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【エレメンタル2】
オレとヒミコは、目的地である喫茶店風な建物の前に立っていた。
ヒミコはレコカで何か確認すると、そのまま店の中へと消えた。
中に入ると、日中の割に中は薄暗く、だが、何人かの客がソコにいるように見えた。
「あら?ヒミちゃん。
また新しい彼氏君を連れて来たんだね」
また?
「・・・カコさん。また壮大な勘違いを、してるねぃ」
カコと呼ばれた店主は、ため息をついているヒミコと知り合いのようだ。
だが、またヒミコの関係者というのは、ココがエムケーと繋がっている場所である可能性も高いな。
そう考えている間に、ヒミコは別室の出入口に近い奥側の席に座った。
オレだけ警戒して立っているわけにもいかないので、渋々向かい合わせに座る。
「じゃあ、またお茶でいいかしらね?ヒミちゃん?」
「え、あ、うん。お願いするね」
「・・・なぁ、ヒミk・・・」
オレは言葉の途中で、ヒミコからのレコカの返信に気が付く。
-そこに見える別室は、標識通りの後架や調理場の裏口がある場所になってるんだよね。
そしてまず、後架の中に入ってもらって、水洗用についている操作ボタンを操作して欲しいんだよね。
【+】を2回、【-】を2回、【<<】、【>>】、【<<】、【>>】、最後に【B】、【A】と押してもらうと
奥に隠し扉が出てくるから、そこから地下に進んで欲しいんだよね-
後架ってあまり聞きなれない言葉だが、標識からするとトイレって事だよな?
しかし、トイレに隠し扉とか・・・って、どんなカラクリ部屋なんだ?
しかも、BとかAってそんなボタン普段は何に使われてるんだか。
・・・まぁソレは、行ってみればわかる事だろうけども。
「ヒミコはあの店主と知り合いなのか?」
「う〜ん。一時期お世話になった方だねぃ。
勘違いの妄想が激しいけどね」
「そうだったのか。だが、"大丈夫"なのか?」
「カコさんは勘違いしやすいだけで、"大丈夫"だねぃ」
「そうか。あ、ちょっとすまん」
予定通り席を立つと、別室へと移動する。
ヒミコが「大丈夫」の意味を分かっていてくれると良いのだが。
言葉を信用する限り、この作戦も大丈夫って事なんだろうけどさ・・・
別室は広めのトイレになっており、確かにレコカの指示にあったボタンがトイレにつけられていた。
疑問だったボタンもA〜Eまで用意されているのだが、やはり使い道が全く分からない。
今はそんな疑問を解決しても意味はないので、レコカの指示通りに水洗トイレのボタンを操作する。
すると、本当にカラクリ部屋のように奥行きが静かに変化すると、小さめの扉がソコに現れた。
ドアを引くと薄暗い空間になっており、下りの梯子階段がつけられている。
これは後ろ向きに入った方が良さそうだ。
足から後ろ向きに入って梯子を下りる格好となり、最後に隠し扉を閉めた。
それと同時に扉がロックされた音がする。
音の通りで、今閉めたばかりの扉を開けようとしても動かない。
恐らく、トイレの空間が隠し扉が出てくる前の状態に戻ったという事だろう。
もう、この梯子を下りるしか選択肢はない。
随分下に光が見えるのだが、一向にソコに到達する気がしない。
光の場所は相当な地下にある場所って事になるな。
この建物は一体何のためにこんな作りになっているんだ?
などと考えていると、ようやく光のある地面が見えてきた。
人影のようなモノも見える。
『あ、リッ君』
「リディ達は先にここに来ていたのか?」
『うん。シィードさんに裏口から案内されてね。
当然、隊長もいるよ。』
ようやく階段を下りて、リディと再会した。
「他に来ているモノはいるのか?」
『う、うん。ヒミコさんもいるよ』
「・・・リディがオレを迎えに来たのってそういう事か」
リディは笑顔とも言えない表情でこちらを見ると、一つ頷いた。
そして、ヒミコもここに来ているというのは・・・また複製(クローン)か?
一体、幾つ用意しているんだ。
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とある喫茶店の地下に、オレ達は集まっていた。
まず、先に病院を出て行っていたリディとジュリ。そしてあの医者(シド)。
この地下の一室に駐輪場があり、その近くに出入口のような扉がある事からも
地上のどこからか地下に潜って、ここへ辿り着いたって事のようだな。
次はオレだ。
喫茶店のトイレの隠しドアから梯子を伝って地下に降りた。
リディが迎えに来てくれたが、この部屋に着くまで50m程の廊下を歩く事になった。
最後に、ジュリの影から金髪が現れた。
策の一つで、金髪は囮で引き付けた上、オレ達がここに無事に着く時間を稼ぐ役割があり
全員の到着を確認出来たので、ヒミコのレコカで金髪に情報を送り、マテルの影で移動してきたようだ。
「こうして、ほぼ全員ここに集まったわけだが
この後の移動は、全員一緒になるのか?」
『ほぼ?ってリッ君。ここに全員居るんじゃないの?』
「いや、そこに居るヒミコは複製(クローン)だ」
『クローン・・・』
「その点については僕から説明するよ。
デントまでの道案内はこちらのヒミコさんが行うって事だぜ。
リディちゃんは知らないと思うけど、みんなレコカは持っているよね?」
「うむ」
「シシ。このヒミちゃんは道案内モードだからなぁ。余計なことは何一つ言わないようになってるなぁ。
という感じで、補足はわたシがするからな。お?」
この医者では頼りない感じだが、ヒミコがあまり喋らないのも複製(クローン)の性質だから仕方ないようだ。
「話を戻すがシド、ここからはどうやって移動するんだ?」
「シシ。それにはタイミングが必要みたいだな。お?」
またしてもレコカを見せるようにオレの方にかざす。
ソレを見て、一応オレもレコカの内容を確認する。
-移動のタイミングになるまで、待機してもらって良いかな?-
「ヒミコさんの言っている、タイミングとは何の事だろうな」
「うむ。ウチ達を安全に移動させてくれようとしてくれているみたいだが
ヒミコ自身は大丈夫なのか」
「ジュリの言う通りだ。時間を稼ぐためなら囮の複製(クローン)でも出来るはずだ。
それをあえて本物が行っているというのは、つまり・・・」
「直接話をする必要性がある、もしくは話しを聞かないといけない状況という事だね。
ヒミコさんはそうなると分かっていて、本物の自分を囮にしたのか!」
「エムケーとの繋がりが残っているとすれば、当然の選択かもな」
「何?
君は、まだヒミコさんを疑っているのかい?」
「ヒミコだけじゃない。
オレは、この世界で信用出来るモノなど・・・」
『・・・』
「これまでの話を聞いて思ったけどね、君は疑う事が前提なんだね」
「・・・オレの用心深さは、リディもジュリも知っている事だ。今更追求しないでくれ。
そんな事より、ヒミコの言うタイミングとはこの事かもしれないな」
話題を変えるように、オレは一冊の冊子を広げた。
「シシ。これはエレメンタルの記事だな。
これが、ヒミちゃんの行動とどう繋がるっていうんだ?お?」
「オレとヒミコは、この喫茶店に来る前に【コクガンキョウ】のモノ達と遭った。
だが、コクガンキョウは【エレメンタル】が動き出した事で、オレ達を放置して立ち去った。
警察としては、犯罪者を捕まえたり抑制するのが仕事だし、単純に時間の余裕が無かっただけかもしれないが
オレやジュリは、ギフト選抜においてコクガンキョウのライバルにあたるマテリアルの関係者になるわけだから
結果的に何もせず去って行ったのは何か違和感があった。
もしかすると、ヒミコはこのエレメンタルの動向を利用して、確実に出られるタイミングを待っていたのかもしれないな」
「君達はコクガンキョウに見つかっていたのか。
だとすると、マテリアルと繋がってる疑いの者に何も手を打ってないというのは不自然だね」
「・・・それが、上司のモノはエレメンタル関係で動きがあったのか、すぐ居なくなったのだが
残された部下達は、オレ達を無視するように何もせず立ち去ったんだ」
「む?マテリアルの事が無くても、エリア警察が新種のウチらを無視するのはおかしいと思うぞ」
「シシ。任務を放棄シてる風なのは妙だな」
「ヒミコが言うには、不自然な行動をした理由としてマテルが使われたんじゃないかって事だが・・・。
そういうマテルを使うモノに心当たりあるか?」
「特殊なマテルの多くは僕達新種の得意分野だからね。
まして警察の中に新種がいるとは考えにくいし、その可能性は低いと思うぜ」
「シシ。そうだろうなぁ。
考えられるとすれば、その現場近くにそういうマテルを使うヤツが居たかもって程度だなぁ。
まぁ、警察の行動は、時としてわたシ達にはつかめない部分もあるからなぁ」
「・・・だとすると、オレとヒミコはつけられていた可能性もある。
ここで大人しくしていると何か先手を打たれる可能性があるな」
「シシ。それはシんぱいねぇな。
第一、ヒミちゃんの警戒シんの強さは小僧が一番良く分かってんだろ。お?
てことで、ヒミちゃんの指示もまだ来ない内はここで大人シくするべきだな」
確かに、ヒミコは気配を読むのは得意のようだが
だからといって、このままここに居るのは非常に落ち着かない。
寧ろ、地上ではオレ達を包囲するための準備をしているのではと思うぐらいだ。
「シシ。不安そうな表情だな。小僧。
向こうで、少し気を紛らわせる"はなシ"でもシねぇか?」
親指で指示している先は、オレがこの場所へ来た入口のすぐ横にある、もう一つの扉だった。
ここで喋るのはマズい話って事は分かるが、どうにも胡散臭くて信用出来ない。
「ここじゃ出来ない話か?」
「シシ。ややこシい事になりそうだからなぁ」
オレの意思を確認するまでも無く、シドは一足先にその扉の方へとゆっくりとした動きで進んでいた。
怪我を押して色々やって貰っている事が分かるだけに、悪い人ではない事も分かるんだが・・・
だが、オレは苦手だ。
そんな嫌々な気持ちではあるが、後ろを付いて行く形になった。
室内は小さな道具置き場の棚が半分を占めており、後は椅子が4個ぐらい無造作に置かれているだけで空間埋まっていた。
「適当に座るといいぜ。お?」
シドはそう言いながら出口に近い椅子にゆっくりと腰を掛けた。
怪我が完治していないようで、何度か腰に手を当てている。
相変わらずの喧嘩腰ではあるが。
「あまり、無理はしない方が良いと思うんだが」
「シシ。小僧にまで"シんぱい"されるとはな。
まぁ、実際はわたシなどどうでもいい存在なんだろうけどな。お?」
「どういう意味だ?」
「シシ。わたシはシゅ術を直接担当したわけじゃねぇが、小僧らの監シをやっていたんでな
シらない"はなシ"って事にはならなかったわけだ。
新種には必ずある【混ざり合った色のエネジス】だがな、小僧は何故、2つ持っているんだ?お?」
・・・。
ヒミコの件か、この件だろうとは思ったが、【混色のエネジス】の方は説明のしようがない。
「ソレが何か問題なのか?」
「新種が特殊なマテルを使えるのはな、それのおかげとも言われていてな
詳シくはシらんけどなぁ、複数持っていると色んな面で悪影響がある"ブツ"らシいんだよなぁ。
新種以外が持ってない理由も、本来のマテルと反発シ合って体調不良になるって事だからなぁ。
その特性から【アンチエネジス】って別称されてたりもする"ブツ"だ。
とある筋の者に売り渡せば結構なダイアにはなるようだけどなぁ、小僧のような新種が売買出来るもんでもないからなぁ。
いずれにしても、特殊なエネジスに変わりはねぇから、誰からか奪ったりシない限りは複数持つっていう事はねぇだろうよ」
「そうだったのか。
仮にオレが奪ってたとして、どうするつもりだ?」
「シシ。何もシねぇよ。ただ、確認シたかっただけだ。
むかシな、小僧と同じく2つのアンチエネジスを持った一人の小僧がいてな
ヒミちゃんが言っていた、"小僧が他の新種とちょっと違う"っていう言葉に繋がるってわけよ」
「複数持っていると何が違うっていうんだ?」
「違うって言うかよ、小僧達に共通するのは【元の世界】やらとの記憶だな」
「・・・!
ソレは、オレ以外にも"記憶を持ったモノがいる"って事なのか!」
「シシ。正確には、"居た"だがな」
「それは・・・死んだ、という意味か?」
「シシ。どっちとも言えないな」
デックスでの儀式の件を考えると、「エネジス」に元の世界の記憶を封じられたっていうのは間違いないだろう。
オレはその元の世界の記憶を、【混色のエネジス】こと【アンチエネジス】の方に封じらたんだろう。
デックスの図書館に気絶をして入る際に、手にしたエネジスがそうこのエネジスだ。
他のエリアスターは、デックスなどに保管されている「エネジス」に記憶を封じられているという事なんだろう。
なのでジュリ達には、元の世界の記憶がない理由になる。
以前、ネルソンなどにも話した推測話ではあるが、この線はシドの説明もあってほぼ確定と言ってもいいだろう。
そしてシドは、オレ以外にも元の記憶を持つモノがいる事を知っていた。
ヒミコにも元の世界の話をしていたが、オレに急に興味を示したように感じたのはそういう理由からなのか?
となれば、ヒミコもオレ以外の記憶を持ったモノの存在を知っているって事になる。
だが、死んでいるのか行方不明なのか分からないが、会うことは難しそうだな。
「ヒミちゃんが、小僧をマスターから引き離したがっているのにも理由があるってわけだ」
「マスターとオレのような記憶を持ったエリアスター・・・いや、ギフトと呼ばれるモノが手を組むと問題という事か?」
「シシ。わたシはそこまでは分からねぇな。
ヒミちゃんも話すとは思えないが、機会があれば聞いてみるといいぜ」
肝心な話はオレにはしたくないって感じだな。
本当に分からないってだけかもしれないが、理由って言っている以上、知らないって事はないだろうがな。
「このアンチエネジスの件をジュリとかに話せば、やはり問題になると思うか?」
「シシ。試シてみればいいんじゃねぇか?お。
まぁ、良い顔はシねぇと思うがな」
良い顔はしないだろうという事は、想像出来てはいた。
エリアスターしかアンチエネジスを持っていないとは思っていなかったが
シドの説明が事実であれば、エリアスター以外は持てない理屈になる。
かつて、ダイアを持っていなかったオレが、デックスのコンビニ風な店で「アンチエネジス」を見せた時
「店を買い取るのか的」な言い方をされた事や、不穏な空気になっていた事からも
エリアスターの証明とも言えるソレは、この世界では出さない方が賢明という事は理解出来ていた。
そして、複数持っているという事を言うのは、シドが言うように、他のエリアスターから奪ったと勘違いされる可能性が高い。
ジュリや金髪は、エリアスターがこの世界で異質な存在であることを自覚していて
故に同志の仲間意識が非常に強い印象を受ける。
多分、ネルソンとか他のエリアスターも似たような方向性ではあるだろう。
だとすると、奪ったと勘違いされるような話をすることはマイナスでしかないだろうな。
シドやおそらくヒミコのような事実を知っているモノ以外に話すのは止めた方が良いって事だな。
「・・・一つ、このアンチエネジスの事で疑問がある。
エリアスター以外が持つと体調不良になるって事らしいが、ならどうやってオレが複数持っているって事を確認出来たんだ?
手術医の中にエリアスターが居るとも思えないし」
「シシ。実際"ブツ"を取り出シて移動させたわけじゃねぇからな。
シん体検査をシた時に、小僧のポケットから複数のアンチエネジスがあったって事が分かっただけの事よ。
数秒触る程度なら、少シ気分が悪くなる程度で済むからなぁ」
確かに、病室に居た時のオレの服装は病衣ではなかったが
逆に言うと、アンチエネジスの影響で病衣に着替えさせられなかったという事だったのか?
思えば金髪も病衣ではなかったな。
そこまでの用意をエリアスターにする必要もないと判断しただけかもしれないが。
話しが少し止まったあたりで、ある意味丁度良くドアを叩く音が聞こえてきた。
ソレを合図にシドがレコカを確認したのを見て、オレも確認する。
オレが先に部屋を出ると、そこにはジュリが立っていた。
「レコカにも情報が入っているが、ヒミコの準備が出来たようだぞ」
「あぁ。行こう。
シドも色々ありがとうな」
ようやく椅子から立ち上がったシドに軽く一礼する。
「シシ。わたシも一緒に行くんだぜ?勝手にお別れされても困るなぁ。お?」
シドはリディ達を乗せてきたと思われるナビ職の車の運転者でもあるし
ヒミコの補足をすると言っていたから、当然そうなるわけか。
だが、オレはまだ、ヒミコやシドもエムケーとの繋がりが完全に消えたとは思っていない。
オレ自身で言うのもおかしいが、信頼出来ないというのも仕方ないって話だ。
「出発するのは良いが、この部屋はどこに繋がっているんだ?」
「シシ。秘密と言いたい所だが、それだと小僧は納得出来ねぇよな?お?」
「秘密にする必要性がないだろ」
「シシ。ピンチな時こそ遊びが必要ってもんなんだぜ。
小僧はそういう面で素直過ぎるんだよなぁ」
「む。ウチは先に乗っているぞ」
ジュリはオレらの無駄話についていけないかのようにナビ職の方へ移動した。
「シシ。小僧は乗らないで自力で脱出するかぁ?」
「・・・いや、オレの勝手な行動はジュリに迷惑をかける事になるからな。
今のオレには出来ない選択だ」
「シシ。何時かは出来るような言い草だなぁ。お?」
オレはソレには何も言わずにナビ職の方へ進む。
無力な今のオレでは、一人で行動した所でジュリ達をおびき寄せる罠として捕まるのが落ちだろう。
だから、選択肢はない。
今はな・・・。
オレがナビ職の車に乗ってから数分後、シドはゆっくりと運転席に座ると
扉のない壁の方へ車を走らせた。
「む。壁に激突するぞ!」
「シシ。全員でクラッしュシてみるかぁ?」
皆が壁の方に目を向けている中、オレは何故か、後ろ側にあるナビ職が置かれていた駐輪場の方に目をやっていた。
オレの座席は車の中間部分で、横にある窓から後方を見るのは首を大きく曲げる必要があった。
そんな不自然な姿勢をしてまで、目の前の危機を無視してまで見た理由はただ一つ。
出発する寸前、駐輪場の扉に着物姿の女性が立っていたのを見かけたからである。
ソレはヒミコではなかったらしい。
出発後シドから聞かされて分かった事だが、その着物の女性はカコという喫茶店の店主だそうだ。
カコは駐輪場の扉近くで何かを操作していたそうで、ソレで正面の"壁の映像"をもう一つの扉に変化させたらしい。
「壁が消えて扉に変わったぜ!」
『凄いカラクリですね・・・これは』
「シシ。この地下部屋はひと昔に、ある組織が使っていた遺産のようなもんでなぁ
わたシがちょっと、小細工を施シたって感じなんだよなぁ」
「つまり、ここの店主とも知り合いという事か?」
「シシ。シらない仲ではないわなぁ」
「確かにヒミコさんは、ここの店主さんと知り合いのようだったぜ」
無事にナビ職が建物から出たのを確認できると、オレも正面を向き直し、前方上部に薄らと見える光に向かって上っているのを眺めていた。
「この道はどこに繋がっているんだい?」
「シシ。そろそろ言っておかないと怒り出シそうな小僧もいそうだシなぁ。
いいぜ。
この道はモンスターの巣、つまりデント近くにあるモンスターの住処の洞窟へ繋がってるぜ」
「・・・デント近くにあるモンスターの巣は、幾つかあるのか?」
「シシ。良いシつもんだが、誰かが言ってなかったかぁ?
デントはモンスターが生息している巨大な大国ってなぁ」
「うむ。それはウチが言ったぞ」
「・・・あぁ。
だとすると根本的にオレの考え方は間違ってるな。
洞窟、しかも人が近づき難い場所というのは、裏口としては考えやすい場所だから
待ち伏せしやすいポイントにはなるが、モンスターの生息地となれば複数あると考えるのが普通だ。
それなら、待ち伏せするポイントを絞るのも簡単じゃなくなる。
だが、どの洞窟から出ようともデント入りには影響がない様に感じるな」
「シシ。随分先のはなシまでぶっ飛んだなぁ。"はシ折り"シ過ぎるのも考えもんだぜ?お?
まぁ、いい。説明するとだな、本来はこの道はモンスターの住処の洞窟に繋がってるわけだが
一般"モノ"じゃ進む事が出来ない特シゅルートがあったりもするわけなんだよな」
「む、特殊?」
「シシ。裏道という奴だな。
このナビ職であれば通ることが出来る壁の部分が幾つかあってだな
そこを通る事で直接デントに入ることが出来る道に繋がるってわけだ」
「だが、ソレもモンスターの洞窟から出てくるのと同じ事にならないか?
結局は「デントの入り口」で待ち伏せをしていれば、オレ達がどこの道から進んでこようとも関係無くなる」
「シシ。小僧はデントの入り口について何もシらねぇから、そう考えたのも無理はねぇな。
簡単に説明するとなぁ、デントは5つのブロックに分かれている超巨大地域なんだぜ。
これから進む入り口はそのうちの一つのブロックではあるが、そこは【360度+90度】どこからでも入る事が出来る」
「360度は分かるけどね、90度ってどういう事だぜ?」
「・・・このまま地下の道を進んでもデントの入口に繋がるという事か?」
「シシ。本当にこういう時の小僧は素直じゃなくて、つまらんなぁ。
わたシ達が目指しているデントの入り口は【デントリレー】と呼ばれるブロックだ。
勿論、「リレー」にも追手とやらは来ている可能性が高いだろうなぁ。
だがな、仮にその追手共が、わたシらが地下から入って来ると予測シていてもだ
その地下の入り口でさえも360度自由に入れるようになっているのと、複数の階層から成り立ってるから
居場所をある程度絞って待ち伏せをするのは、行先をストーキングでもしてないと難シいなぁ。
これは大体のイメージだが、リレーというブロックを円形として考えた場合、その直径は100km弱ぐらいになるシなぁ」
デントの入口は360度。つまり東西南北どこからでも入る事が出来る。
しかも、それが地上だけでなく地下の複数階から入る事が出来るようになっているようだ。
だとしても、住居へ入り口はある程度固定されるだろうから、予測不能ではないと思うんだが。
『あの〜。以前に警察の人から聞いたんですけど
デントに入るには本人確認する為の場所があるとかって話しは、本当ですか?』
「うむ。ウチもそれは聞いたことがあるな。
デントの入口は大きな外壁で囲まれているとか」
「・・・シシ。小僧に勘違いされそうだったから言えなかったんだがな、正確にはデントに入る前に検問がある。
リレーに限っては地下もある為か、数十か所存在しているがな。
そこで本人確認をして、どういう者達がブロックに入ったかを記録するようになっているぜ。
だから、勘で検問付近を待ち伏せする可能性っていうのは、実はあるって事にはなる。
だけどよぉ・・・、そこでヒミちゃんの動きが重要になってくるわけなんだよなぁ・・・」
その言葉に、何故かオレは何も言うことが出来なくなっていた。
言葉自体には聞き返したい要素で満載だったのだが
シドは運転席を向いていたので分かるはずもないのに、ソレが悲しげな表情をしているような声に聞こえたからだ。
それこそ
ただの勘、だけどな・・・。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
真相の話その2。
時間は少し遡り、リクがトイレの隠しドアに入った頃に戻る。
「あら?彼氏君は帰ったのかい?」
喫茶店でリクを待つ様に座っていたヒミは、カコと会話を続けていた。
「ちょっと席を外してるだけだねぃ。
でね、カコさん。またちょっと行かないといけない用事が出来たから
彼が戻ってきたら、先に行っててと伝えて欲しいんだよねぃ」
「あらあら、ヒミちゃんは本当に忙しいのね」
ヒミは一瞬カコと目を合わせて合図したように見せると
喫茶店から一人出ていった。
出て行ったと同時にヒミはレコカを操作を始めた。
-あとは私に任せて、移動していいよ-
後ろから何者かの気配を感じつつ、ヒミはデントのある方向へ一人歩いて行った。
こうして一人別行動をする形となったヒミは
カコの喫茶店を出て行くと、ナビ職が使える場所まで不自然にならないような速さで移動した。
だが、ヒミの動きに合わせるように何者かが一緒について来ていた。
ヒミもその存在には気が付いていたが、それは誘導しているようでもあった。
「う〜ん。ここら辺で良いかねぃ?」
タブからデントの方角へ少し進んだ山道で、ヒミの足がピタリと止まった。
手元からナビ職を出すわけでもなく、人が隠れられそうな林の方に目を動かした。
そして、何かを見つけたかのようにゆっくりと林の中へと入っていった。
「上着は着てるけどねぃ、下が露出してるから草むらとかは勘弁して欲しいんだけどねぃ」
その林の中には誰かが居るように見える。
「・・・いや、それはヒミっさんが好んで着てるんでしょ。
つーかですね、このレコカの意味どういう事っすか?」
姿は見えないが、声だけが聞こえている状態である。
「確かにこっちの方が動きやすいんだけどね〜。って別にさ〜好んで選んだわけじゃないんだけどねぃ。
もう、そういうお年頃でもないからねぃ」
「話逸らされてるし・・・
ヒミっさんって、僕と出会った頃からほとんど変わってないっすよね。色んな部分で」
「う〜ん。それは私にケンカを売ってると解釈して良いのかねぃ?
あれ?そういえば何だっけ?君の名前」
「!!
ひどいっす。ヒミっさんそれは流石に酷いっす。
ここまで協力した僕の立場何もないっす」
「ふ〜ん。姿を見せないでそれはないんじゃないのかな〜?ハンクス君
で、レコカがどうしたんだっけ?」
「僕が超の付く照れ屋なの知ってるっすよね。
って、今レコカの話っすか?
まぁいいっすけど、「あとはヒミっさんに任せて移動していい」なんて送られても
僕のWスパイ的な動きをするなって言ってるようなものじゃないっすか」
「Wスパイって・・・隠すつもりもないんだねぃ」
「ヒミっさんに嘘言ってもしょうがないじゃないっすか。
って、そもそもこんなお気楽トークしてる場合じゃないんっすよ。
MK幹部のシェクター組が、本格的にマテリアル組をターゲットに選んだみたいっす」
「ふ〜ん?」
「ちょ・・・なんで興味なさ気なんっすか。
今、ヒミっさんってそのマテリアル組と一緒に行動してるんっすよね?」
「そうだけど、何か問題かねぃ?」
「・・・僕、ヒミっさんをMKに推薦した立場なんで、ある程度は色々分かってるつもりっすけど
それでも、その言動は理解出来ないっすよ。
まさか、マテリアル組をダシに使うって事っすか?」
「下の下だねぃ。
私はギフト選抜には反対なだけなんだよねぃ。
新種達は守るけど、マスターを含む警察の事までは知らないねぃ。
ハンクス君がどこまで繋がってるのかも、知らない事にしとくけどねぃ」
「な、何の事っすか。
ま、僕の事はどうでもいいっすけど、シェクター組は本物のヒミさんも狙ってるぽいっすよ」
「ふ〜ん。それだと本来シフト山に向かってたリク達を、タベスの本部に連れていく役割だった【ハンクス君】という人はどうなっちゃうのかな〜?
【ヒミ子さん】ていう人に横取りされた挙句に、幹部のグルーブも失う事になっちゃったわけだよねぃ?」
「た、確かに、僕の立場無いっす。
本部に戻った所で、タンベイさんあたりにボッコボコに"口撃"されるっす」
「いや〜・・・多分、それだけじゃ済まないと思うんだけどねぃ」
少し間を置いて、ヒミは隠し持っていたナビ職を車に変化させた。
「ヒミっさんって、何個ナビ職隠してるんっすか?」
「う〜ん。それは、企業秘密だねぃ」
見た目はヒミだけがそのナビ職に乗り込む形となったが、
助手席側のドアが自動で開いて、少しして閉じた。
そうしてナビ職の車は、道なき道の林を強引に進んでいく。
「本当に、姿見せたくないんだねぃ」
「ナビ職には色々鏡ついてるっすから、確かに変化させるの面倒っす。
でも、姿見られることに比べたら屁でもないっす」
「正体でも何でもいいけどねぃ、ハンクス君の情報ってそれだけでもなさそうだねぃ?」
「流石っすね。
って、エレメンタルの件が表に出た以上当然っすけども。
って事で、早めにデントに入った方がいいっすよ」
「ん〜?デントにエレメンタルは関わってないよねぃ?」
「大きな意味でですけど、連動してるっすよ。
ギフト選抜も、エレメンタルも、そして、キリン狩りもっす」
「・・・そこで、ハンクス君もデントに"避難する"って事なのかねぃ?」
「避難って。
いや、仮に時間を稼いだとしても、時間が解決するって問題じゃないっすよ。
この件で僕は、巻き込まれた事になってるっすよ」
「う〜ん。それは私にかい?」
「申し訳ないっすけど、ヒミっさんと絡んでることが分かると、さらに立場ヤバいっす。
僕はヒミっさんの味方っすけど、自分を守るためにヒミっさんを売らないといけない事もあるっす」
「・・・下の下だねぃ。
そんな行動してると、本当に信用出来る人を無くすだけだと、思うけどねぃ」
「でも、ヒミっさんはこんな僕と行動してるわけじゃないっすか?」
「う〜ん。私はこれがMKの罠だとしても、別にいいんだよねぃ。
ハンクス君にはさ〜、守りたい人って、いないのかな?」
その後、ハンクスは言葉を失ったように沈黙した。
最初から乗っていなかったように静まる空間。
「・・・クククッ」
「ん〜?」
だが、突然噴出したようにハンクスが笑い出した。
「ヒミっさん。僕は、いや僕達はそういう者を失ってるからMKに居るんじゃないっすか?
いや、ヒミっさんにはまだ守るべき人達もいるんでしょうけど。
自分を守る為なら、そんなシガラミなんて切っちゃった方が自由に動けるんじゃないっすか?」
「ハンクス君と思想の相違について話すつもりはないけどねぃ
私達がここに居る事は、絶対無意味じゃないんだよねぃ」
「なんか良く分からないっすけど、そんな希望持ったって、所詮僕達は新種っすよ。
警察の言いなりにならないための組織って言っても、僕達を動かしてるこのMKも結局は【本来の人達】っすよ。
新種の身分が変わる事もないですし、一生下手に見られてこき使われて生かされるだけっすよ」
今度はヒミが沈黙した。
先程の台詞通り、思想の違いについて話す気がないからである。
沈黙は数分続いた。
只々道なき道の林の中を進んで行く。
恐らく、モンスターの生息地でもある林ではあるが、無機物扱いのナビ職の車に居る以上は
気づかれる事も襲われる事もない。
ヒミは沈黙をしたまま運転している振りでレコカの操作も行っていた。
それは、カコの喫茶店の地下に居るリク達に指示を送る為である。
その行為をハンクスに見られても問題ないのか、堂々と情報を送っている。
「ヒミっさん。自称お仲間さん達は無事にタブを出たっすか?」
「う〜ん。無事かは残念ながら分からないねぃ」
「心配しなくていいっすよ。
むしろMKとしては"檻の中"に入って欲しいぐらいっすから」
「それは下の下だねぃ。
そして、なるほど納得だねぃ。そこで【キリン狩り】の話が関係するんだねぃ」
「・・・ヒミっさんの頭の回転力には、僕は頭が下がるっす。
デントに行くって時点で、僕達MKにとっては好都合過ぎなんっすよ」
「ふ〜ん。
シェクター組は随分と自信があるみたいだねぃ」
「エレメンタル騒動のおかげで、警察の目は外に向いてるっす。
今回デントでのMKの狙いは、そこに集まるであろう新種達の"総取り作戦"って所っすかね」
「なるほどねぃ・・・。
どうもシェクター組以外にも、デントにはMK関係者が集まってくるって感じなのかねぃ」
それにはハンクスも何も言わなかった。
故にヒミには、それが事実だという事を認識することになった。
ヒミ達を乗せたナビ職の車は、地下を進むシドの運転するナビ職の車より半日近く早く
デントへと到着する事になった。
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エレメンタルの活動復活による影響は、まだ目には見えないものの確実に【06エリア】全体に及ぼうとしていた。
その動きが本格的になるのを抑える為に、世界各地に散らばっているエリア警察が一点に集結していた。
普段は別々に行動している各地のエリア警察が、この時は一枚岩となり中枢機関と化す事になる。
エリア警察とは、地方や地域ごとにマテル犯罪者などを取り締まっている機関であり、約8割はその地域に駐在している。
【コクガンキョウ】はこのタイプに属しており、【タブ】や【タベス】地域を管轄している。
残りの2割は、駐在をせず世界各地で取り締まりをしたり、別のエリア警察からの要請を受けて活動している。
こちらは【マテリアル】が当てはまり、性質上「世界警察」と呼ばれたりもしている。
警察の採用基準も「駐在型」と「世界警察型」では異なり、
駐在型は、地域毎での募集を経て採用となり、出世をしない限りは基本は地域所属を離れる事はない。
世界警察型は、仮本部と呼ばれる地域が設定されているので、同様に地域での募集を経て採用の流れになるが
こちらの場合は、特定のエリア警察以外も選択する事も可能である。
駐在型、世界警察型という異なる形態のエリア警察が存在している背景には
地域の文化的歴史的問題も関わっており、中には警察を敵視して独自の機関を作っている地域も存在している。
その為、エリア警察は全ての地域・地方を網羅しておらず、中には「マテリアル」とかの通称がつけられていない警察も存在する。
エリア警察が居ないという所では、砂漠の地の【エスケ】などが該当しており
通称がないという所では、温泉街の【ブロク】や【ウエブ】のエリア警察などが該当する。
この通称だが、元々は駐在型には使われず地域名を名称としていたが
何時しか世界警察型に倣うように、様々な通称が付けられるようになっていった。
通称の多くは深い意味を持たず、機関を区別するための記号の役割しか持っていない事がほとんどである。
世界警察型は、世界的規模の犯罪が起こった時にはその対策を練るべく
管理職に当たる代表が特定の場所に集結し、会議を行う事を恒例化していたが
今回の集結は、駐在型の警察も多く参加している点が異例であり、それだけエレメンタルの活動を各地の警察が危険視していた。
ただ、普段集結をしない駐在型の代表が全て揃う事は流石に難しく、直接会場入りできない警察は通信映像を通しての参加となっている。
この通信映像であるが、電波を使う物は特定のマテルやエネジスなどで妨害される恐れがある為
今ではほとんど使われる事がなく、警察におけるコレも独自の通信技術によるものである。
どちらかというとレコカの性質に近いものではあるが、その技術を解明する事は表向きは禁じられている。
仮に解明する為にハッキングしようと試みても、なぜか成功しないようになっていた。
それが、リクの言うご都合主義的な何かであることは間違いないが
幾つかの理由によって"それ"を知る術がない現実がこの世界にはあった。
今回警察が集結している会場は、数十年前まで実際に使われていた裁判所を改装した組積造となっており
内装も当時のまま歴史を感じる風貌ではあるが、集結会場となる一室は完全に近代化されていた。
真上から見ると半月状になっている作りで、月の円周となる部分が各エリア警察の指定席となっており
実際に会場入り出来ない警察の席には、通信映像を移すためのパネルが設置されている。
月の直線となる部分は裁判長席のような作りにはなっているが使われている様子はなく
その後ろの壁には巨大な通信映像用のパネルが設置されていた。
そして、左端の方に申し訳程度に一つの席が用意されており、その場所と対になるように
ミラーボールのような円形の鉄の塊が設置されていた。
その物体は発言者等を映すカメラであり、その映像が壁の巨大パネルに映る仕組みになっている。
集結時間はまだ先ではあるが、既に数十組の代表が集まっており、とある二人が何気ない会話をしていた。
一人は、不自然な色の茶髪をなびかせた、やや黄金色に焼けた肌を見せている浜辺に居そうな風貌の男。
一人は、青色のスーツと生真面目さをキッチリと着こなしてる風の黒淵メガネの男である。
後者の方が見た目もあってか年上のように見えた。
「君は新顔だな。所属はどこだね?」
「マテリアル、ですが」
「あぁ。ガンプの所か・・・」
「あ、今日は代理で、会議は初めてなんすよね」
「なら、君はその風貌もあって余計に苦労するな。
元々ガンプは、会議荒らしで有名な者だからな」
「会議荒らし・・・ですか?」
「私はあの手の場の空気を乱す者が嫌いでな。
君も同類でない事を願うよ。
私の名はコクシロライ。所属は【ホーリィーズ】だ」
「あ、自分はソラと言います。
なんかガンプさんが迷惑をかけてるみたいで、すんません」
「私は所属や見た目で区別も差別もしない。
だが、大半の者は君を腫れもの扱いするかもしれんな」
「・・・なんか、非常に居場所が悪そうな感じがしますね」
「ああ。指名された時以外は余計な事は言わないことだな」
ソラという男はその場にあった指定席へと座ると、右親指を眉間に押し当てて目を瞑った。
コクシロライというメガネの男は、ソラの隣の指定席であり、すでに席に座っていた。
彼は小冊子のような機器を取り出すと、何かを調べるかのように
ページをめくる様な動作を繰り返している。
この機器は見た目通りの冊子ではなく、複数のパネルが冊子風に重なっている物であり
組み合わせる事で最大でA3用紙分の大きさにまで変形する事が可能になっていた。
レコカの一種ではあるが、これは彼の所属する「ホーリィーズ」が独自に開発した物である。
「珍しいレコカっすね」
「RTBと言う代物だが、レコカに違いはない」
「便利なんですか?」
「使う者次第だな。始まるぞ」
言葉と同時に室内は一瞬暗闇となり、やや明るくなった後に壁の巨大なモニターから
一人の幸薄そうな中年男性が映し出された。
「あ・・・では、私。
うん。私、オルドリンが今回の・・・エレメン。
エレメンタル事件について・・・の、概要を説明する」
「・・・あの人も、自分と同じ新人君なんすかね?」
「いや。彼はアームストロング・オルドリン。
この会議に居る代表の中では、ある意味最も"上層部"に近い人物だ」
「そうなんすか。とてもそんな風には見えないっすね・・・」
「口に気を付けろと言ったはずだ」
ソラは何のことか分からずコクシロライの方を向いていたが、何かの視線を感じてパネルの方に顔を向き直した。
そこには、半分がオルドリンという男が、残り半分には見事に映し出されたソラがいた。
「えっと・・・ご意見、ご要・・・ご要望がある時は
座席に付いて・・・いる。発言ボ、ボタンを押してくだしい。
・・・あ、ください。マテリアル代表さん」
「え?・・・え?」
「えっと・・・ですね。
発言ボタンな、くても・・・声は拾う、拾っているんですよ。
はい」
ソラはようやく意味を理解した。
が
だとすると、コクシロライの発言も拾われている筈なのだが
いまいち納得出来ていなかった。
「では・・・私は、喋るより・・・
文章に出す方がはや、早いので、どうぞ。はい」
すると、二人の人物が消えると同時に、長文小説の様な文章の羅列がパネル一杯に埋まった。
概要は、今回のエレメンタル事件についてである。
エレメンタルと呼ばれる人物は全員で5人。
全ての人物は、理由あって処刑されずに無期懲役扱いで収監されていた。
今回騒ぎを起こしたエレメンタルは、【セグメント海域】で海賊行為を行っていた【フォード】という人物。
脱獄の事実自体が口止めされていたことに加え、脱獄してから数か月経っている事。
海賊行為が行われた事など、対策をする点は多くある。
残り4人の詳細についても調査をしていたが・・・
「一人を除いて・・・脱獄しているだと?」
ソラが口に出すよりも早く、コクシロライが言葉にした。
「どういう事だ!
エレメンタルの中でもフォードは独自行動が多い人物。
勝手な行動に出たとしてもおかしくはないが、他も申し合せた様に脱獄していて、その事実は伏せられていただと!
何故ここまで誰にも気づかれていないんだ!」
コクシロライはかな興奮した口調で、今にも血が飛び出そうなくらい顔も赤くなっていた。
「え、えっと・・・。
発言ボタンは、押されて・・・押されてますが
今は私の攻め。いえ、説明中ですので」
「これは、今更説明している場合の事態ではないだろ!
"オルタイネイト"の者も出席しているはずだ。どうなっているか説明しろ!」
「えーっと、オルドリンさん。
指名もらったので発言しても良いですか?」
反対側に座っている一人の大男がゆっくりと発言する。
大男というか軽く巨人といえる大きさの為、目印に出来る程である。
「え、えと・・・。
あ、はい。許可します」
相変わらず喋りの苦手なオルドリンが二人の会話を許可した。
「えーっと、それじゃ。
えーっと、確かに、うちの管轄内には
エレメンタルの一人。フォードが居た事実はある。
えーっと、ただ、脱獄の事実はあっても、うちの管轄で騒ぎを起こしているという事件は無くて
対応するにも、対応のしようがないというかね」
「脱獄の時点でいくらでも可能だろう!
特に被害を受けている地域を管轄しているなら尚の事だ!」
「えーっと、あなたはホーリィーズの者だったかな?
そう興奮しても、事態は変わらないのだから
今は今後の対策について考えませんか?」
「それは当然の事だろう。
だが、それ以前の話だ!オルt」
トーンが最高潮に達しようとした瞬間、耳が痛くなる緊急音が鳴り響いた。
コレには流石のコクシロライも言葉を止め、耳を傾ける。
【全エリアに緊急連絡。
"デリート監獄「ハリファ」"より最重要犯罪者「ノーム・ロータズ」が脱獄したとの報!
繰り返す。
"デリート監獄「ハリファ」"より最重要犯罪者「ノーム・ロータズ」が脱獄したとの報!
指示は追って報告。最大限の人員確保にて待機せよ!】
緊急連絡が止まり、会場は一瞬時が止まったように静まったが
引き潮が帰ってきたように、軽い騒動になっていた。
「これ・・・やばくないすか」
「あぁ・・・何という事だ。聖域ハリファが破られるとは。
そして、エレメンタルの中で一番表に出してはいけない犯罪者の脱獄だ。
デリートを受け持つ者として、起きてはならない大失態だ」
ソラとコクシロライはそれぞれ事情が違うが
只ならぬ空気に圧倒されている風になっていて、椅子から立ち上がる気力がない様になっていた。
周りは相変わらず騒がしいままだが、中央の巨大モニターは冷静に指示文章を打ち出していた。
「あ、これって」
「・・・上層部の指示がまだ出ていない以上、これはオルドリンの指示だな。
それにしても早い。こうなる事を想定していたようにな」
中央モニターには
動向の分かっているフォードの牽制。
デリート地域の完全封鎖。最終地点の保護。
他のエレメンタルの活動地域の警備強化。などが指示されており
上層部の連絡を待つ事無く、該当地域管轄の警察は移動を許可されていた。
「私は当然だが、君も移動した方が良いだろう。
フォードかロータズのどちらかを選ぶ必要はあるだろうが」
「そ、そうなりますよね。
ガンプさんに連絡して対応します」
「・・・恐らくだが、ガンプには連絡付かないと思うぞ」
何かを知っている風なコクシロライの言葉だったが
軽く一礼して会場を飛び出すと、ソラはガンプに連絡を試みた。
コクシロライの言う通り、通信応答する気配がない。
仕方ないが、スリックに連絡して指示を仰ぐ事にした。
ソラは、とある理由からスリックが苦手であった。
「・・・って話なんですよ」
"というか事情は分かったけど、ガンプさんに連絡がつかないっていうのは面倒だね。
現場的に二手に分かれた方が良いかもしれないね"
「こっちがロータズで、スリックさんがフォードって事ですよね?」
"というか、ソラには悪いがミウナバラもこちら側になるね"
「あ、いえ。・・・別に悪くもなんもないすけど」
"というか、私情は置いとくとして
ガンプさんに連絡付いたらそちらに向かってもらうから、それまで頑張って耐えてくれよ"
スリックに連絡を終えたソラは、曇った表情のまま
エレメンタルの一人であるロータズが脱獄した【デリート】地方へと向かう事になった。
なお、この脱獄事件が一般的に公となるのは、後に起こるエレメンタル事件の時になる。
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