32
トライデント2


オレの話のあと、リディは別室にいるコバ達の所へ向かった。

金髪は全く動けないわけではないがコバ達の所に移動するには負担が大きく、ジュリは一人悩んでいる為に行動不能。
オレが一人で行動するのは、余計な疑いを増やさない為に出来なかった。

タブでのヴィルの件以降、リディはこういう空気を読める行動をする事が増えてきたように感じる。
オレの偏見もあるだろうが、今まではわざと無知な行動をしていた可能性すら感じる。
ソレがオレに油断をさせる為なのか、何かの別の目的があるのかは分からないが。



戻ってきたのはコバとローズの二人だけだった。
マスターの二人が居ないのはちょっと気がかりだが、この後の展開についてオレは聞くしかない。

 「ライコ達とも話したんだけどさー、リックにはリレーブロックにある【リプス】って町に行って待機して欲しいんだ。
 実はその町の地下に【リリウム】と【キリン】関連が存在してるってわけなんだけどねー
 もうすぐ帰ってくる予定の、仮リーダーでもある「レート」の旦那と一緒に行動して貰うって感じでさ」

トライデントの仮リーダーの「レート」という人物が、オレを監視するような流れのようだな。
先程ローズは、そのレート本人が帰ってきてからオレの行動を決める的な話をしていたが
先に結論を出したという事のようだ。
何れにしろ、このアジトから出る事が出来るのは好都合だが、レートの人物がどういうモノかによって考えも変わってくる。
それと、ここには居ないマスター達の動向もやはり気になるな。

信用出来ていないマスターとはいえ、結局オレにとって一番都合の良いマスターでもあるからな。
責任持ってオレを元の世界に送り届けて貰いたいという、言いがかりに近い本心もあるが。


 「えっと・・・そこの凛々しい顔した女の子もさ、
 リックの事で色々おかしいと思う事はあるだろうけど、そういう考え方もあるよー程度に考えればいいからさ。
 うん、こっちは最初のお約束通りに、マテルの使い方裏入門編やっちゃうからねー。
 怪我人君はマテルの使い方ぐらいなら出来るはずだからさ、やれなくてもやってもらうからねー。
 トライデントの一員としてガンガン戦力として使っちゃうからねー。覚悟しなよー」

 「ウチはジュリレスターだ。ジュリでいいぞ」

 「さっき紹介してるのにごめんねー。
 あたいってあだ名っぽい感覚で覚えちゃうからねー。じゃあ、ジッュリ、改めてよろしくねー。
 あと、リックは部屋の外に待機してるマスターの所に行くといいよ。
 本当はリックにも教えたいんだけどさー、コバは必要ないっていうし、ライコも良い顔しないしー
 でも、あたいは喋りたいしー、成長過程見まくりたいしー、沢山指導したいしー、なんだけどねーダメって言うし。
 シィード先生にヒントぐらいなら教えてくれるかもしれないから聞いてみるといいよー。
 え?・・・何?なんかコバ怒ってるよね?」

難しい顔をしたジュリとコバを尻目にオレは部屋を出た。
分かってはいたが、ローズはリディ以上に面倒くさいタイプの人のようだ。
話をするのが好きというよりは、ややこしくするのが得意なのかもしれない。

部屋から出ると、やや奥の方でマスターの二人が話をしていた。
オレに気づいて一瞬振り向いたが、居なかったかのように再び二人で話し込む。


 『あれ?リッ君は特別講習に出ないの?』

そばまで来ると会話を切り上げてオレに絡んできた。

 「そういう話になったんじゃないのか?」

 『うん。まぁ・・・キリン狩りが始まる前に手を打つって話はあったよ』

 「その件でお二人様.。少しお話しよろしいでしょうか?」

一人取り残されていた感のライコも話に入ってくる。
それと同時に近くにある部屋の扉を開けて、中へと誘導してきた。

中は小さな会議室のような作りだが、使われている様子が無く
椅子と机が適当に散乱している状態だった。


 「散らかっている部屋でごめんなさい。適当に腰を掛けて下さいね。
 先程、ローズちゃんからお話があったと思いますが、リク様にはレートさんと一緒にここから離れてもらいます。
 ・・・わたしがこういう話をするべきじゃないのは分かっているのですが
 ローズちゃんやコバ君では言い出し難い事なので、ちょっと長くなりますがよろしいですか?」

 「オレは別にかまわないが」

 『大丈夫だよ』


 「ありがとうございます。
 まず、お二人様に改めて確認しておきたい事があります。
 持っているアンチエネジスは本当に"奪った"というわけではないのですね?」

 「ああ。
 ・・・ライコ達の知っている異世界のモノは、奪っていたのか?」

 「いいえ。
 あの話をしたのは、彼が「特別な存在」かどうかを確認する意味もありました。
 まず、彼についてお話いたします。

 かつてのトライデントには、エリアスターのグループが存在していました。
 ヒミちゃんはちょっと例外で昔からわたし達と一緒に居ますが、ほとんどの者はバローグなどからやってきて仲間になりました。
 ですが、その中の一人で「ファン・ジオ」という人物が登場した事をきっかけに、グループは無くなる事になりました。

 彼は一言でいうと、とても良い人物です。ヒミちゃんもその人柄に惹かれていたと思います。
 そして、リク様と同様に異世界の記憶を持っていました。
 アンチエネジスもこの世界に来た時から2個持っている事も話してくれました。
 彼の話を聞く限り、それを奪い取ったようにはとても思えませんでした。
 それはリク様も同様と感じます。

 仲間となってある程度の月日が経ったある日、彼も他のエリアスターと同じく
 フェリスを見つける為にマスターやヒミちゃんを誘って共にここから出て行きました。
 こう見えて私もマスターの端くれですので分かってはいますが、それが前回のエリア選抜でした。
 そして、一緒に出て行ったマスターというのは、私の妹で「ミキ」と言います」

ここまで話すと喋り疲れたのか、一度息を整える様に深呼吸した。

以前シドがアンチエネジスの件で話をした時の事を考えると
ヒミコがこのアジトについて来られない、つまり帰られないというのも、そのファンジオというモノが関係しているという事だろうな。
そして、シド達もオレとファンジオを重ねて見ているって事か。


 「ごめんなさいね。では、続きです。
 ミキ達は最終地点に辿り着けず、ヒミちゃん以外のエリアスターも失ったと聞いております。
 そして、ヒミちゃんも行方知れずになって、失意のままミキは戻ってきました。
 わたしがギフト選抜に関わるのをきちんと止めていられれば、この後の事件に繋がらなかったと今でも後悔しています。
 
 ミキはギフト選抜の過程で、エリアスターは敵であると認識してしまったようでした。
 この時にはまだエリアスターのグループが残っていましたので、わたし達は会わせない様に配慮していたのですが
 そのままとはいかず、トライデントでの内乱となるきっかけになりました。
 
 わたしは、いえ、わたし達は仲間を護る為、ミキと話し合いをする形をとりましたが
 ミキをサポートしているエリア警察もミキに同調しており、実力行使の形を取ってきました。
 わたしはマスターである以上、マスター同士での戦いも覚悟はしていましたし理解もしていました。
 それでも実の妹と戦う形になったのは、当時はとても辛かったものです。
 一度決めたら曲げる事をしないのは、わたしもミキも同じでした。
 そして結果、エリアスターが犠牲する形となって、わたし達が生き残りました」

・・・ライコはまた一呼吸おいたが、オレはそれ以上話をしないよう手で静止をした。
というより、まるで他人事のように淡々と話をしているのが逆に怖かった。
ライコが一番言い出し難い内容にしか聞こえなかったからな。

 「いや、もういいよ」

 「いいえ。そうはいきません。
 この件だけでは彼が関連してるとは言えませんので」

彼。・・・ファンジオの事か。
今の話だとファンジオはもう死んだ事になっているようだが
シドも生死をぼやかした言い方をしていたし、何かあるんだろうな。


 「ミキはわたしと違い好戦的な性格をしていましたが、それはエリアスターも含むトライデントの仲間を護る故のものでした。
 ヒミちゃんもそういう面では似てます。一方で彼は、リク様の様に戦いをあまり好まない性格でした。
 それでも、この世界を知る為、最終地点を目指すという目的は持っていた様に見えました。
 ヒミちゃんも本音は分かりませんが同じだったように見えました。
 そしてミキは、そんなエリアスター達を護る為にマスターとしてギフト選抜に参加した筈が真逆の結論に至りました。
 その時の彼はこういう結果になる事を望んではいなかったでしょうし、わたしがギフト選抜について知らな過ぎただけですから恨む事はありません。
 
 なにより、彼はこの世界に染まる事を拒否していませんでした。
 ですが、今の彼の意志は、この世界を変えようとしているように思えます。
 わたしには、リク様にも似たような空気を感じるのですが、やはりこの世界は辛いですか?」

・・・まず思うところはあるが、ソレは置いといて
ライコは出会って一日もしない相手を感じ取る洞察力でもあるのだろうか。
だとすると、彼女の前では嘘をつく事に意味がないのかもしれないな。
しかし、その事とは別に一つ確認しておかないといけないか。


 「彼の意志とは何の事だ?」

 「上手く伝わらないかもしれませんが、ファン・ジオの遺志を受け継いだ者が、おそらく居るという事ですね」

 「・・・世界を変える意志は存在しているが、ソレが何なのかまでは分からないという事か?」

 「はい。
 ・・・いえ、正確には今まではそういう認識でしたが、リク様の存在が判明した事でわたしの考えは変わりました。
 彼やリク様以外にも世界を変えようとしている者がいて、今も行動していると」

 「いや、オレはこの世界をどうするとか考えた事はないよ。
 そもそも、多くの事を知らない状態だから変えようがないというか。
 だが、ライコの目にはオレも世界を変えようとしている風に見えてるわけか。
 オレがこの世界を信じていないという部分が、そう感じさせているのかもしれないな。
 ただ、オレは自分の住む世界に帰りたい。それだけだ」

 『・・・』

 「そう、ですか。
 それではわたし達の事もあまり信用していないという事でしょうか?」

 「・・・」

 「ごめんなさいね。変な聞き方をしてしまって。
 繰り返しますが、わたし達はエリアスターに抵抗があるわけではありません。
 ただ、彼やリク様のような「真実」を知っている者達が現れて、世界を変える動きになるのが怖いのです。
 
 この事は、リク様を突き放す行動に感じ取られても仕方ないと思っております。
 リク様がただのエリアスターであるならば、ここまで考える事もないのですが
 わたし達以外は、リク様の「真実」を恐れています。
 それでも、ヒミちゃんの大切な知り合いであるなら、トライデントとしては一緒に行動すべきだと思うのです。
 ですが、今、キリン狩りというデント全体が一つにならないといけない目的がある以上
 他のハンター達に不安を与える要素があるのは、わたしとミキのような必要のない争いを生む可能性があるのです。
 リク様には彼のような存在になって貰いたくないのです」

 「キリン狩りに距離を置くという話をしてたのも、ようはオレの存在が邪魔だったという事か」

 「すみません。更に信用を失う事になりそうですが、これはわたし達の本意ではありません。
 ですが、レートさんがリク様をしっかりと守ります。
 そして、しばらくお仲間様をお借りしますが、悪い結果にはさせない事を約束いたします」

 「それは当然そうして欲しいけど、つまりオレの隔離先は「リレーブロック」にある【リプス】という町という事なんだな?」

 「はい」

過去の話を言い難いのはライコだったが、オレを隔離するという話を言い難くかったのはコバ達という事か。

戦いを多くこなしているであろうハンターという集まりだからこそ、仲間意識というのが非常に強いように感じる。
そのせいでライコ達には引け目があるようだが、オレは"記憶"のおかげでキリン狩りというイベントに関わらなくて済みそうなのは助かる。
ジュリ達の状況にもよるが、場合によっては封鎖前にデントを出る事も可能だろう。



 「そのリスプなんだが、地下に、【リリウム】と【キリン】関連があると聞いているが
 これだとオレも関わる事にならないか?」

 「確かに、わたし達トライデントを含むハンターは地下に居るキリンを狩りに行きます。
 ですが、リスプの地上側からは地下にあるキリンの拠点には進めないように出来ています。
 と言いますか、逆にハンター達は間違いなく地上には来れない場所なのです。
 エリア警察【トゥーリティー】の本拠地がありますので。
 トゥーリティーはキリン狩りの肯定派ではないなどの理由で、ハンター達とは相性がよくないのです。
 ただ、リク様達には影響ないと思います。トゥーリティーはギフト選抜に参加しないエリア警察ですから」

 「どうして参加しないと分かるんだ?」

 「かつてミキをサポートしていたエリア警察だからです。
 トライデントでの内乱がきっかけなのと、わたしがトライデントに残る事でギフト選抜に関する活動を停止する約束をしております。
 あと、別のエリア警察に協力してもらって、トゥーリティーを監視している形を取っているので
 この約束が反故される事はまずないと思ってもらって大丈夫です」

成程、とは思ったが同時に不安も感じてしまった。
リディをサポートしているエリア警察の【マテリアル】ですら怪しいと思うぐらいだから
他のエリア警察を信用しろという方が無理な話だ。
トライデントはエリアスターにも寛容という点からも、エリア警察に良いように利用されている気がする。

そして何より、トゥーリティーの名前が出た途端、リディが浮かない表情になったのも気になる。


 「リディはトゥーリティーというエリア警察について何か知っているのか?」

 『ううん。良くわかんないよ』

分からないからの表情には見えなかったが、ここで聞くのはやめておくか。
おそらくだが、オレの考えが当たってるとすればリディにとってもこの状況は良くない状態なのだろう。

 「レートさんが到着するのは、予定では明日になりますので
 今日の所はこの「空宿」から移動して、先程の「宿舎」でお休みください。
 到着次第、レートさんの紹介も致しますので」

ライコに誘導されるように
オレ達はヴェロンの休養場になっている「空宿」と呼ばれる建物から、「宿舎」と呼ばれる宿泊場所へと戻された。
「空宿」に居るシドに聞いておきたい事があったが、どうやら大人しく「宿舎」で休んでいて欲しい的な扱いのようだ。




宿舎に戻り、それぞれの部屋に移動する流れになったのだが、リディも当たり前の様にオレの部屋に入っていた。
確認したい事もあったから、結果的には良かったのだが。

 「・・・ん?部屋に"居づらい"のか?」

 『へへ。なんとなくリッ君も察してると思うから、難しい話はしません』

この流れは、下手に突っ込むと話が脱線するのが見えているので、素直にリディのペースで話を進める方がいい。

 「じゃあ聞くが、トゥーリティーについて何か知っているんだろ?」

 『いや〜そのエリア警察については、ほとんどご存じではないんですよ。
 私が不安なのは、ギフト選抜に絡んでないって点なんですね』

 「・・・それは、関わってない警察は居ない、という事か?」

 『いんや。そういうエリア警察も確かに居るよ。マスターが居ない警察もいるからねー。
 これでわかっちゃったと思うけど、ギフト選抜って、マスターが関わっている警察が参加しないっていうのは変なんだよ』

 「それは、ライコが言っていた姉妹でのマスター同士の戦いに原因があるんじゃないのか?」

 『ううん。変って思ったのはトゥーリティーの方じゃなくてライコさんが協力してもらってる方のエリア警察かな。
 今のトゥーリティーにマスターが居ないというのが本当なら、ギフト選抜に関わってないっていうのも本当かもね』

 「つまり、ライコの言っている事が嘘で・・・
 いや、そもそもライコはギフト選抜に参加していないとは言っていないな。
 ミキの件でトゥーリティーを監視していると言った事で、ライコも参加していないモノだと印象づける事が出来ている。
 その言い回しで思い込みをしてしまっている可能性も否定できない。という感じか」

 『う〜ん。
 マスターのライコさんは嘘はついてないと思うんだけど、やっぱライコさんに関わっているエリア警察が怪しいかな。
 デントにはトゥーリティー以外にも警察組織があるって事みたいだし』

 「素直にトライデントの言う事を聞くと、罠にかかる可能性もあるって事か。
 ギフト選抜のライバルになるマスターのリディや、厄介モノ扱いのオレが狙われるのは変じゃないだろうし
 トゥーリティーとライコ達が繋がっている可能性が0でもないしな」

 『罠はないと思うんだけどね・・・それに私にもミウちゃん達のマテリアルが居るしね。大丈夫だよ。
 ・・・って、あ、リッ君!
 こういう話をベラベラ喋っちゃうと、悩殺されちゃってると大変だよ!』

 「のうさつ?
 ・・・盗撮にしてもおかしいが、もしかして盗聴、か?」

 『あ、そんな感じです、はい』

 「誘惑でも犯罪でもどっちでも構わんが、この状況で今更隠した会話しても意味がないからな。
 コバから貰ったこのトライデントの紋章が入った腕輪にも、仕掛けがある可能性はあるだろうし。
 それ以外でも、オレ達を隔離させて自由に行動出来る状態になっているのにも理由があるかもな」

 『自由行動?』

 「ライコが持っているか分からないが、マスターにはトリノのような専用のナビ職があるんだろ?
 ライコがオレに対して、あまりここに留まって欲しくない的な言い方をする事で
 オレがナビ職による移動を考えようと思うのも一つの考え方だと思うからな」

 『それは、リッ君の考えすぎじゃないかなぁ。
 んまぁ・・・いちお、リノちゃんは動けるけど・・・最近あんまり喋ってくれないんだよね。
 モンスターの洞窟での戦いで一部壊れたのが影響してるんだろうけど・・・
 って、リッ君!
 マスターのナビ職でもマテル禁止区域で使うのは危険だよ。
 デントは広いけどさ、例えばドラゴンナイトの蝙蝠人間がマテルの監視もしている可能性だってあるかもよ』

 「あの蝙蝠男は、とあるエリア警察の一員って事か?
 ・・・って、本当は分かってて言ってるだろ」

 『さっきも言いましたですけどね、デントのエリア警察については本当に分からないのですよ。
 と言いますか、リノちゃんが詳しいので私にはそれほど情報は入っておりません!』

そういう回答だろうな、とは思ったが
自慢げにきっぱりと言われてしまうと言葉もない。


 『リッ君とこういう話するのって、なんか珍しいね?』

・・・リディは、何を言っている?

 『ちょっとは、役に立てるかな?』

 「あ、あぁ・・・?」

 『いよいよ、マスターリディちゃんの本領発揮ですよ。
 脱出出来るなら、サクッとやっちゃいますか?』

 「おい、ジュリ達はどうするんだ」

 『あ・・・って、リッ君が言ったんだよ!』

 「オレは最悪一人でも脱出する覚悟はあるが、リディは違うだろ」

これは嘘だ。
覚悟はあるが今は一人で行動できる程、この世界を舐めてはいない。

 『む〜。リッ君は相変わらず意地悪さんだ。
 マスターいじめても良い事ないですよ。イジメよくないデス』

・・・オレはまた、リディのペースに飲まれはじめてるな。
それを日常として受け入れている時点で、この世界に随分染まってきたようだ。

そう感じたからなのか
口で言っている程、トライデントがオレ達に悪い様にしているようにも思えなくなってきた。

完全に信用はしているわけじゃないが、ヒミコの件もあるし、実際話をしていても悪意を感じない。
オレ達を隔離する扱いなのも、キリン狩りの為に致し方ないように感じる。
金髪の言葉じゃないが、オレはこの世界のモノを疑いすぎて見る目すら拒絶してしまっているのかもしれないな。

可能性を考えておくのは無駄じゃないが、今は何も行動出来る気がしない。


この後
リディと身にもならない適当な話をしただけで一日は終わった。




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時間はオレとリディが離脱した頃まで遡る。

ジュリと金髪は、ローズとコバによるマテル講座の受講を再開していた。
学校風に教壇と受講席+ヴェロンのベッドを設置し、ローズが教鞭代わりなのかサーベルを持って教壇の前に立っていた。




 「それじゃ講座を再開しますか。
 ん〜、ジュッリはまだ納得いってない系かい?
 あたいも難しい話は得意じゃないけどさ、結果リックを護る為の事だからさー
 危険地帯に連れていく必要がないって事なんだよ。
 うん。納得しなくても先に進むんだけどね」

 「ローズちゃん、よろしく頼むよ。
 僕達に足りない部分が補えるなら・・・これ以上もない僕達の武器になるからね」

ヴェロンはゆっくりとベットから起き上がると
固まった表情のジュリの方を見つつローズ達に話しを進めるよう目配せもした。


 「うん、こっちこそよろしくって事で。
 それじゃ、マテル裏講座はじめるよー。
 ザックリ説明するから、細かい質問とかは最後によろしくって事で、よろしく。
 
 あたい達のマテルと、ジュッリ達のマテルの違いは、種類の差もあるけど体内か肉体かという違いがあるんだよ。
 色々な考え方はあるんだけど、あたい達は体内からマテルを相手の体内に送り込むイメージでさ
 ジュッリ達は体力に応じてマテルの質が変わるって感じらしいんだ。
 なもんだからさ、あたい達は持っている武器にマテルの力を込めて攻撃力を上げる事も可能だけど
 ジュッリ達は武器自体にマテルをつける事は出来ないけど、武器での攻撃と同時にマテルを使う事で似たようなことは可能だね。

 具体的に言うとね、炎のマテルを使うとすれば、あたい達は体内から炎を作り出して
 今あたいが持っているこのサーベルに組み込む事で、炎の性質を持ったサーベルに変わるって感じだね。
 あ、でも、あたい炎は苦手だから実戦はしないよ。実戦はコバの方でよろしく。

 んで、ジュッリ達は、得意なマテル以外はほとんど使いこなせない感じになってるけど
 これは得意なマテルが肉体の性質と連動してるかららしいんだ。
 肉体を強化する事で、マテルの幅を広げる事も出来て得意マテル以外でも、ある程度は使う事も出来る様になるよ。
 それで、炎のマテルを使えば手の表面などから炎を放つ感じになるんだよね。
 肉体の強化加減でコントロールも出来るけど、体力が落ちてたりすると暴走したり自身に攻撃する自爆になったりするから
 あたい達と違ってとってもデリケートなマテルって感じかな。

 でもね、得意マテルによっては他のマテルを使わずに得意マテルを強化した方がいい事もあるよ。
 元々攻撃的なマテルなら炎を無理に使わなくてもいいからね。
 得意マテルが攻撃に向かない人は、肉体を強化させて必殺技的に炎のマテルを使ったりという感じになるかな。

 必殺技っていうぐらいだから、本当に奥の手なんだよねー。
 使いすぎると肉体が尽き果てる・・・ようは命を落とす事にもなるから諸刃の剣ともいえるよ。
 だから、ここぞって時以外は肉体強化しても得意マテルを使って、止めの時に必殺技を使うという感じで使いこなすのが一般的かな。
 ここまでで、質問あるかな?ないかな?」

 「僕達は体力が続く限りマテルを使えるって事だろうけど
 ローズちゃん達のマテルには限度はないのかい?」

 「あるよー。忍耐力みたいなものかな?
 あたいには経験ないけど、マテルの使い過ぎで知恵熱ぽくなる人もいるからね」

 「・・・ウチは造形のマテルが得意だが、今の話だと必殺技を作る方が良い感じがするな」

 「う〜ん、ジュッリ。実はね、直接的な攻撃じゃない得意マテルでも攻撃に利用できる事もあるんだよ。
 あとでコバに見てもらえばわかるけど、その手のマテルでも強化する事で必殺技よりも強力になる事はあるんだよ。
 光が得意なマテルの人で、通常は暗闇を照らす程度でしか使い道がない人でも
 強化させる事で熱や速度を攻撃に加える事が出来る様になったりもするし、炎だけでも一通りじゃないからね」

 「僕はどう判断されても良いけど、必殺技が欲しいね。
 響きが良いし、やっぱりヒーローだけに決め技は持っておくべきだからね」

 「ヒーロー?
 意味よくわっかんないけど、ヴェロんの得意なマテルは何だい?」

 「僕は影のある男。つまり影なのさ」

 「うわー、もっとわけわっからなくなったよ。
 でも、影使いなのね。
 二人とも得意マテルだけでも十分戦力になりそうな感じがするね。
 補佐能力として相当使い道ありそうだし」

 「でも、僕達は補佐だけじゃダメなんだよね。
 キリン狩り以降も目指すところがあるからさ」

 「フェリスね。あぁ、そうそう。これ話すとコバにまた怒られそうだけど
 あたい達とエリアスターの関連についても一応話しておいた方がいいかな?
 いいよね?コバ」

コバはジュリの表情を気にしているようだったが渋々頷いた。

そうして、ライコがリク達に話したのと同様に、ファン・ジオ関係の話をジュリ達も聞くことになった。





 「うむ。やはり納得は出来ないけど、リクもそのファンジオという者と同じ考えを持っている可能性はあるという事か」

 「あたいはそうは思わないんだけどね。
 でも、コバや無関係のハンター達にはそう映る可能性が大きいって感じかな。
 リックはこのトライデントの紋章の腕輪があれば、ドラゴンナイトとかハンター達に狙われる事もない上に
 ギフト選抜に関わってない【トゥーリティー】というエリア警察のお膝元の町でもある【リスプ】に居る事によって
 結果、一番安全な場所にいる事になるって感じ。
 リスクもそりゃ大いにあるけど、最低限の大きなリスクって感じでねー。あたい達ができる最大限の保護なんだよ」

 「言い方は良くないと思うけど、
 彼が地上のリスプに居る事で、エリア警察の目を地下から薄れさせる狙いもありそうだね」

 「ぐっ、その可能性も否定できないっちゃ出来ないかな。
 ってコバ、ま〜た怖い顔してるしー。
 ジュッリ達に嘘ついたり隠し事したりしても良い事ないでしょ。それに、真実を話すのがあたいのポリシーだからね。
 あたい達にだって悪い事する奴はいるし、それはエリアスターってくくりにしてるジュッリ達だって同じだよ。
 フェアでないと変だと思うよ」

 「いや・・・そこまでは言ってないが」

 「まーあたいの方の話は終わったから次はコバの番ね。
 コバの方はじっくりねっとりとヨロシク!」

教壇から逃げる様にローズは受講席の方に向かった。
それを仕方ない表情で見ると、受講席に座っていたコバがゆっくりと立ち上がり教壇の前に立つ。

 「地下に移動する」

言葉と同時にヴェロンのベッドまで進むと、ヴェロンを抱え上げて肩に担ぐと
教壇のあった場所まで戻り足踏みを一つすると、傍にあった床が崩れ落ちるように移動し、そこに地下への階段が現れた。

 「僕の意志は無視かい?」

表情を変える事なくコバとヴェロンが先に地下へと降りていく。

 「ジュッリもついて来てね。
 流石にここでマテル使うのは、建物が持たないからね。
 地下には中々のマテル防護壁設備が整っているからね」

ジュリレスターもローズと共に地下へと移動した。




 「このエネジスは一体何だい?」

ヴェロンが地下に下りて見た光景は、外壁一面が半透明のエネジスで埋まっている空間だった。
床も加工されてはいるがエネジスが敷き詰められて出来ていた。

 「ここはね、ヴェロん。
 マテルをある程度自由に使っても吸収してくれるマテル防護壁で出来ている部屋なんだよ。
 ヴェロんは怪我してるからガツガツ出来ないと思うけどさ、ジュッリとかが全力でぶちかましても壊れない仕組みになってるよ・・・
 多分ね」

 「マテルでの行動のみだがな」

 「・・・とりあえず降ろして欲しいのと、どういう原理でそういう仕組みになってるんだい?」

 「ああ。済まない」

コバに担がれていたヴェロンは床に座るような形で降ろされた。


 「って、事でラッと説明しちゃうぞー。
 原理っていうかね、このエネジスは【シールド】っていうエネジスの抜け殻みたいな物なんだよね。
 シールドはモンスター避けのレイ・バーっていうサングラスにも使われてるエネジスなんだよ。
 あ、多分デントグラスって言った方が分かりやすいかな?
 んで、そのシールドのモンスター避けの成分が抜けきった抜け殻が、この壁に埋まってるエネジスって事なのさ。
 モンスター避けの効力がなくなると、なんだかよく分からない成分のせいでマテルを吸収するようになるんだって。
 吸収と言ってもマテルを貯めるわけじゃなくてね、吸収した上で抜けきっちゃうらしいんだよ。これがね。
 この事はデントに居るあたい達ハンターグループ以外にはほっとんど知られてないはずだから
 あと、もう遅いけど、これオフレコって事にしといてねーよろしく」

 「・・・成程ね。マテル吸収素材のようなエネジスになるわけか」

 「うむ。不思議なエネジスだな」

 「まずは適性を見る。お主は造形のマテルが得意と言ったが
 このエネジスで造形してみろ」

ジュリレスターはコバから一つの透明なエネジスを手渡されたが
困惑の表情を浮かべた。

 「ウチは造形する物の素材を活かした造形しか出来ないぞ」

 「そのエネジスを鉄か何かだと思って造形してみろ」

 「う、うむ・・・」

ジュリレスターは透明なエネジスを造形しようと力を込めてみるが、エネジスは変化しない。
変化したのはジュリレスターの方だった。

 「む・・・なんだコレは」

 「説明した通りだ。それはマテルを吸収するエネジスだ」

 「それだと、ジュリちゃんのマテルを吸収し続ける事になるんじゃないのか?」

 「ただマテルを放出し続けると、そういう事になっちゃうね。
 コバは説明しないと思うからあたいが言っちゃうけど
 マテルの放出量を調整する能力、それが他のマテルの調整力に繋がるってわけなんだよね。
 ヴェロんは回復してからやってもらうけどさ、二人とも実戦でやっつけでやる方が得意そうな雰囲気あるからさ
 いや〜コバがそこまで考えているかは分からないけど、結果そういう事でしょ?」

コバはただ頷いた。
事前準備なしにジュリレスターは造形のマテルを使おうと力を込めていたので
今更調整をしようとしてもどうにか出来る気がしなかったが
やっつけでやるという言葉に反応したのか、この状況から意地でマテルの吸収を抑えようと色々試し始めた。


 「これは・・・」

コバの表情が一瞬にして変化した。
ローズも意外な展開に一瞬目を丸くした。

 「ぐ・・・この程度なら、ウチの技術、で、なんとか出来るっぽいぞ」

汗だくになっているジュリレスターだったが、先程と違って透明のエネジスが不格好だが槍のように変形していた。

 「お主は得意マテルを伸ばす方が適しているようだな」

 「えっとね、コバの説明だと不足成分たっぷりだろうから、あたいが軽く補足するけど
 無我夢中に使ったマテルが得意マテルである場合は、必殺技も得意マテルにした方が効率良いんだよね。
 もちろん100%そうだって言いきれないけど、大概はその方がうまくいく。そういう風に出来ている。って感じでね。
 ジュッリはマテルの吸収を解除しようとせずに、マテルを押し通そうとしてそれが成功したわけでさ
 これは得意マテルを極める事が出来る才能があるって事でもあるんだよ。
 得意マテルは使いやすいってだけで、実は他のマテルの方が極める事が出来るって場合もあるんだよね。
 それがいわゆる"火事場の馬鹿力"って物でさ、普段意識していないマテルを出す事が出来たりもするって感じなんだよ」

 「うん。理屈は何となく理解できたよ。
 でも、仮にジュリちゃんが何も出来なかったらどうするつもりだったんだい?」

 「その時はコバが強制的にエネジスをブン取っておしまいだよ。
 そして、残念だけどキリン狩りにも参加は出来なかっただろうね」

 「僕達を試す試験でもあるのかい?
 そんな大事な事を隠してるなんて、中々と僕達に対して良い待遇だね?」

 「うーん。言い訳にしかならないけど
 あたいは話でしか聞いてないけど、ヴェロん達も戦力として信頼してるから良いんだけどさ
 コバはね・・・」

 「ローズ・・・」

 「ん?でもさ、ジュリちゃんは合格したっぽいけど僕はまだ怪我が癒えてないから
 結局は君達の仲間扱いではないんだろ?」

 「その点は大丈夫だよ。
 実はね、ヒミの仲間って点だけで合格だよ。その点だけだとあたいは不合格なんだけどさー
 逆にコバは無条件で合格にするだろうし。
 って事でこの試験は形だけで、本当にマテルの性質を調べてるだけって事なんだよ。うんうん」

 「ローズッ!」

 「あ、コバがマジで怒りそうだからここら辺でやめときまーす。
 ヴェロんは傷が癒えてからここで性質を調べてもらうといいよ。必殺技を作るにしても性質を知っておいた方が早いからねー
 あたいが見る限りだと、ヴェロんは他のエリアスターとはちょっと性質が違う気もするからさ。
 っと、ビックリしたかい?あたいはねこう見えてマテルを見極めるのが得意な方なんだよね。
 それはエリアスターでもあるヴェロん達も例外じゃないよ」

 「実地はコバがやると言ってたけど、本当はローズちゃんが見極めしてたって事かい?」

 「まぁ〜そんな所かしらねー。
 こう見えてもあたいは、トライデントの攻撃部隊の中じゃトップクラスだったりもするんだよ。
 コバもガタイからしてトップだけどね」

ヴェロンはそれについて何も返事を返さなかった。
というのも生真面目っぽいコバのリアクションがこれまでと異なって、何もなかった事も関係しており
なんの為に"ローズが嘘をついている"のかという点を考えては見たものの
これといって思いつく部分もなかった為に、とりあえず話を合わせておく事にしたのである。

嘘というのはローズがマテルを見極めているという点である。









*ローズにマテルの見極めが出来るという設定はなく、ただ単純に「ヴェロン」の昔を知っているという事。
シドにその点は聞いている。







この後ヒミの過去話に持って行くか、過去記憶を持った人物に関する話になるので
ローズとライコに警戒されるか、シドが上手い事言いくるめるか
ヒミコのレコカネタを活かすために、リクはここを離れる様にするか。する予定。
トライデントの紋章を三人に渡すのでリクがドラゴンナイトに狙われる事はない。
リディも過去記憶に関する件とギフト選抜に出る件でアジトから出て行く流れになる。

リク、リディが居なくなってから講座の続き。












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