17
タベス


時は半日程遡る。


ここは歴史のある石作りの古塔というべきなのか
貧相な町のそれなりの宿から、突如として暗闇が襲い掛かり
殺風景な景色しか見えない円柱の塔に瞬間的に移動しているようだ。

出口は一つしかないが窓は四方についており
しかし、ソレは片腕が出せれば十分な大きさでしかなかった。

この空間には
今まで当然に出会った事もない、金髪の体格良い若者が出口側の椅子に座り
ずっとオレに睨みを利かせている。

色々思う事はあるが、確認しておく事は多くはない。
まずはココはどこで、あの金髪は何者なのかという事だ。


 「オレを誘拐したのはお前だな?」

 「失礼だな!せめて誘導と言って欲しいね」

・・・直感だが、また変な人物に絡まれた予感がする。
そもそもこんな世界に連れて来られてる時点で運がないというべきなのかもしれないが
オレにはどうやら、変なキャラクターを呼び寄せる設定がつけられているようだ。

 「あぁ。
 で、オレをここに"誘導して下さった"ようだけど
 ここは何処で、あのタツキという女とはどういう関係だ?」

複数の質問を一度にするようになってしまったオレは、いよいよ終わっているが
どうやらそんな事を気にせずに金髪は答える気満々のように見える。

 「ここはタベス。正式には【タベスの連絡塔】というブロクとタベスの境にある古塔だぜ。
 そういや、君はタッちゃんとは顔見知りらしいね。
 実は、僕はタッちゃんとはそれ程付き合いがないんだ。でも、大事なパートナーって所だぜ!」

想像以上にノリノリで回答する金髪だな。
これは思いの他、色々な情報を聞き出せる気がする。

 「おっと。何か言いたそうな顔をしてるがチョット待ってくれ。
 ここには映像カメラと音声記録機が搭載されてるんだぜ?」

・・・コレはご親切にどうも。
ようは、監視カメラと盗聴器が付けられてるって事だな。
オレが下手な事を喋ると、誘導から誘拐に変わるって事もあるとかか?

にしても、こちらが聞いてもいない事を喋る点からも、誘導尋問役向きでない事は確かだな。
オレをここから出させない為だけの監視役って所か。
体格はそれなりにガッシリしているし、オレの体力やマテル程度では出られそうにもないだろう。


 「お前は何者で、オレをどうするつもりなんだ?」

 「さっきも言ったけど、僕は君をここに誘導しただけだぜ。
 僕の名前はヴェロン。人は僕の事を"シャドーヒーロー"と呼ぶぜ!
 つまり、正義の味方さっ!」

・・・。

そ、想像していたよりも相当に面倒な人物のようだ。
誘拐もどきな事をする正義のヒーローなんて、聞いた事が無い。

深く考える事ではないが、シャドーって言う名称は、この金髪のマテルに関係してそうだな。
オレがココに"誘導"される時に感じた暗闇。
影で移動出来るっていうのも可笑しな話だが、マテルのある世界だから深く考えてはいけないんだろう。

誘導とは言うが、確かタベスと言えば「エムケー」の組織がある町と聞いている。
マスターにとってはあまり条件の良くない町。
この流れは、オレをダシにして、リディに何か仕掛けようとしてるんだろうか。

無理とはわかっているが、早くこの部屋から脱出しないと、また面倒な事になりそうだ。


 「この塔がある場所はタベスという事は、お前もエムケーの関係者って事で間違いないな?」

 「ご期待通りに、その通りだ。
 君も大方、仲間を見つける為に、わざわざタベスの方角へ進んできたんだろ?
 僕達が君達を保護するって事も計算の内でさ」

仲間を見つける?君達?

金髪が何かを回答するのは当然だと思っていたが、盗聴しているとは思えない程、未知な情報を喋っている気がする。
逆に盗聴される側であるオレの方は、ほとんど情報が無いというのに。


 「仲間を見つけるっていうのはいまいちピンとこないが、
 つまりは、オレ以外にも保護する対象が居るって事なのか?」

 「当然だよ。僕達エリアスターをマスターの手から守るのは当たり前の事さ」

金髪の言い方だと、ジュリもこの塔に"誘拐"しようとしているって事だな。

 「マスターの手から守る?」

 「あぁ。君は何も分かってないんだね。
 ここに仲間を探しに来てるんだから当然の事だろうけども、
 言うなれば、マスターっていうのは、僕達エリアスターを亡き者にする暗殺者みたいなものさ。
 だけど君は、フェリスを見つける為にそんなマスターとこのまま一緒に行くつもりでいるんだろ?
 それは、大きな罠なのさ!」

 「罠?」

 「あぁ。
 僕達エリアスターにとっては、マスターはフェリスを見つけるための鍵って言われてるけども
 実の所はフェリスの力を使ってエリアスターを暗殺しようとしているだけなのさ。
 MKに居る多くの者はその事実に気付いた事で、同じエリアスターの犠牲を増やさないために
 逆にマスター狩り(ハント)をしているってわけさ!」

 「それが事実だとすると、マスターにただ付いて行くのは、確かに危険だな」

言葉では同調しているが、オレはほとんど信用していなかった。
"事実"を知っているオレからすると、態々この世界に連れてきて順応させた後で、
マスターによって暗殺っていうのは面倒な事この上ないからな。
どちらかというと、エリアスター同士で戦わせるためにマスターが動いていると考えた方が自然だ。


 「そうなのさ。分かってもらえてうれしいよ。
 僕もMKとしてマスターの魔の手から守る為にいるんだぜ!」

クドく繰り返されてるから今更確認するまでもないが、この金髪もエリアスターって事だな。
そして、エムケーというのは、マスターと戦うためのエリアスターの集団って事か?

ウエブの大会で会ったエムケーの一人は
巨躯な男・・・確かギンエイと言っただろうか。そのギンエイの仲間の一人が重傷になっているのを見て、病院を紹介していた気がする。
そして、ジュリの因縁の相手でもあるようだ。
そういえばオレにも、気絶していたリディの関係で同じ病院を勧めていたな。当然、ジュリは反対していたが。

あの時
万が一、あの男にリディを任せていたら、エムケーによって【マスター狩り(ハント)】されていたって事か?


 「ところで、エムケーという組織はエリアスターで構成されているのか?」

 「ある程度は居るだろうけど、僕はMKに来てまだ日が浅いから詳しくは知らないのさ」

良く話しをするかと思えば、肝心な所に話に持っていこうとすると、知らない振りをしたり
エムケーに入って日が浅いという割には、詳しく知っている部分も妙に多いし、何とも胡散臭い金髪だ。

ジュリの因縁ぽいエムケーの男は、おそらくエリアスターではないだろうけど、
エリアスターの居場所が提供されている組織となっているのが、エムケーという事か。
それとも、エリアスターがただ利用されているだけ・・・なのか?


仮にだが、この金髪がエムケーに入って日が浅いというのが本当であれば、
オレを誘拐した後も、一人で部屋の見張りもしている所からも、捕獲能力に長けているという事なんだろうな。
影のマテルがそうなのか、ソレ以外の何かを持っているのか・・・。
ソレに対して、まだマテルを使いこなせていないオレが強引に行くのは無理があるな。

そもそも使いこなせたとしても、オレの得意マテルである「解除」は、モノに"マイナス"の力を加えるようなモノだしな。
未知の相手に対抗するには相性が良いとは言えないだろう。
即時に相手の未知なマテルを解除出来るようになれば変わってくるだろうが、今の所はソコまで出来る気がしない。
ジュリのマテルとは違い、オレのは強化する方法というのが見当つかない事が原因だろうな。
解除のマテルを使い続けるだけで、マテル能力がレベルアップするなら話は変わってくるだろうけども。
何にしても時間が全然足りない。



 「そんなわけで、君の仲間であるジュリレスターさんもこちらに誘導したい」

 「・・・そういえば、ジュリの名前やオレの居場所などはどうやって調べたんだ?」

 「君の居場所はジュリレスターさんのレコカだよ。
 僕の上司がジュリレスターさんと知り合いで、この複製のレコカをプレゼントしてたんだよ。
 名前が分かってるのも、その流れだね」

そう言って、金髪が一つのレコカをオレに見せる。
・・・となると
エムケーとしては、本来はジュリを仲間に引き込もうとしていたという事になるのか。

ジュリにとっての因縁のエムケーの男は、現在の状況もある程度把握できているだろうから
マスターのリディと共に行動し始めている状況で、引き離すのは容易じゃないという事も分かっているはずだ。
そこで、オレをダシにして仲間にする為の"口作"をしようとしているって事なのか?
マスターのリディを孤立させると同時に"オレの誘拐"を利用してジュリも仲間に引き込むという所か。
だとすると、タツキという女と会ったのも偶然でもないという事か?

と考えて行くと、このまま金髪のペースで行くのはちょっと不味いかもな。


 「お前は随分と色々オレに喋っているが、上司の人に怒られたりしないのか?」

 「大丈夫さ。君は僕達の仲間だから問題ないぜ!」

 「・・・いや、オレはまだ付いて行くとも言っていないけどな」

 「どうやら君は、僕に似て全て守ろうとしている雰囲気があるから、改めて言っておくけど
 僕達MKの目的はエリアスターをマスターから守る事。
 君が全て守りたいなら、僕の提案は悪くないと思うんだぜ」


コイツ・・・。

盗聴されていると最初に言われたせいで、オレの方で下手な事が言えなくさせられたのも
金髪というかエムケーの狙いって所か。
実際に盗聴・監視されていなかったとしても、躊躇いを作る事でこちらの判断力は鈍る。

慣れてきたからこそ感じる事だが、未知な世界というのは恐怖を生む。
オレにとって、このご都合主義な世界は、ほとんどが未知なモノだ。
ようやく情報を得始めたオレが思い切った行動を取るには、勇気も能力も知識も足りなさ過ぎる。


 「そういうわけで、ジュリレスターさんと合流しようじゃないか。
 君も、僕と居るよりは心強くなるだろ?」

この金髪は馬鹿っぽい発言をしているように見せているだけだ。
水女とカードバトルした後に感じたあの嫌な空気。
こちらが誘導していても、実際は完全に相手に誘導させられてるあの嫌な感じだ。

そもそも、ジュリ"だけ"をここに呼び寄せる方法が即座に浮かぶはずもない。


 「僕の右・・・君から見て左前側に見える机の所に通信屋の機器が置いてあるよ。
 それで君のレコカの情報を更新するといい」


・・・
オレが何を言っても、リディもここに来ることは間違いない。
そして、ジュリは金髪の言う真実を知った所で、エムケーの仲間入りするとは思えない。
レコカを更新するにしても、その情報はエムケーに見られていると考えるのが当然だろう。
だとすれば、金髪から言われた情報を元に文章を構成するのが無難。


 "現在、タベスの連絡塔と言われる所に監禁されてる。
  どうやら、リディを連れて来る事がオレを解放する条件らしいが
  だが、こういう条件はオレとしては呑めるモノではない。
  誘拐犯側としては、マスターとエリアスターを隔離するのが目的のようだ"


簡単に作るとこんな感じか。
リディには何を言って無駄だろうから、逆にリディがオレを解放する条件だという事を書いておき
ジュリには変な誤解を生ませない為に、下手にエムケーの内情を伝えない方がいい。
あとは、トリノがどう感じ取るかだけど、今はそこまで考える余裕もない。

監禁や誘拐という言葉は使わない方が良いかもしれないが、リディ達から見ればオレが誘拐されているわけだから
変な言葉に置き換える方がかえって怪しまれて不自然になる。

金髪の言葉通りに、マスターとエリアスターを切り離すって部分だけを考えてもらう事で
オレが危機的な状況ではないと考えてもらうようにする事が、まずは大事だ。
冗談でも「助けて欲しい」なんて書いたら、どういう手を打ってくるか想像も出来ないしな。
咄嗟に考えられる言葉としてはコレが限界だ。

頭が切れるだけの回転力がオレにあれば、この世界でも上手い事やっていけるだろうが
残念ながら並程度でしかない。
情けない言い訳だが、どんな世界でどんな能力を得たとしてもコノ部分は変わらないって事だ。

ともかく、メッセージをレコカで更新した。
あとは、リディ達がどう出るか、だ。


 「終わったかい?
 そのうちタッちゃんも帰ってくるだろうから、この暑苦しい空気も少しは和らぐだろうさ」

・・・自覚はしてたんだな。この金髪。
というか、タツキが帰ってきた所で、オレには厄介事が増えるだけなんだが。

 「じゃあ、部屋を変えてもらえるか?
 誘拐でなく、仲間だって言うなら、ここに閉じ込める理由もないよな?」

 「おっと!そうはいかないぜ?
 それに、ジュリレスターさんが来るまでは、ここで待機してないと入れ違いになっちゃうだろ?」

 「それは、ジュリが此処に誘導されるって確信があるからか?」

 「もちろんさ。
 既に仲間から、ジュリレスターさんとマスターの引き離しに成功しているという情報が入ってるからね。
 だから、安心してここで待っているといいぜ」

ソレを聞いて益々落ち着いていられなくなった。
ジュリがリディと離れる状況になってまで、ここに向かって来るとは到底思えない。

下手な行動をする事はジュリやリディに影響がないとも言えないが、
こうなったら、お喋りな金髪から聞き出せる事は全て聞いてやる。


 「引き離しとは言うが、オレのマスターはエリアドライバーでもある。
 それでも引き離すべきなのか?」

 「・・・そうか。兼務のマスターだったのか」

 「兼務?」

 「確かに、マスターもエリアドライバーも移動に関するマテルが得意だから、兼務をする事は可能だけどね。
 エリアスターを見つける事に関しては、エリアドライバーが得意とする部分だから
 多くのマスターは、エリアドライバーを雇う事で、エリアスターを集めているのものなのさ。
 おそらく、君のマスターはエリアドライバーの資質も持っていたんだろうね。
 マスターとしては優秀な部類になるんじゃないかな?」

一応、マスターとエリアドライバーは別モノという事らしいな。
エリアスターを見つける能力があるかないかで区別されている印象も受けるが
この話だと、エリアドライバーがマスターになる事は無いとも言えるな。


 「・・・何故マスターはエリアスターを見つけて暗殺しようとしているんだ?」

 「本当に、君は何も知らないようだね。
 それは、エリアスターが持つ"特異なマテル"を恐れているという事だよ」

"得意なマテル"か。
オレからすれば、マテル自体が恐れる存在だが
この世界的にはマテルは普通にあるモノで、エリアスターの得意マテルはその中では特殊なモノが多くて厄介って事か?
恐らくは、新種と言って差別しているエリアスターを消したい為だけのご都合主義な言い訳なんだろうけどさ。

 「恐れているのは、マスターだけとは思えないけどな」

 「僕が言える事は、マスターがそういう行動を取り始めているという事だけだぜ。
 マスターがどこかの組織に雇われているとかいう説もあるらしいけど、それを知るすべは今の僕にはないよ。
 仮にそんな組織があったら、真っ先にぶっ潰してやるぜ!」

・・・話をずらした所を見ると、ここで言うのは不味いのか、金髪にも話が出来ない事があるのか。
それとも、本当に知らないだけか?


 「エムケーの目的は、マスター狩り(ハント)して、エリアスターを守る事だけなのか?」

 「・・・どういう意味だい?」

 「お前もおそらく情報持っているだろうけども、オレがウエブの大会に出た時にエムケーのモノに会っているんだよ。
 その男は、"オレのマスターに特に手をかける様子がなかった"からな」

 「僕は詳しい事は分からないけど、そのイベントはMKがウエブの方針に従う様になっているらしいぜ。
 だから、こちらが勝手な行動をする事は出来ないはずだよ」

一応・・・筋は通っているように聞こえる。
だが、都合の悪い事は"知らない"と言い切れば、どうにでも返せるけどな。


 「・・・ところで君は、随分と喋るのが好きみたいだね。
 でも、僕はあまり得意じゃないんだ」

突然、金髪は何を言ってるんだ・・・?

 「それでも、会話をしたいって言うなら、朝まで付き合ってもいいけどさ」

・・・!
"そういう"事か。

 「確かに、変な話をし過ぎたな。
 見ず知らずの男と話し続ける程、オレも"時間に暇"をしている訳じゃない。
 そろそろ、ソコの出口を通してもらおうか?」

と言うと、オレは戦闘の構えだけをする。

勿論、この金髪と戦って脱出する気はないし、万が一、戦闘した所で勝てる気もしない。
金髪のネタ振りは、最初にも釘を打っていたように「あまり余計な話をするな」という事なのだろう。
それに、オレの立場とすれば、大人しくここに居る事が不自然。
脱出しようと行動しないのは、この金髪となんだかの繋がりがある疑いを"監視カメラ"などが証明してしまう事になる。


 「おっと。僕は君と戦うつもりはないんだぞ」

 「喋るのは得意じゃないんだろ?」

 「だからね、君にはここで大人しくジュリレスターさんを待っていてほしいわけさ。
 無駄な事は止そう!」

 「その、ジュリが此処に来るって話も怪しいモノだな。
 ジュリは警戒心が強いし、リディと離れる行動を取るとは思えないしな」

 「いや、付いてくる理由はあるさ。
 君も知っているだろうけども、ウエブの大会でネルソンというエリアスターに出会っているだろ?
 彼がジュリレスターさんを迎えに行っているからさ」

・・・!

ネルソンがエムケーと繋がっていたのか?
いやいや、この金髪がでっち上げた嘘かもしれん。
ネルソンは決勝で戦うはずだった相手だからな。
知っていてもおかしくないと踏んでの嘘って事も・・・

・・・いや、それは変だ。

ウエブの大会でネルソンと特に一緒に行動した場面はないし、寧ろ対立しかしていない。
見た目なら、そういう情報しか得ることが出来ないはず。
そういう人物を使って嘘をつくには、ネルソンでは信頼性がなさすぎる。

という事は、このネルソンの話は九割方事実になりそうだな。
金髪の言う事は胡散臭い部分もあるから信用出来ないが、
ウエブでの状況は知られていると考えた方がいいな。


 「ネルソンは知ってるよ。というか、おかげで動くに動けなくなった。
 ネルソンはオレよりも相当頭が切れる男だからな。
 オレがこっちで何かしたら、お前が・・・いや映像カメラなどの情報で、ジュリもどうなるか分からないって事だろ?」

 「最悪のケースがそれだけど、そうはならないさ。
 君もそれなりに頭の回転は良さそうだし、なにより、正義の味方の僕が居る限り
 犠牲者は一人も出させないっ!」


なんか、違う世界に行ってしまっている金髪は放って置くとして
ネルソンなら下手な行動はしないだろうと、オレは勝手に思い込んでいた。
それは、ネルソンもオレと"同じ状況"だと推測できる部分もあるが
何度か会話してみて、空気というか波長が合う人物だったという事も大きい。

これは、オレの勘みたいなモノだが
ネルソンは完全にエムケーの一員ではないとも思っていた。
オレの考え方同様に、ネルソンは"目的の為に"今はエムケーにいる事を選んでいる気がする。


ネルソンが繋がっている事で、ジュリとリディが引き離された理由も理解できた。
それは、ネルソンのマスターであるヴィルが、リディを相当お気に入りだという点もあり
今回のオレの状況を使って、リディが逆に人質にされたという形なのだろう。

しかし、エムケーが狩りの対象であるマスターを雇っているとは思えないから
ネルソンとヴィルの行動は別に行われている可能性もあるな。
ただ、その行動は偶然じゃなくて、ネルソン達がきちんと計画している状況で、でだ。

となると、リディを守る為にジュリが抵抗している可能性もある訳だが、
コレもオレの状況を使う事で上手く言いくるめられて、まずはオレの救出を優先していると考えられる。

何にせよ、リディの状況は今のオレよりも危険だろうという事だけは想像できる。
合流した時に、上手い事この塔から出られるような状況になれば良いのだが・・・。


リクはこの日、塔の部屋で一夜を過ごした。
お互いに不本意であるが、金髪の男ことヴェロンも監視の意味で同じ部屋で休む事となった。




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そして、日にちは変わり、現在。

ジュリレスターとネルソンが、監視塔の方へ走らないスピードで歩いていた。


 「リクは無事なんだろうな」

 「オレも含めてエリアスターが攻撃を受ける事は無い。よっぽど抵抗しない限りはな。
 アンタも分かるだろうけど、リクはそういう事をするタイプじゃないだろ?
 心配ないな」

 「うむ。ウチなら捕まったら何をするかわからないな。
 ・・・ところで、あんたもエムケーという事はブルックスも知っているのか?」
 
 「ブルックス?
 あぁ。直接の上司じゃないがMK幹部の一人だな。
 知り合いなのか?」

 「うむ。因縁の相手の一人だ」

 「・・・アンタ、クラークともなんか絡んでたよな。
 オレはウエブの大会の関連で手を組む形になったが、関わりたくない新種の一人だな」

 「む?クラークも新種なのか?」

 「驚く事もないだろ。
 突如として現れる特殊マテルの使い手の多くが、新種だって言われてるのはアンタでも知ってるだろ?」

 「うむ。ウチもそういう意味では変わってるのかもしれないしな」

 「まぁ、オレはリクに興味があるね。そして、ジュリレスター。アンタもそうだ。
 時期を見て話すつもりだったが、予め話しておくわ。
 アンタら俺の仲間になれよ」

 「断るぞ。
 リクはどう言うかわからないが、ウチは、あんたもリディを連れ去ったマスターも信用できないからな」

 「ま、それはリクと再会してからだ。
 それと、アンタらのマスターの件は確かに心配だしな」

 「む?どういう意味だ?」

 「俺は今のマスターと共にフェリスを見つける気はないんだよ。
 より良い仲間と、使えるマスターを探す為にMKに所属しているだけだ。
 その仲間っていうのがアンタらって事だな」

 「何を言ってもウチは、賛成しないぞ」

 「・・・分からないから、だろうな。
 ま、いいさ。まずは、リクと合流してそれから考えようか」


ジュリレスターはネルソンをほとんど信用していなかったが、
それでもリクの居場所に案内するという点だけは信用していた。
MKがエリアスターを必要としている事も聞かされていた事も、信用する理由にはなっていたが
その矛盾的な考えにやや戸惑いを覚えていた。

その為、仮に罠でリクに会えなかった時、ジュリレスターは何時でも暴れる準備が出来ていた。
その気配をネルソンも感じてはいて、間合いに入らない距離で歩いていた。


 「あの丘に見える建物が監視塔か?」

距離にして数キロ以上あり、まだコメ粒程度にしか見えない建物を指差して
ジュリレスターはネルソンに問いかける。

 「あぁ、あれが監視塔という名目の塔だ。
 今となっては、ブロクはタベスの一部扱いとなっているから必要ないが
 かつて両地方の境としての役割も持っていたらしいな。
 ブロクの駐屯地と違い、スティーユなどの建物は全て撤去されて塔だけが残っているようだが」

 「あんたは、ここの地域に詳しいようだが故郷か何かか?」

 「全く関係ないな。多分、アンタと同じバローグ生まれって事になってるぜ?」

 「む?多分とは?」

 「意味深な言い方をしたが、ここの生まれとは関係ないって事だ」

 「確かに関係はないな。それに居場所さえ分かればあんたに用もないな」

 「塔周辺にはMKの見張りがいる。面倒な事は避けた方が良いだろ?」

 「うむ・・・確かに面倒は困るな。仕方ないが共に行動するぞ」

やや疲れた表情をネルソンがして再び距離を保ちながら塔の方へ歩いて行く。
ジュリレスターも結果的に付いて行く形で共に進んでいた。


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 「おっかしいな。タッちゃんが一向に帰ってこない」

 「・・・何かあったんじゃないのか?」

 「おっと。
 だから君はここに居ないとダメだからな。
 ちょっと予定より遅いだけで、タッちゃんの事は心配ないよ」

リクとヴェロンは昨日と同様の状況で
監視塔の一室で無駄な会話が続いている。


 「オレが心配する必要がないだろ」

 「そうなのかい?
 君はてっきりタッちゃんと知り合いだと思ってたからね」

 「ウエブで一方的に絡まれただけだ。
 こっちはいい迷惑だよ」

 「絡まれるなんて、君もよっぽど女泣かせな男なんだな。
 僕ほどじゃないだろうけどね」

・・・何を言ってるんだこの金髪。
しかし、話を無視しようとしても不自然な程に会話を成立させる空気を持っている。
コレ自体がマテルだとは思えないが、人徳というのかそういうモノをこの金髪は持っているように感じる。
だからといって、信用できるような男でもないけどな。


 「おっと。ネルソン君からデータが入ったようだ。
 あと1時間程度でここにやってくるようだよ」

昨日のモノとは別のレコカを操作して情報を得ているようだが、
確かレコカで情報を更新するには通信屋という所が必要のはず。

 「塔に向かう途中に通信屋でもあるのか?」

 「ん?レコカの事かい?
 君はエリアスターの中でも随分世間知らずな方なんだね。どこかの王族の子なのかい?」

 「だったらどうするんだ?」

 「・・・ハハッ。これは驚きだぜ。
 たまに君みたいなタイプのエリアスターが出てくるって聞いた事があるけど
 これだけ何も知らないっていうのは新鮮だ」

 「相当バカにしているな。お前」

 「いや、すまん。
 そういうつもりはなかったんだが、実際こうして会う機会っていうのは中々ないと思うからね。
 まず、王族の子にはエリアスターが生まれるはずがないっていうのが一つ。
 エリアスターは血筋のものでもあるから、例外はないよ。
 次に、レコカの話。
 レコカにはいくつか種類があって、レコカ自身で情報更新出来るのもあるんだよ」

・・・。

オレがバカになる事で、色々知ることが出来るというメリットがあるなら
この世界では喜んでバカになってやるよ。
無知なのは事実なんだし、今はこいつらに何を言われても仕方がない。


 「す、すまん。本当に怒ったのか?」

 「・・・いや、無知なのは事実だ。それを否定する気はないよ。
 それより、レコカ自身で情報更新できるタイプについてもう少し詳しく聞きたいのだが」

 「・・・そうか。怒ってないならよかった。
 レコカの話ならいくらでもしてあげるよ」


ヴェロンの話は、レコカにはいくつかの種類があって
リクが持っている【通信屋で更新するタイプ】、ネルソンが使ったとされる【レコカ自体で更新出来るタイプ】などがある。
ネルソンのタイプは、他にもウエブ雑貨屋店主のグルーブも持っている。

ジュリレスターがウエブで貰ったレコカは勿論、ヴェロンやタツキがジュリレスターの居場所を知るためグルーブからもらっていたレコカも
彼のレコカの複製品である。ヴェロンのは昨日リクに見せた物がそれである。
複製品ではあるが、グルーブが適度な時間に情報を自動更新していたため、タツキ達は比較的最新の情報を得る事が可能であった。

つまり、タツキがブロクの温泉街でジュリレスターの居場所をレコカで調べることが出来たのも
この自動更新があったからである。

自動更新とは、レコカにマクロを組む事で一定の動作を自動で繰り返す事である。
グルーブの場合では、ジュリレスターの居場所のみを一方的に更新させ続けていた。
一方で情報を受け取る側、つまりヴェロンやタツキは、通信屋を使うことでグルーブだけに返信する事が可能になっており
グルーブの方は返信を見る事はできるが、再返信する場合はマクロを一度解除しないといけない仕組みになっていた。

リクのレコカにもマクロを組む事は可能だが
自動更新されるのはあくまでも通信屋の機器を通したときであり、しかも、マクロを組んだままでも返信する事は可能であるが
通信屋の機器から出してしまうと、マクロの動作は止まってしまう。
通信屋の機器は、通常個人の持ち物として販売されていない為、公共機関におかれている機器に常に入れ続ける事は一般の人には不可能である。
なお、グルーブのレコカは、通信屋を通してもマクロを組んでいると返信が出来ないようになっている。

この世界の人は使い道によって、リクのレコカのタイプとグルーブのレコカのタイプなどを使い分けているようである。



 「レコカにも色々種類があるという事が分かっただけでも
 ココに"誘導"された意味はあったのかもな」

 「少し値段は張るけど、ネルソンのレコカも買う事は出来るから
 今度見に行くといい。
 いや、僕達の仲間になれば簡単に手に入れることも出来るか」

 「レコカの為に仲間になるつもりはないが、参考にはなる」


 「と、そろそろ到着のようだ。
 何度も言うが、無茶はしない事だよ」

金髪の言う通り、塔の下の方がやや騒がしくなっている。
幾つかの足音が大きくなり、この部屋の前で止まる。

光と共に数人の影が現れる。
ジュリとネルソンだけじゃなかったのはやや誤算か?


 「リク・・・」

 「本当にジュリとネルソンでここに来たんだな」

 「早い再会だな。リク」

 「これで4人の同士が集まった。
 状況は理解していると思うから割愛するけど、二人ともMKの一員として歓迎したい」

金髪の言葉に今まで安堵の表情だったジュリが豹変する。
それと同時にネルソンがヴェロンの前に移動する。


 「ウチはあんた達の仲間になる気はないぞ!
 リクを解放してくれないなら、実力行使するまでだ!」

右手から鉄の槍を造形し、そのままネルソンの方に向けて構える。
出口付近に待機していた別のMKが応援を呼ぼうと移動しかけたが
ネルソンが右手で静止する。

 「この二人は、まだ状況が飲み込めていないだけだ。
 同じエリアスターの仲間として俺が責任もって本部に連行する」

 「ふざけるな!」

今にも飛びかかりそうなジュリの言動に、オレは気圧されて動く事が出来ない。
ネルソンもやや好戦的な態度になっている雰囲気だ。
ここで、あの金髪が動く。


 「ちょっと待った。
 ジュリレスターさん。あなたが怒るのも無理はない。
 見かけは僕らが彼を誘拐したように見えるからね」

 「実際そうだろう!」

 「あなたがMKに好意を持っていない情報もこちらは持っているよ。
 それに、僕もネルソン君も交渉向きなタイプではないからね。
 そういう人材がMKに不足している事も否定はしないぜ。
 きっと、マスターの件もあってさらに敵意を向けていると思うんだけど
 考え方によってはマスターを保護したとも言えるんだぜ?」

 「おい、ヴェロン。余計な事を言うな」

 「いいえ。彼女が怒るのは当然の事だぜ。
 こちらも誠意をもって回答するのが義務のはずだろ?
 それにこんな事で仲間を失う事が一番の損失だぜ」

またコレだ。
ネルソンは別として、交渉向きではないのは確かなんだが、
金髪の不自然な説得力がジュリに効くとは思えないが、これはオレに対しての効果って事だろうな。


 「ジュリ、オレからも頼む。
 リディを守るには、エムケーの考えも一理ある。
 エムケーの目的の一つに、マスター狩り(ハント)っていうのがあるというのをオレはここで聞いたが
 本来の目的はオレ達エリアスターを守る事なんだ。
 オレ達が騒ぐ事は、逆を言えばリディを危険に遭わせる事になるんだよ」

 「しかし!今リディはn・・・」

 「言わなくても分かってる。ネルソンがいるしな。
 こいつらを信用しなくてもいいが、オレの事は信用してくれ」

 「む・・・。うむ」


ジュリは納得はしていない表情だが、とりあえず槍を下に向ける。
ソレを見て、出口に居た別のMKが再び動こうと中に入ろうとするが
コレもネルソンが制止させる。

 「俺の言う事を信用してもらえないのなら仕方ないが、連行は責任もって行う。
 それが不満ならまだ待機しててくれ」


ジュリがやや槍を動かそうとするが、ソレを必死に堪えているようにも見えた。
一方で発言を向けられたMKの者達は、やや戸惑いながらも部屋から居なくなる。


 「不自然な程に発言力があるんだな」

 「MKではエリアスターは保護される存在だからな。
 ただ、間違った事をすれば制裁も大きい。
 俺の発言は些細なものだが、それは逆を言えばリク達が裏切らなければという条件での話だ」

コレは表向きはオレに向けてであるが、同時にジュリの行動も牽制している。
こういう展開になる事を想定してMK、いや、ネルソン達はオレを誘拐し
そして今、ジュリも強引に仲間という位置づけにしようとしている訳か。

実際仲間でなくても、オレの存在を使う事でジュリもMK側に付かせる。
MKの狙いはやはりソコなんだろうな。


 「裏切らないと言えば、ウチ達が付いていくとでも思っているのか?
 だけど・・・ウチは」

ジュリは槍を地面に突き刺し、戦闘の意志がない事を表すように両手を自由にする。
ソレを見てか金髪がまた動き出す。

まずはネルソン、次にオレの方に近づき、最後にジュリ。
それぞれの肩を叩くと

 「僕はここで相方を待たないといけない身だから動けないけど
 ネルソン君に付いて行って、本部でMKの一員として申請契約を行った方が良いよ」

 「む・・・」

 「不本意だが、そうするよ。
 それじゃ、ネルソン。道案内を頼む」

 「・・・随分物わかりが良いな、リク。それはやはりマスターの為かい?
 なら、止めた方が良い。
 ヴェロンはリクやジュリレスターを仲間として迎えたいようだけど、俺の考えはちょっと違う」

 「どういう意味だ!」

 「ジュリ。落ち着け」

ネルソンは何を言い出すんだ?
此処での言動や行動は監視されているって知らないわけじゃないだろうに・・・

やはり、ソレは金髪の嘘って事か?


 「リク達がマスターを救うためにMKに入り込んだ上で裏切る可能性もあるからな。
 先に釘を打っておくって事さ。
 それでも、付いてくるっていうなら歓迎するよ」

 「おい、ネルソン君。それはあんまりな言い方じゃないか」

 「なるほどな。何時でも裏切るって印象をそこの金髪に与えるっていう事か?
 それとも、オレがお前の立場を脅かす存在になる可能性があるからか?」

 「良いように言ってくれるな。リク。
 もういい。アンタらが余計な事出来ないように錠をさせてもらうが、それを否定はしないよな?」

 「む。裏切ること前提で連行するのか!」

 「とんでもない"仲間"だな。
 逃げるにもお前たちの本拠地で逃げようがない訳だが、それでも錠をするっていうのは
 ソレほどオレ達を警戒してるって事か?」

 「自惚れんなよ。誰でもこうするさ。
 特に俺達に悪印象を持っているエリアスターならな」


ジュリは完全にネルソンに敵意を向けていたが
オレの左腕に腕輪のような錠を付けられると、観念したように同じく付けられた。
錠はネルソンが持っている短剣と磁石のようになっているようで
一定の距離は離れることが出来るが、ネルソンが引き戻すように短剣を動かすと、引き寄せられてしまう。
錠同士が鎖とかで繋がれていない分、行動はある程度自由だが
ネルソンから離れる事も出来ないようになっているようだ。

あと、ウエブでの大会で使われた腕輪同様に、マテルの使用が出来ないようになっているようで
別の槍を作ろうとしていたのか、ジュリが何度か拳を確認して首を何度か横に振っていた。



部屋から出ると右手にエレベータが設置されており
そこに先程出口に居た二人のMKが待機している状態だった。

 「新たな同士を加えるための申請を本部で行ってくる。
 一件の通り反抗をする可能性が高いが、人質を取っている為、裏切る可能性はないだろう。
 先に以上のデータを報告しておいてくれ」

 「あいよ。
 ま、お前も裏切り者リストの上位にいる事をお忘れなくな」

左側に居たややふくよかな男がネルソンからレコカのようなものを受け取り
オレらをエレベータの中に案内した。

ネルソンは悪意のある顔のままやや上を向き、ジュリは失望したような表情でオレの方を向いている。
オレは一体どういう顔をしているのか。

悲しみとも喜びとも思えない表情だったんだろうな。
ジュリが失望したように見えるのもそのせいなんだろう。




外に出ると、本部があるとされるタベスの中心街の方角に、1台のナビ職の車が用意されていた。
コレに乗ってしまえば、オレらは抵抗できないまま本部という所に連行されるのだろう。

ジュリは外に出れば抵抗するかと思ったが
マテルが使えない事が大きいのか、何も言わず先にナビ職の車に乗り込んだ。

唯一の脱出のチャンスでもあったのだが
ジュリにはそこまで考えるだけの余裕も気力もなかったという事だ。
意外な行動だったが、戦意を失ったジュリは以前も似たように無気力な行動をしていた気がする。

しかし、このままネルソンに従うわけにはいかない。
マテルが使えない状況だが、なんとしてもタベスを脱出して、リディと合流しなければ。
マスターの目的についても問いただす必要がオレにはあるからな。





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