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【ジャンクション】
シフト山には麓の北側、西側、東側にそれぞれ町が形成されている。
ただ、東側の町は廃墟となっており、そこにあるのがタベスの町である。
北側にはデントの町への入口があるが、町に辿り着くには、分岐点から少し道を登って更にある程度進んで行く必要があった。
デントはモンスターの生息区域な為、町の外周は10から20mはある巨大なコンクリート製の外壁で覆われており
生息区域周辺は全て森で構成されていた。
今、リク達はMKの一人であるヒミによって、西側の麓に連れて行かれようとしている。
北側と違い、タベスと同様にモンスターが生息しておらず、中核都市とまではいかないものの飛行開発などの工業系に特化した町になっている。
過去の歴史の影響もあり、このタブとデントの町を含めて【デント地方】と呼ばれていた。
一方で、温泉町のブロク、廃墟の地のタベス、デント地方を繋ぐシフト山は【タベス地方】と呼ばれていた。
タブには、「デントグラス」とも呼ばれる【レイ・バーグラス】が、デントを除くと唯一置かれている町で
デントに行く多くの者は、このタブを経由して向かう事が常識となっていた。
なお、タブにあるエリア警察は、町の規模から考えると"異常に"立派な造りとなっているのだが
これは、とあるエリア警察の組織の本部が此処にある為である。
そのタブの町にはとある人物が滞在していた。医者を探しているヴィルである。
ヴィルは、デント地方に居る"名医"を探す為、タブに行くより先にデントの町を訪問していた。
そこで、タブにその名医がいる事を突き止め、1日余分に時間をかけてタブにやって来ていたのである。
そのヴィルは何故か特に急ぐ事もなく、とある喫茶店にて誰かを待つように寛いでいた。
数分もせずに待ち人が来ると、その人物は手前側に同じように腰かけた。
「随分、お早い到着みたいだねェ」
「こう見えてもマスターですので」
「でもココは、マテル規制地域ですけどねェ」
「いや〜やっぱりマスターとしての器が違うというか
移動のマテルを使わなくても、私の実力でって感じですかね〜」
「ただ、此処は"敵さん"の本拠地でもあるからねェ。
下手な動きはお互いに気を付けないといけないねェ・・・
あ、すみません。珈琲一つ貰えますか?」
「珈琲好きですね〜。
私は、夜眠れなくなるんで苦手なんですよね〜」
二人は見た目には適当な雑談をしている状態だが、
本質的な会話は机に置いたレコカで、文字交換という形で行っていた。
"グルーブさんの作戦は9割方成功したと見ますよ。
影使いの新人君が居た事でちょっと心配してましたが"
"色々予定外でしたが、結果ネルソンを【スティーユ】に残す事に成功できたみたいですね"
"そんな事よりも、リディさんの方は大丈夫ですよね?
こちらの方が心配なんですよ"
"向こうも、まだマスターである以上は無駄死にはしないでしょうね。
洞窟から出る事なく、仲間の助けを待っている状態ですね"
"それなら安心です。とりあえず捕獲作戦お疲れ様でした"
"ありがとうございますですね。
現在私の部下が、リディのギフトをタブの方へ連れて来ていますが
万が一が起きた時は、直接手を下す事になりますね"
"リディさんに恨まれる結果になるのは勘弁願いたいですが、それもリディさんの為ですからね。
手を下すのは、当然私がやらないといけないんですよね?"
"こちらはMKの立場上、エリアスターとは戦う事が出来ないので申し訳ないです。
あと、医者の関係もこちらの手違いで申し訳ないですね"
"それは、名医がちょうどタブに戻る所だったという状況の入れ違いだったから、仕方ないですよ"
"そう言ってもらえると、ありたいですね。
あと、その分の報酬は手違い分を差し引いて確かに頂きました。
お互い無事にタベスに帰りましょう"
"気になってたんですが、実際こうやってグルーブさんと会う必要ってあったんですか?
レコカの文字情報交換で十分だったと思うんですけどね"
"私の部下だけでは時間稼ぎをするのも無理がありますし、ネルソンもタブに来る可能性もありましたからね。
念には念を。というよりは、実際はMKとしてお仲間を連れ戻しに来ているポーズが必要だったんですね"
"MKの組織も色々大変そうですね。私はその後ろ盾に守られる事になるわけですけど"
"ヴィルにとってはここが最大の正念場ですからね。
私の部下が居るとはいえ、相手の方が数でも多いですから無理はしない事ですね"
"ギフト選抜も始まる事ですし、これぐらいのスリルはあってもいいね"
本質的?な会話も終わり、二人はそれぞれの居場所へ移動する為にゆっくりと体を動かした。
「はい。ご馳走様ですねェ」
「そろそろ行くのですか〜?」
「一応、居場所が把握されてますしねェ。長居は無用という物ですねェ」
「自由の利かない身というのも大変ですね〜」
「もう慣れましたけどねェ。
あと、最後に忠告ですが、一つだけ追っていると後ろから狙われる事もあるから、気を付けて下さいねェ」
意味深長な言葉を残し、グルーブは先に店を出て行った。
グルーブはウエブの雑貨屋の店主で、クラークやマテリアルのスリックとも関わり合いがある人物だが、実の所MK幹部の一人である。
今回のシフト山中腹にスティーユ風な建物を"仕組んでいた"のもグルーブが関係していた。
報酬を得る事さえ出来れば、色んな顔をすることが出来る人物という事のようだ。
一方で、ヴィルの方もどこまで状況を把握しているかは不明ではあるが
ネルソンが言っていたほど、単純な性格でもない様ではある。
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"ヒミ"が運転しているナビ職は順調にタブへと進んでいる。
今回はシフト山を経由しない為に、山を回避する形で相当遠回りをしてタブの町へと行く形になっていた。
風景をある程度観察し、行き場所を把握する事が出来たヴェロンは
周囲を見る動きを止めると、落ち着いて前だけを見るようになっていた。
リクの方は、このナビ職がMKの"者"である可能性を捨て切れておらず
MK本部のあるタベスから脱出していたとしても、余計な事を喋るのはMKに情報を与える事には違いないと思っていた為
ナビ職の中で情報を聞くと言っていた割には、何も話すつもりがなかった。
それ以前に、ヒミ自体にリディが持つ胡散臭い雰囲気を感じた事も関係していたようだ。
「随分と静かだねぃ。みんな寝ちゃってるのかな?」
「・・・何か会話がないと物足りないのか?」
「ん〜?
リクは確か、ここで状況把握をするんじゃなかったのかな〜?」
「最初はそのつもりだったんだけどな。
ただ、お前に非常に良く似た雰囲気のモノを知っているだけに、する気が失せたとも言うな」
「ふ〜ん。下の中って感じだねぃ。
知らぬが仏って言葉もあるけどさ〜、なんか違くね?
あと、私の名前はヒミ子っていうから覚えといてねぃ」
確かに「お前」呼ばわりは良くはないと思うけどさ、覚えるつもりもないな。
ヒミコという女は、水色から青紫に変化しているグラデーション風な配色で、ソコに白に近い桜模様が描かれている着物を着ており
見た目の幼さと口調も合わさって非常に子供くさく見えた。
「じゃあ、僕が代わりに聞くよ。
風景からしてもタブ方面に向かっているのは間違いないけど
グルーブさんの命令と、ヒミコさんの行動が合っていない気がするんだ」
「グルーブの命令は、もちろん私も知ってるけどねぃ?」
「ここで僕が発言する事で、グルーブさんの目的を潰す事になっても
ヒミコさん的には構わないって事かい?」
「う〜ん。それは困るかな〜。
ヴェロンが受けたグルーブの命令は、きっと私にも関係する目的だからね〜」
「その目的とやらは少し興味あるな」
この女がきちんと話をするとは思えないが、話を広げてもらう事は都合悪い事ではないな。
「ん〜ヴェロンの口からじゃ言い難いよねぃ。
グルーブっていうのは私達の上司でMK幹部の一人だね。
今回初顔合わせだけど、私とヴェロンは同じ部下同士って事になるんだよねぃ。
つまり、ヴェロンと私の目的は一緒という事なんだよね〜。
んで、グルーブの命令って言うのは、リク達を本部に連れて行く事だから、こうした行動をするのは命令外の事なんだよねぃ」
「・・・じゃあ、ヒミコさんが受けた命令とは何だ?」
「ヒミ子でいいよ。
ま〜、これだけの言葉で、ヴェロンと同じ命令を受けてないと察するのは中の上って感じだねぃ。
う〜ん。どこまで喋って良いものなのかな〜。
とりあえず、私は複製(クローン)のマテルを使って、リク達新種を保護しろという命令を受けてるんだよね〜」
「む。複製(クローン)だと」
「何か心当たりがあるのか?ジュリ」
「うむ。いや、珍しいマテルだと思ってたから、今まで特殊なマテルだと思っていたんだが
新種以外には普通に使いこなすレベルのマテルって事みたいだな」
「いや〜ジュリの言う通り、なんだよね。
特殊も特殊。新種クラスじゃないと使える人が居ないマテルだねぃ」
「む。どういう事だ?」
「う〜ん。"今の"私が使いこなせるマテルが複製(クローン)って事だねぃ。
私も所謂、新種の一人って事だよ」
「・・・ソレは、使いこなせるマテルを変更出来るって意味か?」
「う〜ん。リク。それは半分正解って所だねぃ。
私は肉体が残っている状態の"動けなくなっている人"の得意マテルを頂いて、自分のモノにできるんだよね〜
できるんだけど、そうなるとそれまで頂いてたマテルは上書きされるから、使いどころが難しいマテルでも、あるんだよね」
「・・・ウチは、ウエブの酒場で、複製(クローン)のマテルを持つ者と戦った事があるぞ。
じゃあ、その店主から奪ったという事なのか?」
「う〜ん。それは否定できないかな〜。
確かに複製(クローン)のマテルはウエブで頂いたものだしねぃ」
「・・・」
「・・・あまり趣味が良いマテルとは言えないな。ヒミコとやら」
「私はマテルを頂いているだけだから、それ以外の事は何もないんだけどねぃ?
このマテルのおかげで、本物の私は本部で頑張って仕事してるって感じ、なんだよね〜」
「・・・ヒミコさん。話を戻しますけど
グルーブさんは彼らを逃がす命令を出していたわけじゃないんですよね?」
「そんな命令はでないよね〜?でも、ヴェロンは逃がそうとしてるよねぃ?
じゃ、みんな逃がす事でいいんじゃね。私も付いて行けば新種を保護している事に変わりはないからね〜」
この発言にはエムケーと無関係のオレでさえ驚いた。
当然、当事者のヴェロンが何も言えなくなった事は言うまでもない。
このヒミコって女は、どこまでふざけているんだ。
「ヒミコさんの言っている事もやっている事も、僕には理解できないぜ。
グルーブさんが彼らを保護する理由は、マスターの手から逃れる為だと思うけど
MKから逃がすとなると背信行為になると思うぜ?
ヒミコさんは、僕達に何かを隠していないかい?」
「う〜ん。それは、実際の私がここに居ない事として考えれば
少し分かってくる部分もあるんじゃないかな〜?
マテルの種明かしもしてるんだしねぃ」
「・・・保護するのは名目で、タブに連れて行く事の方が重要という感じがするな」
「ふ〜ん。中の上って感じの推測だねぃ。リク。
ナビ職に乗り込む時にも言ったけど、タブで何だかのイベントがある事は、間違いないんだよね〜」
「それはエムケーとしてのイベントか?
答える気はないだろうけどさ」
「ふ〜ん。別に隠すつもりもないんだけどねぃ。
種明かしすると、つまらなくなる事もあるからね。
簡単に言うと、タブで一人の医者に会ってもらいたいんだよね〜」
「医者?」
「む。それは、ヴェロンの怪我も治療してもらえそうな医者なのか?」
「う〜ん。外科専門じゃないはずだけど、治療してくれるかもしれないねぃ?
新種でも何も問題ないからねぃ」
「医者と会わせたい理由がわからないな」
「う〜ん。このままだと全部喋っちゃいそうだねぃ。
あとは到着してからのお楽しみって感じで、いいんじゃないかな〜」
「確かに、都合よく喋って貰うというのは、新種の為という理由付けがあったとしても怪しくておかしいからな。
・・・いや、ここまで喋るのは想定内って感じにも見えるが」
「それはどうかな〜。
都合が悪くなる事は言えないけどねぃ?」
「・・・ヒミコさんは、自分の都合であればMKの目的を無視して行動出来るって事かい?」
「う〜ん。それも違うな〜。
ヴェロンには私が命令と正反対の行動をしているように見えるだろうけど
でも、それは一つに繋がるんだよね〜」
「僕が聞くのもおかしい事だけど、ヒミコさんはグルーブさん以外のMKの指示も受けて行動してるって事だよね?」
「私から言う事でもないと思うけどねぃ。
ヴェロンはリク達を本部に連れて行く方が良いと思ってるのかな?」
「新種達を守る事が出来れば、僕の立場はどうでもいいぜ!
でも、ヒミコさんの行動次第じゃ、僕は戦う事になるぜ」
「う〜ん。私も新種なんだけどねぃ」
「その時は、黒幕も・・・ぶっ潰してやる!までですよ」
「頼もしいねぃ。そういう展開も嫌いじゃないけど、どうかな〜」
金髪とヒミコが適度な話を続けているようだが、一旦ここまでの状況を整理しておくか。
まず、ヒミコという女は、エムケーでの上司であるグルーブの命令で、複製(クローン)を使ってオレ達を保護する事になっているようだ。
ここに居るヒミコは複製で、本物はエムケー本部に居るという事らしい。
そして、同じグルーブの命令を受けている金髪は、オレ達をその本部に連れて行くのが本来の目的のようである。
それならば、オレ達を本部に連れて行く流れになるのが普通だと思うのだが、
ヒミコは別のモノからも指示を受けており、ソレはオレ達をタブに居る医者に会わせるという事らしく
そちらを優先している為に、現在タブに向けて移動しているという展開になっていた。
金髪はその話を受けて、指示を出している黒幕を状況によっては倒そうとしているようだが
何故かタブに連れて行かれている事自体を悪いとは思っていない感もあるな。
エムケー側から見ると、スティーユ的な建物を脱出したオレ達は
現在、金髪に連れられてタブ方面に向かっていると把握されている筈だから
裏切り者風に見える金髪を捕まえる為、追っ手が来ていてもおかしくない状況だと思うのだが
金髪は、自分だけが裏切り者扱いになっている事に気付いていないのか、言葉の通りに立場はどうなっても良いのか
もしくは、タブに行くまでがエムケーとしての策という"演技"なのか、
ソレらは全て推測でしかないけれど、何れであったとしても、特に問題と思ってないように見える。
一方でオレ達の目的は、医者探しの為に近辺の病院に行っていると思われるヴィルを見つけて注意をひきつけている間に
モンスターの洞窟に幽閉扱いとなっているリディを救出する事である。
ネルソンが居れば、ヴィルを倒すという目的も追加されていたが、ソレは申し訳ないけれど実行するわけにはいかない。
オレが抗う相手は、このふざけた世界の設定であって、"住まされている人"そのモノではない。
ヴィルがエムケーに居るエリア警察と繋がっているなら、尚の事だ。
万が一、戦うとなれば、ソレはエリア警察の「武器」としてでしかないだろうからな。
だから、ヴィルはあくまでリディから引き離すだけと考えないといけない。
しかし、医者探しをする為に洞窟を移動してから1日以上が経っているから、タブに行った所で行き違いになっている可能性の方が高い。
そもそもヴィルがタブに行っている保証もないからな。
まずは「通信屋」に行って、レコカを使ってリディに現況確認をしないといけないだろう。
ただ、ご都合よく考えるならば、ヴィルはタブで医者を探していて、オレ達もタブに居る医者の所に連れて行かされている。
もうすっかり"恒例となった展開"が、今回はこのヒミコによって起きている可能性もある。
ヒミコはタブでイベントがあると言ったが、むしろ何もない方がおかしいぐらいの状況が揃っている事になるわけだ。
仮定ばかりだが、エムケーがマスターを倒す為に動いていると考えるとするならば
まず準備段階として、ヴィルにリディを誘拐させて、リディを孤立させる。
次に、ヴィルのギフトであるネルソンをスティーユに隔離する。最後に、タブでヴィルを倒すという形・・・か?
あと、リディはそのまま洞窟で孤独になってもらわないと困るだろうから、オレ達はタブで始末されるか、エムケーの仲間入りさせられる、か。
だが、これだとマスターを倒す為に一部のエリアスターが犠牲になる展開だな。
今回はネルソンがその犠牲の一人という事になるが、あの状況でエムケーの任務を遂行しているようには見えなかったから
ネルソンの行動もエムケーの計算の内だったのかもしれないな。
「これは仮定の話なんだが、タブにはマスターの一人が滞在している可能性がある」
「ん〜?リクのマスターの事かねぃ?
残念だけど、それはないかな〜」
「あぁ、勿論違う。ネルソンのマスターでヒミコと同じエムケー関係のヴィルという男だ」
「ふ〜ん。私もその可能性はあると思うねぃ。
ただ、スティーユにネルソンを置いて来ている件があるから、ヴィルがどういう行動に出るかは未知かもしれないねぃ」
「オレはてっきり、医者に会わせるのは表向きの口実で
実際はヴィルを倒す為にタブに連れて行ってると思ったんだけどな」
「う〜ん。それは中の下ぐらいの想定だねぃ。
リクは色々と物事を複雑に考える性格みたいだね〜。私は苦手だけど」
「常に疑わないと、ここでは生きていけない気がするんでな」
「・・・それはまた、妙な生き方だねぃ」
「君の場合、仕方ないという部分もあるだろうけどさ、少しは僕達を信用してくれても良いんじゃないかな?」
「ジュリならば信用できるが、お前達エムケー関係は信用できない。
第一、オレ達はマスターと共に行動している。ソレを理由があるにせよ引き離す行為に賛同している時点で考え方が違う」
「う〜ん。
MKの総意じゃないけどねぃ、私は新種(なかま)を失いたくないだけなんだよね。
ヴェロンもその点は同じハズだよねぃ?
ま〜確かに、リクの様なMKの考えと合わない新種も確かに居るけどね〜、それは事実を知らないから、なんだよね。
【ギフト選抜】を経験してるかどうかで変わってくる、という事かもねぃ。
マスターだって人間だし、一緒に居れば情もわくし、行動を共にしたいという気持ちだって出てくるよね。
でも、そうなる前に私達が団結するべき、なんだよね〜」
「ギフト選抜とはなんだ?」
「名前の通り、ギフトと呼ばれる新種を選抜するものだねぃ。
マスターの右腕として、フェリスを見つける為の戦いの総称みたいな感じだね〜」
「新種はフェリスを探しているんだろ?そしてソレは、マスターの力が必要という話だったはずだが。
事実とやらは、マスターを必要としないという事なのか?」
「う〜ん。リクもフェリスを探してるんじゃないのかな〜?
マスターが居る時よりは苦労はするだろうけど、新種達だけでフェリスを見つける為の援助をするっていうのが
MKって組織って事、なんだよね」
「オレの事なんかはどうでもいいが、マスターは何故フェリスを探しているんだ?
新種のようにマテルが使いこなせてないわけじゃないんだろ?」
「ソレは知ってると言いたいけど、実に謎なんだよね〜。
おおよそ、エリア警察が絡んでるんだろうけどね〜」
「つまり、エリア警察に雇われてマスターはギフト選抜の為に新種を必要としていて、
エムケーはその新種が犠牲にならないようにマスターから引き離しているって感じか」
「上の上って感じだねぃ。
だけど、マスターとある程度関わった人にこの話をしてみても、中々信用してもらえないんだよねー。
リクは違うと思ってるんだけどねぃ?」
「・・・あぁ。今の話を聞いてもエムケー側に付くつもりはない。
別にマスターを信用してるわけでもないけどな。マシという程度だが」
「ウチもマスターに付いて行くぞ。
マスターの事を抜きに、ウチが知っているエムケーに関わっている多くの者が信用できないからな。
仮にこの件でエムケーとフェリスを求めて争う事になったとしても、ウチは戦ってでも掴み取るぞ」
「・・・」
ジュリは、仲間を守る為ならば攻撃的になる傾向はあるけれど
自ら好んで攻撃的な事を言うタイプではないと思っていた。
だが、フェリスに関してだけは、無条件で譲れないモノがあるみたいだな。
エリアスターがそういう考えになる様に"設定"させられてる可能性の方もあるが。
だとすると、ヒミコの言っている事も若干怪しくなる部分はあるな。
「ふ〜ん。
私が本部に報告すれば、リク達は危険要因って事で、マスターと同じ扱いを受ける事に、なるんだけどねぃ。
それは、あまり好まない展開だけどね〜」
「このナビ職に乗っている時点で、会話は筒抜けじゃないのか?」
「う〜ん。それは下の下だねぃ。
このナビ職はMKとは無関係の物なんだよね〜」
「となると、オレ達"3人"は行方不明という事になるのか?」
「そういう感じになってるねぃ。
で、さっきから思いつめてる表情のヴェロンは、この二人をどう思うのかな〜?」
「僕は・・・ヒミコさんやジュリレスターさんを含む、全ての新種同士が無駄に争わないように戦うだけだぜ!
世界で数多くない異端扱いの僕達が、対立する関係になるのは辛いからね。
MKが対立を煽る存在に成り下がるなら、その黒幕を・・・って、これさっきも言ったね」
「ふ〜ん。そんなもんかねぃ。
人の考えなんて千態万状なんだし、理想としてはわかるんだけどね〜」
ヒミコの言い方が胡散臭い事も影響しているのは否めないが
ほんの少しだけ、金髪の事を信用してみたくなる気持ちにはなった。
ジュリとは別のだが、エリアスターを守ろうとする意志がクドイ程伝わってきていたからな。
その熱意が、オレの感覚を麻痺させていた可能性もあるけどな・・・。
4人はこの微妙な連帯感のまま、この後、数時間をかけてタブの町手前まで進む事となる。
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リク達がタブに到着するその数時間前。
木の葉が若草色から紅葉色に変わるこの時期に
やや季節早めの灰色の厚着を身に着けた人物が、周りを気にする素振りで歩いていた。
顔を見られない為なのかフードを被っており、表情や年齢などは不明である。
体格からして男性である事が判別できる位であった。
そんなフードの人物は
騒ぎと共に人だかりになっている場所を見つけると、足早に現場へと進んでいく。
「ダイアを出して貰おうかっ!」
そこは銀行であり、この世界にも、例外なく銀行を強盗する人物というのは存在していた。
強盗は一人の男だけであり、中肉中背という変凡な体格ではあったが
ブレイカーと思われる中型の剣を振り回すように行動していた為、下手に応戦しようとすると被害を増やす結果に成りかねなかった。
防衛行為としては、マテル規制地域でもマテルの使用を許可している所もあるが
それを正当防衛と判断出来るのはエリア警察だけな事もあって、勇敢に強盗に挑もうとする者は皆無であった。
そもそも、マテルの使用を規制している町が幾つも存在するのは、大原則としてマテルを武器、武力として使わない為である。
マテルが万能である事は、この世界の住人であれば誰もが分かっている事であるが
それ故に使い方によっては危険である事も理解されている。
一方で、マテルの力自体は生活の一部に欠かせない物になっている為
ブレイカーやエネジス等のマテル補助的道具の使用は禁止できない事情もある。
つまり、ここでいう規制というのは、使用者自体が持つマテルの事になる。
そんな事情もあってか、強盗はブレイカーによって好き勝手に行動する事が出来ており
片手で剣を振り回しながら、もう片手で持参していたエアポケットの中にダイアの札束を詰め込めるよう準備をしていた。
「お、お客様、今準備をしていますので、まず落ち着いてください」
「ああ?早くしないかっ!
警察が来たら厄介になるのはアンタらだぜっ!」
その銀行には当然人だかりができており、そこに先程のフードの人物も到着する。
「今日はここでお祭りでもやっているのかい?」
「何言ってるんだ?今強盗が入って大変なんだよ!」
「という事は、事件ですね。
ちょっと通してもらえますか?」
「いや、アンタ余計な事をしない方が・・・」
「というかですね、傍観者って言うのが一番嫌いなんですよね。
おれ達のせいって言われればそれまでですがね」
「は?」
フードの人物はそう言うと、人だかりをかき分けるようにゆっくりと銀行の入口まで近づく。
銀行は当然にガラス張りになっている為、強盗が剣を振り回している状況も丸分かりである。
「という事で銀行強盗さん。大人しくしてくださいね」
手動化している入口を引き開けると、強盗の行動に構いなく近づいて行く。
「ああ?なんだてめぇは?それ以上近づいたらこの銀行ごと・・・」
強盗が喋っている間に、フードの人物はありえない早さで目の前まで近づいていた。
残像が分身しているかのように移動しているという、目に見えて分かる不思議な光景であった。
「という事で、ジエンドですね。
ダイアを手に入れたければ、きちんとした方法でするべきだね」
「ああ?てめぇ、ここがタブって分かっててマテル使ってんのk・・・ああ!」
フードの人物は、強盗が喋っている途中から剣を持つ手を拘束しており、同時に手錠を付けると強引に腕を後ろ側に引き伸ばした。
最後の叫びの様な声はこの時の状況によるものである。
剣は手から滑り落ち、それと同時に、エアポケットを持っていたもう一方の手を掴むと、同じく手錠に拘束させた。
最後に、また両腕を後ろに引っ張り、強引に尻から地面に落とすように叩きつけた。
「という事で、ここに住んでいる者なら誰もが知ってる
タブはマテル規制区域って話ですが、おれには正直関係のない事なんですよね」
「てめぇ・・・コクガンキョウだったのか」
「という話になるわけですが、全く関係ないですね。
おれは、ただの通りすがりのエリア警察ですよ。
黒眼鏡(くろめがね)と一緒にされたくないですね。心外です!」
最後は捨てるように強い言い方をすると、フードの人物はそのまま銀行から出て行こうとした。
「お待ちください。エリア警察の方ならこの強盗を・・・」
「あ、すみませんね。
その手の事はここに居るエリア警察の人にやってもらって下さい・・・
って、来ちゃいましたか」
フードの人物の前には、スキンヘッドにサングラスで黒スーツを着た体格の良い強面な男が壁のように立ち止まっていた。
「こりゃ〜お前がやったのか?
・・・って、あの手錠はエリア警察の物のハズだが、どういう事だゼ?」
「というわけで、答える気はないねぇ」
「はぁ?意味が分からないゼ?
ていうか・・・お前どっかで会った事がある気がするゼ?」
「あ〜、この声はウエブん時のスリックだな」
体格の良い男に隠れていたかのように一回り小さいオールバックの赤髪の人物が横に現れた。
同様にサングラスをしている。
「という事で、面倒な事になったみたいだね。
仕事を取ったのは申し訳ないと思うけどね」
「あ〜その手の話はこっちで適当にやっとくから、さっさ行きなよ」
「という事にしてもらうね!」
何故かまた捨てるように強い言い方で、フードの人物ことスリックは
銀行周りの人だかりが避けるようにして自然に作られた道を進み、現場を離れた。
「ヴァン。あのまま行かせていいのか?
マテリアルがこんな所に来て何をする気かわかったもんじゃないゼ」
「ま〜いいじゃん。こうやって強盗を捕まえてくれたんだし。
感謝こそすれ、彼の行動にケチをつける必要はないだろ?」
「ヴァンは適当過ぎるゼ。
適当過ぎてワシの毛根が全部枯れてしまうぐらいに気苦労が絶えないゼ」
「あれ〜?ウェッドってソレで禿たのか?
それは・・・本当に、すまないと思っている」
「そんなわけあるかい!
って、冗談はいいけどもだ、スリックがここに来てるって事はマテリアルのマスターとかもここに居るって事じゃないのか?」
「だからさ、前にも言ったけど、その手の話は興味ないんだよね」
「興味とか・・・そういう事じゃないだろ。
仕事なんだからちゃんとしてくれないと困るゼ」
「あ〜善処しま〜す。
じゃ、強盗を連行するからウェッドがスリックの動向追ってくれない?」
「ちょ・・・。あぁ、分かったゼ。
連行終わったらすぐ合流してくれよ」
「それも善処しま〜す」
サングラスとスーツを着た二人がコントのようなやり取りをしていたが
この二人は以前、ウエブのとある建物にてスリックと一悶着風な事があった
コクガンキョウというエリア警察の一員である。
コクガンキョウはこのタブを拠点とするエリア警察でもある。
一方でスリックは話に出ていたように、マテリアルというエリア警察の一人であり
リディの後ろ盾になっているエリア警察の一人でもある。
表向きは犯罪者を許さないという正義感の塊ではあるのだが、別の顔を持っていたりもする怪しい人物でもある。
そんなスリックがタブに来た目的はリク達に会う事である。
ギフト選抜の関係もあるのだが、スリックはMK幹部の一人のグルーブとも繋がりを持っている。
それだけに、単純に会って終わるという展開にはならないであろう。
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スリックの強盗逮捕劇と同時刻。
タブのとある病院にヴィルは居た。
グルーブと喫茶店で別れ、そのグルーブが見つけていた名医と会う為
病院でその人物を待つ事になっていた。
小一時間程待たされ、白スーツの様な恰好をした看護師によって案内を受ける。
「この部屋にセンセはいらっしゃいます」
「どうもね〜。じゃ入りますよ〜」
そこには白衣を着て居なければ、どこぞの海賊とも思える風貌の老人が座っていた。
白髪で白い無精ひげを生やし、右目は黒色の眼帯で覆われている。
その姿にヴィルも一瞬だけ戸惑いを見せた。
「シシ。驚いたか?」
「え、えぇ。思った以上の貫録で驚きですよ。シィード先生」
「マスターだかシらんけども、言葉使いには気を付けな。小僧」
「あ、いえ。すみません。お名前を間違えましたでしょうか?」
「シシ。間違ってねぇよ。
ただ、こういう愚痴を言いたくなる"とシ"ってだけだぜ。
気に障ったらすまんな」
「・・・いいえ。とんでもあ、ありません」
「まぁ、めんどくさい挨拶はこれぐらいにシてだな
要件を聞こうじゃねぇか?」
「・・・私の大切な人の病気を治して欲しいのです」
「シシ。病気?
小僧の様な、ど"シろうと"が病気って何で分かるかねぇ?お?」
「いえ・・・それは・・・」
「シシ。すまんすまん。
わたシも暇人シてるわけじゃねぇんでな。
"めんど"な用件はスッパリ断ってんだな。分かるだろ?」
「は、はぁ・・・」
ヴィルはシィードの迫力に完全に押されてしまい、いつもの彼らしさが全くもって無くなっていた。
シィードはその状況を弄んでいるかの様に、適当な言葉を返すばかりであった。
「シシ。まぁこっちに来て座れ。
マスターの頼みってなら、聞かない理由がねぇってもんだろ?お?」
言われるがままの操り人形のようにヴィルはシィードの目の前の椅子に腰を掛けると
また、操られた様に片腕を差し出した。
「わたシはな、そいつの脈拍とか肉体の動きでな、だいたいの事は把握できんのよ。
こんな技術、別に珍シくもねぇんだけどな。シシ」
片腕を差し出しているヴィルだが、その表情は非常に険しい。
それも分かっているかのように、握手するような形でシィードはヴィルの状態を把握し始めたようだ。
「・・・はぁ。なるほどなぁ。コイツは悪い事シたな。
小僧のマテルの一つを変化させちまったみてぇだな。
・・・あぁこりゃ、触れた対象の居場所を把握できるマテルかぁ?
ストーキングするにはもってこいなマテルだなぁ?お?」
ヴィルが自称しているマテルの【マーキング】は、触れた対象の居場所を特定でき、かつ側に移動することも出来る。
リディの元にすぐに戻れるように、ヴィルはこのマテルをリディに対して使っていた。
一方でシィードは、体内の異物を排除させる事が出来る特殊なマテルを持っており、それはマテルの性質も例外ではなかった。
シィードが対象と握手するのは、異物を把握しそれを排除させる事を瞬時に行う事でもあった。
ただ、この行為自体でヴィルのマーキングが解除されたわけでなく
握手した事でマーキング対象がリディからシィードに変わったという事である。
ヴィルが険しい顔をしていたのはこれを恐れていての事であった。
「ベ、別に居場所が分からなくなるわけではないので大丈夫ですよ。
ですが、私のお願いはこれで聞いてもらえますか?」
「シシ。このわたシを脅すとは・・・やるねぇ。
責任は"たシか"に、わたシにあるからなぁ。聞いてやるぜ。お?」
「あ、ありがとうございます。
そ、それでは早速・・・」
ヴィルがそう言いかけた瞬間、電話のベルのような音が部屋を包んだ。
「あぁ。すまんな。
わたシはいい"とシ"なんでなぁ、音でレコカの"こうシん"情報を受けないと見逃すことが多いんでな」
そう言うと机に置かれていたレコカを操作し、その後やや気難しい顔になった。
「すまんな、マスターよ。
先客がわたシに用がある様なんでな、その件が終わるまではここから出られん事になったわ」
「・・・それは時間がかかるんですか?」
「シシ。今日か明日には会えるだろうから"シんぱい"するなよ。
それとも、マスターの大切な人は、直ぐにでも逝っちまう様な状況だってのかぁ?お?」
「・・・あ、い、いいえ」
取って食われてしまう様な迫力に、再びヴィルは捕獲された獲物の様な表情で何も言う事が出来なかった。
こんな状況な為、ヴィルはタブの病院で足止めを食らう形となってしまっていた。
こうして、これから起こるイベントの準備は着々と完成に向かっていた。
役者が集ったタブという舞台で、幕が開こうとしている。
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