25
【タブー】
涼しい風が吹き始めた夜の10時過ぎ。
ヒミから借りたナビ職でタブを発ったジュリレスターとヴェロンの2人は
リディが幽閉されているモンスターの洞窟があるシフト山に向かっていた。
「ジュリレスターさんのマスターが居る洞窟までの座標をナビ職に登録したから
到着するまで仮眠を取った方がいいぜ」
「・・・う、うむ」
ジュリレスターはあからさまに眉をひそめると、自動運転になっているナビ職から見える暗闇を見つめていた。
「ジュリレスターさんは、僕の事を怪しんでいると思いますが
結局、行動で示すしかないって事だね」
「・・・別にヴェロンを信用していないわけじゃないぞ。
ただ、緊張で寝る事はほとんど無理なだけだ。
だからウチには構わず、休息をとった方がいいぞ」
「・・・うん。本来なら僕がここでビシッと決める所なんだろうけどね。
流石に、短期間で怪我が回復する程、僕の治癒能力が高いわけでもないからね。
ジュリレスターさんには悪いけど、休ませてもらうよ」
「うむ。ヴェロンがモンスターとの戦いで負った傷は結構深いと思うぞ」
「・・・心配には及ばないぜ。
それに、洞窟にはモンスター以外の不安要素があるだろうから余力を残しておきたいぜ」
「む?」
「ヒーローとしてのカンさ!」
「ヴェロンの言っている事はよく分からないぞ・・・」
更に眉をひそめると、数回首を振り仮眠を取る様に座席に座ったまま目を瞑った。
それを見てヴェロンも安心したように、隣りで同じく目を瞑る。
「ジュリレス・・・ジュリレスターさんは、どうしてマスターを助けたいんだい?」
ナビ職の走行音だけが続く深い闇の中で、ふと、ヴェロンが言葉を発して起き上がる。
「うむ。言い難いならジュリで良いぞ。
ウチは、リディがマスターだから助けるとかそういうのはないぞ。
リディはウチにとっても大事な仲間だからな」
「うん。・・・僕もそう感じてたよ。
ジュリさん・・・いや、ジュリちゃんは気持ちが前面に出るタイプに見えるからね」
「む・・・ちゃん?」
「僕はね、ヒミコさん程じゃないけど、マスターを良くは思っていないんだ。
でも、実際この目で見るまで端から否定する事はしないぜ。
ジュリちゃんがマスター関係なしに助けたいと思うのと同じでね」
「む、だからちゃん付けは・・・」
「呼び捨てはボクの性に合わないからね。
っと、そろそろ洞窟に入るみたいだね。
レコカのマップからも分かるけど、マスターは洞窟の真ん中あたりに閉じ込められてるみたいだね」
ジュリレスターは何を言っても無駄と悟ったのか、
聞く気を持たないヴェロンから目を背けるように、自分のレコカを見つめた。
ジュリレスターのレコカは、自動運転しているナビ職の運転席の横に立て掛けるように置かれており
簡易マップと、リディの居場所を示す赤い点滅が映っている状態になっていた。
「ところで、ジュリちゃんは何でマスターが洞窟の奥地じゃなくて、真ん中辺りに居ると思う?」
「む・・・ウチはそういう事はよく分からないぞ」
「ただ闇雲に突っ込むだけじゃ、今後マスター達を護るにしてもジュリちゃんは苦戦すると思うよ。
だから、"彼"のようなタイプを必要としていたのかもしれないけどね。
でも、こういう罠に挑まないといけない場合、色んな想定をして入る必要があるよ」
「うむ。罠が仕組まれている可能性はウチも考えているぞ。
だが、考えた所で結局は無心で体が先に動いてしまうから、あまり意味がないと思うんだ」
「うん・・・わかった。
今回は僕が微力ながらその判断担当という事で、ジュリちゃんがデントグラスを使って・・・」
「タブでも言ったと思うけど、グルーブのアイテムは使わないぞ」
「う、う〜ん」
ヴェロンは軽く頭をかいて天井を一瞬見つめた。
「よし、僕がマスターの所に行くぜ。
まずは、ジュリちゃんの影を借りるよ」
そう言うと座席に座ったままジュリレスターの腕に触れると
ヴェロンの「影のマテル」によって、ジュリレスターの影の中にヴェロンの影が入る形となった。
これで、ヴェロンがリディと対面した時に、影のマテルによってジュリレスターを引き込ませる事が出来る。
次第にナビ職の動きがゆっくりとなり、目的地に到着している事を告げていく。
ジュリレスターはデントグラスことモンスター避けのレイ・バーグラスを持っていない為、ナビ職で待機。
ヴェロンがレイ・バーグラスをかけて外に出た。
レイ・バーグラス自体がサングラスの様に色付きではあるが
洞窟内の為、ほとんど何も見えない状況である。
ヒミが用意していた物かわからないが、このナビ職には光源となるエネジスが幾つか用意されていた。
それをヴェロンは適当な位置に振り分けると、周辺の状況が分かるようになった。
そこには丸いボール型の住居が存在しており、その中にリディがいる事は間違いなかった。
しかし、どう見ても入口が存在していなく窓もない為、現在リディがどうなっているのか分からない状態だった。
「リディさん!僕の声が聞こえて居るならナビ職の入口を開けてくれ!
仲間のジュリレ・・・ジュリちゃんも一緒に来ているぜ!」
何度か叫んでみるが、ボール型のナビ職が動く気配はない。
ヴェロンは、最悪の状況を想定し一度自分のナビ職に戻った。
「ジュリちゃん。可能性として聞いて欲しいんだけど
マスターが既にここには居なく、罠だけが残されている状況かもしれない」
「む。だが、レコカはここを示しているんだろ」
「この情報はタブに居た時に更新した情報だから、今現在の状態じゃないんだ。
もうそろそろ朝になるから、8時間ぐらい前の情報って事になるぜ。
"彼"がその間にヴィルと接触できず、かつヴィルがマスターを連れて違う場所に移動した可能性もあるって事さ」
「彼って、リクの事か?」
「あ、あぁ。うん。
どうも僕は、同性の名前をきちんと覚えられないみたいだ。
ジュリちゃんの名前は、決して忘れないけどね」
言葉と同時に決めポーズをしているようだが、ジュリレスターには全く伝わっていなかったようで
「む?何の格好をしているかわからないが、この後どうするつもりなんだ?」
「え、えっと・・・。
マスターがこちらに意思表示が出来ない可能性もあるから、単純に居なくなったとは決められないよね。
どうにかして、あのナビ職の入口を作るしかないけど・・・!」
「うむ。
洞窟の入口側から何か来るみたいだな。
罠の方が正解という事か」
「・・・ジュリちゃん。この後何があってもここから出たらダメだぜ?
最悪の場合二人とも命を落とす事になるからね」
ヴェロンはある可能性を想定し、再びレイ・バーグラスをかけた状態でナビ職の外に出た。
そこには、機関銃が配置されている装甲車に変形していたナビ職が止まっており
そこから同じくレイ・バーグラスをかけた人物が下りてきていた。
「困ったものだねェ。
この中に居るマスターを助ける気なのかい?ヴェロン」
「MKとしては、僕やジュリちゃんを放っておけないという事かい。
邪魔をするなら元上司といえども抵抗するしか出来ないぜ」
「元・・・かい。
その発言に後悔はないかねェ?ヴェロン」
「後悔だと?
グルーブさんは僕を消さないと本部に帰れない流れって奴じゃないのか?
最初から戦う気でここに来てる筈なのに、よく言うもんだぜ!」
そこには、MK本部に帰ったはずのグルーブが荷物を背負わずに立って居た。
ヴェロンもグルーブが来ることは想定内という感じである。
「残念だねェ。ヴェロン君次第ではまだMK復帰のチャンスがあったというのにねェ
戦闘部隊ではない方だが、それでもヴェロンに負ける気はしないけどねェ」
その言葉と同時に鈍い銃音が洞窟に響く。
グルーブはスーツ風のジャケット内側から瞬時に短銃を取り出しており、それをヴェロンに向けて撃った。
「・・・痛い、というより熱いな!
その短銃。ブレイカーの一種か!」
左足を撃たれたヴェロンだったが銃弾的な痛さではなく、火傷の様な痛さを感じた為にブレイカーだと即時に判断した。
ただの拳銃しかも短銃だと、撃てる弾数にも限度がある為、戦闘向きじゃないグルーブでは確実性で劣る。
一方で威力を調整する事で、無駄撃ちを相当行ったとしてもお釣りが来るだけの弾数が確保できるのが
ブレイカーの銃の特色でもある。
【マテル補給所】にて充填する事で、様々なマテルの効果を選択する事が可能となっていた。
「おや?思いの外、命中したねェ
自称ヒーローのヴェロンらしくもないねェ。どこかで怪我でもしたのかねェ?」
「はっ、コレは元上司へのハンデだぜ?
それにヒーローっていうのはさ、一度はピンチに陥るのがお決まりってヤツなんだぜ!」
ヴェロンの明らかな強がりだが、グルーブはそれを分かっているかのように2発目を撃つ。
「おっと、危ない!」
今度はギリギリでヴェロンが銃撃をかわす。
それと同時にグルーブの方に走り込んで、一撃くらわせようと間合いを詰めて行く。
グルーブはその行動に一瞬驚きはしたが、何もしない事も無く3発目を足下を狙って撃ち込む。
それがヴェロンの走り込みのスピードに変化を与えて、間合い少し手前で一瞬止まる形となってしまった。
だがそれでも、身体能力の高さを活かしバランスを崩した状態のままで間合いを詰めると、
4発目を撃たせる前にグルーブの右肩に拳をぶつける事に成功した。
しかしそれは、ただ拳を当てたという形であり、グルーブにダメージを与える結果にはならなかった。
「流石に身体能力で勝るヴェロンには、銃口の向きで大体の狙いが掴めるという事かねェ。
末恐ろしい新種だよねェ。まったく」
ヴェロンから離れるように間合いから離れつつ、グルーブは連続で銃撃を繰り出す。
連続とは言うが、トリガーの動きにより僅かな間が出来ていた為、その間のタイミングでヴェロンは銃撃を僅差で避け続けていた。
間とはいうが、それは傍目には人間の身体能力でどうにか出来るとは思えない動きであり
かといって新種の特殊マテルが関係しているとも思えなかった。
「いくらなんでもおかしいねェ。ヴェロン。
新種が特殊とはいえ、その動きは人間とは思えないねェ」
「前から言ってるだろ?
だから人は、僕の事を"シャドーヒーロー"と呼ぶんだぜ!」
そうして"いつもの決めポーズ"を軽く決めると
直ぐ様次の銃撃に備えるように体を構え直した。
「ヒーロー・・・ねェ。
やっぱり、危険だねェ」
気づいた頃にはグルーブはもう片方の手にも短銃を持っており、二丁拳銃でヴェロンに狙いをつける。
「おいおい、二丁は流石にやばいぜ!」
そのセリフとほぼ同時に、ヴェロンの足を狙い連射する。
多少ズレはあるものの、数発が命中しヴェロンが軽く後ろに吹き飛ぶ形になって転んだ。
「これで、しっかりと狙う事が出来るねェ」
再び一丁となった短銃を横向きに構え、立ち上がれないヴェロンの体中心に狙いを定めて撃ち抜こうとしていた。
「・・・僕も、まだまだという事か」
「まだじゃなくて、もう終わりだねェ」
「こんなの、ピンチの内に入らないっていうのにな。
ごめんな。ジュリちゃん」
その言葉で気配を感じたグルーブは、一瞬後ろを向いた。
そこには、ナビ職に居るはずのジュリレスターが槍を構えて立っていた。
その想像をしていなかったグルーブは、威嚇するかのように銃撃を放つ。
「なんて女だねェ。モンスターお構いなしなのかねェ」
そう言いながらグルーブは、銃撃をしつつ装甲車の方へ逃げるように走っていく。
それと同時に、地響きのような音と揺れが始まる。
「・・・ジュリちゃんが中に居てくれれば、ギリギリで逃げられたんだぜ。
焦って出て来なくても大丈夫だったんだ」
「う、うむ?
言われてはいたが、あの状況では黙って居る事が出来なかったぞ。すまない」
「って、呑気に喋ってる場合じゃないぜ!
ジュリちゃんの存在に気付いたモンスターがここにやってくるぜ」
二人が居る現在地は360度全てが広がっている大きな空間になっており
音と振動に合わせるように、複数の大きな影が映る形になった。
「うむ。急いでナビ職に・・・」
2人はナビ職へ戻ろうとした瞬間、別の振動と爆音が響いた。
グルーブは装甲車風のナビ職へ戻ると、配備されていた機関銃を使いジュリレスター達が乗ってきたナビ職を砲撃した。
数秒でナビ職は半壊した為、その中で待機する事は不可能となった。
「む!ここまでやるのか!」
「グルーブ"さん"は、ここで完全に始末するつもりみたいだな。
僕だけならまだしも、ジュリちゃんも巻き込むのは許せないぜ!」
爆音の影響もあるが、レイ・バーグラスを付けていないジュリレスターの存在により
この空間に数匹のモンスターが集まっていた。
一匹ですら対抗する事も出来ない二人は、完全に後がなくなった。
「リディ!聞こえているなら入口を開けて欲しいぞ!」
最後の望みとして、ジュリレスターはボール型のナビ職の方に向かって叫んだ。
ヴェロンは装甲車方を向くと諦めの様な表情をしたが
ジュリレスターの叫びで向き直すと、一瞬だけ先を見るような眼になった。
そうしている間にもモンスターは近づいて来ているが、ボール型のナビ職は動く気配がない。
「ジュリちゃん。マスターの方は一度諦めて、グルーブのナビ職をなんとかs」
「ウチは諦めないぞ!
リディ!聞こえていたらドアを開けてくれ!」
「ジュリちゃん・・・」
状況は最悪で、5匹ぐらいのモンスターがボール型のナビ職を囲んでいた。
ヴェロンは覚悟したように下を向いて何かをしようと拳を握る。
「む!」
「どうした?ジュリちゃ・・・」
そこには、ボール型のナビ職に無理矢理に作り出したと思われる入口が歪な形で現れていた。
「早く中に入るんだ!」
それに気が付いたヴェロンは、強引に押すような形でジュリレスターを入口に向かわせた。
ボール型のナビ職が自動修復しているのか、そこは既に体一つ分ぐらいの大きさにまで小さくなっている。
ジュリレスターはそれを防ぐように槍を差し込むように入れて、中に滑り飛び込んだ。
ヴェロンも同じように入り込もうするが、体半分を強引に入れた所で槍が壊れてしまい
中途半端な状態のまま入口が修復されて、建物の一部と化してしまった。
体が締め付けられた形になったヴェロンは、声にならない叫びとなって気を失う。
「リディ、先程みたいに入口を作ってくれ!」
急に登場したジュリレスターと金髪の男に驚きながらも
リディは巨大ハンマーの様な物でヴェロンの近くを叩きつけた。
再び、ナビ職の入口が開く・・・というよりは、ナビ職の一部が壊れていく状態となり
隙間が出来たおかけで、挟まっていたヴェロンをジュリレスターが瞬時に引き込む事に成功した。
これで、とりあえずはモンスターから回避出来る形になった。
『え・・・っと、これはいったいぜんたいどういう状況なんでしょうか?』
「助けに来たぞ。リディ」
『う、うん。リッ君がレコカで情報くれてたから、隊長が来ることは分かってたんだけど・・・
この金髪君は一体誰?』
ジュリレスターは簡単にここまでの状況を説明した。
『じゃ、この金髪君がヴェロン君って事だね。
リッ君が変態ストーカー君を足止めしてるって事も分かったよ』
「うむ。
そして、外にヴェロンの元上司がいて、ウチ達を消そうとしている状況だぞ」
『多分だけど、この"バルちゃん"の中に居れば砲撃でも大丈夫だよ』
「バルちゃん?」
『このナビ職の名前だよ。変態ストーカー君が持っていたナビ職』
「そうなのか。
ところで、リディが持っているその武器はブレイカーでもなさそうだが、マスター用の護身アイテムか?」
『いんや。これリノちゃんの変形。
目には目を、ナビ職にはナビ職ってね』
そう言うと、ハンマーだった武器が変化し、空に浮く触覚の付いた野球ボール型に戻った。
「・・・ジュリレスターと再会したのはいいが、籠城し続けても何も変わらないな」
『いんや、リノちゃんもおかしな事言いますね。
隊長から状況も聞いたし来てくれた事で、ここから脱出できる可能性がグンと上がってるじゃないですか』
「この外にはモンスターが生息しているが、生身だと間違いなく生き残れないな。
バルサは固定型住居に変形してる上に、修復機能もある関係で俺の変形でも完全に破壊して出る事は不可能だ」
『う〜ん。そこをなんとかリノちゃんの力で』
「助けにきた途端そのテンションか。現金な奴だな」
『むむ。リノちゃんはそういう余計な事言うキャラでしたっけ〜?』
洞窟内は、モンスターと装甲車が待機するという非常事態だというのに
ボール型のナビ職ことバルサの中は異常な程に楽天的な空気になっていた。
それを打ち消すかのように、幾つかの砲撃音が響く。
明らかに、ボール型のナビ職こと「バルサ」を狙っての砲撃だが
修復機能と関連しているのか全ての砲撃を跳ね返す為、ダメージはほとんどないように見える。
装甲車を操作しているグルーブはそれを想定してなのか、移動をしながら砲撃を行っており
攻撃しているのもバルサの破壊が目的ではなく、跳ね返ってきた砲撃をモンスターに食らわせる事にあった。
そしてグルーブの目論見通り、砲撃の一部がモンスターに当たった事で
その方角にあたるバルサに向かってモンスターが走り込む形となった。
モンスターは自身を攻撃してきた辺りを叩きつけるように、前足を振り下ろす。
それは正確にバルサを狙った攻撃にはならなかったが、修復機能に若干の狂いを生じさせるのは十分な威力であった。
習性的なものなのか他のモンスター達も倣う様にバルサの方に近づいて来ると、同様に近辺を叩きつけ始める。
攻撃が積み重なる事で修復を行っているバルサにも限界が出てきており、
変形している建物周辺にひびが入ったままの状態となった。
「む。このままだと、このナビ職も破壊されてしまうんじゃないか?」
『うん。これはちょっと想定外。
リノちゃんにも頑張ってもらわないといけなくなりそうだね』
「方法は一つだ。
バルサの中で建物に変形するのは悪手。
移動出来るように車に変形させるのが好手だが、この中で変形可能な車となると、一人乗り程度の大きさでしかないだろう。
これは変形させる側の技量によるが、リd」
『な〜んか、軽く悪口を言われている気がするんですが
リノちゃんは何を言っているんですか?
そして、握手?リノちゃんには握手できる手なんかないじゃないですかー』
「・・・リディ。この状況で冗談は止めろ。
ともかく、変形させるのはバルサが破壊されて、建物の機能が無くなったその瞬間だ。
そこでジュリレスターもそこで伸びているヴェロンとやらも乗せる必要がある」
「うむ。それはウチに任せろ」
『じ、冗談って。リノちゃん絶対、変形が握手とかなんとか言ったよね』
二人に聞こえないような大きさで、リディはブツブツ言っている。
「いいかリディ。これはお前の行動が肝なんだぞ」
『うん。なんとなく理解しました』
「・・・途中から聞いてないだろ、お前」
『うん。でも、大丈夫。
ここぞって言うタイミングでリノちゃんが叫ぶと思うから』
「・・・」
「む・・・リディ、それで大丈夫なのか?」
『大丈夫なのですよ。それにモンスターだって隊長が居るだけで問題ないってもんですよ』
「いや、それは絶対無理だ!
ウチ一人ではとてもじゃないが1匹だけでも対応できないぞ!」
『いや、ゴメンゴメン。
隊長がそこまで必死になるっていうのは相当ヤバい生き物って事だよね。モンスター・・・
うん。モンスターズだね』
「完全にヒビが入った。バルサが壊れるぞ!」
トリノの言葉と同時にバルサ上部が崩壊を始めて外の洞窟の風景が少しずつ見えるようになってきた。
それと同時にモンスターの姿も確認できる。
『リノちゃん!変化いくよ』
「ああ。落ち着いてイメージしろ」
リディはトリノを手に取り、車のイメージを浮かべつつ変形させる。
それを見たジュリレスターは、数秒の時間稼ぎの為に、変化させた槍を上空へ投げて注意をそらさせようとした。
無機質な物質な為に、これは結果的に意味を成さない行動になるが、
自身の動きが固まってしまう状態を防ぐという意味では一定の効果をもたらした。
『隊長!準備出来たから、早く金髪君を乗せて!』
リディの言葉を聞くまでもなく、ジュリレスターはヴェロンを捕まえており
出来上がっていた「トリノの車」に素早く飛び乗せた。
それを見て、リディも急いで乗り込んだ。
しかし、バルサ崩壊前に集まっていたモンスターがトリノの違和感に気付かないわけもなく
リディが乗り込んだ直後に一つの衝撃が走る。
「リディ!早くここから出るぞ!」
『リノちゃん、よろしく!』
一撃を食らったせいもあるのか、言葉を出す事なくゆっくりと動き出した。
数匹がトリノを追いかけるように動こうとするが、間合いを抜けて移動すると
追いかけるモンスターも居なくなった。
『リノちゃん・・・ごめん。怒ってるの?』
"ッガ、・・・ッデモナギュ"
『声がおかしくなっちゃってる。
これは・・・まさかの声変わり?』
流石にこれにはジュリレスターも呆れるような表情をするが
リディの言動と正反対な表情を見て考え直した。
『隊長・・・モンスター以外にも、砲撃をしているMKの人が居るって言ってたよね?』
「う、うむ」
『今ここで見る限り見当たらないって事は、別の場所に移動してるって事だよね』
「ウチ達がモンスターに狙われているのが分かっていたから、万が一の為に避難しているのかもな」
『・・・と、なるとですよ、入口に居る可能性が高いって事だよね』
「うむ。そうだろうな」
『今でさえリノちゃんの調子が悪いのに、入口で待機されるとなると
砲撃を食らったらひとたまりもないし、壊れでもしたらモンスターに狙われるって事だよね?』
「うむ。
だが、ウチ達に避ける術もないし、ナビ職で移動するしかない以上はこの洞窟から出るしかないぞ」
『・・・ところで、あの金髪君がかけているメガネって、もしかしてデントグラス?』
「うむ。そうだが」
『もう一つあれば、モンスターに襲われる事はないんだけどね』
「む?リディも持っているのか?」
『いんや。その金髪君の分しかないよ』
「・・・それだとヴェロンを見殺しにする事になるんじゃないのか?」
『え?
金髪君はリノちゃんの中に居るから大丈夫でしょ。
で、隊長と私で外に出て、砲撃している主をどうにかするっていう感じで』
「む??」
ジュリレスターにはリディの考えがいまいち理解できていない形だったが
どちらにしろ、レイ・バーグラスが一つしか無い以上はリディの考えは実行できない。
『リノちゃんとも話出来ない状況だし、私達で何とかしないといけないんだけどね〜。
私は"意外と"こういう事考えるのは苦手だしね』
「・・・う、うむ。
このナビ職にも砲撃できる機能を付ける事はできないのか?」
『多分できると思うけど、その為には一度リノちゃんを解除しないといけなくなるし
それやると、モンスターがここに近づいちゃうよね。
何より、私は大砲のイメージがパッと出て来ないからね』
「うむ。そうなると洞窟から出ないで籠城するしか・・・」
『隊長。残念だけどそれも無理だと思う。
リノちゃんがこんな感じになったのは私は初めてだから、このまま変形し続けられるかも分からないよ。
バルちゃんみたいに壊れる可能性だってあるしね』
「む・・・やはり進むしかないという事か」
『レコカを使ってリッ君と相談出来ればいいんだけど・・・これは通信屋で更新するタイプだしね。
それでも、隊長なら・・・隊長ならなんとかしてくれると、私は信じているよっ!』
「む。ウチは期待に応えられるだけの力はないぞ・・・。
ところでリディ、その腕輪はもしかして」
『あぁ、これ?
ストーカー君に束縛プレイを受けてた時に付けられたものだね。
そういえばこれって、マテルを封じる効果があるはずなのに、普通にリノちゃんを変形出来てたのは何でだろ』
「む。ウチもそれをつけられた事があるからマテルが使えなくなるのは分かるけど
もしかすると、ウチ達新種にしか効果が無いのかもしれないな」
『そんな事ないはずなんだけどね〜。
変態ストーカー君の考えや行動は良く分からないね。
ちょっと邪魔だから外れるといいんだけど、もしかしたら隊長の武器で壊せるんじゃない?』
「うむ。それよりは直接触って変化させた方が良いだろうな。
マテルを封じる効果がないただの腕輪かもしれないし」
ジュリレスターはリディの腕に付けられていた腕輪を触ると
それを真っ二つに割る様に変化させてリディから解放させた。
『おー。さすが隊長』
「う、うむ。ただの腕輪のようだった、な」
やや腑に落ちない表情のジュリレスターだったが
とりあえず一安心した表情に変わった。
トリノの車は洞窟の入口に向かって登っていた。
数分走ると、暗闇の奥に微妙な明るさの空間が見えるようになっていた。
その空間が大きくなりかけたその時、再び爆音と振動が響いた。
「良く見えないが、何かが崩壊している音がするぞ!」
ジュリレスターの言う通りで、洞窟の天井が崩落している音が響いており
目の前の明るさが消えると、その音はトリノの車近くまで広がっていた。
「リディ!巻き込まれるぞ!」
大きな轟音と振動と共に、トリノの車が完全に停止した。
車内部の光源系統も故障したのか、内部も見えなくなり完全な暗闇と化した。
『・・・隊長・・・大丈夫?』
「うむ。このナビ職自体が破壊されたわけじゃないようだから、今の所は大丈夫だ」
『・・・金髪君も大丈夫かな?』
「暗闇で全く見えないがナビ職の中に居る限りは大丈夫なはずだ」
ジュリレスターはそう言ったが、トリノが何時まで変形出来るか不確定な状態で
変形が解除されれば、崩落の影響を受けるのは確実な状況である。
『リノちゃん・・・もうちょっと頑張ってね』
リディは持っていたブレイカーと思われるアイテムで光源を作り出した。
「これで暗闇から解放できた・・・
む!」
『隊長、どうしたの?怪我でもした?』
「ヴェロンが・・・いないぞ」
トリノの車の中にはリディとジュリレスターだけが居る状態になっており
ヴェロンは不自然に居なくなっていた。
崩壊した洞窟の入口付近には、グルーブが乗っている装甲車が停まっていた。
洞窟を崩壊させた犯人は当然にグルーブである。
これで、ヴェロンとジュリレスターを生き埋めにして"処分"を完成させたのである。
仮に生き埋めを回避出来ていても、ナビ職から出た時点でモンスターが近づいてくる事になり
どちらにしても生き残ることは困難な状況になっていた。
そうして洞窟の崩落により入口が塞がったのを確認した後、装甲車はゆっくりと移動を始めた。
「・・・また戦力を失ってしまったねェ。
新種は貴重な人材だから、あまりこういう手は使いたくないんだよねェ」
「じゃ・・・次からは平和的に・・・やってもらいたい
もんだぜ」
意図しない声に慌ててグルーブは後ろを振り向くが
その瞬間、壁に体が吸いつけられる様に飛ばされていた。
気が付いた頃には、顔面に痛みが走っていた。
そこには、今にも倒れ込みそうなヴェロンの姿があった。
ヴェロンは影のマテルを使って、グルーブの影の中に移動していたのである。
ちなみに、影のマテルを使う条件はグルーブと洞窟で戦った時にクリアしていた。
短銃のブレイカーによる攻撃を避けながらも、グルーブの右肩に拳をぶつけた時に、影を移動させていたのである。
グルーブは戦闘に慣れていない事もあり、戦闘に集中していた事で
ヴェロンの影のマテルによる違和感を認識出来ていなかった事も、ここまでばれずに上手く移動出来ていた要因であった。
「グルーブ"さん"。
僕は・・・自称ヒーローでは・・・あるけどね・・・
表のヒーローじゃない・・・この意味分かるかい?」
「何を・・・一体言ってるのかねェ?」
「MKがそういう手を使うなら・・・僕も悩まずに・・・
正義を実行出来るって事さっ!」
明らかに瀕死な状態であるヴェロンだが、眼だけは力を失っておらず
それは、この後のヴェロンの行動にも表れる事となる。
人は彼の事を"シャドーヒーロー"と呼んでいる。
つまり。正義の味方である。
その手段が、たとえ邪な正義だとしても・・・
日が昇りそうな時間になる頃
崩壊している洞窟の前に一台のショベルが登場していた。
それは、手慣れた作業で崩壊した土砂や岩などを退かしていく。
作業開始から数十分すると一つのナビ職の車が現れる。
『また振動・・・もうリノちゃんも限界って事なのかな?』
「む・・・これは上から聞こえるぞ」
『あれ?光が見えて・・・って、隊長これって!』
「うむ。助け・・・なのか?」
疑心暗鬼なジュリレスターと完全に助けが来たと思っているリディのギャップはあるが
それがこの状況を変えてくれるという事だけはハッキリと分かった。
そして、その状況を変えたショベルから一人の人物が下りてくると、ジュリレスターも安堵の表情となる。
「遅れてすまんかったぜ。
正義のシャドーヒーロー!ヴェロンが囚われの姫様達を救出にやって来たぜ!」
例の決めポーズをフラフラになりながも行うと、トリノの方に乗り込んでくる。
「ヴェロン!大丈夫か!」
「ジュリちゃん達の顔を見れば、これぐらいの怪我たいした・・・
大したことないっぜ!」
言葉とは反対に、中に入ると途端に倒れ込んだ。
それと同時に、"2つの"レイ・バーグラスをジュリレスターに渡す。
「む?これは?」
「ジュリちゃんは嫌だと思うけども・・・それで、モンスター対策にはなるだろ?」
そう言い残し、大の字に倒れたまま動かなくなる。
『隊長・・・これは一体どういう事?』
「う、うむ。
恐らく、雑貨屋のデントグラスをヴェロンが持ってきたという事だな。
そして、あのショベルも雑貨屋のナビ職だろうな」
『な〜んか、分からない事になってますが
これでモンスターに襲われずに色々できそうですね』
「・・・ヴェロンの行為を無駄にするわけにはいかないな。
うむ。あのナビ職のショベルを使ってタブに戻るぞ」
『でも隊長?
あのショベルに変形しているナビ職って、MKのグレープっていう人が乗ってきたんだよね?
だとすると、ちょっとメンドイ事になるかもしれないよ』
「む?
・・・グレープ?」
『MKって組織は、情報の速さでは世界でもトップクラスらしいからね〜。
ナビ職の居場所もきっちり管理してそうな印象が強いんだよ』
「だが、そうだとしても、トリノの車に乗り続ける事は難しいと思うぞ」
『そうなんだよね〜。
リノちゃんがこんな感じになったから、このままっていうのはちょっと厳しいよね。
私のマテルを使えば、本来ならタブ手前までは移動出来るんだけどね
監禁生活まっしぐらだったから、ちょっと不安な点も大きいんだよ。
腕輪のせいじゃないと思うけど、リノちゃんの変形も思ったようにできてなかったりもするし』
「む、そうか。
だとすると、腕輪の効果が弱まっていたという事なのかもしれないな」
『そうかもね。
本当はね内装をもうちょっと豪華にする予定だったんだけど、質素な感じでしか出来なかったからね』
「う、うむ・・・?」
リディの考えはジュリレスターには全く理解できなかったが
タブに行くにはショベル化しているMKのナビ職を使うしか手がない事を再認識した。
「ウチがヴェロンを連れて行くけど、ショベルのナビ職の変形もウチがやった方が良いのか?」
『いんや、隊長はナビ職の変形に慣れてないでしょ?
リノちゃんみたいなマスター専用のナビ職じゃなければ、腕輪の外れた今の私なら問題なくできるはずだよ』
「確かにウチは、これまでナビ職に触れる機会が無かったからな。
ここはリディに任せた方が良いな」
新たにレイ・バーグラスをかけた二人はトリノの車を降りて、まずリディがトリノの変形を元に戻す。
ジュリレスターは気絶しているレイ・バーグラスをかけた状態のヴェロンを背負って
ショベルのある洞窟出口まで歩いて行った。
リディは触覚と上部がやや壊れかけているトリノを手に
ショベルのナビ職に近づくと、一度元の形に戻したあと、再度車に変化させた。
『う〜ん。80点って感じかな?』
「む。何の話だ?」
『もうちょっと外装にもこだわりたかったんだけどね〜、普通のナビ職だと変化の幅も大きくないっていうか
もうちょっと赤色が欲しかったというか〜』
このナビ職の変形後の外装はワインレッドではあったものの
目立たない方の色合いではない。
「ウチにはよく分からんけど、あまり目立つ色にしない方が良いんじゃないのか?」
『あ、そうか。"余計な人"を連れてくる可能性もあるからね〜。
流石は隊長!頼りになりますっ!』
「う・・・うむ?」
神妙な表情をしているジュリレスターを横目にリディはナビ職を再変化させた。
今度は地味な灰色っぽい配色の車となる。
『外装はアレだけど、内装はそれなりに凝ってるよ〜』
あまり良い予感はしなかったジュリレスターだったが
ヴェロンを休ませることが出来るベッド風な座席など、想像と違った所で凝った作りになっていた。
「これならヴェロンも問題なく移動させられるな」
『うん。それに早く病院に連れて行かないといけないだろうから、飛ばしていくよ!』
「・・・だが、リディ。病院に心当たりでもあるのか?」
『全くないけど、さっきの隊長の話だと、リッ君たちは病院に居ると思われる変態ストーカー君を足止めしてるわけでしょう?
なら、合流する場所もそこになるだろうし』
「いや、それは違うぞ。
リディとヴィルを引き離す為の足止めだからな」
『・・・隊長、その点は大丈夫ですよ。
私がマスターであり続ける限り、変態ストーカー君も直接的には"手を出せないようになってます"ので』
「む?」
『ま、とにかく目指すはタブにある病院って事で。
MKの人が来くると厄介だし、急いだ方がいいと思うよ』
「うむ。ここに居る事で、モンスターに襲われる可能性もあるだろうしな」
『オッケイ!じゃ、タブに向かっていくよ!』
リディ、ジュリレスター、気絶中のヴェロンと故障気味のトリノを乗せたMKのナビ職の車は
モンスターの洞窟から脱出し、タブへと向かっていく。
「む。左の方にモンスターがやけに集まっているぞ」
『なんだろ・・・食事でもしてるのかな?』
洞窟を出て数十メートル離れた左側の方で、数匹のモンスターがその場の下を漁るような行動をしていた。
それが、モンスターに襲われたモノの末路というものだった。
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ここは、MKの本拠地があるタベス。
陽がすっかり上った頃には、グルーブがヴェロンに倒されたという情報は、リディ達がタブに移動する為に使っているナビ職によって判明する事となる。
「おいおい・・・こりゃ〜やばいんじゃねぇか?
タンベイちゃん、この情報マジネタ?」
"もち。
ナビ職整備担当からデータもらってきてるからね。
グルーブさんのレコカ反応も消えたし、間違いなくナビ職は何者かに奪われてるね。
ってさ、"ポイント"内とはいえ携帯電話で話す内容じゃないと思うんだわ"
「ま〜そこはタンベイちゃんの腕で何とか出来るでしょ。
オレはシェクターさんに伝えておくから、タンベイちゃんはグルーブさんのナビ職をなんとかしてくれないかね?」
"ブルックス、勿論通話内容は傍受できないように細工してるけどね・・・
でもさ、ナビ職の件はちょっと無理って相談だな。
グルーブさんは、オラよりもナビ職含む情報を弄るのが得意な人だったからね。
オラ一人で何とかなるレベルじゃないと思うのよな"
「最初から諦めたら、そこでし・・・って?・・・あれ?
通話切れてるじゃないか」
本拠地にて、人影が少ない"ポイント"で携帯電話を使っている黒髪短髪の好青年がいた。
彼の名前はブルックス。
ジュリレスターと"ウエブの城"の護衛をしたり、ウエブの大会でも少し関わったりしていたMK関係者の一人だ。
ウエブの大会中に、シロクロという人物を助ける為に
【キャッシュ・ホスピタル】というウエブ一の大病院を紹介し移動させた人物でもある。
彼の大会での仕事は参加者のエネジスを回収する事であり、実際多くのエネジスを回収する事に成功していた。
シロクロを病院に連れて行く際には、その仲間であるギンエイとアオイに、MKへの勧誘を試みていたが
"丁重"にお断りされており、組織拡大という意味では失敗をしていた。
そして、本拠地に帰ってきて幾つかの仕事をしたのち
MK仲間の一人である「タンベイ」という人物から、レコカで情報が送られてきたのである。
それが、ブルックスの上司である「グルーブ」の消息不明ネタであり
それを詳しく聞くために"ポイント"で電話を使ったというわけである。
一方の電話の受け側であるタンベイなる人物だが、こちらは、タベスの連絡塔に所属している人物で
リクがそこに一時期幽閉されていた時に、何度か目にしていたややふくよかな男であった。
彼は情報処理に長けており、リクがネルソンらと合流して連絡塔を出る際に、データを弄ったナビ職を用意していた人物である。
ようは、ナビ職の制御を不能にして、モンスターが居るシフト山に突っ込ませようと仕組んだ張本人である。
なお、ブルックスが言っていた"ポイント"というのもタンベイが仕組みを作っている場所で
特定のアイテムを使って通話をしていないと、ノイズが入るような電波を発生させるエネジスを周辺に埋めていて
その事によって、万が一電波を傍受しようとしても単純には出来ないようにしていた。
ポイントになる場所は、建物で死角となる場所を選んでいた為、追跡でもされない限りはそう見つからないようにはなっている。
なお、タンベイ側も傍受できないような仕組みを作っており、これはタンベイが信用できる数人にしか教えていない極秘の情報網でもあった。
通話でも言っていた事だが、タンベイはナビ職の通信に関しての情報を握ってたのだが
グルーブのナビ職に関しては完全に情報を掴めないでいた。
これは、グルーブの得意マテルにも関係があるのだが、それ以外にもナビ職内情報を残さないような細工をしていた為
タンベイの情報網にも入らないようになっていたようだ。
そういう事でブルックスは、「シェクター」という直属ではない上司にこの状況を伝える為、MK本部に入っていく。
廃墟の町であるタベスだが、MK本部のある地帯にはいくつかの建築物がしっかりと残されており
その中でも、一見古城の様であり、だが黒光している重厚な砦があり、そこが現在のMK本部という事になっている。
外装以上に内装は立派な物で、組織拡大の為と騙って資金集めをした結果が
どこに使われているのかを表しているような物とも言えよう。
「いつ来ても、この中は目新しいというか飽きが来ないっていうかね〜」
「で?何用?」
受付入口にある様な場所でブルックスはある女性と対話をしている。
見た目は受付嬢よろしく、暖色モザイク系のポークパイハットをかぶっており
オレンジ系のスーツも良く似合っている茶色長髪のお嬢様風なのであるが
必要最低限の言葉以外は喋らないという、ある意味でよく出来た事務的な女性である。
若干?言葉使いに問題はあるが。
「いや〜、もうちょっと絡んで欲しんだけどね。
ま、シェクター室長に繋いで貰いたいんだけど」
「少々待て。繋ぐ」
言葉使いは片言なのに、何故か自然な言葉に聞こえるのが不思議な女性でもある。
「8階室長室で待つ。あと、これ入室証」
「あ、あぁ。ありがとうね〜」
言葉使いとは逆に、とても丁寧に入室証を渡されたブルックスは、無事に本部内へと入ると
奥にあるエレベータを使い8階へと移動した。
そこから少し歩くと、シェクターの居る室長室が見え、そこにはカードを差し込める機械が設置されていた。
それはウエブの大会で使われていた仕組みとほぼ同様の物であり、今回は入室証を差し込む事で中に入れる仕組みのようだ。
「話はだいたい聞いておる。
グルーブの件はこちらでも独自で調査していてな、色々と厄介な状況になっておる」
入ってドアを閉めるなり、スーツ姿のやや年齢を重ねたヒゲ男が申し訳なさそうに話かけてくる。
「初めましてシェクター室長。それではこちらが説明する事もないですか?」
「まぁ、そこに座ってくれ。
まずグルーブは、とある新種に目を付けておってな・・・
それはおそらく君の方が詳しい者だと思うのだが、その経緯でトラブルがあったと見ておる。
で、そこに関わっている裏切り者のMKが二人。
一人は、今、調査室にて話を聞いておるヒミ嬢だ。
もう一人は、詳しく知らぬ者なのだがヴェロンとかいう新入りのようだ」
「ヴェロンって男についてなら、これまで相方になっていたタツキって女性が詳しいと思いますが」
「そうか。じゃ、悪いがそっちは君が担当してくれまいか。
そして、また私に報告を頼む」
「"ワタシ"でいいのですかい?」
「ああ。私もグルーブとは長い付き合いでな、君の話も若干だが聞いておる。
ヒミ嬢とは違い、君はグルーブ直属の仕事を担当しておるとも聞いておるから、期待を裏切る事はないと信じておるよ」
「え、えぇ。その点はご心配なく。
"ワタシ"も今回の件でグルーブさんをハメた奴らは許せませんから。
ですが、ヴェロンの方は完全に黒だと思うんですが、ヒミ嬢さんはここに居るのに何故裏切ったと?」
「あぁ。グルーブの情報で、ヴェロンと共にタブに居(お)る事が判明してな。
どうやらヒミ嬢は複製(クローン)のマテルも使えるという事のようだ」
「グループさんの件と関連しているかは別に、
今までも複製(クローン)を使って暗躍していた可能性があるという事ですか?」
「ああ。グルーブがヒミ嬢のマテルについて把握していなかった点を含めて、独自に動いておった説が有力だ。
どこかの組織と繋がっておる可能性もあるな。
真相がどうであれ、このままMKに置いておくわけにはいかないわけだ。
というわけでな、情報を絞り出したのち、私の権限で最悪級の処刑(タブー)を執行する!」
ブルックスはグルーブの遺志を継いでいる人物ではあるが、まだ独自で勝手に行動出来るだけの権力を持っているわけではなかった。
そこで今回、彼はシェクターと繋がりを作る事だけの為に、ここにやって来たのである。
その為、シェクターが言っている部分で違っている所も分かっているが、あえてそれを指摘する事もなかった。
まず、ヒミの"本来の"得意マテルについては、グルーブが確実に把握している事を知っている。
ブルックスは一部しか知らないものの、複製(クローン)のマテルを使えるようになったのが最近だという事は理解していた。
そして、実際会う事で考えたものではあるが、シェクターの言動はグルーブと比べて物足りなさを感じていた。
その為、シェクターには権力を借りるだけの関係だと、自然に割り切った考えになったのである。
ともかく、この事でヴェロンとヒミがMKから離脱すると同時に処分の対象となる展開になった。
ヒミに至っては、MKの組織としても異例の速さで処分を受ける事となる。
処分。
つまりそれは処刑の事であり、当然に死を意味していた。
MKという組織は仲間には寛容だが、裏切った者には厳格で容赦ないのである。
シェクターとの繋がり確認し本部から出てきたブルックスは、危険を冒して"ポイント"に戻って来ていた。
ちょうど本部内では、ヒミの処刑が始まろうとしていた頃の事である。
「・・・って感じなのさ」
「確かにそれが事実なら、ちょいとメンドイ事になるね」
「面倒とは?タンベイちゃん」
「ヒミ嬢はコチラ側だという認識だったからね〜。
結果ネルソンをハメた事になったあのスティーユの件も、グループさんの策だったわけだからさ。
だから、今まではスティーユ脱出をした際にヴェロンがMKを裏切って、大切な新種(なかま)ごとタブに移動させたって説が有力だったんだけども
実際には、ヒミ嬢が合流してて、"複製"を使ってヴェロン達ごとタブに連れて行ってたって事になるのよな。
本来あの場には、「ハンクス」が行って本部に誘導する予定のはずだったけど、未だに返事がない所からするに
ハンクスも裏切っているのか、ヤラレているかって所なのよな」
「あ〜なるほどね。それは確かに面倒な事で」
「そろそろ時間だから電話切らないと、さっきみたいに自動で通信が途絶えるけどさ
何か他に言う事はあるのかい?」
「あんまり頻繁に"ポイント"を使っていると怪しまれるって話だったっけ?
タツキの居場所の見当もだいたいついたし、じゃあ今日はこんな所で。
後の事はレコカで情報送るさ」
「うい〜。
ヒミ嬢の件はこっちでも独自に調べてみるのよな」
「任せるぜぃ〜」
ブルックスはそうして携帯を切り情報収集すると
ヒミの処刑の状況を見る事なく、ある目的地を目指して出発したのであった。
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