31
トライデント


気がついた時には、何モノかが炎に包まれているように見えた。


ヒミコの声で必死にその場から逃げる事を選択し
転がりながら移動のマテルを使用する事で、炎の範囲からは逃れられたようだ。

 「ヴェロンは何やってんだよ!」

ヒミコの悲痛な叫びで、その炎の中に金髪がいる事は理解できた。
この状況で「蝙蝠男」が地面に降りてくると、ゆっくりとした足取りでこちらに近づいていた。

だが、その動きは「炎」が止めた。

 「聞こえなかった・・・のか?
 誰・・・一人、傷つけさせないって・・・なぁ!」

炎が燃える音で聞こえ難かったが、その声は金髪だった。
見た目は、"スタントの人"が全身炎まみれになっているのだが、ソレを苦にせず動いている様に見える。
ただそれも、声が聞こえなくなると同時に、人影が崩れ去ってソコは炎の残りカスだけとなった。


 「・・・私自身が最悪級の極下だね。
 リクは"マスターを使って"ここから道なりに"飛んで"逃げてよ」

 「いや、おそらく・・・金髪の事なら問題ないと思う。
 小さな炎は残っているけど、何かを燃やしている形跡が残っているようには見えないからな」

 「・・・随分と器用なマテルだねぃ。
 いや、器用っていうレベルをちょっと越えてる感じ・・・
 って話してる場合じゃないねぃ。ヤツは私が引き受けるから早く移動しなよ」

 「オレは当然そのつもりだけど、ソレには納得出来ない人も居るようだな」

炎が生きている間はリディのそばで待機していたようだが
金髪が消えて居なくなった今、ヒミコのすぐ後ろ近くまでジュリは移動していた。

 「ジュリもリクを護衛してあげて欲しいねぃ」

 「ウム。当然そのつもりだが、ヒミコ一人に任せる程ウチは弱くもないぞ」

ジュリは完全に戦闘モードで、テコでも動かないという状態の構えをしている。
一方、蝙蝠男は炎から消えた金髪の行方を警戒しているのか、近づくのを止めて周りを見回しているように見える。
それと合わせて呪文ような数字を呟きだした。

 「ggg イチ ロク ・・・ゼロ r」


 「あっぶないね!戦闘能力もマテル能力も桁違いだぜ!
 ここは、ヒミコさんの言うように勇気ある撤退が必要だぜ!」

呟きにかぶせる叫び声と共に、炎が消えかけた跡地から影が立体的に大きくなると
ソレがはじけ飛んで金髪の後ろ姿が再登場した。
先程人影が崩れ去ったように見えたのは、金髪の影で作ったダミーって事なのか?

そんな事を考えながら、ほんの一瞬だけ金髪の方に目をやっただけだった。
異変に気がついた時には、赤黒く細いトケドケとした炎のような線がリディの肩を貫いていた。

 「ggg キドウ リョク ハイジョ」

きどう、りょく?
恐らくヒミコも脱出の鍵と考えていたであろう、マスターによる移動のマテルを蝙蝠男が封じたという事か。
オレ達を確実に"排除する"為に、逃れられないようにしたという事なのだろうが
金髪の言うように、オレらとは能力が桁違いという事は確実に分かる攻撃だ。

とまた少し考えている間に、今度は"赤い着物"が蝙蝠の方へ「移動のマテル」を使ったように素早く移動していた。
ただその移動は、目標である蝙蝠男を通り過ごしてしまった。

 「くっそ・・・」

明らかに冷静さを欠いているヒミコは、再び移動のマテルを使おうとするが
この状況になるのを分かっていたかのように、同じ様にソコへ移動していた金髪がヒミコの腕を掴んだ。

 「何してるんだよ!」

 「それはヒミコさんだね。この戦闘に関しては僕に任せて欲しいぜ!」

腕を振り払おうとしているヒミコを押さえつけるように、まずは両肩に手を当てると
直ぐに片手を離して、その手から"黒いモノ"をこちら側に飛ばした。
ヒミコは"やはり"黒いモノへと瞬時に移動する事になった。
その移動先には、気絶しているリディとソレを抱えているシドがおり、その二人を護る様にジュリが槍を構えながら移動していた。
オレはそこから少し距離を取った位置に一人残ったが、蝙蝠男がこちらへ移動して来てもジュリが対応できる程度である。


 「ポンポン・ポンポンって、ねぃ・・・色々、下の下だね。
 まったく。私は召喚モンスターじゃ、ないんだよ。
 ・・・で、シドさんは、大丈夫かい?」

 「シシ。問題ないなぁ。
 マスターの方はちょっと毒気にやられてるっぽいから、もう少シ時間稼いでくれるかい?」

 「じゃあ、ウチもヴェロンの助太刀に行くぞ」

 「私が言うのもなんだけど、ちょっと待って欲しいねぃ。
 ヴェロンには"召喚"マテルがあるから盾役も出来るんであってさ
 ジュリがやったら、こっちに戻って来れなくなるからねぃ」

 「む。盾の事ならウチにも考えがあるぞ」

 「いんや、下の下だね。
 シドさんやリクの盾役がいなくなるって事忘れてないかねぃ?」

 「む。・・・そうだな。ウチもちょっと焦ってるな」

 「私も人の事は言えないけどねぃ」


オレ達は蝙蝠男の奇襲的な攻撃で取り乱した状況から、ようやく冷静に行動出来る様になっていた。
それでも、リディは気絶をした状態であり、金髪の方も善戦しているというよりは
蝙蝠男が攻撃をせずに精神力だけを削っていっているように見えた。
だから膠着しているように見えているだけで、こちら側が不利になる流れに向かっているのを感じていた。

そんな事もあり、オレはジュリの盾以外での炎対策を考えていた。
あの蝙蝠男の炎がマテルであるなら、オレの「解除」で消す事も可能ではないかと。
しかし、ソレを一発本番で実践するにはあまりにも危険すぎる。
今は丁度、試す事が出来る立ち位置になっているが、オレへの攻撃はジュリが盾になるだろうし
この案をジュリに話した所で、100%却下されるだろうから、策を提案する事も適わないだろう。
恐らくだが、ヒミコも良い顔はしないだろうな。

現実的に考えるなら、シドによるリディの回復を待って、マスターによる移動のマテルで逃げられる状況にしないと駄目か。
蝙蝠男がシドによる治療に気づいていないとは思えないが
ジュリやヒミの立ち位置、あと金髪の牽制によって、攻撃のタイミングを逃しているようにも見える。


 「ggg カイフク カクニン ハイジョ タイショウ ショブン 」

やはりというべきか、攻撃のタイミングは訪れた。
蝙蝠男は再びの片言と共に4、5m程度空に浮くと、左手を後ろに下げ右手をリディ・・・いや、シドに向けて合わせているように見える。

 「ジュリちゃん、盾を頼む!」

金髪も声と共に空に飛び上がるが、当然蝙蝠男に届く高さにはならない。
それでも頂点に差し掛かるあたりで、人の頭程度の氷の塊を作り出して投げつける。
ソレは一瞬の余所見をさせる程度の威力でしかなく、蝙蝠男が右手で軽く払うと粉々になって消えた。
ただ、その余所見の間にジュリが巨大な盾を作り出しており、リディが食らった"黒い炎の線"は防げるであろう形になった。
事実、蝙蝠男は盾を見ると左手の構えを止めて、再び炎の竜巻を作り出した。

同じくジュリの盾の方に炎を振りかざすと、また炎は巨大化し盾を飲みこんだ。
だが前回と違い、盾が溶けて無くなる様子はない。
いや、実際は溶けているのだが、溶けている盾を放棄しそのすぐ裏側に新たな盾を作る事で
見た目は盾で防いでいるように見えていた。

ジュリは造形のマテルに関しては苦もせず作り出している所から、この方法で炎を防ぎきれる可能性もあったが
後ろから見ているオレでさえ、ジュリの様子がおかしい事が分かる。
マテルの使い過ぎなのか肩で息をするような状態になり、盾の大きさも次第に小さくなっている。
逆に炎の方が更に巨大化し、今にも4人を飲み込もうとしている。

 「ジュリ!ここはもう持たないよ。二人と共に移動しな」

 「う、うむ・・・」

返事はしているが体が動かない状態のようだ。
その状況を理解したようにヒミコは目を伏せると、シドとリディを炎の影響がない場所へ移動のマテルを使ったかのように吹き飛ばした。
オレもジュリの所へ行って解除のマテルを試すチャンスだったのだが、炎の威力に足が竦んでしまい
結果、間に合わずにジュリが盾と共に炎に飲み込まれた。


諦めて目を伏せた足元には、不自然な影が一つ。

 「ジ、ジュリ!」

 「う・・・申し訳ないぞ。ウチは・・・」

その影から仰向け状態のジュリが登場した。
ただ、オレの方を向くのを躊躇うように首を動かしていた。

この移動も当然に金髪のマテルだが、今回はジュリに触れてオレの元に影を飛ばすのが精一杯だったようで
消えかけている炎から片膝をついて一部が黒焦げになっているように見える金髪の後ろ姿が現れた。
そして、炎が消えたのと同時に倒れ込む。

オレがしっかり動けていたら、こうならなかった可能性だってあったのに、肝心な時にこの結果だ。
エスケのサーティスの時やタブのヴィルの時と違い、自身に危機が訪れないとオレは動けないのか。
このご都合主義な世界から抜け出す為に動こうと決めた筈なのに
結局頭の中だけで、体は一切オレの意志を尊重しようとはしてくれない。

オレは臆病だし、対人の肉体戦なんて好んでやりたいなどととても思わない。
だが、この世界にはマテルという魔法のような力がある。
足掻こうとせず逃げるだけでは、この世界のご都合に飲まれるだけだ。

それは頭の中は勿論、体でさえヴィルの件で実感した筈だった。
でも、それは本当に"だった"だけだったらしい。

また、なのか。
まだ、なのか・・・



蝙蝠男はそんなひ弱なオレを無視し、突き飛ばされた勢いで一瞬気を失った状態に見えるシドの方に向かうと"構え"を開始した。
リディは辛うじてシドに護られる形で腕に収まっていて、ヒミコは何故かシドよりも更に奥に吹き飛んでおり
着地姿勢が取れていなかったのか、右肩を抑えてゆっくりと立ち上がるのが精一杯だった。

最早"黒い炎の線"の攻撃を防ぐ術はないように見えた。
非情な考えをすれば、リディを盾にすればシドは助かるかもしれない。
だが、それは流石のオレでもやれない。
やれるとすれば、その攻撃を代わりに受ける事ぐらいだ。

オレは今度は何も考えず、「移動のマテル」をシドの方に向かって使った。
丁度の位置には"やはり"着く事はなく、一歩目を踏み込んだだけでシドを軽く通り越してしまっていた。
その動きで、一瞬蝙蝠男の動きを止める事には成功したようで、まだ攻撃は始まっていない。
今度はマテル抜きでシドの方に駆け走る。
あの攻撃を解除できる余裕はないだろうが、何もやらずにこんな所で終わるぐらいなら少しでもやった証を残しておきたい。
ソレはただの自己満足だが、ジュリを助けようとしなかった罪悪感だけで動いていた。

しかし、無情にも辿りつく前に"黒い炎の線"がシドを貫くように伸びているのが映った。

また目を伏せてしまったオレは、違和感ある音で再び顔を上げた。
金属同士が当たるような甲高い音。
まるでロールプレイングゲームでよく聞く、防御に成功した感じの"違音"である。



 「ここはトライデント領地。
 そしてコ奴らは俺の仲間だ。ドラゴンナイトに処分される了見はない」

シドの前には、先程まで居なかった巨躯な男・・・いや、赤い巨人というべき大きさの男が立っていた。
その赤い巨人は金棒のような黄色い鉄物を振り回して"線"を断ち切っていた。


 「シシ。ちょっと遅いんじゃねぇのか?」

どうやら、シドは知り合いのようだ。
ただ、赤い巨人の方は軽く礼だけをすると、金棒を蝙蝠男の方へ向けた。

 「ggg トライデント キョウトウ フカシン キョウテイ 」

ゆっくりと蝙蝠男は飛び立つと、こちらを振り返る事無く何も無かったかの様に消え去った。

トライデントやらドラゴンナイトやらまた聞き慣れない単語が出てきたが
この赤い巨人のおかげで、オレ達は助かった。

 「ま〜た、一段と大きくなったみたいだねぃ」

 「・・・ヒミ」

 「まぁ〜、コバなら来てくれると思ってたけどねぃ」

ヒミコも知り合いのようだな。
赤い巨人と着物が並び立つその光景は、巨人と小人みたいな感じになっているが妙にしっくりくる絵だ。


 「彼はヒミコ達の知り合いって事でいいのか?」

 「・・・うん、彼はコバ。
 私が、ここに住んでいた頃の、仲間だよ」

仲間という割には、何かぎこちない言い方をしているように聞こえるのは気のせいか。

 「シシ。再会もいいんだがな、じシょうヒーローが"じゅうシょう"な感じだからよ
 まずはそっちの治療を終えてからだな」


シドが親指で場所を示すと金髪の元には既にジュリが駆け寄っていた。
続いてオレに手招きするように合図を送ってきたので、シドの元に移動すると気絶しているリディを手渡された。
ほぼ同時に煙管を咥えたヒミコも駆け寄ってきており、シドを抱えると移動のマテルを使ったみたいな速さで金髪の方へ移動した。

オレは手渡された"マスター"を逆らわずに背負うと、ゆっくりと歩いて金髪の所に合流した。
いつの間にか傍にいた赤い巨人も、オレに合わせるようにのったりと歩いていた。
改めて見てみると成人二人分ぐらいの高さがある大男で、一部金色が混ざった赤色の短髪というのも圧迫感を覚える。
特に金棒のような鉄物の武器は黄色と鉄色が混ざりあっている色の為、遠くからでも非常に目立つ。
まるで危険標識を持ち歩いている感じである。




 「シシ。小僧すまんな。
 マスターの方はあと少シで目を覚ますだろうからよ、大事に連れて行ってやってくれよな。お?」

シドは後ろ向きのまま金髪の応急処置をしている。
赤い巨人はヒミコの方へ進んでおり、金髪の状態を見ている風なジュリが一瞬反応を示したが、直ぐに金髪の方へ向き直る。

 「ある程度の治療が終わったら、一度アジトに向かった方が良いだろうね。
 ここにはモンスターだって普通に居るからねぃ」

 「あぁ。アジトはこの先にある。
 ・・・そして、俺達は新種に抵抗はない。安心しろ」

 「ソレは都合がいいな。
 というより、ヒミコが元々連れて行く予定だった場所が彼のアジトって事か?」

 「上の上だねぃ。
 モンスターハンター集団の一つ。【トライデント】に行けばMKの件などは問題なくなるからね」

 「って、ヒミコはどこに行く?」

 「う〜ん?私は他に行く所が、あるんだよね」

 「・・・ヒミ」

 「みんなには、まぁまぁ、元気でやってるって伝えておいて欲しいな。
 それじゃね」

赤い巨人に言付けすると、来た道を戻るように見た目は軽やかにヒミコは去っていった。


 「シシ。追わなくていいのかぁ?コバ」

 「・・・それが、ヒミの意志なら」

 「シシ。・・・そうか。
 はなシがややこシくなる前に、アジトに移動シた方がいいだろうな」

 「む。ウチ達が行く事で、本当に迷惑にならないのか?」

 「大丈夫だ。問題ない」


オレにはヒミコやシドの知り合いという事だけで、赤い巨人が親切にしているように見えていて
このままご都合良く、素直について行って良いモノなのか分からなくなっていた。
ヒミコの事も、完全に信用出来ているわけじゃないからな・・・。

この世界で信用できるモノは、オレにはないが
この世界を一人で行動できる程、オレは自由でもない。

このジレンマがあり続ける限り、何一つオレの状況は変わらない。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




赤い巨人がヴェロンとシドを両肩に抱える様に持ち、リディはジュリが背負う形に変わった。
オレがというより、ジュリが気遣ってリディを背負った様にも感じた。
あとは、モンスター対策の為に赤い巨人からオレらにもデントグラスを渡された。
残るはMKやエリア警察関連だが、このトライデントというハンター集団と手を組んでいなければ
こんな何もない林の一本道に待機してるって事もないだろう。

そんな前振りの杞憂をあざ笑うかのように、本当に何も起きる事もなく小さな集落が見えてきた。
またしても"三又の槍"のデザインの旗がいくつか見える。だから【トライデント】なのだろうな。
デント地方というのもこのトライデントが深く関わっているのだろうか。



赤い巨人がアジトに戻るなり、髪の毛を複数に結んで短髪風になっている女性が駆け寄ってくる。
薔薇模様の法被を着ているが、着崩している為に中にあるサラシが見える様になっていて微妙に目のやりどころに困る。

 「コバ、おかえり!
 って、ずいぶんと連れてきたねー。
 おや?怪我人いっぱいだねー。あれ?それシィード先生じゃん。
 こっちに帰ってきてたのかー
 おやおや。よ〜く見ると、皆さん新種さん御一行なのですね。
 よ〜こそ〜トライデントアジトへー
 やや。マスターもセットですか。これは〜コバ。厄介な集団連れてきたねー
 あ、でも歓迎するよ。嫌だったら出て行ってもいいけど、モンスターに襲われるからね」

マシンガントークとはこの事なのだろう。
間髪入れずに次々と話を変えて続けている。
赤い巨人は流石に慣れているのか、会話に合わせて頷く程度で対応している。
一つ分かる事は、この女性にはあまり話を振らない方が良いという事だ。

 「シシ。相変わらず元気一杯だな。ローズ。
 何処か病人を休ませる場所はあるかぁ?」

 「あ、そっちの金髪とマスターの事だね。
 じゃー、そっちの空宿使ったらいいよ。薬とかもどっかにあったから後で持ってくる。
 んでさ、いつまで単身赴任生活してんの?フラフラ自由にやる方が性に合うって事?
 カコさんいい加減泣いちゃうと思うよ。というかまだお店やってるの?
 あ、コバ。お客さんはそっちの宿舎に案内してねー。あとでお茶持って行くからゆっくりしていってよー。
 あ、そうそう。もうすぐで仮リーダー戻ってくるってさ。
 まーキリン動くから危ないもんね。色々武器開発してるぽいから今回は行けるかもよ。
 いや、いかないといかん!」

・・・多分、1回の会話で10個ぐらいの情報を一気に言わないと気が済まないのだろう。
そこから解放されるように赤い巨人ことコバに案内されオレとジュリは宿舎と呼ばれている建物の方へ進む。

 「あの法被の元気のいい子は、いつもああいう感じなのか?」

返答はないがコバは軽く頷いた。

 「ソレは、中々大変そうだな」

苦笑いするオレを見てコバは無表情のまま微妙に首を振った。
否定はしているが、全く外れてもいないって所か。

 「うむ。ここは賑やかな所だな」

法被の子だけでなく、このトライデントアジトは何かと騒がしく人が動いている。
多くの原因がこのアジトで一番大きい建物の酒場だろう。
そこでは喧騒の声が絶え間なく聞こえており、場外に飛び出したお客、つまり外に居る者達も
延長戦の様に騒がしく絡んでいる。
関わり合わない方が良いのは法被の子と同様だろうな。

 「ここに居る者は全てトライデントの仲間なのか?」

その中に居て、逆にほとんど喋らないこのコバの存在もまた異様に目立つ。
オレの質問には頷くだけだが、身長や髪の色などの存在感が、喋る必要性を求めずに済んでいるのかもしれないな。

 「じゃ、ヒミコも元々トライデントのn」

 「ここでヒミの話は、止めろ」

ここだけは、間髪入れずにコバが話を遮った。
ヒミコは、ここに戻ってくる事自体拒否している感じだったが、トライデントと何かあったって事だろうな。
そこら辺の事情は聞くなという意味が、今の返答なのだろう。
おそらく、シドもここら辺の事情を知っていると思えるが、確認するのは状況が落ち着いてからだな。


喧騒を越えてようやく宿舎の建物に入ると
対客用なのか他の建物と比べても随分と小奇麗な空間になっていた。
個室も用意されていて"6人分の部屋"が最初から予約されているようだった。

 「これは随分と手回しが良いな」

 「連絡を受けていたからな」

それ以上は聞かなかったが、どうもコバはヒミコから予め連絡を受けていたようだな。
だとするとヒミコを入れて6人の筈だが、連絡を受けたコバが"気を利かせて"6人分にしたって感じか。


シドからの伝言によると金髪の怪我の程度はそれほど重くなく
2、3日もすれば問題なく動けるようになるとの見解だった。
リディの方は目が覚めた時点で、こちらに来るように手配しているとの事だ。

そんな中、オレはとあるレコカの情報の意図を考えていた。
情報の送り主はヒミコである。
オレのレコカは、返事を出すには通信屋を通す必要がある為、行動で返答するしかない状況だった。

部屋に着いた時に、レコカに反応がある事に気がついた。
内容は「ウェストデントで合流し、オレにソコで見せたいモノがある」というモノだった。
ウエストとはデントを5つのブロックに分けたうちの一つであり、アジトのあるこの場所は「イーストデント」に分類されるそうだ。
イーストにあるトライデントのアジトに誘導したのもヒミコなら、ウェストに移動して欲しいと言ってきているのもヒミコだ。
ウエストには何か裏があると考えるのは当然だ。

そもそも、デントの地理について何一つわからないオレが、一人で行動することなど不可能だ。
色んなモノから狙われている事は分かりきっている事実だしな。
早急に返信してヒミコの意図を知りたいのだが、このアジトには通信屋が存在していないらしい。
その為、行動で返信という結論に至ったというわけだ。

早急とは言うが、合流しようと伝えてきている割には、日時の指定などがないのもおかしい。
詳しい場所に関してはレコカでオレの現在地を把握しているだろうから、ウエストに着いた時点で指示があるのだと思うが
そもそもヒミコは、オレがアジトに着いた後で自由に行動出来ると想定しているという事なのだろうか。

現実にはこのアジトから移動は不可能な状態だから、ヒミコの件は記憶の片隅に置いておこう。




どうも、軽く眠っていたようだ。
ドアをノックする音が遠くから聞こえてきて、意識を取り戻すのにやや時間を要した。
サッとベットから起き上がると軽く腰を掛ける。

鍵をして居ない事を告げると、見た事のない女性が部屋に入ってきた。
長い黒髪で後頭部の一部を8の字のように結んでおり、羽衣のような服装からヒミコと同様の異文化的な雰囲気を感じる。
何故か手にはネギのような白と緑色の杖のようなモノを持っていた。
その不思議な恰好からしてトライデント関係者だとは思うが、それでもオレは警戒し軽く戦闘態勢をとった。

 「あぁ。ごめんなさいね。怪しい者じゃないと言っても信用して貰えないかしらね。
 わたしはライコという者です。こう見えても一応マスターなんですよ」

オレには他の人と違い、マスターの見分け方が分からない。
その事自体を理解しているような説明に一瞬戸惑ったが、マスターというモノ達はそういう部分も理解できる設定なのだろうと自己完結した。

 「・・・オレはリクだ。マスターのライコさんがここに来たのは何か理由でもあるのか?」

 「えぇ。リク様のマスター様はまだ目を覚ましていないとの事でしたので
 お先にギフトであるリク様にご挨拶をと」

ギフトだと分かっている理由も、同様か。

 「それはご丁寧にどうも」

 「リク様は・・・あの、ヒミちゃんと一緒にこのデントに来られたのですよね?」

 「・・・あぁ。そうだが、ヒミコの話をしてもいいのか?」

 「と言いますと?」

 「いや、ライコさんの仲間だと思われるコバっていうモノに、口止めっぽい事を言われてたんでね」

 「あら。コバ君がそんな事を?
 と言いますか、リク様はわたしには敬称でコバ君は呼び捨てなのですね」

 「呼びやすいというだけで、意味はあまり」

 「では、わたしの事もライコと呼び捨てでお願いしますね。
 特別扱いされているようでスッキリとしないのです」

 「あ、あぁ。分かったよライコ」

 「では、ヒミちゃんのお話の続きをどうぞ」

いや、まだしてもいないのだが・・・。
マスターというモノ達は例外なく何か独特の空気感を持っているようだ。

という事でヒミコと出会って、ここで別れるまでの経緯を軽くライコに話してしまっていた。
口調や空気感がそうさせたのだろうが、ライコにも不思議と安心させる何かがあるように思う。




 「そう、でしたか。
 ヒミちゃんはまだあの事を気にしているのですね」

 「あの事とは?」

 「あら。ごめんなさい。余計な話までしてしまいましたね。
 今のは、わたしの寝言だと思って聞き流してください」

寝言って・・・。
何れにしてもオレ達のような部外者には話せない事情があるって事だろう。
若干気になるが、そこまで深くかかわるつもりもないし、コレでいい。

少し時間が止まったように静かになったが、ドアのノック音が響くのと同時にドアが開いた事で
再び動き出した。

 『リッ君起きてる〜・・・って、あれ?誰?』

やはり、ノックの意味がない行動をするのはリディぐらいだろうな。
リディはライコを見て一瞬固まっている。

 「リク様のマスター様ですね。はじめまして。わたしはライコと申します」

 『じゃあ、あなたもマスターなんですね。
 私はリディ。マスター同士で初めましてってなんか新鮮だね』

 「そうですね。でもわたしはギフト選抜には関わっていませんので敵対関係にはなりませんよ」

 『警察さんが居ないんだ?』

 「居ないわけでは、ないんですけどね。
 わたしはフリーのマスターという扱いみたいです」

 『へ〜そういうマスターもいるんだ。
 ところで、その手に持ってる武器ってブレイカーなの?』

 「あぁ。これですか。
 これはブレイカーのようなステッキです」

 『そうなんだ。
 それは"素敵なステッキ"ですね!』

・・・。
忘れてたが、オレのマスターはこういう女だったな。
何か言い切った的な顔をしているようだが、スルーした方が良いだろう。

 「そうですか。ありがとうございます。
 でもわたしは戦う事が苦手で、こちらはもうしばらくブレイカーとしての機能を果たしていませんよ」

リディがオレに反応を求めているように顔を向けている気がするが見ない事にしよう。
ライコというマスターも"中々な人物"のようだ。


 『あ、うぇ、えーっと。
 そうそう。シィードさんがね、ヴェロン君の治療も落ち着いたみたいだから一度みんなそっちに集まろうって。
 隊長は先に向かってるよ』

 「あぁ。わかった」

苦笑いしながらゆっくりとベットから立ち上がると、出口から遠い順に部屋から出る形となった。




少し移動した所にある「空宿」と呼ばれる建物内の一室にて金髪の治療が行われ
治療が終わった今は簡易ベットで安静にしている。
その部屋にはシドやジュリの他に、赤い巨人ことコバと法被の女ことローズもいた。

 「お、ライコも来たねー。
 これで全員集合かな?忘れ物ないかな?
 トライデント役員の号令を取った方がいいかなー?
 じゃあ、行くよ、1っ!・・・
 って、次コバの番だから。やってくれないと、あたい一人でバカみたいじゃん。
 え?元からだって?そりゃないわーないっすわー」

建物に入って早々、ローズの先制口撃が始まった。
ただそこは、コバがローズの肩を軽く叩いて落ち着かせようとしているようだ。

 「シシ。はなシが長くなりそうだが、お互い自己シょう介でもやったらどうだ?お?」

シドの号令により、"一人"を除いて最低限な挨拶を済ませると
今後のデントの状況についての話になった。
なお、金髪も目が覚めていたようで、起き上がりは出来ないものの、腕を動かす自己紹介をしていた。
いつも思うのだが、あれは何をやっているのか理解できない。


 「じゃあ、今後の話はあたいがするね」

 「ローズ。ライコに任せろ」

 「えー。あたいの出番これだけ?
 喋る事なくなったら、もうする事ないじゃない?
 あ、わかった。じゃあかき氷作ってくるよ!あたいのかき氷美味しいよ。
 みんなもちろん食べるよね?じゃあ早速作りに行ってくる!
 "パティシエ"ローズの腕の見せ所だね!期待して待っててー」

コバが止める前に、喋りながらヴェロンの病室から出て行った。
・・・というか美味しいかどうかは別にして、随分と肌寒くなって来ている季節のような気がするが
彼女には関係ないって事なんだろうな。夏真っ盛りな服装だし。

 「すまない。寒いとは思うが出てきたら食べてくれ」

巨体が小さく見える程、申し訳なさそうに呟いた。

 「まぁ、ローズちゃんのカキ氷はいつ食べても美味しいから良いではないですか。
 わたし的には青色のシロップが好きなんですけど、ローズちゃんに言うと怒られるんですよね。
 青色は邪道なんです。って」

 「ライコ。話が脱線している」

 「あら。ごめんなさい。
 それでは、今後のデントについての話の続きを再開しますね」

先程会ったばかりだが、トライデントの面子の扱いは既に理解出来てしまっていた。
ジュリは怪訝な顔をしているが、説明のしようがないからこのまま進めよう。

 「では。
 これからおそらく2週間後ぐらいに、デント全土においてキリン狩りが開始されます。
 【キリン】というのは、このデントに棲むモンスターの産みの親の通称なのです。
 キリンは常に冬眠をしているモンスターで、数年に一度だけモンスターを産む為に活動を行います。
 キリン狩りとは、その活動期に仕留めてしまいましょうという、デント最大規模の狩りなのです。
 
 ですが、狩るのは簡単にはいきません。
 大きく二つの障害があります。
 一つは、キリンを護る「ネオ・エネジス」の存在です。
 【リリウム】と呼ばれているエネジスで、キリンの活動拠点を四方から護っています。
 具体的には、4体のモンスターがキリンを護っているのです。
 もう一つは、【ドラゴンナイト】の存在です。
 コバ君から聞きましたが、リク様方がアジトに来る際に対面した蝙蝠型の人物がその一人です。
 ドラゴンナイトはリリウムとキリンを護る組織の一員なのです。
 わたし達はモンスターの脅威から逃れる為、キリン狩りを行っておりますが、ドラゴンナイトはそれを良しとしてないようです。
 理由は分かりませんが、デントにモンスターが居る事に意味があると考えているようですね。
 
 次は、キリン狩りの詳細についてお話ししますね。
 キリンを狩る前に、まずはリリウムのモンスター4体を狩る必要があります。
 これには色々説があるのですが、どうやら4体をほぼ同時に倒さないとリリウムの力で復活してしまうようなのです。
 そして、その4体はキリン本体を護る様に距離を取って待機しているらしいのです。
 つまり4カ所から同時攻撃で、リリウムのモンスターを倒し、その後キリン本体を倒すという事です」

リディと比べると、ライコの説明は非常に分かりやすい。
そして、モンスター狩りと簡単に言っているが、あの恐竜のようなモンスターの事だよな。
しかも、4体を同時とか。
更に、メインのキリンはそのモンスターの生みの親らしい。
オレ達のようなエリアスターと違うこの世界の住人であれば、モンスターと戦う術を持っているのだろうが
それでもあの巨体を倒せる想像がつかない。

そして蝙蝠男は【ドラゴンナイト】と呼ばれる組織の一人か。
キリン狩りの件以外にもオレ達エリアスターを狙っている節もあるから確かに厄介だな。


 「む。すまないが、ウチにはモンスターを倒すという想像が出来ないのだが」

 「ジュリレスター様は、モンスターと遭遇した事はあるのですか?」

 「うむ。ウチ達が新種だからかもしれないが、手も足も出なかったぞ」

 「弱点やマテルの使い方を理解していれば、主達でも倒すことは可能だ」

 「そうなのか!それはウチ達に教えて貰えるのか?」

 「ああ。主達も当てにしている」

コバの言葉にジュリは拳を握り直し、金髪も見えはしないが喜んでいるように見える。
だが、オレは

 「4体という事は、トライデントの一員とオレらが4カ所に分かれてリリウムとキリンを狩るという事か?」

 「リク様。それは違います。
 わたし達は一体のリリウムを担当します。残り三カ所は別のハンターグループが担当します。
 これは私達トライデントだけじゃなく、デントに拠点を置くハンターによる超巨大狩り作戦なのです」

 「オレ達を除くトライデントの人員はどれだけいるんだ?」

 「・・・今回は10人前後になる予定だ」

 「それだけ居ないと、モンスターというかリリウムとキリンを倒すのは不可能という事か」

 「いや、確実性の話だ」

 「不確定要素があるという事か」

 「そういう事だ。ライコの話も100%というわけではない」

 「む?どういう事だ」

 「今までのキリン狩りからの推測だ。キリンの護りも4体と決まっているわけではない」

 「想定外で・・・護りが増えてもいいように、多く配置・・・ってわけだね」

金髪がようやく体を起こし会話に混じってきた。
シドは傍観、リディは話をするタイミングを逃しているという感じだな。


 「よし!だいたいの話はまとまったねー。
 じゃー、ローズお手製のかき氷タイムの時間だ!
 シロップは勝利と情熱の赤!
 燃えたぎる気持ちの赤と、冷静な判断を持てるこの氷の冷たさが、キリン狩りの成功へ導く!
 おかわりは自由だから、じゃんじゃん食べちゃってねー。
 遠慮はいらないよ。替え玉タダだよー。
 でも勢いよく食べると、頭が悲鳴あげるから焦らず食べてね。あたいのカキ氷は逃げも隠れもしないよ!
 じゃあ、食べたら早速マテル講座といきますか?いっちゃいますか?」

どこから持ってきたのか分からないが、簡易テーブルを部屋に持ち込み
ソコに次々と赤いシロップのかかったかき氷が並んでいく。
そして並べ終わったと同時に、ローズは勢いよくお手製のカキ氷を食べ始める。

勢い通り数秒もせず、こめかみを親指で押さえ苦悶の表情を浮かべた。

 「ん゛ー。
 いったいけど、この痛さが、またいいっ!
 でも、素人は真似したらダメだよ。みんなはゆっくり食べていいからね。
 痛みはあたいが全て受け入れる!苦しい思いを今のうちにする事で本番は楽勝って寸法なのよね。
 ほらほらほら。黙って見てないで、ゆっくりでいいからサクッといっちゃって。
 逃げはしないけど、あんまり時間経っちゃうと、溶けてただの冷たいだけの水になっちゃうからね。
 これはゲン担ぎも兼ねてるんだから、しっかり味わって食べてねー」

ローズに催促されるように、金髪以外のモノが季節外れと思われるかき氷をゆっくりと食していく。
痛みはないが、寒さだけが体に染みてくる。
ただ確かに、夏の暑さを吹き飛ばすにはもってこいな甘さではあった。




寒さも若干和らいだ頃、マテル講座が始まった。

オレはキリン狩りに参加するつもりはないが、マテルの使い方を学ぶ良い機会な為ジュリと共に参加していた。
金髪はマテルが使えない状態らしいが、話を聞くために参加している。移動程度なら体を動かせる所まで回復しているらしい。
元々の特性なのかもしれないが、驚異の回復力がある様に感じる。
リディとライコのマスターコンビも聞く必要が無いと思われるが、暇なのか後ろの方に居て参加していた。

そんなわけで、講座の先生はコバとローズの凸凹コンビである。

 「じゃあ、簡単に役割分担するよ。
 あたいが学科担当でコバが実地担当ね。
 というわけで早速、あたいの学科の方からスタートだ!
 テキストはないからすべて頭に詰め込んでね。超詰め込み教育の時間だ!
 居眠りした子には燃えあがる氷の鉄槌を食らわせるからねー。
 あ、そうそう。君達はみんな新・・・エリアスターだから、ちょいと裏技講座が必要って感じだね。
 裏技って言っても、想像してるような如何わしいものじゃないよ。残念だったねー。
 エリアスターでも、やり方によってはオッと驚くマテルの使い方も出来るという裏技ね」

コバが喋りをするとは思えないから、こうなるのは当然なのだろうけど
7割ぐらいは聞き流しても問題なさそうな学科になりそうだな。
ジュリは全てを真面目に聞いていそうだが、それが余計な知識にならない事を願うしかないな。
実地担当らしいコバはオレ達と同じく"生徒側"に座り、"ローズ先生"の話を聞かされる状態になっている。

 「じゃあ、まずは三大属性についておさらいしておこうかね?
 まず、三大属性って何って話だけどね、簡単に言うとあたい達ノーマルのマテルがあって
 エリアスターのマテルがあって、自然界のマテルがあるって感じかな?
 
 ノーマルのマテルは【熱】とか分類する人もいるね。燃え上がる熱。人間に存在しているマテルって感じらしいね。
 エリアスターのマテルは【空間】って分類されるらしいね。異空間的な感じっていうか異次元っていうか。
 まーともかく、あたい達にはない特殊なマテルが多いって事で、一般的には新種って差別的な扱いしてるけどさ
 そんなのあたいに言わせれば、未知の力に怖がってるだけって事よね。
 知らない事っていうのはさ、不安だし怖い感じじゃない?え?そうでもない?
 で、最後の自然界のマテルはそのまま【自然】だねー。天候操ったりさー、ようは人間の力以外のマテル要素って事ね。
 ・・・う〜ん?
 なんかピンときてない顔の子がいるけど、どこら辺が分からない感じだい?
 はい、そこの・・・リッ、リックだっけ?」

 「・・・あぁ。リクだ。好きに呼んでも良いけどな。
 人間の力以外っていうのがいまいちピンとこないな。
 オレにとって、マテルって力自体が人間の力とは思えないからな」

 「う〜む・・・。
 リクってもしかしてもしかするとー・・・異世界から来たよー系の人かな?
 いやいや、あたい達一度だけそんな子に遭った事あってね。
 それでね、ちょっとばかり面倒な目に遭ったりもしたりしてるのよね。
 あ、コバ、ごめん。余計なことまで言うなって事でしょ?
 でもね、これ結構大事だから」

 「・・・想像通りで良いよ」

 「おっとー。
 と、なるとアレだ。更なる特別講習を開かないとダメって感じかな?」

 「む。今の話はどういう意味だ?」

いずれジュリにもバレる事だし、何よりもこのトライデントもヒミコ同様に、オレのような記憶を持ったモノに会ったことがあるようだ。
この際だから全て話しておく方が良いのだろうけど、どうもそういう流れじゃなくなってきている気もするな。


 「ローズちゃん。ここはわたしが確認しますね。
 リク様・・・と、マスターのリディ様。今のお話は事実ですか?」

 「オレの話を信用するのか?」

 「わたし達に嘘を言う利点が感じられませんので、信用します」

 「正確にはオレだけじゃなく、ライコ達が新種と呼んでいる者全てがそうだ。
 オレだけがどうして記憶を持っているのかは謎だが、他のエリアスターは元の記憶を封じられていると考えられる」

 「おっ・・・、ライコごめん。というか、リックごめん。
 その話を信用する理由はあたい達にはあるけどさ、その謎は本当に謎のままなのかな?」

 「・・・そうなるな」

記憶の関係は、以前シドにも話した「混色のエネジス」こと【アンチエネジス】がその理由だとは思う。
どの経緯で手に入れたのか覚えていないが、エリアスターと呼ばれるオレ達はアンチエネジスを一個持っている。
だが、気がついた時にはオレにはソレが2つあった。その事が元の世界の記憶を失っていない理由だと推測できる。
しかし、アンチエネジスを複数持っているという事は、エリアスターの一人から奪い取ったと勘違いされる可能性が大きい。
そういう勘違いでややこしい事になるのは困るので、その話をするわけにはいかなかった。


 「"奪った"というわけではないのですね?」

この言い回し。
ライコも、いやトライデントの者も、過去の記憶を持ったエリアスターの存在を知っているようだ。
シドが知っていたように、彼女らも複数のアンチエネジスの事を分かっていてオレにカマをかけているという事か?

 「あぁ。信用するかはライコ達次第だけどな」

 「む。さっきからリク達は何の話をしているんだ!」

 「僕も話の本筋が見えてこないけど・・・これはキリン狩りにも影響する事なのかな?」

金髪はある程度推測して聞いている気もするが、すでに話を逸らせる状況じゃなくなってきたな。

 『えっと・・・これは私の説明がいるかな?』

 「いえ。結構です。わかりました。
 わたし達トライデントは、種族分け隔てなく共にこの世界に生きる者として接しているつもりですが
 それだけに仲間意識も強いのです。
 リク様やマスターのリディ様がヒミちゃんの大切な仲間である以上、わたし達も歓迎いたします。
 ですが、新種の中でも特殊なリク様の存在が他のハンターグループには良い顔はされない事も確かです。
 出来る範囲で協力はしたいと考えておりますが、キリン狩りについては距離を置いて頂く事になります。
 申し訳ありませんが、それでもよろしいですか?」

 「オレだけの話ならそれは全く問題ない。
 エリアスターのオレ達を歓迎している所からもトライデントの貴方達が悪い様にするとも感じないからな。
 それに、戦闘系は苦手なんで元からキリン狩りには参加できなかったと思うしな」

 「本当に申し訳ありません。
 コバ君がトライデントの紋章が入った腕輪を持っていますので、それを身に着けていれば
 少なくともドラゴンナイトには狙われずに済むはずです」

 「いや、こちらこそかえって申し訳ない。
 このアジトから離れて行動した方が都合良いって事だろ?」

 「う〜ん。ライコ。
 こちらも人数は割けないし、かといってさ、リックを一人で行動させるのもアレだしねー。
 判断は仮リーダーが帰って来てからでもいいと思うんだよ。
 なんていうか、仲間内でも知らなかった話みたいな、そんな感じの空気だしね。
 ちょっと、みんな頭冷やし過ぎちゃったかな?」

 「俺達は少し席を外す。隣の部屋にいる」

紋章の腕輪を4つオレに手渡すと、ローズをやや強引に追い出すように一緒に部屋を出て行った。
ライコは表情こそ変わらないが、軽くリディに礼をして後に続いた。




 「リクは妙な話をしていたな」

 「・・・話をしても信用してもらえると思えなかったからな。
 でも、先程の記憶の話は事実だ」

 「ウチ達の記憶が封じられているって、意味が分からないぞ」

 『あ、そこは私から説明するね』



リディに説明をさせるのは心もたなかったが、ジュリに納得してもらうには一番手っ取り早い手順だった。
金髪も、半分は疑っている表情ではあるものの、以前オレが話をしている分だけ一応納得してはいるように見えた。

 「異世界なんて、現実離れしていてウチには理解できないぞ。
 確かに、新種のウチ達がマテルを使えない理由はこの世界の者じゃないからで通じるかもしれないが
 色々不都合な事が起こるはずじゃないのか!」

 「そういう部分を、強引に記憶の書き換え等で都合良くしたという事らしい。
 オレだけ記憶が残っているのだって、適当に処理した結果かもしれないしな」

 「むぅ・・・」

やはりジュリは納得する様子がない。
この話を続けていても永遠に終わる事はないだろう。

 「その件もそうだけど、僕が気になったのは、記憶の件でライコさんが言っていた"奪った"って事なんだけど
 さっきのリーちゃんの説明ではそれっぽい話が無かったんだけど、これは別の話かい?」

このツッコミは当然あるよな。
適当に嘘をついてもいつかバレるだろうし、これは"事実"を言うべきだろう。

 「・・・エリアスターは、例外なく混色のエネジスを1つ持っている。当然、オレもな。
 で、このエネジスはエリアスター以外が触ると気分を悪くするモノらしいが、相当な高値で売れるモノでもあるらしい。
 その事実を知っているモノがエネジスを奪う事もあるらしいと、シドに教えられた。
 あとはリディの説明通りに、このエネジスには「この世界の記憶」が入っていて、複数持つ事で記憶が混在する説があるようだな。
 ようはオレが異世界の記憶って言っているのは、その混在した記憶って話じゃないのかって事だな。
 というわけで、オレが他のエリアスターからエネジスを奪ったんじゃないかという疑いを、ライコにかけられたって事だな」

 「そういう事か!
 仮に奪ったという話が事実だとすれば、合理的な行動に見える君としては凄く手間をかけてる事になるね。
 僕やジュリちゃんのも奪う気なら、今まで幾らでも出来たような気もするからね。
 それとも、複数持っていると記憶以外にも障害が出てくるって事かい?」

 「奪っていないからそれはオレには分からないな」

 「だろうね。
 ただ、1つぐらいなら奪っても大丈夫って事を、記憶って部分で実証しているように聞こえるのは気のせいかな?」

 「別にそう思われてもオレは証明しようがないな」

 「なら・・・いや、やめておくよ」

金髪は、ある程度察した感じの顔をしているように見えた。
オレが複数のアンチエネジスを持っていたと想定出来ていても、ソレが奪ったエネジスである事を証明する事は出来ない。
その事に気づいたので質問をやめたのだろう。
だけども、金髪はオレが複数のエネジスを持っている事を確信しただろうな。
ジュリが居る事でややこしくならないように気を使ったのだろうが
今後の動向には気をつけないといけないかもしれない。

そのジュリは全く納得している表情ではなく、オレに対しての質問をどうしたら良いのかという事でも悩んでいるように見えた。
ソレをリディが適当に言くるめているのは、正直驚きだ。
いや、あのマスターは適当に見せかけてる"てい"の演技をしているぐらいやらかしかねない。

そう考えてしまう程に、オレにとってのリディは
信用する事が完全に出来ない誘拐犯な存在って事だ。






前の話 目次 次の話