28
エレメンタル



どうやら、今この世界は一つの大きな転機を迎えているらしい。


見た目はただの情報冊子だが、中身は新聞というものがこの世界の情報源の一つ。
他にレコカや電子媒体でも情報は見ることは可能で、主流は寧ろそちらのようだが
形を残すという事は、どの時代でも世界でも、共通して考えられて使われている物なのだろう。

オレはほとんど本に接する事がない非文学少年という事もあって、本棚というのは部屋のスペースを取るモノとしか考えられず
無駄を無くすという意味では、電子媒体というモノがオレの世界でも主流になっていくだろう。
文学少女である"ハナカ"に言わせれば、五感を感じることが出来る冊子が無くなる事は無いらしいがな。

デックスにあった図書館にしてもそうで
気軽に見ることができる媒体と、重さや匂いなどを感じる事が出来る冊子は
需要の絶対数は異なるだろうが、どちらも残っていくという流れは今後更に文明が進んだとして変わるって事はないんだろうな。

この06というご都合的な世界が、本当にオレが居る世界の大本になる場所であるならば
未来の世界のという考え方も出来るのかもしれない。
その未来でも、ハナカが言うように冊子は無くなる事なく存在し続けているって事になるのかもな。


ただ、冊子を見ているだけでまたホームシックのような悲壮感を覚えてしまったのは
オレが本当に別世界に来ており、ココに存在しているという事を再認識したからなのだろうか。
だけど、帰る事が出来たらまず先に、ハナカに会いに行こうと思う。というような存在ではない。
24に居た時のオレは、形だけハナカと一緒に居たという感じなのかもしれない。
今となっては、彼女と言えるのか分からないぐらいの関係でしかなかったのかもな。

だとすると・・・本当に最低な男だな。オレは。


自分の狭い世界しか映ってなかった、いや、その世界でも生きていけたからこそ
灰色の世界で不自由を覚えつつも、なんとなくやっていただけかもしれない。
先が見えてしまっている世界で、希望を持たないといけないっていうのは酷だと思い続けてきた。
だが、先が見えていると思い込んでいるだけで、実は何も見えてなかったのかもしれないな。

環境が変わらないと、考え方も変えられないって事ならば
人間の頭っていうのは、随分ご都合良く出来てないモノなのかもしれない。
だけども
この世界に来た事で、生きる目的がご都合良く出来たというのは、喜ぶべきなのかどうかではあるな。


こんなオレでも希望を持つ事が出来るかもしれない、この世界の現実に戻るか。



よく考えてみると、この手の情報を見たのはこの世界では初めてかもしれない。
ウエブの大会後に、トリノの建物空間にある液晶画面で見た「ウエブ襲撃事件」ぐらいだしな。

そして、今回の情報はその事件以上のモノになるのかもしれない。
混色のエネジスの情報にも入っているモノだと思うが、近年この世界では幾つかの大きなマテル犯罪が起きているらしく
有名所では

【キャンサー事件】と呼ばれているマテル禁止地域でのエネジス乱獲事件。

【エレメンタル】と総称されている強大なマテル使いの犯罪行為。

【クラッシュダウン】というマテル実験を行った町の半壊事件。

といった感じだ。


【キャンサー事件】に関してはエスケでの状況と似たような部分を感じるが、規模はその比ではないのかもしれない。
【クラッシュダウン】については、ごく最近の事件らしく、現在進行系で関係者調査を行っている感じらしい。

で、今回のは【エレメンタル】に関する事のようだ。
エレメンタルと呼ばれているのは5人の人物で、それぞれが独立しているマテル犯罪者らしい。
大まかにはそれぐらいしか"知識"として入っていないので
それぞれがどういう人物なのか、今の状況などは一切分からず終いである。

という事で、記事を読んである程度の追加情報を得ることが出来た。
どうも何年か前に、5人それぞれがエリア警察などに捕まったそうで、無期懲役扱いでどこかの監獄に収監されているらしい。
どれぐらいの規模の犯罪行為なのか分からないが、表舞台には出さないようにしている扱いに見える所からも
あまり関わりにならない方が良い人達であろうという事だけは分かる。

だからこそ、この記事に書かれている脱獄事件は大きなニュースになっているようで
しかも、その一人が比較的この地方に近い場所に逃げ込んでいる可能性が高いらしい。

いや、逃げ込んでいるというのは、表現として正しくないのかもしれないな。
その人物は、この地域の大陸とバローグのある大陸を結ぶ海域で、海賊行為を行っているらしい。
これは、マテル関係なしに犯罪者だな。

旅客船・商船などを襲う事は勿論、近辺の港町も支配していて
以前、エリア警察に捕まるまでは、その海域の航路は実質無効化していたらしい。

そんな人物が脱獄をしたとなれば、この後のデント行きも考え直す必要が出てくるわけで
他の大陸行きルートも調べておく必要がある。



 「すっかり元気になったねぃ」

普段着に着替えてベットに腰かけているオレの横に、見慣れた赤い着物の女が立っていた。

 「・・・金髪が目を覚ましたって話だな」

 「そうだねぃ・・・ん?
 その記事、エレメンタルの脱獄の件かねぃ」

 「あぁ。情報を出来るだけ入れておきたいからな。
 1週間もココに居てもやる事がないし。
 そういえば病室代の件だが、ヒミコが肩代わりしてるって聞いたんだが
 ダイアはある程度持ってるし、無理をしなくても良いんだが」

 「病室代については私のお詫び代だからさ〜、リクが気にしなくていいよ。
 それよりも、そのエレメンタルの方が厄介だねぃ」

 「当初はデントから海を経由して、バローグのある大陸に行くという話だったが
 このエレメンタルはその海域を砦にしてるんだろ」

 「そうなんだよねぃ〜。
 ただ、別ルートもちょっと厳しいかもしれないんだよねぃ」

 「厳しい?」

 「下の下のルートなんだよね。
 ヴェロンはMKの裏切者扱いな上に、ジュリから聞いた話だと、幹部のグルーブも手にかけたって話だからねぃ。
 そこは本人に聞かないと真相は不明だけども、事実って事ならさ〜MKのブラックリストのトップレベルになってるのは間違いないんだよね〜。
 そして、別ルートは確実にMK関係者の目に入る場所になるからね。
 飛んで火に入る夏の虫って感じになるよねぃ」

 「・・・オレ個人としては金髪とは関わりたくないんだが、そうも言ってられないって事だな」

 「上の上だね。ま、これは最悪の意味でだけどさ〜。
 だけども、リクもジュリも関わってるからねぃ。
 仮に離れ離れになったとしても、MK関係者が付きまとうことになるのは間違いないねぃ」

 「・・・ある意味、オレとリディの関係みたいなモノだな。
 それなら一緒に居る方がましって事か」

 「ふ〜ん。
 リクはマスターの存在をそういう風にとらえているんだねぃ」

 「不満か?」

 「いや〜私が不満でも、リクには関係ないことだよねぃ?
 それが理由でデントへの案内を止めるって事もないからね」

と言っているヒミコの表情とセリフが一致してないように見える。
どうもコレ以上つっこんだ話はしない方が良いって事だろうな。
話題を変えるか。


 「以前スリックと絡んでいた、このタブに居るエリア警察の件は大丈夫なのか?
 この町を無事に出られるかどうかは、その警察次第だと思うんだが」

 「あ〜。【コクガンキョウ】の事かい?
 スリックはそういう面倒な事は関わらない性格(ひと)だしねぃ。
 その点は私が何とかしてみるよ」

【マテリアル】のスリックは、ヒミコにとっては恩人らしいが、いまいち信用していない所もあるようだ。
エリア警察自体が、オレらエリアスターからすると信用しにくい存在なのかもしれないが。

 「とまぁ〜その事も含めて、あとの話はヴェロンの病室でやった方が効率良いよねぃ?」

不自然にヒミコが近づくと、オレの手に触れるように袖を当ててきた。
流すように目線を切ると、ヒミコは先に部屋を出ていった。
どうやら、本筋の話は不自然に置かれていったレコカで行うって事のようだな。

場所については、金髪がまだ完全に回復していないだろうから仕方ないにしても
レコカにしたって普通に渡せば済む事だと思うのだが、コレにも何かの意図があるのかもな。
・・・と、早速メッセージが入ってるな。

 −シドさんが適当に絡んで来るけど、適当にかわしてね−

いや、コレはどういう意味だ?
そもそもシドも金髪の病室に居るって事なのか?
レコカを使ってまで会話の内容を隠す理由はおおよそ想像はつくが
この後シドも、オレ達と行動をする流れになるという事なのか?




金髪の病室にはオレ以外の面子が揃っていた。
例のシドも完全に回復しているとは思えなかったが、病衣を着た状態で椅子に待機していた。

 「重役は遅れて登場っていうのがセオリーだからな。お?
 上座に座るといいぜ」

・・・何だ、この違和感ある絡み方は。
リディは別にしても他の人は変に感じるんじゃないか?

 「いや・・・座る以前に、そもそも上座がどちらになるか分からないな」

 「シシ。相変わらず真面目を地で行く男だな。お?」

 「・・・話とは、シドがオレと絡む事なのか?」

 「いや、違うねぃ。
 シドさんもそこら辺にしないと、強制退場させるからねぃ」

 「シシ。ヒミちゃんにそう言われたら、"シたがうシか"ないからなぁ」

全く悪びれた表情に見えない眼帯の医師は、ふと目線をオレの手元に向けた。
余っていた椅子にようやく座ったオレも、ソレでレコカの返信に気が付く。


 −私はマスターを信用してないから、こういう面倒な手でリクに話を持っていくよ。
  会話とレコカとどっちも絡ませながら理解してね−

このレコカでの会話の趣旨は
この病院が【エムケー】や【コクガンキョウ】と繋がっていると仮定した場合
病院が監視されていて、会話内容などを盗み聞きされるのを防ぐ事にあるとオレは思っていたが
それ以外にも、マスターであるリディにも内容を知られないようにする意味もあったようだな。

・・・だが、だとすると、この状態はおかしいな。
少なくともオレの部屋でも、ヒミコは色々喋っていたからな。
良いように解釈すると、オレの部屋には監視がなく金髪の病室にはあるという事になるという事か?



 「で、この先バローグに向かうって話で変わりはないんだよねぃ?」

金髪とシド以外のオレら3人が軽く頷く。
頷いたのだが、目的地を知らせて大丈夫なのか?

ヒミコはソレを分かっているような笑みを一瞬すると話を続ける。

 「ただ、最近に明るみになった、このエレメンタルのニュースは厄介だよねぃ。
 バローグに行くには避けられない場所にも居るらしいからねぃ」

 「・・・行先もそうだが、まずはここから無事に出発出来るかの方が心配だな」

 「む?リク。それはどういう事だ?」


 「それは僕から説明した方が早いね。
 一つはMKからの追っ手が来る可能性が高い事。
 もう一つはここのエリア警察の存在かな?」

 「む?エムケーはウチ達を未だに仲間にしようとしているって事なのか?」

 「ジュリちゃん達を仲間に引き込もうとしている点もあるけど
 MKが絡んで来る目的は、裏切りをした僕の処分もあるだろうね。
 でも僕は、MKに処分されるつもりもないし、かといって個人行動してもジュリちゃん達に迷惑をかける。
 僕達がこの病院もしくはタブに居る事は、MKもエリア警察も把握出来ているだろうから
 タブを出た事が分かった時点で、いやその前に何かしらの行動を起こすのは目に見えているよ」

 「うむ?この病院にはエムケーもエリア警察の関係者は居ないのか?」

 「その疑問は・・・シドさんが詳しいよねぃ?」


 「シシ。ヒミちゃんがそう言うなら説明するシかないか。
 病院内は治外法権ってヤツだな。
 善人も極悪人も関係なく、患者は保護するっていうのが病院の世界基準ってヤツだ。
 全ての町でそうなっているとは言えないが、エリア警察のある大半の所では守られているだろうな」

 「この病院自体がそういう組織の関連と関わっていて、情報は筒抜けって事はないのか?」

表向きはオレとシドの会話になっていたが、手元ではヒミコの話を見る形になっていた。

 -警戒するって事では、その言動はありだね。
  シドさんも下手に私たちの味方をするわけにはいかないし、このままでいいよ-

ヒミコはレコカを器用に使いこなせているのか、手元を見なくても文字を変換しオレに送ることが出来ているようだが
オレは見る事が精一杯で、返信をしようと文字情報を登録させるのにも一苦労しそうな作りだ。
このレコカはタブレット端末のように操作して、文字情報を入れる事が出来るようだが
ソレを行おうとするには、異様で不自然に映ってしまう恐れがある。

 -返信は無理にしない方がいいよ。
 どうしてもって時は、直接私に意見するといいよ-

オレの考えを読んでいるかのように、ヒミコから情報が送られてくる。
ヒミコの方を見ずに軽く一つ頷いた。


 「君は随分MKの事を警戒しているようだけど、この部屋にまで監視器具があるとは思えないね」

この金髪の発言で、警戒するという行動をより取りやすくなった。

 「う〜ん。ヴェロン。それは中の下かねぃ。
 MKの組織は多方面に広がっているから、その可能性がないとは、言えないんだよね。
 それとさ、MKが処分するって話が出てたけどね〜、私もその対象では、あるんだよね」

 「その可能性が分かっていたなら、もう少し恰好とか対策出来る部分もあると思うんだが・・・」

 「う〜ん。リク。残念ながら下の下だねぃ。
 対策って素顔を隠したりするって事だろうけど、それは逆に怪しい者ですよって言っているようなものだからねぃ。
 それにさ〜隠した所でシドさんが普通に名前呼んじゃってるからねぃ。
 私のこの口調もさ、隠そうとしても独特の訛りっていうのは消しきれないしねぃ〜誤魔化しようがないって事だねぃ」

 「シシ。ヒミちゃん。それはわたシのせいなのかい?」

シドはやはり悪気が無いように軽く頭をかく。

どうもヒミコは、適当に話を誤魔化すというよりは、やり取りをエムケーなどに聞かれていても問題ないような節があるな。
先にレコカを渡しておいて、シドが絡んで来る事をワザと知らせる事と
この部屋に何かがあると思わせる事で、オレに余計な話をしないように仕向けていたって事か?

思えばヒミコは、オレにシドを会わせる為にタブへと誘導してきたわけだが
ソレを頼んだのは、マテリアルのスリックだった筈だ。
この流れになる事を考えれば、知り合いのシドだって危険に陥る可能性が高かったって事になる。
ヒミコにとって決して好条件じゃない筈だが、だとすると、この行動は理解出来ない。

・・・いや、ヒミコの知り合いという時点で、シドがエムケーと繋がっていると考えるのが普通か。
ヒミコがレコカを使って話をしているのは、リディ対策だけじゃなく、シド対策も兼ねていると考えたら辻妻は合う。
だがそうなると、今のシドがエムケーを裏切っている風なヒミコに協力しているのはおかしいって話ではあるが。
と、考えると
ヒミコも本当はエムケーを裏切っていなく、シドと組んでオレ達を誘導するか処分するかを企んでいると考えるのが自然か。


オレはシドによって、解除のマテルをある程度使いこなせるようになった。
こちら側が望んだわけじゃないにしろ、そのおかげでヴィルとの戦いでも防戦一方になる事が無かった。
そのヴィルだが、エムケー側のモノではあったがマスターの一人でもあった。
アンチマスターの組織であるエムケーとしては、いずれは対処するつもりだっただろう。
今回結果的に、その役割をエムケーと無関係なオレが担う形になった・・・。

この流れは
オレに能力開花させる事で、マスターの処分もついでに行う事が出来
しかも、強制的に"前貸し"させる事が出来る一石二鳥な策とも言えなくはない。

厄介な事この上ない、悪い展開だな。

・・・・・・。



 「ウチには難しい事はよく分からないけど、この町から簡単に出られないだろうという事だけは理解できたぞ」

 「あぁ。ジュリの言う事が一番の問題だが
 その前に、ヒミコに確認しておきたい事がある」

 「ふ〜ん。何かな?」

 「金髪が言うように、オレはエムケーを警戒しているしその関係者を信用する気はない。
 ソレはヒミコを含めてな」

 「・・・ふ〜ん。そうなんだ」

 「という疑っている前提で話すが、この病院がエムケー関連と繋がっていて
 ヴィルを倒す事も計算の内だったとすれば、今ヒミコのやっている事はエムケーの仕事の一つって事にならないか?」

 「だとして、リクは何が言いたいのかな?」

 「繋がっている可能性が0じゃない以上、オレは別の可能性を探るって事だ」

 「・・・じゃあさ〜聞くけど
 MKと繋がっているとしてだよ、私の仕事はリク達をどうするつもりだと思ってるんだい?」

 「む!」

 「ヒミコさん?それは」

オレだけでなく、ジュリと金髪の顔色も明らかに変化した。


 「まずは、リディと引き離すのが第一だろうな。
 いつも余計な一言を言うリディがここまで何もしゃべってない所からも、違和感ありすぎる。
 で、次は刃向った金髪の処分とオレ達のエムケーへの勧誘って所か?」

 「いや、リク。リディは・・・」

 『隊長・・・いいよ』


今までほとんど下を向いていた事もあって、完全に存在感のなかったリディがようやく言葉を発した。
どうやら、オレがこの病室に来るまでに、ここで何かあったようだが。

 「推測としては中の下って所だねぃ。
 じゃあ、リク。私達とは別に行動するかい?」

 「出来るならそうしたいが、そうした所でこの病院から出る事は難しいだろうな」

 「そう言いながら、何か策を練っているように見えるけどねぃ?」

オレはソレには何も答えなかった。
というより、会話という情報はレコカですでに終えていた。

ヒミコのレコカには、シドだけでなくヒミコとの関係も険悪にする策が表示されていた。
というわけで、傍目からはオレとヒミコが緊張状態になったように見えている筈だ。
ジュリや金髪は、オレとヒミコの策を知らないので、コレが"演技ぽく"見えていないだろう。
だが実際も、演技ではなく本当に険悪な状態になっているんだけどな。

そんなわけで、ヒミコの事を完全に信用しているわけじゃないのだが
考えている方向性が同じな為に、結果的にヒミコの策を実行する形となっていた。


 「リディには悪いが、オレは金髪とも一緒に行くわけにはいかない。
 誘拐的な行動をしたり、オレらをエムケーに誘導しようとしているモノを、心から信頼出来るわけがない。
 それにオレ達がマスターと行動している以上、ソレはエムケーとは対立するって事に変わりないからな。
 だから、金髪が一緒に居ようが居まいがエムケー関係者に追いかけられる事にも変わりない。
 それならエムケーの関係に関わっているモノが一緒に居る方が問題だろう」

 「う、うむ。疑い過ぎな気もするが、ウチもリクの気持ちは分かるぞ。
 エムケーという組織は確かに信用出来ない」

 「あぁ。・・・これ以上ここに居るわけにはいかない。
 リディ。ナビ職は戻ってきてるんだろ?
 難しいのは分かっているが、まずはこのタブから離れる事が重要だ」

リディは軽く頷くだけで、何も言わない。
これは、ヒミコに何も言うな的な事でも言われてるのか?
いや、リディがソレを守るようなキャラには見えないが、不自然過ぎるな。


 「ちょ、ちょっと待ってくれないか。僕のせいで君達に迷惑をかけるわけにはいかない」

 「あぁ。そうだな。
 金髪にはしっかりとエムケーとの件を片つけてもらわないとな」

金髪の方を向かず、出入口近くにあった机に1枚の紙とカードを置くと、オレが一番先に病室を出た。




 「・・・リディか」

部屋を出るとすぐにリディも追いかけてきた。

 『うん。
 ・・・って、リッ君としては、ヒミコさんの方がよかったのかな?』

 「ソレはどういう意味だ。
 というか、今回は随分大人しいと思っていたが、相変わらずの返答である意味安心したよ」

 『ん〜?
 イマイチ意味が分からないけど、あの部屋に居ると色々気を使うからね』

 「リディでも気を使う事があるんだな」

 『むっ。これまたリッ君は、ずいぶんと失敬なこと言いますね。
 それじゃ、まるで私が自由奔放なマスターみたいじゃないですか』

・・・まぁ、実際そう思っているのだが、ここは突っ込まない方が話が進むのだろうな。


 「気を使うというのは、あの部屋はやはり何かに監視されているという意味なのか?」

 『え?そうなの?
 それは分からないけど、私はヒミコさんには頭が上がらないからね』

 「何か言われたのか?」

 『ん〜ん。
 今回の件ではお世話になったし、リッ君達のために色々動いてくれてるみたいだしね』

 「ソレは、エムケーとしてじゃないのか?」

 『MKとは別物だと思うよ。
 だったら、私を交えて話をする必要がないからね。
 それにリッ君は、ヒミコさんの事あまり悪いように感じてないでしょ?』

正直コレは、返答に困ってしまった。
ソレが明らかに嫉妬の表情であった事も理由の一つだった。
女性ならではの何とかというモノだとは思うのだが
ソレを演技でオレに見せる意味がない所からも、ヒミコがオレ達エリアスターの為に動いているという点だけは事実なんだろうな。
それが、エムケーにもメリットがある可能性は、もちろんあるだろうけど。

と考えている間に、リディは地下にある目的地へと進んで行った。
別に怒って先に行ったわけでもないだろうが、なんとなく後味は良くない感じだな。

そして、ソコには入れ変わるようにジュリが来た。




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リクとリディはヴェロンの病室を出て行ったが
ウチは追いかける前に、どうしても確認しておきたい事があった。

 「リクも疑問に思うぐらいだから当然だが
 リディは何故、ヒミコに対して余計な話しをしない的な事を言っていたんだ?」

 「ん〜。
 それは、マスターに聞いた方が早いんじゃないかねぃ?」

 「うむ。それはそうなんだが、ちょっと話しかけ難い雰囲気だったからな。
 ヒミコは何か知っているように見えたんだが」

 「う〜ん。多分、マスターがそうするのが良いと思ったんじゃないかな〜。
 私に対して言ったのは、私がMK関係者だったからじゃないかねぃ。
 ヴェロンは、すっかり裏切り者になっちゃったみたいだしねぃ」

 「いや、僕は自分の正義の為に動いているだけさ!
 裏切るというよりは、方向性の違いという感じだね」

 「む。そうなのか。
 さっきも言ったことだけど、ウチはエムケーという組織は全く信用していない。
 だけども、実際行動を共にした二人の事は信頼しているぞ。
 それとリクが言っていた、別れて行動というのはウチには得策とは思えないから
 ここから出る為にぜひ協力して欲しいぞ」

 「うん。ジュリちゃん。
 勿論そうするよ。僕は本当に君達を助けたいんだ!
 リディちゃんも・・・いや。リディちゃんも含めてね」

 「ん〜私はジュリ達には協力するよ。
 リクは疑い深い人っぽいからさ〜ここで納得してもらえるとも思ってないねぃ。
 その点は、ジュリに任せるよ」

 「うむ。・・・すまん。
 ああなると、リクは後に引かない感じだからな。
 ウチにもどうにか出来る気はしないが、慎重さ故の事だと思うぞ。
 あのまま行動させたら本当に別々になりそうだから、ウチも追いかけて何とかしてみせるぞ」

少しだけ罪悪感を置いて、ウチもヴェロンの病室を出た。




 「む。リク」

病室を出てすぐ近くに、リクだけがウチを待つように立っていた。

 「ジュリ。何も言わずこのままついてきて欲しい」

リディがどこに行ったのかを聞くにも聞けない雰囲気だった為か
ウチはリクの歩む道をなぞる様に、ただ付いて行く事しか出来なかった。


地下に降りるように移動すると、少し広い空間の部屋に到着した。
右手側には不自然なドーム型の建物があった。

リクがそこに入ると、引き寄せられるようにウチも続く。

 「む?」

ウチは一体何を見ているのか分からなくなった。
そこは、ヴェロンの病室そのものだったからだ。
しかし、そこにはヴェロンと医者の男は居ない。

 「ジュリ、詳しい説明は落ち着いてからで良いか?
 まず、ヒミコの所に行ってくれ」

 「うむ。いや、だが、リク。
 最低限の説明はして欲しいぞ」

リクに説明を求めている隙に、ヒミコがウチに触れていたようで、反射的にその手を弾き返してしまった。

 「ジュリ、ちょっとそれは痛いねぃ」

ヒミコの右腕の袖が数回激しく揺れていた。

 「む。すまない」

 「でも、これで準備完了だねぃ」

 「ジュリ、今は何も聞かずこの服に着替えてくれないか」

リクが出したのは薄手の全身を隠せる茶色のコートと、短髪ウイッグだった。

 「む。変装をしてここから出るって事か?」

 「エムケー関連の追手から逃れる為に、これからそれぞれ別行動をとる。
 そしてこれは、ヒミコのレコカだ。
 ジュリはリディと一緒に行動して、レコカが示す印のある場所を目指してくれ」

 「む?リディは変装しないのか?」

 「もう時間がない。ジュリ達は先に移動してくれ」

 『隊長。リッ君の言う通りにしよう』

 「ウチには、リクのやっている事がわけ分からないぞ」

そう言っているウチを、リディが強引に引っ張ってドーム型の建物を強制的に出て行く事になった。


 「リディ。これは一体どういう事なんだ!」

 『・・・私が囮になって【MK】・・・もしくは【コクガンキョウ】を引き付ける。
 そして、その隙に隊長を本当の目的地に飛ばすって策だよ』

 「リディ。何を言っているんだ!」

 『隊長は反対するだろうからって、リッ君はあえて策を言わなかったんだよ』

 「ちょっと待て!ウチはそんな策に乗れないぞ!」

 『隊長。ノれるノれないって話をしている場合じゃないんだよ。
 スリックさんの情報で、MK幹部の一人とその仲間がこのタブに近づいている事が分かったからね。
 これ以上この町に居たら、手遅れになるかもしれない』

 「だが、なぜリディが」

 『私が、リッ君や隊長を守る。
 それに、リノちゃんもいるから残っても一人じゃないし。
 だいいちね、私はマスターだもの。隊長の力技よりは若干頑張れるんだよ』

 「む。リディに守られるようになったら、ウチはなんというか」

 『うん、いや、それまでは隊長に守ってもらいますから。
 だから、大丈夫ですよ』

 「・・・ウチが反対すれば、おそらくリク達にも迷惑がかかるって事か。
 納得はいかないが、ウチに出来る事は全てやるぞ!」

 『うん。よろしくです〜』

リディの持っているレコカが道案内をしているようで
先程入った地下の入口とは別の場所から部屋を出ると、そこには小さなエレベーターがあった。
すぐ乗り込んで1階へ上がると、そこは外への出口に繋がっているようだった。
薄暗い駐車場のような空間であり、奥に光だけが見える。

 「この奥から外に出るのか?」

 『うん。そうみたいだね』

奥の光に誘導されるように進むと、途中で一つの人影が見えてきた。

 「シシ。後はわたシの運転に任せとけ」

 「む。」

 『シィードさん』

ヴェロンの病室に居た医者が、この駐車場で待っていた。

 「ここにあるのは、病院の公用ナビ職だから心配せず乗ってくれ」

 「う、うむ・・・」

 『シィードさんも私達と一緒に行動するんですか?』

 「シシ。シんぱいかい?
 遠回りをシながら連れていくけど、問題ないだろ?お?」

 「む。答えになっていない」

 「シシ。少シ前までMKに居たヒミちゃんの策だ。
 MKの裏をかくには一番の適役だからなぁ」

 『隊長。大丈夫だよ。
 これもリッ君了承済みだから』

 「・・・そう、なのか」

色々釈然とはしないが、だが、今はリディを信じよう。
万が一の時はウチが守ればいいだけだ。


不安を持ったまま
ウチ達を乗せたナビ職の車は、光のある病院の外へと出ていった。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




真相の話。



オレはヒミコと共に、地下の安置室に残っていた。
リディと、ジュリはシドの案内で既に外に向かった頃だろう。


 「リディ達を先に行かせたのはどういう意図だ?」

 「そうだねぃ。
 一つはマスターの動きを見ている人達の動向を探るって事かねぃ。
 もう一つは、マスター"ちゃん"からリクを取り上げたかった、からかねぃ?」

 「それは、どういう意味だ」

 「いやいや〜、フカイ意味はないんだけどねぃ。
 まぁ〜冗談はこれぐらいにして、脱出までの流れをおさらいするかい?」

 「・・・まず、この病院全てに監視はつかないって話だったよな。
 オレの病室は、あらかじめシドが指定していたおかげで、一般病棟だったそうだが
 ヴェロンの病室は他とは違う"特別病棟"で、その指定をしてきたのは当然に病院側。
 シドも自身の治療で別の病室に居たから、指定する事が出来なかったと言うわけだな。

 ここから察するに、病院側は新種のオレ達エリアスターを監視している可能性は高い。
 あと、シドはここの専属医師ではないので、病院のセキュリティ関連は完全には分からないって話だったな。
 オレやヴェロンの治療は、シドが直接行ったわけじゃないが、きちんと行うようにスタッフとして立ち会っていたんだよな。
 で、リディにはシドから話をしているわけか。それにしてもよく言う事を聞かせられたな?」

 「う〜ん。私もそこは気になってるんだけどねぃ
 シドさんは"先生"だけに、きちんと指導出来てるんじゃないかな〜?」

 「ソレは別の意味の先生、だな。
 オレもリディの考えはよく分からんから、深く考えるだけ時間の無駄な気がするな。
 で、話を戻すが、リディには特に監視が入る可能性が高いから、シドとヒミコの過剰な牽制で喋らないようにプレッシャーをかけたという事か。
 そして、ヴェロンの病室に居たヒミコとシドは、複製(クローン)。
 このナビ職の建物内で、オレとジュリの複製(クローン)を作る為に、ヴェロンの病室でのアリバイ作りの為に必要だったわけか。
 レコカでここに来るように指示が出るまで、ヒミコの複製(クローン)にも気が付かなかったけどさ
 そもそも、監視の病室での回りくどい演出は必要だったのか?」

 「私も、ヴェロンの病室に監視があったかは疑心暗鬼だけどさ〜。
 でもさ〜仮に監視されていれば、この後の囮も含めて効果があると思うんだよねぃ」

 「ソレは、リディだけ変装をさせなかったという点もか?」

 「う〜ん。これはリクが怒りそうだから言わなかったんだけど、実は全く関係ないんだよね。
 それに、MKはともかくコクガンキョウならばマスターの変装も見破りそうだからねぃ。
 だから、マスター"ちゃん"だけは、そのままにしたんだよね」

 「別に、怒らないけどな」

 「ふ〜ん。じゃあそういう事にしとくけどねぃ
 この後、デントに行く事を病室で話している以上は時間が、ないんだよね。
 それと囮って、ここで作った複製(クローン)のリク達の事だしね。
 そっちにはヴェロンが一緒に付いていく形になってるんだよねぃ」

 「・・・これも病室で言った通りで、オレは金髪についてはあまり信用出来てない。
 こういうネタバラシをしている、ヒミコやシドの事も、な。
 というより、疑って行動しないと先で追いつめられる事もあるって意味でな」

 「いや、それは中の上だねぃ。別に、気にしてないしさ〜。
 私とMKとの繋がりが完全に無くなったなんて証拠も何もないからねぃ。
 でも、ほんの少しだけなら、私でも支えぐらいにはなれると思ってるんだけどね。
 いやまぁ〜そういう疑いを持って行動する方が危機回避できる可能性も高いって感じかねぃ」

 「・・・。
 話が随分とズレたな。
 時間も惜しいし、残りの話は目的地に進みながらにしよう・・・
 って、ちょっと、おい」

 「ん?何か変かい?」

ニット帽を深めに被り、つけヒゲで変装の準備を終えていたオレの横で
さも普通にヒミコが着物を着崩し始めた。

勿論、直ぐ様後ろ向きになったが
以前は羞恥心がある行動取っていた気もするんだが、どうなってるんだ。

 「う〜ん、リク。
 生着替えは照れるから直視できない系かねぃ?」

 「な、何を、言ってるんだ」

 「今回は着物の中に、ちゃんと服を着てるから大丈夫だねぃ」

・・・。
一呼吸を置いてゆっくりと後ろを振り返ると
確かにキャミソールとショートパンツを組み合わせたポニーテール姿の体育会系の"子供"がソコにいた。
いや・・・本人の前で子供っぽいと言ったら、多分・・・怒られるだろうな。

 「ん?でも、あんまり見ないで欲しいねぃ。
 この格好は、結構恥ずかしいんだよね〜」

・・・と言ってる割には、お気に入りのように身軽そうな動きをしているように見えるんだが。
普段着物姿なのは、恐らく大人しく見えるようになのかもしれんな。

 「なぁ、ヒミコ。
 流石にその格好は、季節感無視している感じがあるんだが」

 「勿論、上着を羽織っていくけどさ〜
 こう、なんていうか解放感みたいなものがあるんだよね〜」

・・・。
それなら、着物より楽な服を着たらいいと思うんだが
これも言わない方がいい予感はするな。

 「オレ達は表入口から堂々と出ていく・・・で良いんだよな?」

 「ん〜?リクは裏口の方がお好みかねぃ?」

 「好みとかそういう話じゃないんだが・・・」


そんなわけで
周りの看護師や医師等に、軽蔑した目線で見送られながら
オレとヒミコもタブの病院を出た。




 「ヒミコのマテルについて聞いていいか?」

目的地を目指し、歩きながら時間潰しをする。

 「ん〜答えられる部分と、秘密な部分があるけどねぃ」

 「複製(クローン)のマテルで出来る事は、人や物を複数作り出すって事か?」

 「ん〜そうだねぃ。
 マテルを使う人次第だろうけどさ〜、私は同時なら5人ぐらいが限度かな?」

 「・・・複数の人物を同時に自由に動かす事も出来るのか?」

 「それは無理だねぃ。一定のセリフを命令させて喋らせる事は出来るけどねぃ。
 シドさんが最初以外リクには絡んでこなかったのも、そういう事だねぃ」

そう言われると、確かに途中からは、ほとんどヒミコと絡んでいた気がするな。
連動させる命令なら、複数の人物でも可能という事なんだろうか?

 「同時が無理となると、複製(クローン)が金髪と共に行動させるのはどうするんだ?」

 「同じ目的の行動なら複数の人物も関係ないんだよねぃ。
 違う姿を維持させるのにマテルを使うだけで、行動自体に労力を使わないからねぃ」

 「便利なような不便なような感じだな。
 逆に自分自身だけを複製(クローン)として使った場合は、行動させる命令も複雑にできるのか?」

 「う〜ん。リクの考える複雑っていうのとは違うかもしれないけどね、人工知能程度には行動させることは出来るねぃ。
 煙管のブレイカーも使えば、オリジナルの私と変わらないかもねぃ」

・・・やけに色々喋ってくれている印象を受けるが
複製(クローン)のマテルについては秘密にするまでも無いって事なのか?


 「う〜ん。リク。
 変に警戒しないで聞いて欲しいんだけどさ〜
 早速、追跡者が後ろに来たみたいだねぃ」

 「・・・よく、分かるな」

 「MK時代の名残っていうかさ〜、気配を察知するのは得意分野、なんだよねぃ」

後ろを向こうとすれば、違和感ある行動になるだろうから
ヒミコの言う通りにしている振りは必要だな。
追跡者とやらがエムケー関係者である可能性は十分にある。

 「で、どうやって撒くんだ?」

 「う〜ん。私達の会話は聞こえない程度の距離を取っている感じだけどさ
 ちょっと人気のない方向に進んでみるかい?」

 「それは・・・大丈夫なのか?」

 「追跡者次第だろうねぃ」

ヒミコの子供ぽい表情が、更に子供クサく見えた笑顔のせいで
それがオレに更なる緊張感を与える事になった。


 「リクがちょっと警戒した事で追跡者も警戒しちゃったかな?」

 「どういう状況になったんだ?」

 「人気がない方に進み始めた途端、追跡者が付いて来なくなったねぃ」

 「・・・オレのせい、か?」

 「いや〜どっちかというと、追跡者の仲間がいる方に
 私達が誘導させられたって考えの方があってるかもねぃ」

そう言ったヒミコのやや左斜め前方から、赤髪の小柄な男が歩いて来る。


 「あ〜なんだ、お前ら二人さ、ちょっといいか?」

表情が見えないサングラスをかけた赤いオールバックの小男は
職務質問風に、レコカ風の警察手帳のようなモノを形式に見せると、まずはヒミコの方を向いた。
ヒミコよりは明らかに大きいのだが、オレにはその光景がまた子供の喧嘩のように映って見えた。

 「コクガンキョウさん。パトロールお疲れ様ですねぃ」

 「ん〜」

今度をオレの方を向いている。
表情は全く読めないが、腕を組んだ状態でヒミコとオレを交互に見て若干悩んでいるように見えた。

 「なんだろうな〜、その、アレだ。
 不純異性交際ってヤツなら、ちょっと警察まで来てもらわないといけなくなるんだが」

・・・はい?
まさかと思うが、ヒミコとオレが付き合っているように見えて
且つ、ヒミコが子供クサく見えてる事がこのコクガンキョウの勘違いの原因なのか?


 「う〜ん。コクガンキョウさん。
 それはそれは〜とっ・・・てっも、失礼な質問を問いかけられていると思って良いのかねぃ?」

ソレを聞いてか、オールバックの小男は軽く頭をかいた。
そして、ヒミコからの妙な殺気をオレと同様に感じたようだ。

 「んん?
 な、なんか君は妙な迫力があるね。
 だとすると・・・君は彼の妹なのかい?」

 「いや・・・違うが」

苦笑いしながら代わりに返答しておいた。
やはり、ヒミコに子供クサい的なキーワードは禁句のようだ。

 「ま〜、どういう関係は後で聞くとしてだ
 最近さ、君達のような新種がね、色んな所でマテル犯罪を起こしてるとか起こしてないとか
 うん、そういう話が出てるわけなんだ。
 もしかしてさ、マスターと一緒に行動したりなんてしてないよな?」

・・・このコクガンキョウは、ピンポイントでオレ達を狙ってきたのか?

 「ふ〜ん。
 マスターと一緒だとマテル犯罪を起こしちゃうって感じなのかな?」

 「あ〜、そういう事じゃないんだよな。
 相棒がな、マテリアルっていう警察と、ちょっといざこざをやってな
 他のエリア警察が居るって事は、つまりはここにマテリアルが管理するマスターもいるって可能性があるって事でな
 しらみつぶしに尋問という仕事をしている"てい"で、新種達に話を聞いてるわけだ」

―と思ったが、適当に新種に聞いているってだけのようだな。
しかし、ソレがオレ達を見つける近道って事でもあるのだろうけどな。

 「これは、下の下だねぃ。リク。
 私達はすっかり囲まれてるねぃ」

ヒミコの言う通り、後ろを見ずとも人の気配を感じ取った。
そして同時に、その背後からオレのニット帽を掴みながら顔を強引に後ろに持っていこうとする人物と目が合った。
いや、厳密にはその人物もサングラスをしているから目は見えていないのだが。


 「ヴァン。ビンゴだゼ。
 こっちは変装してるが、スリックが気絶させた奴に間違いないゼ」

スリックと変装という言葉でオレの正体がばれた事を完全に認識し
ニット帽を脱ぎ捨てるように手で振り払い、赤髪の小男を背にする形で振り向いた。

 「おっと、警察に抵抗するってなら公務執行妨害だゼ?」

目の前にはスキンヘッドの、やはりサングラスした大男が立っており
奥にも数人のサングラスをした部下が待ち迎えている状況だった。

 「どの世界でも、都合良い公務執行ってモノがあるみたいだな」

 「新種にとってはそう映るのかもしらんが、事実は違うんだゼ。
 さて・・・
 って、なんだよっ」

随分と大きな独り言を言う大男だが、懐からレコカを取り出す行動をしたのと同時に表情が曇った様に見えた。

 「ヴァン!見たか?」

 「ん〜、これは緊急なんとかってヤツだな」

 「エレメンタルのボスが本格的に動き出したって事はよ
 こんなザコ新種を相手してる場合じゃなくなったゼ」

オレとヒミコを挟んで二人のコクガンキョウが会話を続ける。
それにしても、【エレメンタル】というキーワードは比較的最近"見た"記憶があるんだが・・・
確か、海賊の一人だったか。


 「おい、この新種はお前らに任せるゼ。
 その後は本部のマトラさんの指示に従うといいゼ」

 「なんだ・・・その、ウエッド。
 一緒に行かないと、ダメか?」

 「ヴァン。いい加減そのサボり癖直してほしいんだゼ」

そう言い残すと
コクガンキョウの大男は、部下にオレ達を任せて忽然と居なくなった。


 「ヒミコ・・・この状況は」

 「う〜ん。まだ下の下だねぃ。
 上司クラスの人が別件で居なくなったのは助かった感があるけど
 それでも、リクの目の前には10人ぐらい居るんじゃないかな?」

 「ああ。ヒミコの方にはいないのか?」

 「こっちには、まだ赤髪の人が残っているねぃ。
 なんか嫌々任務に行こうとしている感じだけどさ〜」

・・・会話を聞く限りだと、明らかにサボろうとしているようだが
マテリアルにしても、この世界には癖のある警察関係者しかいない様に感じる。

一呼吸したヒミコがこちら側に体を向き直したという事で、赤髪の小男も移動したようだな。
さて、ここからどうしたものか。

しかし、オレの不安とは反対に、残っていた筈のコクガンキョウの人数が幾らか減っている事に気付いた。


 「コレは、どういう事だ?」

 「う〜ん。これは流石に私にも分かr・・・
 いや〜、この機会に目的地へ急いだ方が、いいかもねぃ」

どうにも理由が分からない行動だ。
それとも、ここに残っていたモノ達は、あの上司の命令に従う気がないって事なのか?
コクガンキョウの内部分裂なのかは分からないが、コレはこの場から離れるチャンスだ。



走らないように、だが急ぎ足で、オレ達は目的地へと喋りながら進む。

 「う〜ん。妙なマテルだねぃ」

 「ん?あの謎の解散劇は、マテルの影響って事か?」

 「多分ねぃ」

 「ヒミコは何か知っているようだな」

 「いや〜、知っているわけじゃないんだけどさ〜
 ああいう不自然な行動をするって部分での推測だけどねぃ。
 それも蓋し私達と同じ新種だろうねぃ」

 「警察の一員に、エリアスターが居たっていうのか?」

 「う〜ん。それも気になるんだけどね〜。
 本当はさ〜コクガンキョウが私達の方に来る予定じゃなかったんだよねぃ」

 「どういう意味だ?」

 「いや〜私の読みが甘かったって事なんだよねぃ。
 私達が先に目的に進もうと見せかける事でさ〜、後から病院を出る複製(クローン)を引き連れたヴェロン達が本物だと
 相手に勘違いさせたりする予定だったんだよねぃ。
 ようはさ、私達の方が囮だと勘違いして、複製(クローン)の方に誘導されるって形をイメージしてたんだよねぃ」

 「いや、コクガンキョウがこちらに引き寄せられたってだけで
 エムケー関係は金髪の方に行っているかもしれないけどな」

 「う〜ん。それは下の下なんだよねぃ。
 出来れば逆にMKがこっちに来て欲しかった、んだよね」

 「それは、金髪がエムケーを裏切った風な部分と関連してそうだな。
 第一、スリックが言ってた話だと、エムケーがここに来るのはまだ先なんだろ?」

 「それは、そうなんだけどねぃ」


いまいちヒミコの想像していた形が掴めないが、
コクガンキョウと絡んだのはあまり良くないという事なのか分からないが
囮に見せかける予定のオレ達側に、コクガンキョウは素直に釣られてしまったという事なのだろうな。


予定外な流れにはなっているようだが
オレ達は、目的地である喫茶店風な建物の前に、無事到着していた。






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