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【ファイナル】
カード交換所の2階へ上がり、オレ達は決勝への入口へと進んだ。
中はそれまでの空間と変わりゆったりとした下り廊下が広がっている。
高級ホテルの様な赤絨毯が敷かれており、上にはシャンデリアもどきな飾りが輝いている。
『なんか凄い造りだね。ここ』
「うむ。ウエブの城にもこういう感じの場所はあったが、この町は全体的に高級志向なのだな」
エスケのサーティスの家と比べても遜色のない、ジュリの言う高級志向な建築物だという事は間違いない。
流石に周りが黄金色ではないけれど、それでもここが金というかダイアを使って造られているのも確実だ。
決勝は世界放送と言ってはいたが、そういう部分も含めて特別って事なんだろうけどな。
少し歩くとホテルのロビーのような空間に出てきた。
お決まりのようにフロントが受付場所になっているようで、リディが張り切って先へと進む。
体調は回復しているように見えるが、あれだけ気を失っていたのに普段以上にハイテンションなのはちょっと怖いな。
「これで決勝進出の受付は終了です。こちらがルール説明になりますのでよく読んでおいてください」
受付の青いスーツを着たお姉さんに規約と部屋の鍵となるレコカを2枚渡され、オレ達は上の階にある部屋と進んだ。
3人で一つの部屋って事は無いだろうけども、レコカの見た目が2枚とも全く同じモノにしか見えないのが気にかかる。
って・・・今更な話だな。
ドアの部分にレコカを差す部分があり、そこに入れるとレコカが吸い込まれて鍵が解除された音が響いた。
これまでの建物同様に、室内に差し込んだレコカが飛び出している状態になっているようだ。
ここは一室というより、リディが作ったナビ職の家のような感じになっていた。
一室の中に複数の部屋の入口がある構成というのは、エスケの時もそうだったがこの世界では当たり前という事か。
なお、2つのレコカは全く同じモノで一つが予備鍵という事なんだろうが
使う機会は・・・
オレらの場合十分あり得るな。
とりあえず、一人の空間となる部屋があるのは助かる。
と言っても、ソコで落ち着けるのはまだ先の事で
早速リディ達がオレの部屋に集まり作戦会議的な事を始める事になる。
「まずは、ジュリが言っていた噂についてから始めるか」
「うむ。リクも知っていると思うがキユウという青年についての噂だ」
またキユウか。
"あの説教男"が言いふらしてるネタかもしれないが、やけにここにきて絡んでくるな。
「どういう噂なんだ?」
「参加者の【○】レコカを奪っているという噂だぞ」
あの男が言っていた"厄介"と言うのは、【○】レコカネタという事か?
一応、話の筋としては繋がっているようだが・・・
「奪っている?
それが本当だとすると、あの時のカードバトルも危なかったのか?」
『んー。二人は会った事あるんだ?ユウキって子』
「キユウな。
しかし、なんでそんな噂が流れてたんだ?」
「正確には奪っているというより、キユウに【○】レコカを渡しているって事らしいんだ」
「渡している?」
「そこがウチにも良く分からない点で、その話の主が言うにはそういうマテルがあるんじゃないかって言うんだ」
「無条件に物を人に渡すマテルって事か?そんなご都合的なマテルがあるのか」
・・・いや、これが事実だとすればカード交換所に居た者が2階に中々上がらなかった事も理解できる。
リディとジュリがエネジスを探しに数時間抜け出して、オレは一人でカード交換所に残っていたあの時
他にも数組が1階に残っていた。
ここではバトルが禁止されているから防衛の意味もあるのだろうが、レコカを集めきらなければ何の意味もない。
オレらが決勝進出5番目であることからも、あの場所で待機していた全員がオレと同じ状況というのも考えにくい。
それこそ、数組全員がエネジスなどを集めるために待っているなんて、それこそご都合主義な展開だ。
・・・とは絶対言えないのが、この世界でもあるけどな。
「だけど、ウチはちょっと違うように考えてるんだ」
「ん?どういうことだ?」
「レコカを渡すっていうのはカードバトルをしないと不自然になるから、カードバトル自体に細工をしてるんじゃないかと思うんだ」
「じゃあ、ジュリが戦った時は例外だったと?」
「いや、ウチは【○】のレコカを持って居なかったからじゃないか?」
「あぁ・・・なるほどな」
『でもね〜本当は、その説を考えたのはこの話をしていた男の人なんだけどね〜』
「む・・・マスター。それは言わない約束だぞ」
『でも、リッ君は勘がいいから、ばれちゃうよ』
話をしていた男・・・か。
これで益々"あの説教男"の可能性が高くなってきたな。
いや、ちょっと待てよ。
確かに今の仮説はジュリが考えたとは思えなかったのは確かだけど
それだとキユウとのカードバトルも話したって事か?
「その説を喋ってた男には、どこまで話をしたんだ?」
「む。やっぱりリクも疑ってるのか?」
「疑う以前の話だ。オレ達の情報を第3者に話すって事は、決勝では不利になる場合も有り得るからな」
「む。それはすまなかったぞ。
向こうがキユウの話をして来たから、ウチがキユウとカードバトルをした事は話した。
それで、キユウが【○】レコカ奪ってるという噂の話になって、ウチが【○】レコカを持ってなかったから
きっとキユウは、奪うより貰ってるという説になってだな」
「キユウとのバトル以外の話もしたのか?」
「いや、リクの教えを参考にバトルをしたという事は言ったけど
それ以上の話をしなかったぞ。
向こうはウチ達を知っているような言い方もしてたけどな」
『ま〜それは私が居たからかもね』
このリディのセリフからして、話し相手は"あの説教男"で間違いないだろう。
「リクの事も知っている風だったから、キユウとの話をしたというのもあるぞ。
その男、確かストレンジャーという名前だったはずだな」
「あぁ、知っているだろうな。
予備予選前の会場でリディが受付の割り込みした時に、周りを説得をしていた男だろう」
"あの説教男"はストレンジャーという名前か。
どこの戦隊だよと言いたくなる名前だな。
・・・いや、これは何かに突っ込みたくなってるだけだな。
ジュリ達の行動で、これぐらいの"些細な"情報漏れは覚悟しておくべきだったんだろう。
『え〜?割り込みってそんな事ありましたっけ?』
そして、この"マスター"のセリフ。
・・・分かってて言ってるのがみえみえだ。
「あぁ。覚えてないならもういい」
「ウチはなんとなく覚えてるぞ。何処かで見た気がしていたのはそのせいか。
勝手にウチ達の事を話したことは謝るが、やはり疑っていたのか?」
・・・一体ジュリはオレに何を回答させようとしてるんだ?
「キユウをか?オレはそう思わなかったけどな」
こうやって"誤魔化す"しかないか。
「いや、ウチの予想話についてだぞ」
「正直驚いたというのが本音だな。キユウについてはノーマークだったし」
「そ、そうか」
『え〜リッ君らしくないなぁ。なんだ。隊長の勝ちかぁ』
何の話をしてるんだ、この"マスター"は。
「む、すまん。リクには関係のない話だな。
ただウチもリクと同じで、キユウが噂のように【○】レコカを手に入れていたとは思えないぞ」
「・・・いや、カードゲームな以上は【○】レコカを手に入れるのは理にかなってるよ。
他のレコカと違って1枚しかないわけだしな。
驚いてるっていうのは、キユウがカードゲームを狡猾にやっていたという点だよ。
カードゲームのルール的に【○】レコカを使う事は無いから、おそらくオレが水女とエネジスをかけてやったのと同じ理屈だろう」
「うむ。ウチでも何とか勝つことができたぐらいだからな。驚くのも無理ないな」
『ユウキ君とは決勝でも戦う相手だよね。リッ君優勝大丈夫?』
「だから、キユウな。
優勝するには誰が相手でも勝つしかないだろ」
『お、という事は対策も万全ですか?』
「茶化すな。まだサッと規約に目を通しただけだ。
体力系なイベントではないみたいだからオレ的にはやりやすいけどさ」
「リク。話を変えて悪いんだが、確か前に水女がエネジスを沢山持って居るようなこと言ってたよな?」
「あぁ。予選開始の時にオレ以外の参加者のエネジスを奪ってるからな。
そしてオレも、カードバトルの件もあってその水女にエネジスを渡す必要があるけどな。
渡さずに罰金を払う方法もあると言えばあるが」
「うむ。・・・それは返さなくても済む可能性があるという事だな」
「罰則金を支払すればな」
「うむ。それはわかっているんだが
今はどちらも予選突破してるから、この後にカードバトルをしても罰則金の対象にならないという事でもあるよな?
それならば、もう一度勝負して帳消しにする方法を取ればいいんじゃないのか?」
「そう出来れば一番理想的だが、水女にとってよっぽどの好条件がないとバトルには乗らないだろうな。
罰則金の支払いは大会終了の時で良いみたいだし、それならば決勝で優勝するための対策をする方が現実的だ。
勿論、水女には何だかの布石を打つつもりだけどな」
「そうか。そうなるとこちらのエネジスの一つが無くなる可能性もあるのか・・・」
「気持ちはわかるが、これからは肉体系バトルは禁止されてるし
カードバトルにしてもこの後の決勝の事を考えると、水女とは一度戦ってるだけに
手の内という意味でも進んではやりたくない相手だな」
「む。だったら、ウチがやるぞ」
「ジュリもわかってると思うが、水女はオレよりも上手だ。裏をかかれて結果的にエネジスを更に奪われる可能性の方が高い」
「いや、リクでさえそう思うんだから十分ウチの考えでもその裏をかけると思うぞ。
正確にはマスターにも手伝ってもらうけど」
『え?何かするの?』
「・・・どういう事だ?」
「ウチとマスターで水女と勝負するという事だぞ。向こうはウチ達ならば負けないと思うだろうからな」
「いや、それはわかるんだが、どうやって勝とうとしているんだ?」
『あ、わかった。色仕掛けして油断させるんだね』
・・・。
これには流石のジュリも呆気にとられてるな。
この適当加減がリディらしいといえばそうだけども。
「マスター・・・相手も女だぞ」
って、ジュリもそっちに突っ込むのか。
話が纏まらなくなるな。これは。
「あ、いや、ジュリの策は見当つかないけど、水女には決勝まで無理に絡まない方がいい」
「前にも言ったけど、ウチは予備予選で一つも正解する事が出来なかったんだ。
それでもウチ達は予選に出る事が出来た。
ここまで言えばリクにはわかるだろ」
「・・・だいたいな」
ジュリと合流した時にその話を聞いていたが
改めて思い出すと、予備予選の時の5種類のレコカ当ての結果は
オレが10回4セットで14つの正答で、3セット目までだと8つの正答しかしていない。
30以上の正答で予選進出という点を考えると、リディは4セットで16以上正答していたわけだ。
だが、コレだとオレと大した変わらない結果に見える。
「リディはいくつ正答してたんだ?」
『ん?予備予選ってレコカの種類あてだよね?
隊長にも話したけど、よく覚えてないけど、半分ぐらいじゃないかな〜』
半分となれば4セットで20ぐらい正答している計算になる。
ただ、4セットで3人の合計が30程度で予選進出したとは考えにくい。
ジュリのような状況でなければ、余程の事がない限り3セット目で30近くの正答をしているチームがほとんどのはずだ。
一人3つと単純に計算しても4セットで36になるしな。
その仮定だけでも、リディは22以上の正答が無いと予選進出は無理という事になるから
実際はもっと正答している可能性が高い。
ジュリはおそらく、その正答率の高さをイメージして、リディを使ったカードバトルをすると提案したのだろう。
「リディを使って仕掛けをするという考えだろうけど、それでは水女には勝てない可能性が高い」
「む?」
「まず、リディがレコカを当てる確率が100ではないからな。
予備予選の事から考えれば、大まかに当てる事は出来るというぐらいだろう。
それでは、水女が使いそうな心理的な誘導には勝てないだろうな」
「マスターの場合、誘導とかはあまり効果がないように思えるんだけどな」
「あぁ。誘導には乗らないかもしれないが、裏が読め易いという点でカモにされるだろうな。
とにかく、そういう裏の読みなら向こうが断然に上手だ。
確実に勝てる裏の策がない限り、水女と戦うのは止めた方が良い」
ジュリも一緒にいて気が付いていないとは思えないが
水女とのカードバトルは勝負としてはオレが勝ったと言えるが、仕込みの部分で水女が上手だった。
ジュリにはオレが勝負に勝っていたから、リディでもいけると見えたのか?
「うむ。それぐらいでは駄目という事か。
ウチには頭使う心理的な物は良く分からんぞ」
「リディに任せれば万一というケースも稀にあると思うが、それは偶然的なモノというだけで、狙って勝つことは無理だな。
それに、水女もマスターが出てきた時点で勝負は避けるだろうし」
「む、そうか。勝負させる選択肢も無くなるんだな。
こういうのは、やはりリクに任せる事にするぞ。ウチなりに考えたがやっぱ駄目だな」
いや・・・実はそうでもない。
考え方自体はジュリの思いつきなのだろうが、リディの万一を偶然ではなく必然にすれば良い事だけだ。
だが、それを今実現するわけにはいかない。この作戦は決勝まで取っておくべきものだ。
決勝戦のルールを確認しながら、オレは密かに策を練っていた。
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決勝ルールは予備予選に近いモノだな。
簡単に言うと大きな丸テーブルのようなモノに5チーム代表の一人がそれぞれ囲むように座り
"6種類"のレコカを1枚だけテーブル上に裏向きで出して、それぞれの中身を当てるだけというモノで
5回当てられたチームが脱落していくサバイバル戦になっている。
残り2チームになった時点でまたルールが変わり
6種類目のレコカとなる【ブランクレコカ】を相手が場に出したのを当てるか
逆に、ばれないように3回ブランクレコカを場に出したチームが優勝となる。
相手のブランクレコカを間違って指定した場合、それ以降その人は参加出来なくなる。
3人とも間違って参加者が居なくなっても相手の優勝が決まる。
ちなみに参加復帰させる事も可能で、それは相手が場に出したレコカの種類を当てる事で可能であり
ブランクレコカ以外を指定して間違っても特にペナルティはない。
ブランクレコカは名前の通り記号が何も書かれていなく、数字のみが描かれている白紙のレコカである。
予備予選では自分との勝負だったが、決勝は相手との戦いで
2チームに残るまでは、いかに厄介なチームを蹴落とすかの戦いになるな。
残ればレコカ当てを優先するか、ブランクをいかに上手く出すかの探り合いになる。
当てる方は1回だが、自分で出す方は3回を必要とする為、
上手く相手のブランクレコカを当てるかが勝負の行方とも言える。
復活の可能性もあるが、実質戦線離脱になるので間違えさせる作戦も有効といった感じか。
コレが世界中継されるようだが、実に地味なカードバトルと言わざるを得ないな。
モンスター的な絵が描かれているカードをドローして、そのモンスターが具現化するバトル的な方が映えるとは思うのだが
この世界の人というかウエブの人の感覚は良く分からないな。
2チームに残れば一人でなんとかやれるかもしれないが
その前に3チームを上手く方付けないといけない。
その為には、こちらがあまりカードバトルを得意としないように見せつける印象も必要だ。
そうなると序盤はジュリに頑張ってもらう形になるかもしれないが
そもそも、水女のチームやネルソン・ヴィルのチームが居る以上、ソレも期待できない。
あとは、カードを変化させる事について特にルールにかかれていない事を考えると
現時点では、メレオンを持っているクラークが居るネルソンのチームが一番厄介という事だな。
予備予選の時【○】が10個並んだ正答をモニターで見せつけられた事もあったが
これもクラークの仕業だろうしな。
逆を言えばネルソン達を2チームに残すのが一番危険という事になるな。
その為にはどこかのチームと一時的に手を組む必要もあるが、
"あの説教男"ことストレンジャーのチームが組みやすいか?
あとは、キユウが誰と組んでいるかにもよるな。
言うまでもないが、水女のチームも2チームには残せないから、
場合によっては手を組めるチームもないかもしれん。
そもそも1日で上手く誘導させる方法を思いつく程、オレは頭の回転が良いわけでもないからな。
考えれば考えるほど、ドツボにハマる感じすらする。
リディとジュリとも解散しそれぞれの部屋に戻って休んでもらった。
特にリディは体力が落ちているはずなので、早めに休んでもらうという意味もあった。
そしてオレは、グチャグチャになった頭を冷やすために、部屋を出て何処ともなく歩いていた。
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リクには休めとは言われたが、流石に寝るにはまだ早い時間だな。
そのリクも何処かへ出かけたみたいだしな。
マスターはすぐ眠ったようだけど、ウチはどうするか。
ウチには正直もう何もする事が出来ない。
マスターによって予備予選を通過し、リクのカードバトルで予選を通過した。
ウチといえば、ここまでサポートを少ししただけで、カードバトル的な決勝でも役に立てないだろう。
それでいて、決勝の結果に関係なくエネジスを二人から貰う約束もしているんだ。
リクにもマスターにもついていくべき理由がウチにはある。
だからこそ、ウチは何とかしてリクやマスターの役に立っておきたかった。
水女からエネジスを得る事が出来れば、ウチでも役に立てると思った・・・。
む?
どうやら、呼び鈴が鳴っているみたいだな。
流石のウチでも、リクが鳴らしてない事だけは理解できるぞ。
「誰だ?」
「ボクですヨ。
メレオンの件で話がアリマす」
ク、クラーク!
ウチは今にも攻撃しようとしたい気持ちを全力で抑えて、ドア越しでクラークの話を聞こうと続ける。
「喧嘩を売っているのか?ウチがそんな事で話を聞くとでも思ったか」
「ケンカというモノじゃないですヨ。
彼はリク・・・と言いましたカ?彼はボク達の手の上にアリマす」
「それは・・・リクを捕まえているという意味か!」
「想像にお任せシマすよ」
リクが簡単に捕まるとは思えないから、クラークがハッタリをかけているとは思うけど
今更、メレオンまでダシにして何の用なんだ。
「決勝まではバトルは禁止のはずだぞ。それにリクはウチと違って簡単に捕まる男じゃないと思うぞ」
「戦いはシナイですヨ。それとズイブン、彼の事を買ってイルんデスね。
信じるかはアナタ次第デスけどね」
「む」
「メレオンの件というのは、条件付キでアナタにメレオンを渡す事デスよ」
「メレオンを渡すだと・・・」
「エェ。外で話すのはちょっと困るのデ、中で詳しい事をお話シマすよ」
「そんな話で信用するわけがないだろ。ウチをバカにしているのか!」
「勘違いサレると困るケれド、アナタがココで駄々をコネル事は
あの彼が決勝に出られナクナる事ダ。
アナタには選択する余裕ナンカないはずだヨ」
「む。余計に意味が分からんぞ」
「ボクはメレオンを盗まナイとイケない事情があッタ。
アナタは運が悪カッタとしか言えナイ」
「事情があろうとも、信用できるわけがないぞ」
「分かりマシタ。残念ながら彼には表舞台から消えて貰いマス。
アナタはいつもそうやって、周りを見ずに行動するノですネ。
ブルックスの言う通りの女性ダ」
そういうと声が消えた。
当然クラークはブルックスと繋がっている。
そして、ブルックスは「エムケー」というよく分からない組織に属している。
シロクロを「エムケー」絡みの病院に連れて行ったのもブルックスだが、その時のリクは「エムケー」について何か知ろうとしていた。
もしかしてリクが部屋から出て行った事と関連があるのか?
だとするとクラークの言ってる事は本当な可能性もあるな。
それだとしても、今更メレオンを条件付きで渡すっていうのもおかしな話だぞ?
むむ。
ウチらしくない。こんな考えはウチらしくないぞ。
そう思った瞬間にウチはドアを開けてしまっていた。
そこにはドアから少し離れた所で、ウチが出てくるのを分かっているかのように黒マントの男が立っていた。
「聞いて貰エル気になりましたカ?」
「まずはリクを自由にするのが先だぞ」
「彼を捕まえてはイマせんよ。ただ何時デもこの会場に居ル限りは手を打てル状態という事デスよ」
「む。やっぱり意味が分からんぞ」
「アナタはこのメレオンを取り戻す為にこの大会に出たんじゃナイのか?」
そう言うと、黒マントから何色にも変化するエネジスが現れた。
「そうだけど、だが、盗んだ本人が返しに来るなんて怪しいにも程があるぞ」
「ボクの目的はメレオンを盗む事で、メレオンを守る事にアルからネ」
「むむ。ますます意味が分からんぞ」
「アナタが国王の宝の一つデあるメレオンを盗まレテも、城の警備を永久に追放されたダケで済んだ理由がアルのですヨ。
これ以上は、部屋の外で話すのは危険だネ」
確かにウチはブルックスにも騙されてたとは言え、状況的にメレオンを盗ませる事に協力していたと思われていてもおかしくなかった。
しかも、盗まれたのが国王の宝と言われるエネジスだという事も考えると、
処刑もされず、ただ城の警備を解除されただけで済んだ処分というのは確かにおかしいとは思う。
信用したわけじゃないが、どういう状況になっているか分からないリクを助ける手段も、今はクラークに逆らう手段もない。
黒マントを部屋に入れてしまった。
ウチは護身用に常備している鉄製の釘を一つ手に掴むと即座に槍へと変形させた。
「場合によっては失格覚悟でクラークを倒す!」
「相当警戒サレてマスね。当然ナノでしょうケドも。
デモ、そのママで良いので聞いてくださイ。
ボクとブルックス君はメレオンを盗むという点では協力関係にアリマした。
この大会に出てメレオンを使って優勝するまでボクがメレオンを使用し、その後ブルックス君に渡すという関係デス」
「ブルックス君が喋っタカは分かりませンガ、彼は「MK」と呼ばレる組織役員の一人です。
ソレはこのウエブの大会のメインスポンサーになッテイる【マテルズキャッスル】、通称「MC」が表向キの組織名で
MKは裏とイウか本当の顔ナノです。
そして、ブルックス君は表向きの組織でアル「MC」の資金を蓄えル為に、ウエブが用意したエネジスを大会参加者から奪ってイルノです」
「他にハ、アナタも遭ったト思いマスが、フレンツという円剣の暗殺者を使って大会参加者のバランスを取ったりもサセてます。
ソレはこの大会の裏で行わレテいる「賭け」の関係で、コチラはウエブの方で用意シタ暗殺者です。
更にバラすと、ウエブとボクは協力関係にアッて、ボクを優勝させル為にフレンツがチームを選別もシテいルのです」
「スポンサーの関係上、ウエブとMCつまりMKは繋がっています。
ボクとブルックスが協力関係にナッタのもそのセイですが、メレオンに関してだけは別で
ウエブはメレオンをワザとボクに盗ませたコトで、MKに流れるノを阻止してイルンです。
ボク、つまりウエブ側は、決勝が終わっテもメレオンをブルックスが居るMK側に渡すつもりは最初カラないンデす。
そういう理由もアッて、展開的にアナタにメレオンを託す形にナッテいるわけです。
ただ、タダでは無理ですケドね」
随分と長い事クラークが喋ったな。
MCことマテルズキャッスルは流石のウチでも知ってる有名企業だが、
それの裏の顔が「エムケー」と呼ばれる組織で、ブルックスはそこに絡んでるという事はわかったぞ。
で、このクラークはウエブに雇われた盗賊だという事みたいだが、この手の話はリクにも聞いて貰いたかったぞ。
メレオンが最初から盗まれる前提だったというなら、ウチは何のためにここまで来たんだ。
「ウエブがアナタとブルックスを警備ペアにした事にモシカしたら意味があるノカモしれませんガ、ボクにはその真相はわかりマセン。
だから、先程も言いまシタがアナタは運が悪カッタのでしょう」
「ウチが仮にメレオンを取り戻したとして、ウエブに返す保証はないだろ」
「いいえ。アナタはそういう事は出来ない方でスヨね。
ボクは決勝終了後にブルックスへメレオンを渡す事になってマスが、
アナタの様なメレオンを取り返す事に必死にナッテいる者に奪われたトイウ理由がアレば
ボク的にモ都合がイイでスシ、今後ブルックスを含むMKは再び城に行ってメレオンを盗むノガ難しくナリます」
ウチが取り返したという形にして、メレオンをウエブに戻すまでが当初の目的なら
確かにクラークのやっている事はおかしな事ではないが、なんかひとつ引っかかるぞ。
「今まで話だと、クラークはメレオンを盗む為にブルックスと協力した事になるが
それを抜きに盗賊として、元々メレオンを狙っていたんじゃないのか?」
「意外と鋭いデスね。そうデス。僕にとッてメレオンは狙っているエネジスの一つデスから。
ウエブ側はメレオンを盗み易くしてクレるという約束をしてイマシたが
僕はそうイウのを好まナイので、シッカリと厳重に警備して貰ってイマシた。
ただ、盗み終わッタらエネジス自体は用済みです。
ボクは盗む事に生きがイヲ求めてるのでエネジスを集める事には興味がないンデスよ。
それに今回ウエブに協力する形になッタ最大の理由は、報酬が出るという部分デスから」
これがウチにとってもクラークにとっても悪くない話って事は分かったぞ。
だが、タダではないとも言ったはずだ。
「その報酬とはどれぐらいなんだ?」
「はい。ボクはメレオンを返した際の報酬として10000万ダイアをウエブ国王に要求しテイます。
実際はソレ以上の価値はアルと思っていマス。
流石にアナタにその同等額は難しいデショうけど、色々考慮して6000万で手を打ちマショウ」
「そ、そんなダイアは2回優勝しないと払えないぞ」
「適当に6000万と言ったワケでもナインですヨ。
腕輪のエネジスがボクの計算だとひとつ2000万と見てイルンです。
つまり、3人分のエネジスがアレば交換に応じマスよ」
「ウチが交換に応じなかった時はどうする気だ?」
「ボクの代理がウエブに行ってメレオンを返すまでです。
でも、アナタはボクを完全に信用してないでしょう。
それなら自分でメレオンを取り戻しテ渡す方が良くないデスか?」
「だが、獲得出来るダイアがウチに渡した方が少ないだろ?
やはり怪しいぞ」
「先程言っタように、ボク的にはアナタに渡ス方が、MKとかブルックスに遭った時に都合がイイんですヨ。
タダで渡す方が不気味でショウし、それとも同じく10000万ダイアにしまショウか?」
「い、いや、額はそのままでいいぞ。
・・・少し、考えさせてくれ」
「ボクは日付が変わるマデこの建物の屋上ニ居ますので、ソノ前に来てくだサイ。
ソレまでに来なケレば今回の話はなかった事にナリます」
「・・・うむ。一応、分かったぞ」
まさかのクラークとの交渉。
黒マントの男は静かに部屋を出て行った。
ウチには半分以上信じられない状況だったが
仮にクラークがメレオンを渡さなかったとしても、今回の話をネタにどうとでも出来る。
それにリクに話して・・・
あ、しまったぞ。リクは今どうなっているんだ。
ソレを確認しなければ交渉も何もない。
急いでクラークを追うために部屋を出たその瞬間、一つの物体を軽く弾き飛ばしてしまう。
「む。すまん。少し急いでいるんだ」
「ちょっと待ってください」
「む?」
弾き飛ばした方を見ると、よく見た人影がそこには居た。
「今さっきですが、ワタシの見間違いでなければ黒マントの男が部屋から出て来ましたよね?」
「う、うむ。隠してもどうしょうもない」
それはキユウである。
【○】レコカを奪っているとかの妙な噂も聞いたが
こうやって直接会うと不思議とその噂が胡散臭くなってくる。
「今その黒マントの男を追っているんだ。すまんがまた後・・・?」
ん、なんだ?
えっと・・・ウチは何をしようとしていたんだ?
少し考えたのち、転んでいたキユウを起こす為にウチは手を差し伸べた。
「何か事情があるみたいですね。ワタシで出来る事があれば話を聞きますよ」
「う、うむ?」
ゆっくりとキユウは立ち上がった。
何か釈然としない状況だが、ウチはとりあえずキユウを部屋の中に案内した。
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「そんな事があったんですか」
気が付いた時には、何故かキユウにクラークと遭った事の経緯を喋っていた。
ウチはクラークを追わないといけない気がしていたのだが、どうも勘違いしていたようだ。
「あと、噂なんだが、キユウが他チームの【○】レコカを手に入れてるという話もあったぞ」
「確かに幾つかカードバトルはしていましたからね。
ワタシに負けた人が話を大きくしている感じもしますね」
噂は所詮噂という事だな。
キユウに軽く肩を叩かれて、噂の事も正直気にならなくなっていた。
「問題は、クラークにエネジスを3つ渡すと、ジュリレスターさんがエネジスを持って帰る事が出来なくなる点ですね」
「うむ。そうなんだ。
いくらリク達がエネジスをウチに渡してくれるとは言っても、この条件だと何も得るものがなくなってしまうんだ」
「それなら、クラークの仲間からエネジスを得るというのはどうでしょうか?」
「む?」
「最終的にエネジスを一つ失う事にはなりますが、カードバトルをしてエネジス2つを手に入れる方法です。
クラークの仲間2人とカードバトルをするのですが、それぞれの勝利条件を変えます。
こちらが勝てばエネジス2つ。向こうが勝てばメレオンを渡すという物です」
「む?ウチはまだメレオンを持ってないぞ?」
「そうですね。これは負けなければ実際に必要ないんです。
ジュリレスターさんとリクさんにしてやられた作戦を応用すれば、まず負けないでしょうし」
「だが、こんな時にカードバトルをするとは思えないぞ。
それにクラークの仲間なら、クラークがメレオンを持っている事を知っているはずだろう」
「そうですね。
でも、メレオンの所在はどうなっていても相手には問題ないんです。
それよりも「負けたらメレオンを渡す」という条件によって
相手は、こちらがクラークからメレオンを得ようとしている事を理解する事が出来るんです。
そうなる事で、こちらの勝利条件の「エネジス2個」という中途半端な数が
メレオンとの交換条件にはエネジスが使われるだろうと推測させる事にもなるんです」
「むむ。そういうものなのか?」
「クラークの仲間である2人の事はワタシの仲間から聞いているので、だいたい推測できます。
リクさんのようなタイプの選手が一人いたので、おそらく状況から推測してくれると思いますよ。
あとはもう分かっていると思いますが、こちらが勝つ事でクラークに渡すエネジスをこちらで用意するのが1つで済む形になります」
キユウが最初に言っていた「最終的にエネジスを一つ失う事になる」って言う話は、
クラークとメレオンと交換する際に使うエネジスが、クラークの仲間二人の分とウチ達の一つ分になるからという事か。
それなら、ウチのエネジスを犠牲にすれば問題ないな。
問題があるのは、クラークが本当に日付が変わるまで屋上に居るのかという事と、本当にメレオンと交換するかという事だ。
「その点は問題ないと思いますよ。
日付が変わるまで屋上から移動しないという事は、それまで部屋には戻らないという事ですから。
メレオンを本当に渡すかは別問題として、メレオンをエサにエネジスを得ようとしているわけですから
クラークは本当に屋上に居ないと意味がないわけです。
罠を仕掛けるにも、この建物は戦闘などで破壊されるのを防止する為だと思いますが、
マテルを吸収する素材で出来ているようですから、メレオンで幻覚を作っても効果がないでしょう」
キユウはウチの疑問にあっさりと答えを返してくれた。
それにクラークがメレオンを渡さなければ、ウチもエネジスも渡さなくて良いという事なので、
結果エネジスが増えるわけだからウチに損な話でもないという事だな。
リクから予備レコカを預かっているので部屋を出るのは問題ないけど、マスターを一人にするのはやや不安だな。
ただ、クラークの訪問のチャイムで起きて来なかった事を考えると、そんなに心配しなくても良いのかもしれないな。
幾つかキユウから勝負に向けたアドバイスを受けて、ウチ達は部屋を出た。
リクのように上手く出来る自信はないが、ウチなりに頑張ってみるぞ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ウチはキユウの言われるままに、ある部屋の前にやってきた。
部屋の前には参加者の名前が書かれているので、ここがクラークとその仲間の部屋である事はウチでも分かる。
「夜分遅くすまないな。ちょっと話がしたいぞ」
ウチはドア越しで、マスターの誘拐未遂をしたヴィルというマスターと話を始める。
「この声は〜・・・あぁ。
リディさんのお仲間のスレンダーなお姉さんですね。今開けますよ〜」
キユウにドアを開けてもらえなかった時の話法的な物を教えてもらっていたのだが
思いの外あっさりと開いたので肩に張りつめた物が一気に無くなった。
正直言うと、話法をきちんと言える自信がなかったからな。ここで小細工的な事をする展開にならなくて良かったぞ。
ヴィルが中を案内し、リクによく絡んでいた印象のネルソンという男が座ってるソファーの所まで進んだ。
妙にこの二人が落ち着いているのが気になるぞ。
「アンタはいい加減疑う事を覚えたらどうだ?
しかも、その二人は別チームメンバーだろ?」
「まぁ〜そう言うなってネルソン君。
私も何も考えずにお二人を招いたわけじゃないんですから。
明日の決勝対策の一環ですよ」
「む。そうなのか?」
「おいおい。向こうの女剣士は分かってないようだが?」
「そうか。じゃ〜何しに来たんだい?お二人さん?」
このマスターがウチ達を簡単に招き入れた理由はどうやら決勝絡みらしいな。
コレは、好都合なのか?
「ウチ達はカードゲームを申し込みに来たぞ」
「は?」
む。しまった。そのまま言ってしまったぞ。
「別チームがこうやって一緒に来てる事を怪しんでいると思いますが
これには理由があります。ジュリレスターさんはある人と交換するためのエネジスが必要だという事なんです。
そして、ワタシはカードゲームをする為の審判を頼まれて付いて来ています」
キユウがフォローに入ってくれたぞ。これ以降は任せる事にする約束だ。
「・・・交換でエネジスが必要?
で、ここに来たって事はカードバトルでエネジスをかけるという事か?」
「はい。こちらは当然ジュリレスターさんが勝負をします。
ワタシは審判として来てはいますが、アドバイザーとして一部協力はします」
「そのまま素直に勝負を受けると考えてはいないよな?」
・・・
む。キユウが何も答えなくなったぞ。
事前の打ち合わせ通りキユウが喋ったあとは向こうが何を言ってもウチは何も言わないようにはしているが
これだと・・・
「えぇ。では、こちらはメレオンをかけましょう。
これがどういう事かは、ご理解頂けますよね?」
「・・・。
あんた、いや女剣士は確かにクラークに因縁があるようには見えたが
そういう事なら一応考えてみても良いぜ?こちらはエネジス1つでいいのか」
「いいえ。最低で2個必要です。本当ならばメレオンですので、エネジス2個でも足りないぐらいです」
「そりゃそうだろうな。んで、それだけカードバトルに自信があるって事か?
しかも、こういう勝負事に強そうには見えない女剣士が戦うんだろ?
思いっきり裏がありそうだな」
「それでは受けませんか?」
「普通に考えれば受ける必要がないな。
が、アンタがその女剣士にカードバトルをさせようとしてる理由が、大よそリクが絡んでるって事は理解できる。
リクが女剣士に俺との勝負を仕掛けさせるとは思えないからな」
む?どういう事だ?
「俺が何も知らないと思っているのか?
アンタが出場者の【○】レコカを無駄に手に入れて、決勝進出者を減らす手助けをしている事もな。
大方、その女剣士を監視するついでにエネジスを手に入れようって魂胆だろ。
そうだな。エネジスっていうのはリクとの交換って所か?」
むむ。あの噂は本当なのか?
ウチは本当にこのままキユウを信用していいのか?
「その件はお答えする必要がありませんが、ジュリレスターさんがエネジスを必要としてる事だけは事実です」
「ま、仕組んだ当事者なら答えるわけがないよな。
もう一度確認するが、こちらが勝った時の条件はメレオンでいいんだな?」
「え、ええ。もちろんですよ」
「勝負の結果、かけたものが万が一"足りなくて"代役品になった場合
違約品として10000万ダイア支払いとするルールなら受けてやるよ。
メレオンは確かそれぐらいの価値があるってクラークが言っていた気がするしな」
「わ、わかりました。
ジュリレスターさん。いいですね?」
キユウが言っていた展開とは少し違う風な雰囲気だが、ウチに拒否権はないからな。
それに、負けなければいいんだ。
「ウチを甘く見ない方がいいぞ。リク程じゃないがやる時はやるぞ」
「了解。
で、一応キユウが第三者になるわけだが、第三者が不正をした場合も同様額の罰を受ける事になるが良いか?」
「ワタシはあくまで審判ですから、ジュリレスターさんが負ける事になっても手助けはしません」
むむ。これも演技なのだろうけど、本当に演技なのか?
そんな不安は一応あるぞ。
「ウ、ウチは負けないぞ。リクやマスターの為にもな」
「やるからにはこっちも本気でやるぜ。
リクには悪いけどな、アンタに負ける程、俺も簡単には出来てないからな」
数分だけお互いに作戦タイムを設ける形になった。
と言ってもウチ達は対策を練ってきているので、向こうの準備時間を設けるための物になっている。
「えっと、ネルソン君。ネルソン君。
私は何をしてたらいいかね?」
「・・・アンタはキユウが不正をしないか見ていればいい」
「まぁ、それも良いんだけどさ〜
これってちょっと怪しくないかい?」
「アンタでも気づくぐらいだから相当怪しいぜ。このバトル。
それでも俺は負けないけどな」
「確かにスレンダーなお姉さんはメレオンをダシにするぐらいだからね。
しかも、こんな時期にエネジスを奪いに来てるから、ホント健気で可愛いよね」
「アンタなぁ・・・」
かすかに聞こえる会話だが、ネルソンがヴィルというマスターに呆れている事だけはウチにもわかったぞ。
こちらの作戦というのはリクが何度かやっていた物だ。
5枚の【☆】レコカと1枚の【□】レコカを使って、相手の出方を窺うという物である。
ただ、カードを配置する時にカードの中身を見てしまうと、
ウチは顔に出やすいから絶対カードの中身を見ない事を今回は条件にしているぞ。
ウチには、どこに【□】のレコカがあるわからないって事になるし、一番最初に引いてしまう可能性もあるが
配置する時に、キユウが一言アドバイスしてくれる予定だ。
その配置が終わると、リクの時同様に選ぶカード以外を1枚ずつ表にしていく形になるな。
これで、そのカードの出方でネルソンが勝手に考えてハマっていく、という寸法らしいけど
上手く勝てるかどうかは最終的にはウチの演技力次第だぞ。多分。
「それではお互いに机を挟んで向かい合って下さい。
ワタシ、キユウがこのカードバトルの特別ルールの審判をさせて頂きます。
ジュリレスターさんが勝てばネルソンさん達のエネジス2個を
ネルソンさんが勝てば、ジュリレスターさんがメレオン1個を渡すのが条件となります。
渡すエネジスがない時は、10000万ダイアの違約額となります。お互いに宜しいですか?
なお、ワタシは一度だけジュリレスターさんにアドバイスする権限を持ちますが、ネルソンさん宜しいですか?」
キユウが改めてこのカードバトルのルールを確認して、ウチもネルソンも盾に首を動かして了承した。
お互いに腕輪からレコカを5枚出して、場の机に裏返して配置する。
ネルソンは配置前にカードの中身を確認した後に配置するが、ウチは腕輪から取り出すと中身を見ないように直ぐ机に配置した。
キユウはその配置を見て、数枚のレコカの位置を置き換えるように指示してきたぞ。
その光景を余裕の顔でネルソンが見ていた気がする。
もしかすると、ウチ達の作戦は読まれているのかもしれないな。
だが、ウチにはこれをやるしかないぞ。
「カードを選ぶ前に余分なレコカを見せてもいいか?」
「・・・別にかまわん」
「うむ。それでは遠慮なく」
そう言うとウチは、1枚、もう1枚と選択しないレコカを表向きにしていく。
勿論、作戦通りに両方とも【☆】レコカである。
「あぁ。なるほどな。
選択レコカ以外を一種類レコカで統一する戦略か。
それは、俺の予想範囲内の行動だな」
む。やはりこういう仕掛けの対策は出来てるみたいだな。
「アンタ達ならそういう手を使ってくるだろうと予想して、俺はあらかじめ4種類別々で計5枚のレコカしか腕輪に入れてない。
ま、とりあえず、選択しない残り2枚も表にしたらどうだ?」
向こうが4種類のレコカを組んでいる事はこちらも予想済みだけど、この余裕は一体何なんだ。
ウチが選ぶレコカは分かるとでも言いたいのか?
そして更に、ウチが動揺する出来事は起きる。
3枚目に開いたレコカがなんと【□】レコカだったのだ。
これは、キユウが失敗したのか?それとも、キユウが端からウチを裏切っていたのか?
動揺してはいけないけど、顔には出てるだろう。
ウチに隠し事は出来ない。それは、自分自身が一番良く分かってるからな。
「ん?4枚目は開かないのか?」
ネルソンの余裕の問いに、ウチは動揺して何も言う事が出来ない。
開こうとしている手も震えている。開かずとも残りは【☆】しかないんだ。
もう開く意味もなさない。
「も、もう、開かないぞ」
そう言ってウチは最後のレコカを選択レコカとして前の方に動かす。
その言動にキユウが残念そうな顔をしている事だけは目に映って残った。
今、ウチの頭の中は真っ白だ。
10000万ダイアなんてとんでもない額は到底無理だぞ。
違約額の支払いをしないで、リク達のエネジスを使ってクラークとメレオンと交換したとしても
そのメレオンをネルソンに渡す事になるから、結局クラークの手に戻る事になるぞ。
このままだと、この勝負はウチ達のエネジスをクラークが得て終わりになる。
仮に明日の決勝で優勝しても、ウチは雑貨屋の店主と約束したエネジスを何一つ渡せないままで終わるぞ。
「動揺しているところ悪いけど、アンタの残りレコカは両方とも【☆】なんだろ?
選ぶレコカを間違って表向きにしたら意味がないってね」
「・・・と言いたいところだけどさ、本当は別の種類のレコカが正解って所か?
抑々、その選択レコカには、分からないようにだけど微妙に他のレコカと違う印がついてるんだよな。
というかアンタな、カードの中身見ないで机に配置してるんだもの、それじゃ端からレコカの種類限定してますよって言ってるようなもんだぜ?」
「んで、キユウはこの印が見つかる事が前提の戦略を取っていたんだろうけど、それは逆効果だな。
俺を出し抜くために、女剣士にも嘘をついていたんだろうな。
恐らく、印が付いているレコカが【□】レコカだと女剣士には言っていたんだろう。
そうしないとカードの中身を見ずに選択レコカを選ぶ方法がないからな」
「今の女剣士の表情は、印のレコカが【☆】であるという一つの証拠にはなるだろう。
それが女剣士の演技だとすれば、俺が騙されてるって事にはなるが、それは残念ながらないだろうな。
何より、女剣士が演技できないであろう事は、数回しか会ってない俺でさえ分かるからな」
「ま、キユウの戦略としてはさ、一つは女剣士が表情に出やすい事を利用した作戦が取れる事。
もう一つは、先に【□】を出す事で、俺に印のレコカを【□】だと思わせないように印象付ける事があるんだろうな。
【□】だと思わせないように仕組んだ理由はただ一つ。
俺がその裏を読んで、本当は印のレコカが【□】だと推測させる事にある。
裏を読むことで、俺の選択レコカを【☆】にするように仕向けるのが、キユウの本当の狙いだったんだろうな。
そうなると、女剣士も知らないと思われる、本当の印のレコカの中身は【≡】って事になる。
この流れからいくと、俺は【+】を選ぶのが正解のようにみえるわけだが、ここまで考えると逆に囮になってしまうな」
「元々、【□】だと思わせないように仕組んでいる裏を読ませるわけだから
本当に【□】が正解だった場合、俺は【+】を選ぶと負けるって事だしな。
そんなわけで、どういう展開でも一番安全になると思われるのが【≡】って事だ。
このレコカを選べばほぼ100%負けはないと言い切れる。
女剣士が思っている通りの【☆】でないと、この勝負は俺に勝ち目はないが、負けない為にもまずは安全策を取らさせてもらうよ」
小難しいネルソンの雄弁が続くが、ウチには何も言い返す余地がない。
というよりも、何を言っているかわけが分からないぞ。
何というか、リク以上にこのネルソンはやり手な気がするぞ。もしかすると水女よりも上手かもしれないな。
ちなみに、このカードバトルの勝敗の付け方は
| 【□】 | → | 【+】 |
| ↑ | × | ↓ |
| 【☆】 | ← | 【≡】 |
| *矢印の方向に勝つという意味(「□」と「+」なら「□」の勝ち) *斜めに当たる部分はあいこになる(「□」と「≡」は引き分け) |
||
こうなっている。
キユウがまだ何かを仕組んでいれば何か手があるかもしれないが、そのキユウも目を伏せて諦めた表情をしている。
・・・ウチに出来る事は、何もない。
「お互いに選択レコカを前に出して表にして下さい」
機械的なキユウの声が響く。
ウチは目を伏せたまま選択したレコカを表にする。
諦めたように目を開けると、ネルソンは当然【≡】のレコカを表にしていた。
ウチは手を放すと、負けという現実を見せられる為に嫌々ながらそのレコカを見る事になった。
???
ネルソンもウチも、わけがわかってなかった。
ウチが選んでいたレコカは、まるでクラークがメレオンを使ったように変な記号を示していた。
【+】
そう。ウチはあり得ないレコカの記号を表にしていたのだ。
「なん・・・だと?」
「・・・ウチのレコカだよな?これは」
「そうです。ジュリレスターさんの勝ちです」
「おい!ヴィル。キユウが変な事してなかったか?」
ネルソンは慌てたようにヴィルというマスターに確認をしているが
ヴィルは首を横に振るだけで幻覚ではない事を伝えていた。
一体何が起きたのだ?
「ジュリレスターさんもネルソンさんも驚かれるのは当然です。
これはワタシが仕組んだちょっとした仕掛けです」
キユウが何かをしたという事か。
でも場合によってはそれはマズいんじゃないのか?
「ワタシはジュリレスターさんには中身を一切知らせずに今回のレコカを選択していますが
腕輪に入れたレコカは5枚のみです。
その中身は【☆】3枚。【□】1枚。【+】1枚という構成です。
あと、印を付けた事についてはネルソンさんの読み通りです。
ただそれはワタシが【+】レコカだという事が分かるようになのです」
「む?」
「確かに、ネルソンさんの説明通りの読みでいけば、こちらが【+】を選ぶことは一番有り得ないわけです。
しかし、ワタシはネルソンさんがどう読んだとしても、【≡】を選ぶ可能性が高いと思っていました。
それは、ジュリレスターさんに【□】のレコカを途中で出させた事が全てです。
【□】が出た事で、ネルソンさんの中には【□】レコカが罠だと感じさせることが出来たというべきでしょうか。
そう思う事で、【□】レコカに一番影響のない【≡】レコカを選びやすくしたとも言えます」
「へぇ。女剣士の分かり易い表情変化と【□】レコカの存在で俺は逆誘導されたってわけか。
【□】を意識させる事で、選択肢を無意識に減らさせたわけか。
俺が裏を読んで安全策を取る所までが戦略だったとはな。
キユウって言ったか・・・正直やられたわ。
だが、決勝前に本質を見る事が出来てこちらとしてはありがたいぜ。
このエネジス2個で済むなら安い授業料ってもんだ」
これはウチでも分かる、負けた時の強がりだな。
難しい話はウチには分からないが、キユウの策にネルソンが負けたという事なんだろうな。
「で、ネルソン君。2個って事は私の分も渡すって事かい?」
「クラークが居ないんだからそうするしかないだろ」
「それは参ったね〜。ネルソン君が勝てると踏んだから私は何も言わなかったけどね
このエネジスはね〜」
「心配しなくてもこれは返ってくる。
負けたらメレオンを渡すっていう時点で、向こうはクラークと交渉してるって事だからな。
逆にアイツに交渉してやるよ」
「うーん。いまいちよく分からないね〜」
「いいからさっさとエネジス出してくれ。アンタの話はこの2人が居なくなってから聞いてやる」
「まったく。ネルソン君はいっつもこうだよね。
仕方ないね〜。リディさんのお仲間って事でここは譲歩しますか」
わけの分からない事を言っているマスターだが、
とにかくこれで二つのエネジスを手に入れる事が出来たぞ。
何か仕掛けられないかを警戒しつつ、キユウを先に部屋から出させてからウチも部屋を出た。
部屋を出るまでは気を抜くなとキユウは言っていたからな。
おかけで油断する事なく部屋を出る事が出来た。
「これで後はクラークとの交渉ですね」
「うむ。キユウには何か礼をしないといけないな」
「特にいいですよ。
それに今回の事でワタシがネルソンさん達と繋がるきっかけになりましたから。
コレは決勝に向けて大きな繋がりです」
「む?良く分からないぞ」
「今のはこちらの話ですので、分からなく大丈夫ですよ。
それよりも、一つ気に留めておいてほしい事があります。
この手の大会で決勝に出るという事は世界に顔を売る事になります。
ワタシはその覚悟を持ってここに臨んでいますが、売れると悪い面も出てきますので注意してくださいね」
「それは考えていなかったぞ。ウチはメレオンとダイアを得る為に大会に出ただけだからな」
「・・・となると、リクさんとは元々のお仲間ではないようですね」
「う、うむ。ウエブで仲間になったぞ」
「それなら尚更気を付けた方が良いですね。
ご存じだとは思いますがリクさんはエリア警察関連と繋がりがあるようですので
何だかの契約をしているのなら、目を付けられていると思った方が良いのかもしれません」
「リクとマスターはやけに仲が良いと感じていたが、そういう事だったのか。
キユウには色々助けられてばかりだぞ」
「いいえ。
ただ、この話はワタシの仮説ですから、リクさんには言わない方が良いとは思いますよ。
色々策を巡らせるのが得意な雰囲気がありますので。
ワタシの拙い考えですが、おそらくリクさんは決勝には出ないと思うんです」
「どういう事だ?」
「先程の話に戻るのですが、決勝に出る事は中継を通じて世界に顔を売る事になってしまうんです。
裏で動けるからこそエリア警察と繋がっていても行動できるわけです。
行動できる範囲が減る事になりますから、ダイアを得たとしても将来的にはデメリットの方が大きくなると」
「む、難しい話だな」
「ワタシもジュリレスターさんも同く「新種」と呼ばれる部類になりますけど
あまり良い扱いではないでしょう?」
「う、うむ」
「リクさんとしても同じでしょう。ダイアを稼ぐというのも結局は口実なんですよ。
ソレはジュリレスターさんと出会う事も一つでしょうし、エネジスを得る事も一つだと思いますよ」
「そういうものなのか?
だが、エネジスはウチが貰う話になってるぞ」
「そうなのですか。ただ、それも一つの策でしょうね。
でも今は、一緒に行動する方がお互いにとって良いのかも知れませんね。
何かあればワタシで良ければ協力しますよ。これはワタシの「レコカ」です」
キユウから大会の物とは別のレコカを渡されて、ここで別れた。
リクがマスターと係わっているのは分かるが、キユウの言うような関係には思えないな。
それにリクは、決勝でダイアを稼ぐ事を目的にここに来ているはずだから
キユウの説はあまり当てにならない気がするぞ。
この話をリクにして良いものなのかは悩む所だぞ。
キユウもどちらかというと、リクとかと同じ頭を使うタイプだしな。
なんであれ、今のウチはクラークに会うことが先決だ。
うむ。この話はメレオンを手に入れてから考えればいいんだ。
まず、屋上に行く事にするぞ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ジュリレスターなりに悩みながら屋上へ向かっている頃
リクはホテルのロビー風な場所にあるソファに腰を掛けて、今後の事を含めて考えていた。
その目の前に一つの影が現れる。
それは、はじめから計っていたかのようなタイミングである。
「ん?」
「ここに居たのですか」
キユウである。
まるでオレを探していたかのような台詞だが、それは気にしない事にした。
「お互い決勝まで来たな」
「そうですね。リクさんはここまで来るのは予定通りだったという感じですね」
「そんな事は無いよ。正直、運の要素も大きかったと思うしな」
「そうなんですか?
ダイアを得る為に、ある程度策を練っている印象がありましたけどね」
嫌味っぽい事を言っているはずなのだが、キユウが言うとそう聞こえないから不思議な人徳があるとは思う。
ただ、この性格があの噂と繋がっている可能性も否定できない。
「明日の決勝にも関係してくるんだけど、結局キユウは誰と仲間になっていたんだ?」
「名簿を確認していなかったのですか?
正直、リクさんのチームとは対照的で、この大会がなければ一緒になりたくない人ですね。
きっと聞いた事はあると思います。
一人はレインという女性。もう一人はシュマという男性です」
レイン。
オレの覚え違いでなければ、名前の通りの水女の名前だ。
あの水女にキユウか。一番あって欲しくなかった組み合わせだな。
「レインは何度かオレもあった事がある。
が、正直味方にはしたくない女だ。
キユウにも理由があって手を組んでいると思うんだが、すまないがソレを聞いた時点でこれ以上オレからいう事は無い」
「レインはリクさんが一番嫌いなタイプだと思います。
ワタシも好きではありませんが、人数がどうしても足りなかった事もありまして彼女と手を組むざるを得ませんでした。
ただ、それだけワタシは本気だという事です」
「・・・あぁ。オレもそうあって欲しいと思うよ」
「こればかりは信じて貰えなくて当然だと思いますけどね。
でも今のワタシにはダイアが多く必要なのです」
「ダイアが必要って点はオレも同じだから、逆の立場だとしてもオレもレインと手を組んでいたかもしれんな」
「はい。ワタシは自分をコロしてでもダイアの為にこうする道を選びました」
変な噂が立っていたのもおそらくはレインの仲間という部分が大きかったのだろうな。
オレは結構捻くれている人間だと思うが、キユウほど真っ直ぐに考えている人をそれほど見たことがない。
この大会ではオレが優勝させてもらうが、何かの機会があれば協力してあげようと思う。
それぐらいキユウの思いは真剣で熱いモノがあるように感じる。
「ただ、今のままですとワタシはリクさんを裏切る形になります」
「裏切る?」
「何度かレインと対面しているならわかると思いますが、彼女の洞察力や先読みはこの大会出場者屈指です。
ワタシとリクさんがこうやって会う事さえ計算に入れていると思うんです」
「あぁ。ソレならオレの方は心配ないぞ。
キユウには悪いが徹底的にレインを叩き落とすつもりだからな」
「・・・そこです。
レインはそういう動機も逆に利用して来ます。
冷静に見えるリクさんがそう思うからこそ、レインとしては格好のエサに見えてしまっているんです」
「という事は、キユウもレインの作戦の一役買ってると言いたいのか?」
たった数秒だろうけども、キユウは何も言わなくなった。
つまりそういう事なんだと無言で伝えたという事になるな。
「そういう事ではないのですが、リクさんには決勝に出てもらいたくないというのは本音です」
「どういう意味だ?」
「レインに利用されることもありますが、ワタシ自身戦いたくない事もありますけど
一番の理由は世界中継されるという点です。
ワタシやリクさんの様な新種が表舞台で大きく取り上げられると、この先々であまり良い待遇を受けない事になります」
「待遇?」
「はい。ワタシの住んでいる町の多くは新種と呼ばれる人達なんです。
住むに住めなくなったと言いますでしょうか、廃村のような町でひっそりと暮らしているのが現実です。
ワタシの顔が売れる事はデメリットではありますが、それ以上にダイアが手に入れば立て直す事は出来ます。
私一人の犠牲で多くの仲間が救われればそれでいいんです」
細かい話を逸らした上に、オレの苦手とする人情系の話になってきたな。
ただ言い換えれば、オレもそのうちその町に移住しなくては行けなくなるかもという事か。
キユウなりの心遣いという事だろうが、何も得ずに決勝を戦わないっていうわけにはいかないな。
「キユウがそういう覚悟であるように、オレにもダイアを得ておく理由がある。
大きな事を言うように聞こえるかもしれないが、自分の世界の為でもある」
「自分の世界ですか。リクさんのスケールはワタシが思っていた以上に大きいですね」
もちろん、オレのはそういう意味の世界ではないのだが、
キユウに別の宇宙から来たと言った所で信じてもらえるわけがないからな。
未だにオレだって信じてるわけじゃない。
「悪いが、これ以上キユウと話すのは止めておく」
「その方が良いかもですね。
ですが、ワタシはそれでもリクさんに食い下がります。
これはワタシの最終忠告でもあります」
そういうとキユウはオレの肩に手をやったと思うと、その手を動かしてオレに何かを握らせる。
「どういうつもりだ?」
「棄権して欲しいんです。ワタシは決勝に残ったチームを見てリクさんの所が一番危険だと感じたんです」
「答えになってない」
「そのエネジスはワタシにとっては今回の優勝の次に大切なエネジスです。
それがあれば棄権してもダイアに困る事は無いはずです。
リクさんは決勝に出て顔見せをする事がどういうデメリットになるか、まだ理解していないようですから
これ以上食い下がるのであれば、ワタシの全力で他の仲間の人も巻き込むまでですよ」
「いや、だからなぜオレなんだ。クラークやネルソンが居るチームの方がよっぽど厄介だろ」
「レインもワタシも危険度から言えばリクさんのチームだと感じてます。
特に、レインに目を付けられているのは本当に危険だと感じます。
ワタシはここでリクさんに会えたことで、リクさんに託しておきたい事もあるんです」
そういうとオレの両肩に手を当てて、少し涙声になる。
「先程の話を聞いていたリクさんの反応を見て確信しましたが
あまりご存じないようですが、新種と呼ばれるワタシ達はこの世界では突然変異だと言われています。
その要因にはマテルが特異だという事と、他のマテルをほとんど使いこなせない事があります。
今、この脅威を恐れている人達が動き始めているんです。
言い代えれば新種をなかった事にしようとしている人達です。
この大会で顔を見せればそういう人達に間違いなく狙われます。
リクさんもワタシもマテルを使った戦いをになれば、間違いなく命を落とす事になるでしょう。
そういう脅威から、リクさんを守る事と同時に、残る新種を救って欲しいんです。
リクさんの最終目的もきっとそれでしょうけど、【フェリス】を多くの新種達と共に見つけて欲しいんです。
その為には、ここで無駄なダイアを手に入れる必要ななんてないんです!」
・・・正直、こんな事を言われても困る。
困るが、キユウの迫力に完全に呑み込まれてしまっていた。
それだけでなく、オレの決勝への意欲はすっかりと消えてしまっていたのを感じた。
これは明らかにおかしい。
おかしいが、キユウに対して何か抵抗しようとか同意しようとかという気持ちになれなくなっていた。
これがおそらくキユウのマテルなのだろうとは思うが
分かった所でオレに何をする手もない。
解除するにも、仕掛けられているモノが何かがわからない以上は何もできない。
こんな終わり方。想定できるわけがない。
キユウと別れて無気力に近くなったオレは部屋に戻っていた。
手にはキユウから貰ったエネジスが不気味に輝いている。
『んん?物音がしたと思ったらリッ君かね?』
何なんだこの口調。
後ろに例のマスターがいる事は無視して、オレはエネジスを眺め続ける。
『シカトですか〜。
というかですね、隊長がどこにもいないんですけど、リッ君知らない?』
「ジュリが居ない?
って事はさっきまでリディ一人だったわけか?」
『ん?じゃあリッ君も外出してたの?
ナンパしないように見えて、実は積極的ってタイプですか〜?』
夜に部屋を出たらナンパすると思ってるのか。この女は。
そんな事よりも、ジュリの行方だな。
今のさっきだから、キユウがジュリに何かをしたとは思えないが、かなり心配だな。
「オレかジュリ以外が来ても絶対ドアを開けるなよ。いいな」
『え?あ、うん。
私は夜更かしできない体質なので、また寝ます〜』
半分寝ぼけてるのか、この女は。
それならそれで・・・
・・・って、おい。
ある程度予想してたが、オレは移動式ソファじゃないぞ。
リディはオレの背中に寄しかかるように倒れ込んだかと思うと、そのまま睡眠のスタイルを取っていた。
いい加減に、この状態にも区切りをつけたい。
その為にもこの決勝でダイアを得ておかないといけないはずだった。
だが、今はとりあえずリディをベットに寝かせて、オレはジュリを探しに行く。
変えられたのか、オレが変わったのかは分からない。
だが、この数日で、この世界に染まっているのを感じていた。
郷に入れば郷に従えというモノなのだろうか。
こんなフザケタご都合主義な造られた世界であってもだ。
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この時期のウエブはなんだか暖かいみたいだ。
すっかり夜は更けていたけど、屋上に上がったウチは生温い風を肌に感じていた。
薄暗い外灯がいくつかあり、その影になって見え難くなっている外壁近くに一人の人物がいるように見える。
「クラーク居るのか?」
「ええ。来てくれると思ってましたよ」
「む。条件のエネジスは持ってるが、ウチはクラークを信用したわけじゃないぞ。
メレオンだという事をウチが確認するのがまず先だぞ」
「そう言うと思って、ボクは先にメレオンをアナタに渡す準備をしてあります」
本体の表情などは全く見えないが、この声は間違いなくクラークだ。
気が付くとウチの方へ一つのエネジスが投げ込まれていた。
「む。これがメレオンか?」
確かに先程も見た何色にも変化しているエネジスだし、ウチがウエブの城で見た物と同じように思えたから
護身用の鉄製の釘を使って変化を確かめて見る。
すでに腕輪のエネジスを取っている為
マテルが使えないウチでも釘を幾つか変化させた事で、これがメレオンである事を確信した。
「確かにメレオンは受け取ったぞ。ここに条件のエネジスを3つ置いてウチは帰るぞ」
ウチのエネジスとカードバトルで手に入れたエネジス2つをそこに置いて
後ろを含めて警戒しつつ、ウチは屋上から下へと移動した。
意外という感じだが、クラークがウチに何をする事もなくメレオンとの交換を終える事が出来た。
本当にクラークは、メレオンを守る為にウチに託したという事なのか?
なんともスッキリしない状態だが、今のウチはエネジスがないのでマテルが使えない状態だ。
早くリク達と合流するか、部屋で待機する方が良いだろうな。
階段を下りて部屋のフロアまで移動したウチの目の先に一つの人影が見えていた。
壁で人は見えないが光によってそこに誰かが居るのは間違いない。
クラークが居るという雰囲気ではないが、さっきの今なので嫌な感じがした。
釘を手に取るが、今のウチはこれを変化させる事が出来ない。
メレオンで虚像を作る方法しかないのだ。
メレオンは見た目を変化させる事は出来るが、実際の物自体を変えることは不可能である。
ウチの造形のマテルは完全に別のモノに変化させる事が出来る。
似てるようでこれは大きな違いだぞ。
影が少しずつ大きくなってくる。
ウチは動くのを止めて、向こうの出方をうかがう様に攻撃をの構えをして待機した。
「む?」
ウチは影の正体を見て一気に緊張の糸が解けてしまった。
「ここに居たのか。
というか構えをして何やってるんだ?」
リクがウチを探しに歩いていたらしい。
リクの方もウチとは別の意味で緊張していたようで、ウチを見つけた事で表情が柔らかくなったように見えた。
「うむ。事情は後で話すが先に部屋に戻らないか」
「あぁ。オレも勝手に部屋を出て行ったから言えた立場じゃないが
あのマスターを一人にしておくのは非常に良くない」
「うむ。そうだな。起きないとは思うけどな」
「いや、寝ぼけて移動したりするからほおって置くのは危険だ」
「む?一度リクは部屋に戻っていたのか」
「あぁ。だからジュリを探してここに居るんだ」
「そ、それはすまなかった。とにかく部屋に戻ろう」
お互いに気まずい雰囲気のまま、部屋へと焦らず急いで戻る。
これでマスターが居なくなっていたら、ウチの責任だな。
時はちょうど日付を跨いでいた。
部屋の中は平穏そのもので、どうやらマスターも寝ぼけていないようだ。
一応、ウチが居る事を確認した。
『ん?・・・隊長?』
「うむ。すまない。起こしてしまったか」
『ちょっと緊張してるみたいでね〜、寝たり起きたりな不安定なお年頃みたいなんだよ』
「それは・・・ウチには良く分からんぞ」
『リッ君も帰ってきたんだよね?』
「うむ。これから明日への作戦会議ぽい話をするが、マスターはもう少し寝るか?」
『いんや。私も参加するよ。
なんかね〜あれなんですよ。上手く言葉にできないんだけど』
ここのマスターも、ウチには理解できない事が多いな。
マスターというのは、ウチの求めている【フェリス】への鍵だという事は分かっている。
だから、フェリスを見つける為にはなくてはならない人だけど、付き合っていくには色々困難な部分も多いのだろうな。
・・・いや、最近のウチは考えすぎて良くない気がするぞ。
そういう分野はリクに任せて、マスターと共にリビングに向かう事にするぞ。
そこではリクがソファーに座って、ウチ達を待っていた。
「まず、オレからの話を始めるが意見は話の後にして欲しい」
「うむ」
『オッケイだよ』
「明日の決勝の事だが、棄権しようと思う」
「む」
『ええ?』
「理由はいくつかあるが、最大の理由は顔見せにある。
オレとジュリはエリアスターという、この世界ではちょっとした特殊な扱いを受けている。
リディにいたってはマスターだ。
マスターにしろエリアスターにしろ、ソレをよく思わない一部の人達がいるという話を聞いている。
こういう目立つ場所で活躍してしまえば、その後が大変になるのは想像できる。
かといって活躍しなくても決勝に出た事で世界中継されるわけだから意味合いは同じだ。
オレは多くのダイアを手に入れるという目的でこの大会に出ている。
もちろん優勝額の一人1000万ダイアは手に入れたい所だ。
だが、その額と今後の待遇を考えてしまうと1000万では正直少な過ぎるとも思う。
決勝を放棄する代わりに、腕輪のエネジスを換金してダイアを手にするのが一番理想的という事だ」
リクらしい考え方だが、今までこういう話をしなかった事からして
誰かと会って考え方を変えたという事か?
『私は決勝に出ても役に立たないと思うけど〜でも、顔見せぐらいなら覚悟してるよ』
「リディが良くてもオレは困る。
ジュリはどう考えている?」
「うむ。その話はウチも反対はしないぞ。
ウチの目的の一つはもう達成できたからな。
ただ、リクに返す3000万ダイアは今回支払えなくなるな。
この通り、ウチはエネジスを持っていない」
そういって腕輪を見せる。
「ジュリ、何かの取引をしたのか?」
「うむ。クラークが盗んだメレオンを取り戻す為にエネジスと交換したぞ」
ウチはメレオンを二人の目の前に差し出す。
『すっごい綺麗なエネジスだね〜』
「メレオンというのは色変化のエネジスだっけか?
それにしても、腕輪のエネジスとメレオンでは釣り合わないような気がするが他に何か条件があるのか?」
「うむ。実際は3つのエネジスと交換だったぞ。
残りの2つはクラークの仲間から手に入れた」
「仲間?って、ネルソンからか?
力技でも難しいだろうし、どうやったんだ」
「うむ。カードバトルをしたぞ。
もちろんウチ一人では勝てるわけがないから協力者もいたけどな」
「ジュリが部屋を出たのはその為か。
いや、その前にこの部屋に誰かを入れたという事だな」
「うむ。キユウだ」
「・・・。
だいたい想像できていたが、そういう事か。
それで、キユウには何か条件があったのか」
「・・・特に何もないぞ」
この時のウチはキユウとの会話を思い出していた。
リクはキユウが言っていたように決勝に出ないと言い出した。
リクが警察関連と繋がっているかは分からないが、キユウの説は大まか当たっているように感じる。
「やはりキユウが絡んでいたか。
実を言うと、オレが決勝に出ないと決めたのもキユウに会ってからだ。
キユウのマテルの正体は分からないが、人の考え方をコントロールする事が出来るという感じだろうか。
上手く利用された気がするが、キユウが言っていた事も一理ある」
『う〜ん。って事は二人とも決勝には出ないって考えなの?』
「出ない方が良いという考えだな。
それが結果キユウの思惑通りの事になっても、今のオレには何もできない」
『そのユウキって子はよっぽどリッ君と決勝で戦いたくないんだね〜。
となると逆に出た方が優勝できるって事じゃない?』
「それはない。それに水女ことレインがキユウの仲間らしい。
あの厄介な女とキユウが一緒に居るだけでもオレには太刀打ちできないな」
『水女?』
「マスターは知らないと思うが、リクよりも上手な策士という感じの女だぞ。
マテルも水を自由に扱う感じで、仮に戦闘したとしてもウチは勝てるか自信がない」
『世界から色んな人がここに集まってるからね〜。
リッ君たちより凄いと思う人が居ても変じゃないけど、よっぽどの人なんだね』
「それは沢山いるだろ。こういう大会に出て居るか居ないかの違いで。
オレは決勝に来るまでは、世界中継の事や自分の立場をあまり考えてはいなかった。
それに気付いたという話だな。
今となればネルソンがオレに棄権するように勧めた理由も、決勝に出る覚悟というのもわかる。
オレは知らな過ぎた」
ウチもリクも結果的にキユウ一人に動かされてしまったという事だな。
それがお互いにとって良い方向に動いているのだから
けして損をしたというわけではないのだろう。
「それじゃ、今から棄権の手続きを取ってくる。
リディもそれでいいか?」
『いいですよー。私が出たいって言ったわけじゃないですし〜』
なんでリディがむくれているのか分からんが
オレは受付のロビーに行くため部屋を出る準備をしていた。
一応の為、リディが付けていたエネジスをジュリに付け替えさせて、ふと考えた。
ジュリがキユウに何かをされていて、リディと二人になった時に何かを仕掛ける可能性もかすかにはある。
そこで、3人で受付の所に行く事に変更した。
「リク。そういえば水女への罰則金の事なんだが」
「あぁ。ソレは棄権する事を含めてキユウがエネジスを渡してくれている。
正直ここまでされると気味が悪いが、今は従って大人しくした方が良いのだろう。
最初に言った様にオレとしてはダイアが手に入ればそれで良いんだ」
そう言いつつ心との矛盾に苛立っていた。
この大会に出る前までは、悪い言い方で、リディもジュリもオレが地球に帰る為の一つの駒の様に考えていた。
それはこの世界がご都合的に作られたと感じていたからだし、実際そうなのだろう。
だが、ここに順応しはじめた事でリディやジュリにも情が湧き始めていた。
ダイアを手に入れたい理由は、一人で何とかしようと考えていたからに過ぎない。
だが、今は少し違う。
ただダイヤが手に入れば良いというわけではない。
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数分歩いて受付の所まで進んだ。
こんな真夜中でも、当然のように人が待機している。
決勝のルール説明規約にも書かれているが、
決勝戦開始3時間前までなら何時でも棄権や辞退を受け付ける様になっている。
決勝開始時間は9時なので、実際は6時までに棄権の手続きを行えば良い事になるが
こういう時は速決して行動するべきだ。
「深夜に申し訳ないが明日の決勝を辞退したい」
「えっと・・・あなた達はチーム70ですね。かしこまりました。
棄権するに当たっては参加料分を頂く事になっておりますが、決勝進出しているという事で、もう一つ選択する事が出来ます。
決勝の順位によって獲得ダイア額が変わっております。
このまま辞退しますと実質5位扱いとなりますので、獲得ダイアは一人50万となります。
本来であれば一人10万ダイアの支払いで辞退できますが、こちらの獲得ダイアを放棄する事でタダで辞退する事も可能です」
「獲得ダイアを放棄せずに10万を支払う方法もあるのか?」
「それは出来ません。出場権はありますが実際出場する前に止めるという事ですので
獲得自体が出来ない扱いになります。
ただ、5位に用意されている獲得ダイアの枠が浮くので、その枠のダイアを棄権代金に充てる事は可能という事です」
『よく分からないね〜』
「うむ」
「それじゃ、此方から出さなくても良いという事なら、獲得ダイア分を放棄する。でいいです。
ダイアは決勝に出ないと獲得できないという事だな」
「かしこまりました。あとは特に罰則金も無いようですのでそちらの腕輪を外させて頂きます」
「む?水女の関連はどうなってるんだ?」
「ジュリ。それは気にするな。」
言わなければそのままスルーしていたと思われる件だが、これは先に口止めしなかったオレが悪い。
ジュリの言葉で受付の人が何やら調べ始めた。
「す、すまん。ウチが余計な事を言ったばかりに」
「いや、水女の件は元々はオレの失態だからな。
会場内で起こっている出来事だから把握されていて当然だろうし」
『それもだけど〜、獲得ダイア放棄してよかったの?』
「元々獲得できないんだから放棄して棄権代に充てる方が良い。
むしろ決勝進出のボーナス扱いだ」
『う〜ん。良く分からないけどリッ君がそれでいいなら、いいよ』
「5位でも3人で150万ダイアだったのか。それなりの額にはなるんだな。
それでもやはり棄権する方が良いんだよな」
「二人ともあまり決勝の獲得ダイアの事は考えない方が良い。
元々手に入らないモノと考えてくれ。後はオレに任せて欲しい」
とりあえず、二人には静かにしてもらわないとな。
これ以上余計な事を言われたらもっと厄介になりそうだ。
ジュリは罰が悪そうに下を向いてしまった。
ちょっと可哀想な感じもするが、ここは我慢してもらおう。
リディは相変わらずな感じだが、意外とオレの言う事に逆らう事はしない。
変に立てて貰ってるみたいで、逆に気味が悪いけどな。
「罰則金の件ですが、確かに過去にあるようですね。
ただこれはチーム48の内部で解決されているようですので、チーム70として支払う罰則金はありません」
チーム48というのはキユウと水女のチームという事なのは間違いないが
となると、キユウが肩代わりをしたという意味になるな。
キユウの行動の真意が分からないので不気味だが、今は有難くその好意に甘えさせて貰う事にするか。
「それじゃ、オレ達はもうここから出ていいのか?」
「決勝には出れませんが、この施設の宿泊は本日まで可能ですので今日はごゆっくりお休みください。
では、改めまして腕輪の方を外させて頂きます」
受付の人が、今まで見たことがない青色のレコカを手元から出すと
オレ達の腕輪にそれぞれ差し込んでいく。
すると腕輪が分解されるように外れて下に落ちた。
「お疲れ様でした。次回大会の出場をお待ちしております」
意外にあっさりと棄権の手続きを終える事が出来た。
棄権するためのエネジスとしてキユウから一つエネジスを貰っていたが、
これは必要がなくなったので返す方が良いだろうな。
それにエネジスといえば
オレとさっきまではジュリについていたエネジスについては特に何も言わなかったな。
当然に棄権申請する前に外しているので、この大会で得たエネジスはキユウのも含めて3つになる。
レコカに関しても使えるかわからないが、【○】レコカだけは取っておいた。
今となれば他のレコカを持っていっても問題ないように感じるが、今回はコレでいい。
エネジスの一つはジュリに渡して、もう一つのを換金する形になるだろうな。
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『結局一つもダイアを払わずに終わっちゃったね。
って、一つもダイア得てないけどね〜』
「いや、エネジスがあるぞ。これは1つ2000万ダイアの価値があるらしい」
「2000万だと?」
『確かに貴重だけどね。2000万かぁ。
リッ君は今までエネジスが多い町ばっかりに居たから感じないかもだけど
エネジスって希少価値の物なんだよ』
「うむ。ただ、この情報はクラークからだからな。話半分で考えた方が良いのかもな」
ジュリからの情報で一気に力が抜けてしまった。
部屋に戻ったオレ達は、寝る前にエネジスとレコカを出して雑談をしている。
何にしても、それだけの価値がある物なら、オレも水女のようにエネジス集めをすべきだったのかもな。
キユウがどれだけ分け前をもらう事になっているかわからんが
優勝をしなくても相当な額のダイアになると思うのだが。
ただ、棄権した以上は本当に今更である。
「二人は休んでていい。オレはキユウに届け物があるからな」
『うん。少し動いたから眠れそうだし、私は先に寝るね〜』
「ウチも一緒に行っていいか?」
『・・・』
「悪いけど、ここは一人で行かせて貰えないか」
「うむ・・・。そうか分かったぞ。すまなかった」
何やら不安な顔をしてジュリは先に部屋に消えた。
キユウに会わないといけない理由でもあるのか分からないが、腑に落ちない顔をしてたな。
『・・・じゃあ、私も寝るね〜』
リディの方はいつも通りだが、いつも通りというのが逆に怖い気もする。
オレが変に考え過ぎてるだけかもしれないけどな。
と、
キユウに届け物とは言ったが流石に深夜も深夜。
明日起きてからエネジスは渡す事にしよう。
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本音は、リクにはキユウにエネジスを返さないで欲しいんだ。
ウチのこの考えが、リクの望みではない事がわかってるから口には出せないけどな。
それほどウエブの雑貨屋店主に恩があるわけではない。
あの時ウチがきちんと窃盗犯を捕まえていれば、リクのエアポケットを壊す事もなく
雑貨屋店主にエネジスを持ってくる約束をする事もなかった。
メレオンの件だって、結果クラークに使われたようなものだし
全てはウチが未熟だっただけだ。
エネジスを全て換金して3000万ダイア分をリクに渡して、雑貨屋店主には何も出来なかったことを言うしかないだろうな。
今のウチではリクやマスターについていくだけでも足手纏いになってしまう。
リクはそういう事を言わないので、余計に気になってしまうぞ。
ダイアを手に入れる為にウチと手を組んだだけなら、下手に出るのは当然の事なんだろう。
本当の所はキユウと手を組んでいるのかもしれないしな。
それであれば、罰則金が何もない事にも筋が通る。
エネジスを返しに行くというのは、むしろウチに対しての何かがあるのかもしれないな。
一度は断っているけど、こんな時間に返しに行くとは思えないし
明日、再度ウチが探りを入れるのを待っている可能性だってある。
ゴチャゴチャ考えすぎているのは分かるけど、本当にこのままで良いわけがないぞ。
それともリクが言っていたように、こうやって考えてしまうこと自体がキユウのマテルだというのか?
このままじゃ、寝るに寝れないぞ。
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気が付いた頃には朝日が昇っていた。
リクはもうキユウの所に向かっているのだろうか。
物音一つしないから、部屋を出て行ったとは思えない。
気が付くとウチはリク部屋の前に立っていた。
それと同時に横に人が居る雰囲気も感じた。
「む!」
『隊長おはよう・・・ございます?
リッ君は多分まだ寝てますよ?』
「いや、ビックリしたぞ。
・・・こんな時間に起きてるという事は、マスターも眠れなかったのか」
『いんや。私は逆に眠り過ぎて日の入りと一緒に目が覚めちゃいましたですよ・・・』
「そ、そうか」
『隊長は寝てないように見えるよ?
隊長の体調が悪くなったら一大事ですっよ(笑)』
何かわからないが、マスターは勝手に笑いのツボに入っているみたいだ。
ああは言っているが、マスターもおそらくあれからほとんど寝ていないのだろう。
笑いのツボの入り方が徹夜明けに近いものを感じるからな。
『・・・っいや。本当に体は大事にしないと。
あ、そういえばまったく別件だけど、いつの間にか私の事マスターって呼ぶようになったよね?
リーちゃんとは呼んでくれないのは、仕方ないにしても、最初はリディって呼んでいた気がしたんだけど?』
「うむ。
何というか、リクやマスターにはこの大会では迷惑しかかけてないというか。
予備予選の時、ウチは何一つできなかった事もあって、特にマスターにはな」
『いや、その話はよくわかんないです。
でもね、隊長は大切な私の仲間です。今更、マスター呼ばわりはなしって事で』
「・・・ウチは」
「人の部屋の前で、何の目覚ましトークしてるんだお前たちは。
途中から聞こえてたけど、最終的にジュリもフェリスを見つけるんだろ?
オレにとっても今は欠くことが出来ない仲間だよ」
リクのその表情は怒っているようにも悲しんでいるようにも見えた。
ウチが考えすぎていただけなのか。
だが、
「オレは確かにダイアの為にジュリを仲間に入れてこの大会に出たけどな、
それだけの関係で終わるなら今回得たエネジスを貰って終わりだよ。
ジュリには1つしか渡せなかったけど、こっちも1つあるからそれでオレは十分だよ。
逆にジュリの方が不満そうに見えたけどな」
「む・・・」
『ちょっと待った。今のはリッ君が悪い。
確かに隊長はおっきいし、リッ君がそういう強気に出るのも分かるけど
隊長だって女の子なんだから、もっと、こう優しくしてあげないとダメなんだよ』
マスターの言葉がフォローになってない気がするのは気のせいなのか?
そもそも、そういう話じゃないぞ・・・。
「リディ・・・すまんが少し席を外してくれ。話が別の方向に向かっていく」
『嫌だよ』
「ちょ、我儘言ってどうにかなる話じゃなくてな」
『ワガママなら言うよ。これからも沢山言う。
そして、そんな私のワガママを聞いてくれる仲間も居る。
リッ君一人じゃ足りないし、リノちゃんはシカトマテルを持ってるし
だから、隊長が居ないと、私はこの先進まない!』
ウチとリクは目を一度合わせて同じことを思ったと思うぞ。
このマスター、どうしたらいいだろう・・・
「い、いや。マ・・・リディ。
ウチ達の話はそういう話じゃなくてだな」
『リッ君にしても隊長にしてもさ、ユウキ君だっけ?
私はよく知らないけど、昨日の話もその子の話から微妙にズレてきてた。
決勝に出ないとか当然言い始めてさ、私も結構悩んだんだよ。
私は移動以外に取り柄がないんだもん。
リッ君みたいに頭が良いわけじゃないし、隊長みたいに強くない。
本当は私のせいだと思ってた・・・』
「おい・・・」
「む」
マスターは感情屋なんだな。
おそらく自分で考えた言葉が上手く出てこなかった事もあるんだろうけど
それ以上の苦しみが流れてきたんだろうな。
ウチは何も言わずにマスターを抱きしめて支える。
「別に、オレとジュリは喧嘩してるわけじゃない。
オレの言い方も悪かったけどさ・・・」
「リク。ウチが不満に思っていたと思う事ならキユウのエネジスの事だぞ。
恥ずかしい話だが、ウチはそれも持って帰りたいと思ってた。すまない」
「なんで謝るんだよ。そういう話ならオレの問題だ。
結果的に罰則も棄権のダイアも必要にならなくなった。
そうなるように仕組んだのもおそらくキユウだ。
なのにエネジスまでオレに渡すというのは、いくらなんでも貰いすぎだってね。
ジュリもそう思っていると思うが、オレもキユウが何か裏を持って仕組んでいるように感じない。
キユウの純粋な思いでこういう行動をしたように感じる。
それが仮にキユウのマテルによる罠だとしてもな。
だから、もういいんだ。
昨日はエネジスを返そうと思ったけど、これはオレ達のエネジスだよ」
「・・・いや、本当にすまない。
これは、ウチが謝りたいから謝る」
何とも変な光景だ。
リディはジュリの懐で泣き崩れ、ジュリはオレに謝り
オレといえばキユウのエネジスをきちんと貰う宣言だしな。
「ジュリ、マスターが落ち着いたら出発の準備をしよう」
「う、うむ」
気まずさから、お互い早くここから抜け出そうと考えてしまっているようだ。
『っぐ、なんでリッ君までそう呼ぶかな・・・
二人とも今後マスター呼び禁止!
呼んだら罰金1億ダイアね』
ジュリから離れて、気丈に振る舞った風に指差しをして非現実的な事を言い出す。
ま、これでこそリディという感じだが。
「あぁ、わかった。
そんなにダイア持ってないからもう呼ばないよ」
苦みと甘さの入った何とも表現できない笑いを含んでオレは返答する。
「う、うむ。マ、リディの言う通りにするぞ」
変な話だが
オレ達はこの変なマスターことリディの言動で、救われているのかもしれない。
そう思える瞬間でもあった。
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時は8時前。
オレ達3人は受付のロビー風な所に集まっていた。
外に出るにはもう1階下に降りる形になっている。
決勝に進むチームと逆向きに下へと進んでいく。
その途中で一人見かけた事のある男が近づいてくるのが見えた。
個人的には会いたくない男だが避ける道もない。
「君達・・・そっちは決勝会場とは逆方向だよ」
「そうだよ。オレ達は降りたんだ」
「降りた?
・・・うん。なるほどね。それが一番の選択だと思うよ。
止めたくても止められない僕のような人も居るんだからね」
そう言い残しオレ達の視線から上へと消えて行った。
最後まで意味深長な説教染みた事を言う男だったな。
確か名前はストレンジャーと言ったか。
今後、何かのきっかけで会う事もあるかもしれないが
その時も出来れば関わりたくない男だ。
ネルソンとの出会いとは逆で
この時もやはり、昔からの天敵な存在だったようにしか感じ取れなかった。
全くこの男とは気が合う気がしない。
会場で最後に会ったのがストレンジャーだったというのも
今後、この大会には関わる事がないだろうという、オレの意志の表れなのかもしれないな。
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