20
モンスター


それはオレが目を覚ますほんの前の事だったそうだ。


室内に籠るのは体が鈍るという理由で、ジュリが周辺の様子を見るついでに外に出たらしい。
ソレは本能というべきか、何かを感じていた可能性もあるかもしれない行動だったが
金髪ことヴェロンも共に出て行く形で、万が一に備えたようだ。


オレ達が休息したナビ職による住居は、シフト山の頂上部分にあたり
ほとんど木がなく、少しだけ平野のように広がっている場所に設置されていた。
山というよりは、巨大な丘という表現の方がしっくりくる。
その為、万が一モンスターが森に隠れて現れたとしても、発見自体は容易くなっているはずだった。

現にジュリも金髪もモンスターが居ない事をナビ職の中から確認して、外に出ていった。
だが、二人の誤算はモンスターが「地上にいる」という思い込みだったようだ。


外に出た二人の状況の異変にいち早く気付いたのはネルソンであった。
ナビ職から見える薄土色の平野が"動き"を見せた瞬間、ソレに気付いてない二人にナビ職に戻るよう伝える為に外に出た。

そして、事件は一瞬で同時に起こった。
外に出たネルソンは、何かによってナビ職と別方向に弾き飛ばされたが、ソレに気付いたジュリによって「本物の平野」に墜落する前に救出された。
ほぼ同時に金髪はナビ職の方へ移動し、残されたオレを救出しようとしたようだが
やはり何かに阻まれ、移動と逆方向に弾き飛ばされたようだ。

何かの正体である"平野"はゆっくりと立ち上がると、見た目が軽く3階建ての建物の大きさにまで"成長"し
獲物であるエリアスター3人の方を覗く様に見ていたそうだ。

オレが感じた地震は、ナビ職自体が「本物の平野」に落とされた振動によるものだった。 
ご都合良い様に、建物の向き自体が変わることなく、平野ことモンスターの一部分が起き上った事により
滑り落ちるように本物の平野に無事に着陸していたという事らしい。

モンスターはオレの世界でいう恐竜の様なモノであり、平野だと思っていた薄土色体の一部は保護色的な役割も兼ねていた様だ。
保護色が解け始めると、鱗的な部分が目に見えるようになっていたそうだ。



4つの足は器用なバランスをしており、後足2本でカンガルーのような立ち姿勢を維持していた。
前足2本は後足より細いモノの、4足歩行可能な太さではあり、肉食系の風貌ながら草食系な雰囲気もあるという不思議な体格に見える。

ネルソンの話だと、無機質な建物の中に居る状況ではモンスターに襲われる事は無いという事だった。
つまり、今オレだけが安全圏にいる事になる。
見た所、ジュリとネルソンは無事のようだが、金髪は気を失っているのか全く動かない。
その為、二人は金髪を守る盾になるように移動しはじめていた。

コレが、オレが目が覚ましてナビ職から外を見た時の状況だった。




 「・・・うむ、色々ビックリしているが、リクは無事なのか?」

 「ナビ職の建物は見た目綺麗なままだから大きな怪我はないだろうな。
 間違っても出てくる事は無いと思うが、その為にはこのモンスターを何とかしないといけんな」

 「うむ。明らかにウチ達を狙う様に見ているな」

ジュリは言葉と同時に、護身用に持っていた鉄を槍に造形させた。

 「おい、そんな武器でモンスターとやり合えると思うなよ」

 「うむ。表面は堅い鱗的なモノで覆われているように見える。
 攻めるなら内側か、もしくは鱗がない腹部部分という事になるけど、どちらも厳しい感じがするぞ」

 「・・・モンスターと戦った事あるのか?」

 「うむ。ここまでの大きさは初めてだが、この武器が通用する相手でない事は分かるぞ」

 「あと、特に心配してないようだが、後ろで伸びてる奴はどうする?」

 「うむ。本当に気絶しているなら心配だが、あらかじめ話をしているからな」

 「あぁ?」

 「外に出る前に、ヴェロンとはモンスターに襲われた時の対処を軽く話していてな
 今モンスターがウチ達を襲ってこないのが何よりの結果だ」

 「・・・まさかと思うが、ヴェロンの影のマテルの事か?」

 「うむ。実際こうなっている以上、彼は影を操作する事で対象の動きを止める事も可能らしいな」

二人は後ろで気絶しているはずのヴェロンの方を振り返り見る。
日差しの影響か狙っていた行動なのか、ヴェロンの周辺にはモンスターの影が存在する形になっていた。
その影自体をヴェロンのマテルで押さえつけて本体の動きを止めている。という事のようだ。


 「じゃあ、奴に犠牲になってもらう形で俺らは先に進むか」

 「む。本気で言っているのか?」

 「おいおい。冗談に決まってるだろ」

 「・・・」

 「で、ヴェロンは何時までこの状態を維持できるんだ?」

再びネルソンが後ろに確認をする。

 「あまり、喋ると・・・影のマテルの集中が切れ・・・る。
 長くて・・・あと、ご・・・」

 「五分か。短いn」

やや気を抜いたネルソンは、何故かジュリの打撃を食らって弾き飛ばされる。
起き上がり状況を確認できたネルソンが見たのは、想定外の光景だった。

ジュリレスター、ネルソンと入れ替わるように、今度はヴェロンが立ち上がっていて
モンスターの方へ向かって行っていた。
そのモンスターは"獲物"を片前足で捕獲しているようで、ヴェロンはそれを取り戻そうとしているようだ。


 「くそ、たった5秒かよ。冗談じゃねぇ」

モンスターに背を向けていた為、状況を理解できぬままジュリレスターに助けられたネルソンは
明らかに苛立ちを顔に隠せていなかった。

一方、獲物として捕まったジュリレスターだが
槍を使って足指での締め付けをギリギリで防いでおり、だがしかし、体も抜け出せない状態となっていた。
それでも諦めずにもう一つの槍を造形すると、今後は足裏に突き刺した。

これは地味に効いたようで、イカレたギター音のような叫びが山の中を包む。
モンスターは痛みの元を取り除こうと片足を勢いよく振り続け、ついに拘束を解除してしまう。
ジュリレスターは勢いよく地面に叩きつけられるように飛ばされたが、また造形をする事で武器を先に地面に突き刺した事で
衝撃を和らげた形でモンスターに背を向ける形で着陸する。

モンスターはそれを見てか、間髪入れずにジュリレスターを叩き潰すように反対側の片前足を振り降ろす行動に出る。
それでもジュリレスターは、その行動が想定の内だったかのように、着陸と同時に体を回転させわずかな差でかわしきった。

モンスターは3階建ての大きさではあったが、動き自体はとても機敏であり
ジュリレスターの反射神経が無ければ、今の攻撃も避けられずに叩き潰されていたはずであった。


 「ジュリレスターさん!僕の方に来てください!」

 「む?」

攻撃を避けられるといっても、結局は防戦でしかない為
ヴェロンに言われるように、モンスターの振りおろしを避けつつ近づいて行く。

 「右側にある影を踏んでください!」

ヴェロンが言う様にジュリレスターが向かっている右側の地面に、不自然な楕円形の影が広がっていた。
ジュリレスターがモンスターから脱出する時には、ヴェロンは近くまで来ていたのだが
状況が変わりそうなのを見て、すぐに影を設置すると、ジュリレスターから逃げるようにナビ職の方向へと移動していた。

これは、モンスターの身体能力を考えた時、それぞれ離れて逃げる方が最低限の被害で済むと瞬時に考え
自分の影を作成し、かつ自分がなるべく遠くへ逃げる事で、ジュリレスターをモンスターから逃れさせる事が出来ると言う考えだった。



ヴェロンのマテルは、影を操作するという表現よりは
影を一つだけ作り出して、その影を「自分自身の影」として置き換えるという性質であった。
その影には自分の意識など精神を移動することが出来るのだが、移動すると肉体は抜け殻のような状態になる。
この条件の為、無防備となる本体の肉体は、安全な場所に置かなければ無意味となる。

無意味とは言うが、逆に作り出した影のある場所、つまりは、本来自分が居るべき影の場所へ肉体を移動させる事も可能である。
作り出している影を立体化させる事で、肉体の一部をその影に移動させる事も可能である。
これは、ブロクでリクを捕まえた時の影の状態の事である。

ここで2つの選択をする事が可能で、一つはブログの時同様に、影に肉体を移動させるのではなく、影を肉体側に戻すという行動である。
この副作用として影にとりこんだモノも本体の方へ引きずり込ませる事が可能となっている。
リクが誘拐された行動がこれである。
もう一つは本体を影へ完全に移動させることであり、これはシフト山でのジュリレスターの影から出てきた行動がそれである。

リクの誘拐も、ジュリレスターからの登場も同様だが
特定の対象に触れる事で、自分自身の影を対象の影に混ぜ込む事が出来る為
対象の影に混ざった時に影自体を支配する事が出来れば、動きを規制させるという操作をする事が可能とも言える。
ただ、意図的な日影や日没等で対象の影を消される行為をされると支配が及ばなくなる。
あとは大きさによっても支配出来ない事があり、影によって対象を操作するのが可能とは言い難いマテルである。
しかも、対象から自分自身の影を元に戻すと、再び対象に触れない限り、その対象の影に戻る事も不可能である。

上の方で一時的にモンスターの動きを止めていたのは、当然ヴェロンのマテルという事になるが
影の範囲が広い為に、完全に止める、つまり支配する時間はほとんどなかったという事である。

そして今回、楕円形の影を作ったのも、このヴェロンのマテルの性質を活かしたものである。
影に踏み込んだ物を肉体の一部で取り込んで、ヴェロン本体の方に引きずり込ませる事で
意図的な場所へ移動させる事が可能という事である。

こうして影を踏んだジュリレスターは、立体化した影に吸収されるように消え
ヴェロン本体の元に影と共に瞬時に移動する事に成功する。


 「アンタら、早くナビ職に戻れ!」

既にナビ職の入口に戻っていたネルソンが叫ぶと同時に先に中に入る。
ナビ職の方向には移動していたが、まだ目的地まで数十メートル程離れていたジュリレスターとヴェロンは
ヴェロンだけを残してジュリレスターだけが先にナビ職に戻った。

これは想定以上よりも早く、モンスターがヴェロンの元に到達しようとしていたからで
二人で戻っている途中で、万が一ナビ職の住居にダメージを受ける事になると、最後の砦も失う事になる為、
素早さ的に劣っているヴェロンの肉体がわざと居残って、ジュリレスターが戻れるまでの時間稼ぎをする事を選んだ。
先程の説明通り、ヴェロンが作ることが出来る影は一つだけで、その影は現在ジュリレスターの影にいる。
つまり、残されているヴェロンの肉体は精神の無い抜け殻であり、この状態では行動が一切不可能である。


ジュリレスターがナビ職に到達するのと同時に、モンスターの攻撃がヴェロンの抜け殻に襲い掛かろうとしていた。
喰らうか喰らわないかの僅かの差でヴェロンの肉体が消え去り、ジュリレスターの元へ瞬時に移動した。

間一髪で、二人もナビ職の中に戻ることに成功した。




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モンスターは突如消えたヴェロンを探す様にナビ職の建物周辺を歩き回っているが
それは無機質なナビ職の中に居る限り見つかる事は無い。


 「お前ら、朝っぱらから運動するのが好きみたいだな」

オレは3人を労う様に安心した呆れた声で出迎えた。

 「うむ。少しはしゃぎすぎたようだ」

 「はしゃぐって・・・いや、無茶はするなよ。ジュリ」

 「う、うむ。実際モンスターを見るまではウチでもなんとかなると思ったが、あれは本当に無理だな」

 「僕が居る限りは大丈夫だぜ!
 とは言いたいけど、ジュリレスターさんにはもう少し大人しくして欲しいけどね」

 「う、うむ。申し訳ないぞ」


 「ま、戦力を失わずに戻れただけ、まだマシと思うしかねぇな。
 ここで待機できれば昨日の話通り、モンスターに襲われることはまずない」

 「待機するのは別に良いけどさ、ココがあのモンスターのエサ場だとするなら
 あまり移動しない気もするんだが、どうするつもりだ?」

 「エサ場ではあるが住処ではないはずだからな。そう遅くないうちに休息の為に洞窟に戻るはずだ。
 そして、俺達はここからは麓に下るだけだ。
 このナビ職は動力車としてはつかえないが、スレッジの様な滑らせる形状の乗り物を作り出せばいい」

 「動力源はどうするつもりなんだ?まさか、誰かが後ろから押すなんて原始的な事するのか?」

 「流石にそんな事をするつもりはないな。動力は最初だけで十分だろう。
 最初に爆風か何かでナビ職を動かして滑って行くって感じだな」

 「爆風って、そんなマテルを使えるモノが居たか?」

 「リク。別に俺達はマテルが全く使えないわけじゃないんだ。
 お前も恐らくは幾つか試したことがあるだろ?」

・・・確かに、移動のマテルとかを使って酷い目にあった事があったな。
操作が上手くいかないだけで、確かに全く使えないわけではない。


 「という事でリクが使ってもらって構わんが、一回程度なら俺が調整して使う事が出来るから、ここは任せといてくれ」

 「いや、ネルソン君。こういう分野は僕の仕事だと思うんだぜ?」

 「アンタとジュリレスターは一応戦力だから、無駄なマテルは使わんでくれると助かるんだが。
 まぁ、MK側であるアンタに期待はしてないが」

 「だから、僕は・・・」

 「む。モンスターが諦めたのか、昨日進んできた方向の森に消えて行ったぞ」

 「よし。さっさとナビ職を変化させてここから立ち去るぞ」

ナビ職を変化させる為、一度全員が外に出ると、ネルソンがナビ職を操作して「屋根つきの巨大なソリ」を完成させた。
全員が乗り込んだ後、後方部に乗り込んだネルソンが爆風を起こし、ソリは一気に山道を下って行く。


 「とんでもない爆風だな・・・」

風というよりは、隕石か何かが落ちたような波動の様な衝撃と共に勢いよく下って行く。

モンスターが生息しているもののシフト山は整備された方の登山道であり
道なりに進めば勢いをそれ程殺さずに下る事は可能だと思われた。

ネルソンが起動力部を受け持った関係上、運転席にはオレが座る事となっていたのだが
想定以上のスピードに、早速道から外れそうになっていた。
操作自体は自動車と同じハンドルではあるが、接地部がタイヤではない為コントロールは思いの外難しい事になった。


 「おい、リク!しっかり操作しないと道外れるぞ」

 「わかってる・・・が、コレはちょっと・・・」

 「うむ。ネルソン。前方以外にも困った話がありそうだぞ」

 「なんだ?ジュリレスター」

オレの操作に不安を感じたネルソンが、運転席のある前方に強引に移動しようとしているのが嫌でも分かる
後ろを振り向いていたオレの目にもソレはハッキリと見えた。
つられる様にネルソンも後ろを向いて、ソレを確認する。


 「ネルソン君は運転に集中するんだ!
 ここは僕がなんとかしてみよう」

なんとかって・・・後ろから勢いよくこちらに向かってくるあのモンスター相手に、金髪はどうするつもりなんだ?

このソリは後方の爆風を起こす為に後方だけ壁の無い車となっており
その空間がある為に無機物扱いにならなかったのか
いや、恐らく爆風のせいだと思われるが、森に消えていたはずのモンスターに気付かれてしまう結果になっていた。

いずれにしても、このソリが道から外れてしまえば、密集した木の影響もあり勢いが死んでしまうだろう。
オレに出来る事は、この勢いを殺さないで麓まて下りきる事だ。

オレとネルソンが二人がかりでハンドルを操作し、何とか道を外れずに進んでいる。
ネルソンと座席を交代しようにも、移動する際にハンドルを離した瞬間有らぬ方向に吹き飛びそうになる勢いである事を
ハンドルから感じ取る結果になっていた為、オレが運転席に座ったままで
ネルソンはその後ろからハンドルだけを操作する形になっていた。

ジュリは近づいてきたモンスターの気を逸らす為に、槍を造形して腹部目がけて投げ飛ばしているみたいだが
前足で軽く弾き飛ばされてしまったようだ。
金髪の方は口ではなんとかすると言ってみたものの、何も手を打っていない様に感じる。

そうして数秒もせず、再度振り返った時にはモンスターがナビ職のソリにほぼ追いついていた。


 「右後方に攻撃来るぞ!」

金髪ができる事はモンスターの攻撃を逸らす為の後方状況説明だけである。
かと言われたところで素早く方向を変える事は難しい。

何とかネルソンと強引にハンドル操作する事で一撃目は避けることが出来た。
しかし、彼方此方に操作すると結果滑り降りる勢いを殺すだけだ。

 「次は左から・・・」

そう言いかけて金髪の声が消えた。
何と、金髪はソリ後方から外に飛び出してモンスターの意識を逸らす策に出たようだ。
おそらくソリに戻る為に、飛び出した本体は抜け殻状態のようである。本体はジュリの影に移動しているようだ。
無抵抗な状態で移動する乗り物から下りるわけで、それでも頭を守るように腕で抱え、なるべく怪我を大きくしない格好を取ってはいるようだが
相当な度胸がないと出来ない芸当である。
今までにこういう状況にあった事でもあるかのような判断力だ。自称ヒーローなだけあるという事か。


 「ヴェロン・・・無茶し過ぎだぞ」

ジュリが言う様に、これでモンスターを引き離せなければ、肉体がジュリの元に戻った時には
大怪我をした金髪という結果だけが残る事になりそうだ。

 "肉体が戻った時が怖いけどね・・・モンスターは僕の抜け殻の方に行ったかい?"

 「うむ。動きを止めてヴェロンの肉体の方を見ているようだぞ」

それは数秒ではあるが、モンスターから大きく離れる事には成功した。
見えなくなる所まで下ると、少しの大きな悲鳴と共に金髪がジュリの影に戻って来た。


 「これは・・・ちょっと肩をやってしまったぜ」

ちょっとという表現は決して正しいとは思えない悲鳴だったが
金髪の左肩と腕は全く使い物にならない状態になっているようだ。
モンスターに少し攻撃も受けているようでもある。

 「・・・ジュリレスターさん。この包帯で僕の左肩と腕を固定してくれませんか?」

 「うむ。器用には出来ないと思うから覚悟して欲しいぞ」

 「・・・う、うん」

ジュリがどのように包帯を使ったかわからないが、今日一番の悲鳴がナビ職内に広がった。

して、この包帯だが、エスケでガンプがオレに治療用として使ったモノと同様の物らしい。
包帯自体が治療するわけではないが、怪我を和らげる効果があったはずだ。


モンスターから逃げ切ってから、ナビ職のソリはスピードが落ち始めている事もありようやく安定してきた。
そして運転をネルソンに任せてオレも後方部へ移動した。

 「どうやら今度はマクことが出来たようだな。
 ・・・それにしても結構な無茶というか、飛び降りだったな」

 「はは・・・そうだね。
 僕のマテルが完全なら・・・影の方をモンスターの方へ・・・飛び出させることが出来るんだけどね。
 飛び下りる時に、ジュリレスターさんが離れていかなければきちんと着陸も出来たんだけどね・・・
 便利なようで・・・不便なのさ」

 「あまり喋らない方がよさそうだな。病院で治療してもらう方が良いだろう」


 「・・・リク」

 「なんだジュリ?オレがおかしな事言ったか?」

 「うむ。何と言って良いのか。
 ウチ達の様な新種がまともに治療を受けられる病院っていうのは、実はそうそうないんだ」

 「・・・見た目でエリアスターって判断できるモノなのか?」

 「見た目というか、ウチ達には理解しづらい事だけど、マテルの反応とかを見て判断する事が出来るという話があるぞ」

 「・・・あ、リクに補足しとくが、俺らの様な新種がまともな扱いを受けていると思わない方が良い。
 新種と分かった時点で、優先順位が一気に下がるからな。
 ここら辺じゃ、例の大会があったウエブにある"キャッシュ・ホスピタル"ぐらいがまともに見てくれる所かもな。
 ダイアは相当ふんだくられるが」

忘れているつもりの"設定"ではなかったつもりだが
この世界では外部のオレら、つまりエリアスターこと新種が差別を受けているらしいな。
公共機関とかには、マテル判別装置的なモノでもつけられてるのかもしれんが
マテルが使いこなせなかったり、逆に変わったマテルを使えるらしいという新種の特性が
他の人から見ると異質に映るのだろうか。

オレがこの世界に連れて来られてからこの今まで、リディを除けばほとんどが新種との付き合いが主だったから
それほど違和感を感じることが無かっただけなんだろうな。
ネルソンも金髪も多くは語らないが、新種が集まって出来たとされている「エムケー」でさえ
実際のとこは"要領が良い新種"だけが残っている可能性もあるからな。

こんなわけの分からない世界で一生を終えるオチだけは絶対にお断りだ。
まして今度は恐竜の様なモンスターなるモノまで出てくる始末。
本当にRPGの世界な雰囲気になってきたが、とてもじゃないがオレ一人ではここで生きていける気がしない。

リディはここからの出口を知っていてもおそらく喋らないだろうが
この後対面する事になるだろう、ストーカーマスターのヴィルは何かを話すかもしれない。
リディの助けが必要なのも事実で、ネルソンが言う様にヴィルもなんとかしないといけないのかもしれない。
だが、オレにはそれが二の次になっていた。
この世界を出たい気持ちが今まで以上に膨らんでいるのが、抑えられないほどわかる。

モンスターはジュリ達にも衝撃だったようだが、オレには絶望的な存在だった。
完全に"自分の世界"のモノではない物を感じてしまったからだ。

もちろんマテルやエネジスなどの存在も信じられるモノではない。
それでも逃げ出したくなる程の違和感はなかった。
そこに、モンスターと新種の差別的な扱いという"設定"が加わった。
その事によって、オレが我慢し続けていた何かが崩れて行くのを止めることが出来なくなっていた。

その事が決定的になった状況なのを、外の画面が写しているようだった。
山道以外が樹海な風景のシフト山の中では異様な風景。
随分と乗り物の揺れがおさまっているとは思ったが、思いの外傾斜がゆるくなっていたようで、突如ひらけた、やや広い草原地で完全にナビ職は止まった。



 「・・・ネルソン。ここは麓か?」

 「嫌味な事を言うなよ。恐らく中腹付近だろうな。
 まさかこんな広い平原のような場所があるとはな・・・」

運転席からこちらに移動しようともせず、現実からやや逃れかけている雰囲気に見えた。

 「うむ。頂上の時よりも広い平地の草原だな。
 これでは爆風を起こしても下って行かないだろうな」

 「・・・奥の方に建物が見える。万が一の時にはその建物に避難する事になるな」

 「ここにもモンスターが居る可能性はあるんだろ。今度はただっ広い草原。
 見つかるのも見つけるのも簡単だけど、頂上の時の話のように保護色的にモンスターが待機している可能性もあるよな」

 「あぁ。可能性は0じゃないな」


 「うん。
 君達・・・いずれにしても・・・僕達はここから・・・下るしかないんだよ。
 出会った時は・・・僕を残してバラバラに逃げるのが得策だよ」

 「む。流石に今のヴェロンを残すのは厳しいし難しいな。
 不本意だけど、戦うべきだと思うぞ」

 「俺はどっちにも賛成できないな。再び斜面がある所まではナビ職も使えないし。
 逃げるにしても俺らのマテルでは限界がある。
 出会ったら破壊されるのを覚悟で、ナビ職の住居に逃げ込むしかないだろうな」

 「うむ・・・リクはどう思う?」

オレは何も言えなかった。
というよりも、気持ちがが完全に浮ついていた。
現実と空想がゴチャゴチャになって、自分の足が付いていない状態になっていた。

別に草原に居るからモンスターに出遭うわけでもない。
金髪を残して逃げるのは場合によっては全滅コースだろうし
ジュリが言う戦う選択肢は一番やっちゃダメだと思うし
ネルソンが言うナビ職に籠城は場合によってはナビ職ごとの破壊がある。

勿論ネガティブな部分だけを考えてもしょうがない。
だが、今のオレにはネガティブな事しか頭に残らなかった。
3人のどの案をのんでも生き残れない。
オレにはそういう風にしか思えなかった。



 「・・・いや、すまん。
 リディからレコカの返信がきたようだ」

ポケットに入れていたレコカが一瞬変化したように思い、取り出してみるとリディからのメッセージが届いている表示が出ていた。
カードな為、携帯電話の様な振動機能が付いているわけではないが、レコカの熱変化的なモノで知らせる仕組みになっているようだ。

 「む!リディは大丈夫なのか?」

3人ともオレのレコカを覗く様に見に来る。

 「えっと・・・無駄な文章が多いから掻い摘んで読むと
 
 "モンスターの洞窟という所に閉じ込められているようです。でも、バルサっていうナビ職の中に居るので安心です。
 隊長・・・これはジュリの事だな。ジュリは大丈夫そうらしいけどオレは大丈夫なのか?
 今、病気なので部屋で寝込んでいます。ヴィルは医者探しにどこかに行きました"
 
 という感じだな」

 「送り主は本物みたいだな。バルサって言うのはヴィルのナビ職だしな。
 文体的にも一部暗号ぽい名称があるから、ヴィルが仕組んで送っているような感じでもないし、
 というかこんな文章を送るメリットがアイツにはない。
 逆に言えば、アンタらのマスターはレコカで返信できる余裕があるという事でもあるな。
 じゃあ、この病気っていう部分は仮病か?」

 「あぁ多分な。
 居場所も発信源を追記しているから特定できた。
 そして、モンスターの洞窟に居る以上、確実に"デントグラス"が必要だな。
 ・・・あと、ヴィルが医者を探すと言っているみたいだが、ここら辺で大きい町となると何という所になるんだ?」

 「一番近い所・・・で、【タブ】という町になると思うよ。
 先程の話通り・・・僕の怪我は直ぐに見てもらえそうもない病院しか・・・なさそうだけど」

 「それは、マスターなら問題なく見てもらえるって事か?」

 「うん。・・・そうだね」

 「ヴィルがバルサを離れていると思われる今が、アンタらのマスターを救出するチャンスだが
 リクの言う様にデントグラスが無いと死に行くようなものだ。
 【タブ】にもデントグラスは多分置いてあると思うが、俺達に簡単に売ってくれるかは分からないな」

 「それも新種だからか」

 「だいたいそういう事だ。
 とはいえ、ヴィルに出会う確率も含めて【タブ】に行く事が俺は最優先と考えるな」

 「行先はそれで良いが、この現状をどうするかの結論は出てないだろ」

 「・・・死ぬのを覚悟で洞窟に行く手はないのか?
 ウチはネルソンには悪いけど、ヴィルというマスターはどうでもいいからな」

 「それは賛成できねぇな。死ぬなら一人で勝手にどうぞとしか。
 ジュリレスターはそれで良いかもしれんが、仲間のリクはそう思わないと思うぜ?」

 「いや、リクが反対するのを分かっていての事だぞ。
 ウチは場所が分かっているなら、一刻も早く助けたい気持ちが強くなってるからな」

 「ジュリには悪いけど、それは一番やってはいけない事だと思う。
 居場所を伝えるだけでなく、ヴィルというマスターの状況を返信出来るだけの余裕があるように見える。
 文章内容についても、リディの側にトリノが居るから適当な事を返信させてないだろうし。
 "ナビ職が安心"という言葉を使ってるのは、裏を返せば洞窟内は危険だとも言えるしね」

 「・・・う、うむ」

 「・・・アンタら、随分マスターのナビ職を信用してるな」

 「他のナビ職は知らないが、トリノっていうナビ職には色々助けてもらってる部分もある。
 オレがリディに付いて行ってる理由の半分以上は正直言うとこのナビ職の存在が大きい」

 「む。そうだったのか」

 「・・・信用出来る・・・ナビ職か。
 機械的なナビ職が・・・多いだけに・・・違和感はあるね」


オレは先程と一転して気持ちが落ち着いてしまっていた。
リディが無事である事もそうなのだろうが、バラバラだった意見が一つになりそうな雰囲気になっている事も大きい。
勿論、まったく結論は出ていないのだが。

何より先程まで信用も出来そうになかった金髪や、同じ空気を持ったネルソンとも
自然な形で話に入ることが出来ていると感じたからだ。
オレはオレを認めないと思うが、リディの返信が大きな潤滑油になっている事は否定できないだろう。

何時の間にか、オレの中で何かの拠り所になっているのかも知れなかった。
言葉の通り、トリノの存在が大きいのも事実だが。

急激に気持ちがブレる程、今のオレの精神状態は不安定でもあった。
不思議な話、あの適当加減のリディの返信が逆に心を落ち着かせてくれていた。
これは、自分の中で確実に何かが生まれて、変わっている事を感じ取れた瞬間だったかもしれない。

それぐらい切羽詰った状況にさせられたとも言えるが。


 「先に行くにはネルソンが言う様に、モンスターに出会った時にはナビ職を住居化して逃げるという形で行くしかないだろうな。
 まずはこの草原地帯を抜けることが先決だろう。
 ただ、オレが気にしてるのは山頂にも一応山道があったのに、ここには何故無いのかって事だ」

 「それは俺も若干気になってたが、開けた場所で道を作る必要性がなかったとも言えるか」

 「・・・だといいんだけどな」

 「僕は大丈夫だから外に出よう。
 足手纏いになるなら僕をおいて行くという選択も忘れないようにね」

 「うむ。そうならないように下って行くだけだぞ。
 ウチはそういう展開が一番嫌いだ」

それぞれの考えがあるものの、オレ達は【タブ】という町に向かうため、下る道が出てくるまでは徒歩でシフト山を進む事に決めた。




フラフラしながらも金髪が懐からレコカを取り出すと、マップを映像表示した。

 「少し僕も落ち着いて・・・きたね。
 向こう側に見える建物の方角がタブ・・・そこから東側の方角が【デント】だぜ」

 「ナビ職はネルソンが使うのは良いが、殿がジュリというのはちょっと・・・」

 「リクは、ウチじゃ信用ならないというのか?」

 「あ、いや、すまん。そういう意味じゃなくて」

 「うむ?・・・とりあえず任せて欲しいぞ」

 「僕がこんな状況じゃなければ良かったんだけども、決して無理しない事だよ」

 「・・・確かにウチは周りが見えなくなることがあるが、二人ともちょっと心配し過ぎだぞ」

そう言いつつ、ジュリはお決まりの造形で銀の槍を作り出した。

 「そうだな。俺としては先頭がリクの方が心配だ」

 「・・・おい。3人ともその顔は何だ?」

3人はあからさまに不安な表情を浮かべていた。
それはそうだ。オレが先頭を行くのがリスクが大きい。でも、オレしかいない状況でもある。

逃げ場のナビ職を操作するのは慣れているネルソンが適役だし、先頭に居てはナビ職を変化させる時に万が一という事もある。
試しにオレもナビ職操作をしてみたが、意外とイメージさせるのに戸惑い、瞬時に作り出すことが難しかった。
何回かやって上手くいくようにはなったが、一番重要な砦だけにミスをするわけにはいかない。
金髪はマテルを別に使う事になるので、ナビ職操作に力を無駄に使うのも得策ではない。
よってこれはネルソンが行うのが一番という事になった。

金髪は動くにも一番遅い状態だから、前後どちらにも配置する事は出来ない。
実際は犠牲という事で殿に配置も出来るが、それはジュリが全力で反対した為、配置不可だった。
その為、一番の戦力となるジュリが殿となり後ろからの不意打ちに備える形で
余りのオレが先頭を進むという、オレにとっては最悪な形となった。

先頭と殿の役目はモンスターを見つけたか見つかった際の囮役であり、ネルソンが安全な所にナビ職を変化させるまでの時間稼ぎ役でもある。
金髪はあらかじめオレに触れる事で、影操作で移動出来るよう準備だけはしている。
ナビ職操作が出来ない理由はこの為なのと、大怪我の原因となった、ソリからの抜け殻状態で着陸しなくてはいけなかった事も関係している。
対象に触れてチェックする事で、自分の影を移動させる準備は出来るが、
実際自分の影を移動させて混ざらなければ、ある程度の範囲を離れてしまうと
そのチェックが解除されてしまうという大きな欠点を持っているそうだ。
あの時のソリの下るスピードが時速100キロを超えていたにしても、着陸する前に影を移動させた事からするに
30mも離れてしまうと解除されてしまうという事だろうな。
あと、このマテルは実際チェックされて分かったが、体の違和感が一目瞭然でもあった。

そんなわけで、使い道がありそうで意外となさそうなマテルではあるな。
オレも人の事は言えないが・・・って、もしかしてコレは、意識する事でチェックを"強制解除"できるんじゃないか?
今後の事を考えると、試しておきたくはある。


 「このマテルってもう一度使えるか?」

 「ん?どういう意味だい。影を作るのは今じゃ呼吸をするぐらい動作もない事さ」

 「そうか。じゃちょっと、な」

というわけで解除を試してみると、案の定違和感がなくなる。

 「!・・・
 これは、君のマテルかい?」

 「まだわからない事が多いけどな。そういう事みたいだ」

改めて金髪にマテルをかけ直してもらい、オレの実験は終了した。
ネルソンが興味深く見ていた様だが特にオレらの行為に言う事もなく、オレらは"ゆっくり"タブの方へと進んで行った。


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草原の終わりと入れ替えのように、森と一つの建物が大きく映ってくる。
遠くから小さく見えていたとはいえ、予想よりは大きな建物である。
山小屋にしては少し立派で頑丈なようにも見える。


 「ナビ職の用意をした方が良いぞ。何かが居る」

唐突にジュリが声を出した。
オレには全く感じないが、ジュリならではの勘というのがあるのだろう。

 「野生の勘って所か?ジュリレスター」

 「うむ・・・森の方が少し気になるって感じだぞ」

オレには、風で手前の木が揺れているぐらいな変化しか分からない。
確かに樹海の森という雰囲気のある山だから何かが出てきても変ではないが。
森の中に出来ている下り道と反対方向の山側には、完全に立派な白色の山小屋が見えていた。
場合によっては、こっちに逃げた方が得策かもしれない。

 「む。あの建物は・・・いや、来たぞ!」

ジュリが何か言いかけた所で一気に状況が変わった。
それはオレが見ている森の方からではなく、草原の何も無い所から突如表れたらしい。


 「おい、あの方角ってさっき俺らが歩いてきた場所だろ。
 どうなってやがる」

ネルソンは驚きながらもナビ職の住居を作る場所を即時に探し始めたようだ。
しかし、オレが見ている光景も普通ではない。これは所謂・・・挟み撃ちというヤツではないだろうか。

森の方からも勢いよくモンスターが飛び出して来ていた。

 「おい!こっちからも来てるぞ!」

 「ち、ちょっと待て!もう作っちまったぞ!」


言葉通りネルソンはやや森の方角側にナビ職の住居を作っていた。
作ってからネルソンも森のモンスターに気が付いたらしい。
草原側のモンスターは何故が動きが遅く、それだけに森のモンスターの速さが異様さが際立っている。
とてもじゃないが全員がナビ職の住居に入れる時間もなく、むしろモンスターはナビ職の方へ向かってきている。


 「向こうの建物に逃げるぜ!」

一番白色の山小屋に近かった金髪が状況を判断して移動し始めた。
コレはオレが囮となって森のモンスターの意識をそらせればナビ職の住居でも良かったはず。だが、金髪にはそれが無理と判断したのだろう。

ネルソンはナビ職を戻す為に再び変化させようと手を触れようとしたが、何かに引っ張られる様に無理矢理体を動かされ
ソコには森ではなく、草原のモンスターの長い尻尾が衝突して一瞬にして砕け散った。
オレは森のモンスターの動きを見つつ、最後に居残る形になった。破片の一部がオレの横を軽く横切る。
正直、囮というより案山子状態になっていた。

ネルソンを引っ張ったのは当然ジュリで、尻尾の攻撃を槍で防ごうとしたようだが
瞬時に無理と悟りネルソンが攻撃を食らう前に強引に連れだした形になった。

 「早く来るんだ!!」

金髪がオレを含む3人に呼びかけ、実際二人は山小屋の方へ無我夢中で駆け出した。

 「リク!」

ジュリの声が後ろの方から微かに聞こえるが、動きたくても動けず、森のモンスターがオレの方に向かっているのも目にハッキリと映っていた。
それも、周りの動きがスローモーションに映り、声の方は一切遮断された状態となっていた。
マテルでもなんでもなく、コレが走馬灯がなのだと一瞬で理解してしまった。

モンスターの攻撃が当たるか当たらないかのスロー映像の瞬間、画面が一気に黒くなった。




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 「ク・・・」


オレは、このふざけた世界で一瞬にして命を失った。


その瞬間、何も感じることが無かった。


走馬灯というのは、ただ、最期の瞬間のスローモーションって事なのか。


あぁ・・・あっけない。


生きて何かを達成したいって事も特になかったけど、こんな世界からは出たかった。


こんなオレにも・・・少しは心配してくれるモノは居たと思う。


親とは、しばらく会ってなかったな。


ハナカには・・・こっちで似たような奴に追っかけられた思い出が最後か。

いや、ハナには関係ないネタだな。

ここでの話をしたら、一気に引かれるだろうな。


ありえない。


いや、ほんと、ありえない。


・・・。




・・・で


この思考時間はどういう事だ?


・・・あの世の世界って本当にあるというのか?


いや、目が開いてないだけなのか?


なんだか、リディにこのふざけた世界に連れて来られた時のあの空間。

ソレにそっくりだな。


もしかして、これが元に戻る条件だったのか?


冗談じゃないな。それって・・・




・・・ん?何か非常に痛い。


まさか・・・この一瞬だけ気を失って、今まさにモンスターに・・・




 「大丈夫か?おい!リク!」


また痛い。そして今度はハッキリと聞いた事のある声が響いてくる。

間違っても元の世界ではない事は確かだ。

逆に目を開けたくないな。

元に戻るまでこの暗闇に・・・ってまた痛い・・・い・・・いい加減にしろ!


 「って、さっきから痛いわ!」

少し起き上がろうとしたオレの目に前にジュリの顔面が迫っていた。
ソレを拒否するように両肩を掴まれると、押し返すように地面に肩がついた。


 「き、気がつい・・・ついたんだな。リ、リク」

何でジュリがオレの上にまたがっているのか、そしてなぜ動揺しているのを理解するのには
やや時間がかかった。

なんにせよ、オレは金髪のマテルで助かったらしい。



 「あぁ・・・オレはまだココに居るんだな」

 「此処・・・そう、だな」

仰向けになって先程とは真逆の"白い空"を眺めているオレに、ジュリが何故か悲しげな声で呟くように言葉を返した。
やけに静かだが・・・まさか?


 「間一髪といえ、状況は最悪だ。
 下手な犠牲が出なかっただけ、良かった・・・とも言えねぇな」

ネルソンの声も聞こえる。だが、同じく覇気のない声だ。
ナビ職の件もあるからか。

 「とりあえずそこを除けてくれないか?ジュリ」

 「あ・・・う、うむ。すまない」

マウントの状態に居たジュリがゆっくりと立ち上がり除けると、そっと上を仰いだ。
続くようにゆっくりと立ち上がったオレが見た状況は、至って平和そうに見えた。

金髪は流石に疲れているのか仰向けで大の字になっている。
ネルソンは唯一ある椅子に腰を掛けて何かを考えているようでもある。
ジュリは先程から上を見たままだ。

山小屋にしては確かにおかしな空間だとは思ったが、その違和感に気付くには更に数秒を要した。



 「お前ら・・・ここにどうやって入ったんだ?」

オレの疑問に誰も声を発しない。
・・・というか3人はこの空間が何かを察しているのか?

ここがおかしな空間である事は、見た目で直ぐにわかることだった。

椅子と机が一つ。
明らかにここに人が居た事を示す一つの亡骸。それも風化して相当経っているのか髑髏でしかない。
そして最大の違和感は、窓も入口も一切ない六辺が真っ白な部屋という事だ。
まるでウエブの大会を思い出させる光景である。


 「・・・お前らは、ここの部屋の事を知っているのか?」

 「あぁ。【スティーユ】という監獄だ」

今までにないネルソンの重たい一言が深刻さを物語っていた。

何故こんな山道に、孤立した出口のない監獄があるのか。そして、モンスターは一体どうなっているのか。
わけの分からない状況が重なり、オレは力が抜けるようにソコに座り込むしかなかった。






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