23
コネクション


タブの手前に到着した時には
陽はすっかり暮れて、町の光しか見えなくなっていた。

今もヴィルが、タブに残っているとはとても思えないが
まずは、エムケー本部のあるタベスから解放された状態になったのは良かったと思うしかない。


 「無事着いたみたいだねぃ。
 ここからは歩いてタブの町に行く事に、なるんだよね」

タブの町は例の如く、マテル禁止区域になるらしく
ヒミコの言葉通り、ナビ職から降りて徒歩で町に行く必要があるらしい。

 「何も・・・仕掛けはないんだな」

未だに疑っているオレは当然の言葉を発する。
何かがあれば、ジュリが先に反応するとは思ってはいたが
今の所は何も問題がないようだ。


 「う〜ん。ちょっと妙だねぃ」

 「ヒミコさん。何がですか?」

 「ちょっと想定外なお客さんが、居るみたいだねぃ」

平地とはいえ、やや奥に見える町の灯り以外は暗闇しかないこの空間に
誰かが居たとしてもオレにはとても見る事が出来ない。
ジュリなら何か感じていてもおかしくない気がするが。

 「む。確かに誰かがこちらに向かってきているようだな」

 「ヒミコさん。誰か分かるんですか?」

 「私が会わせたい人は医者だからね〜。こんな暗闇で光も持たずに医者が歩いてきたらおかしくね?」

・・・どうやら本当に、想定外のモノがこちらに向かって来ているようだ。
気配に気づいたジュリが、護衛するようにオレのやや斜め前に出た。
その前方を、金髪とヒミコが並んで歩いている形になっている。

そのまま町の方へ進むと、オレも暗闇に若干目が慣れてきたのか、人影の様なモノが見えるようになっていた。
オレ達のようなエリアスターは、得意マテル以外を使いこなせない事もあって
マテルによる光源、つまりはライト代わりのモノ作り出す事が出来ない状態なのだが
こちらに向かっているモノも、全く光を持っていない様なのは気になるな。
同じエリアスターという事なのか、マテル禁止区域の影響でマテルが使えないという事なのか。
というより、光源が作れないなら携帯ライトの様なモノでも持っておくべきだと思うのだが、どうも不自然な"設定"な気もするな。
まるで、こっそりとタブの町に入ろうとしているかのようだ。

と、オレが考え終わったのを計った様に、向かい側から光が発生した。


 「んん?
 光源(ライト)も持たずに暗闇を歩いてくるとは、おかしな人達だねェ」

そのモノは、右手にエネジスを加工して作ったような長方形の結晶を持っており、それが光り輝いていた。
登山でも行くような今にもはち切れそうなリュックを背負っており
スーツ姿の中堅営業マン風というミスマッチな格好をしていた。

そして、その姿がはっきりと見えるようになると、オレ以外の3人が同時に反応した。

 「グルーブさん・・・も、タブに来ていたんですか?」

 「ん〜?ヴェロンを追いかけて来てたのかぃ?」

 「アンタは、ウエブの雑貨屋の者じゃないか」

 「・・・これはこれは、色んな人の集まりみたいだねェ。
 そして、3人一緒に喋ったらわけが分からないねェ」

グルーブと言えば、ナビ職でのエムケー話で出てきた、金髪とヒミコの上司じゃなかったか?
ジュリの言葉も聞こえていたオレは、ジュリがグルーブを知っていた理由を理解した。

3人は顔を見合わせると、ヒミコに喋らせる形になったようだ。


 「う〜ん。ここに居るとは思ってなかったからね〜。少しだけサプライズだったねぃ。
 ヴェロン達を本部に連れ戻すのかい?」

 「ビックリしているのは、こちらもだねェ。
 本部で仕事しているはずのヒミが、ここで活動しているんだからねェ」

 「う〜ん。これは下の下だねぃ。
 上司に速攻で見つかるとは、私も運が尽きたという事かなー?」

・・・。
あからさまな言い方っぽいのは"お約束か"?

 「グルーブさん。僕達を連れ戻す気なら、MKに刃向う事になるぜ!」

金髪のスタンスとしては・・・そうなるよな。

 「それは、穏やかじゃないねェ。
 こちらとしては数多くない仲間を失う事はしたくないんだよねェ。
 ヴェロンがMKの理念と別の意志で、組織に入っている事は理解しているつもりだけどねェ」


 「う〜ん。こうなったら誤魔化してもしょうがない、みたいだよね〜。
 私達はマスターの一人ヴィルを倒す為に、ここまでやって来たんだよねぃ」

 「ヴィルを倒すのかい?
 それこそ穏やかじゃないねェ」

 「う〜ん。この3人はシフト山のスティーユの罠にかかってね、
 ヴィルのギフトであるネルソンを犠牲にして脱出したんだよねぃ。
 でも、よくよく調べたら、あの罠はヴィルも絡んでるらしいんだよね〜」

 「・・・それは初耳だねェ。
 ヴィルにとってネルソンは大事なギフトのハズなのに、おかしいねェ」

コレはオレ達にも初耳な話だ。
ヒミコの演出だと思いたいが、本当の事の様にも聞こえるな。


 「そうなんだよね〜。
 その真意も確認したい事もあるけどさ、やはりマスターはほおっておくべきじゃないって事なんだよねー」

 「確認出来ればいいんだけどねェ。
 ヴィルなら医者を探しに病院に泊まっているけどねェ」

 「泊まっているとは、どういう意味だ?」

ここまで傍観していたが、ついに口を挟んでしまった。

 「ん?君は誰かねェ?
 ・・・おや、そちらはジュリレスターさんですねェ。という事は、確かリクと言ったかねェ?」

グルーブもエムケーだから、ターゲットでもある新種のオレ達の名前は当然知っているという事か。
そしてヴィルは、"やはり"ご都合良くタブの病院に居るらしいな。

 「リク達のマスターが、ヴィルによって保護されているという話は聞いているねェ。
 どうやらそのマスターが病気になっているらしく、ヴィルは医者を探しているんだよねェ」

 「保護というより、監禁だと思うがな」

 「それは本当に穏やかじゃないねェ。
 リクは、マスターを助けたいのかねェ?」

 「お前達エムケーがソレをさせないようにしている事は分かってるけどな。
 足掻けるだけ足掻いてやる」

 「うむ」

ジュリはすっかり戦闘モードになっている。

 「ちょっと勘違いされると困るんだけどねェ
 こちらとしては新種を守る事が最優先で、マスターを救ったり戦わせる事には協力出来ないだけなんだよねェ」

 「分かりやすく言って欲しいな。グルーブとやら」

 「ヒミと一緒に居たのなら、ギフト選抜の話を聞いているよねェ?
 MKとしては、ギフト選抜に関わる新種を一人でも減らすことが出来ればいいんだよねェ。
 その方法としてマスターを倒したり、マスターと離れたりさせているだけでねェ」

 「ギフト選抜に関わる新種は、エムケーとしては敵って事か?」

 「極端な考えだと、そうなるねェ。
 考え方の相違という事もあるから、こちらから攻撃したりはしないねェ」

その言い方だと、こちらが仕掛ければ攻撃するとも聞こえるな。


 「う〜ん。それはちょっと困るかな〜。
 今は、2人のマスターを倒すことが出来るチャンスだと、思うんだよねぃ」

 「・・・マスターを倒す事に反対する気はありませんが
 ヴィルの居る病院に行くには、新種達だけでは難しいんだねェ」

 「それは、病院に行っても門前払いにあうという事か?」

 「そういう事だねェ。
 ヴィルを倒すにも、会うことが出来無ければ意味がないからねェ」

 「分かっているつもりだったが、やはり僕達は外れ者って事か」

グルーブはオレ達を連れ戻すつもりには見えないが
かといって始末したり戦うつもりも無さそうだ。
この先に行くのをやめるように忠告しているようにも聞こえるが、真意は分からないな。


 「どちらにしても、ここから先に行かせるつもりはないですけどねェ。
 ただ、ここであなた達と戦う展開になるのも困りますねェ。
 連れて帰る事が出来れば一番楽なのですが、一緒に来てくれるとは思えませんし、困りましたねェ」

 「・・・ここに偶然来たとは思えないんだが、結局グルーブは、オレ達を捕まえる為に来たのか?」

 「捕まえるというのは誤解を受けますねぇ。
 ですが、マスターの件はこちらに任せてもらって、MK本部に来て欲しいというのが本音ですねェ」

 「オレが言うのも何だが、グルーブははっきり物を言わない性格だな」

 「無理には仲間にしないというのがMKの信念でもあるんでねェ。
 ただ、無駄にマスターと戦う必要もないと思うので、この先に行かせるつもりもないわけなんですねェ」

 「ふ〜ん。それは下の下だねぃ。
 お互い戦闘向きじゃないけどさ、ちょっと邪魔、なんだよね〜」

何だ?
ヒミコが何故か上司であるはずのグルーブに絡み始めた。
着物の片袖に手を通すと、そこから煙管の様なものを取り出し、それを口に当てて咥える形になった。

 「ヒミ、マテルを使えばここのエリア警察のお世話に・・・
 あぁ。そうだったねェ。」

 「ん〜上司が忘れてる風なのも下の下だねぃ。
 ここに居る私は複製(クローン)だから、ある程度自由に行動、できるんだよね〜」

 「うむ。複製(クローン)でもエネジスとかは使えると聞いた事があるぞ。
 この場でマテルを使って騒ぎになると、面倒な事になるのはウチ達だけか」

ジュリにしてはと言っては失礼だが、冷静な判断だな。
複製(クローン)を使うモノと一度会っている事も影響しているんだろうけどな。
何にしてもデックスの時の様に、エリア警察のモノに捕まる展開だけは勘弁願いたい。


 「ヒミコさん。そのブレイカーを収めてくれないかい。
 ジュリレスターさんの言う通り、騒ぎになると困るのは、結局僕達新種だからね。
 そして、グルーブさん。僕が責任を持ってみんなを連れて戻るから、この場は任せて貰いたいぜ」

 「ん〜中の下だねぃ。
 それがヴェロンの考える形、なのかな〜?」

 「・・・僕もヒミコさんと同じく、新種達を守れるなら形なんてどうでもいいぜ。
 それに、僕は・・・」

 「二人とも言いたい事はわかったねェ。
 でも、ヴェロンに任せてこの場を去るわけにはいかないんだねェ」

 「ウチはエムケーには従う気はないぞ」

忘れていたわけじゃないが、ジュリは戦闘モードを崩さずこの会話をずっと聞いていた。
細々した事を得意としないジュリらしい言動だが・・・
"動"って、ちょっと待て。

ジュリは、槍をグルーブに目の前に突き付けると、距離を取らせるように少しずつ前へと進む。
厳密にはジュリの槍もマテルによって作られているモノだが、武器としてだけ使うのであればエリア警察にもバレることがないのだろう。
それを分かっていて、ジュリも鉄を武器化してオレ達を守ろうと思っているのだろう。

 「ジュリレスター。その武器を収めてくれないかねェ。
 正当防衛というのを使わないといけなくなると、お互い後味が悪くなりますからねェ」

 「そう思うなら、行かないと言っているウチ達をほおっておいてくれないか!」

ジュリは語尾を強めると、より強くグルーブの方へ槍を突きつけていく。
既に煙管を収めていたヒミコは、改めて出す事は無かったものの、同調するようにジュリの横に並んだ。
金髪はどちら側にも付く事をせず、お互いの間で状況をうかがう事しか出来ない状態になっている。


 「う〜ん。ジュリが一番男らしいねぃ。
 力技に出るなら、不利なのは上司のハズ、なんだよね〜」

 「・・・分かりましたねェ。
 あなた方の熱意に免じてこの場は引きますが、ですが、この先に行っても何もできませんよォ?
 マスターに会う事すら出来ないでしょうねェ」

首を何度を降ると、先の道を開けるようにグルーブが移動した。
その行動でジュリもようやく攻撃の構えを解いて、後ろに居るオレの方を向いた。

確かに、エリアスターに優しくない町の印象を受けるタブに行っても、何も出来ない可能性の方が高い。
グルーブが嘘をついている可能性もあるけどな。

 「・・・リクも面倒な騒ぎになる事を願ってないと思うが、
 ウチ達では医者の元に辿り着けないというなら、今回は騒ぎを起こした方がヴィルを引き出せる可能性があると思うんだ」

 「可能性はあるだろうけど、どう考えてもヴィルが出てくる前に、エリア警察の方が先に出てくるだろうな。
 それよりは、デントグラスを手に入れて、居場所の分かっているリディを救出した方がまだマシだろうな。
 救出を阻止するヴィルの足止めが出来れば一番理想的だが、ソレは騒ぎを起こしてまでやる方法じゃない」

 「う〜ん。中の下だねぃ。リク。
 終盤の"ショーギ"の様に、詰めろ状態に持っていけないと動けない性質なのは、分かったけどねぃ。
 先を読む目が多すぎて、それが選択を誤るって事も、あるんだよね〜」

この世界にも将棋があるのか?という事は置いておいて
その例えをされてもオレは将棋に詳しくもないから、いまいちピンと来ない所だな。

 「・・・あぁ、そうだったぜ。
 僕は何を躊躇っているんだ。大事な正義を忘れる所だったぜ。
 ありがとう。ヒミコさん」

何やら金髪が勝手に自己解決に入ると
両腕を軽く振って準備運動の様な行動を取り始めた。


 「君達はマスターを救う方と、戦う方と、どっちが大事だい?」

 「ウチは、リディを助けるだけだぞ」

 「ん〜。
 ネルソンの敵を討つってなら、マスター狩り(ハント)として私も協力するけどねぃ」

 「ヒミコさんも動くのかい?」

 「マスター狩り(ハント)だし、別に問題なくね」

 「もちろん、問題ないぜ」


オレは言葉を出せずにいた。
リディを助けるのが目的なのは当然だ。ここで迷う必要性はないはずだ。
なのに、何故かオレは動けなかった。ネルソンの敵とかそういう部分に抵抗があるわけでもない。

今後もマスター、つまりリディに付いて行くならば、【ギフト選抜】というモノに関わる事になる。
それは同時にエムケーという組織を敵に回す事にもなる。

敵を増やさず、出来るだけ無理をしない方法で行く事が一番理想的な道だ。
今後もその考えは変えるつもりはない。
だが、今やろうとしている事は敵を増やす事だけでしかない。
エムケーという組織に宣誓布告しているのと変わらないからな。

ヒミコはマスターを倒すのに協力するなどと、もっともらしい事を言っているが
グルーブが来る前は、"こんな行動"を取れば危険要因として報告するつもりだった筈だ。
「マスターを倒す事には協力」という意味では、エムケーの目的通りなのだろうから
気変わりしたという事では無いんだろうけども。
オレ達を医者に会わせるという目的も関係あるのだろう。

慎重過ぎて悪い事なんてない。
少しずつ状況が分かり始めてきた今だからこそ、より慎重であるべきだ。
この世界に抗う為に"準備が出来る時間がある"のなら、焦らずにやるべきだ。


 「じゃあ、僕がヴィルを抑えておくから、君達はマスターを救出に行くといいぜ」

 「ウチは最初からそのつもりだが、リクはどうするんだ?
 ヴィルと戦う選択をしても大丈夫だぞ。リディの事はウチに任せろ。
 合流するにも、レコカがあれば問題ないからな」

ごちゃごちゃ考えているオレより、ジュリの方がよっぽど状況を理解出来ている。
だけど、慎重過ぎて悪い事なんてない。

・・・いや、違う。
違う、そうじゃない。


 「う〜ん。ジュリ。
 そっちのマスターと合流するのは私的にはアウトなんだけど、どうやって行くつもりなのかな?
 【レイ・バーグラス】を持ってるなら、わざわざスティーユの罠にかかる事もなかっただろうにねぃ」

 「む。それは・・・」


オレはリディを助けたいわけじゃない。
自分の為に、この世界脱出のカギとなるであろうマスターであるリディを必要としているだけだ。
それは、ジュリもフェリスを求めているという意味では同じ事だろう。

でも、そうじゃない。

ジュリは、純粋にリディを助ける為に動こうとしている。
オレは自分の立場が悪くなるなら、リディを救わない選択も浮かんでいる。

だから、慎重なんかじゃない。
動くつもりがないだけだ。

リディもジュリもこのエムケー達も、そして、ネルソンの意志も
オレにとっては利用できるかどうか、それだけでしかない。
元の世界に戻れるなら、この世界でどうなろうとも構わない。


今までも、そう思い込みたくて、でも、結局出来ていない中途半端なオレが居る。
此処が現実だと思いたくないだけで、これまでずっと、この世界に自分が存在している事実から逃げていただけだ。

それなら、やる事は一つしか無い。


 「ははっ・・・」

 「む?リクどうかしたのか?」

 「いや、オレはオレの為にフェリスを見つける。
 それがマスターと共になるかは分からない・・・が、今はこの選択しか出来ない。
 エムケーを敵に回すとか、エリア警察がどうとか、良く考えなくても、オレがどうにか出来るって話じゃないのにな」

 「・・・本当に、大丈夫か?」

 「ああ。
 大した知識も情報もないクセに、慎重な振りして、答えを見つける風に見せて、分かろうとしてただけだ。
 ジュリ。リディの事は任せた。
 オレは・・・オレのやれるべき事をやる」

 「う、うむ?
 リディはウチが絶対連れ戻すから、心配ないぞ」

 「あぁ。頼む。
 ・・・そして、新種を守るっていう言葉が本当なら、ジュリの為にもリディ救出に協力して欲しい。
 足止めの戦力でいるより、モンスター側への戦力になる方がこちらとしては助かる」

ジュリだけでなく、金髪の方を向いて声をかけた。


どれだけの規模の組織かも不明なエムケーと敵対する形になるのは、良くない選択でしかないと思う。
だが、かつてネルソンが言っていたように、この世界と共に縛られるのは御免だ。

金髪を完全に信用したわけじゃないが、ここに残っているよりはマシだと判断した。
仮にエムケーの3人がグルだった場合、オレは本格的にどうにも出来なくなる可能性の方が高くなる。
ジュリには悪いが、金髪を引きつけてもらう役目としてもモンスターの洞窟に行ってもらう方が良い。

残るは怪しい着物女のヒミコとエムケー幹部のグルーブという事になるが
グルーブはエリアスターでは無いようだから、マテルの使い方によっては抵抗が出来ない可能性もあるけども
それでも、3人いる状況よりは幾分かはマシだ。
今のオレがやれる事は、ジュリにリディを無事救出させる事だ。

それなら、引き立て役でも、壁役でも、最後にこの世界を出られる為ならば
ボロボロになってでも足掻いてやるしかない。
何も出来ない後悔で終わるより、ほんの少しはマシってモノだ。

結局。
オレは、ここから出る為と言い聞かせながら、胡散臭いマスターを信じるしかなんだろうな・・・。



 「ついに、君からも救いの声が出たね。
 そういう事だ。戦うならばマスターよりモンスターだよ!任せとけ!
 このシャドーヒーローのヴェロンが、ご期待に沿ってみせるぜ!」

セリフと共に行っている、例の如くの決めポーズは見なかった方向としても
だが、ほんの少しだけソレが有り難かった。

 「ウチの事より、リクは大丈夫なのか?」

 「あぁ。オレ自身も不安だ。
 だが、ヒミコもいるしなんとかなるだろう」

 「リクにしてはずいぶん楽観的な考えだな?」

 「今までがネガティブ過ぎたのかもしれないな。
 ・・・多分、オレが変化したように見えるのは、マスターのせいだろう」

ジュリから逃げるように、苦笑いしながら言うと、オレはヒミコが居る方へ足を向けた。


 「ふ〜ん。上の下って感じだねぃ。
 レイ・バーグラスの事とか問題はある感じだけどね〜。そーいうのは嫌いじゃないねぃ。
 マスターを倒すかはリク次第だけど、新種(なかま)の為なら私は保護する事を、惜しまないんだよね〜」

 「倒す展開にならないように足掻いてみるさ」

 「・・・まったく、どうにもなりませんねェ。
 このまま何もしないのもMKとしてもアレですし、ジュリレスターさんにはエネジスのお礼をきちんとしていない件もありますから
 一つだけですが、レイ・バーグラスを差し上げますねェ」

と言うと、グルーブは背負っていたリュックから銀色の袋を一つ取り出した。
ジュリは"エネジスのお礼"と言われて、いまいち納得していない表情だったが
オレはその言葉でウエブの大会でのジュリの行動を思い出していた。

ジュリは大会の予選突破目前に、「ある人にエネジスを持ち帰る」という話をしていた事があり
数時間程探しに行っていた事があったのだが、その"ある人"というのが、このグルーブの事なのだろう。
そして、一つだけだと思うが、ジュリは大会終了後に持っていった筈である。

この件とは別だと思うが、ジュリはグルーブからレコカを貰っていた筈だ。
タベスの連絡塔で、金髪がジュリの居場所を見つける為のアイテムとして説明していたからな。
上司とジュリが知り合いとも言っていたから、その上司がグルーブである事は間違いないだろう。

ジュリがグルーブと出会った経緯は偶然なのかもしれないが
もし、必然だったとするなら、随分と早い段階から目をつけていた事になるな。
エムケーの仲間入りさせる為だけの行動ならば良いのだが・・・。


 「む。グルーブには以前もレコカを貰って面倒な事になった前例があるからな。
 受け取る気にはなれないぞ」

ジュリは"やはり"受取拒絶状態だったが、金髪が代わりに袋を受け取った。

 「その袋の中に、デントグラス?が入っているのか?」

 「ああ、そうだぜ。
 だたし、袋から出すのはモンスターの洞窟近辺に行ってからだぜ。
 放射性の物質だから、袋を開けてから数日しかモンスター避けの効果が発揮されないんだよ」

 「非常に面倒なモンスター対策アイテムだな。
 あと、放射性とか言ってるが、人体に害はないのか?」

 「う〜ん。リク。
 それを言うとエネジス全てが害のある物になるんだけどねぃ。
 マテル自体にも害がないとは言えないしねぃ。難しく考えすぎだよ」

・・・元も子もない言葉だな。
マテルやエネジスがあるのが当たり前の"設定"な以上、これ以上突っ込んでも野暮って事か。
電子機器があるのが当然の世界で、その電波が人体に悪影響を及ぼすんじゃないか的な事を
言ってるようなものという事か?


 「害がないとしても、ウチはそれを使う気にはならないぞ」

 「御心配なく!僕が使いますから。
 そして、マスターの元へ到着したら、影の力でジュリレスターさんを引き込むぜ」

 「う、うむ?そういう方法もあるのか・・・」

 「ジュリの気持ちは分かるが、リディの元には自分で行く方がいいんじゃないか?」

 「うむ。リクの言う通りなんだが・・・」

オレとは別の意味で、ジュリも頑固な性格をしているからな。
一度怪しんだモノに抵抗感があるのは仕方ない事だが。

 「方法はどうであれ、エムケーがオレ達新種を守ろうとしている事は、多分間違いないんだろう。
 そして、モンスターの洞窟に行けば、対策を取らない限り、ほぼ確実にモンスターに襲われる事になる。
 そういう点からも、この袋で無駄に罠を作る必要がない」

 「リクの言いたい事は分かるが・・・それでもウチにはこれを使う気にはなれないぞ」

 「ジュリ。そうなるとリディの元に最初に行くのがこの金髪になるんだぞ」

 「うむ。それはウチも分かってる。
 リクが"信用した"ように、ウチもヴェロンを信用してみる事にしたぞ」

そうか。・・・そういうとらえ方になるのか。
オレは金髪をこの場に残さない為に、ジュリと行動を共にするように言っただけなのだが
ジュリにはソレが信用したと感じてしまったわけか。

これ以上言い訳しても、ジュリに混乱させるだけかもな。
金髪がリディを始末する可能性も残ってはいるが、おそらくソレもないだろう。
女には手が出せない性格だろうという事だけは間違いないからな。

 「あぁ・・・デントグラスの使い道はジュリに任せるよ」

オレは何とかして貰いたいという本音を、投げやりのように返す事しか出来なかった。


 「ヒミコさんがここに残るとなると、移動手段のナビ職が僕達にも必要ですね」

 「ん〜。じゃこれ使っていいよ〜。
 ちゃんと返してくれたら問題ないしね」

そう言うとヒミコは金髪にナビ職を放り投げた。
確か、この世界の"設定上"はナビ職も生き物扱いだった気がするんだが
まるで物のように扱っているのは、ヒミコの性格という事で納得しておく方がいいのかね。
相変わらず都合が良いように物事が動いている感じしかないが、今はこの流れに任せておくしかないか。

都合が良いと言えば、もう一つ確かめておく必要があるな。

 「ヒミコは医者に会わせたいと言っていたが、ソレはもしかしなくてもヴィルが会っている医者の事なのか?」

 「う〜ん。私はヴィルの件は聞いてなかったからね。
 上司の方が詳しいと、思うけどねぃ?」

流し目をグルーブの方に向けて、話を振っているように見える。
都合が悪くなると別のモノに話を振る様も、"どこかのマスター"の様でやはり好きにはなれない。


 「ヴィルが会っている医者は、新種とかに関係なく、ただ病を治したいという信念を持った者だねェ。
 こう言うと名医の様に聞こえるけど、表向き名医って所だねェ」

 「表向き?」

 「実際は・・・ま、これは余談だねェ。
 その名医には新種の潜在マテルを引き出す能力があるんだよねェ。
 順序は多少異なるけどねェ、ヒミも会わせようとしていたという事だよねェ?
 だけど、新種だけで病院に行っても、門前払いを受けるっていうのはさっきも話した通りだねェ」

 「・・・ようは、その名医に会わせて欲しければエムケーに加入しろという事か?
 何度も言うが、お断りだ」

 「先程も言いましたけど、加入の件は強制じゃないですけどねェ」

 「う〜ん・・・下の下だねぃ」

口癖とも言えるヒミコのお決まりのセリフだが、今回は何か違和感がある気がした。
それにこの話だと、ヒミコの案内だけでは医者に会えない事になる。




なんともややこしい話になっているな。

ヒミコがエムケーの上司であるグルーブに受けた命令は、オレ達エリアスターを保護する事らしい。
そして、ソレとは別に、ヒミコは"誰かの命令"でタブに居る名医にオレ達を会せようともしていた。

一方で、その上司であるグルーブも、タブの名医の存在を知っているだけでなく
ヒミコの別の命令内容も理解していたようにも見える。
つまり、その"誰かの命令"の主は、ヒミコもグルーブも同じになるという事だろう。上司の上司という所か。

そう考えると、ヴィルと会う事自体がエムケー側の誘導罠という雰囲気しかしないわけだが
オレはヴィルと会って時間を稼ぐ状況を作る必要がある以上、コレを避けることが出来ない状況になっているという事だな。
となると、リディの方にも罠が待っている状況な可能性が高いかもな。

だからといって、これという対策を取る方法も思いつかないから、現地で対応するしかないだろうな。
当然だが、罠を仕掛けてる方が種明かしするわけがないし
こういう肝心な時に、頭が回らない凡人な脳ミソを持った自分に少しだけ腹が立つ。


 「おっと、忘れる所だったぜ。
 ジュリレスターさんのマスターの正確な居場所は、彼しか分からないんだよね?」

 「うむ。リクのレコカにしか情報が入らないからな。
 マスターの現在地をウチのレコカにも共有する必要があるぞ」

 「あ、あぁ。通信屋でデータを送信しないといけないだろうな。
 この町にも通信屋はあるのか?」

オレのレコカは直接操作をすることが出来ないタイプの為、通信屋という場所にある機械を使わなければ
データの共有も出来ないという面倒な仕様になっていた。
リディがシフト山にある【モンスターの洞窟】のどこかに居る事は分かっているのだが
早く救出させる為にも、正確な居場所をレコカで把握させておく必要があった。

レコカの情報という点だけで考えると、通信屋に行かずともオレがリディの救出に向かう方が簡単なのではあるが
ジュリがここに残ってヴィルの足止めをするとは思えない。寧ろ戦う展開になるのが明白だ。
かといって、ヴィルの動向を無視して、オレら二人でリディを救出するわけにもいかない。
仮に罠があるのだとすれば、ヴィルが先にリディだけを洞窟から連れ出して、オレら二人を・・・
というのは可能性として十分考えられるからな。

だから、ヴィルが病院に居るこの好機に、オレが足止め役をするしかないわけだ。
ヴィルと戦う事は、この世界の、いや、エリア警察の派閥争い的なモノに巻き込まれるだけでしかない。
ソレだけは御免だ。



グルーブに先導される形でオレ達は通信屋へと向かっていた。
ただ、多くのエリアスターで行くのは目立つ事もあり、ヒミコと金髪は町外れで待機する形を取っていた。

 「ジュリ、この町の状況は他と比べて普通か?」

 「む?何もおかしい所はないと思うぞ」

 「なら良かった。
 あと、通信屋へ入るのはオレとグルーブだけで、ジュリは入口で見張っていて欲しい」

 「うむ。室内に入ったら出られなくなる可能性もあるからな」

 「流石に、町の中にスティーユはないだろうけどな」

 「ここが通信屋だねェ。
 話は聞こえてたから、早速行こうかねェ」

この世界にある通信屋はある程度同じ風貌をしているようだ。
外壁が冷たいコンクリートの壁に覆われており
中がどうなっているのかよく分からない大きさの窓が、不規則に見上げる位置に配置されている。
入り口のドアだけは透明なので、中が見えるようにはなっているが
ソコにはカウンターが見えるだけで、その奥に何があるのか分からない。

不安があると、ごく普通の建物でも飲み込まれてしまいそうな異様な空気感を生み出しているように見える。
心理的なモノなのだろうけども、この世界に来てからオレはずっとこんな状況だ。
ここ数日だけで、モンスター、スティーユ、そしてこのエムケーと
立て続けにオレの予測以上の出来事が起こって、流石に疲れた。
コレが続ければ、何時か心が完全に折れてしまう気がしてならない。
必死でこの世界から脱出したいと思い続けている事で、ソレを辛うじて繋ぎ止めているだけでな。


ジュリはその建物の出入り口で待機する形で、オレとグルーブは透明なドアを開けて入って行く。
中もいたって普通の建物で、ウエブの時の通信屋とほとんど変わりなかった。
一つの部屋に1個の通信屋の機器が設置されており、ソレが幾つの部屋で構成されている。
部屋とはいうが、ドアが付いているわけではなく、中に人が居れば分かるようになっていた。

慣れた様にレコカを入れると、オレのレコカの情報をジュリのレコカへ共有させた。
コレでジュリのレコカでも、この時点のリディの居場所が分かるようになった。
次に、リディの状況を確認する為、現在の状況について返信するようデータを送っておいた。
ただ仮に、リディの現状は問題ないという事であっても
洞窟内に罠が仕掛けられているのだとすれば、あまり意味を成さないけどな。


 「む。意外に早く終わったんだな」

ジュリの言葉通り滞在時間は10分もなかっただろう。
共有し終わったレコカをジュリに渡すと、再びヒミコ達が待つ入口の方へ戻る事となった。




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リク達が通信屋に行っている数分の間
ヒミとヴェロンは、とある喫茶店に入って待機する事にした。
営業時間はとうに終わっている感じではあり、電燈もほとんど消えている状態であったが
入口は閉まってなかった為なのか、ヒミはお構いなく店内に入って行く。

 「あ、あの・・・ヒミコさん。
 このお店はもう営業終了してるんじゃ・・・」

 「ん〜?そう見えるねぃ」

 「見えるって・・・え?」

電燈はつくことがなかったが、奥から店主と思われる小さな影がこちらに近づいて来る。

 「誰かと思ったら。おや、まぁ、ヒミちゃんかい。
 こんな時間にどうしたんだね?」

表情等はほとんど分からないが、声からするに老婆のようである。

 「カコさんも元気してるみたいだねぃ。
 ところで、ここちょっと暗すぎないかな?」

 「ん、今は省エネブームというからねぇ。
 ちょっとお客が見えないのが困ったさんだが、これも"みすてりあす"で良い感じじゃないかい?」

 「う〜ん。カコさん。それは色々と間違ってると思うけどねぃ」

ヒミの知り合いである事を理解したヴェロンは、少しだけ納得した表情になったが
直ぐに怪訝な表情に変わった。
ヒミの方は光源がある方の座席に颯爽と移動して座っていた。
ヴェロンも渋々ヒミと向い合せになるように座る。

 「ヒミコさん。ここは知り合いの方の店なのかい?」

 「そういう事だねぃ。
 表じゃしにくい話でもここなら楽に出来るからねぃ」

 「あら?じゃあワタシはお邪魔かしらね?
 注文を聞いたら少しの間、若いお二人に任せるとしますか」

 「う〜ん。だからカコさんは色々間違ってるねぃ。
 それにそんなに長居も出来ないと思うんだよね。
 お茶、お願い出来るかな?」

 「あらあら。そんなに人生急いでも得する事なんてないんだけどねぇ。
 わかったよ。ちょっとお茶摘みに行ってくるからねぇ」

最後まで何かを間違っている店主のカコが奥に入って居なくなると
ヒミの表情が一変する。


 「カコさんはちょっと抜けてる所があるから、色々大変なんだけど気にしないでねぃ。
 本当に時間がないから、単刀直入に確認したいんだけど
 リクについて何か変わった話を聞いてないかねぃ?」

 「あの彼ですか?」

 「う〜ん。そうそう。
 な〜んかね、違和感というか違うんだよねぃ」

 「・・・これは僕が聞いただけの話ですから、話半分で聞いてもらいたいんですけど
 彼はこの世界の住民ではなく、全く別の世界からやって来たらしいんですよ。
 それも彼だけじゃなくて、僕達新種全てがそうらしいと」

 「ふ〜ん・・・」

 「でも、僕は半分信じてるんですよ。
 僕達新種はこの世界に適していないと思う部分が多々あるように感じるし
 そうあって欲しいという希望もあるからね」

 「ふ〜ん。ヴェロンの希望は置いとくとして
 だとすると、私も異世界から来たって事になるんだよねぃ?
 面白い事言う子だねぃ。うん。
 あまりに面白くてちょっと、予定を変えたくなっちゃったねぃ」

 「・・・ヒミコさん?」

 「グルーブも余計な事を言うからさ〜、リクは完全に私も疑ってると思うんだよねー。
 それに、この世界が自分の住んでる世界じゃないと理解出来てるから尚の事。
 MKのマスター狩り(ハント)とか、ギフト選抜についても、相当疑問を持ってると思うんだよねぃ。
 やけにMKの事で猜疑心が強いように見えるのも、分かってる部分があるからなんだろうね。
 私も機会としては今かな〜と思ってるんだけどねぃ。ヴェロン?」

 「ど、どういう意味だい?」

 「う〜ん。それは中の下だねぃ。
 じゃあ、言い換えるけどヴェロンもギフト選抜を経験した一人だよねぃ?」

 「・・・」

 「どうして分かったのかって顔だねぃ。
 う〜ん。それだけでも色々想像できるけど、私は難しい事は苦手だからね〜」

 「今回初めて会った上に、MKの誰にも言っていない事を、何故分かったのかという疑問は置いとくけど
 僕も、ヒミコさんの事をMKに所属する前から知っているかもしれないんだよね。
 複製(クローン)のマテルの話を聞いた時にね確信に至ったぜ。
 前回のギフト選抜の時、ライバルの中にマテルを奪う厄介な者がいるという噂が立った事があったけど
 それは、ヒミコさんだったんだね」

 「う〜ん。それは半分正解って所かな〜?
 私が元々持っていたマテルは、コピー的な物でしかなかったんだよね〜
 でも、ある人のマテルをコピーしてから、なんだかこう、なっちゃたんだよね。
 だから、ヴェロンが聞いた人っていうのは、その「ある人」の事だと思うんだよねぃ。
 その人の名前は知ってる・・・と言いたいけど、これは本当に知らないけどねぃ」

 「じゃあ、話を戻して改めて聞くけど、機会とはどういう意味だい?」

 「う〜ん。ヴェロン。
 流石に気が付いてないとは思えないんだけどね〜。
 私達がする事はまず、リク達に信用してもらう事だと思わないかな?」

 「・・・それは、MKからの離脱という意味かい?」

 「う〜ん残念。時間が来ちゃったみたいだねぃ。
 グルーブがここに来たみたいだから店を出ようかねぃ。
 カコさん、お茶は今度またゆっくりと頂くねぃ」

ヒミは通信記録のあるレコカをヴェロンに見せると同時に席を立ち
まるで逃げるかのように店の外へと颯爽と消えた。
ヴェロンは数回横に首を振ると、大きく深呼吸をした後ゆっくりと店の外に出て行こうとした。

 「あらあら。もう帰っちゃうのかい?
 金髪君。ヒミちゃんはお転婆が過ぎる娘(こ)だけど、根はいい娘(こ)だから大事にしてあげてねぇ」

また勘違いをしている店主のカコに、これまた勘違いなサムズアップを決めたヴェロンは店を出た。

 「う〜ん。暗くて何をしたか全く見えなかったけれど、ヒミちゃんは大丈夫かねぇ。
 金髪少年なんて不良その者だよねぇ。
 あんのバカも帰って来てるみたいだし、あぁ、心配だねぇ」

最後の最後まで色々勘違いしているカコであった。




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涼しい風が吹き始めた夜の10時前。
カコの喫茶店の外にて5人は再合流した。
リディの居場所を把握出来たジュリレスターとヴェロンは、モンスターの洞窟に居るリディを救出する為
ヒミのナビ職を使ってタブを出発した。
そして
リクとヒミとグルーブは、病院に宿泊しているらしいヴィルの所に行く為に移動を始めた。
万が一の為に、人通りの少ない薄暗い裏道を進んでいく。


 「う〜ん。上司。
 今日は夜も更けてきてるし休息を取った方が良くね?」

 「えェ。そう思って宿泊地を取っていた所だったんですがねェ・・・
 どうも思いの外、幹部の動きが早いようでねェ。この状況はMKとしてはピンチという感じなのですねェ」

 「・・・どういう意味だ?」

 「リクを連れて帰るか、裏切り者的な動きをしているヴェロンと誘導されているジュリレスターを連れて帰るか
 最低でもどちらかの行動をしないと、こちらの立場が危うい状態みたいなんですよねェ」

こういう展開は、ある程度予定通りだ。
ヒミコに関してはこちらに居ない扱いになっているからMK的にも把握されていないんだろうが
上司であるグルーブは、オレかジュリを仲間に引き入れるか、ヴェロンを連れ戻すか
何れかの指示を受けてこのタブに来ていたのだろう。
そして、グルーブ的にはオレを連れ帰るのが一番手っ取り早いだろう。


 「ふ〜ん。上司的にはリクを連れて行くのがMKの為って事なのかねぃ?」

 「ヒミ。
 あなたの行動はこちらにも読めない部分がありますが、今回は少し大人しくしていて欲しいものですねェ」

そう言われたヒミコの動きが妙な事になっている気がする。

 「大人しくねぃ?
 悪いんだけど、私はリク側に付かせてもらうけどねぃ」

・・・何のつもりだ?この着物女。
また煙管の様なモノを取り出したかと思うと、やはり口に咥えてグルーブに対立するような構えになっていた。

 「ちょっと状況が読めないんだが・・・」

 「う〜ん。リク。
 私は味方だってことだねぃ。異世界の事も聞きたいしねぃ」

誰からその話を・・・
って、あぁ。金髪か。

あの男、やはりウマが合うように思えない。
悪い男ではないと思うが、この件でヒミコ以上に信用出来なくなったな。
そして、グルーブの方は流石に虚を突かれる行動のようだな。
だが、何にしてもここで騒ぎを起こすのは面倒な事になりそうだ。

 「ヒミコは味方だっていうなら、ここで騒ぎになる事は止めてくれないか?
 新種のオレ達にはメリットがないだろ」

 「う〜ん。それは上司のMKも同じ条件だと思うんだけどねぃ」

 「マテルを使わなくてもねェ、ヒミ達を確保する術はあるんだけどねェ。
 正直気が進まない物なんでねェ、使わせてほしくないんだよねェ」

そういうとグルーブは上着の内ポケットに手を入れて何かを取り出そうとしている。


 「というわけで、時間切れだね」

グルーブの後ろから突如人影が現れたと思うと、上着に入れている手を掴まえて
動きを固定させているように見える。

 「・・・スリックかい。何のつもりかねェ?」

グルーブは後ろを向かずともその人物の正体を知っているようである。

 「という事で、リクとは初めましてだね。
 エリア警察"マテリアル"の一人、スリックがおれの名前だね」

暗くてしっかり見えないが、ハリネズミの様な頭のこの男を、どこかで見ている気がするのだが。
それよりもオレだけが初めてって事は、ヒミコも知っているという事か?

 「う〜ん。今日はタイミングの悪いお客が多いねぃ。
 リクに何か用でもあるのかい?」

 「というか、リクはおれのマスターのギフト候補だからね。
 用も何も当然の事をしに来たまでだね。
 やりようによっては、グルーブをマテル犯罪者として逮捕って流れも出来るんだけどね?」

 「幹部に情報を流したのがスリックという事かねェ?
 あまり目立った動きをしない方がいいんじゃないかねェ」

オレの分からない範囲で話が勝手に進んでいるようだが
このハリネズミ頭の男はウエブでジュリと出会うきっかけになったあの泥棒男のようだ。
しかも、マテリアルだという。


 「というか、グルーブは勘違いしてるけど
 おれがMK幹部に情報を流した所で、信用されるわけがないだろうにね。
 というわけで、リクには状況が掴めていないと思うけども、
 エリア警察は手を出す事は出来ないけれど、リク達の様子を見に来たって事だね」

 「そこのエムケー2人とも知り合いのようだな」

 「というかね、その通りだね。
 あと、グルーブには一度本部に戻って貰いたいんだよね。
 まぁ、それだけあれば文句ないよね?」

グルーブはそう言われるとレコカを確認しているようで
何か納得した表情に変わる。

 「ヒミはこのまま残るのかい?
 本部に戻ったら報告をしないといけなくなるんだけどねェ」

 「う〜ん。上司に見つかった時点で下の下だったからねぃ。
 好きにしたらいいよ」

 「・・・分かりましたねェ。
 そういう事という報告をさせてもらいますねェ」

スリックの手を払う様に動かすと、グルーブはそのまま町の入口の方へ歩いて消えていった。




 「という感じで、リクはこれで心配要素が一つ減った感じじゃないかな?」

 「・・・スリックがマテリアルである証拠を見せて欲しいんだが」

 「噂通りの疑い深い性格だね。
 というわけで、これが証明ね」

レコカに似たいわゆる警察手帳の様なモノを見せて貰い、偽造したものでない限りは確かにエリア警察である証明である事が確認出来た。

 「スリックはエムケーと関わりもあるエリア警察と考えていいのか?」

 「という疑問は当然あるよね。というかそれは全く関係ないね。
 という事で、回答していたい所なんだけど、ここで長話をするほど余裕も実はないんだよね。
 ここのエリア警察に目をつけられてる事もあってね、早速だけど"病院"に行こうか」

その言葉を最後にオレの意識は途絶えた。






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