30
デント


デントはこの世界有数の巨大領土を持つ地域である。

大きく5つの区域(ブロック)に分かれており
方角からそれぞれ「ノースデント」「ウエストデント」「サウスデント」「イーストデント」と呼ばれ
その4つの中心にあるブロックを「リレーデント」と呼んでいた。

各ブロック共に、小さな地域なら2、3つ入る程の領土であり、ブロックの中でも更に細かく幾つかの地方に分類をしている程である。

リク達が滞在していたタブから進むと、一番最初にたどり着くのは「サウス」ブロックになる。
タブからある程度整備された森の山道を進み山頂部分まで来ると、そこには10から20mはある巨大なコンクリート製の外壁が現れる。
それが「サウスデント」の入り口である。
この外壁はサウスデントの町を護るように周辺を囲んでいる作りになっているが、これは周辺の森に居るモンスター対策の為である。

つまり、タブから「サウス」に進むには、ナビ職の車等がなければ辿り着くのは至難であった。
ヒミ達が乗っているナビ職はこのルートであり、最短でデントに到着する行程でもあった。

一方、モンスター対策が出来ない者などの入り口も用意されており、地下を進んでいるリク達のルートがそうである。
入り口となる町の周辺が森で囲まれているのは「サウス」ブロックと同じだが
外壁がないのと、大きなクレーターのような窪みが存在しており、その底部分を整地した場所に町並みが存在していた。
防ぐ物がない為に、モンスターなどが侵入しやすそうな条件に思えるが、
窪みの深さが30から50mと大きく、外周も崖状態になっている事とモンスター避けのエネジスと言われる【シールド】も埋まっている為に
外壁を設けなくとも人が安全に住むことが出来る仕組みとなっていた。

このブロックは「リレー」と呼ばれており、入り口自体は崖さえ下りる事が出来れば360度(外周)どこからでも入れるのだが
モンスター対策が出来てない者となると地下から入る形となる。
以前、シドがリクに話していた【360度+90度】の入口の90度の部分がこの地下に当たる。


余談ではあるが
「シールド」と呼ばれるエネジスは、デントグラスこと【レイ・バーグラス】の原料となっているものである。
エネジスのままだと人体に有害な物だが、加工する事でサングラスとして使用できるようになっていた。
加工している点と放射性という性質で、モンスター避けとしては1週間程度の効力しかないという欠点はあるが
身に着けるモンスター避けとしては一番メジャーな商品でもあった。

エリア警察の「コクガンキョウ」の多くの者がかけているのもこのレイ・バーグラスであり
元を辿ればモンスター等から住民を護っていた事に由来しているらしい。
ただ、コクガンキョウのレイ・バーグラスはほとんどは効力がなくなっている物であり
所謂モンスター対策にはならないのだが、伝統のようなもので現在にも引き継がれているらしい。




そういうわけで、先にデントに到着したのはヒミである。
「サウス」入り口にそびえ立つ外壁の一部にある門近くに到着し、レイ・バーグラスをかけてナビ職から降りた。
マテルによって姿が見えていないハンクスという者もおそらく装備して下りたようで
ナビ職の車のドアが自動に開閉した。

門には重装備した二人が槍を構えて待機している。


 「う〜ん。生憎の天候だねぃ」

 「そうっすか?とても雨が降りそうな感じには見えないっすけどね」

 「それはどうでもいいんだけどねぃ
 ハンクス君さ、そのまま姿消したままだと、中に入れて貰えないと思うんだよね」

 「自分で話振っといて、それは無いっすよ。
 それにこういう時こそ、ヒミっさんの匠な話術で門番をあしらうってもんっすよ」

 「全く下の下だねぃ。
 あの"門番ちゃん"は「機械人間」だからね〜。赤外線とかのセンサーで、ここに二人いる事は分かっちゃうんだよねぃ」

 「消えてると不審者扱いって事っすか?」

 「どっちかというとモンスターと同じ扱いだねぃ。
 これ以上先に進むと、排除の為に狙われる可能性もあるね」

数秒の沈黙の後
ヒミの倍はあるかという高さで、ヒミよりも長い黒髪であり、年齢もそれなりに重ねた風貌の男が、横から急に現れた。
リクの時と同様に、身長差もあって親子のような構図になっている。


 「私はハンクス君って言ってるけどさ〜、実際こうやって見るといいオジサマだよねぃ」

ヒミは腕を精一杯伸ばして、ハンクスの腰部分に突っ込みするように軽く叩く。
ハンクスはそれに反応する事なく、早歩きで門兵の居る方へと進んだ。

 「う〜ん。怒っちゃったねぃ。
 照れもあるんだろうけどさ、なら年相応の話し方をしたらいいと思うんだけどねぃ」

今回は本当に独り言を言いながら、ヒミも後ろから付いて行った。


門兵は「機械人間」の為、合成音声によって"確認"を求めてきた。
確認といっても出入国書のような物ではなく、簡単な本人確認であり
それを門の横にある一室で行うようになっていた。

この世界の多くの者は、身分証明書となるカードを所持している。
大概は地方・地域で発行される事になるのだが、エリアスターと呼ばれる新種は「バローグ」で独自に発行をしており
身分は証明できるが、それは新種ですと言っているような扱いの為、使う場所によっては待遇に変化が生じる事が殆どであった。
リクがウエブに居た時に、トリノの建物で発行してもらっていたのもこのタイプである。
それ以外では「タベス」のMK経由で発行されており、こちらは比較的普通の人達と同じ扱いに出来る物であった。

ヒミの場合は「特殊な事例」ではあるが、現在はMKを裏切って処刑された扱いになっている為に
MK発行の証明書が無効になって使えなくなっていた。
特殊な事例を使う事で"普通の身分証明"は可能ではあるのだが、今回はハンクスによる証明書発行作戦を実行する事になった。

作戦といっても、簡単にいうと証明書を偽造するだけなのだが
普通に偽造した証明書を記録に残すと、後々で面倒になる可能性もある。
ここでいう面倒というのは、ヒミの事ではなくハンクスの立場を含めての事である。
そのハンクスも、MK上では現在行方不明になっているので、自身の証明書を使うのは危険であった。
そこで彼が行った偽造は、それぞれが「リク」と「ジュリレスター」になる事であった。

リク達をMKに勧誘する為、ブロクやタベスでハンクスやネルソン達が動いていて
ネルソンの裏切りやヒミの行動によって、結果的にリク達がMK本部に行く事はなかったのだが
証明書自体はウエブの大会等の情報によって事前に準備されていた為に、偽造に利用出来たという理屈である。

そうして記録上「リク」と「ジュリレスター」の二人は、情報を残してサウスの門から外壁の中へと入っていった。




門の中も外壁の周辺同様の森になっており、すぐ近くに町がある景観ではない。
実は「サウス」内にもモンスターは生息している為に、それが一つの職として成り立つ要因になっていた。
「サウス」や「イースト」ブロックには、主にモンスター狩りをするハンター集団が数十程あり
町を護る為などで活躍をしていた。

外壁内のモンスターを完全に排除出来ていないのには、何やら理由があるらしく
そもそも外壁はモンスターの侵入対策ではあるのだが、その他にも地域外の人を安易に入れない為の物でもあるらしい。



 「う〜ん。これでリク達の情報がサウスに残る事になるけどさ〜
 だからといって私達の情報が漏れないって事はないよねぃ?」

中に入ると、再びヒミが独り言を話ししているような光景に戻った。

 「彼らの動向をカムフラージュする意味でも使ってるっすからね。
 ヒミっさんは彼らと接点あるからバレるでしょうけど、僕は大丈夫っすし」

 「・・・下の下だよねぃ。
 勿論、分かっていて受け入れてるんだけどさ〜
 人の名前を使うっていうのは、やっぱり良い気分じゃないねぃ」

 「ヒミっさんがそこまでして肩入れする理由が気になるっすね。
 もしかしなくても、肉食系のヒミっさんとしては狙ってるんっすか?」

 「下の下だね。
 それに、ハンクス君はバレないって思ってるぽいけどさ〜
 私と接点ないわけじゃないんだし、繋がってると思われるかもしれないよねぃ?
 MKとしては現状は行方不明なんだしさぁ」

 「あ、話逸らしたっすね。
 本音を喋られてもつまんないっすけど、新種を護る為だけって理由でMKを離れたとは考えられないっすけどね」

 「それはお互い様じゃないかねぃ?
 この後、私は「ウエスト」を目指すけどさ〜ハンクス君もまだ付いてくるのかねぃ?」

 「ここはヒミっさんの地元っすからね。
 用済みになった僕に何が待ってるか分からないっすし、MKの"お仲間"が来るまで大人しくしてるっすよ」

 「・・・それが、良いと思うねぃ」

 「どうしたっすか?」

何かを考えているかのように、ヒミは少しの間無言になった。
そして、何かから逃げるように足取りも早くなっていく。


 「ヒミっさん。なんか急いでませんか?
 また何か企んでるっすね?」

 「・・・私を策士みたいに言うけどさ、特に何もないんだよね。
 リク達は別ブロックに移動する予定だからさ〜
 この森を越えて早く【シャトル】に乗らないと、可成り待たせる事になるからねぃ」

 「つまり、僕も紹介してくれるっすか?」

 「姿を見せる気も無い癖にねぃ。
 お互いの目的の為に行動する方が良いんじゃないかな?」

 「紹介されても困るっすけどね。
 僕もギフト選抜反対派っすから、マスターがお守りで付いてる仲間は協力できないっすし」

 「・・・私もマスターは嫌いだけどさ、ハンクス君のように関わっている新種まで嫌いになる程、極端にはなれないねぃ」

 「クククッ。
 ヒミっさんと"思想の相違について話すつもりはないっす"けどね〜」

この返しが頭に来たのか、ヒミはナビ職シャトル乗り場に着くまで一言も喋る事はなかった。




「ナビ職シャトル」とは、広大なデントのブロック同士を繋ぐ巨大なナビ職のバスのようなものであり
専用通路を通じて超高速移動が可能になっていた。
通路は乗り場を含めて9割以上が地下に設置されており、多くが片面2車線で構成されていた。
大きなトンネルで囲んでいる状態なので、モンスターによる攻撃を受ける事もなく事故なく運行が出来ていた。
そして、この世界の例に漏れず、新種と呼ばれるエリアスターが利用する事は表向きは不可能といえる公共施設である。
厳密には、高額な乗車料金を支払えば乗る事だけは可能ではある。

外壁等でシャトルをモンスターから避けるようには出来ているが、何かの間違いで"乗車する"とも限らない。
その為に、乗降口にはマテル感知センサーを付けるのが義務つけられている。
ただ、そういう例外が起こった事は今までに一度しかなかった事もあって
現在は設備として備えられているだけで、ほとんど機能として使われる事はない代物でもあった。

そのお陰もあって、姿を隠しているハンクスも問題なく乗車する事が可能であったが
ヒミは普通ならば高額な支払いを必要とするお客の筈であった。
ただそこは、ヒミがデントの出身という"設定"がカギになっていた。
それが身分証明書の件で出ていた「特殊な事例」であり、ヒミは「MK発行」のカード以外にも「デント発行」の物も所持していた。

その地元証明書があれば、新種であろうが問題なく乗車する事が可能という
リクの言葉を借りれば「ご都合主義な設定」というものになっていた。

しかし、ヒミはデントの証明書を使わずに「ジュリレスターである身分証明書」を使い、新種扱いで高額な乗車料金を払う方を選んでいた。
この行為には、姿が見えないハンクスも呆れた雰囲気を出しているように感じさせた。



見た目はモンスターの洞窟に見える場所に【パラグラ】と書かれている木目の看板が不自然に目立つ場所がある。
サウスブロックにおける地方の一つで、ここ周辺は看板通りのパラグラ地方と呼ばれている。
洞窟周辺には小さな集落があるが、ここに住んでいる人は殆どがハンターであり
モンスター狩りをする為の仮住居のような物であった。

二人はその看板がある洞窟の緩い下り坂を辿る様に進んで行く。
人が入るまでは暗闇の洞窟だが、人を感知すると上部にある電燈が反応して自動につく仕組みになっていた。

ある程度下りていくと、まるで駅のホームのような空間がそこに現れた。
そこにある改札口のような場所で、「あるレコカ」をかざす事によって改札扉が開くシステムであった。
そのレコカはダイアの入っているレコカでも構わないし、ナビ職シャトル専用のレコカでもよかった。
後者のレコカだと身分証明も兼ねて行えるが、前者だと一部は身分証明にならない事もあり
改札扉あたりで別の証明カードをかざす必要があった。

ヒミは前者のレコカを使っている為、改札扉で「ジュリレスターである身分証明書」をかざす事になる。
ここで新種と判断された為、乗車後の精算時に通常の数十倍のダイアの支払いをする扱いとなっていた。
透明状態のハンクスは、状況を知らない者が見ると勝手に改札扉が開いて閉じた状態ではあるが
それで先に進んでいる事は分かった。

ちなみに、「あるレコカ」を持ち合わせていない場合の事だが
これは改札口横にあるチケット売り場で乗車カードを買うシステムになっていた。
この場合チケットを買う時点で身分証明カードを使う為、その時点で支払金額も確定する事になる。

そうして二人はシャトルに乗り込み、「サウス」から「リレー」ブロックに向かって進むことになる。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




現在は、それから半日後。


地上はすっかり暗闇に覆われている時間だけど、常に暗闇な地下の道を進むナビ職の車は、デントに入ってるらしいね。
ブロック的には「サウス」にあたる場所との事だけど、ここには地上に出る道も無いんで、到着した実感は全くないけどね。
この地下の道は幾つかの分岐や裏道を経て「リレー」ブロックへと繋がっているそうだよ。

深夜帯の為にナビ職も自動操縦に切り替わって、僕以外は眠りについているように見える。
自動操縦になると照明を一切使わないので、動きが止まっているかの錯覚になっちゃうね。
ちょっとだけ最初はビックリしたけど、慣れてくるとこれはこれで、なかなか面白いもんだね。
たまに前方等の危険を回避しているようで、滑らかな動きをする事で暗闇を進んでいる事を思い出させてくれるね。

そんなわけで、比較的快適なナビ職の旅といえる行程を進んでいた・・・


―とは思うんだけど

正直、落ちつけない。
僕の裏切りのせいでMKから追われる事になったジュリちゃん達や"タッちゃん"の事も気になるし。
何より、マスターの"リーちゃん"だね。

MKに一時的にでも所属した事で、色んな運命と出会うことが出来たのは幸運だぜ。
やっぱり、"リーちゃん"との出会いが一番だけど
それ以外にも、このナビ職を運転しているシドという医者にも深く縁があるようだし
リクのような特殊なギフトにも出会えたし、これは天命と言えるかもしれないぜ。
僕の過去を清算する上でも、今度は逃げずにギフト選抜に協力するのが男ってもんだぜ。


更に今回、巨大地域であるデントに来れた事も運を感じる。

世界各地に居るハンターの多くがここに本拠地を置いていて
戦闘に関するノウハウにも非常に詳しいと聞く。
モンスターに対抗する術ももちろんあるだろうけど、マテルの使い道も参考に出来るだろうからね。
新種の僕達に親切に教えてくれるとは思えないけど、盗んで学ぶぐらいしないと
この後の事を考えても、やっていけないだろうぜ。

フェリスを見つける事がギフト選抜では最大の目標になる。
それは、僕達新種が目指している物と同じだ。
マスターはそれを知っていて僕達を利用しているのだと、あの時はそう思っていた。


そして、かつてギフト選抜に参加していた僕は、フェリスを求める事をやめた。

フェリスを求める事で犠牲になるのは、同じ新種達だからだ。
僕がMKに所属した経緯も、ギフト選抜で犠牲になる仲間を救いたい一心だった。

だけど、そんな僕が再びギフト選抜に参加しようと思ったのは、マスターの為だ。
そしてマスターを受け継いでいる"リーちゃん"を【最終地点】に連れて行く事が、僕の最大で最後の目標だ。

最終地点には最低でも5人の新種が必要になると聞いている。
僕は最終地点手前で逃げ出したようなものだから、完全に真実を知っているわけではないけど
"あと一人"の協力で目標に向かう事は出来る。

"リーちゃん"がギフトであるリクに、どこまで話をしているかは分からないけど
出来れば本格的にギフト選抜が始まる前に新種を揃えて最終地点に向かいたい所だね。
でも、中途半端な実力ならば結局"リーちゃん"も仲間も失うだけになる。

焦りの気持ちを抑えて、準備を整えてから確実に最終地点を目指そう。
多くの新種を失う結果にならない様に努力したいけど
今の僕が出来るのは、"リーちゃん"達と共に最終地点に進んでフェリスを見つける事だけだ。




どれだけ走ったか分からない闇の中に突如光が現れた。
それまで電灯を使っていなかったナビ職から光が出ていた。

 「シシ。地下をはシってるから時間感覚が鈍ってくるなぁ。
 そろそろデントの入口に着くぜ」

 「僕以外はみんな休んでいるように見えるぜ」

 「シシ。むシろ寝ていた方が都合いいかもなぁ。
 門で面倒な事にならない方が良いからなぁ」

 「検問とかの事かい?」

 「シシ。この病院用のナビ職の外装にちょっと細工をシたからなぁ。
 余計なモンが乗っていない設定の方が都合が良いってわけだ」

 「そこはシドに任せるぜ。僕には何もできないからね」

 「・・・ところで、体調の方は特に問題ないか?お?」

 「マテル等を使うのにも影響がある感じはないね」
 
 「シシ。そっちの意味じゃなかったんだが、まぁいい。
 タブで再会シた時点でその懸念は無くなったようなもんだからなぁ」

 「僕を2度助けてくれた恩はいつか必ず返すけど
 その為にはまず、デントですべき事をしないといけないぜ」

 「シシ。恩とかガラにねぇこと言うな。
 ま、生まれ変わった小僧とシては、それが本音なんだろうがな」

生まれ変わった。
そう、僕はシャドーヒーローとして生まれ変わった。

シドは"その時"に関わっていた医者の一人らしい。
らしいというのは、僕が生まれ変わる条件として、シド達にとって都合悪い記憶を消したから"らしい"ね。


 「シシ。検問に着きそうだから、ちょっと寝てもらって良いか?」

 「ああ。任せるよ」

ナビ職は減速し、少しして完全に停止した。
シドや助手席のヒミコさんと仕切られる様に、僕達が居る後部座席前に半透明の壁が映像化された。
外側からは僕達の存在が分からない様になったという事だろう。



 「シシ。【フリー・フィジシャン】のシド・ハードシュタインだ。
 ほれ、身分証だ」

 「・・・あぁ。"シィード"さんね。
 一応規則なんで、ナビ職内をチェックさせてもらいますよ」

 「シシ。よく見てもらえんかねぇ?身・分・証だって言っただろ?お?」

映像化した壁のせいでよく分からないけど
シドと検問の人が何かのやり取りをして、強引にシドが押し切ろうとしている事だけは分かるね。


 「・・・何時もマイドですね。
 んじゃお礼って程でもないですが、一つ情報を。
 というよりは、タイミングよく戻って来たというべきですかね」

 「タイミングだぁ?」

 「・・・あと数週間もせずに、デントは封鎖されるって話ですね」

 「あぁ?・・・って事はまた狩りでも始めるのか?」

 「今回は珍しく警察主導の封鎖らしいので、それだけじゃなさそうですね。
 数年に1回ほど、警察組織の改革っていうのがあるらしいじゃないですか?
 多分、それも噛んでるんじゃないですかね?」

 「シシ。そりゃ悪いタイミングじゃねぇか」

 「それじゃ引き返しますか?」

 「シシ。こっちにもわたシを待ってる患者が居るんでなぁ。
 そうも言ってられんのよなぁ」

 「それはそれは、流石は医者の鏡ですね。
 キリン狩りが始まったら、更に仕事が増えそうですしね」

 「シシ。こっちじゃヤブ扱いで有名なはずなんだがなぁ。
 まぁいい、じゃあ通させてもらうぜ」

 「色々、お気をつけ下さいね」


その言葉を最後にナビ職は再び動き出した。
まだ壁は残ったままなので正面は見えないが、シークレットガラスになっている横の窓からうっすらと映った画面には
地下の道に大きな門が設置されており、その扉が開いて先に進めるようになったように見えた。


 「シシ。小僧もういいぜ」

言葉と同時に壁の映像が一瞬にして消えた。

 「どんな手を使ったかは聞かないけどさ
 いつもこんな事してデント入りしてるのかい?」

 「シシ。ちょっと細工シた身分証を見せただけだぜ?
 ダイアなんて治療代で稼げばいいはなシだシなぁ」

 「・・・それは、いわゆる賄賂ってヤツだね」

 「ヒーローとシては、罰する"対シょう"かぁ?」

 「僕達がデントに入る手段の一つだろうから、罰しようがないぜ」

 「シシ。都合のいいヒーローも居たもんだな。
 これは裏口入門だシなぁ」

 「僕はそこまでガチガチじゃないからね」

 「シシ。それぐらいの遊びがある方が真っ当かもシれんなぁ。
 そこで狸寝入りシてる小僧も、そう思うだろ?お?」

僕以外に小僧と呼ばれるのは、彼しかいない。
どうやらここまでの会話をただ聞きしていたようだね。


 「別に狸寝入りしているわけじゃない。
 この後に何が待っているか分からないからな。体は出来るだけ休めておきたいだけだ」

 「シシ。その方が賢明だな」

 「ところで、さっきの検問の所で話していた内容について聞いておきたいんだが」

 「狩りの事かぁ?」

 「それを含めた封鎖の話だ。
 シドやヒミコはソレを知っていて、デントに案内したって事か?」

 「狩りについては、わたシも今はじめてシった事だな。
 ヒミちゃんはシっていたかもシれんがな。
 だとシても、タブからMKを避けるように移動するなら、デントを経由するシかねぇからなぁ。
 "しフト山"を経由シて、ブロク・ウエブと逆戻りするのもありかもシれんがなぁ
 ブロクや"しフト山"はタベス地方って言うMKのホームだからよぉ。
 なぁ、金髪の小僧?」

 「そう、だね。
 MKの追手の事を考えるなら、デントに進むのが最善手って事になるぜ」

 「・・・なら、そういう事にしておく。
 封鎖まで数週間あるような言い方をしていたが、デントを抜けるには十分な時間はあるのか?」

 「シシ。わたシの怪我が回復シていれば十分に間に合う時間だろうなぁ。
 だが、もう少シシたらナビ職も使えなくなるシなぁ。
 かといって、ダイアを沢山使って公共機関による移動をシても、新種だけでは出る事は難シいかもなぁ」

 「ソレは、都合良くデントに閉じ込める為にオレ達を連れて来たって意味か?
 デントから出るのには協力しないって事だろ」

 「シシ。先を急いだところでMKの追っ手から抜け出すのは難シいなぁ。
 この大陸の多くに、MKの息がかかった人材が存在シているからなぁ。
 むシろ封鎖される事で、MKの追手の数もシぼられるからよ、悪い事ばかりでもねぇぜ?」

 「僕は・・・MKにそれほど長く在籍してないから、デントにいるMKについてまでは良く分からないけどさ
 ヒミコさんと合流できたら、脱出への手がかりが見つかるかもしれないぜ」

 「・・・確かに可能性としては、あるな。
 脱出の方法は合流してから考える方が良いのかもしれないが
 出口になる場所はジュリの話とかから考えても、大きな外壁で囲まれていて検問もある感じだから
 エムケーらはその付近で待機していれば、オレ達を見つけ易くなるって事でもあるよな」

 「4・・・いや、3つのブロックの出口シかねぇから、小僧の考え方は間違ってねぇな。
 だがよ、新種は小僧達だけじゃねぇシ、新種がデントで行動するのは想像以上にキツイものだからなぁ。
 モンスターは当然の事、新種を狩るハンターもいるシな。
 裏切り者の金髪の小僧を追いかけるにシても、内部の者に任せる可能性の方が高いと思うぜ?
 そもそも、封鎖期間がどれぐらいになるのかも見当つかねぇシな」

 「極端な話、年単位で封鎖するって事もあるのか?
 それなら、尚更さっさとデントから出ておきたいな」

 「シシ。年単位になるかまでは分からねぇな。
 小僧が急いでるのは分かるけどなぁ、わたシは直ぐにデントを出る事には協力できねぇなぁ」

 「・・・どうしてもオレらに、デントに居て貰わないといけない理由があるようだが
 裏切り者の金髪がオレらを守ってくれるのだろうから、ここは安心していいのだろうな?」

 「当然だよ。追手が来る原因の多くは僕のせいだからね!」

 「エムケーを裏切ったと見せかければ、追手と挟み撃ちという好機だろうけどな」

 「・・・本当に君は、疑い深いね」

 「同じ話を繰り返す程、オレには余裕があるわけじゃない。
 話を戻すが、検問の人が言っていた"警察組織の改革"っていうのはギフト選抜の事だろ?
 だとすると、ギフト選抜というのは一般的には知られていない活動って事なのか?」

 「シシ。新種と関わっている人ならばシっている可能性もあるだろうけどよ
 多くの住民は新種を避けて生活シてんだ。シらない方が普通って事だな」

 「あと、僕や多分ヒミコさんもそうだろうけど
 新種の僕達が、ギフト選抜についてそれなりに知っている事も、あまり例無い筈だぜ」

 「意味が分からないな」

 「公に行ってないって事だね。
 極端な話、警察の者が僕達新種を雇って戦わせて、その戦いに勝ち抜いた者が選抜されるって感じだからね」

 「・・・その話が事実だとすると、金髪やヒミコは勝ち抜いたことにならないとおかしいな」

 「そうなんだよね。だから例がないって話なんだぜ」


 『ん〜霊がでない〜?』

後ろの方からやや呂律の回らない声が聞こえてきて、僕達の会話は途切れた。
その声は"リーちゃん"の寝言に近いものだった様だけど、リクはすっかり喋るのをやめてしまった。

彼のタブでの出来事はシドとかに聞いてはいたけど、これは人間不信に近いものがあるね。
それだけショックが大きい出来事だというのは分かるけどさ、男らしくないんだよな。
ジュリちゃんが護りたくなる気持ちになるのも分からんでもないが、肝心な所で同じ様に萎えてるなら
いくらギフトだとしても、この先選抜に残るには厳しくなる一方だしね。


会話が止まってそれほどせず、再びナビ職が減速し始めた。


 「寝てる奴も起こシて、歩いて移動するぞ。
 ヒミちゃんのシじで、とあるハンターの砦で合流する事になったぜ」

完全に止まると、リーちゃん達を起こして僕達は移動を始めた。
周りは殺風景で、右奥に森と町っぽい物が見えたけども進む方向は左側を目指していて
そっちにも住宅のような物があるように見えるけど、あまり人が住んでいるようには見えないね。
道という道も無く、草道の上下に坂がうねっている所を適当に歩いて行く。


 「シシ。わたシもここに行くのは初めてだからよ、何が出てくるか分からねぇぜ」

 「それは何かが出てくるという前振りか?シド」

 「シシ。小僧は言われなくても警戒シてるだろ?お?
 森や"はやシ"も近くにねぇから、モンスターが現れても不意打ちされるシんぱいもねぇだろ」

 「う、うむ。
 だが、以前ウチ達はシフト山で保護色のモンスターに出会ったこともあるぞ。
 見えないといっても油断はできないぞ」

確かに、ジュリちゃんの言う通りだ。
どんな手で僕達を狙ってくるか分からないからね。
この中じゃ、僕とジュリちゃん以外は戦力にならないし
最悪の場合、複製(クローン)のヒミコさんを盾にする選択すら考えられるな。

それだけは、僕の威信にかけて絶対させないけどね。


 『そっか〜。隊長達は以前モンスターと戦ってるんだもんね。
 手も足も出なかったって聞いてるけど、ここで出てきたらやっぱ逃げるしかないのかな?』

 「対抗しようがないからな。
 ここはナビ職が使えない場所のようだが、使うしかないだろうな」

 「シシ。警察の奴らに見つからなければ、の"はなシ"だなぁ。
 デントはバカでけぇから"じっシつ"その効力がねぇって思われてるけどな。
 運が悪ければモンスターと警察の板挟みってオチもあるのが、このデントだぜ」

 「警察とやらは、人の命よりマテルの使用云々を重要視するんだな」

 「そりゃ、新種と住民とじゃ守る基準も違うってわけよなぁ。
 自己防衛を見なされるかマテル"シ用"の犯罪とみなされるかは、そういう部類って事だなぁ」

 「・・・ここまで徹底して新種を差別する理由が気になるな」

 「シシ。未知の力を恐れるのはどの時代も同じって事よなぁ。
 まぁ、記憶が一部抜けてる小僧には分からない世界だろうけども」

 『・・・』

 「む。リクは記憶喪失だったのか?」

 「いや、そういうわけじゃないんだが・・・」


以前も確認はしているけど、どうやら彼は、「別の世界から来た」という面白話をしているのは
この中では僕と、シドだけのようだな。
あと、"リーちゃん"も知ってはいるだろうけどね。エリアドライバーも兼ねてるようだし。
となると、ジュリちゃんだけは知らないって事になるのか。
話す事が出来ない何かの事情があるのかな。

確かに思い込みは激しいようには見えるけど、それは女性ならよくある物だと思うし
そこら辺の事情は追々確認する事にしようか。



僕達は運よくモンスターや警察関係、MK関係の者に一切会う事もなく
それほど使われているとは思えない、数戸点在している古屋がある場所へ到着した。
屋根には旗が立てられているけど、それは3つの槍のような武器が描かれているように見えるね。

その古屋は鍵がつけられているわけではなく、どこの窓からでも入ることが出来る様な作りで
出入口であるドアが設置されていないようだね。
シドは腰が痛いせいもあるのか、自ら入る様子はないが親指を小屋に向けて合図を送った。

それを見て、僕が一番先に小屋に入った。
ここがスティーユのような作りではないとは思っていたけど、中に入ると風景が一変した。

 「これは一体どういう作りなんだい?」

 「シシ。見た目はボロ家に見せかけてるが、中はシっかりとシた家になってるというわけだなぁ。
 ヒミちゃんのレコカがないと、入ることが出来ない仕組みでもあるな」

建物の外からシドが回答してくれたね。
どうやら、すっかり喋らなくなった複製(クローン)のヒミコさんが持っていたレコカで
この古屋風住居に入ることが出来たという事みたいだね。
僕が入ってきた場所は振り返るとただの壁で、実際触れてみても壁そのものみたいだ。
そして、出口となるドアは別の場所にきちんと用意されていた。
入口と出口が異なる仕組みの家という事みたいだね。

僕が家を検索している間にシドを含む全員が中に入ってきていた。
彼も周りを隈なく色々見ている所から、多分僕と似たような感想を思ってるだろうね。


 「ヒミコは後どれぐらいで合流できそうなんだ?」

 「シシ。さっきレコカで確認シたが、もうリレーには来ているようだシ、そんなに待たずに来るんじゃねぇか?
 ってか小僧、そんなにヒミちゃんが気になるのかぁ?シシ」

また彼は機嫌を損ねたように見えるね。
イジられ慣れてないのだろうけど、ある意味の天然な所もあるんだろうね。

さて、周りを見ると重火器だったり、槍や巨大剣だったり相当な武器が揃っている場所だね。
2階にも行けそうだけど、なんとなく行く気がしないね。
そこは彼も一緒のようで、落ち着きのないマスターが2階に行くのを止めていたね。
あと、ジュリちゃんは槍を眺めて何かを考えている表情に見えるね。

 「そういえば、ジュリちゃんは武器に槍を使う事が多いみたいだけど、拘りでもあるのかい?」

 「うむ。一番使いやすいというのもあるが、しっくりくるからな。
 感覚的にというかな」

 「そうか、フィーリングが合うんだろうね。確かジュリちゃんは造形技術のマテルだよね?
 イメージしやすいのが槍って事なんだろうね」

 「うむ。だが、実際作られている槍を使う方がより力を発揮できる気はするけどな。
 この槍は少し長すぎるから、ウチには使いこなせないかもしれないがこの黄色の装飾は好きだぞ」

確かにその槍は全体的に黄色の配色になっているが
そう言われたら、ジュリちゃんは全体的に黄色をまとっている印象だけど、ラッキーカラーか何かなのかな。
だとすると僕にも悪い印象はないだろうね。


 「ここは、スティーユとは違うようだな」

 「シシ。スティーユに閉じ込められた事でもあるのかぁ?
 確かに、入ってきた場所と外の風景が違うようには見えるけどなぁ」

 『そう言われると、向こうに森が見えるねー。
 さっき歩いて来た時には近くに森なんてなかったはずだしね〜』

 「エムケーのモノにハメられて、一人犠牲にしているからな」

 「・・・そうか。そりゃつまらねぇこと言っちまったなぁ。
 じゃあ、この建物に入るにも相当抵抗感があっただろ?」

 「ここが仮にスティーユだとしても、今回は残しておける複製(クローン)があるからな・・・
 って、ヒミコの複製(クローン)はどこだ?」

 「シシ。という事は、居るね」


 「ほんと、下の下だねぃ。
 私を閉じ込めて脱出とか、ちょっとリクの事を軽蔑しちゃうかもねぃ」

その声を聞くまで、誰もヒミコさんの複製(クローン)が消えた事も
代わりに、赤い着物を着た本物が登場していることにも気付けなかった。
何やら彼に、煙管ようなもので突っついている風景が見えた。

 「痛っ、何やってんだ・・・
 ってとりあえず、これで再合流だな」

 「そう、だねぃ。
 で、多分聞いてると思うけどさ、デントはもうすぐ狩りの関係で全体が封鎖されちゃうらしいんだよね。
 出るなら早い方が良いと思うけど、どうするんだい?」

 「オレは当然封鎖される前にここを出る。
 ここに残る理由がない」

 「うむ。ウチもモンスター相手では何も出来ないからな。
 リクの意見に賛成だ」

 「僕は・・・出来るならここで、ギフト選抜に向けたマテルの使い道を試しておきたい。
 だから、後でまた合流する事になるのかな」

 「・・・別に無理に合流しなくても良いけどな」

 『うん?リッ君としては、ハーレム状態になるからその方いいのかな?』

 「そういう問題じゃない!」

 「う〜ん。そのハーレムには私も入ってるのかねぃ?
 まぁ、ヴェロンの肩を持つわけじゃないけど、マスターもきっとここに残る方を選ぶよねぃ?」

 「ソレはどういう意味だ?」

 「さぁ〜ねぃ〜」

 『私は、基本はリッ君の考えに従うけど・・・』

 「何を企んでいる?」


 「シシ。小僧。
 結果的に小僧の目的を達成するには、ここで時間を潰す方が近道になるって事だぜ」

 「全く意味が分からないな」

 「う〜ん。 リクもエレメンタル関連の記事を見たよねぃ?
 でね、デントの出口の一つがそのエレメンタルが絡んでいる領域になるんだよねぃ。
 間違いなく、ここに居るモンスターよりも厄介な相手だねぃ」

 「・・・モンスターと戦う道を選ぶか、それよりも厄介なエレメンタルと戦う道を選ぶかって事か。
 そのエレメンタルの件は時間が解決するモノなのか?」

 「シシ。それは金髪の小僧が言ったことがヒントになるだろうなぁ」

 「"ギフト選抜に向けたマテルの使い道"って事か。
 デントに居ればその使い道とかが分かるようになって、対抗出来るようにでもなるっていうのか?」

 「それは小僧"シ第"だろうけどなぁ」

 「・・・リディも、オレやジュリなどがマテルの使い道をここで得て
 ギフト選抜で使えるようにとでも考えているのか?」

 『使えるとか、そんなことは考えてないよ。
 でも、この先に進むには今のままじゃダメだと思う』

 「む・・・」

 「・・・分かったよ。
 というよりオレには、選択肢がないって事だな」

 「あ〜。一つキツイ事言っておくとだな
 小僧の目的を達成するにはよぉ、タブで起きた事以上のシ練を乗り越える必要があるぜ。
 そシて今のままじゃ、勝手に苦シんでじめつするだけだなぁ。お?」

 「・・・それは、"先生"としての説教か?」

 「シシ。説教にもならねぇよ。アドバイスみたいなもんだ」


僕はこのやり取りに何も口出せずにいた。
出せない理由は分かっているけど、それでも彼達がここに残る事が僕にとっても必要なのは間違いない。
僕としては戦闘タイプじゃない、ギフトの彼がマテルを使いこなせる必要はないと思っているし
その分は、僕が補える強さになって蹴散らせばいいだけだ。
シャドーヒーローとして。


 「・・・話はまとまったみたいだね!
 納得してない人も居るだろうけど、まずはこのデントでマテルの使い道を
 モンスターやエレメンタルに対抗できる強さを得る為に・・・
 あれ?・・・この後どうするんだい?」

 「う〜ん。中の下だね。
 締めるところはしっかり締めないと、駄目だよねぃ。
 ここから出て少し進むと、あるハンターの砦にたどり着くからさ〜
 そこで色々勉強するといいよ」

 「じゃあ、そういう事で!
 みんな行くぜ!」



若干締りは悪くなったけど、僕達は別に設置されていた出口を使って古屋を出た。
その風景は"リーちゃん"が言ってたように、ここに来た場所とは異なっていて
まるで誘導されるかのような一つの道が目の前に現れていた。


 「ここまで協力してきたけどね、私はこの先には行けない事になってるんだよねぃ」

 「行けない?」

 「その突っ込みは野暮だぜ、小僧・・・
 いや、お前ら動くんじゃねぇ!」

 「む?どうかしたのか」


ジュリちゃんもその後すぐに気がついたようだが、上空に一つ
空飛ぶ人間が現れた。

いや、人間というにはその容姿は、一部人間の物とはかけ離れており
顔は蝙蝠のような姿で、体を浮かすには似つかわしくない小さな羽が背中に生えていて
それが意味を成しているのか分からないけど激しく動いていた。

多分、空に浮いている要素はその羽ではないと思うけど
って・・・これはもしかしてモンスターなのか?


 「ggg・・・ショブン タイショウ、シャ ハッケン」


ぎこちない言語でそれは、僕達の方を目がけて飛びかかってくる。
それと同時に左手から炎の竜巻が現れ、こちらに振りかざすように攻撃を始めた。

その炎は僕達全体を包み込む大きさの規模まで大きくなった。
ジュリちゃんが咄嗟にマテルを使って、巨大な鉄の盾で防ごうと試みたけど
その炎は盾自体を飲み込み溶かし始めた。

 「マスターはシドさんをお願い!
 あと、みんなは四方に散って!急いで!」

ヒミコさんが"リーちゃん"をシドの方に押し飛ばし、
僕達の方に向けて鬼気迫る口調で応えると、その炎に対抗すべく構えをはじめようとした。
他のみんなというと、炎から逃げるように何とか移動出来ているようだ。



これは当然見過ごせないよね。

僕はヒミコさんの肩に手を触れると、一つの影を遠くに飛ばし同時にヒミコさんをその影へと移動させた。



 「化け物め! 
 ここに、このシャドーヒーローが居る限り、誰一人傷つけさせないぜ!」


僕はいつもの構えと同時に、その炎に包まれる形になった。






前の話 目次 次の話