24
タブ



オレは病院の一室と分かる白い空間のベットの上で目を開けた。
側には、着物から薄水色のナース服に何故か着替えをしていたヒミコが
看病をしていた人風に、ベットにうつ伏せに寄しかかって眠っている。

小一時間ぐらい気絶していたのだろうか、この状況を把握出来るまで数秒を要した。
どうやら、スリックがオレの腹部を攻撃して気絶させたらしい。
理由は多分、エリア警察に目をつけられているという事なのだろうが
もう少しやり方というものがあるような気もするな。
この強引な気絶の方法は、デックスにある図書館のアレを思い出させる。


 「ヒミコ、寝てるのか?」

 「ん?・・・
 う〜、リクが中々気持ち良さそうに気を失ってたから、すっかり横になってしまってたねぃ。
 ま・・・とりあえず大丈夫そうだね」

 「・・・色々聞きたい事があるんだが、何でオレはあんな目に遭わされる必要があった」

 「ん〜それはスリックに聞いた方が・・・って言いたいんだけどね〜。
 あの後、少し一悶着あったんだよねぃ」




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スリックは気絶したリクを担ぐと、誰もいない筈の後ろ側を向いた。

 「という事で、病院に行こうか」

 「ん〜?これは病人を作ったって事かねぃ?」

ヒミの声で再び正面というかヒミの方を向いた。

 「というか、ヒミが病院に入れる理由があってもリクにはないからね。
 あと、彼は色々面倒くさそうな部分もあるからね」

 「う〜ん。スリック。
 それはリクを信用してないって感じかねぃ?」

 「というかね、色々知っていると面倒な事ってあるよね。
 ヒミも分かってるとは思うけどさ。
 という事で、信用という部分とは別のものだね」


 「おい。このまま、無視して先に行くつもりか?」

 「ん〜?スリック。
 後ろの人は知り合いかい?」

二人が会話している途中で、一人の体格の良い男が後ろから近付いて来ていた。
最初、スリックが後ろを見て喋っていたのも、その存在に気が付いていたからである。
しかし、スリックはあえてシカトをして先を進んでいる。

 「まぁ、見た事はあるけどね。というか、しつこくつきまとわれて困ってるんだよね」

 「はぁ?意味が分からないゼ?
 っていうか、止まれよ」

仕方ないといった表情で、スリックはようやく後ろを向いた。
ヒミも合わせるように向いた。
そこには、スキンヘッドにサングラスで黒スーツを着た体格の良い強面な男が
目元が見えなくても分かる、苛立ちの雰囲気を持って立っていた。

 「というか、おれはコクガンキョウさんとお喋りしている暇もないんですけどね」

 「こっちは大アリだゼ。
 このタブはワシ達のホームであって、自由気ままなマテリアルさんに色々ちょっかいかけられるのは
 あんまり宜しくないんだゼ?」

 「というか、自由気ままっていうのはガンプと勘違いしてないかな?
 おれは、この気絶しているギフト候補の保護の為に、偶然この町に来ただけなんだけどね。
 銀行強盗の件も通りかがったら起きてた感じだしね」

 「その新種がお前らのギフト候補だとして、この後どうするつもりだゼ?」

 「というか、勿論。病院に連れて行くよ」

 「断るゼ。
 ま〜ここでなら診てくれると思ってるんだろうけども、ワシがそれをさせないゼ」

 「というか、タブでは病人も見てくれないっていうのかい?」

 「意図的に作った病人にしか見えないゼ」

 「でも、病人に変わりはないだろう?」

 「あぁ。百歩譲って病人だとするゼ。
 だが、そいつは新種だ。タブじゃなくても緊急だろうが門前払いして貰うのが常識だゼ?」

 「という事は、エリア警察のおれが居てもお断りするって意味かい?」

 「マテリアルのスリックって奴はお断りするよう通達するだけだゼ」

 「という感じで、融通が利かない人だね。
 おれがコクガンキョウさんに何かしたかい?」

 「はぁ?冗談きついゼ。
 ワシはライバルになるマスターの"武器(しんしゅ)"を、こちらで易々と面倒見る程お人好しじゃないゼ?」

 「というか、どうしてもダメって言いたいみたいだね」

 「言いたいんじゃなくて、ダメなんだゼ。
 ストレートに言うと、こっからさっさと出て行けって事だゼ」

 「となると、こっちのMKの子が病院に連れて行くとなるとどうなるんだい?」

 「論外だゼ。
 MKって事は大方は新種だろ?それじゃ門前払いでおしまいだゼ?」

 「そうなのかい?
 という事は、シィードさんにそう伝えても良いって事だね?」

 「ああ?
 シィードって、あの変わり者医師のシドの事か?
 それなら尚更門前払いだゼ?」

 「というか、本当に面倒臭くなってきたね。
 ヒミ。悪いけどリクを背負って先に行って貰えるかい?
 コクガンキョウさんは、おれ"にも"用があるんでしょう?」

 「何を企んでるんだゼ?
 人付き合いが悪い事で有名なシドに、知り合いが居ないって事もないだろうが
 万が一って事で、MKの子もこの先に行く事は許可しないゼ?」

 「許可しないと言うけども、無視して先に行ったらどうする気だい?」

 「警察の業務を執行するまでだゼ」

 「じゃ、こちらも新種の保護という名目を、警察として執行させてもらうよ」

ここまで途切れることなく、スリックとスキンヘッドのウェッドによる口喧嘩が続いたが
このままだと、次には手も出そうな雰囲気になってきていた。

リクは既にヒミが背負って・・・というよりは、若干引きずっている状態になっていた。

 「う〜ん。スリック。
 私の体力じゃリクを背負って病院に行くまでに力尽きちゃうねぃ」

 「という事は、この茶番を終わらせてからって事になるね」

 「こっちこそお前らの茶番に付き合うつもりはないんだゼ。
 ここじゃマテルが使えないから、ナビ職を使うゼ」

そう言ってウェッドの右手からナビ職が放たれたかと思うと
空き地となっていた道の外れで、円形の建物に変化した。
見た目は二人入ると満席状態な大きさでしかないが、実際はある程度の空間を確保できている物らしい。

そこをウェッドが指を差すと、先にウェッドが入りスリックも続けて入っていった。


 「う〜ん。下の下だねぃ。
 リクが見た目よりちょっと軽いと感じるのが唯一の幸運かねぃ」




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 「・・・といった感じでねぃ。
 警察の2人が喧嘩している隙に、私がこの病院にリクを運んだってわけなんだよねぃ」


・・・また突っ込む所が増えたのだが、一つ一つ解決していくか。

 「ヒミコがオレを背負って病院に来たという事になるみたいだが
 だとすると、警察同士の話であった新種は門前払いという件はどうやって解決したんだ?」

 「う〜ん。それは企業秘密だねぃ。
 と言いたいけど、後で紹介するからその時でね」

秘密にしてもらう必要もなさそうだが、ようはシドなる医者とヒミコが知り合いって事なんだろうな。

 「本当にヒミコは、オレを背負ってここまで来たのか?」

 「う〜ん。見た目がこんなんだからねぃ。
 それでも、このブレイカーがあればちょっとだけ力持ちに、なれるんだよね」

そういうと、ナース服の懐から例の煙管を取り出して、口に咥えた。
火が付いていない為に煙る事はないのだが、数秒程嗜んだように構えた後、
ゆっくりと片手でオレの腕を掴むと、そのままオレを宙に浮かせて逆の手で支えるように持ち上げてみせた。

 「お・・・おい。何をや、やってる」

 「ん〜?
 煙管を吸った分だけ、力持ちになれるんだよねぃ。
 じゃ、降ろすよ」

端から見ると子供が大人を持ち上げる構図に見えた事だろう。
ブレイカーというアイテムは、エネジスとかにあるマテルの力を吸収して、それを使うことが出来るモノらしいが
ヒミコのブレイカーはその中でも少し特殊なモノに見えた。


 「じゃ、気絶しているオレをこの煙管を使う事で運んだって事か?」

 「勿論の上の上だねぃ。
 流石に、ちょっとは疲れるけどねぃ」

 「何か腑に落ちないが、とりあえずはありがとう。
 で、ヒミコが背負ってきたという事は、未だにスリックはここの警察と喧嘩してるって事なのか?」

 「う〜ん。多分、決着はついてる筈なんだけどね〜。
 でも、こっちに来ている気配が、ないんだよね」

 「スリックが勝ったという事か?」

 「いや〜あの喧嘩は、私がリクをここに連れてくるための時間稼ぎみたいなものだからねぃ。
 中途半端に終わっている筈だと思うけどね。
 変に怪我でも負わせたら、後々面倒になると思うしねぃ」

 「いや、ここの警察が圧倒する可能性もあるだろ」

 「う〜ん。リク。それは多分ないかな〜。
 リクも身をもって体験したと思うけど、スリックの攻撃というか動きが見えたかい?」

確かに気が付いたらこの部屋に居たわけだが
それは、ただオレが戦いに向いていないだけで、ここの警察のモノは普通に対応して勝つ可能性もあるだろうにな。
一応、スリックが凄いという事で納得しておくか。


 「質問はもう終わりかな〜?」

ヒミコが他にも質問して欲しい的なオーラを出し始めているせいなのか
流されるがままに会話を続けた。

 「マテル規制地域でもナビ職を使えるのはどういう事だ?」

 「ん〜。マテル規制って言うのはエリア警察は除外されてるんだよね〜。
 じゃないと、マテル犯罪をしている者を捕える事が困難になるしねぃ」

あぁ。それもそうか。
そういえば、デックスでオレが捕まった時もナビ職で連行していたしな。

 「ヒミコとスリックの関係は?」

 「んん〜?私に興味あるのかな?
 別に隠す必要もないけどね〜」

 「・・・いや、そういう意味じゃないんだが」

 「う〜ん。リク。
 そこは冗談でもノッてくれないと、こっちが恥ずかしくなるねぃ」

適当な話にしようとしている所を見ると、オレには言えない関係という事だな。
いやいや。こういうと余計"いやらしく"聞こえるか。

 「じゃあ、ソレはおいとくとして
 この病院にはヴィルも居るんじゃないのか?」

 「う〜ん。それは流石に私も知らないねぃ。
 居たとしても今のリクに会わせるわけにもいかないからね〜」

 「どういう意味だ?」

 「それは、もうちょっと待って欲しいんだけどねぃ。
 他にも聞きたい事あるんじゃないかな〜?」

そう言いながら、ワザとらしくナース服の格好を強調するかのように
上半身の服装を整え直す仕草をしている。
オレも気にはなっていたが、コレはあえて触れないでおく方が良いと感じていたので
何も無かった風でいるつもりでいたが、コレを触れないと話が進まないという事か?


 「じゃあ・・・、ソレはわざわざ着替えたのか?」

 「ん〜。リク。
 着物の方が好みだったのかねぃ?」

 「そういう意味じゃn」

 「う〜ん。リクは着物派なんだね・・・と、いう冗談を好む表情でもないねぃ。
 これは〜ちょっと訳があってねぃ」

と言った瞬間に部屋のドアが開く。

 「シシ。ヒミちゃん。
 わたシの思った通りにシっかり似合ってるのぅ」

 「ん〜シドさん。
 部屋に来て早々、それはセクハラ発言という事で良いのかねぃ?」

 「ちょ、ちょっとこれは参ったねぇ・・・シシ」

海賊が医服を着たような恰好の男がヒミコと絡んでいる。
名前からするにこの男がシドという医者のようだ。
そして、ヒミコにナース服を着させた張本人でもあるようだ。

 「で、この子がリクだよ。シドさん」

 「ほぅ?例の新種かぁ?お?」

シドは覗き込むようにオレの方に顔を近づけた。


 「ん〜そういうわけでリク。
 私が会わせたかった医者って言うのが、このシドさんなんだよねぃ」

 「・・・」

 「なんだぁ?挨拶もなシかぁ?お?」

 「は、はじめまして」

何だかよく分からないが、この二人のペースに引き込まれているオレが居た。
それと同時に、シドはオレの腕を掴むと強引にベットに座らせるように動かした。

 「!」

 「シシ。患者は座って"シんだん"を受けるって言うのが、わたシの"シんねん"なんでねぇ」

脈拍を測るような動作をした後、数秒難しい顔をしたがそれもすぐに戻った。


 「・・・たシかに、ヒミちゃんの言う通りの小僧だな。こりゃ」

 「どういう意味だ?」

 「う〜ん。隠す必要もないからねぃ。
 リクが他の新種とちょっと違うって事だけをシドさんに伝えてあっただけだね」

 「違うというのは?」

 「シシ。焦るなよ小僧。
 ・・・あぁ。解除系と言った感じか?お?」

シドはマテル診断"も"出来るみたいだな。
だが、ヒミコがオレに会わせたい真の理由はソレではないだろう。

 「記憶の解除・・・いや、この世界の記憶が解除されてるという感じか?
 そりゃ〜わけが分からない状態になるってもんだな。お?」

シドの予想は事実とは若干違うが、腕を触っているだけで状況も把握出来るという事か?

 「ヒミちゃんが、小僧を見つけて早々、わたシに連絡シてきたのが分かるなぁ」

 「う〜ん。中の中だよ、シドさん。
 別にそういうわけでもないんだけどねぃ」

 「シシ。リクという小僧に問いをするぞ。お?」

 「応えられる範囲でなら」

 「シシ。"メンド"な"はなシ"はこれで終わりだぜ。
 黙ってシつもんだけに答えていればいいんだぜ。お?」

よく分からない圧力がシドから発生しているように見えた。
ヒミコは目を伏せて、余計な事を言わないようにしているように見える。
しかし、このシドって医者は、何で喧嘩腰なんだ?

 「小僧はマスターの目的をどこまでシっているんだ?お?」

 「どこまでというか、ソレはこちらが聞きたいぐらいだ。
 オレが知っているのは、マスターがフェリスを見つけようとしているぐらいだな」

オレは、ギフト選抜関連の話をワザとしなかった。
勿論、ヒミコが居る以上嘘をついているのはバレるのだが、シドの誘導尋問的な問いに乗る必要もない。

 「ヒミちゃんからギフト選抜の話を聞いているはずだよなぁ?お?
 シシ。シらない振りをするとは舐めた小僧だな。」

 「シドさんは、オレが嘘をついていてもある程度内容を把握しているように見えるけどな」

 「シシ。そりゃどういう意味だ?お?
 別に、わたシは心の中を読み取れるわけじゃねぇんだぞ。読み取れるのはマテルの"性シつ"だけだ」

会話をする事で心の中を読めるなら、こういう話の流れにはならないだろうからな。
シドのマテルはグルーブが言っていた、「新種の潜在マテルを引き出す能力」というモノだろうから
この質問は準備段階といった所なんだろう。

 「ん〜。正直、シドさんのリクいじりももっと見ていたいんだけどねぃ
 一寸光陰って事でさ、サクッとシドさんの仕事を行って欲しいんだよねぃ」

 「シシ。ヒミちゃんにそう言われたら断る理由はないけどなぁ。
 ただ、マテルを使いこなせるようになるかは、この小僧"シ第"だなぁ」

ヒミコの前半のセリフは聞かなかった事にするにしても
オレの潜在マテルを引き出させる事で、エムケーが恩を売ろうとでも考えているのだろうか。

 「コレから何をする気か分からないが、この病院に来た経緯も含めて二人を信用出来ない部分も多いし
 抵抗しても文句はないよな?」

 「う〜ん。返す言葉もないね。
 この展開で私を信用して欲しいと言っても・・・無理な話だろうけどねぃ」

 「シシ。ヒミちゃん。
 だけどな、こうやって腕を掴まれている以上、この小僧に選択権はないんだぜ」

ああは言ったが、実にその通りだ。
オレだって言葉通りに、易々と怪しい医者と着物女、いや今はナース女だが
まぁともかく、その二人の言う通りに行動しようとは思わない。
だが、腕を取られてベットに座らせられた以降、ほとんど力が入らない状態になっていた。

しかし、不思議とソレが嫌な状態ではなかった。
このシドが名医と言われる理由なのかわからないが、この風貌でこの言動な割に
何故か心は落ち着くことが出来るという心理的矛盾状態になっていた。

 「・・・マテルを使いこなす為に、オレが何かやらないといけないのか?」

 「シシ。ちょっと"はなシ"が飛んだなぁ。小僧。
 特別やる事は何もないぜ。ただ、そこに黙って座って居ればいい。
 じゃ、最後のシつもんだ。
 小僧はこの世界で何を成シ遂げたいんだ?お?」

シドは一体、オレの何を聞きたいんだ?
だが、適当でも何か答えておかないと、しつこく詰められそうな雰囲気はあるな。

 「・・・そんなものはない。オレはこの世界から元の世界に戻りたいだけだ」

違和感がある筈のオレの言葉を聞いて、シドが何を納得したのかは分からないが
目を閉じると、掴んでいる腕に集中するように言葉を消した。


 「シドさんが説明不足だから、私が補足するけどねぃ
 これからリクの潜在的なマテルを解放する作業に、入るんだよね。
 自分のマテルのイメージを浮かべると、より早く終わるらしいんだよねぃ」

ソレは正にシドが説明すべき事だろうと思ったが
無駄口を言うとまた何か言葉で返されると思い、言われる様に目を閉じ、解除のマテルのイメージを浮かべた。

体内が謎の燃料で燃やされているかの如く、熱くなっていくのを感じる。
風邪で体がフラフラとする感覚に似たような状態である。
シドに腕を抑えられている為、立ち上がる事はできないが、抑えられていなくても立ち上がれない気がする。
そして、その状態が数分続いた。


 「シシ。わたシが出来るのはここまでだぜ。
 後は、小僧自シんでそのマテルの可能性を見つけ出すという感じだな。
 わたシは、きっかけを与えたに過ぎんからな」

最後は投げやりな感じもするが、そう言うとシドはオレの腕から手を離し
そのまま部屋の出口の方に向かっていく。

 「体が動く気がしないんだが・・・」

言葉の通り、オレはベットの上で横になると、そのまま動けない状態になっていた。

 「ん〜。シドさん。リクには少し早かったのかもしれないねぃ」

 「シシ。横になっていてもマテルを使うには問題ない筈だぜ。
 ヒミちゃんに後は任せるよ」

軽く頭をかいて、シドは部屋から居なくなった。



 「ヒミコ・・・オレはお前らにハメられたのか?」

 「う〜ん。下の下だねぃ。
 今リクが動けない状態なのはねぃ、マテルだけをほぼ100%使える状態にしてあるからなんだよね。
 頭の中で解除系のマテルのイメージを作れば、それがイメージ通りに動くと、思うんだよねぃ」

 「言っている事がよく分からないが、とりあえずやってみるか」

すでに朦朧としていた為か、軽い暗示的な状態になっていたのかもしれない。
ヒミコに言われるがままに、オレは行動するようになっていた。

という事で、動けなくなっている体を解除するイメージを浮かべてみた。
こんなイメージで動けるようになる筈はないのだが、コレがこの世界のマテルでありご都合的な展開である。
目を開き、スッと立ち上がると、両指を広げたり閉じたりして不自由でない状態を確認する。

 「お〜。解除系マテルというのは便利だねぃ」

 「普通なら動けなくなるんだろうが、この解除のマテルと言うのが体の不自由を解除したという事か?」

 「ん〜中の上って所だねぃ。
 今のリクは解除系のマテルの効果で動けているだけだねぃ。
 シドさんの能力開花を受けた人は、早くても半日は動けなくなるからね」

 「動かせない状態なのを無理に動かすイメージをしないと、どうやら体の自由が利かない感じだな。
 能力開花を受けると、何故こういう状態になるんだ?」

と、気を緩ませた瞬間、ベットに腰を落とす形になり再び横になった。

 「そうだねぃ。簡単に言うと潜在的なマテルを無理矢理叩き起こす感じだねぃ。
 う〜ん。その影響で体を動かす電気信号的な物がパニック状態になって
 それが落ち着くまで体の自由が利かなくなるって感じらしいねぃ。
 体が動かせるようになると、マテルの使い幅が広がった状態に、なるんだよね」

 「・・・何にせよ、その話だと自由に行動するのは困難だから、今日はここで休ませてもらうよ。
 眠る前までマテルのイメージをするだけなら出来るしな」

解除のマテルを使い続ければ体は動くのだろうけれど
ヒミコの話が本当であれば、逆にマテルを使わず休ませる方が早く回復するような印象を受けた。
例外なのが、喋ったり呼吸をする動作に関しては、生命維持の関係もあるのかこの影響を受けていないようだ。
しつこい程感じるが、いつものご都合主義"設定"だな。

勿論、ヒミコの全ての話を信用しているつもりはないが、体が動かし難い脱力感からなのか
横になった状態でベットの中に入り込むと、寝る準備に入った。


 「私はねぃ、最初はリクにシドさんを会わせる事を頼まれただけで
 ここまで協力するつもりはなかったんだよねぃ」

 「・・・なんの話だ?」

 「う〜ん。リク。その返しは下の下だねぃ。
 シドさんに会わせる事を頼んできたのはスリックなんだよねぃ。
 リクのマスターをサポートしているエリア警察「マテリアル」の一人の、ね」

 「あ、あぁ。そういう意味か。
 何で今、その話をするんだ?」

 「MKやグルーブの件もあって、リクは私の事を信用していないと思うからねぃ。
 だから、隠し事は全て話そうと思ったんだよね」

 「・・・何故、信用して貰いたいと?」

 「う〜ん。
 MKとしてでなく、個人的に協力したくなったからだねぃ」

 「ソレを信用させるのは難しいと思わないか?」

 「そうなんだよねー。
 リクは色々難しく考えるタイプみたいだからねぃ。こうやって行動で理解してもらうしか、ないんだよね」

 「・・・相当難易度が高い事だな」

 「ほんとそうだねぃ。
 う〜ん、仮にリクに罠を仕掛けてるとすると、今の状況は絶好のチャンスだと、思うんだよね」

 「そう、だろうな」

 「だからねぃ、私はここで見張りをするしか、ないんだよねー」

ヒミコはそう言うと部屋を出るわけでもなく、オレの視界からは消えた。
おそらくオレの後ろ側に居ると思うのだが、何やら服を整えているような音が聞こえだした。


 「一応・・・確認したいんだが、ベットはこの部屋に一つしか無いよな?」

 「う〜ん。そうだねぃ」

 「見張るのは自由だけども、ヒミコは休息しないつもりなのか?」

 「気になるのかな〜?
 然程、興味無さそうな雰囲気がするけど・・・ねぃ」

・・・この女。何を考えてる?

 「リクが寝る前に私からも質問が、あるんだよね。
 面倒だと思ったら答えなくても良いけどねぃ」

今、後ろを向いたらどんな事になっているのかという方が気になって
ヒミコの言葉はほとんど頭に残っていなかった。
相変わらず、後ろでは整えている音だけが続いている。



 「リクが居た世界っていうのは、この世界とは全然違うのかねぃ?」

ん?また、異世界ネタか?

 「私はね〜異世界を信じたいんだよねぃ。
 この世界の天文学者が言うには、3000億から4000億以上の銀河があるとされていてねぃ
 文明のある銀河となると1000近くになるだろうという話、らしいんだよねー」

どうやらヒミコは、宇宙ネタが好きらしいな。

 「オレの世界には、マテルとかいうご都合良いモノはないな」

 「ふ〜ん。他には何かあるのかねぃ」

オレはネルソンにさえ全てを話すつもりがなかったが、何故かヒミコに今までの経緯を話す流れになっていた。
ヒミコもエリアスターである事が関係しているとは思うが、シドの能力開花による解除のマテルの影響もあるのだろう。
精神的な部分も解除されている状態というか。
以前にもこの感覚はあった気がするが、ここまで気持ちが解放された状態なのは初めてだ。




 「う〜ん。つまり、リクが言うには、この世界は"ぜろろく"と呼ばれてるんだよねぃ?
 そして、リクの居た世界が"にーよん"
 この呼び名は、リクが居た世界で文明のある銀河に付けられたモノなのかな〜とか思うわけでねぃ」

 「いや、この呼び名はオレのマスターらが言っていた名前だ。
 そして、この"06"が全てのエリア・・・ヒミコの考えだと銀河って事になるが
 全ての銀河をまとめている所らしい」

 「ふ〜ん。
 私はマスターの言う事は信用出来ないから、それは新種に対する方便という事にしておくねぃ」

 「06が宇宙全体を意味している可能性もあるけどな。
 信用していない所悪いが、そのマスターらが言うには、オレの居た【24エリアで想像できるモノは06エリアには全てある】らしい」

 「ふ〜ん。その話は上の上だねぃ。
 この世界が宇宙全体そのものって事かい?面白いねぃ。
 じゃあ、きっと私もリクと同じで別の銀河・・・いやエリアから来たんだろうね」

信用していないという割には、都合良い事は受け入れたり
やはり何を考えているかよく分からない女だ。


長々と話し終わった頃、ヒミコの整える音が無くなっている事に気が付いた。
それと同時に、無くなった事で変な汗をかき始めたのを感じた。


 「その話が本当なら、私も元のエリアってところに本当の家族を残して来てるって事だよねぃ。
 益々、この世界から異世界に出てみたいと考えたくなるね」

後ろでヒミコがベットに腰掛けたのが分かる。

 「な、なんでヒミコは、宇宙に出たいんだ?」

 「ん〜。なんか変な所から声を出して何かあったのかねぃ?
 宇宙に出たいというより、この世界以外の世界を見てみたいってだけだねぃ」

 「オレの言う、この世界を出たいというのとは別の意味だな」

 「ん〜、私がリクの立場なら、マスターから無理矢理にでも脱出する方法を聞き出すけどねぃ。
 なんとなく、リクはそれが出来ないっていうのも分かるけどね」

ソレに関しては何も言い返せないな。
マスターが女性という事もあるんだろうが、あの手の性格は苦手だからな。

 「私はギフト選抜に一度関わった事があるから、尚更そう考えるんだろうけどねぃ。
 この世界を脱出するにもフェリスが関係してるとは思うんだよね。
 でも、マスターと共に行動してギフトとして見つけるのは、違うんだよね」

 「その手の話がイマイチ理解できないんだが、ヒミコは何かを隠しているだろ?」

そういった瞬間、背中の方が急に重たくなった。
中には入ってきていないが明らかにソコに居る状態である。


 「上の上だねぃ。"今までなら"隠してた話だけどねぃ。
 フェリスを見つけるには解放系、解除系のマテルが必須なんだよね。
 多くのマスターがギフトとするのは、リクのようなマテルを持った新種なんだよねぃ」

 「・・・ヒミコ、さん?
 大事な話の最中で悪いんだけども、何をされてますかね?」

 「う〜ん。後ろを見たらわかると思うけどね〜。
 私も一緒に休憩してるだけだねぃ」

 「・・・まさかと思いますが、ここでこの後も休憩なされますか?」

オレは明らかにおかしな口調で、動揺を抑えようと必死になっていた。
ヒミコは女性として意識するタイプではないが、こう接触されると
やはり男としては、ある程度色んな想定を先走ってしまう。

 「う〜ん。もう少し話をしていきたいねぃ」

多分・・・朝まで話をするって事ではないだろうから、少しは安心できる。
・・・だろうか。

 「話の途中で、変な事聞いてすまなかった。
 で、その話だと、オレがギフトになる素質があるからマスターに目を付けられたって事か?」

 「そんな感じだろうねぃ。
 リクの話からすると、リクのマスターはエリアドライバーも兼任しているようだし
 意図的にリクをこの世界に引っ張ってきたと考えるのが筋かもねぃ。
 ちなみに、ネルソンもギフト候補の一人だったはずだよ」

そういう事になるだろうな。
ネルソンは破壊のマテルを使っていたが、ギリギリで解放・解除の分類になるだろうしな。
それに、マスターのヴィルに束縛されていた事も考えると間違いないな。

しかしこの話、裏を返すとオレは他のマスターにも狙われるという事になるんじゃないのか?


 「今の話で気がついたと思うけど、リクはマスターに狙われやすい新種って事なんだよねぃ。
 だから、私は出来る範囲でリクをサポートしていきたいと思うんだよね」

ソレの切っ掛けがこの行動って事か?

 「い、いや。
 気持ちは嬉しいんだけどナビ職との約束もあって、マスターからは離れられない感じなんだよな」

 「う〜ん。ナビ職ねぃ?
 確かにマスターの補助としてナビ職が居るのは当然なんだけどね
 リクの話だと、そのナビ職は補助以上の役割を持っているように、聞こえるねぃ」

 「オレも詳しくは分からないし、トリノ以外のマスターのナビ職を見た事もないからな」

そういえばネルソンに話した時もトリノに関しては疑問を感じていた記憶があるな。
会話が成立するモノでもない的な話だった所から
オレがデックスで捕まった時のナビ職のような、機械的な事しか言わない存在なのが普通なのだろう。



 「・・・また変な話をするが、ここに居るヒミコは複製(クローン)ではないよな?」

 「う〜ん。私は最初からそんな話はしてなかったけどねぃ?」

 「いや、ナビ職の車の中で、グルーブの命令の話を聞いた時の事だ」

 「あ〜、それはリクの勘違いだねぃ。
 私は"複製(クローン)のマテルを使って、リク達新種を保護しろという命令を受けた"って話、だったんだよね」

 「・・・あぁ。マテルを使って、か。
 どうも複製(クローン)の話を聞いてから違和感があったんだが、そういう事だったか・・・
 いやいや。タブの町の手前でグルーブに会った時には、複製(クローン)だって言ってたよな?」

・・・コレに関しては特に返答はなしか。
まぁ、グルーブに対する嘘って事で理解出来る範囲だけどな。
最初からこの会話に意味があるとは思えなかったが、これは何か別の目的があるのか?
気づけば、何時の間にかオレが質問をする展開になっているな。

 「・・・」

ヒミコが黙って数分が経った気がする。
まさかと思うが・・・

 「もしかして、寝たのか?」

返事がない。

背中の重圧から、ヒミコがオレの後ろにいる事は間違いない。
この状況で眠ることが出来るというのも、ある意味で尊敬出来る部分だが
図太いにも程があるだろ。

今の現状は、脳だけが起きていて体が眠ってしまっている"金縛り状態"というモノに近い。
動かせる筈なのに動かないという圧迫感のせいで、余計な汗をかいている。
それに、ヒミコが今どういう格好で布団の上に寝ているのかという部分も変に気になってしまう。
勝手に風邪でも引かれでもしたら、怪しい医者に変に絡まれそうな気がしないでもないしな。

すでに記憶の半分が夢に入っているのか、解除のマテルを使おうと考えようとしても
イメージがモヤモヤとしてどうも上手くいかない。


もう・・・どうにでもなれ。だ。






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