15
【マテリアル】
数日の間、40階ほどはあるだろうな銀色で円柱の建物に居たオレは
不思議と外に出ても違和感を感じなかった。
むしろ、外の風景も大会会場のように感じてしまっていた。
――以前にも少し触れた事ではあるが
予選の最上層となるフロアはウエブの町並みと同じように作られていた為
リクがそう感じたのは無理がない事である。
リク達は大会の決勝に出る事なく、会場を後にした。
決勝を棄権するきっかけになったのはキユウの行動である。
その行動が今後の彼らの運命を決めるかどうかは分からないが
小さな大きい一歩である事だけは間違いないようである。
ウエブに用が残ってるジュリレスターの関連を片付けるため
リク達はウエブの城へと進んでいた。
「この道に見覚えがあるのは、予選会場の風景と同じだからか」
「うむ。ウチも今頃気が付いたぞ」
『お二人さんは仲良く何の話をしてらっしゃいますのですかい?』
「本物のウエブの町並みと予選での会場風景が同じだという話だぞ」
『二人ともよく覚えてるね〜。
あ、良く考えたら私はストーカー君から逃げるのに必死だったしね』
リディがストーカー君と呼ぶのは、オレが思うに決勝の最後まで残ると思うチームの一つ。
オレと似たモノのネルソンのマスターでもあるヴィルという人物だ。
リディよろしくこのヴィルというマスターも変わりモノのように見えた。
あと、リディと同様に、移動系のマテルを得意としているようでもある。
そして
ストーカーの名前通りにリディの行く先々を追いかけていたと見せかけて
実際はウエブの方で用意していたらしい殺人剣士のフレンツからリディを守っていたらしい。
今となっては、その実際が本当なのかどうかは確かめる術はないけどな。
「カード交換所の方向に城があるようだな」
「うむ。城と大会会場以外は同じになっているとしか思えないな」
「ただ、ソレが正直何の意味があるのかは分からない所だけどな」
「うむ。別にこの建物にレコカを差し込めるわけでもないからな」
『む〜。2人して私を除け者扱いですか?』
「あのさ、リディさん。じゃあどう話せばいいんだよ」
『ちょっと、ひねくれただけですよ〜。どうせ聞いても私は覚えてないから分からないし〜』
この、リディというマスターは完全に子供の行動だな。
どうも自分だけ分からない話をされるのが面白くないようだ。
こちらは、こんな世界に連れてこられた事自体が面白くないんだけどな。
どうしたものか。
少しの沈黙の後、オレ達の目の前に城がすっかり近づいていた。
「この先はウチ一人の方が良いと思うから、二人はすまないがここら辺の店とかで時間を潰していて貰えると助かるぞ」
「じゃ、オレの方は先にエネジスを換金しておくよ」
「そうして貰えると助かるぞ。それじゃまたここで」
そう言うと、ジュリは硬い表情のまま城の方へと進んで行く。
クラークに盗まれたエネジスを取り返したので、ソレを城に返すという事らしい。
詳しくは聞いてはいないが、そのメレオンが盗まれたきっかけがジュリにもあった為に大会に出ていたそうだ。
今となればどうでも良い話なのだが、オレに3000万ダイアを返す事も大会に出る理由ではあったようだけどな。
『リッ君はユウキ君に貰ったエネジスを換金するんですか?』
「人の名前はちゃんと覚えとけよ。キユウだからな。
エネジスに関してはそうだけどさ」
『だいたいあってるから、それは大丈夫なんですよ。
彼はきっと悪い人じゃない感じですし〜、そういう人はきっと細かい事に拘らないんですよ』
それは、どういう理屈だ・・・。
リディと居ると本当に"退屈"はしない。
「リディはオレが換金している間どこかで時間つぶすのか?」
『3人別行動ってわけでもないだろうから、私も付き合うよ』
どうもこのパターンは別行動はさせてくれない感じだな。
「別に良いけど、建物のままにしたトリノはほっといて良いのか?」
『うん。むしろリノちゃんは3人一緒に帰ってあげないと駄目だよ。
ぶっきらぼうな言葉使う事が多いけど、リノちゃんは結構寂しがり屋さんなんだ』
とてもそうは思えないのだが、ここはリディのご都合通りにしておいた方がよさそうだ。
ナビ職であるトリノは大会に参加させる事が出来なかったのと、宿泊施設を兼ねて建物化して置いている。
トリノ自ら解除する事は出来ないモノなのかわからないが、現在はウエブのある場所に放置されている状態だ。
『じゃあ、このお店で休もう♪』
勝手に仕切られた上に、エネジスの換金はどうなってるんだという勢いで
リディは喫茶店風なお店に入っていく。
このまま無視して一人で換金所に向かって行ってもいいのだが
再合流した後の反応が非常に嫌な予感しかしないので
大人しくついていくことにした。
が、
入り口付近でリディが止まったままである。まだ朝方という事で開店してないんだろうと思ったが
明らかに店の中に入ってすぐの扉で立ち止まっている。
よく見ると誰かと話をしているようだ。
相手はリディより一部を除いて一回り大きな女性で、おそらくは160cm前後の身長
海色よりやや透明な髪の毛でややウェーブのかかった髪形をしている。
何より一番の特徴はリディと同じような目元である。
これは、あまり、良い、感じは、しないな・・・。
『あ、リッ君、こっちに来てきて』
当たり前だが、見つかった以上は行くしかなさそうだ・・・。
「・・・こちらは、リディのお知り合いか?」
『うん。ミウちゃん』
「ん。君がリーちゃんが言ってたリッ君だね?
あたしはミウナバラって言うんよ。言い難いからミウちゃんでエエよ」
独特の言葉訛りと、まるでリディが二人いるようなこの雰囲気。
正直なところ、あまり関わりを持ちたくはないのだが、一応"大人"の対応はしておくか。
「えぇ。リディには色んな面でお世話になってるリクと言います。
とりあえずミウさんとお呼びさせて頂きますね」
オレの返答で二人が何やら嫌らしい相談モードに入る。
数秒だったが、二人がオレの顔を見るなり、揃って裏のありそうな笑顔で見上げていた。
「なんなんだ?」
「えぇ。ごめんなさい。リーちゃんが言うとおりのエエ男だねって話をしてたんよ」
・・・。
『ミウちゃん。それ以上からかうと本当にリッ君怒るから〜。
別にミウちゃんにかしこまらなくていいんだよ。普段通りで』
・・・。
「なぁ、リーちゃん。リッ君顔引きつってるのと違うか?」
『う〜ん。そう言われるとそうかもしれないけど・・・』
「本当に大丈夫なんか?」
『う〜ん。フィフティーフィフティーって所でしょうか?』
「エエ勝負って所だね。それ。謝った方がエエんじゃないの?」
『う〜ん。リッ君は怒ってるというより呆れてるっぽいかな?』
「ほぉ。スルースキル持っとるのか?ま〜中々いないからね。リーちゃんと対等に会話できる子って」
・・・。
オレの事を言われてるんだが、オレにはそれが他人の事のようになってしまっていた。
ミウの言葉じゃないが、スルースキルって言うのがあれば、相当リディのおかげでスキルアップしていると感じるよ。
あと、最後にリディにも何気に毒を吐いているように聞こえたのは気のせいだろうか?
「まぁ、リッ君。リーちゃんを適当によろしく頼むよ」
『適当って、ひどいなぁ。ミウちゃん何気に私もバカにしてない?』
「そんなわけないでしょう?可愛い妹なんだから」
ミウはあからさまにオーバーなリアクションでリディの頭を撫でている。
それを特に嫌ともせずに受け入れている所を見ると
リディのアノ性格を作りあげた要因はこの姉って事みたいだな。
「リディはマスターなので、オレがこれからも協力する事は多いと思うけど
ミウさんはこんな自由気ままな"妹さん"を持って大変ですね」
「え?妹違うよ。
確かに昔から姉妹みたいだねって言われる事多いけんど。
あたしらは従妹なんよ。同い年だし誕生日もリーちゃんの方が早いから、本当はあたしが妹のはずなんだけどね」
そう・・・なんだ。
知らなくてもいい裏情報を聞いて全く得をしなかった気分だな。
『いや、ほら、リッ君本気にするからちゃんと真面目に答えなさい』
おい・・・・どっちだよ。
「いやいや。リッ君は興味なさげだよ。それに女の子の年齢を聞いて喜んでるようじゃマダマダって所だし」
『そっか〜。
という事でリッ君。そういう話を聞くのは止めなさい』
わ・・・わけがわからないよ。
このふたり・・・。
「こ、この喫茶店は随分早くから開いてるんだな」
これは、強引に話題を変えるしかない。
「まだ開店してないんよ。あたしはこの店の店主とお友達だから昨日は泊めてもらったんよ。
ウエブってホテル代めっさ高いからね。あれは詐欺レベルだね」
「まさかと思うけど、リディが大会に出る事聞いて応援に来たわけじゃないよな?」
「違う違う。リーちゃんが大会に出てたのってさっき初めて聞いたんよ。
しかも、決勝進出したって言うんだから凄いよ。君達」
『オホン。それは、私のおかげです』
「・・・で、確かにあたしは決勝を見には来てるんだけど、ちょっと別の目的でね」
意外な事に、ミウもスルースキルを使うんだな。これは前言撤回という所か。
という事はリディのアノ性格は生まれ持ったモンだな。
むしろ、ミウの方がリディに影響されてるのかもしれんな。
『マテリアルのお仕事だよねー』
「ちょ・・・。リーちゃん。まさかと思うけど怒ってる?」
またお約束のように新語が出てきたな。
ただ、二人の様子が若干変ではあるが。
『べっつに怒ってませんよ〜。ミウちゃんはエリア警察のお偉いさんなんですよ〜』
「・・・まぁ、リッ君に知られたところで減るもんじゃないからエエけどね」
「エリア警察?」
それは、オレがデックスで移動のマテルを使った時にお世話になった組織か。
リディがエリア警察関係と繋がりがある理由が少しわかった気がした。
「そ。リッ君の事もガンプから聞いてるよ。エスケの町を救った裏の英雄って事でね」
ガンプ。
砂漠のエスケの町で、結果的にオレのマテル犯罪の件をもみ消した氷のような目をした"女"だな。
あの事件からそんなに日数は経ってないはずだが、既に"広まっている"という事か。
「ガンプもミウさんと同じマテリアルの仕事をしてるのか?」
「隠してもしょうがないし、そうよ。
マテリアルって言うのはエリア警察にある組織グループの一つの名称なんよ。
いくつかの組織があってね、その中でもマテリアルは世界各地で犯罪者を取り締まってるエキスパートなんよ」
ミウの言っている事が事実かは別にして
リディと居る事で、マテリアルと呼ばれる関係者とも繋がりが持てそうな雰囲気だという事は理解できた。
この世界から出られるかは別にして、ミウと此処で会えた事はある意味では良かったのかも知れないな。
『その中でミウちゃんは一番新人なんだよ。"お姉さん"としてはとっても心配なのです』
お姉さんにアクセントが置かれている不貞腐れ気味なリディの言葉に、オレは苦笑いをするしかなかった。
「リー姉さんはやさしいなぁ〜。ありがとぉ」
・・・この二人、本当の所は仲が良いのか険悪なのかいまいち良く分からない。
顔では笑ってるけど裏で何を考えているかわからない、「よくある」あの表情だ。
誰か、この空気を何とかしてくれ・・・。
「リーちゃん。リッ君が完全に引いてるから機嫌直した方がエエよ」
『な〜に言ってるんですか。機嫌悪くないっすよ。キレてないっすよ』
二人は少しタメをつくったかと思うと、再び揃って裏のありそうな笑顔で見上げていた。
「リッ君。心配しないといて。あたしらはいっつもこんな感じだから」
『うん。お昼頃に放送してそうなドロッドロなドラマみたいな展開はないから』
どういう意味だよ・・・というかこっちの世界でもそういうドラマが放送されてるのか?
という、どうでもいい事を気にする流れにさせられてるな。
「今度は真面目にだけど、本当にリーちゃんをよろしく頼むよ」
「・・・あぁ」
何だかわけの分からない展開で強引にまとめられた印象だな。
『ミウちゃんに紹介も終わったところで、私は女の子同士の大事な話があるのでもう少しこのお店に居ます。
リッ君は申し訳ないけど少し外で待ってて下さい。待ってて下さい』
待ってるも何もこの店を選んだのはリディなんだが。
2回繰り返し念を押された事で、別の所に行くという選択肢も選べないようだな。
『あ、一応だけど盗み聞きしないようにね。そんなことしたら・・・』
「しないから。さっさと行ってきなよ」
こういう状況を尻に敷かれた男って言うんだろうな。
まぁ・・・否定もできないけどな。
こんなご都合主義な世界に拉致されて来なければ
向こうで敷かれっぱなしだった可能性は全く否定できない。
一応、オレの中では大切に思える女性がソコには居て、それなりに悪くない関係ではあった。
あったけど、ソレはオレが見る世界に色を付ける存在だったのかというと、そうでもなかったのかもしれない。
別に嫌いでもないし、居るのが面倒臭いと思った事は無い。
少なくともリディと居るよりは心から落ち着ける空間や時間だった。
さてはて、なんでこんな話になったんだろうか。
この世界で今まで家族的な関係を見なかったからだろうか?
リディとミウのおかしな関係を見て、何故軽いホームシックにかかったのかは分からないが
今まで以上に、早くこの世界から抜け出したい気持ちになった事だけは確かだ。
喫茶店の外にあるベンチに腰を掛けて、おそらくウエブの大会の決勝を見に行くであろう人達の動きを流すように眺めていた。
一呼吸ついた頃にこういう状況になるのは、やはりご都合的というのだろうか。
それとも予感がしていたという事なんだろうか。
少し目の前に、"オレが見た事のある"一人の女性が不自然な動きをしながら近づいてくる。
それは誰かを探しているようで、でも見ないようにしているという不自然な動きである。
他人の空似だという事は頭では理解できてるつもりだった。
それでも、目が合うと言葉は自然に出てくる。
「ハ、ハナ?」
「え?あなた、タツキの顔に見覚えがあるのか?」
「あ、いや。すまない。知人と勘違いした」
「タツキとそっくりな人を知ってるんだな?その女は何処に居る!」
・・・な、急に何なんだ。この女は。
オレが口に出してしまったのは、先程考えていたオレの世界に居る女性の名である。
はっきり言ってこんな偶然、可笑しすぎるぐらいだ。
って、そんな事よりも、ここに居るイメージカラーが菫色だと思われる「瓜二つの女」をどうにかしないと・・・。
「街だからって手を出さないと思ってるのか?こっちは人生かけてるんだよ!」
軽装をしているハナカ似の女は、上着のポケットから短剣を取り出したかと思うと、ほぼ同時にソレが燃え上がった。
おそらくそれは、【ブレイカー】と言われるサーティスやリディが持っていたマテルの力を溜める武器だ。
「ちょ、ちょっと話を聞け」
とても話を聞く状態に見えないが、それでも一呼吸置かせようと試みてみる。
「タツキそっくりな女を知っているんだろ?吐け!居場所を教えろっ!」
動くに動けなかったベンチに座っていたオレに飛びかかるように移動してくる。
ブレイカーの炎が届く前にベンチから転げ落ちると、這いつくばってソコから離れた。
ベンチの方を振り返ると、モノの見事に燃え上っている。
「っ武器をしまってくれないと、話も出来ないだろ。そもそも、タツキって誰だよ!」
「私がタツキだよ!この顔に見覚えがあるんだろっ!」
どうやら、一人称を自分の名前で呼ぶ女のようだ。
こういう初対面の時はややこしくなるから勘弁して欲しいモノだけど
ってそんな悠長に考えている場合じゃない。
タツキはブレイカーを不慣れに振り回し、近くにあった木や小物を燃やしはじめている。
勿論それは狙ってでの行動には見えず、オレでも分かるぐらい戦いに向いていない女にみえる。
「お前と同じ顔した人を探してるって事か?それなら、ここには居ない」
「だから、どこに行ったかを聞いているっ!」
どうも、言い方が悪かったか。
「この世界には居ない!」
「はぁ?何を意味不明な事を言ってるっ!」
朝方とはいえ人も歩いているこの状況で騒ぎにならない方がおかしかった。
この会話が終わった頃には、大会でも見たあの青い制服の人が、数人近づいていた。
ところが、タツキを取り押さえることなく一定の距離から動かない。
「リッ君。女絡みのネタはリーちゃんに悪影響だから、ヤルにしても隠れてやっといてね」
横には言葉はふざけているが表情は真逆な表情をしたミウが立っていた。
「これが・・・痴情のもつれに見えるのか?勘弁してくれ」
全く期待してなかったのだが、何故かミウが来た事でオレは安心してしまった。
一応、エリア警察という立場だという事が分かっているからだろうか。
よく見ると、ミウは店から持ってきたのか両手に水が入っている透明な瓶を持っており
まず左側の瓶をベンチなどの火元の方に振り回した。
その水の動きはとてつもなく不自然で、それがまるで海の波のようなうねりを見せ
燃え上がっていた炎を全て飲み込んでいった。
それと同時に左手に持っていた瓶も地面に捨てている。
「あたしはね、今日は休暇でウエブの"お祭り"を見に来てるわけなんよ。
お祭りに火はつきものだろうけども、街を燃やしたらダメな事ぐらいわかるよね?」
「ち、警察かよ」
タツキはミウが見せているレコカの様なモノを確認して、状況を把握したようだ。
オレの世界でいう警察手帳的なアイテムがミウの出したレコカぽいモノなんだろう。
確認とほぼ同時にタツキは最後のあがき的にブレイカーを振り回し自分周辺に炎を巻き上げると
青い制服が居ない方に向かって走り逃げて行った。
その状況でも冷静にミウは右手を振りかざし、また不自然な水の動きで周辺の炎を飲み込ませた。
ソレを見てから、青い制服の人達がタツキが逃げた方に追いかけるように走っていく。
「でー?リッ君。あの子にナニをしたのかな?」
「いや、何もしてないって」
「リーちゃんが居るから言い難いって言うのは分かるけどね、何も無かったらブレイカーをあんな風に振り回す事はしないと思うんよ」
「あの放火女とそっくりな顔をした女を、あの放火女が必死になって探してたんだよ」
「な〜んか、ややこしい事言ってるけど、リッ君はその女に心当たりがあると?」
「あるけど、ミウさんに言っても信用されないと思うから、言わないよ」
「ほほぅ。という事はリーちゃんには言えるけどって事かね」
・・・なんでそういう発想になるんだ。
『ミ、ミウちゃん・・・終わったの?』
「あ、リーちゃん。終わったんだけど終わってないというかね。リッ君がカギを握っとるというかね」
リディも騒ぎが落ち着いてから店から出てきて、ミウと反対側に立っている。
なんにせよ、これ以上喋るとこの二人にない事をある事にされそうだ。
『リッ君はムッツリさんだから、大事な事は秘密にするというかですね』
言いたい放題言われてるけど、スルースキル発動だ。
「そうなんかい。
じゃあ、リーちゃんはもうちょっと自分を活かしてリッ君に喋らせないとダメだね。
折角の女の武器が勿体ない」
『武器ってミウちゃん、それは流石にちょっと・・・』
「何を言っとるのかね?そんな消極的な事を言ってるから浮気されとるんよ」
『でも・・・』
「あ〜そういう所がリーちゃんの悪い所。あたしなら・・・」
・・・この二人はオレを間に挟んで、一体何を言っているんだ?
ハナカそっくりな女には出会うし、しかも理由もなく襲われるし
そして、この仕打ちだし・・・
リディに関しては少し前に力不足で泣きぐずってたとは思えない変貌ぶりだし。
なんというか
リディというより、女性の考えてる事は良く分からん・・・。
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時間は少しだけ遡る。
リク達と別れてジュリレスターはウエブの城へと向かっていた。
「お前は・・・」
「ここに入れない事は十分承知の上で来たぞ。メレオンを取り戻して返しに来ただけだ」
城を警備していたのは偶然か、ジュリレスターが城の警備時代に最後に会話をした自衛兵だった。
「取り返しただと?あの黒マントの男から取り戻したのか?」
「・・・そうだぞ。信じてもらえるとは思えないけどこれが証拠だ」
そう言ってジュリレスターはメレオンを自衛兵に見せる。
「それがあれば国王にも話が出来るだろう。
お前も騙されていただろうから、言いたい事もあるだろ?」
「う、うむ」
「付いて来い。今なら国王にも会えるだろう」
その自衛兵は他の自衛兵に警備を任せると、ジュリレスターを国王のいる部屋へと案内し始める。
見慣れた幾つかの部屋を通り過ぎて、一度も行く事の無かった国王の部屋へと足を進める。
「少し待っていてくれ。ここに居る護衛と話をつけないといけない」
そういうと自衛兵は一人先に国王の部屋へと入る。
少しだけの時間、ジュリレスターは遠くを眺めて、やや気持ちを沈めた。
「あの新しい床下にメレオンが置かれていたんだな」
今はソコが作り直された事を示すかのように、真新しい光る床が存在している。
数日前にウチが守りきれなかったメレオンが保管されていた部屋の上にある空間だ。
そのメレオンは色んな思惑の中でウチの手に戻って来ている。
運命という言葉は好きではないが、リクやリディに会うためのきっかけだとすれば
これもウチに課せられた使命なのかもしれないな。
だとすれば、守るべきは・・・
「あ、すまん。少し時間がかかったが国王が直々に会っても良いという事だから
一緒に国王の部屋に行く」
「う、うむ」
国王の部屋に入るとさらにもう一つの扉、それも他の部屋とは比べ物にならない大きな観音開き扉が待ち構えていた。
何のデザインかわからない彫刻が彫られており、そのいたる所に金銀が埋め込まれている。
その扉両端にはウチが見たことがない自衛兵が待ち構えている。
「彼らは国王の一番の側近自衛兵だ。下手な行動をすれば命はないぜ」
言われる前からウチにはその側近自衛兵がただ者ではない事を肌で感じ取っていて
とてもその二人の方に顔を向ける事が出来なかった。
ただ真正面の観音開き扉を見つめるしかなかったぞ。
ウチにとっては自動でその扉が開いたかのように映る。
当然、側近自衛兵が開けているわけだけど、それを見る余裕はウチにはない。
中は異常な広さを持ってはいたが、意外なほど質素で、ソコには一人の少年が革張りの社長椅子の様な物に座っていた。
他には勉強机のようなものが遠くの壁際に置かれているだけだった。
「それ以上先には進むな。いいな」
自衛兵の声もあって、ウチは金縛りにあったかのように動けなくなった。
それ以前に、側近自衛兵以上の圧力がその少年から発せられている感じで
はっきり言って、進みたくても進めない状態だな。
「で?その女がメレオン取り戻してくれたの?」
「はい。先程も説明があったと思いますが、」
「あ〜いいよ。そういうめんどいの。
そこにメレオン置いてとっととこっから出て行きな。
ボクさ、一度失敗した人がそれを取り返すとかっていうの一番嫌いなんだよね。
失敗って事は負けじゃん?負けって死だよね?
お情けで生かしてもらってるだけ感謝しとけよな」
この少年には言いたい事は沢山あるけど、今のウチにはそれが出来ないぐらいの絶望感だけが体を支配していた。
言葉に出来ない程の力の差を感じるだけだった。
「あ、忘れるところだった。
このメレオンの件を口外したら本格的に敵視するからね。
ボクは金や権力だけじゃなくて、そういう力も十分持ってるからさ。
この場で感じてるだろうけど、脅しじゃないってわかるでしょ?
勿論、お前の関係者全部アレするから、今回の件は忘れちゃうのが利口だぜ?」
椅子を一回転させて遊んでいるかのようにそう言い放った。
言葉や雰囲気は決して遊んでいる風ではないけどな。
ウチはメレオンを床に置くと一礼をして一言も喋ることなくその部屋を後にした。
おそらく今のウチには一生かかってもあの少年の国王に敵う事は無いだろう。
それほどの絶望的な差だった。
再び側近自衛兵の所まで戻ってきたがやはり真っ直ぐしか見る事が出来ず、そのまま部屋を出た。
体中に感じた事のない冷たさが溢れて支配していた。
「やはりすごい汗だな。ちなみにあそこに座っていたのは国王の子。
ようは後継者だ。後継者でさえあの圧力だからね・・・」
ウチは何も言う事が出来なかった。
子供でさえこれだけの力の差を感じさせられたのだから、国王となると想像も出来ない。
益々、ウチの処分がこれだけで済んでよかったと思えた。
「一応、国王の子が言った事は守ってくれよ。
裏切る事は無いだろうと信じてるけど、そうなった時は自分も関係者の扱いになるからな」
頷くのが精一杯だった。
メレオンを返しに来た事がこれまでで一番辛い出来事になるとは思いもしなかったぞ。
一度も後ろを振り返ることなく、ウチは城を後にした。
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数分以上、リディとミウに対して発動していた"スルースキル"は
ようやくその役目を終えた。
「じゃ、そろそろあたしは決勝見に行ってくるよ。今日はリッ君とも会えたし、エエ日になりそうだわ」
『またね〜』
仲睦まじい二人のお別れのシーンを少し後ろで見ていたオレの背後で
やや疲れたような聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「リク。もう、換金は終わったのか?」
「?・・・ジュリか?」
振り返ると、声以上に疲れ切っているのが見て分かる。
「ちょっと寄り道をしてまだだけど、一体どうしたんだ?」
「う、うむ。特に問題はないぞ」
「いや・・・とてもそうは見えないが、無理はするなよ」
「すまん」
やや青ざめたように見えるジュリの顔を見てオレは不安を覚える。
ウエブの城という所で何かがあったのは間違いないだろうが、このまますんなりとウエブを抜け出せるのかという意味での不安だ。
『あ、隊長も帰ってたんだ。
これであとは、エネジスの換金って所だね』
「・・・うむ」
『ん?リッ君になんか変な事言われました?
な〜んとなく調子が悪いようにみえるよ』
「リクは関係ないぞ」
「リディ。今のジュリは冗談が通じる状態じゃない」
『んん?リッ君は随分と隊長には優しいんですね?』
「・・・は?何の話をしてるんだ」
『って、確かに隊長は、ちょっとお疲れモードな感じだね・・・』
「うむ・・・大丈夫だぞ・・・」
リディとオレの目が嫌でも合ってしまう。
これは明らかに重症だ。まず何処かで休憩が必要だろう。
『ココの喫茶店は私の知り合いの友達が経営してる所だから
色々融通が利くっぽいんでちょっと休んでいこう』
ミウの知り合いってだけでリディの知り合いではないと思うのだが
この状況だとリディに従う方が良いだろうな。
店に入ると、先に入っていたリディが店主と何やら話をしている。
一方、ジュリは店に入った事は理解しているようだが、どうしてココに居るのかが分かっていない様に見える。
『奥の部屋使って良いってさ。リッ君、隊長と一緒に来て』
リディが先頭を切って奥の部屋へと進む。
ソコは完全なプライベートルームとなっており、人が横になれそうな大きなソファーと机が置かれている。
「ジュリ、ここで少し休んだ方が良い」
「う、うむ?」
リディも手伝ってジュリをソファーに座らせて落ち着かせようとするが
ジュリは机の一点を見つめたまま固まっている。
この空気に耐えられないオレは、予め頼んでいたコーヒーを貰いに部屋を出た。
こういう時は女性同士の方が良いのかもしれないと思い込ませる事で
逃げる言い訳を作っていた。
コーヒーを持ってきた店員も女性という事もあり
オレは手で示すと部屋には戻らず、その場に座り込んだ。
少しして部屋から出てきた店員が不思議な顔をしていたようだが、気にしないようにした。
不自然に出来た時間を潰すように、周りを軽く見渡すと
何やら映像と音声が映っている液晶画面が設置されている事に気が付いた。
オレの世界にあるTVのように見えるが、どちらかというとインターネットに動画画面が付いているという雰囲気なモノだ。
やや遠くにあるので文字までは見えないが、放送に合わせて情報も即座に更新されているようだ。
ソコで中継されているのは、オレも参加するはずだったウエブの大会
「ダイア・トゥ・マスター」の決勝戦である。
席は五つ用意されているが、オレ達のチームが棄権した為に一つがぽっかりと空いた状態になっている。
何やら無駄に派手な選手紹介が行われているようだが、中継と実際の選手の温度差が相当あるためにかなりシュールな映像に見える。
別な意味で決勝に出なくて本当に良かったな。
試合はルール説明等を終えて淡々と始まっていく。
映像の実況とゲームの空気感の違いが地味さに拍車をかけてシュールに映っている。
試合展開は思ってたのと違い、ネルソンのチームもキユウのチームも苦戦しているようで
説教男のストレンジャーのチームが有利に進めている。
有利とはいえ、勝ちに近いチームを負けさせる為に、他のチーム同士が手を組むという戦略もあるので
単純に有利とはいえないだろうな。
そうして数セットが終わるとすっかり立場が変わり、やはりネルソンとキユウのチームが残りそうな雰囲気になっていく。
『こんな所で何してますのん?』
「うぉっ!リディか。いきなり声をかけるなよ」
地味なゲームではあったが何時の間にか熱中して見入っていたオレの横に
いつの間にかリディとジュリが同じように座っていた。
『ちょっと前から居たんだけど〜リッ君が熱中してたから、声をかけにくかったわけですよ』
「・・・それはすまなかったな」
ぶっきら棒にだが、しかし恥ずかしさから二人の顔を見る事なくソコから立ち上がった。
「リク、すまなかったな。だいぶ落ち着いたから出発できるぞ」
言葉通りに顔色もすっかり良くなっているジュリが同じように立ち上がっていた。
「あぁ。それじゃ換金しに行こうか」
『むむ〜。やっぱり二人は私の事は無視しちゃう感じですか?』
オレとジュリの間には一応リディが立っていたのだが
身長の関係で見えていなかった事もあり、というか個人的にも居ない事にしたかったのだが
ソレはソレでまた面倒な事になりそうなので・・・
「というかリディは実際用事ないだろ」
『ま、そうなんですけどね。でも、ですね』
「換金所はウチが用がある雑貨屋の近くだから、ウチも一緒に行くぞ」
リディもジュリもお互いにマイペースに話し始める。
ようやく元の二人に戻ったというべきか。
こういう場合は何も言わずに店を出るに限る。
『あ、リッ君お会計』
「・・・オレからダイア請求するのか?」
『ん?そっか〜。まだリッ君は一文無し状態ですものね。しょうがないなぁ』
確かにオレはエネジスは持っているがダイアはほとんど持っていない状態だ。
リディに貸しを作る事はきっと後悔するだろうと思ってはいたが
空中に浮かぶバスの御代の件もあるし、今更な話だな。
どんなお返しをする事になるか想像するだけで寒気はするけどな。
「ウチも、ダイアが・・・」
『隊長からダイアを貰おうなんて事はしませんですよ。
ここはお財布係のリディちゃんに任せて心配せずに外に行って良いですよ』
エネジスを換金したら二度とリディには借りは作らない。
オレは何度もそれだけは再確認を怠る事はしなかった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
リク達が喫茶店から出てくる頃
ウエブの大会会場である「ラッシュ」という場所からやや離れた所に
一人の男がある建物に手を触れて何やら呟いていた。
「・・・自分はウエブに来てますが、事のついでですよ」
"私はてっきり「彼女」の関係かと思ってましたがね"
「トリノさん。そういう柄にない台詞は言っちゃダメだと思うんだがな」
"なんにせよ、あまり目立つ動きはしない方がいいですよ。
私は気にしませんが、色々動いている人も居るようなので"
「動くと言えば、そろそろ面子が揃うんじゃないんですか?」
"そうでしょうね。ソラ君もようやくといった所でしょうか?"
「いや、だからですね、そういうキャラはトリノさんじゃないですって。
自分が戻ったらちゃんとやりますけど、なんか危なっかしいですね」
"マテリアルとしての最後の仕事になるかもしれませんしね"
「は?それはどういう意味で」
"ソラ君がっていう意味じゃないですよ"
「・・・誰の事を言ってるんですか?」
"年寄りのいう事は素直に聞くものですよ"
「相変わらずわけがわかりませんね・・・」
"彼もこれからが本番ですし、お互いきちんと仕事をしましょう"
「・・・他人事ですね。確かにそうなんだけどさ。
そうですね。やりますよ」
全く当を得ない会話であるが、この男はトリノが変形している建物に触れて会話をしていた。
彼はソラといい、ミウナバラと同じマテリアルの一人である。
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リク達が換金所に着きそうな頃
ウエブにある、とある建物に色々曰く付きな人達が集まって何やら良からぬ事を行っていた。
大会決勝に進出した"5チーム"のうちどこが優勝するのかを賭けて、大きな額のダイアが動いている。
「というわけで、どうもこれはハメられたみたいですねぇ」
ハリネズミの様な髪形をした一人の男が穏やかな表情ながら
決勝の中継を見て、煙草を一服吹かす。
「人聞きの悪い事をいうもんじゃないゼ?
コレは正当なウエブの勝負事なんだゼ?」
スキンヘッドにサングラスで黒スーツを着た、体格が良い強面な男が絡んでくる。
「という事は、これは失言でしたねぇ。以後気を付けます」
「んん?賭けてたのはチーム22か?クラークって奴が最近目立ってるという話しだゼ?
しかし、最終決戦にも残らない程度の奴って事だゼ?」
スキンヘッドの男が言う様に、クラークやネルソンが居たチームは最終の2組に残れず
3位以下が決定してしまっていた。
「という事で、おれの予想は外れたって事ですねぇ。
非常に残念ですが、これも"作られた勝負"の世界というモノなんですねぇ」
「お前いい加減にしとくんだゼ?
それ以上・・・」
「というわけで、コレは賭け分のですねぇ。
二度と此処には来ないと思いますが、おれは結構根に持つタイプなので今度は負けませんよ。
コクガンキョウさん」
数千万の単位だと思われる大量のコインをハリネズミの様な髪形をした男が机に叩きつけるように置くと
スキンヘッドの男に一時だけ目を合わせたが、その後そのまま建物を出て行く。
「あ〜、追いかけない方が良いぜ。あのハリネズミ男はマテリアルのスリックだ」
スキンヘッドの男が後を追うように外に行こうとしたのを
同じくサングラスをしてフードをかぶった性別不明な人物が止めた。
「マテリアルのスリック?
そもそもマテリアル自体あんまり見た事無いゼ?」
「こちらと違って少数精鋭らしいからな」
「そうか?なんにしても・・・」
「・・・?何かあったのか?」
話の途中でスキンヘッドの男は徐に一つのレコカを取り出すと、内容を確認している。
「・・・バローグのエリアドライバーから連絡が入ったんだが、どうも本格的に始まるらしいゼ?」
「そっか。個人的には興味がないんだが、そうも言ってられんのだろうな」
「ヴァンはやる気ゼロか?」
「ゼロってわけじゃないよ。"カラス"ってわけじゃないし」
「マテリアルのガンプとコクガンキョウのヴァンウォールは気まぐれで有名だしな?
ワシもそういうモノと一緒に居る時点でモノ好きって事か?」
「お、決着ついたみたいだ。レインお疲れ〜って所だな」
「・・・あの"雨女"が仮に残ったら、やっぱ幹部になるのか?
推薦はするつもりだゼ?」
「ま〜、ウェッドはあの手は嫌いじゃなさそうだね。
でもさ、やっぱりあいつ等は別の住人だよ」
「何言ってるんだゼ?質の話をしてるんだゼ?」
「あ〜一応さ、他の人も居るから大きな声で話すのは良くないよね?」
「聞かれたところでなんも出来ないゼ?
コクガンキョウって分かってて手を出す奴は、ちょっとイカレてるゼ?」
サングラス同士で、これまた何やらわけの分からない会話を続けている。
コクガンキョウという名称は、マテリアル同様にエリア警察の組織の一つである。
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換金所に着くまで既に恒例となったが、リディとジュリの不毛な会話が続き
オレは再び"スルースキル"を発動させていた。
換金所はジュリと出会った場所でもある。
その近くにはジュリが用事のある雑貨屋もある。
雑貨屋の方が先にあった為、ジュリと先に別れて"再び"換金所へと向かう。
結局リディは、前回同様に1階にあるマテル補給所で、ブレイカーにマテルを吸収する事にしたようだ。
前回はエアポケットをジュリに破壊されたため換金所に入る事はなかったが
今回は2階にある換金所でエネジスをダイアに替える事が出来た。
額にして2300万。
実際、額を見てみるととんでもない大金である。
「で?こちらはカードか"現生"のどちらにしますか?」
お客対応としてはおそらく最低ランクになるであろう換金所の女性の言葉が気になりつつも
流石にダイアそのままを持ち帰るわけにもいかないので、カードにしてもらう事にしたのだが
「で、どこの銀行に振り込みますか?」
・・・
そうだ。オレはこの世界の住人じゃないからカードも何もない。
「いや、特に指定の銀行はないんだが」
「はぁ・・・それではこちらで小切手作っておきますから、銀行で処理お願いしますね」
そういうと面倒臭そうに何だかの処理を始める。
こちらで準備していて当然というような空気すら感じる。
少なくとも、この換金所では"お客様"という概念はないのかもしれないな。
こんな世界じゃなければ、オレもクレームの一つぐらいは言いたくなる。
「じゃ、これが小切手なんで。わかってると思いますがこれ無くしたら終わりですので」
一つだけ頷いて小切手を貰うと、やや足早に1階のリディのいるマテル補給所へ向かった。
『あらリッ君、もう終わったの?それじゃ・・・』
「いや、その前にリディにもダイアを返さないといけないし、ダイアをカード化したいのだが」
『あ、そうだね。でも困った問題があるんですね』
「ん?」
『当然なんだけど、リッ君は住所不定なわけなんですよ。つまりそれって』
「カードを作れないって事か」
『うん。そうなってしまうわけなんですね』
「それじゃ他のエリアスターはどうなってるんだ?ジュリも同じ条件だろ?」
『いんや。隊長も住所はあるよ。バローグっていうエリアスターの集まる場所があるんだよ』
「・・・?今、"も"って言ったよな?」
『うん。本当はリッ君もバローグの住民であるはずだったんだけど
リッ君が特例で以前のエリアの記憶を持ったままになっちゃたから、故郷設定も出来なくなったんだって。
だからデックスで本当は渡すはずだった身分証明書も渡せずじまいだとかなんとか』
「想像はつくけど、その身分証は誰が持ってるんだ?」
『リノちゃんだよ』
「・・・じゃあ、トリノのところに戻る必要があるな」
『う、う〜ん。でもリノちゃんが渡してくれるかなぁ』
「どういう意味だ?」
『リッ君は特例ってさっきも言ったけど、以前のエリアの情報を持ってるって事はバローグが故郷じゃないってわかるって事なんだよね。
そういう状態の人に安易に渡す事が出来るかどうかって事なんだよね』
「聞いてみないと分からないだろ・・・
いや、わかってるって事か?」
『うん。リッ君自身で確かめた方がいいかもね』
ホンのたまにだが、リディはオレの考えを見通して発言しているような時がある。
このふざけたキャラが、実は後付だとすれば、実はとんでもないマスターって事もあり得るな。
やや脱線したが、コレはつまりオレにはカードを作る資格がないという事で
ようはダイアを現物で持つしかないという事にもなる。
思う所はあるが、先にトリノと合流して確認した方が良いな。
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リク達と別れてウチは雑貨屋にいた。
休業しているかのようにガランとしているぞ。
「店主は居るか?」
少しして奥の方から店主が現れる。
ウチの登場に、少し驚いているようだ。
「あら、これはこれは。確かジュリレスターさんでしたよね?」
「む。名前を名乗った覚えはないぞ?」
「実は"大会"マニアでしてね、決勝を辞退されたそうですが決勝に残ったチームの人はだいたい把握してるんですよ」
「そうだったのか。
約束のエネジスを持ってきたぞ。予想以上に手に入れれなかったから、この1個だけだけどな」
「本当に持ってきて下さるとは、誠にありがとうございます。
これは、こちらも何かお礼をしないといけませんね」
「いや、これはウチの気持ちだから、受け取ってくれるだけでいいぞ。
有言不実行なウチの勝手な贈り物だ」
「いえいえ。エネジスの話は半分冗談のつもりでしたので、かえって悪い事をしてしまいました。
こちらで知りうる情報であれば幾つか提供させて頂きます」
「情報?」
「雑貨屋という職業柄、色んなネタが入ってくるんですよ。
ジュリレスターさんとチームを組んでいた一人はマスターのリディさんですよね?
もう一人のリクさんというのは、ほとんど情報が無い所を見ると・・・新種でしょうね」
「む・・・」
「ただこれは、大会を見ていれば入ってくる情報ですけどね。
こちらが知っている情報としては例えばフェリスについてとか・・・」
「ウチを脅しているのか?」
「あぁ、すみません。そういう意味で君の情報を出したわけじゃないんです。
こちらで知りうるネタを無料で提供しますよって意味で」
「む?良く分からんぞ。
このエネジスはウチの勝手な自己満足だから、そういうお礼とか要らないぞ」
「・・・そう、ですか。それでは以前さしあげたレコカの方にでも情報を流しておきますね。
これは、こちらの勝手な自己満足なので」
「そうか。ウチには要らないと思うけどな」
「いずれお役にたてると思いますよ」
「む?店主のいう事は良く分からないな」
何か腑に落ちない感じだったけど、ウチはリク達が居る換金所の方に進む為に雑貨屋を出ようとしたその時
深めのフードを被った人物がウチと入れ変わるように入っていく。
ウチにはそれが嫌な予感しかしなかった。
「あんた、何処かで会った事あるか?」
お互いに後ろ向きにだが、振り向くことなく会話をする。
「"会った"として、お前と会話するつもりはないよ」
「む・・・」
ウチが振り向いた時は、すでにそのフードの人物は雑貨屋の奥に消えていた。
クラークではないが、ウチにとってあまり印象の良くない相手だという事は間違いない。
・・・
と、考えていても、ウチには分からないな。
まさか、エアポケットを盗んだらしいあのハリネズミ頭の男ではないだろうし・・・。
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ジュリレスターにとっては不幸でしかないその事実は
後のいくつかの出来事によって表面化していく事になるが
それはまた、別のお話。
フードを被った人物は雑貨屋の2階に着くなり、持っていた数枚の硬貨の100ダイアを床に叩きつけた。
不気味な金属音だけがその場に響いた。
「荒れてますな。ダイアは大切にしないとダメだねェ」
「という事というか、素の喋りに戻ってるんだね。
なんていうか、グルーブも大会に何か絡んでるのかい?」
「いいや。ただのウエブ雑貨屋店主だねェ。
どこを勝たせようとしているかっていう情報は、入ってきた事は入ってたけどねェ」
「というわけで、仮に分かっていても、おれには喋らなかったって事だね?」
「何がというわけか分からないねェ。
もう"彼女"もいないんだし、そのフード取ったらどうだねェ?スリック」
店主に言われるのと同時に両手で乱暴にフードを外すと、特徴的なハリネズミ頭を現した。
その正体はマテリアルのスリックだが、あの雑貨屋でエアポケットを盗んで逃げたハリネズミ頭の男である。
なぜ、ああいう演技をする事になったのかは後々話が進んだ頃に判明する予定だが
この雑貨屋の店主は色んな繋がりがある人物のようである。
スリックもだが、この雑貨屋の方もジュリレスターと会話した時やクラークと会話した時とは口調が変わっている。
「というわけって言うのは口癖みたいなもんだから気にしないでくれよ。
あーというわけで、賭けは惨敗ですな。キユウとレインっていう奴らはどこの組織の奴らだね?」
「スリックは知ってそうだけどねェ。
それに結果的に、決勝には出ない方が正解って事もあるだろうしねェ」
「という事は、メガネの所ですか。なんかそれを聞いたら余計に腹立ってきたね」
「その口調じゃ伝わってこないけどねェ。
まぁ、珈琲でも飲んで落ち着いたらどうだねェ?」
店主は転がっているダイア硬貨を拾い近くにあった机に置くと
その足で珈琲を注ぎに別室へ消える。
「というか、という事で散々な大会"休暇"だったよ」
「・・・これからは休む暇もないのかねェ?」
「というわけじゃないけど、適度には休み貰うよ。
今回のギフトの件はちょっと個人的に気に入らないんだよね」
「・・・あれ?さっきの彼女もお仲間になるんだよねェ?
何だか不思議な関係になってる気がするんだけどねェ」
「というわけでね、棄権した事も含めて今回のマスターはさっさと沈んでほしいんだよね」
「・・・おやおや、聞き捨てならないお言葉だねェ」
「という事でね、色々曰く付きな集まりなんだよね。今回の面子はね」
「へぇ・・・まぁ、珈琲でも飲んだら良いねェ。
でも、タバコは止めてくれよ。ここは禁煙ルームだからねェ」
別室からようやく店主が出てきて、先に椅子に座っているスリックに珈琲を渡し、
火のついていない煙草を逆に取り上げた。
「というわけで、実の所は暇だね・・・」
「はは。次の舞台は・・・タベスになるのかねェ?」
「というかね、あまり知り過ぎるのも危険だって言われなかったかい?」
「深くは詮索しないように、ですよねェ。
こちらもこちらで色々仕掛けないといけないですけどねェ」
「という事で、お互いに頑張らないと、だな」
「ですねェ。そろそろ本題に入りますかねェ?」
二人とも表情は笑ってはいるが、何やら裏がありそうな会話を続けている。
ウエブではこの他にも様々な物語が進行していっており
大会はキユウとレインの居たチームが優勝して終わっていた。
リク達は換金所の外で3人が再び合流し
トリノの住居があるラッシュの方へ進んでいた。
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『うん。実に変わらず立派な建物だね〜』
合流してから、また微妙に様子のおかしいジュリも気になるが
ある意味でいつもと同じの妙なテンションのリディも少し気になるな。
「コレ、何処か変化してるか?」
突っ込まない気でいたが、思わず声に出てしまった。
『気持ちですよ。気持ち。
てなわけで、リノちゃんお久々〜』
"・・・無事に帰ってきて何よりだ"
「・・・ウチも入って良いのか?」
『前から散々入ってるじゃないですか〜。隊長は何を言ってるんですの?』
「うむ。何というか改めてよろしくお願いするぞ」
『な〜んか、また隊長おかしくなった?コーヒーでも飲む?』
「いや、大丈夫だぞ」
リディはジュリと一緒に部屋へと進んだ。
先程同様に、ジュリの事はリディに任せておく事にしよう。
「・・・で、確認しておく事があるけども
オレには身分を証明できる証はないのかね?トリノ君」
"急に変なテンションだが、それは今回の獲得ダイアの関連だな。
用意してやってもいいが条件がある"
「条件だと?」
"リディをマスターとして最後までサポートする事が条件だ"
「・・・ソレは随分とキツイ条件だな。
ウエブの大会で他のマスターに会った事もあって、このままリディに付いて行くかどうかは決めかねているからな」
"だが、悠長に決めている時間はないな"
「どういう意味だ?」
"その質問に答えるという事は、つまり、リディのサポートをするという事を了解したと考えて良いんだな"
「・・・気のせいか、トリノもキャラ変わってないか?
あと、サポートについては保留させてもらうよ」
"・・・そうも言ってられなくなる。始まるからな"
「始まる?
ソレは、最初に言ってたエリアのリフォーム云々ってモノか?」
"・・・"
トリノの無言がソレを肯定しているように感じさせた。
あと、トリノの言い分を推測して考えるならば、リディと行動しない事はオレにとってもマイナスって事か?
それとも、そう思わせる様に言葉で誘導しているのか。
条件のリディと最後までって事は、トリノとも最後までって事になるわけか。
そう考えると、条件を早めに飲んでおいた方が良いって考えもあるな。
それに、屁理屈を言えば、一緒に付いて行かなくてもサポートは出来るからな。
そうさせないようにはするのだろうけども、それならば
「トリノ。その条件飲むよ。
カードを作る事もあるけど、一応、この世界でも居場所を確保しておきたいからな」
"そうか。
じゃあ、リクの部屋に身分証明書を置いておく。数日後、銀行でカードを作るといい"
「数日後?」
"あぁ。今日は休んでおけ。マテルは有限だからな"
「その疑問に答えるにはまた条件があるのか?」
"いや、条件はないが俺が答えないだけだ"
やっぱり、今日のトリノのキャラは何かおかしい。
というか、よくよく思い出してみると、元々急に喋らなくなったり、今日みたいに喋り出したり、
喋っても適当に返したり、意外とキャラクターに統一性がない。
他のナビ職には、このトリノのような個性的なモノがあまりないようにも感じる。
コレが意味するのは、やはりオレが当初から考えていた事が真実なのかもしれないな。
ナビ職は作られたモノで、実際生きているわけじゃない。
この考えが正しいとすれば、トリノの声の主は全く別の所からオレ達を見ているって事になるのか?
ソレはリディの監視の為か?それとも別の目的の為か?
この町には色んな人が集まっているはずだ。
それならば明日までここで休んで居るのはもったいない。
「悪いなトリノ。銀行には明日行く事にするけど、暫く出かけてくる」
"外に出るなと言っている。
お前は少し自分の立場を考えた方が良い"
「なんだと」
"そこにあるモニターで中継を見てみろ"
外に出るなとはいったいどういう意味だ?
とりあえず、トリノの中に居る以上は従った方が良いのだろうな。
喫茶店にあったような液晶画面が、この居間の空間にも設置されていた。
その画面の電源を入れると、トリノの言う意味が理解できた。
数時間前まで大会で盛り上がっていたはずのウエブで一つの騒ぎが起こっていた。
大会側である青い制服の人物や、おそらくはエリア警察であろう人物達が
ウエブの町のモノと思われる建物近辺で、何かを捕まえるかのように、あちらこちらで動き回っている。
この映像を映している画面も状況に応じて、激しく移動を繰り返している。
文字情報はほとんど機能していないようだが
現場にいる者の情報が随時、更新されている状況で
幾つかの盗賊団が城を除き一斉にウエブの主要機関に侵入を開始したようである。
「ここは随分静かな感じがするが、これは本当にウエブの町の出来事なのか?」
"大会を行っているラッシュ近辺、城周辺では騒ぎが起きていないようだな。
これだけの同時侵入は今までに例がない"
「・・・オレの推測だけど、今朝リディの従妹でマテリアルのミウという女に会った。
ミウは休暇だと言っていたが、賊が侵入するという情報を得て、予め待機していたという可能性もあるな。
とすれば、侵入自体は何かの囮って事もあるんじゃないか?」
"ミウナバラに会ったのか。何か言っていたか?"
「何かとはなんだ?」
"・・・いや、聞かされてないなら俺が言う事じゃない"
「何か引っかかるが、どうせ教えてはくれないだろうから、ソレ以上は聞かない。
それよりも、この状況は数日で収まるのか?」
"戦争とかではないから数時間もあれば治まるだろうが
リクの言う様に裏があるとすれば、そちらの鎮静に時間はかかるかもしれん。
なんにせよ、数日はここで大人しくした方が良い"
トリノの建物から外を見ても平穏そのものだが
コレはこの町で起こっている確かな事件のようである。
と、この時画面には見た事のある「長髪白髪の女」が映っていた。
もう一人のマテリアル。ガンプである。
画面のほとんどを氷で固めたかのように変化させ、一気に賊を捕まえているようである。
ガンプのマテルの正体は良く分からないが、エスケで見た限りだとマテルを無効化させるように見えたが
この画面で見る限りだと、無効化させるだけでもないようだな。
それともこれぐらいは、エリアスターでなければ誰でもマテルとして使いこなす事が出来るのか?
でも、ガンプのマテルが他のモノよりも格上な感じというのは画面で見ているだけでもわかる。
「これも"始まる"うちの一つの出来事なのか?」
"いや・・・それはどうだろうな"
このウエブの襲撃は約半日かかって終結する。
オレの予想と違い城で何かが起こる事もなく
マテリアルなどのエリア警察の活躍により事態は最低限の犠牲で済んだらしい。
リディやジュリは特にこの事件について驚くことなく
ウエブだからしょうがない的な形で終わらせてしまっていた。
ただ、警備関連の影響でオレが銀行で個人カードを作るにはこれから1週間の時間を有する事になった。
その間、オレとジュリはマテルの可能性を探って色々と実験を行い
時々リディによって茶々が入り、トリノはウエブの状況について情報を出すといった形だった。
他にも通信屋でオレのレコカをベースにリディとジュリにレコカの複製を制作し
3人の情報を共有できる状況にもしておいた。
コレはトリノとの約束である、リディを最後までサポートするという部分を補う意味もある。
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そして、大会から8日経ったこの日
オレらは、ようやくウエブを出る事になる。
次なる目的地は・・・
「こうして仲間になって、こういうお願いを言うのはおかしいと思うが
一度、バローグに戻っておきたいぞ」
「オレも一度行っておきたいから反対はしないよ」
オレとジュリらの故郷扱いになっている、エリアスターが集まる町【バローグ】
そこに行けば、何かの手掛かりがつかめるかもしれないと勝手に思っていた。
リディやトリノも特に反対もしなかったが、ただ、バローグに行くまでの道のりについて問題があった。
『そんなわけでして、私にはちょっと避けておきたい町を通らないとバローグには行けないわけなんですね』
リディが避けておきたい町とは【タベス】という「エムケー」の組織が多くある町だそうだ。
他にもバローグに行くには幾つかの候補があるが、それは全てエリアスターには厳しい道のりであり
何よりリディが一番反対した為、タベス経由バローグ行きの行程となった。
タベスはマテル禁止地域ではあるが、エムケーの影響が大きいためかエリア警察の権力が薄まっている地域でもあり
ソレは裏を返すとマスターにも危険な地域という事でもある。
トリノはこういう展開になる事を分かっていて、リディを最後までサポートしろと言ったのだろうな。
リディは我儘に振る舞っているようで、オレやジュリの様なエリアスターに気を使っているようだ。
多分、マスターの中では良い部類に入るのだろうけど、オレにはやはり、合わないな。
『じゃあ、行くよ♪』
トリノが変形した車で、オレら3人はタベス近辺にあるマテルが使える町【ブロク】まで進む事となった。
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