18
マスター


リク達がネルソンに本部へ連行されて、入れ替わるように
タベスの連絡塔に残って居たヴェロンの元に、ある人物が現れていた。


 「ターゲットは無事に本部に行ったの?」

 「帰ってくるなりいきなりそれかい?
 とりあえずお帰り。タッちゃん」

 「い、言い訳じゃないけどね〜、タツキが乗ったナビ職のバスが全然違う方向に進んだのが悪いんだよ」

 「・・・うん。乗り間違えたって事かな?」

 「確かにそうとも言うけどさ〜」

 「ともかく、無事で何よりだよ。
 今回のターゲットはネルソン君が連行しているよ」

 「ネルソンが?嫌な予感がするね」

 「うん。そう思って保険をかけといたよ」

 「へぇ。それも命令の一つなの?」

 「・・・タッちゃんは確か、今回のターゲットの件は妙だと言っていた気がするけど
 マスターを始めから引き離すっていうのは珍しいのかい?」

 「まあね。
 普通はマスターをタベスに連れてきてから引き離すっていうやりかたなんだよね。
 今回の件はネルソンらの"特別警備隊"が絡んでいる一件とはいえ、特例ではあるね」

 「となると、グルーブさんが一枚噛んでるって事かな?」

 「噛んでるって言い方は誤解を生むと思うなぁ。
 確かに今回のターゲットに関しては、マスターと引き離して連行するように指示されてたけど
 ソレはあくまでもMKとしての考えのはずだよ」

 「じゃあ、僕の勘違いだね。
 今回のターゲットに実際会って、ちょっと気になった所もあったからね」

 「・・・それは、ヴェロン君がMKに入るきっかけと関連してるのかな?」

 「おっと・・・タッちゃん。
 僕がここに居る目的はエリアスターを守る事なんだよ。
 MKと言えども、仮にそれを反故にするっていうなら、僕はいつでも敵側に回るよ!」

 「タツキはどっちに転んでもいいけどさ
 ここでの言動は全て本部に筒抜けっていう部分を忘れてる?」

 「それは大丈夫さ!
 僕がMKに加入する時にも全く同じ事言ってるから。
 それでも仲間として迎え入れてくれているMKという組織には感謝しているぜ」

 「ふーん。エリアスターはやっぱり特別って事なのね。
 タツキにとっては恨むべき相手だけど」

 「それは、タッちゃんの故郷を滅ぼしたっていうエリアスターの事かい?」

 「・・・うん。タツキと瓜二つの顔をした女。
 タツキは・・・許さない。絶対!」

 「タッちゃんが一生をかけてでもやらないといけないと感じているなら、僕に止める権利なんかないけど
 でも、タッちゃんがしようとしている復讐的な事は、やっぱり賛成は出来ないよ。
 実際そういう展開になった時には、僕は全力で止めるぜ!」

 「それは、ヴェロン君が瓜二つな女の肩を持つって意味かい?」

 「いや、そうじゃないさ。
 僕はエリアスター同士の戦いは止めたいし、エリアスターも守りたい。
 タッちゃんは知り合いだからこそ、僕はそれを止める立場でありたいって事さ。
 ・・・って、なんか話の内容がずれてきてるね。
 まず今は、ターゲットの行方を監視する方が優先だぜ」

 「・・・その事なんだけどね、グルーブさんからの情報が途切れちゃってるみたいだね。
 ていうか、ターゲットがレコカを捨てたっていうのが正しいのかな?」

 「・・・」

事実、ジュリレスターはリクと合流後にグルーブのレコカを捨てていた。
合流する前にも捨てるチャンスはあったのだが、その時はリクが人質になっている事もあり
下手な行動をすると良くない的な事をトリノに言われていたからでもあった。


ヴェロンとタツキは次の任務が来るまで、タベスの連絡塔で待機する事となる。
だが、その時間はそれほど長くは続かなかった・・・。




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タツキがタベスの連絡塔に戻った頃、とある洞窟でも"一つの動き"があった。

そこは、凶暴なモンスターの巣であり、人がまず近づく事がない危険地帯でもあった。
そんな場所へナビ職の車の1台が入り込むと、奥地まで進んだのち停車をして"落ち着いて"いた。



 『こんな事をしたって、気持ちは変わらないよっ!』

それは、リディとヴィルの奇妙で不気味な共同生活である。
ヴィルが持っている、ナビ職「バルサ」を車に変化させ移動し、洞窟に入ってからは住居に再変化させて
リディとの一方的な共同生活を始めてようとしている。

彼にとってリディは居るだけで良い存在であり、
それが証拠に、両手、両足などをロープのような物で固定した状況で
彼女の意志を全く無視した環境においていた。


 「私は心苦しい事を行いたくない方ですが、リディさんがマスターとしての任務をお忘れであるならば
 力づくでも思い出させるしかないとも考えております」

 『その結果がコレなの?』

 「リディさんが抵抗せず、私の伴侶となるのであればこういう手を使わないのですが
 どうしてかリディさんはマスターとしての自覚が足りないようですので」

 『・・・何言ってるの?君のやってる事は、ただの変態なだけじゃない?』

 「ええ。確かに変態って事になるのでしょうね。
 でも、ですね、マスターというのは本来そういうものなのですよ?」

 『いや・・・絶対違うと思うけど』

 「違いませんよ?
 新たなマスターを残す為にも必要な事じゃないですか」

 『む〜?』


 「・・・話の途中すまないが、リディのナビ職として、一つ言っておく事がある」

二人を遮るように、一つのナビ職がリディが着ていた服の間からくるくる空に浮きながら現れた。

 「んん?妙に意志を持っているナビ職だね?
 名前は何だい?」

 「・・・トリノだ」

 「あ〜。・・・うん。
 全く聞いた事ないね」

 「・・・」

 『リノちゃん・・・無茶は』

 「基本、ナビ職はマスターの意志に従う者だ。無茶のしようがないな」

 「まぁ、自己紹介したいって事だよね?じゃあこちらも。
 この空間の建物化している私のナビ職は【バルサ】。歴史のあるナビ職らしいね〜」

 「・・・ヴィルが操作しているバルサの中に居る以上、リディは外に出る事は不可能だ。
 身動きだけは自由にさせてやってくれ」

 「まぁ〜そういう提案もありだと思うけど、世の中に100%っていうのはないのね。
 それに、私はずっとここに居るわけにはいかないからさ。
 一応、MKとして警備もしないといけないからね。
 でもちゃんと、1日1回は帰って来るから食事の心配とかはしないでね」

 「お前・・・」

 「何だい?ナビ職の分際で私に何かご意見でもあるのかな?」

 「ち・・・」

 「本当に意志がある様な雰囲気だけど、その態度次第じゃ、僕も心を痛める事をしなくちゃいけなくなるんだよ?
 そんなことさせないでくれないか?」

トリノも常軌を逸してるとしか思えないヴィルの言動に、これ以上何も言う事が出来なくなった。

 「大人しく待っているんだよ」

不気味な笑顔を置き土産に、ヴィルはバルサから出て行く。

リディは腕と足の自由が利かないため動けず、逆にトリノは動くことは出来るのだが
束縛しているロープを解くだけの行動を取ることは不可能であった。


状況を整理すると、ヴィルのナビ職であるバルサを2シータースポーツカー風な車に変形させ
リディを乗せて洞窟まで移動を続けていたが、到着する少し前にリディの座席を束縛し動きを止めて、更に目隠しをさせていた。
その為、洞窟に向かっていた事や奥地に滞在している事をリディは分からない状況だった。

そして、洞窟の奥地に着くと、2人とトリノを乗せたままバルサを変形させて一室を作り出し
それまでリディを束縛していた物が腕と足に分かれて上下に移動した事で強引に立ち上がる形となり
腕が左右に広げられて万歳をした格好となり、且、足も対称的に広げられて固定させられた状態になっていた。

それを確認したヴィルは、リディの目隠しを取ると居場所を告げる事もなく、ただ、自分と共にいる事を強要させている現状だった。
流石のリディも、これには嫌悪感を覚えて先程のやり取りとなった次第である。



 『リノちゃん・・・この状況をどうにかする事はできないの?』

 「俺を武器か何かに変化出来た所で、それを扱うリディが動かしようがなければ何の意味も成さないな」

 『この変態ストーカー君は私を一体どうするつもりなんだろうね。
 バンザイした状態で固定させられてるけど、我慢大会でもさせるドSな変態さんかな〜・・・』

 「こんな状況でよくそういう冗談が言えるな」

 『こ、こんな時だから・・・だよ。
 ここが何処かも分からないし、隊長の助けは、ほぼない感じなっちゃったし・・・
 バカみたいな事言って現実を一回離れたくもなるよ』

 「助けが100%来ないとは限らないな」

 『え?どういう意味?』

 「リクはレコカを持って居るだろ?」

 『んん?ちょっとちょっと。ちょっとリノちゃん。
 リッ君だって今どうなっているかわからないのに、どうやってここを見つけることが出来るの?』

 「まず、リクが捕まっている組織はMKの可能性が高い。
 それは、ネルソンが所属している組織をMKだと言っていた事が当然の理由だな。
 しかし、ネルソンが嘘を言っている可能性もある事にはある。
 だが、リクがタベスで捕まって居るという話が出た時点90%は事実だろう。タベスはMKの本部がある地域だからな。

 そして、MKであるなら、リクとジュリレスターは問題なく合流できる。
 MKというのは色んな地方の者がいるが、表向きはエリアスターを守るという考えで出来ている組織だ。
 悪いようにはしないだろう。

 ただ、問題点もいくつかある。
 一つは、ジュリレスターがリクを救出するために暴走する可能性がある。
 ネルソンとかの会話を聞く感じでは因縁の相手も居るようだしな。
 次に、リク達がMKの一員となって身動きが取れなくなる可能性だ。
 これはジュリレスターの存在があるからほぼ無いとは思うが、一応な。
 あと・・・いや、こんな所だ。

 長々と話したが、問題点さえクリア出来れば、レコカで助けに来てもらう事が出来るわけだ」

 『う〜ん。ちょっとリノちゃんの話は長くて難しかったけど
 リッ君が隊長と合流できそうって感じなのはわかったよ。
 じゃあ、その問題点をどうやってクリアするの?』

 「・・・」

 『リノちゃん!んな肝心な時におネムモードに入らないでよ〜』

 「寝てはいない。ただリディの身を心配しただけだ」

 『え?』

 「ヴィルもMKに所属しているのであれば、おそらくリクやジュリレスターの状況も確認出来るだろう。
 その状況を把握出来れば良いって事になるが・・・
 場合によっては、長期戦も覚悟しないといけないという事だ」

 『な、なぁんだ。こんな我慢大会なら、私は大丈夫だよ〜。
 どっちかと言うと私が心配してるのは、リッ君が私を探さないで先に進みそうな気がするって事かな?』

 「いや、それは心配ないだろうな。
 エリアスターにマスターが必要な事も気付いてるし、今更新しいマスターを見つけるメリットもあまりない事も分かってるだろう」

 『ま、そうだといいんだけどね・・・』

 「・・・珍しく後ろ向きな考えをしてるようだな」

 『そう、かな?
 うん。前を向かないとダメだね』

 「・・・いや、無茶はするなよ」

 『いんや。無茶なんでできないよ。
 それよりも、ストーカー君から情報を得るための秘策を教えて下さいな』

 「・・・リディ。今の現状を理解しているのか?」

 『こんな状態じゃ、もうネガティブな事考えてもしょうがないよ〜。
 それにゆっくりしている時間もないんだよね?』

 「それはそれだ。まずはな・・・」


この後トリノは、情報を誘導させるためのポイントをリディに伝授するのだが
それまでの会話で言葉を濁すような言い方を一部でしていたのは、そこにヴィルの事が絡んでいたからである。
その為、誘導ポイント的な話も半分以上は出鱈目の事を言っていた。

トリノはマスターであるヴィルがMKの一員になっていると思っておらず
かと言って、ネルソンが嘘をついているようにも感じなかった。
ネルソン達が訳あってMKに所属しているという点からも、ヴィルはMKの狙いとは別の目的の為に動いている可能性が高いと考えていた。

言葉を濁していたのは、この空間がヴィルによって作られたナビ職バルサである事と、
リディへの執着からするに言動を記録している事は容易に想像出来たからだ。
しかし、リディにはその事をワザと触れずに、ある意味で自然体で居て貰う方が良いと判断していた。

いずれにせよ、リディの自由が利かないこの現状を何とかしなければいけなかった。




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それから時は進み、日はすっかり落ちて行く一方である。
ヴィルはブロクのエリア警察駐屯地に一度戻っていたが、ネルソンが戻って来ていない事を知ると
タベスの連絡塔へと向かっていた。

ただ、ヴィルはマスターという立場上、単独でMK関連の施設に行くのは危険ではある。
しかも、専属のナビ職であるバルサも、リディを監禁するために使用している為に今は居ない。
その理由から、長居する事も出来ないが、それでもヴィルには確かめておきたい事もあった。

ヴィルのストーキング能力に適した得意マテルはリディに対して発動している為
直接ネルソンの居場所に移動する事は出来なかったが、それとは別に【マスターとしての移動マテル能力】は使える為
駐屯地に移動するのも、そして連絡塔に移動するのも、さほど時間はかからなかった。

マスターには方角と場所が分かっていれば瞬間で移動できるマテルがあり、これはリディも使用できる物である。
ヴィルにはそれと別のストーキング用の移動マテルがあり、これは場所ではなく人物に対して使用するものであり、得意マテルでもある。
このマテルをヴィルは【マーキング】と呼んでおり、対象の人物に触れる事で発動が可能であった。
マーキングの場合は方角を知る事は不要であり、これは対象の人物がいる場所に自動で運んでくれる性質の為であった。

ウエブの大会で、リディを守るという名目で追いかける為に使ったマテルもこれである。 



 「ネルソン君はまだここに居るのかい〜?」

塔に着いたヴィルが最初に声をかけたのはタツキであった。

 「なんだ。変態マスターですか。
 相棒の"新種"なら連行してきた新人の二人を本部に連れて行ったらしいよ」

 「変態とは失礼な人だね〜。
 でも、私の数少ない信用できる子だから、そこは許してあげるよ」

その返答には、タツキは嫌な顔で応じたが、ヴィルがタツキに話しかけた事には理由がある。
MKの中でもエリアスターをあまり信用していない人物の一人であり、しかもマスター狩り自体にはあまり積極的ではない。
それは、タツキは瓜二つの顔をしたエリアスターを見つける為だけにMKに居るからである。

ヴィルやネルソンも同様に別の理由があり、ヴェロンもMKの本来の目的とは違う理由で所属しており
MKは大きな組織にありがちな一枚岩になっていないのが現状であった。

上記の理由からヴィルはタツキの事も気にかけており、尚且つ話が出来る少ないMKでもあった。


 「本部に行ったのならしょうがないね。私は行きたくても行けないし〜」

 「確かに、本部にはマスターを本気で恨んでいる人も多く居るからね。
 マスター狩り側に居る方が長生きするってものだろうね」

 「あはは・・・それも一つの考え方だよね〜。
 じゃあ〜帰ってくるまで警備隊としての任務を全うしてくるよ。
 あれ?ところで、相棒の新人君は一緒じゃないのかい?」

 「・・・仕事に行ったよ」

 「へぇ〜。
 んま、無茶な事はしないものだよ。新人君にもよく言っておきなよ」

意味がありそうな笑顔の無い笑みを浮かべると、ヴィルはその場を後にする。
それは、同時に一つのレコカを確認したヴィルがネルソンの居場所を確認した事も意味していた。



ヴィルは移動のマテルで瞬時にブロクのエリア警察駐屯地へ再び戻ると
業務連絡を終え、リディが居る洞窟の方へと移動を始めていた。

洞窟前に瞬時に移動すると、ヴィルは銀色に密封された掌にほぼ収まる一つの袋を取り出す。
その封を開けると、中には黒色のサングラスが入っており、それをかける事で再び移動を始めた。
今度は洞窟内に移動し、ナビ職のバルサの目の前まで瞬間移動をした。
バルサに入る前に再びサングラスを銀袋に収納すると同時に室内へと入った。

なお、瞬時に移動が出来るマスターの移動マテルだが、外から室内に瞬間移動はできないという制約はあるらしい。
ウエブの大会でリディが移動のマテルを繰り返し使っていたが、それは同じフロア、つまり同じ室内でしか使えなかった為である。



 「大人しくしていたか〜い?」

帰って来た第一声はこれである。

 『・・・』

 「んん?ちょっと顔色が優れないみたいですが、リディさん大丈夫ですか?」

 『大・・・丈夫なわけないじゃない。本気でこの拘束解いてくれないと、私・・・』

 「・・・あ、あぁ。そうですよね。これはこれは失礼を。
 でも、私としては"そこ"でも別に」

この返答には流石のリディも鬼のような形相に見えるほどの苛立ちを見せた。

 「冗談ですって。今から足とかの拘束を解きますけど
 腕に腕輪で拘束してありますから逃げようなんて考えない事ですね〜」

ヴィルの言葉通りリディの動きを縛り付けていた拘束は一時的に解除され
同時にリディは出口と別の部屋に移動した。

なお、腕輪は、リクとジュリレスターがネルソンに付けられた【腕輪の錠】と同じ物である。



 「おかえり〜」

 『・・・本当に変態だよね。君は』

部屋から出てきたリディを、異様な目付きでヴィルは見つめている。
一方でリディは、拘束されていた時の表情とほとんど変わっていない。

 「変態というのは褒め言葉って事にしておくよ〜
 んで、腕輪が付いている事でも分かっているだろうけど、マテルを使うことは不可能だよ。
 そして、もう一つ。
 今、拘束は解けているから外に出ようとも考えちゃいそうだけど
 はっきり言って無理だよ。
 ここは、モンスターの巣の中。バルサの外には私達では手に負えないモンスターが居るからね〜」

 『・・・じゃ、拘束だけは解いておいてくれない?色々不便だし』

 「もちろん。寝る時は解いてあげるよ。
 だけどね、私は気が長い方じゃないんだよ。
 いい加減私の伴侶になる事を認めてくれませんかね?マスターの義務として」

 『・・・お断りします。と言ったら?』

 「同じマスターとして、選択肢は一つしか無いですよ?
 その答えが出るまで、私は不本意だけど、リディさんを拘束し続けるだろうね」

 『じゃ、お受けしたら、拘束を解いて自由にしてくれるの?』

 「何を言っているんです?それは当然じゃないですか。
 一緒に居るわけですから。365日24時間1秒1刹那の瞬間全てで」

 『それこそ何言ってるのですよ!そんなこと無理に決まってるじゃない!』

 「決まってるのは、リディさんと私がこうして出会って一緒になるって事ですよ〜」

あのリディでさえ、ヴィルの妄想言動が度を越えている事を理解していた。
リディの意志を完全に無視したヴィルの世界のみの虚実。
この状況から、本来の目的であったリク達の居場所を聞く手順は完全に頭から消え去っていた。


 『私はマスターとしてやる事があるよ。
 それが終わるまでは、例えそれが運命で決められたとしていても、君の要求にこたえる事はできないよ』

 「運命なんて安っぽい言葉で片付けないでほしいよ。
 必然ですし、それがマスターとして生まれてきた私達の義務だよ」

 『君とは・・・話が噛み合わないね』

 「いえいえ。初日だからきっと疲れてるんですよ。
 右の部屋にリディさんの寝室を用意してありますから、今日の所は休んでください。
 念の為ですが、外への出口は封印させてもらいますので、外には出られませんよ〜」

 『・・・それじゃ、お言葉に甘えます』

 「いえいえ。何時でも私に甘えていいんですよ。それではお休みなさい」

リディは最後まで顔色を変える事なく、自分の部屋扱いとなっている場所へ恐々と移動した。



その部屋はヴィルの妄想な物が全開となっていて
決して安眠が出来る場所とは言い難い作りになっていた。

常にヴィルに見られている部屋という言い方が適していると思われ
入ってすぐに灯りをつけたが、その異様な内装に気分を害し、すぐ灯りを消して布団に入り込んだ。

 『リノちゃん・・・。流石の私でも、頭がおかしくなっちゃうよ・・・』

そのトリノはリディに付いて来てはいたが、睡眠モードなのか特にコメントを返す事は無かった。

 『・・・』


何かに見られている気がして、リディはほとんど寝る事は出来なかったようだ。
トリノが予想していたように、バルサの室内はヴィルによって監視されている為
ヴィルの顔写真で溢れている5面の内装でなくとも、実際に見られている状態であった。




いつ陽が昇ったのか分からなく、夢なのか現実なのか分からない状態のリディは、ぼやけたまま布団の中で目を開けた。
そして、布団を被ったままナビ職と会話を始める。


 『リノちゃん・・・起きてる?』

 「・・・ああ」

 『いつもより小声だね。・・・でも良かった。
 今って何時ぐらいなの?』

 「俺の体内時間的には6時ぐらい・・・だな。今の状態では知っても意味がないと思うが」

 『う、うん。とりあえず話が出来ただけでも良かったよ』

 「・・・」

 『昨日はちょっとパニクったけど、今日は大丈夫。この機会を無駄にはしないよ』

 「・・・無茶はしないようにな」

 『リノちゃん昨日からそればっかりだね』

 「・・・あぁ。そうか?
 今回はそれだけ心配という事だな」

 『えへへ。今日のリノちゃんはなんか優しいね』

 「マスターがあってのナビ職だからな。今までも同じだったはずだ」

 『へぇ〜。ふぅ〜ん。ま〜いいや。そ〜ゆ〜事にしときますよ。
 ストーカー君も、もう起きる頃かな?』

 「ここで話をしていれば向こうから勝手に来るだろうな」

 『ん?どういう意味?』

 「それ位は自分で考えろ」

 『む〜。アメだったりムチだったり、リノちゃんは情緒不安定さんですね』

トリノが使い方を間違っているとツッコミを入れようとした瞬間
目覚ましの様なドアのノック音が響く。


 「リディさ〜ん。お目覚めですか〜?」

 『・・・』

 「布団の中でも声は聞こえてるんですよ〜」

 『(ストーカ君は地獄耳ですか・・・)』

リディはボソッとした声で、突っ込みのように言葉を発する。

 「まぁ〜いいです。起きてるなら部屋から出てきて下さいね〜。
 その部屋の居心地が良いからと言って引き籠りは体に良くないですよ〜」

 『(良くはないけどね〜)』

 「何か言いましたか?これ以上返事がないなら、不本意ですけどお部屋に入りますよ〜」

 『起きてるけど、今は布団から出たくないよ』

 「いいえ、ダメですよ。ちゃんと朝ご飯を食べないと〜」

 『ご飯食べる元気もないから・・・いらないよ』

 「それは大変です。私はお医者さんじゃないから、診察ゴッコぐらいしか出来ないからね」

 『だから、私は今日はこの部屋で一日寝てます。
 枕が変わると眠れなくなるタイプだからなんですよ』

 「な〜んか変なお言葉ですが、私の看病も必要ですね。
 やっぱり入りますよ」

 『・・・待って。そう、アレですよ。私って、ほら・・・ウエブでのお宝探し・・・棄権したじゃない?
 それって実は・・・なんかの病気の可能性があるからなんですよ。
 それが発病したかもしれないので、君に感染するかもしれないし・・・
 今は大人しく寝てる方が一番です』

ヴィルが部屋に入るのを阻止するため、リディは滅茶苦茶な言い訳をしはじめた。
体調が悪いネタはトリノとの「誘導ポイント的な話」でも出てきた事なので
自由に動ける今なら使えるとリディは判断していた。

しかし、出てきた言葉は片言で怪しい事この上ない。
トリノも諦めたように触覚の部分を垂れ下げてしまっている。


 「それなら本当に大変だ!感染症の疑いがあるなら尚更だよ。
 そういうマテルを持つ参加者も居た可能性も捨てきれないしね。
 よし、分かったよ!少し遠出をしてお医者さんを連れてくるね」

 『ちょ・・・ちょっと待って。
 私の仲間の隊t・・・じゃなかった、ジュリさんが処方できるマテルを持っている可能性があるんだよ。
 連れてきてくれる方が手っ取り早いよ』

 「う〜ん。それは残念だけど出来ない相談だね。
 ジュリさん?でしたっけ。
 リディさんの元お仲間さんの人達はMK本部に連行されてますから」

 『・・・そ、そうなんだ・・・』

 「とにかく早くお医者さんを連れてきますので、今は大人しくここに居て下さいね。
 絶対安静ですよ。いいですね!」

ヴィルがそう言うと大騒ぎをしている物音が数分響き、
最後におそらく外のドアが開いて閉まった音が室内全体の揺れとなって響いた。


 『あ、あんな言葉で信用してくれたのかな?』

 「・・・病人は黙って寝ていろ」

 『む〜。何かリノちゃん急に冷たくなった〜』

 「俺の事はどうでもいいから、リディがすべき事をやれ」

 『隊長の行方は分かったけど、リッ君は・・・』

 「医者が来て病気が治ったら、また拘束状態に戻るだけだ。
 お前はジュリレスターだけに状況を伝える気か?」

 『でも、状況が・・・』

 「ヴィルは仲間の人達って言ったのを聞き逃したのか?」

 『し・・・知ってるよ。
 リノちゃんがあまりにも冷たいから、ちょっとからかったんだよ〜』

トリノは返答する事無くそのままリディの手の中に納まった。
布団の中でリディはトリノを変形させ、リク達に状況を伝えることに専念した。
トリノは通信屋の機器へと変形しており、リディはリクの複製のレコカを使ってリクに情報を送る事にした。

このやり取りを含めた情報は、ヴィルにも当然漏れているだろうとトリノは思っていたが
今は医者探しに専念しているだろうとも考えていた。
ストーカー気質で異常とも言えるリディへの愛情は本物だろうと、先程の会話で感じ取っていたからである。

普通の人なら絶対騙される事のないリディの言い訳を素直に親身に聞いていたヴィルは
リディの言う事なら自分の都合の悪い状況でない限り絶対なのだろう。

ただ、リディが心配しているように問題点が完全に解消されている状況ではない。
ヴィルのいう事が本当であれば、ジュリレスターが反抗せずにMK本部に連れられている事になる。
それはリクの状況が良くない事を意味しているのか、それともリディが人質扱いにされているという事なのか。

いずれにしろ、すぐに助けに来る可能性はないに等しいと、トリノは感じ取っていた。
それでもリディの状況を伝える事に意味があるとは思っていた。

なお、通信屋の機器は文章を作成するためと情報を送る準備をするための物なので
この場合、実際情報を流す元になるのは複製のレコカ自体という事になる。
なので、リクのタイプは違うが、レコカだけで情報を更新しそのまま複製を持っている人に送る事が可能な
ネルソンやグルーブが持っていたレコカが存在している訳である。

通信方法としては所謂電波的な物ではなく、マテルが関与している物である。
この世界独自の技術と言えよう。




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再びブロクのエリア警察駐屯地へ瞬時に着いたヴィルは、
医者を探す為に上司に休暇申請をする手続きを行っていた。 

 「ネルソン君が帰ってくるまで、私一人では力不足です。
 それと、エリアドライバーと協力する事で、少しでも多くのエリアスターをMKに加える役割もしないといけません」

と、上司にそれとなりの言い訳をして、数日の休暇を貰う事が出来た。

この時点でMKがヴィルを自由に動かさせているのには、実は別の理由があり
ブロクのエリア警察の上司にはその理由は伝わっていなかったのだが、結果的に上司もヴィルを自由にさせる事になった。
エリア警察としてはマスターを守るべき側であったので、ヴィルがMKの活動に関わるよりは離れて行動してもらう方が都合が良かったのである。

そういうわけで、ヴィルは「特別警備隊」としての任務が一時的に解除された状態となった。


 「ところで、【デント地方】に有名な名医が居ると聞いているんですが、居場所とか詳しい人いますかね?」

このヴィルの質問に対して上司は、"それならばデントに行って聞け"と返した。
それに対し、ヴィルが自分のナビ職が都合によって使えない事を言うと
エリア警察のナビ職を1つ貸し出す事にした。

この貸し出しもヴィルがマスターである為の特別待遇である。

ナビ職を借りた理由というのは、【デント地方】にあるマテル規制のせいで移動のマテルを使うことが出来なかった為である。
マスターのナビ職も同様のマテル規制の対象であるが、【エリア警察のナビ職】での移動であれば問題がなかった為
ヴィルは仮にバルサが使えた状態でも上司からナビ職を借りるつもりでいた。
ナビ職にもエリア警察とマスターのでは微妙に役割が異なっているのである。


ちなみにヴィルは、デント地方に居る名医の存在を"当然に"知っていたのである。
だが、デント地方のどこの町に居るかまでは知らなかった。
仮に上司が居場所を話してくれていたら、マテル規制を無視してナビ職を借りずに移動していたかもしれないが
居場所を知る為に時間はかかる形だが、一度デントの町に行って名医の情報を得ることにした。

ヴィルがただの医者でなく名医を探す発想になったのは、確実にリディを助けたい歪な愛があったからこそである。


そういう展開のおかげで、リディは少しの間だけヴィルの恐怖から逃れれる事となった。





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