27
ギフト



オレは病院の一室と分かる白い空間のベットの上で目を開けた。
側には、着物から薄桃色のナース服にやはり衣替えをしていたヒミコが
看病をしていた人風に、ベットにうつ伏せに寄しかかって眠っている。

どれだけの時間気絶していたのだろうか、この状況を把握出来るまで数秒を要した。
どうやら、オレはヴィルに勝って生き残った・・・らしい。

この風景は、タブの病院に来た時を思い出す。
着物姿だったヒミコがナース姿になっており、オレの看病をしている風である事。
ただ、大きく違うのは、オレはヴィルを・・・

いや。
本当に、手にかけたのか?
きっと、誰かが颯爽と現れて、ヴィルだけを連れ去った。
そして、オレは左肩の怪我による痛みで気を失ったん・・・

いや。
左肩に痛みがほとんどない。

痛みを和らげる例の包帯が使われているようだが、直ぐに治る程度の怪我では無かった筈だ。
回復した理由は分からないが、こうして生きている以上

やはり、オレは・・・


 「ヒミコ。オレは何日寝ていたんだ?」

 「ん?・・・リク。
 目が覚めたんだねぃ。良かった」

ヒミコは起き上がると、子供をあやす様にオレの頭を軽く撫でてきた。
オレは少しして、顎をやや下げるとその動きに逆らう。

 「あ、いや。看病してくれてありがとう。
 で、オレはヴィルと戦った後どうなったんだ?」

嫌がったと勘違いされないように、オレなりの不自然なフォローをしていた。
その行動も含め、ヒミコは悟った様に目を伏せた。
だが、すぐに納得したように顔を上げた。

 「・・・やっぱり、聞きたいのかな?」

 「あぁ。オレは知っておくべきだ」


 「・・・私"も"全てを見たわけじゃないから、リクが知りたい事を話せるか、自信はないけどねぃ」




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私がシドさんを安静にさせて安置室に戻ってきた時には、すでにリク達の戦いは終わっていたみたいなんだよねぃ。


 「スリック。状況はどうなったんだい?」

 「あぁ・・・。ヒミか。
 というか、入口は開いてるから自分で確認しなよ」



スリックは、こういう時にそっけない態度を取る人だとは知ってたからさ
言いたい事を押し殺して、ナビ職に向かったんだよね。
それでさ、あの手のナビ職は内側からじゃないと出入口は出来ない仕組みだから
リクかヴィルのどちらかが開けたって事になるんだよね。

ところでリクは、自分で開けた記憶がないのかい?


・・・うん。
覚えてないよ・・・ねぃ。
ナビ職の中に入って最初に見たリクは、まるで敗者の様な姿だったからねぃ。
うつ伏せで左肩からは異様な量の血が流れていたんだからね。

そのリクの上には剣山の様な壁があってさ
ヴィルの肉体が、まるで展示されているかのように・・・突き刺さって、たんだよね。

どうやってヴィルが刺されたかは想像したくないけどさ・・・
ちょうど向かい側の一部の壁だけ剣山が無くなっていたんだよね。
多分ヴィルは、そこにあったはずの剣山にリクを刺そうとしたんだろうけど、刺される前にリクが解除したという感じ、なのかな。

突き刺されそうになった記憶はないのかい?


・・・うん。
そのあたりから記憶が残っていないのかい?

リクの話も含めて想定するとだねぃ、ヴィルはリクを捕まえて背中を串刺しするように移動のマテルを使ったんだろうけど
刺される瞬間、リクは無意識の内に、自身周辺の剣山だけを解除したんだろうね。
その後、逆にヴィルを掴んで反対側の剣山の方へ向かってリクが移動のマテルを使ったんだろうね。
だけど、移動途中でリクは完全に意識が飛んでしまった・・・って感じかねぃ。

この結果は、ヴィルを殺そうとして行ったものじゃないと思うんだよね。
殺されそうになって、無我夢中で働いた防衛本能だと思うんだよね。


・・・うん。
でも、そうなると不自然なのは、どうやってナビ職の入口を開けたのかって事だよね。
リクは気を失い、ヴィルは命を落とした。
通常ならば、この状態だと入口が開く事はないんだよね。
だから私は、その点をスリックに確認したんだよね。




 「というか・・・ヴィルというマスターが仕組んでいたとしか思えないね。
 自分の命を落とした時点でナビ職の入口を解除する程度なら十分可能だしね。
 という事で具体的に言えば、生命反応が二つになった時点で扉を閉めるという命令をするだけで
 どちらかが死んだ時には再び扉が開くって事になるよね」

 「なるほどねぃ。
 それなら勝手に入口が出てくるのも、納得出来るね。」
 
 「でもね。
 というか、ヴィルはこの準備をする余裕が無かった筈なんだよね。
 というわけで、ヴィルとリクがナビ職に入っている間に幾つか調べていたんだけどね
 ヴィルは端からシドを探しにデントやタブに来ていたらしいんだよね」

 「ん〜。中の下だね。
 もう少し事前に分かってそうな気もしたんだけどねぃ?」

 「というか、ヒミがそう感じると思ったから、あえて話をしてるんだよね。
 おれが事前にヴィルの情報を掴んでいたら、少なくともリクはここに連れて来ないようにヒミに伝えてるよ。
 何よりヴィルを足止めする為にリクを"けしかけた"のが、おれだしね」
 
 「知ってて"けしかける"っていう方法も、あるんじゃないかな?」

 「というかおれは、相当信用されてないね。
 ヒミのマスター嫌いも影響してるんだろうけどさ、こればっかりは信じてもらうしかないね。
 という事で話を戻すけど、ヴィルはこうなる事を想定して準備が出来ていたように見えるんだよ」

 「うーん。スリックは変な事を言うね。
 それだと、ヴィルは自分が死ぬ事を分かっていたみたいじゃないかい」

 「というか、仮に死んだとしてもリクにトラウマを残させれば良いぐらいに考えてたのかもね。
 ヴィルは、おれのマスターの事を好んでいたらしいし、ましてリクはギフト候補だ。
 本当はリクの意識が飛ぶ予定じゃなかったんだろうね。
 というわけで、リクとしては気を失った事が最低限の幸運って事だろうね」

 「考えが下の下だねぃ。
 ・・・リクは、マスターから引き離しておきたいね」



という感じでね、言葉があまり良くないスリックだけどね
最低限の応急処置をリクにしたから、その左肩の傷も大きな損傷にならなかったんだよね。
その点だけはスリックに感謝していいと思うよ。
ただ、応急処置はしていても治療は必要だった怪我だからさ
ナビ職とヴィルの事はスリックに任せて、リクをこの病室に運んだって感じなんだよねぃ。

ただ、シドさんは意識は戻ってたけど動けない状態だったから
リクの治療が行われたのは半日以上経ってからなんだよねぃ。
こればっかりは、流石に新種の扱いって感じだけどね。


そして
それから4日間眠り続けていたんだよねぃ。




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 「4日間、だと?」

 「私が丸1日眠り続けてない限り、そうだねぃ」

4日間眠り続けたという話をされても信じられない状態だが
左肩の回復具合を考えると、数日経っているというのは間違いないのだろう。


 「あの医者は大丈夫なのか?」

 「シドさんなら、まだ現場には立てないけど元気そのものだねぃ。
 でも、リクはそういう点も気にするんだねぃ?」

からかわれている感じはあったが、ソレを否定するつもりもない。

 「いや、オレが嫌な気分になるだけだ。
 これ以上、弱いオレのせいで被害を負う人を見たくないだけだ」

 「うーん、リク。それは下の下だねぃ。
 シドさんが聞いたらぶっ飛ばされてるセリフだねぃ。
 リクが居た世界の事は分からないけどさ、自分の弱さを言い訳にするのは最低だと思うけどね」

 「あぁ・・・その通り、なのかもな。
 弱いから命を奪うだけの結果になったんだろうし・・・」

 「・・・」

ヒミコは何も言わなかった。

そして、明らかに表情が変わった。
これまでも我慢をしていた表情を隠していたのだろうが、その歯止めが解けてしまったように見えた。

冷静に考えられる心理状態ではないという言い訳は出来る。
だが、それでも今のオレは最低だ。
それとも、慰めて欲しくて弱い自分を出しているだけなのかもしれない。
ヒミコはソレも見透かしている感じで見ている気がする。


 「一人に・・・
 いや、その前にジュリ達は何処に居るか分かるか?」

 「・・・うん。ジュリ達はもうここに来てるよ」

 「そうか・・・」

 「呼んで、来るかい?」

 「・・・あ、あぁ。よろしく頼むよ」

それを聞くまでもなく、ヒミコはオレから逃げるように部屋から出て行った。


やはり、今のオレは最低だ。




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数日前。


リクとヴィルの戦いが終わって数時間後。
一つのナビ職がタブ近くまで進んできていた。

 「うむ。確か、このままタブに入るのはダメだったんだよな?」

 『じゃあ、そろそろ降りますか』

リディ、ジュリレスターと気を失っているヴェロンの3人は、MKのナビ職に乗ってタブの入口付近まで来ていた。
リディ達の当初の目的は、リクと再会する事ではあるが、ヴェロンが目覚めない状況の為
病院を探すという方向に変わっていた。

ジュリレスターがヴェロンを背負ってナビ職から先に降り、リディもその後に続くと
ナビ職をボール型に変化させた。


 『隊長は一度、タブの町に来てるんだよね?』

 「うむ。
 だが、その時は夜だったから、いまいち町の位置関係がつかめてないぞ」

 『明るい方が分かりやすいと思うけどね〜。
 とりあえず、病院を探そう』

話が噛み合っていないのはこの二人の会話ではよくある事で
ここでも特段"問題なく"話は進んでいく。


 「リディ。病院探しの件だが、ウチのような新種が居ると、多分断わられると思うぞ」

 『ん〜。でも、この金髪君もエリアスターなんだよね?
 影響があるとすれば、治療費をぼったくられるぐらいで、ヤブな病院じゃない限り病人はお断りしないものだよ』

 「うむ。そうなのか・・・。
 だが先に、リクと連絡を取った方が良いんじゃないか?」

 『残念ながらリッ君のレコカは通信屋仕様(レトロ)だから、
 こちらの情報を見れても通信屋の機械がないと返信が出来ないんだよね』

 「うむ。確かそんな話だった気もするな。
 だが、待っていてもしょうがないぞ。やれる事は全部やっておくべきだな」

 『ん。確かに隊長の言う通りだね』


リディ達は病院探しの前に、通信屋でリクに情報を送る事にした。
リディが病院を探し、ジュリレスターが通信屋で情報を入れるという、分担作業でも良かったのだが
ヴェロンをリディが背負って移動できない点、ジュリレスターがレコカの情報操作に慣れていない点から
まずは、通信屋に行く事を決めたらしい。

その通信屋には、それを見通していたかのように一人待ち構えている者がいた。


 『あ、スリックさん』

 「・・・む!」

リディとジュリレスターは真逆の反応をした。
そこで待っていたのは、ヴィルの処理を終えて先にこの場に来ていたスリックであった。
リディはマテリアルであるスリックの事は当然に知っていたが
ジュリレスターは、ウエブでリクと出会うきっかけになった窃盗犯のハリネズミ頭の男として認識していた。

 「リディ、この男を知っているのか?」

 『うん。マテリアルのスリックさん。
 って、隊長も知ってるの?』

 「リディ。その男は窃盗犯だ」

窃盗犯というキーワードでスリックが軽く笑った。

 「というかその件では、君に悪い事をしたね」

 「む。何がおかしい」

 「というか、あの状況じゃどう考えてもおれが犯罪者になるからね。
 言い訳をするつもりもないけど、君は雑貨屋の店主とも知り合いだろ?」

 「む。お前もグルーブの仲間なのか!」

 「というか、君には理解してもらえないかもしれないけど
 悪人を炙りだすっていう邪道なやり方の為には
 悪人側にもツテを作る必要があるんだよねぇ」

 「うむ。全く理解できないな!」

 『あ・・・いや、その。スリックさん?
 何かしでかしたんですか?』

 「というかね。
 リディと彼女を引き合わせる為に、おれがちょっと悪人を演じたってだけだよ」

ジュリレスターはその"説明"に全く納得している表情ではなかったが
それでも、スリックがエリア警察である事が分かったせいで
手も出せない状況になった事を察知して、目を背ける事で精一杯の抵抗をした。


 『スリックさん・・・もうちょっとやり方は何とか出来なかったんですか?』

 「というかおれは、リディを守る事が最優先なんでね。
 彼女に恨まれても、それはそれで良いんだよ」

 「む・・・」

 『私としては心強いですけど・・・
 あ、スリックさんが来てくれてちょうど良かったというか、ちょっとした事故がありましてですね。
 誘拐された時にですね、ちょっとリノちゃんがですね・・・』

そう言うと懐から一部が壊れたナビ職のトリノを取り出す。

 「というか、ナビ職の件は通信エラーもあったから知っていたけど
 ここに来るまでそれなりに苦労していたようだね。
 ジュリレスターもありがとうな」

 「う、うむ・・・」

ジュリレスターは表情は相変わらず冴えないが、それを想定していたようにスリックはナビ職を手にして、また笑った。


 「という事でナビ職はこっちで治療するとしてだね、ジュリレスターの背中で気絶している男は結構重症のようだね」

 『そうなんです。
 金髪君も私を助けるために戦ってくれたんです』

 「というか、治療費についてはオレがどうにか出来るものじゃないけど、病院だけなら紹介できるよ。
 リクもそこにいるしね」

 『そうなんですか!ぜひそこに』

 「うむ」

 「というか病院には行けるけどね、リクも重症でね、すぐに再会は出来ないと思うよ」

 『え?リッ君も戦ってたんですか?
 それはストーカー君ですか?』

 「というかストーカーっていうのが誰の事か知らないけどね、マスターのヴィルだ」

 『私を誘拐したマスターです。でも、戦う事になってるなんて・・・』

 「うむ。リクが好んで戦いをするとは思えないぞ」

 「というか、ジュリレスターも会った事のあるヒミもそこには居たんだけどね。
 状況的にリクとヴィルの一騎打ちになってしまったという事だね。
 話は向こうでも出来るだろうから、まずは病院に行こう」

リクに再会出来るという事で通信屋に行く目的が無くなった為
そのままスリックは三人を連れて、リクの居る病院へと進んでいく。


病院に着くなり、ヴェロンを一時病室に移動させるが、"当然の様に"治療は後回しとなっていた。
その間、残った二人はリクの状況をスリックから聞く形となった。


 「というわけで、リクは別室で治療を終えて休んでいるらしいけど、今は面会謝絶らしいね」

 『そう、なんですか。
 でも、休んでるなら大丈夫だよね』

 「む。ヴェロンは、まだこのままなのか」

 「というか新種も関係なしに治療してくれる先生が怪我をしてるせいでね
 暫くはこのままのようだね。
 とはいえ、看護師の人も居るし、命を落とす事になるって事はないだろうね」

表情を一つも変えないナース服の看護師が、一応ヴェロンの状況を見ている風であった。

 「という事で、おれはナビ職の治療の為に一度本部に戻るよ」

そう言って、スリックはナビ職のトリノを手にして病院を出て行った。



 「ウチ達も此処で休んで大丈夫なのか?」

 「・・・病室代を三人分請求するだけです。ベッドも別料金で用意できますが」

無表情な看護師がジュリレスターに問いに無機質なトーンで回答した。

 『うん。ダイアも程々あるし、お願いします』

リディとジュリレスターは特に代金の確認もせず、ヴェロンの病室で休息する準備をしてもらっていた。
それも数分で終わると、先程の看護師がやはり表情を変えずに一言告げる。


 「マスター以外、病室代は先払いでお願いします。なお、治療費は保険がきかないとの事です。
 病室代は一人頭、一日100万ダイア。
 これはマスターの一員、シィード医師の関係者という部分を考慮しての破格の金額との事です。
 なお、治療費は別となっています。こちらは治療後の支払いで良いとの事です」

 「むむ」

 『うん。治療してもらえるだけありがとうです。
 ・・・ところで、隊長。シィードさんって人も知り合いなの?』

 「いや、ウチは聞いた事はないがリディの知り合いかと思ったぞ」

 『じゃあ、スリックさんの知り合いって事かも』

 「その事なんだが、リディ。そのスリックというエリア警察の者は信用出来るのか?」

 『隊長とは初対面で悪印象だったみたいだね。
 でも、私と居る分には問題はない人だよ』

 「む。・・・そうなのか」

 『無理にスリックさんに合わせなくてもいいけど
 でも、意外と一番警察っぽい行動をしてるのがスリックさんかもね』

 「ウチには理解できないな」

 「すみませんが、前払い金の病室代300万を支払ってもらえますか?」

二人の会話に少し申し訳なさ気な声で、ナース服の看護師が割り込んだ。


 『あ、そう言えば財務大臣さんはリッ君だっけ・・・』

 「む。それじゃ病室代はどうするんだ」

 『う〜ん。
 い、今、別室にいると思うんですが〜リッ君という私の仲間がダイアを管理してるんですよ。
 こんなんで、支払いをするのは非常に困難というか・・・』

 「・・・別室のリクという者は、治療後未だに目を覚ましていない状態と聞いております。
 一応、付添いの者がいるので、その者へ確認をさせます」

そういうと携帯電話の様な通信器具を取り出し、看護師は現在の状況を伝えた。
何やら揉めている様にも聞こえたが、その表情は仮面のように変化する事はなかった。


 「どうやら、代人が先に代金を支払っているとの事です。
 リクという者が目覚めた時に、まとめて請求をするという事なので安心してくださいとの事です」

 『スリックさんはこういう事する人じゃないし、一体誰なんだろう』

 「む。安心と言えるのか?」

二人には若干の不安を覚えたが、それでも病室代の前払いの件は何とかなる事になった。

ヴェロンは気を失った状態だったが命には別条がない様ではあった。
ただ、実際治療が行われたのは病院に来てからほぼ1日経ってからであった。

それでも二人は、治療してもらえるだけ感謝な気持ちであり
新種の待遇について疑問を持つ事はない。
このような扱いを受けても問題にならない人の事を、新種扱いするのである。




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数日後の現在。

ヒミはジュリレスター達を呼びにヴェロンの病室に来ていた。
ヴェロンの治療は終わっている状態だが、彼もまた目を覚まさない状態であった。
体力などの点からリクよりは回復能力が高いはずなのだが
それでも意識が戻らない程の怪我であった。

逆に言えば、リクが同等のダメージを受けたとすれば、
今頃肉体だけを置き去りにして、このご都合的な世界から旅立つ事になっていたという事でもある。


 「ジュリ・・・とマスター。
 リクが目を覚ましたから会いに行くかい?」

 「本当か。
 よし、リディ行くぞ」

 『う、うん』

 「む?どうかしたのか」

 『い、いや〜ちょっと待たせ過ぎって感じだったし。
 よし、行きますか!』


リディの微妙な態度を気にしつつもジュリレスターが先に部屋を出る。
その空気を作っていたのはヒミであり、リディが部屋を出るまで無言の圧力を目から発していた。

ヒミが後ろから案内する形でリクの病室へと進む。
部屋の近くまで来ると、ヒミは別の用事があるのであとで合流すると言い残し
その場から居なくなった。


 『ヒミコさんだっけ・・・。
 あの人、私に何か恨みでもあるのかな?』

 「ヒミコはエムケーの者だからだと思うぞ」

 『あぁ。それは良い顔はしないよね。
 でも、それだと隊長もMKに誘われて入ったって事?』

 「いや、ヒミコはエムケーの者に違いはないが
 ウチ達をエムケーの本部に行かせず、この町に連れて来てくれたんだ」

 『う〜ん。この行動もMKの思惑って事なのかな。
 でも、分からない事は考えてもしょうがないよね。
 リッ君にまずは会おう』

 「うむ。そうだな」


病室のドアを開け二人はリクと再会する。
しかし、中々二人はドア付近から動こうとはしない。
正確には、前に居るリディが動けなくなっていた。


 「ん?オレと違って元気そうだな」

 『・・・うん』

 「んん?
 ジュリ。このマスター何かおかしなモノでも食べたのか?」

 「いや、リディはリクを心配してn」

 「いや。冗談だよ。
 とりあえず二人とも中に入ってドアを閉めて・・・
 ヒミコは一緒に来なかったのか?」

 「うむ。用事があるとかで後でこちらに来るそうだ」

 「・・・そうか。そうだろうな」

 「む?」

二人はようやくリクのベッド付近まで移動する。
しかし、ジュリレスターはヴェロンの病室の時とはまた違う空気を感じ
リクとリディの様子を交互に見た後、再びドアの方へと戻った。

 「な、なんか喉が渇いてしまってだな。二人は何か飲み物いるか?」

 「オレは特にいいが・・・リディはどうする」

 『・・・わ、私も買ってくるよ』

リディは逃げ去る様にそう言い残して、先に部屋を出て行った。


 「うむ。リクすまない」

 「何でジュリが謝るんだよ。
 それより、リディを追いかけた方がいい」

悲しげな苦笑いでリクが対応すると、ジュリレスターも悟ったように部屋を出て行こうとする。
だが、ドア付近で止まると、振り向かずに続けた。

 「酷な話だが、マスターを殺(や)ったのは本当なのか?」

 「・・・あぁ。記憶も実感もないけどな。そうらしい」

 「そうか・・・。
 マテリアルのスリックという者にも会ったのか?」

 「ああ。
 ・・・という事は、ジュリ達がここ来たのは偶然じゃないって事か。
 オレもスリックによって、この病院に連れられて来たんだ。
 マスターのヴィルと戦ったのもこの病院の地下。厳密にはナビ職の中でだけどな」

 「うむ。その話はスリックから聞いている。
 さっきまで信用出来なかったが、リクが言うなら事実なんだろう」

 「あぁ・・・そうか。
 ウエブでの泥棒がスリックだったからな。
 実際の所はどうか知らんが、アレはオレ達を結びつけるための手法らしいな」

 「うむ。そうだとしても、ウチはあの男は信用できない。
 ・・・話は変わるが、リクはリディの様子がおかしいと思わなかったか?」

 「いや、リディはだいたいおかしい方が普通な感じだけどな。
 ・・・それでも、いつも以上におかしい感じはあったが」

 「リディは多分、後悔しているんだと思うんだ」

 「後悔?」

 「こうなってしまった事にたいして、だと思うんだ」

 「・・・なら、尚更リディを追いかけた方がいい。
 そして、ここに連れて来てくれ。
 『ふざけるなよ』って言ってやりたいしな」

 「むむ?」

 「あぁ。怒ってるわけじゃないから心配しないでくれ」

怪訝な表情をしたままジュリレスターはリディを追いかけて病室を出た。
リクは一つ大きく息を吐き出すと、少し天井を見つめたあと、頭を抱えるように塞ぎ込んだ。




この病院に唯一ある売店にリディはいた。
走らない程度に急ぎ足をしたジュリレスターがそこに追いつく。

 「もう買ってしまったのか?」

 『あ、隊長。う・・・うん。
 ところで、リッ君・・・怒ってなっかった?』

 「うむ。多分、大丈夫だと思うぞ」

 『・・・うん。これで少し印象良く話出来るよね』

リディが購入した物は、飲み物以外に明らかに必要がなさそうな雑誌等も含まれていた。

 「それはウチには良く分からないが、リクの所に行くぞ」

今度はジュリレスターが先導する形で、再び病室に帰って来た。
リディも部屋に入った所で、お土産の飲み物を一つ手に取ったジュリレスターが再びドアの付近に移動する。

 「ウチは、一度ヴェロンの様子を見に行ってくる」

リディがそれを止めるのを想定していたかように
一瞬の風となってジュリレスターが部屋を出ていった。

ジュリレスター的には気を使ったのだろうが、残された二人にとって緩衝材的な役割が居なくなった事で沈黙だけが続く形になった。



 『あ、あの〜これ。つ、つまらないものですが〜』

沈黙を破ったリディだが
これはまるで、お見合いで初めて会った男女のような初々しさを感じさせる光景になっていた。
そうして、半透明な袋に入ったお土産をリクに手渡す。

 「・・・"どっち"がリディのだ?」

 『リ、リッ君が好きな方を選んでいいよ』

中を見て少し考えたが、先程のジュリレスターの言葉も頭に残っていた事もあり
あえてソレについて突っ込みはしなかった。
というよりは、ソレ以上な物が入っていたからであった。

 「リディさん。この妙な雑誌は何かな?」

 『あ、いや。リッ君が色々あって元気がないかな〜と思って』

ソレは、「思春期の男の子」ならば誰もがお世話になったと思われる雑誌で
良くこれを買ってきたと感心するぐらいの物であった。

 「・・・気持ちだけ受け取っとくよ。
 あと、飲み物もありがとうな」

そうして、袋に余る形になった"リクと同じ種類"の飲み物をリディは受け取ると
緊張で喉が乾いていたのか、すぐに封を開けると勢いよく一つ口つける。

それを見るまでもなく、リクの目元は柔らかく変化していた。

 「どこからの知識か分からないが、慰める意味がコレは違うと思うぞ」

リクは例の雑誌を手に持って軽く振る。

 『うぇ。そ、そなの?』

飲み物が少し残っていたのか、リディは吹き出すような声で動揺を隠せていない。

 「なんていうか、良い意味で変わってなくて良かったよ。
 リディにも色々あったんだろうけどな・・・オレは、覚悟を決めたよ」

 『いや〜それほどでも、ないよ?
 って、覚悟?』

 「その、ある意味ふざけた対応も、もうどうにでもなるって感じだな」

 『リッ君?』

 「リディの本当の目的を知るつもりもないが、この世界のオレは何も出来ないって事をヴィルとの戦いで実感した。
 マテルなんてふざけた設定があって、フェリスという物を見つける事がジュリ達のようなエリアスターの目的で
 リディ達のようなマスターは、ギフト選抜とやらでそんなオレ達を必要としてる世界。
 そしてオレは、フェリスを見つける事がこの世界を出るカギだと思っている。
 事実は分からないが、そういう希望が無いと、この先進んで行けないってだけだけどな」

 『うん・・・私にはリッ君が必要だし、リッ君も結果的に私が必要になる。
 でも、マスターと戦う結末は想定できなかった。
 "ストーカーマスター"は規約を破ってなお、リッ君の命を奪って私を隔離しようとしていたんだと思う』

この世界に来て初めて見るリディの真剣な表情に、一瞬目が止まる。
ジュリの言っていた後悔とは、このヴィルの件なのだろう。
・・・だが

 『こんなちっぽけなお土産では謝りきれないけど、ごめんなさい!』

 「・・・何を謝ってるんだ」

軽く頭を下げていたリディの反応を、ワザとらしく見る。
だいたい、謝るなら無理矢理にこの世界に連れてきた事が先だろう。


 『リッ君にとっては、別の部分かもしれないけどね。
 私はマスターとして、ああいう行動をしたマスターについて謝りたい。
 ・・・納得してもらえるなんて思ってないけど、これぐらいしかできないから』

 「言えない事情ってモノか。
 オレはてっきりあのナビ職の監視で言えないだけかと思ってたんだが、元から言えないって事なんだな」

 『・・・リッ君の希望を失わせる可能性があるから』


初めてリディは、この世界の真相について口を開きそうになっているように見えた。
それだけでも大きな進歩だが、オレにはその言葉を信用できるほど余裕があるわけじゃない。

 「つまりソレは、オレはこの世界から出られないって意味か?」

 『それは、t』


 「ず〜いぶん、興味深い話をしてるねぃ」

リディの言葉にかぶせるように、声だけが先に聞こえた。

オレ達二人は気がついて居なかったが、ジュリは病室のドアをきちんと閉めて出て行かなかったらしい。
いや、ドアが開いている事を見てはいたのだろうが、頭には残っていなかった。
今、オレの左頭側にリディが立っている状態だが
そこからやや右を見ると、入口のドアが開いている事も誰が入って来た事も、普通ならわかる筈だった。

だが、その事に気付かないぐらい緊張し動揺もしていたのだろう。

少し遅れてドアが閉まった後に、それがヒミコである事に気付く。
リディは首だけをその音の方に向けた。

 「ヒミコ・・・来てたのか」

 「別に、二人の空気を邪魔するつもりは、なかったんだけどねぃ。
 ・・・あれ、ジュリは居ないのかい?」

 「あぁ。ヴェロンとかいう金髪の男の病室に行っている」

 「ふ〜ん。
 "なかなか"大変だねぃ」

中々に変なアクセントが付いていたが、それが何を意味するのか直ぐには分からなかった。
だが、周囲を軽く見渡す様に見ていたヒミコが、リディを見る目を見て把握した。

マスター嫌いとは言っていたが、露骨な表情をする程とは思ってはいなかった。
童顔なヒミコの目が細長く吊り上って見える。

 「話の途中だったみたいだけど、私に構わずに続けていいよ」

言葉こそ柔らかったが、表情はソレと反比例しており
腰を落ち着かせるように薄桃色のナース服は近くにあった丸型の椅子にどっしりと座った。


 「ヒミコは・・・以前のオレの話をどこまで信用している?」

リディは蛇に睨まれた蛙状態で、話を再開する素振りもない。
変に間が開くのを恐れて、代わりに喋っていた。

 「ん〜、ニワカには信じられないっていうのが本音だけどねぃ
 でも、信じてみたいっていうのもあるんだよねぃ。
 マスターが真相を話してくれれば、より分かるんだけどねぃ?」

 「あぁ、そうなんだが。どうも今は・・・」

 「ふ〜ん。下の下だねぃ」

今度はオレの方にもその表情を向けてきた。
ジュリ達を呼びに行ってもらう前のオレの態度からすれば、ヒミコがオレにも失望しているのは当然の事だ。
いや、ヒミコはそう思っていなくても、オレには後ろめたいモノがあった。


 「リクも結局は、そのマスターを依怙贔屓するわけなんだねぃ。
 いや、それはそれで良いんだけどさ〜
 本当の所は、マスターの言う通りに動く方が良いって事なのかねぃ?」

 「いや、そういうわけじゃない」

 「じゃあさ、そのマスターが本当の事を口にしない理由はさ
 私達新種がフェリスに行く事が、マスターの為に命を落とすからって事、なんだろうねぃ?」

この手の話は、ネルソンとかも似たような事を言っていたな。
MKに居るエリアスターには定説的な話なのだろうけども
その中身を当然にオレが知るわけがなく、何も言えずにいた。


 『・・・それは、違うよ』

 「どう、違うのかな〜?」

 『私の為なんかじゃない。
 フェリスを求める為に、エリアスター同士が戦ったりする事はあるよ。
 でも、それはエリアスター達の意志でy』

 「ふざけないで欲しいねぃ!」

ヒミコは突如リディの目の前にスッと立ち上がる。
身長的に二人はほぼ同じぐらい、いや、リディがやや勝っている程度であり
傍目からは子供同士の喧嘩のように見える。
しかし、その剣幕は幾らかの経験を重ねた大人そのものの凄みを帯びている。


 「フェリスを求めている動機を利用して、私達の意思ってだけで片付けないで欲しいね。
 マスターに騙されて、私の大切な人達は命を落としたんだからさ!
 ・・・それからは、マスターに関わらないように、ここまで生きてきたんだ。
 拠り所はMKじゃなくても良かったけどさ、一人でどうにか出来る物でもなかったからね。
 出来るなら、リクやジュリそしてヴェロンも、あなた達のようなマスターから解放したいんだよ!」

ヒミコの口調が明らかに変かした。
こちらの喋りが素なのだろうと思える程で、剣幕と合わせて口出しが出来ない状況だった。
しかも、リディの返答次第では、次は腕の方が出てきそうな雰囲気でもある。


 『私は・・・』

リディは項垂れる様に椅子に座り込んでしまった。
それを見下ろすように睨んだまま、ヒミコは何も言わない。

 「ヒミコ、あのさ・・・」

ヒミコは、オレには発言権が無いかの様に一瞬睨みを効かせると
再びリディを見下ろす形に戻った。

この状況を、オレにはどうする事も出来ない。
仮に正論を言った所で聞く耳を持たないだろう。それ程、ヒミコはマスターに恨みを持っている様に見える。
リディは直接無関係のマスターだが、ヒミコにとっては全てのマスターが同じに見えているのかもしれない。

ヒミコが言うことが事実なら
「ギフト選抜」の本質とは、エリアスターを使ってマスター同士、いやエリア警察が絡んだ争いをさせるという
スティーユでネルソンが言っていた話が、この世界の真実に近いって事になるんだろうな。

そして、このギフト選抜を容易に行う事が出来ているというのも、ジュリを含めた多くのエリアスターが
混色のエネジスの"記憶"によって、マスターと共にフェリスを求めるように仕組まれているからなのだろう。
その仕組みを作った理由なんてモノは考えたくもないが
新種と呼ばれる異世界のモノを使って、この世界の人達が何かを企んでいる事は分かる。
それも記憶をご都合良く書き換えて、戦わせる展開にしてまで、だ。
しかも、ヒミコのような事実を知った新種が出てくることも想定しているのだとすれば
知った所で防ぎようない何かがあるという事でもあるのか?

ヒミコを含むエムケーは、本当にソレに抗おうとして作られた組織という事なのか?
いや恐らくだが、そういう理念で作られたが、今は・・・って所だろうけどな。



 「リクは殺されかけたというのに、それでもマスターっていう人を信用出来るのかねぃ?」

オレがまたゴチャゴチャ考えている間に、ヒミコは冷静さを取り戻したように会話を再開させた。
その目元が少し潤って見える。

お互いに感情をむき出しにされては、この場の収集がつく気はしなかったと思っていたが
おかしな話で、何故かオレの口元が少し緩んでいるのを感じていた。


 「マスター抜きに、この世界で信用出来るものは少ないよ。
 矛盾はしているけど、だけどオレは、この世界の事を知らな過ぎるから、何かに縋る事もする」

 「それが、そのマスターなのかねぃ?」

 「・・・前にも言ったと思うけど、リディにはオレをここに連れてきた張本人という点で、ついて行ってるだけだ。
 この世界の事がほとんど何も分からない状態では、他の選択を選びようがなかった」

 「つまり、そのマスターは、そのリクの立場を利用してたって事だねぃ」

ソレを聞いていたリディの肩が一瞬と震えたように見え、オレはそれ以上何も言えなかった。
ヒミコも何も言い返さないリディを見て、半分呆れたような表情になるとドアの方に歩いて行く。

 「私はマスターと一緒に行く事は良しとしないけどねぃ、それでもリクが必要ってなら口を出せる事ではないのかもねぃ。
 私も今は、それほど選択肢はないんだけどねぃ・・・
 で、この後はどこに向かうんだい?」

ヒミコは後ろ向きのまま問いかける。

 「ここに来るまでは、バローグを目指していたんだが」

 「・・・ふ〜ん。
 じゃあ、デント経由して海からバローグ地方の大陸に行くって感じかねぃ?」

 「地理関係は詳しくは知らないが、海を超える必要があるのか」

 「リクが迷惑じゃなければ、私にも協力出来る所はするからねぃ。
 また、夕方頃来るねぃ・・・」

寂しげに、そして余計に小さく見える背中は、部屋のドアを開けたまま消えて行った。

それを見送って、オレはまた一つ大きな息を吐き出した。




 『・・・リッ君が決めたらいいよ』

ここまで無言を貫いていたリディが、ヒミコの気配が消えた途端喋り出した。

 「何をだ?」

分かってはいるが、精神的に辛い状況であるだろうが、オレはあえて聞き返す。

 『私はリッ君が必要だけど、拘束する義務なんてないんだし
 あの、ヒミコさんっていう人なら、私よりはこの世界のナビも出来ると思うしね』

 「あのさ・・・」

 『ヒミコさんも、辛いんだよね。
 なのに、それで私ができる事は、何もないんだよね。
 マスターって言われてはいるけど、役に立てる事は差別を和らげる事ぐらいしか出来ない』

・・・今のこのリディなら、真相を全て喋りそうな勢いだ。

こんな状態なのに、そんな事を先に思いついたオレの頭はどうにかしているのかもしれない。
いや、一人の命を奪っている結果が頭に残っていて、自己擁護をしている。
そう思う事で、この考えも正当化しようとしているだけなのだろうな。

其々がモヤモヤしたモノを抱えた事で、事実を知る機会なのにソレを逃していくのを感じた。



 「リディと居るって事は、その上にいるマテリアルという警察にも守られるって事だろ。
 一人で放り出されるよりは、こっちの方がマシだ」

オレは、今日一番、最低な一言を吐き出した。
でも、コレは限りなく本音そのものだ。

このご都合的な世界で弱みを掴まれないように、これまでは適当に自分を作り上げていたが
ヴィルとの戦いから目覚めた後、スッキリとしてしまった。
無心というか、悲しみだけが残った状態というか・・・。


きっとこれまでも、自分自身では気がついていなかっただけで
本当は誰かに助けて欲しくてしょうがなかった。
それが、自分の弱さだと実感し、ヒミコに呟いてしまったあの言葉になった。

いくらご都合的な世界でも
死んだはずのかつての敵が、仲間として再登場するなんてお約束な展開はないだろう。
あったとしても、オレが命を奪った行為をした事に変わりはない。

グチャグチャと考えても、答えなんか出るわけもない。
だが、コレがオレ自身。
ソレ自体を否定したくてたまらないオレ。
完全な自己嫌悪。



 『うん。私には一緒に付いて来てとしか言えない。
 それに今回の件でリッ君は、自分を責めてると思うけど、私のせいにして良いんだよ。
 この世界に連れてきたマスターが悪いって感じでさ』

顔を上げたリディは、何故かうっすらと笑っていた。

逆にオレは、その言葉に顔を向けられなくなった。


 「・・・何で、今頃そういう事を言うんだ」

 『リッ君が、不本意でも私と一緒に来てくれるってだけで、それで十分なんだよ。
 でも、こうなると結局、ストーカーマスターと私はなんにも変らないんだろうね・・・』

 「・・・それは違うだろ」

 『じゃあ、ここから絶対出られないって分かったら
 リッ君はそれでも同じことを私に言える?』

 「・・・ソレが真実ならリディに付いて行く理由もないだろうな。
 それこそ、エリアスターの多くが居るエムケーにでも行って、ギフト選抜にも関わらないだろう」

 『以前ね、ガンプさんが例えてくれた事があるんだけど
 この世界は「入口が大きい首の長いツボ」だ。って話。
 しっての通り、私はマスターとエリアドライバーを兼任してるわけだけど
 リッ君の様なエリアスターを、そのツボの中に入れる事がエリアドライバーの仕事になるんだって。
 そして、そのツボは動かない様に頑丈に固定されているって話』

ガンプの例え話という事もあるのか、リディの話にしては十分すぎる程理解できた。
まわりクドイ言い方も勿論あるが、要は首の長い壺に入れられたオレらエリアスターは
固定された壺が壊れる、つまりこの世界が壊れでもしない限りここから出られないって事だろう。

その例えが無くても、オレはこの世界から戻れない可能性を常に持っていた。
いや、それ以上に戻る事が出来る可能性を信じていた。
戻れる希望を持つ事が、このご都合主義な世界で唯一自分を奮い立たせる要素だと思っていたからだ。

だから、ソレだけはリディにもナビ職のトリノにも聞けなかった。
仮に戻れないと言われてしまえば、オレには失望しか残らなくなる。

微かな望みとして、「フェリス」というエネジスがもしかすると
その壺から出る事が出来るカギになる可能性もあるが
それはオレらエリアスターの希望であって、この世界のご都合ではないのだろうな。


 「なぁ・・・何故急に、ここから出られるかの話をしようと思ったんだ?
 今までは誤魔化そうとしているように感じたんだが」

 『うん。まぁ〜ごまかしは私の専売特許だからね。
 でもね、今回の事はエリアスターだからとかそういう事抜きに、やっちゃいけない事だから
 私はマスターとして、しっかり任務を遂行・・・いや、実行?しているんだよ』

 「どっちでも意味は分かるよ。リディの言いやすいように言えばいい」

 『うん。ただ、ごまかすとは言ったけどね、これだけは本当に違うよ。
 ヒミコさんが言っていた事は事実じゃない』

 「・・・"マスターに騙されて命を落とした"、か?」

 『うん。ヒミコさんはMKにも居たようだから余計そう感じるんだろうけど
 マスターはフェリスを見つける為にエリアスターが必要なんだよ。
 フェリスを求める過程で、エリアスター同士の戦いになって命を落とす事はあるけど
 それはマスターがどうこうするものじゃないよ』

 「エムケー側の話としては、マスターがエリアスターを暗殺できる場所に誘導しているというのがあったな」

 『リッ君はその話を信用するの?』

 「そういう考えもあると、頭に置いておくだけだな」

 『・・・うん。リッ君らしい考えだね。
 あとは私の話を信じて貰えるかどうか、それだけだよね』

 「信用するかは別で、だけどオレにはついていくしか方法がない。
 仮にリディ達がこの世界を作っていて、オレ達を何かの理由があって閉じ込めようとしてたら、どうする事も出来ないしね。
 元凶について行く事で、脱出のカギが見つかるかもしれないっていうのは一つの考え方だと思うな」

 『う〜ん。回りくどい言い方ですね』

 「それは、お互い様だよ」

喋る事で不思議とモヤモヤが薄くなっていく事に気付く。
決して晴れる事はないが、それでもリディが少し本音を出した様に見える事もあってか
オレは、落ち着きを取り戻しつつあった。


 「うむ」

!?

 「ジュリ。いつの間に戻ってきてたんだ?」

 「ヒミコが、戻った方が良いというのでな。
 フェリスについても何か分かるかもしれないとは言っていたが、リディは何か知っているのか?」

 『隊長が知っている事と変わりないよ。
 ヒミコさんとは、どうも私はウマが合わないみたいなんだよね』

ソコには、金髪の病室に行っていたジュリが戻ってきていた。


 「うむ。ヒミコはマスターが嫌いみたいだからな。リディじゃなくても合わないと思うぞ。
 リクも、大分顔色がよくなったように見えるぞ」

 「そ、そうか。
 体力もそれなりに戻ってきてる感じだし、この町から早いところ移動した方が良いかもな」

 『いや、出れないよ。
 リノちゃんも帰ってきてないし、金髪君もまだ眠ってるんだよね?』

リディはジュリの方を向くと、ソレを見てジュリは軽く頷く。

マテルを使えないって事もあって、いつも通りリディの懐に眠っているのだろうと思っていたが
どうやら、ナビ職のトリノはここに居ない状況らしい。
ヴィルの件があったとはいえ、内情を話していたのはそういう理由か。
もう少し早くソレに気が付いていれば、もう少し深い話も聞き出せたかもしれない。
ジュリが戻ってきた今では、話さない可能性の方が高いか。


 「リディは、金髪もギフト選抜の関係で連れていくのか?」

 『うん。今回はだいぶ助けてもらったし、このままここに置いていく事は出来ないよ。
 ・・・ん〜そうじゃあなくて、リッ君はハーレム状態じゃなくなるから嫌なのかな?』

 「なんでだよ」

 『でも、ヒミコさんも一緒に来てもらうつもりなんだよね?』

 「・・・リディが金髪に助けて貰ったように、オレもヒミコに助けて貰ってるからな。同じ事だ。
 マスターさんとしては複雑かもしれないが」

 『む〜、その返しは想定外だなぁ。
 ま、いつものリッ君らしくなってきた感じだけど』

 「お互い様に、な」

 「うむ。ウチもこのノリの方が好きだな」

ジュリにまでそう言われたら、オレは何も言い返せないな。
でも、コレでいいのだろう。


今は、体も心も休ませておいた方いい。






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