21
【セパレーション】
【スティーユ】という監獄。
入ったが最後、外に出ても何もする事が出来ない処刑建築物の名称である。
この世界には、地中に埋まっており移動させる事が不可能なエネジスというのがある程度存在する。
正確には人間が直接触ることが不可能という意味でである。
大昔、極悪人などを裁く機関がなかった時代。
人間が触れることが出来ないエネジスを使い、現在のタベス地方において人体の9割を機械化した奴隷種族によって
そのエネジスを基礎とした監獄を建築し、それは自らの種族名であるスティーユと名付けられた。
監獄周辺は底が見えない空間しか存在しなかった。
元からそういう穴があったわけではなく、それも奴隷種族たちが何年もかけて掘り続けて作られたとされており
底には空間の中心であり頂上にある監獄へ行くための入り口が作られ、入口の中に居る"案内人"によって
瞬間にして監獄の床から中へと押し込まれる仕組みとなっていた。
この案内人とは、その名の通り今でいうエリアドライバーと呼ばれる者と同じマテルを持っていたのだが
時代が進むにつれて、案内人は完全に機械化され、機械の中に「移動のマテル」を持つエネジスが仕組まれるようになり
裁かれる人間は、底の入口に入ると後は自動でスティーユ内に押し込まれる仕組みとなっていた。
現在は、非人道的という理由で空間は埋められて、監獄自体もほとんど解体された事になっている物であった。
しかし、発祥の地では未だ多くの建物が"残されて"いるのが現状だった。
オレ達が閉じ込められた白い山小屋ことスティーユには一つの机が置かれていて
その上には一つのエネジスが不自然にあったのだが、これがオレ達のモノでない事は直ぐに理解できた。
「そのエネジスには触れるな」
オレが机に近づいたのを察してか、ネルソンが注意をしてきた。
「出口がないスティーユで、キーポイントになりそうのがこの二つ。
一つがあからさまに置かれているそのエネジス。もう一つがこの屍だ。
リクが気絶している間に屍の方は色々見てみたが、これはただの屍。
となると、そのエネジスがこの空間を作っている可能性が高いな」
「・・・エネジスを操作する事でこの空間を変化させる事が出来るのか?」
「それがちょっと問題なんだぜ。
僕が知っているスティーユは・・・エネジスが剥き出しになっている作りではないはずなんだぜ。
だとすると、このエネジスは別の意味を持っている可能性があるのさ」
案の定というべきに、金髪が会話に絡んでくる。
「ヴェロンの言う通りで、このエネジスは別の罠って可能性がある。
俺がさっき触れるなって言ったのはそういう意味だ」
ネルソンも金髪が絡んでくるのを想定していたかのように話を続けている
「ウチはこの白い山小屋風な建物を以前も見た事があった。入ったら出られなくなると言われている監獄の家。
モンスターに追われていたとはいえ、スティーユという可能性が分かっていたのにすまなかったぞ・・・」
ジュリはスティーユに入るのを止められなかった事で、また勝手に落ち込んでいるようだ。
でも確か、先にここへ誘導したのは金髪のはずなんだが・・・。
「ジュリレスターさん。これは分からなくても当然だぜ。
僕が知っている話だと、スティーユの周りは谷底になっていて、仮に外に出れてもどうにも出来ない状態らしいからね。
ただ忽然とスティーユの建物だけがあっても分からないのはしょうがないぜ」
「・・・いや、外に出られるならマテルで移動すればいいんじゃないのか?」
「いや、リク。
スティーユを構成しているエネジスには、さほど強くないらしいが"地場"が発生していて、マテルを使用してもその地場に吸収されてしまう。
新種には影響が少ないと言われている地場だが、外に出られたとしてもその周辺に谷底が用意されているとすれば
超人的な身体能力があったとしても移動する事は不可能だ。
スティーユを支えている土台を伝って底に降りる方法も考えられそうだが、それが出来たという話も無い所から
おそらく地場がそれを不可能にしているんだろうな」
地場という言葉は砂漠の町のエスケで聞いた用語だが、
あの時は確か、人が歩き難くなるモノのような感じで説明された気がしたが
マテルの力を吸収するエネジスによって作られる空間的なイメージという事か。
となると、あの白い山小屋近くに居た時点でマテルを使えないはずなんだが
オレが助かったのは金髪のマテルのおかげのはずだし、だとすると此処はスティーユの作りを模倣した建物という可能性の方が高いという事か?
「いや、マテルを吸収するって話なら、オレが助かった理由がわからないんだが」
「それは、僕のヒーローの力としての器がt」
「リクも同じことを考えているだろうが、ここはスティーユに似せた別の建物って事だ。
地場も発生しているとは思えないしな」
わざとだろうが、ネルソンが金髪の喋りに言葉をかぶせてきた。
しかも、金髪が無意味なポーズまで決めかけようとしていたから、"空気を読んで"の事だろう。
金髪には、怪我をしていても決めポーズとやらはやらないといけない決まりでもあるのだろうか。
その行動を理解したいとは全く思わないが。
「む。という事は、見た目をスティーユと同じように見せてるだけという事なのか?
それに何の意味があるのか、ウチにはよく分からないぞ」
「そうだな。俺達にこの山小屋をスティーユだと思わせても特にメリットがねぇ。
モンスターに追われていた特殊な状況とはいえ、スティーユだと分かっていればここに入る選択はなかったわけだからな。
スティーユに似た建物ってだけで、地場も発生していないから、入るのに問題ないと思わせたと考えられなくもないが
普通に考えてもそんなややこしい作りにする必要性も、こんな山道中腹に作っておく必要性もない」
「ネルソンの言う通りだな。
結果、中腹の休憩場所の役割は当然なしてないわけだし、スティーユの事を知っている人は警戒して入らないだろうし、
かといって知らなかった人を閉じ込めて何のメリットがあるのかオレには想像も出来ない事だが
作ったモノ達には何かの目的があって、違和感のある建物をあえて此処に作っているという所か。
先程の話を聞く感じだと、本物のスティーユとやらは昔の負の遺産っぽい印象を受けるが」
「あぁ。スティーユは大昔の処刑場であり監獄だ」
「そう・・・いうことだぜっ。
タベス地方に建物が残ってるぐらいで・・・今はほとんど解体された物なんだぜ。
僕達には昔話でしか聞いたことがない物なんだよ」
やや涙目っぽくみえる金髪が、誰も見ていなかったと思われる決めポーズを決めたと思われる後に
再び懲りない感じで話に加わってくる。
「こんな事考えてもしょうがない話だろうが、スティーユ風な建物を作ったのはタベス関係者という事か?」
「あぁ。9割方MK関連の建物という事だろうな。知っての通り、MKの本拠地があるはタベス地方だからな。
マスターハント、つまりマスターを自らの手を使わずに処刑するには調度良い建物の仕組みだしな」
「となると、本物のスティーユがタベスに残されているのも、エムケーが関与している可能性が高いって事か。
・・・もしかしなくても、エムケーにはスティーユを作る技術もあるという事なのか?」
「地場の性質を持つエネジスや周辺に底の見えない谷があれば、本物も作ることは多分可能だろうな。
そして、ここはスティーユの特性だけを利用して作っている物という事だろうな。
違う点としては、マスターハントの関係なのか、出口を最初から作っていないという所か」
「うん。多分、そういう意図で作られた建物なんだろうね。
あと、僕が気になる所では、MKに入ってまだ日が浅いからネルソン君ほど詳しくはないけど
ここにスティーユ風の建物を作って設置しているのは、結構不自然な気がするぜ」
それは、エムケーと無関係のオレでもそう思う。
強引にシフト山という場所に来たせいもあって落ち着いて考える暇がなかったのだが
モンスターが出る割に、思いの外、山道が整備されている点とか、山小屋がスティーユ風になっている点とか
このシフト山には不自然な"作られている"感が多々あるように思う。
だが、まずはこの空間をどうにかして出る事が先だろう。
・・・いや、ソレだけじゃないか。
「うむ・・・エムケーが何を企んでるのかはウチにはわからない事だけど
ウチ達はここから出る事自体が出来ない状況という事だよな。
出口がないなら、叩き斬って作るしかないぞ」
「ジュリ、ソレは流石にちょっと待った方がいい」
「いや、机にあるエネジスがカギだと思うのは ウチだってわかるぞ。
そしてそれが罠かもしれないという事なら、道をウチ達で作るしかないぞ」
「そうじゃなくて、出口を作り出す事に反対してるわけじゃない。
仮に外に出られたとして、ソコは山道の中腹でない可能性もあるという点でな」
「うむ?
それは、外に出ても谷底しかないスティーユと同じ状況になっているという事か?」
「いや、そうじゃない。
このスティーユ風建物がエムケーのモノだとすれば、極端な話、外がエムケー本部とやらに繋がっている可能性が高いって事だ。
エムケーの狙いはマスターをここに残らせて、エムケーに所属していないエリアスター・・・つまり新種を仲間に引き込むのに
そうする方が都合が良いだろうからな」
「む。だが、ここに居残るよりは少しはマシだとは思うぞ」
「裏切り者と関係者が居るから、マシかどうかは半分半分だろうけどな。
それに、ここから出るしかない事は分かってるけど、可能性を考えて行動して欲しいという意味だよ」
「いや、その点は大丈夫だよ、お二人さん!この僕が居る限り悪いようにはしないぜ。
そして、その仮説は正解に近いと思うぜ。
僕達が乗ってきたナビ職は、暴走に見せかけてシフト山に強制移動してるからね。
端からここまで誘い込ませるように準備していたとしても、それは変な事じゃないだろうぜ」
「・・・リクの説は、マスターを別の場所に隔離した状態で、スティーユ風な建物を使い新種とMK関係者を本部に移動させる。という考えか。
このエネジスにそういう移動の性質があればの話だが・・・
いや、そうか。
本来のスティーユは谷底から相当上に建築されている物で
スティーユに移動する時は、谷底からエネジスか何かによって移動していたという説が有力って話を聞いた事があるな。
と、考えると不可能って事も無いな。
・・・あぁ。なるほどな。
そして、今回はヴィルを使って隔離に成功させる可能性が高いから、実行出来たとも言えるか。
俺が裏切る事も想定内でここまで準備していたとなると、ウエブの大会で"ある程度の情報漏れ"があった時点で
MKは俺達全員を引き込むための策を練っていた可能性すらあるな。
ヴェロンも俺もその策に利用されたに過ぎないって事か・・・。
で、これも理解する事を前提に閉じ込めさせて、結局は外に出るしかない結論に至らせる。
・・・まぁ。そんな所か」
ネルソンは独り言のように喋り、勝手に納得しているようだが、オレにはどうも別の何かを隠しているようにも聞こえた。
今更エムケーに筒抜けになっていようが、もうネルソンには関係ないと思うのだが、まだ知られなくない何かがあるのか?
「今後がどんな状況になるとしても、ここに居続ける方が無駄という事なのは間違いないぜ。
だから、ジュリレスターさんの考え方で行くべきなのさ。
あと、ネルソン君は一つ大事な話をしていないように思うけど、僕から言っていいかい?」
「・・・」
ネルソンの沈黙は言いたくないからなのか、言えないだけなのか、そんな微妙な表情にも見えた。
「どうせわかる事だから、君達にも話しておくぜ。
外に出る形になるのは、それは3人だけって事になるだろうぜ」
「む?外に出るには人数制限でもあるのか?」
「半分正解というところですよ。ジュリレスターさん。
ボクが知っているスティーユの性質は、出口から外に出るには一人の犠牲が必要なんですよ。
具体的に言うと、この空間に一人だけ居残る事で他の者が外に出られる仕組みって事だぜ」
「・・・」
ネルソンが隠していた部分はコレなのか?確かに罰が悪そうに下を向いてはいるが。
「じゃあ・・・ヴェロンが残ってくれるか?
MKと縁切りしても良いというなら、それぐらい問題ないよな?」
顔を上げたネルソンが悪魔の笑みを浮かべながら金髪に提案を始める。
いや、この提案の流れは明らかにおかしいのだが、下手に話に突っ込まない方が良いようだな。
「そんな事わけないさ!
でも、強引に出口を作った場合とかでも残る方法が分からないから、今の所どうにも出来ないぜ」
「考えもなしに速答するのが、かえって怪しいものだな。
裏切った俺と、仲間候補であるアイツら二人を外に出す事でMKの任務を全う出来るとも言えるしな」
「ちょ。ちょっと待ってくれ!
ネルソン君はちょっと悪い方に考え過ぎてるぞ」
「・・・あぁ。そうだろうな。
だから、これから俺が出口を開ける方法を試してやる」
「ネルソン。ちょっと待て。
ソレは出口を開ける方法を知っている・・・という事か?」
「出口の開け方なんか知ったことじゃないが、ヴェロンが此処に残る事が俺達にとっては一番最悪のパターンって事だ。
俺達新種を守る為にという前提で自己犠牲になれば、MK本部に移動させられた時でも"同情"しやすくなるだろ?
そこまで計算した上での居残り速答発言って事だ。
あとはな、俺の様な考えのヤツは裏切る事が確定的だ。そして、それが分かっていたからこそナビ職に"乗せられて"シフト山まで来たわけだ。
そう考えると、MKとしては裏切り者の俺が残る形を理想としているはずだ。
いや、逆にそうならないと、俺が足枷となってアンタらも自由に動けなくなる。リクはあまり何かに縛られて動きたくないだろ?」
「いや、だからちょっと待て。
その前に誰が残るとか、出口の開け方とか、そういう大事な話を勝手に進めるなよ!」
また、柄にもなく熱くなっている気がする。
ネルソンなりに考えての決断というのも分かるが、こんな形で仮に助かったとしてもスッキリとしない。
誰かが残らないと出口が開かない仕組みなら尚の事、簡単に決めていい事じゃない。
「うむ。リクの言う通りだぞ。
ウチがスティーユである可能性をきちんと言わなかった事が、この山小屋に避難した原因なんだからな。
それならば、ウチが残る方が筋ってもんだぞ!」
いや、これはちょっとマズいか。ジュリまで絡んで来た。
何とかしないといけないが・・・
「・・・はぁ。
アンタらはこんな状況で、結論も出なさそうな話し合いを望んでるのか?
特にリク。お前にはちょっと失望した」
評価をされていたのは嬉しい事だが、この状況ならまだ失望された方がましだ。
しかし、ネルソンは話し合いはお構いなしとばかりにゆっくりと立ち上がると、エネジスのある机の方に向かっていく。
「おい、何をする気だ」
「リクには分からねぇ事だよ。お前は、本当にわかってねぇ」
オレからは後ろ向きになった状態のまま、ネルソンは机のエネジスを掴んだ。
そのエネジスが少しだけ光ったと思うと、オレ達の方に振り向いた。
「見ろ・・・これが"正解"だ。
アンタらにはこんな所で話をしているほど余裕があるのか?
マスターを救出したいんじゃねぇのか?」
すっかり悪役のような表情をしているネルソンには見えているようで
ソレに気付いたオレらが振り返ると、後ろの壁には今までなかった扉がエネジスの光と同じように輝いて表れていた。
「ネルソン君。そのエネジスを離すんだ!」
「ま〜だ、正義ヒーローごっこかよ?
じゃあ、アンタが最初に外に出てこいつらの盾になって守ってやれよ?
マスターの救出を含めてな」
「ごっこ・・・では断じてないぜ!
だが、マスターに関しては・・・」
「二人とも聞いたか?ヴェロンはこういう奴って事だ。
外に出た瞬間お前らをMKに縛り付ける可能性が高い男だ」
「ネルソン君。いい加減にするんだ!
君の行動は冷静さを失ってるだけの自暴自棄な行動にしか見えないぞ」
「ヴェロンがくだらねぇ正義を謳ってるなら、ソレをリク達に向けてやれよって言ってんだ。
自暴自棄?アンタが俺の何を知ってるんって言うんだ?
それにそんなくだらねぇ話をしている時間がないって、さっきから言ってるだろ」
「くっ・・・なんでそんな早まった真似を」
「ジュリ。オレはあの金髪を信用はしていないが、ジュリの事は信用できる」
「む?」
「先に外で待っていてくれ。ネルソンが強引な手でこうした以上、選択肢はもうない。
万が一金髪が変な行動を取った時は自由に暴れて構わんよ」
「・・・うむ。ウチは、大人しく出来る自信はないぞ」
「あの金髪の正義が嘘じゃない事をほんの少しだけ願うよ」
「いや・・・君も一緒に来るんだ。
僕のマテルがあればネルソン君も救える可能性がある」
「と言って、オレとジュリ二人を先に出させる形に持っていくつもりだろ?
それが一番最悪な形だってネルソンも言ってたハズだがな」
「いや、だけどね」
「あぁ?"だけどね"じゃねぇだろ。
仮に出口の外がMK本部だった時、困るのはこの二人だろ?
本当にアンタがMKの命令で動いてるなら、それでも良いんだろうけどな。それは俺の知った事じゃねぇし」
「ネルソンの言う通りだ。
オレ達新種を守るという言葉が嘘じゃないなら、最初に外に出てもらえないか?
オレとジュリは時間をおいてその後に出る」
「いや、リク。ウチもすぐに出るぞ。
ここが罠だとしても、外に罠があっても、足掻けるのは外に出る方が何倍もマシだぞ」
「・・・いや、考え方はジュリと同じなんだけどさ、オレはもう少しここに残る」
「む?リクはリディを助けたくないのか」
「そうじゃない。ネルソンに話がある」
「そうか。・・・ウチは先に行っているぞ」
「すまんな」
「・・・ぐっ。僕は・・・」
怒りを隠せない表情の金髪は、ジュリに引っ張られる形で出口に向かうと共に外へと消えた。
やや残念そうな顔をしていたジュリが少し気になったが
オレが金髪を信用していないのと同様に、ジュリはネルソンを信用していないって事なんだろうな。
ウエブの大会の件があって良い印象がないだけかもしれないが、オレはジュリほどあのマスターを信用していない。
正確には信じられないという表現になるだろうけどな。
オレにとっては、リディは元の世界に帰る為だけのカギでしかない。
なんにしてもこれで
オレかネルソンのどちらかしか、外に出られない状態に仕上がる事となった。
「ネルソンは知っていたんだろ。エネジスを触るのが正解だって事」
「・・・知らねぇよ。
出て行った二人の方が、今頃罠にかかってるかもしれないんだぜ?」
「それはないな。
そんな回りくどい罠を作らなくても、入ったものを閉じ込めるだけのモノで十分だろ。元ネタのスティーユにしてもそうだ。
それならば、エネジスが罠だと思う方が自然だ。現に出口の扉を開けるきっかけになってるしな。
だが、そのエネジスを壊すなどをしたらネルソンも脱出できるんじゃないのか?」
「俺が聞いたスティーユの話ではそれは不可能だ。あるエネジスがこの建物の空間を作っていると言われている。
そのエネジスがコレって事だろうな。それを壊すっていう事は自分自身を巻き込む可能性が高い」
「空間を作り出して一人だけ居残りさせるって・・・今更だが、ふざけたエネジスだな。
エムケーが絡んでるとはいえ、こういう施設とかをエリア警察とやらは取締りしないのか?」
「あぁ。スティーユ跡地にはエリア警察がいて、それを見張っている事になっている。
つまり、タベスのエリア警察も協力して、スティーユを残しているって事だな」
「ん?
エリア警察はマスターと関わりがある印象があるが、
そのマスターを閉じ込める為に使っているスティーユを、警察で見張って協力しているというのは矛盾を感じるな」
「確かにおかしい関係だな。
つまりは、タベス地方のエリア警察とMKは裏でしっかり繋がっているって事だ。
俺もMKに所属してた時は、警察の特別警備隊という役職だったからな」
「おかしなネジレが起こっている雰囲気があるな・・・」
「もちろんあるな。
リクのマスターが"とあるエリア警察"のバックに支えられているように
ヴィルのバックにも"とあるエリア警察"が絡んでいる。
つまり、MK所属になった時点でバックにいるエリア警察がMKと手を組んだ事になるわけだ」
「どういう事だ?
その言い方だとまるで、エリア警察同士の派閥争い的なモノに、マスターを使ってやっているように聞こえるぞ」
「あぁ。そのままだ。そしてそれはこれから本格化するだろう。
マスターはその争いが起きる前に多くの新種を集めて戦力にしている訳だ。
自分が戦わずに済むようにな」
「・・・おいおい。それじゃ新種同士が争う事になるんじゃ」
「そうだ。その構図から抜け出そうと新種達が集まって作り出されたのがMK本来の姿というわけだ。
ただ、実際はヴィルが居る事に関係なく、MKにもエリア警察は絡んでいるから
新種達は良いように利用されているって事になるんだろうがな」
「ネルソンは新種の争いになるのを知っていて、リディを新しいマスターにしようとしていたのか?」
「そうだ。リクはマスターから何も聞かされていないのか?」
「・・・そういう肝心な話をしないマスターなんだよ」
「それは、相当不安だな。
だが、俺がマスターを変えるにしろ、結局MKから逃れないようだ。
このスティーユが最終地点という事になるわけだ」
「いや。そのエネジスでこの空間を作っているとなれば、方法はまだあるはずだ」
「リクはマテルでこの空間を解除しようと考えているだろうが、それはエネジスの破壊と同じ事だ。
そもそも俺のマテルが破壊系だって事忘れたか?」
「なら、オr」
「心にもねぇ事言うな。お前は別の世界から来たんだろ?
こんなわけの分からない世界で勝手に人生終わってもいいのか?」
「それはネルソンだって同じだ。ジュリもな。
金髪はどうか知らないが、みんなエリアドライバーって奴らに何も聞かされず強引に連れて来られて
混色のエネジスで記憶を封印され、改ざんされて、マスターに付いて行くしかなく、
それでいてエリア警察の都合で戦う運命にあるって事だろ!」
「・・・はは。リクの理屈だとそうなるみたいだな。
俺はマテルの影響なのか、新種のほとんどが言うフェリスを求めないといけない的な記憶がほとんどない。
フェリスが新種のマテルを解放できるエネジスっていうのは、なんとなく理解出来るんだけどな。
もしかしなくても、記憶の一部が破壊されてるのかもしれんな。
だがよ、それは俺が仮に別世界の人間だとしてだ、リクみたいに別世界の記憶を残してるわけじゃないから
知らない方が気は楽とも言えるけどな。
かえって、リクの方が色々分かってるだけに辛いだろ?」
「・・・オレは
オレは、ネルソンのこのやり方を良いとは絶対思わない。
そもそも、ヴィルを倒そうなんて言ってるが、本当はそんな事をしたいとも思ってないだろ?」
「・・・突然なんだ?」
「いや、恨んでいるのは事実だろう。自分の人生を都合良いように動かされたんだからな」
「・・・おい。くだらねぇ話をするなら早く外に出ろ」
「悪いが、オレは言動が適当なマスターを助ける事ぐらいしか出来ないな。
ネルソンの思うような展開にはならない」
「・・・」
「そもそもオレは、あの金髪よりネルソンの方が信用に値すると思ってる。
だからオレは、ネルソン自身を犠牲にして金髪を外に出させる流れにした所で、一つの仮説を思いついていたんだ。
おそらくネルソンは、このスティーユの罠がヴィルの仕業だろうって事を感じてたんだろ?」
「・・・」
「だからこそ、自らスティーユの、いや、ヴィルの罠にかかるマネをした。
多分・・・そうだな、ネルソンが想定したヴィルの罠というのは、オレかジュリを居残りになるようにしていたという所か?
ヴィルにはネルソンが必要で、逆に別のマスターの新種であるオレらをハメることが出来れば戦力を減らすことも出来る。
で、そこらへんの罠の仕組みを逆に利用して、ネルソン自身が残る事でそのヴィルの計画を潰そうとした。
そんな所じゃないか?」
「・・・」
「今更で悪いけど、ネルソンの言う通り、オレはこんな所で一生を終えるつもりはない。
あの時の話は本当だから、オレは元の世界に帰りたい。こんな世界からは早く脱出したい」
「・・・」
「脱出したいけど、今回のネルソンのk」
「もうそこら辺で止めろ。
何回も言うが、くだらねぇ話に時間を割くつもりなんかねぇ」
「くだらなくても別にいい。
オレはこの世界で、理解できる考えを持った人がネルソンだと直感で感じたんだ。
そういう人と別れないといけないという気持ちはくだらない事か?」
「・・・勘弁してくれ。俺はそういう趣味はねぇぞ。
それに、ヴィルはこの手の罠を考える程、頭の回転が良い奴じゃねぇよ。
ま、最初からヴィルとMK幹部が繋がっていて、スティーユを仕組んでおいたという考え方もあるけどな。
あいつだけMKにマスターハントに遭わなかった理由も、それで一応納得できる。
にしても、リクかジュリレスターをここで消すってなら、こんな回りくどい方法は取らねぇだろ。
さっきも言ったが、これはMKが裏切ろうとしている俺を処分できるように仕組んだ罠でしかないな。
ヴィルが俺を必要としてるのは間違いないだろうが、MK幹部の中には俺を良く思ってない奴も居るって事だ。
そこで、俺とヴィルを引き離して、ヴィルが助けられない状況に仕組んだって方がしっくりくる。
MKとしては完全に裏切ったわけでもない新種を公に処分するわけにもいかないだろうからな。
俺がスティーユに閉じ込められたのは事故。そういう事にするつもりなんだろう。
スティーユにたどり着くまえにモンスターに襲われて死んだとしても、それも事故って事に出来るしな」
「・・・コレが仮にネルソンをハメるためのモノだとしても、エネジスを自ら触った行動は不自然過ぎる。
ジュリですらわかる、あからさまな罠なのにな。
まるで、他のモノが触るのを拒否するかのような行動だったように思うな。アレは」
「俺はこう見えても仲間想いなんだぜ?」
「は?」
「いやいや。
リクはヴェロンの事を信用していないようだが、あの男は俺よりは信用に値する男だよ。
って、そうじゃないな。
リクの考えてる説で一つだけ当たっているとすれば、それはヴィルの計画を潰すって点だけだな。
言ったろ?俺はヴィルから逃れないって。それならこの罠にかかる方が楽ってもんだ」
「自ら、死に場所を選んだって言いたいのか。ふざけるなよ!
それに、オレにはあの金髪が信用出来る男には思えない。
結局、ネルソンが犠牲になるだけで、オレとジュリはエムケーの当初の目的通りに本部に連れて行かれるだけって結果になるんじゃないか?」
「はっ。情けねぇ事言うなよ。
まぁ・・・正直言えば、リク達がこの後どうなろうと知った事じゃないが、MKに居る方が人間扱いされるってもんだぜ。
今のマスターに思い入れもないなら、その方がここで生きるには利口って考えもあるな」
「マスターに思い入れなんかないが、そのナビ職には少し借り的なモノがあるからな。
このままエムケーに保護されるって形になるのは、スッキリとはしない点はあるな」
「・・・以前もリクはナビ職絡みの話をしていた気がするが
普通は会話が成立する物じゃないんだけどな。あれは」
「ソレは他のナビ職を見て、オレも不自然に感じてきている点だ。
マスターのナビ職だけが特別という事でもないのか?」
「その話も以前しなかったか?まぁいい。
マスターのナビ職は"とあるエリア警察"の管轄にあるから特別ではあるな。
だが、それでも会話が出来るような物じゃなく、業務命令を淡々と伝えるだけの物だ」
「・・・元の世界の記憶を持ったオレに、会話のできる特殊なナビ職。
不自然なほどにイレギュラーな要素が集まっている印象を受けるな。他人事みたいだが」
「だとすると、リクのマスターも特殊かもしれんな。
エリアドライバーを兼任している点だけでも特殊とは言えるけどな」
ここまで、ほぼ会話が止まることなく話し続けていた。
その時間は、一瞬のようでもあり、半日以上の秒を刻んでいる感覚でもあった。
ここで別れないといけない事が、本当に惜しくて悔しい。
・・・本当にオレにはネルソンを救う事が出来ないのか。
「・・・なぁ。
ヴィルに真相を聞かずに此処で終わっても後悔しないのか?」
「後悔ねぇ?
別に必要もないし、知ったところで負の感情しか生まれないだけだろうしな。
あぁ。アイツに復讐って言った事ならそんなに重要な事じゃねぇよ。
あれは、俺が無理してでも生きる為の動力源みたいな感情にすぎん。
リクが余計な心配する必要はねぇよ」
「・・・心配するなって言うけどな、そんなのは無理だ。
ネルソンが端からこうなるのを分かっていたように動いたってなら、オレには後悔しか残らない」
「はっ。リクは意外と熱い男なんだな。
もっとクールで行かねぇと、この先生きのこれないぜ?
・・・あとよ、時間がねぇって話をしてた事にはもう一つ理由があってな、このエネジスはどうやら俺の少ない潜在マテルを吸っているようだ。
全部吸われるとどうなるかわからんが、良い結果はないだろうな。
そんなのを見たいならまだ会話しても良いぜ。ただ、俺が先に逝ったらリクがここに取り残されるだろうけどな?」
「ネルソンは、ソレで良いのか・・・」
「ダメだとして、リクならどうする気だ?」
「・・・」
そう結局、オレにはネルソンに対して何も出来ない。
分かっている事だが、出来る事をやるしかない。
「分かってるだろ?出来ない事を机上で理想的に優雅に語っても、それはくだらねぇ自己満足なだけだ。
俺には、逃れられない力がかけられてたってだけの話だ。
ただな、リクが言ってた別世界説は結構興味深かったぜ。
事実だとしても、俺には・・・
いや、ほら行けよ」
「・・・次に会う時は、争う事になるんだな」
「ほう?それはMKから逃げ切るって事か?
やれるもんならやってみろよ」
「あぁ・・・オレは、先に行ってるぜ。
・・・またな」
オレはネルソンの方を向かず出口に向かって走り出していた。
この世界に来て初めてとも言える、理解出来る者。
もう会えなくなるとは思いたくない。
次に会う時が敵同士だとしても、ネルソンには生きていて欲しい。
そんな、絶望的な願いでも、オレはソレを信じてみたい。
ふざけた世界のふざけた設定が、オレの気持ちを狂わせていた。
リディはエリアドライバーの任務を全うする事で、オレ達エリアスターを争わせる事に加担している。
仮に、リディがその事実を知らなかったとしても、マスターとしてオレ達を使うだけだろう。
それとも、この事実を隠す為に、知らない振りを演じさせられていたという事か?
エスケで出会ったガンプ。ウエブで出会ったミウ。
その【マテリアル】と呼ばれるエリア警察の一員が、リディをマスターとしてオレ達を利用しているわけだろう。
ほんと、ふざけた話だ。
オレ達エリアスターと呼ばれる別世界の人を、エリア警察の一つの「武器」として争わせる。
別世界のモノだから、何をさせても良いって考えなのだろうな。
おかげで、それまで、ただこの世界を出たい一心だったオレの頭の中に
初めて、この世界で抗ってみたいと思う感情が生まれた。
オレ達はこの世界の"モノ"じゃない。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ヴェロンと共に"外"に出たウチは、そこがシフト山でない事を直ぐに理解する事となったぞ。
殺風景で周りが廃墟だらけであり、予想通りというべきかタベス地方に戻されたって事なんだろう。
あの時ウチは、リクがネルソンと話があると言われて何も言えなかった。
ネルソンが覚悟を持ってスティーユに残ると分かった状態だからこそ
ウチはここでリクを待っているべきなんだろう。
ヴェロンとやらがエムケーの一員としてウチ達を引き込もうとしていても
今のウチならば戦っても負ける事は無い。
驚異的な回復を見せているように見えるが、ヴェロンは相当の手負い状態だからな。
「ジュリレスターさんも僕の事を疑っているのかい?」
「う、うむ。
ウチは難しく考えるのが苦手だから、見える物でしか判断が出来ないが
ヴェロンの行動によってはウチはいくらでも抵抗するぞ」
「そうですか。
僕には信じてもらいたいという事しか言えません。
君達を守りたいだけなんです」
と言うとヴェロンは両手を斜めに上げたりして、妙な格好を決めているみたいだが
それが何の意味があるのかウチには理解出来ないぞ。
影のマテルを使う条件か何かかもしれないから、一応、警戒はしておくぞ。
「ネルソン君の説が正しければ、僕達が外に出た事でMKの関係者がここに来るか待機している可能性が高いです。
でも、ジュリレスターさんは僕以外に攻撃しないで下さい。それはk」
「その約束はできないぞ。ウチはリディを助ける事が最優先。
それに、エムケーはマスターを排除する集まりって事だから、ウチにとっては敵でしかないぞ」
「いや、マスターに関わらない事が一番なんだよ。
それだけで多くの仲間を犠牲にする事になるんだ」
「む。」
「僕は、シャドーヒーローとして、守らないといけない義務がある。
今は理解してもらえないだろうけど、きっといつか分かってもらえると思う」
「うむ。ヴェロンの言う事はさっぱり分からないぞ。
マスターと離れる事がウチ達を守る事になるのか?」
「そう・・・僕達はマスターに付いて行くべきじゃないんだ」
「う〜ん。君のいう事も一理あるねぃ」
全く予期せぬ方向から、ウチ達に向けて声が聞こえた。
廃墟で死角になっていたのか、前方から一人の人物が近づいて居た事を全く予測出来なかったぞ。
「あなたは誰だい?」
どうも、ヴェロンも知らない人物のようだな。
「う〜ん。私も君達の事は知らないんだけど・・・
いや、実は知ってたりするんだけどねー」
な、何なんだろうか。この女。
見た目も異国の服装として見た事がある「キモノ」の様なものを着ているせいもあって、違和感のある雰囲気がする。
ウチよりは短いとはいえ肩辺りまで伸びた黒髪が煩いように動いて見える。
童顔に見えるがウチより年数を重ねている気もしないでもないな。
「え・・・っと、あなたはMK幹部の人ですか?」
「ヒミ子って聞けば分からないかな〜?」
ウチは当然わからないが、ヴェロンの表情はその名前で変化した。
「グルーブさんから名前を聞いた事があるよ。
君、いや、あなたがヒミコさんですか。
初めまして。ヴェロンと言います」
「かしこまらくてもいいよ〜。私、堅苦しいの嫌いだしねぃ。
んで、ヴェロンはその子を本部に連れて行く途中なのかな?」
「・・・まぁ、色々ありまして」
「う〜ん。私に隠し事してもあんまり得な事ないんだけどね〜。中の下って感じだねぃ。
ま、いいか。これからとある場所に移動しないといけないみたいだねぃ」
「移動ですか?本部ではない、と?」
「う〜ん。それはどうかな〜。
そっちの・・・ジュリなんとか・・・
うん。ジュリが良い顔してないっぽいから手短に話すよ」
どこからウチ達の会話を聞いていたんだ。この女。
ヴェロンが名前を知っているという事は、エムケー関係者なのは間違いないみたいだな。
「じゃ〜これから、MKの幹部の手を避ける為にタブに移動するよ〜」
「む?あんたはエムケーの者じゃないのか?」
「そう、MK関係者だねぃ。
でも、そうしないといけない命令って感じなんだよね〜」
「それは、グルーブさんの指示なのかい?」
「う〜ん。それもどうかな〜。
ところでもう一人居るって話だったんだけど、何処に隠してるのかな?」
「いや、まだここに到着していないだけだぞ」
「ふ〜ん。
まるで、どこかのスティーユから飛ばされて来るみたいな言い方だねぇ。
実は知ってるけど」
・・・このヒミコという女は、ウチ達の味方なのか?
エムケーの関係者と言いながらエムケーから逃がすと言ってるようにしか聞こえないな。
「ヒミコさん。グルーブさんは僕達をどうするつもりなんですか?」
「う〜ん。ちょっとそれは私からは言えないな〜。
私は仕事をしているだけだしねぃ」
「ウチ達をタブに移動させる事が仕事なのか?」
「う〜ん。それもちょっと違うんだけどね〜
私はヴェロン達がこの後にどういう目に遭うのかを知ってるけど、それは一つのイベントでしかないんだよね〜」
これは、本当にわけがわからないぞ。
手を出した所でどうにかなる問題でもなさそうだ。
リクならばこの手の心理的な駆け引きも得意なんだろうけど
ウチには、困惑という言葉しか思いつかないぞ。
「じゃ、まずは連れて行ってもらおうか」
聞き覚えのある声がウチ達の後ろから聞こえた。
「・・・リク。申し訳ないが、ウチにはこの状況が理解できないぞ」
「理解出来ていようがいまいが、今は手段を選べる程、オレ達に余裕があるわけじゃない。
それに、ジュリが居るだけでも十分何とかできるさ」
リクの表情がより引き締まって見えた事もあるが
ウチを信用してくれている以上は期待に応えないわけにはいかないぞ。
「うむ。これで全員揃ったぞ。ヒミコ」
「そうみたいだねぃ。
でも、リクだっけ?状況把握はしなくていいのかな〜?」
「ソコに出て居るナビ職の中で聞くさ。
仮にソレが、本部へ行く罠だとしても、何とでもしてやる」
このリクの言葉がハッタリではないとウチにも感じるだけの迫力があった。
明らかにリクは何かが変わっている。
ネルソンに何かされたという事は無いだろうけども、この変化はウチにとっては嫌な方向でなかった。
「リク、何か少し変わったか?」
「・・・変わったつもりはないけどな。
ただ、やれる事はやろうと思っただけだよ」
「ふ〜ん。
目的を持つ事は悪い事じゃないねぃ。中の上って所だね〜。
じゃあ〜とっととナビ職に乗り込もう」
ヒミコが用意したと思われる、乗り物に変化していたナビ職に、ヴェロンは何も言わず最初に乗り込んだ。
リクが周辺を一度確認した後、ウチにも乗り込むように目で合図をしてきた。
ほどなくして、ヒミコとリクも乗り込んでくる。
リクは何時でも抵抗出来る様に構えた様な形で、左側前方にある運転席からみて後方左側に乗っている。
ヴェロンは右側後方、ウチはその間に挟まれる形になった。
「また、MKの罠かもしれないって考えないんだねぃ?」
運転席に座ったヒミコという女がからかうように言うと
ナビ職は、急発進で進み始めた。
「あのヒミコって女の言う通りだぞ。このナビ職に乗って良かったのか?」
ヒミコの方を向いたままのリクにウチは疑問を話しかける。
「隣のヒーローもどきが何も言わない事が、正解だろう。
本当にオレ達の事を守ろうと思っているならな」
何も言わないといえば、確かにヴェロンは、このヒミコという女が来てからほとんど喋っていない気がするぞ。
そして、リクと対照的に周囲を見渡している。
「ヴェロン、この状況は予定通りなのか?」
「・・・僕には、これが現実かどうか理解できないんだ」
「む。それは、どういう意味だ?」
「僕にも分からないよ。分からない」
ヴェロンは一体何を言っているんだ?
「う〜ん。微妙に考えてる人も居そうだけど
私が使ってるナビ職がMKの物だったら、この動きも筒抜けだと思わないかな〜」
「むむ?」
「あぁ。その点はオレも大して気にしていない。
それよりもお前は、エムケー関係とかじゃなくて、エリア警察関係のモノなのか?」
リクも一体何を聞こうとしているんだ?
「ふ〜ん。
私は紛れもなくMK関係者の一人だねぃ。今回の行動は結果的にMKの為になるからなんだよね〜」
「金髪が言う分からないという意味は、オレには分からないが
あの罠から脱出して、ご都合よくエムケーから逃げられるっていうのは
確かに理解出来ないご都合主義な展開だな」
「へ〜ぇ。どの辺が?」
「お前がオレ達を逃がすメリットがないと思うだけだ。
仕事って割り切ってるみたいだが、この行動がバレていないと考える程、単純な組織でもないだろ?」
「ヴェロンも同じことを考えてるのかな?
確かに私自身がこんな派手な行動をすると、私の立場が怪しくなっちゃうねぃ
でも、特に心配はないんだよね〜。私は今もMK本部でしっかりと仕事してるからねぃ」
どうやら、リクはこのヒミコの行動がエムケーに筒抜けになっている点を気にしているようだ。
本当にウチ達を逃がしているとしても、その行動がエムケーに把握されていては意味がないからな。
だが、この発言はどういう事なんだ?
「グルーブさんが、僕達を逃がすように指示しているのかい?」
周りを確認し終わったかのように、正面だけを向くようになったヴェロンがようやく口を開いた。
「きっと、タブに着いたら分かると思うよ〜。
いや、結果は分かってると思うけどねぃ」
ウチには全く理解できないヒミコという女の言葉だが
リクとヴェロンには納得できる一言だったのか、この後しばらくの間、何も喋る事がなかった。
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