた、という展開では、正直、違和感を禁じえない。
そのためにここらへんのドラマに説得力が無くなってしまっているのだ。
海賊達が「船長!どうしてそんなガキ一匹…!!」と叫ぶ、その疑問がそのまま読むものに湧き上がってしまうわけである。
第58話 「”クソジジイ”」
私自身、ONEPIECEのこういう類の回想シーンで感動が来なかったのはこのサンジのエピソードだけではあった。
だがもちろん別にサンジが嫌いなわけではないので、良い評価を書けないのが辛いところであるが、続けさせていただくと…。
そもそも「同じ夢」オールブルーを目指す二人共に、それまでそこについての言及が何一つ為されていなかったことで、
ゼフが命を張ってサンジを守ったことの説得力が薄れてしまっているのは前述の通り。
さらにゼフが手よりも足を食べることを選んだ、ということはつまり海賊としての命の足よりコックとしての命の手の方が大事であり、
また仲間を失ったことによりどちらにしろもう海賊を続ける気は無かった、ということで
サンジがゼフの夢を奪ったことには必ずしもなっていないこと。
それに加えて、85日間生き延びた、というのがあまりにも現実離れしていてリアリティがないこと。
人間、10日何も食べないと死ぬのが普通。20日に分けて食糧を蓄えたとはいえ、せいぜいこのシチュエーションなら30日が限度であり、
この85日という数字が、このドラマ全てにトドメを刺してしまっている。
(つまり、この「85日」に違和感を感じない人なら、もしかしたら素直に感動できるのかもしれない)
そして、少し話が変わるが、サンジが料理長の座を狙ってるわけじゃないことは、
最初から読者には明らか(というかプンプン匂っている)であり、むしろ仰々しく回想している割には、そこは大した謎の部分ではない。
逆にサンジの素性についてはそこまで謎として描いて来なかった
(一方ルフィやナミの過去は明らかに「何かある」ように描写されていて、そして実際ストーリーの重大な要素である)にも関わらず、
回想シーンでいきなり何処かの船に乗り込んでいて、全てが謎に包まれており、
しかもストーリーの本筋に関わって来なさそうな扱いであるにも関わらず、そこは何も説明無しで謎のまま。
要は、このバラティエ編は、全てがどうもチグハグなのである。
サンジの話のはずなのに、途中にミホークが乱入して話の腰を折り、あろうことかゾロが主役になってしまったり。
まとめれば
1・話のリアリティが必要な所にリアリティがない
2・ストーリー上は謎とされている所が読者にとってはむしろバレバレで謎じゃない
3・逆にストーリー上流されている所が読者にとってはむしろ謎
4・サンジをスカしキャラとして描いておきながら、突然回想シーンで夢を追う少年に変化
5・サンジの話のはずなのに途中でゾロが持って行く。
6・伏線無しに突然の重要要素「オールブルー」出現をやってしまっている
こんなところである。そしてその後サンジは、ビジュアル的には面白いものを見せてくれるものの、
どうも中途半端なままでズルズルとすすんでしまうことになる。
サンジには「ゾロとのキャラ被り」というもう一つの悪い要素があるのだが、それはまた後述。
第59話 「”恩”」
パールとギンの選手交代。ギンのパール粉砕シーンは、相変わらず効果線なしに動きを表現する、尾田氏のお得意の絵である。
静止画の中に生まれる迫力。さすがである。
しかし、ギンの背中にはクリークの海賊旗のドクロと砂時計でなく、竜(蛇?)と大腿骨ぶっちがい、の別デザインである。
全く語られないが、ギンはもともと別の海賊団に属していた(or自分が組織していた)のではなかろうか?
やっぱり何かの伏線なのだろうか?相変わらず憎い演出である。
第60話 「”ケジメ”」
クリークが怒る部下たちを静かに語るだけで収めるという、器の大きさを見せるわけだが、
やはりここまでの情けない扱われ方が、尾を引いている。
このセリフなんかはクリークのキャラを大きく押し上げてもおかしくない筈なのだが、
さすがにここまでクリークをそういう大人物の方向に一貫して描いてはいないのが、痛い。
漫画というのは基本的には絵空事で、そこに存在するキャラクターは実在するものではない。
それをどのように実在に感じさせるかが問題なのだが、重要なのは、やはり性格がきちんと確立しているかどうかである。
言動が場面ごとにバラバラで、一つのイメージを作り上げていないようでは読者の中で、そのキャラクターは実体として確立させられない。
このバラティエ編のクリークとサンジは、まさにそれなのである。(まあ、サンジは後に段々確立されて行くのだが…)
第61話 「”鬼”」
クリーク対ルフィ。ルフィに突き刺さる槍が相変わらず痛そうである。
(繰り返すが「痛そうに見える」だけでも、奇跡なのである。あなたの手元にあるのは紙とその上にあるインクの流れだけであり、
ルフィという人間も、槍も、どこにも存在しないのだ。それを「痛そうに」見せられるのが尾田氏の力量なのだ)
しかし、相変わらずサンジの戦闘は映える。それは認めざるを得ない。ルフィの戦闘の絵は「面白さ」が主だが、
サンジは明らかに「カッコヨさ」が主である。人気出るのは当然とも言える。
だが、サンジは残念なことに作中では明らかにルフィ・ゾロより一段下の実力である。
しかしウソップほど弱いキャラではない、その中途半端な強さゆえに、なかなか見せ場が回って来ないのである。
そう、ルフィの仲間の中で、サンジの位置はこのバラティエ編の印象と同調するかのごとく、「中途半端」なのである…
これについてはまた後述。(って、なんかことあるごとにサンジをけなしてるみたいですが、違いますからね、サンジは好きですよ、私。)
第62話 「”M・H・5”」
MH5って、なんなんだろう。「マジ・本気・5秒前」とかかな?
ギンは自分を殺そうとするクリークに未だに心酔しているが、何度も言っているように、
イマイチ クリークが大人物に描いていないために、ギンのレベルまで下がっているように見えてしまう。
ただ、ここまで救いようのないキャラだからこそ、このあとルフィに心置きなく戦わせられるわけではあるが。
巻七については以上。巻八へ続く。
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