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【クオリファイ-4】
休憩は6時間程で、残りのレコカ探しの為に動き出したい所だったが
予想通りというべきに、リディが眠りから覚める状態ではない。
かといって、ジュリに背負ってもらったまま行動するのも色々不便な部分もあるな。
「リク、もう起きたのか」
「ん?・・・あぁ。ジュリはもう起きてたのか・・・
って、ちゃんと休んだのか?」
「ウチは座って目を瞑ってるだけでも十分休めてるから心配ないぞ」
オレにはそうは見えなかったのだが
時間が経った今更、それを突っ込んだところで何の意味もない。
「リディはやはり起きない感じだな。
ヴィルに何かされてた可能性もあるから、レコカ探しは二人でやるしかないか」
「うむ。その前に一つ聞きたいことがあるんだが
リクの解除のマテルで何とかできるんじゃないか?」
「あぁ。ここに休ませた時にソレはすでにやってるよ。
でも、解除できるという雰囲気じゃなかった。
マテルを使ってこういう状態にしている可能性は高いけど
オレのマテルでは何ともできないみたいだ」
「そうか。
ウチ達はマテルを使いこなせないから、解除できないのかもしれないな」
「だろうな・・・」
ジュリに言われて、改めてネルソンの言葉を思い出していた。
オレに足りない物はダイアじゃなくて情報。
そして情報を得ていれば、マテルを使いこなしていない今の状態では
この大会には出てないだろうという事。
あとは、マテルを完全に理解していないという事。マスターの恩恵があるという事。
この大会のために情報を集めて準備してきたと思われるネルソンに対して
オレはただダイアを稼ぐ事しか考えていなかった。
ソレを教えてくれたネルソンには、今更どうにもならないけども感謝するべきなんだろう。
それでも、情報がないの事を承知の上で決勝に出てダイアを得なければこの大会に出た意味がない。
ネルソンの忠告通りに予選で負けたとしても
ダイアに替えれそうなエネジスが腕輪についているので
完全にダイアが手に入らないわけじゃないとも考えられるが
ソレを持って帰れる保証は何処にもない。
そうなったら、レコカというモノを知るだけで終わる結末でしかない。
決勝に何があるかは知らないが、今はまだ負けるという選択はオレにはない。
「うむ。マスターがこの状態のままなら、この部屋に置いて行くという事も考えないといけないかもな。
リクはどう考えてるんだ?」
ジュリもリディを背負って行動するのは得策ではないと感じているようだ。
「【○】のレコカを使った部屋に再度同じように入れる保証がないしな。
予選を突破するには【○】のレコカを持ったモノしか入れない「カード交換所」という所に行けばいいけど
決勝には3人が揃ってないとダメっぽいからな。リディが行方不明になりましたじゃ洒落にもならない」
「うむ。それならカード探しや戦闘はウチが担当するぞ。
悪いがリクがリディを背負って行動してもらえると助かるぞ。
カードバトルの時はウチが代わりに背負ってリクに任せるけどな。」
機動力ならリディが一番で次にジュリといった所なので
考え方的にはジュリと同じなのだが、正直、女性を背負ったまま行動するのには抵抗がある。
「あぁ。こればっかりはチームとしてやるしかないよな・・・」
「リクは・・・マスターの事が苦手なのか?」
「苦手っていうか、今まで会った事のないタイプの女性という感じで戸惑う部分が大きいというか・・・」
「ウチの様な女は、それほど抵抗ないのか?」
ジュリは突然何を言い出してるんだ?
オレがリディを嫌っていると感じているのだろうか。
確かにオレの世界に居たら友達にはなりたくないタイプではあるが。
そもそも別の世界の住人だから、性別を問わず距離感を置くのが当然という考えなんだけど
ここが別世界っていう事を知っているのは今の所オレとネルソンだけっぽいから
この世界に居るのが当然と思っているジュリには不思議に見えるのかもしれないな。
「ジュリは頼れるから抵抗はないが、リディの場合は何を考えているか分からない部分が多いからな」
「そうか。それじゃ、リクに呆れられない様に頑張るぞ」
「変に心配するなよ。ジュリに呆れる事はまずないだろうからな・・・
って、オレはリディに呆れてるように見えるのか?」
「いや、そういう意味じゃないぞ。
ウチはここまでほとんど何も出来ずに付いて来ただけになってるからな。
リクにしてみたら足手纏いになってるんじゃないかと思ったんだ」
「それは絶対ない。ジュリが居なければ円剣の男やシロクロ達に負けて終わってた可能性もあるしな」
「・・・う、うむ」
ジュリは難しい顔をしたと思うと、そのまま出口の方へと進んで外に行こうとしていた。
「ち、ちょっと待った。外に出る前に一応レコカを整理しておこう」
ジュリがカードバトルをする事はまず無いのだが
一応の保険として今あるレコカを組み合わせておいた。
この後、何があるかは分からないからな。
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3つの層に分かれている予選会場で、
最上層の一部はウエブの街並み同様に建物が隙間なく存在していた。
実はそれが"本物"と同じ構成である事は予選参加者にはどうでもいい裏話ではあるが
そんな空間に、ある一つの建物だけが目立つようにポツンと"置かれて"いた。
これが予選の最終目的地となる「カード交換所」である。
そこにはある程度のチームの代表が集まってはいたのだが、どうも様子がおかしい。
この時点で3組が予選を通過している。
一組は水女ことレインが居るチーム「48」。
もう一組はヴィル、ネルソン、クラークのチーム「22」
あと一組が突破しているが、それ以降は全くといって通過している雰囲気がない。
その原因としては、カード交換所前に巨躯な男が陣取っている事も挙げられるが
他にも、交換所に来た頃に何故か【○】のレコカだけを失うという現象が起こっている事がある。
加えて例の円剣の剣士も目を覚ましており、この近くで殺人行為を続けている。
円剣の剣士に至っては、大会側が未だ何も処置をしない事からも
大会側が仕組んだ殺人剣士という認識を多くの人が持っていた。
それがリク達が建物を出た頃には、その原因の状況は少し変化を始めた。
カード交換所前に陣取っていた巨躯な男が突如居なくなったのである。
彼はあらかじめ決めてあった集合場所に仲間と合流するために移動をしていた。
近代的な街並み風の空間から少し離れた所に、廃工場の様なやや広い建物が"置かれて"いた。
そこが巨躯な男の集合場所であり、残りの仲間との再会を果たしていた。
「来たのはいいが、【○】レコカがねぇってどういう事だぁ?」
「明らかにどっかのバカの仕業だねェ。あんたら二人でさっさと見つけてきなよ」
「でも姐さん。探すにしても俺の勘でも全く在り処が見当もつかないっていうのは
強力なマテルを仕掛けられてる可能性が高いですよ」
巨躯な男と、優男風な者と、少し魅力的な体の女性の3人が何やら言い争いをしている。
ジュリレスターとリクが出会ったシロクロとアオイ。
そして、ジュリレスターは顔見知りの巨躯な男ことギンエイの3人である。
どうやら話の通りに【○】のレコカを失ったようである。
「シロちゃんの「カン」が利かないとなると結構めんどいなぁ」
「めんどいどころかメンバーとしての価値もないよ。そんなシロクロは要らないねぇ」
「姐さんの言う通りだ。俺はその為だけに今回参加してるんだし、迷惑はかけられん」
「【○】を持っていたのはワタシだけどさぁ、腕輪からは一度も出してないんだよね。
明らかにおかしいでしょ。こんなの」
「まぁ、俺らハンターがモノを盗まれたっていうなら、洒落になってない気もするけどなぁ」
「馬鹿ギンのくせに生意気言うんじゃないよ」
言葉と同時にアオイは巨躯のギンエイを簡単にひっくり返すほどの裏拳を喰らわせていた。
「って、姐さん。冗談きついって」
その場に大の字になったギンエイが怒りと笑いの混じった複雑な声で返答する。
「ワタシは冗談が嫌いなんだよ。
次ふざけたこと言ったらその2枚目の顔を4枚目ぐらいに整形してやるよ」
「分かってますって。姐さんには世話になってますし・・・
って、シロちゃんさっきから静かだけど、なんか嫌な感じかぁ?」
そう言ってギンエイはゆっくりと立ち上がる。
「いや、姐さんが気付かずにカードを盗まれるなんて事がおかしいんだよ。
そして、その嫌な感じを俺が全く受けなかった事もおかしいんだ」
「シロちゃんも何言ってんだ?」
「ギンエイは俺のこのマテルを【第六感】って表現してたけどよ、
その第六感が発動してる間は些細な事でも嫌な感じが必ずするわけなんだが、
【○】のレコカの件ではそれが全くなかった。
だから俺のマテルが封じられてるかとも考えたけどよ
さっきのギンエイがぶっ飛ばされるのは感じてたから、普通にマテルは使えてるってわけなんだよ。
てことはだ、姐さんのレコカが無くなる事が俺の中では問題意識されてなかったって事になるんだよ」
「わかってんなら、ぶっ飛ばされる前に忠告してくれよな」
「んな話はどうでもいいんだよ。
シロクロがサボった時間に"ソイツ"はワタシのレコカを盗んだって事はねぇのか?
ま、ワタシが油断するって事が有り得ねぇ事なんだけどねぇ」
「サボれる状況じゃないのは、俺と一緒に居た姐さんが一番良く分かってるだろ?」
「まぁねぇ。
どういうマテルを使ってワタシのレコカを奪ったか知らんけどさ、
ソイツが予選突破した場合、ワタシらが手を出せないんだよねぇ?」
「そうなんですよ。仮にそうなってた場合そいつらはこの会場に居ない可能性すらあるわけだ。
というわけでギンエイ。お前が見逃した予選突破チームの面子によっては、厄介な事になるって事だ」
「おいおい、見逃したってそりゃ冗談じゃねぇぞ。
カード交換所に来た奴は五人いるが、俺が"仕留めた"のはうち三人。
そいつらは当然予選突破してねェわけだが、あと二人のチームは突破してるだろうな。
その一人はどこにでも居そうな、まるでモブみたいな奴だったな。
もう一人は片言の言葉を喋ってた奴だったが、共通してんのは両方とも俺のマテルじゃどうにも出来なかったって事だ」
「自慢するように言うな。馬鹿ギン。
あんたがカード交換所でしっかり抑えつけてたら、こんな面倒な事にならなかったんだからねぇ」
「それを言ったら姐さんが・・・」
二人の表情が一気に変化すると、お互いに構えをみせて一触即発の状態になる。
「姐さんもギンエイも想定話で熱くなるなよ。
ギンエイが見逃したっていう二人のマテルで分かりそうな事はなんかあるか?
おそらくは俺と似た系統のマテルを使っていると思うけどよ」
「だから見逃した言うなっ。
とにかく、俺が嫌いな小細工系のマテルを使ってたのは確かだ。
片言野郎は幻覚を見せたのか俺から逃げるように居なくなったぜ。
もう一人は逆に不自然なほどに自然と溶け込んでるっていうか、そこに居ること自体が不自然じゃないっていうか」
「馬鹿ギンも何言ってんだい」
「不自然な自然・・・。
姐さんが気付かずにレコカが盗まれてるって事からも、もしかするとそのモブが犯人かもしれねぇ」
「その結論はシロちゃんのマテル能力でか?」
「いや、これはただの推理だよ・・・
っん!」
「なんだ?シロちゃん変な色声出して」
「なんで気づかなかった!ここに居るのはマズい。
・・・いやもう間に合わな・・・」
「!
馬鹿ギン!シロクロを護衛しろ!」
シロクロの態度の変化で、アオイがギンエイの方を向いたその一瞬だった。
ギンエイとアオイから死角となり、事が終わった後にその殺気を感じる事になった。
シロクロはここでも「第六感」を使っていたのだが、その殺気に気付くまでマテルの効果が発揮されてはいなかった。
アオイがギンエイへの裏拳をする第六感を察知していたからこそ、シロクロは"その瞬間"までマテルが発揮されていない事を疑いもしていなかった。
そこで起こっていた事は、ギンエイとアオイに向かって一人の剣士が襲い掛かっている状況だった。
間合いはすでに必死レベルに達しており、二人のどちらかは確実に殺されてしまう距離だ。
ギンエイは反応さえ出来ればマテルで防ぐことは可能だが、この瞬間に動けたのはシロクロだけで
剣士もソレを察していたかように、ギンエイに標準を定めていた。
その剣がギンエイの急所に届く瞬間、入れ替わるようにそこに一つの盾が立ちはだかった。
盾はギンエイを押し退けて真正面から斬撃を受ける形となり、声を上げる間もなくギンエイの横へと倒れ崩れた。
「シロ・・・」
「痛ぇなシロちゃん・・・!」
二人がシロクロの最期を見届ける間もなく、剣士は再びギンエイの方へ剣を向けようと体を動かすが
呆けた状態になっていたアオイを見て照準を定め直し、剣も向け直す。
押し退けさせられたギンエイだけがこの時までこの状況をつかめておらず、
顔を上げた時には、アオイに剣が向かっている事が映っていた。
その剣に間に合いそうもない事を本能で感じたギンエイは、自分の武器を剣士に向けて投げつけていた。
突如飛んできた武器に目を奪われた剣士は、瞬時にギンエイの方へ体を向け直してそれを叩き壊した。
その行動がギンエイには一呼吸置く形になった事で、ようやく状況を把握する事ができた。
「ってめぇ!シロクロに何しやがったぁ!」
武器を持っていないギンエイだったが、その巨躯な体格からの攻撃は拳だけで十分だった。
その一撃は剣士を後方へ吹き飛ばす。
勢いのままに剣士の方へ駆け出すと、起き上がろうとしている剣士の顔面に数発の拳を食らわせ
その後ろにあった廃工場の外壁まで吹き飛ばす。
更に止めを刺す為に近づこうとするが、今度は突然現れた風によって動きを止められた。
「いやいや〜。
出場資格がなくなった奴らがする事と言ったら、こんな事ぐらいか?」
廃工場の中からこれまでの状況を見ていたのか
そこの壊れたガラス窓から不敵な顔をした一人の青年が登場すると、
ギンエイの方へゆっくりと歩いていく。
「なんだぁ?てめぇは」
「言葉にゆとりがないね。
ま、メンバーも居なくなったお前らに用は・・・
実はある」
「あ゛?」
「ただで貰えるとは思ってないけどよ、腕輪についてるエネジス。それオレが貰ってやるよ」
「なんだぁてめぇ。その剣士の仲間か?
トンでも野郎だなぁ、コラァ!」
喋り終わるのと同時にギンエイが青年に襲い掛かろうとするが
足を一歩踏み出した途端、そこから瞬時に草が成長をしたかと思うと、
ギンエイの下半身の動きを封じていた。
「あ、この草ね一応マテル性質の物だから力づくじゃ払い取れないよ。
お前"力バカ"っぽいから簡単に仕掛けに踏み込むと思ったけど、こんなんじゃ張り合いもないね」
青年の言う通りで、ギンエイは腰まで絡みついた草を本気で取ろうとしているが
石膏化したかのように下半身と同化してしまっている。
「ふっざけんな!
だいたいこの大会は殺しは罰金だろ?何の得があってこんなフザケタ事しやがる!」
「フレンツも、オレも雇われ参加者だよ。
ま、厳密にはオレはちょっと事情が違うが、それはど〜でもいいとして
フレンツは殺しが職みたいなもんで、オレはダイア集めが職みたいなもんよ」
「めんどくせぇのに絡まれちまったな。くそったれがっ!」
ギンエイは青年の言う"力バカ"な方ではあるが
シロクロが居なくなった今、言葉こそ悪いままだが冷静さを取り戻そうと努力していた。
これまでは頭に血が上ると攻撃一辺倒だったのだが、シロクロ不在となったこの状況が
ギンエイを変えていた。
そして今度は、後ろに居るはずのアオイの状況を確認する為、
上半身しか動かせなくなった体を必死に振り動かす。
「馬鹿ギンにしては上出来だよ」
石膏の草が一気にむしり取られる感触と共にその横にアオイが現れた。
「あら?そこの女にも【草の鎧】を付けてあげたはずなんだけど、むしり取られちゃったか」
「ワタシを拘束するなら、全身を締め付けるべきだねェ」
「したいのは山々なんだけどさ〜オレはそっちの分野は得意分野じゃないんだよね」
「はぁ・・・【風使い】だって自分でバラす所とか、あんたこういう戦闘向きじゃないねェ」
呆れた表情と共にギンエイより一歩前に進み出る。
「・・・姐さん。大丈夫かよ」
「馬鹿ギンに心配されるほど軟じゃないねぇ。
シロクロの敵はあんたにくれてやるから・・・さっさと決めてきな」
ギンエイの方は向かなかったが、その言葉には複数の感情が込められていて
互いに表情を見ずとも意志は伝わっていた。
言葉を返すことなくギンエイは剣士ことフレンツの方へ再度駆け出した。
「得意分野が分かった所で、対抗する術がなければ意味がないわけだろ?
随分"力バカ"の事を信頼してるようだけど、フレンツの剣技は素手で防げるほど軟じゃないぜ?」
「は?馬鹿ギンなんて信頼してないねェ。
今回はお互いの利害の一致で手を組んだって感じだし、商売敵なあんたに余裕な面されると腹が立つね」
「そうかいそうかい。
じゃあ、得意じゃないけど実力で頂くとするかね」
しかし、言葉とは裏腹に青年は攻めようとする素振りを見せない。
それは逆にアオイが攻めて来ていた事も関係していた。
アオイも誘われている事は承知で間合いまで踏み込む。
ギンエイの時同様、急成長してきた草が足に絡みついてきたが、
アオイはそれをものとせず更に前に踏み込む。
石膏の様な硬さのはずの草はアオイには紙程度にか感じず、
ソレを払うように回し蹴りを青年の腹部に食らわせた。
だが、蹴った感触は草そのもので
事実、青年は手で蹴りをガードしており、その手には盾と言える状態で
成長していた草が広がっている。
「あんた。風を使うまでもないって事か?舐めてるにもほどがあるねェ!」
言い終えたと同時に繰り出していた蹴りを再度食らわせる。
今度は防御の草ごと弾き飛ばす威力で、実際に青年を吹き飛ばした。
「ちっ。そういう使い方か」
決まったはずの攻撃にいまいち納得していないアオイだったが
それは、全くの無傷といっても良い青年の表情が物語っていた。
「この草はオレの手を守るだけの物だよ。
実際はお前の想像通りに、風で攻撃を相殺してるって事よ。
な?対抗する術がなければ意味がないだろ?」
青年の言葉通りに、蹴りの威力をマテルの風によって相殺しているのが真相で
草は防御に使っていると思わせるカモフラージュなだけであった。
タネが分かればどうという事もないが、接近戦が主なアオイにとってこの青年のマテルは厄介だった。
青年はこの後も攻撃を仕掛ける素振りもせず、アオイの出方を窺っていた。
その為、もう少しこの膠着状態が続く事になる。
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ギンエイが剣士ことフレンツの間合いに入ったのが合図とばかりに
フレンツは突如立ち上がり、同時に一閃を食らわせる。
ギンエイはかろうじて直撃を避けたが、不自然な動きの為に右肩にダメージを受ける事となった。
その後少しの間、フレンツの剣を辛うじて避け続ける状態が続いた。
これには理由があり
ギンエイは武器を使っていない現在の状態では、得意マテルを使っても効果が現れないからである。
そのマテルとは、
武器を持った状態でそれを振りかざす事でギンエイの間合い全ての時間をスローモーションにしたように遅くするという物で
更に、効果を発揮するにはギンエイの武器に一度触れている相手という条件もあるため
接近した相手にしか使い道がないというやや気難しいマテルである。
ギンエイは元のエリアでは【剣舞】と呼ばれる、その世界の最高芸術技能を持っており
その剣舞とは自身の周りの動きが止まるかのような動きに見せかけるように
自身もゆっくりとした剣さばきを披露するもので
こういう戦いのための技術とは別物であった。
しかし、このエリアの環境がギンエイの元々の技術を戦いに活かす形になり
マテルもより変わった物になったようである。
ギンエイは右肩にダメージを受けたものの、その代わりにフレンツから短剣を奪い取っていた。
フレンツは円剣という特殊な剣を好んで使っており
ギンエイが奪ったのは予備として携帯していた物だったため
別に盗まれても構わない一刀でもあった。
しかも、短剣であるが故に、フレンツの円剣と対抗するにも
当たり方によっては逆にダメージを受けてしまう。
そのためギンエイは短剣で受けられるタイミングになるまで、あえて避け続けていたのであった。
そして、そのタイミングになってフレンツの円剣を防いだ事で
ようやくギンエイのマテルが発動出来る状態になった。
マテル発動後のフレンツは、動きが思うようにならなくなっただけでなく
攻撃を止めてしまえば一気に反撃されてしまうであろう雰囲気を感じていた。
傍からはフレンツの動きがスローな為に攻撃をしているようには見えないが
攻撃の動作を続ける事で結果的にギンエイの攻撃を防御する事が出来ていた。
この行動は殺し屋として勘という物であり、結果これで正解である。
仮に攻撃を止めてしまうと、ギンエイの一方的な攻撃を受ける羽目になる。
ギンエイのマテルの効果はこれ以外にもあって、自分自身の攻撃を高速に見せる事も可能であった。
「剣舞」を普通に使うとギンエイの動きもスローになるのだが
攻撃に限ってだけは通常速度で行う事が可能だった。
しかし、そんな条件でもギンエイは一撃も与えられない状況が続いていた。
通常の相手であれば「剣舞」を使える状態にさえなれば
攻撃速度の違いで負ける事がまずありえないのだが
今回はギンエイが使っている武器が短剣という点と、フレンツの剣技自体がそれなりのレベルであり
動きがスローになっても二刀の円剣を上手く使って致命傷を防ぐ構えが常に行えていた為
互角状態になっていたのである。
それに加えて元のエリアの「剣舞」としての影響とも言えるが
ギンエイの剣技自体がたいした事がなかった事も要因である。
体格には恵まれているギンエイだが、剣舞というマテルはそれを生かせるものではなかった。
戦闘能力だけならばシロクロが斬られた直後の連続攻撃でもわかる事だが
ギンエイは素手の格闘能力の方が断然上であり
今回は「剣舞」と織り交ぜて使えば、フレンツの剣技を交わしてダメージを与えられるはずである。
それでも、ギンエイは武器を持って戦う事にこだわりを持っていた。
冷静に対応出来るようになった事で逆に「剣舞」に頼る結果となってしまい
攻撃としては悪手となっていた。
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二組の戦いは共に膠着状態が続いているが
この状況は意外な所から聞こえてきた言葉で変化する事となる。
「あ、姐さん・・・今回は、俺のヘマ・・・で」
「シ、シロクロ!生きてるのかっ!」
アオイは出方を窺っていた青年を無視して、素早くシロクロの方へ向かい瀕死の体を軽く持ち上げた。
青年の方はその時に生まれた隙にも何故か攻撃を仕掛ける事なく、ただその光景を見ていた。
「あ、ね・・・」
「馬鹿シロっ!もう喋んなっ!」
生きている事を確認できたアオイは
シロクロの体を軽く持ち上げたままで片手を傷口近くへ持っていくと
そこでマテルを使用した。
アオイのマテルは【強化】という至ってシンプルなマテルである。
強化の対象は物体、人間、マテルなど種類は問わない。
今回はシロクロの治癒能力を強化させるマテルを使用していた。
それでも致命傷には変わりなく、マテルの強化でも限度があった。
「ねぇ、"姐"さん?
オレね"良いお医者"を知ってるんだけどさ〜興味ない?」
ふざけた口調で青年がアオイの方へ近づいていく。
「あぁ゛?」
「そう、怒らないで下さいよ。もうこの状態じゃ決勝も無理でしょ?
オレも殺しは良くないと思うわけよ。フレンツには怒られそうなセリフだけどね〜」
「おめぇに姐さん呼ばわりされる筋合いはねぇよ」
「でね、"姐"さん。
ダイア次第でさ、オレはその良い医者を紹介してやってもいいと思ってるのよ。
【キャッシュ・ホスピタル】って言う、ウエブの超有名な金持ち向けの大病院があるでしょ?
あの病院って、金さえ積めばどんな大悪人でも治療してくれる上に
めんどい事務処理も不要と来てるわけよ」
「ダイア・・・ってエネジスか?」
「正解。その通りっ。
流石頭の切れる姐さんは、向こうの"力バカ"にいちゃんとは違うね」
「少し黙れよ。おめぇ」
「だから、そんな怖い喋り方しないで下さいよ〜。
お互いにメリットがあるんですから、ここはスパッとエネジス頂けますかね?」
獲物を今にも捕えそうな獰猛な目をしたままアオイは一度シロクロを下に置くと、
エネジスを青年の方へ思いっきり投げつけた。
「う〜ん。これだけじゃちょっと足りないかな?」
「シロクロと馬鹿ギンの分もくれてやるからさっさとそこに連れて行け!
行かないって言うなら・・・」
「心配しなくても約束は守るよ。それにオレはフレンツと違って殺しは好きじゃないっての。
人が死ぬところなんか見たくもないからな。てことで、さっさと渡してくれるかい?」
「じゃあ、あのバカ剣士を止めろよ」
「いや〜フレンツを止めるのはオレにはちょっと荷が重いな」
「端から紹介する気もないんだろ?舐めやがって・・・」
腕輪のエネジスを青年に渡したことでマテルが使えないはずのアオイだったが
怒りでそんな事はとうに忘れて戦闘の構えを取っていた。
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・・・一体、コレはどういう状況だ。
休憩を終えたオレとジュリは、建物を出るとレコカを探しに周辺の幾つかの建物に入り
ソコでそれなりに集める事が出来た。
それでも目的の「70」のレコカは一向に出て来ない。
そして、少し町並みから外れた所に出たその時、例の円剣の剣士とまたこうして再会する事になったわけだ。
別の組のモノと戦っているのは幸運なんだが、ソレが顔見知りっていうのは嫌なモノだな。
水女と戦った時に居たアオイって言う女と、ソコで倒れているのは・・・シロクロだな。
シロクロは剣士の犠牲になったクサい。
その剣士とは巨躯な男が戦っているが、あの巨躯な男も何処かで見た気がするが・・・
って、そちらの状況確認よりも、ジュリがこの現場を見つけた途端一気に走り出したこちらの状況の方がヤバい。
剣士の方には向かってないし、となるとあの青年って事か?
「ブルックス!お前もここに来ていたのか!」
「ん?
おぉ。これはこれはジュリレスターちゃんじゃないかい。
"城"を追い出された腹いせにクラークを追いかけてここまで来ちゃったって感じかい?」
「黙れ!今はあんたをここで倒した所で意味がないんだ。
クラークもだが、国王の家で窃盗やっておいてよくここに参加できるな」
「はは。参加って言うのはちょっと違うんだよ」
「む?」
このブルックスという青年は、ジュリレスターがクラークを追いかけるきっかけにもなった男であり
「ウエブ国王の城」の最後の護衛を共に行い、結果としてクラークと共にメレオンを盗んで逃げた男である。
そういう経緯の為、敵を目の前にしたジュリレスターはここまではブルックスしか目に入っていなかった。
近くに居たアオイとシロクロの存在に気付いたのは、アオイの台詞によってだった。
「・・・あんた、ちょっと邪魔しないでくれねぇか。こっちはシロクロの命がかかってんだよ」
「む!あんたは・・・。
そ、それはすまなかったぞ。
・・・シロクロはあの剣士にやられたのか。
今は黄色のエネジスを持ってないから気絶させるのはウチには厳しいな。
見た所、ギンエイも苦戦しているみたいだしな」
「あ?気絶?
・・・な事より確か、あんたはジュリレスターだったか?
あんたに頼むのもアレだけどさ、確かシロクロが言うには武器を作るマテルを持ってるんだよなぁ?
それで、馬鹿ギンの奴に武器を作って渡してくれんか?」
「うむ。エネジスの礼の件もあるし、何よりもウチにとってもあの剣士は敵だから協力するぞ」
そう言うとジュリレスターは廃工場の方へ走っていき、そこに捨てられてある鉄屑に両手をつけると
槍に似た長剣を作り出した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「な〜んかすっかりオレの事は忘れられてるって感じだね。
その一直線な性格のジュリレスターちゃんも嫌いじゃないわな」
「ジュリレスターが忘れてもワタシがきちんと見ててやってんよ。
本当に約束は守れよ。おめぇ」
「どうも、信用されてんだかされてないんだかね〜」
「信用なんかしてねぇよ。
あんたが大会参加者じゃないって所からして、どうせ【MK】関係者だろ?
参加者からエネジスとか巻き上げようとしてるの見え見えだしねぇ。
そういや、大会参加者じゃないなら致命傷与えても問題ないはずだよねぇ?」
「おっと・・・武力行使って奴かい。意味がないってわかってるくせに。
あと、MKについては、ほぼ正解って言っておくよ」
「だったら、キャッシュ・ホスピタルの件は一応信用してやるよ。
あんたらの資金も流れてる病院だよねぇ?」
「さ〜て、オレはそんな難しい部分まで存じ上げませんな。
・・・あ、君の仲間に剣が渡ったみたいだね」
「ここまで随分余裕かましてくれたみてぇだが、武器によって馬鹿ギンの強さは豹変するぜ?」
「だから、フレンツとオレは直接関係ないって。
正直フレンツがどうなろうと関係ないのよ。依頼主的には困るかもしれんけどさ。
・・・ってやっぱり君、あの"力バカ"信用してるんじゃないかい?」
「ちっ。言ってろ」
状況は変化した。
ジュリレスターが作った武器がギンエイに渡った事によって、ギンエイのマテル【剣舞】は威力を増した。
剣閃の速さが短剣の比ではなく、長剣に持ち替えた次の攻撃でフレンツに致命的な斬撃を与えることに成功する。
止めは刺さないものの、一撃で剣士が倒れ込んだ事で攻撃を止めて
青年ことブルックスの方へ向かってくる。
ジュリレスターもそれに連なるようについて来た。
「一応、"姐"さんにも説明したけど、オレは【MK】のメンバーの一人だ。
手を出すのもいいけど、それはつまりMKも敵に回すって事になるが
それでも良ければ自由に殴るなどしてやってくれよ?」
「姐さん。シロクロは大丈夫なのかぁ?」
ギンエイはブルックスの話を聞いていないかのようにアオイと話を始める。
「あぁ、この糞ガキが病院を紹介するって言うからな。
ワタシらのエネジスが条件だそうだ」
「姐さん。まさかそんな口だけの話信用してるんじゃないでしょうね?」
「だからお前は馬鹿ギンなんだよ。この糞ガキは少しでも多くエネジスを得ないといけない立場だ。
嘘をついてエネジスを集めた所で、ワタシらに表舞台に出れなくさせられるだけだからなぁ」
「確かにMKごときで動じる俺らじゃないけどよぉ、無駄な敵は作らねぇんじゃなかったのか?」
無視された事で諦めのポーズを一度ブルックスがする。
相手をジュリレスターに変更して話を続ける。
「という事で、オレに手を出すと面倒な事になるぜ?ジュリレスターちゃん」
「その言い方は止めろ。
そもそも【エムケー】が何かなんてウチは知らないからな」
「あらら、なんも知らずにウエブの大会に出てるとはね。
ま、ジュリレスターちゃんの事だからメレオンを見つける事で精一杯だったんだろうけどさ」
剣士が動けなくなった事で、オレもゆっくりジュリの方に近づく。
「遠くから聞いていたから良く分からないが、その【エムケー】というのはエリア警察絡みの組織か何かか?」
「んん?
君は・・・誰か知らんけども〜ジュリレスターちゃんと同じ腕輪番号って事は〜
しっかし、これまた無知メンバーでここまで来ちゃったって事かい。驚きだね」
無知な点は否定できないから何も言えないな。
そして、エムケーについて教えてくれそうな親切な人にも見えないな。
「・・・って、驚きって、君が背負ってる子はマスターじゃないか。
はは〜ん。ここまで残ってるのはそれで納得だが、そのマスターなんかやばそうだな?」
「あぁ。こっちとしても困ってる所だ」
「じゃあ、君もオレにエネジスに渡してくれれば、そのマスターを助けられる病院紹介してあげるよ」
「リク。こんな男の言う事をまともに聞くな。
この男はクラークと手を組んでウチを貶めた奴なんだ」
ジュリが我先にこの男のトコに向かって行ったのはそういう事か。
クラークとこの男以外には、そういうモノは居ないんだろうな・・・。
「貶めたって、まぁ結果そうなったけど、あれは・・・
偶然だぞ」
「何が偶然だ。ウチは・・・」
「ジュリ、気持ちはわかるがちょっと落ち着いてくれ。
で、そのマスターを助けられる病院っていうのは何なんだ?」
「それ以上はエネジスがないと答えられないね」
「そうか。それなら別にいい。
よくはわからんが、お前の対応を見てる限りだと【エムケー】という所もあまり碌ではなさそうだな」
「はは。言ってくれるねぇ。
ま、君はマスターが居るから大きな態度で出てるんだろうけども
大会以降でオレに遭ったらタダじゃすまないと思った方がいいよ」
「それは"ありがたい"言葉だな」
ジュリの気持ちが分かるわけではないが、オレもこの男とは合わなさそうだ。
手遅れな感じもするが、後ろ盾がありそうなモノなのでこれ以上は下手に出ない方がいいか。
「と、正直、君達に構っている場合でもなくてね。
じゃあ"姐"さん。早くエネジスを渡してもらえないと、病院の行き先が変わっちゃうよ〜」
アオイもシロクロの関係でこの男が絡んでるみたいだな。
腕輪を見る感じだと、アオイはすでにエネジスを渡しているみたいだ。
そしてもう一人の巨躯の男がアオイと何やら相談しているみたいだ。
「これでいいんだろ?さっさと手配しやがれ」
巨躯な男から2つのエネジスがブルックスに投げつけられるように渡る。
これで、ほぼアオイ達は決勝には行けない状況になった感じだな。
シロクロが瀕死な時点で無理なのは見えている事だが。
巨躯な男はエネジスを投げつけた後、ジュリが作った槍のような長剣を肩に担いだのと同時にオレと目があった。
!!
「おいおい、確かお前は・・・デックスで捕まってた兄ちゃんじゃねぇか?
こんな所まで来て何してんだぁ?」
いやいや、それはこちらの台詞だ。
この巨躯な男、どおりで見た事があるはずだ。
オレがデックスでマテル犯罪者として捕まってた時に、運送していたナビ職を襲ってオレのエネジスを奪おうとしていた盗賊の男じゃないか。
「こっちこそ、こんなとこで遭うとは思わなかったな。
てっきりお前はデックスでカモを狙っていると思ってたし」
「そりゃデックスは狙い目だしな。お前みたいなカモが多くいたりする町だし。
って、マスター背負ってここまで来たっていうのも恐ろしい奴だわなぁ。
んん?
そう考えると、なんで兄ちゃんは仲間にマスターが居るのにデックスで捕まってたんだ?」
「仲間って言える間柄じゃないけどな。大会に出るために協力関係になったというか」
「そういう事か。上手い事やったもんだな。
って事はアレか?ジュリレスターの仲間って兄ちゃんの事になるのか?」
「うむ。そうだぞ」
当然といえば当然なのだろうが、アオイ達の知り合いだったジュリは巨躯の男も知り合いって事か。
「マスターが仲間っていうのは中々上手い事やったみてぇだな。
俺らはここで消えるけどよ、どうせなら優勝しちまえよ」
「うむ。そのつもりだぞ」
「へっ、酒場の件もあってこんな状況じゃなけりゃ、今度こそエネジス奪い取ってやるつもりだったんだけどなぁ。
剣のお礼に"こいつ"全部くれてやっから、絶対決勝には出ろよな。世界中継見てやっからよ」
そう言うと巨躯の男は腕輪から多くのレコカを出して全てジュリに手渡して
先に進んでいたアオイ(+シロクロ)とブルックスの方に走って行くと町並の方へ消えた。
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「あの巨躯な男、色々癖がありそうだが基本は良い人っぽいな」
「うむ。ギンエイは喧嘩っぱやいが、そんなに悪い奴には見えないぞ」
「折角貰ったレコカなんだ。コレを活かして決勝に行かないとな」
「うむ。ブルックスの件は有耶無耶になったけど、まだクラークが残ってる筈だからな。
絶対決勝に行って優勝するのと、メレオンを取り返さないと駄目だな」
ダイアの件も勿論だが、この一件で余計に決勝に進まないといけない気持ちにはなったな。
貰ったレコカを確認すると「70」関連は【□】【≡】が入っていた。
このレコカは100枚以上は軽くあるのだが、ギンエイという巨躯の男一人でこれだけ集めたのだろうか。
デックスで盗賊行為をしていただけあって、こういうモノを得る事は得意分野なのだろうけども
この大会で敵として戦う事がなくなったのはありがたい事だ。
おかげで残るレコカは【☆】だけとなった。
リディの顔色が悪くなっているのもやや気がかりだが、
早い事見つけて決勝進出を決めておきたいとこだ。
気がかりといえば「エムケー」なる組織もそうだな。
ジュリも知らないとなると、混色のエネジスに入っている知識外の情報って事になるな。
エリアスターが知らされない情報がまた一つ増えたという事か?
アオイは「エムケー」を知っているようだったから、
「混色の情報」は人によって違うようになっているかもしれないな。
何にせよ、ここで考えていても結論は出て来ない。
今は「70」の【☆】レコカが出てくるのを信じて、ジュリにはまた建物に入ってもらうとするか。
ただ、もう【☆】のレコカが出て来ない可能性もある。
それにオレらは「70」の【☆】レコカを一度見てもいる。
水女が持っていたレコカの一つがそうだ。
仮にソレしか残りがない状況なら水女から奪い取る必要があるが、だが奪い取れる可能性は0に近い。
水女は間違いなく予選を突破しているからな。
・・・あ。
水女で思い出したが、ソイツには罰則金支払いかエネジスを一つ渡す必要がある。
カードバトルでは水女には勝ったが、ルール的にはオレが罰金を背負う状態になっている事を忘れてたな。
決勝に出たとしても順位次第では借金を背負って終わる可能性だってあり得る展開だ。
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決勝進出締め切りまで4時間は切っていると思うが、未だに目当てのレコカは見つからない。
「70」の他のレコカは幾つか見つけたので、【☆】も複数あると信じているが
ソコは上手くできていない様である。
気がついたらカード交換所と呼ばれる建物の近くまで来ていた。
参加者らしきな人も居るには居るがどうも様子がおかしい。
「リク。マスターを預かるからカードバトルでレコカを集めてきていいぞ」
「そうしたいんだけどな・・・」
オレらの存在に気が付くとそいつらは姿を隠した。
「む?逃げられたな」
「理由はわからんが、リディのせいか?」
「うむ。ギンエイもマスターが居ると有利みたいなこと言ってたな。
ウチにはさっぱりわからないけどな」
それはオレにもわからないさ。
マスターだから避けられているのかは置いとくとして、カード交換所近くにいるという事は予選突破が近いはずで
まだ突破できない状態であれば、オレらと同じくレコカを集めに近づいているというのが普通だ。
逆に奪われることを恐れてって事なら、逃げるのはわからなくもない行動だけど
リディは眠ったままだし、その状況を見ているんだから、マスターを恐れる必要もないように感じるんだが。
そう考えると、未だにマスターの恩恵というのが理解できないな。
それとも、オレのこの行動が油断を誘っているという風に見られているって事か?
ここまで残っている奴らはある程度慎重に行動するっていうのも当然だろうし。
「リディのせいかははっきりしないが、コレだと建物以外からレコカを集めるのは不可能になるな。
残り時間もそんなにあるわけじゃないし何とかしないとな」
「じゃ、ウチがマスターを背負ってリク一人で行動するようにするか?」
「いや、無駄だよ。
ここまでの状況が見られてるだろうから、今更オレが一人になった所で相手は警戒してバトルに乗ってこないだろうさ」
「うむ・・・それは困ったぞ。このままだとウチ達も予選で終わってしまうな」
「あと2時間程移動して、微かな可能性を見つけに行くか」
重い足取りながらオレとジュリはカード交換所から離れて再びレコカ探しをする事となった。
リディを背負いながらではきついので、建物に入ってからは二人で手分けしてレコカを探す状態を繰り返し
外に出る前に再び背負うという形を続けていた。
「リク・・・マスターは大丈夫そうか?」
「大丈夫とは言えないな。ただ、今のオレ達にはどうすることも出来ない」
「ギンエイにはああ言われたけど、マスターの事を考えたらこれ以上無理はしない方がいいと思うぞ」
「息は辛うじて続いてる状態だから命がどうとかという事は無いだろう」
「だが、ウチには大丈夫なように見えないぞ?」
オレはそこで即座に返答を返さなかった。
この世界の住民であるリディ達がオレらと同じように"生きている"のは事実なんだろうけども
何故かリディに関してだけは、"死ぬ"という事は無いだろうと思い込んでいた。
ソレはオレの勝手な想像である。
作られた世界であろう06エリアと呼ばれる舞台で、オレは何かを達成する為にマスターと呼ばれるリディに呼ばれたプレイヤーである。
そして、リディは重要なキャラクターとしての配置であり、こんな所でフェードアウトはしないであろうという思い込みでもある。
そう考えるのは、オレがここまで感じてきたご都合的な展開はオレにとっての好都合でもあるからだ。
そして、リディと最初にあった時に聞かされた"宇宙のリフォーム"という設定。
ソレをするための主人公にさせられたのがオレなんだという思い込みもあった。
しかし今は、重要なキャラであるリディに拘る必要は無くなってきている。
この大会でリディ以外のマスターと呼ばれる存在のヴィルという人物を知って
オレと似た考えのネルソンというモノにも出会った事でプレイヤーのオレの選択肢が増えたと考える事が出来るからだ。
一番最初に出会ったキャラが最後まで重要なキャラになるパターンというのは、ある種のお約束でもある。
プレイヤーであるオレの選択肢を増やして、進むべき道を混乱させてみるという"作り"も割りとある展開だ。
ただ、その裏をかいて最初に出会ったキャラが実はラスボス的な存在っていうパターンもそれなりにある。
そしてオレは、後者であって欲しいと思っていた。それほどリディが苦手なタイプなんだ。
そんな考えだから、この時のリディが生死を彷徨っている程の状態だという事も気付かないようにしていた。
呼吸がおかしくなっている事にも気付いていて、このままだと危険だという事も認識出来ているはずだが
それでも、オレはリディは死なないと思い込んでいた。
そして、ソノ点をジュリに突っ込まれる事を恐れていた。
「リク?聞いているか?」
ジュリが何かを言っているようだが、その言葉がすり抜けている。
オレは一体何なんだ。
どうにもできない失望感からネガティブに自己防衛を働かせているだけか?
元々からオレは冷たい人間と思い込めば楽なだけだろうな。
どんな理由があれ、人の命が止まる瞬間など共有したいとは思わない。
助けられる可能性があるのなら助けるのが人間だろうよ。
色んな言い訳を考えるだけで、先が見えないだけで、オレは都合よく解釈しようとしてるだけじゃないのか。
一体これから・・・
グチャグチャになっている頭が軽く揺れていた。
ソコには、すまなそうな顔をしたジュリと頬の痛みだけが残っている。
「すまん。リクが明後日の方向になってたから強制的に叩き起こしたぞ」
「・・・いや、こっちこそごめん。
手詰まりになった事でゴチャゴチャ変な事ばっかり考えてた。
ジュリの言う通りだ。リディの状態をどうにかするのが先だな」
コレは、本音じゃない。
こんなの表向きのいい子発言に過ぎない。
全くといって納得してるわけじゃなかったが、今はそう言うしかなかった。
「む?」
また明後日に行きそうになったオレを一人の人物が救う形になった。
ジュリもその人物を知っているようだ。
「やはり、リクさんですね」
「お前は・・・キユウか。
まだ予選参加中か?」
「いえ。ワタシの仲間のおかげで決勝には出られる事になってます」
確かに腕輪が★になっているな。
しかし、突破したのに何でここにまだ居るんだ?
「説明会場では世話になったぞ」
「あぁ。予選の時の。リクさんのチームだったんですね。
所でリクさん達は・・・"まだ"のようですね」
悪かったな。と思わないのがキユウの人徳なのかは分からないが
不思議と嫌な気分にはならない。
「うむ。【☆】のレコカがあれば何とかなるんだが」
「そうなのですか。
あ、そうだ。説明会場のとこで仰られた事を覚えてますか?」
「む?」
「次に会った時には勝負って言われてたんですよ」
「今ここでウチと勝負するのか?バトルなら負ける気はしないぞ」
「ジュリ、ちょっと待った。
予選通過者にバトルは罰金対象だ」
「む。そうなのか?」
「リクさん、そこは心配ないですよ。
ワタシから持ちかけた事ですし、結果的にレコカ交換になれば良いわけですから」
予選通過者のバトルっていうと水女の事を思い出すのであまりいいイメージがない。
しかし、ジュリは二つ返事でそれを受け入れた。
「バトルはカードバトルでよろしいですか?」
「それなら、ウチじゃなくてリクが・・・」
「ワタシは貴方だからバトルを受け入れたんですよ。
勝負の約束ですから」
「そ、そうか・・・。でもウチはこういうのは苦手で」
「ジュリ、作戦会議だ」
キユウが何を企んでいるかは分からない。
今回は仮に負けてもレコカを失うだけだから「70」のレコカは全てオレが持つ形にして
後は6枚のレコカを入れるという水女と同じ作戦を取ることにした。
「しかし、リク。ウチはこういうのはどうもダメだ」
「顔に出てもいい。とりあえず5枚のカードを出したら、伏せる前に全部見て、違うレコカを最後に置いとけ。
全部同じレコカでも適当に置くように。あとはキユウが勝手に判断してくれる」
「う、うむ。何とかやってみるぞ」
ジュリにはオレが水女にやったハッタリ戦法をそのまま実演させた。
カードの構成は若干異なり、【☆】レコカを5枚と【□】レコカを1枚である。
あえて捨てレコカを一枚ずつ開いていき、【☆】レコカを相手に見せることで、勝負レコカの選択肢を限定させてしまうやり方は同じである。
相手は全て【☆】だと思いもしないだろうが、それでも4枚【☆】が続けばいくらなんでも最後を疑ってかかる。
最後が【☆】だと思わなくても、心情的には【☆】に負けてしまう【□】を出すのは躊躇いがある。
かといって【☆】に勝てる【≡】を出すのも裏を読んでしまうと、こちらが最後に【≡】に勝てる【+】を出す可能性が高くなるわけで
そうなると一番安全と思われるのが【+】となるという考えの流れも同じだ。
水女の時はオレは更にその裏を読んでもらって【□】を出すと思っていた。それはオレが【+】を出すように話を持っていった事もあるが
実際は当てが外れてしまった。
ただ、今回は顔に出てしまうジュリがカードバトルをする為、そういう点の小細工は不要になった。
顔に出るほど、相手つまりキユウに【+】を出してもらえる可能性が高いと踏んでいた。
キユウもジュリと似て純粋な部分がありそうだが、カードの配置を見れば流石に疑ってかかるだろう。
何より最初にカードを選ぶ演技をさせる事で、最後に【☆】を出さないであろうという思い込ませ効果もある。
勝負は思いの外上手く行き、キユウが【+】ジュリは予定通り【□】を出して勝つことに成功した。
「これはリクさんの作戦勝ちって事ですね。裏の裏を読むとは参りました」
この言葉はなんか引っかかる気もするが、ココは素直に受け取っておくか。
「リクさん達が欲しいレコカはこれですよね?」
そう言ってキユウは「70」の【☆】レコカを腕輪から取り出す。
明らかに都合が良い展開だが、コレはコレでアリなのか?
「あ、あぁ。これでオレ達も決勝に出られそうだ。
ただこれだとキユウが損をする事になるから、何か一枚レコカを渡さないといけないな」
「そうですね。ただ、ワタシ達にはもう不要なカードですから何でもお好きな物を1枚頂ければいいですよ」
結果的にレコカ交換をする形になり罰則金が発生しないカードバトルとなったが
これで恩を売ったとされるのはちょっと決勝ではやりにくいかもな。
オレはそういう面ではドライだが、ジュリはやり難いだろう。
そういうハンデを負ったと考えれば、このレコカ交換もご都合主義なだけではないのかもしれないな。
「ともに決勝で戦う事になりそうなのは嬉しいのですが、そちらに背負ってる人は大丈夫ですか?」
「あぁ。ちょっとした罠にかかってな。眠りから覚めない感じなんだ」
「そうなんですか。ワタシにはなんとなく呪いをかけられているように見えますが・・・」
呪い?
可能性の一つとして絶対入れておかないといけない選択肢のはずだったのに、オレの頭の中には全くソレがなかった。
リディはヴィルによってマテルの力を使い果たす形になって、"眠らされてる"と思い込んでしまっていた。
そのために当然、オレが解除のマテルを使ったのは眠りの解除するマテルだった。
呪いを解除するマテルなんて想像すらしてなかったのだ。
そう考えている間にキユウは居なくなっていた。
結果どうなるかわからんがキユウには感謝しなければいけないかもな。
呪いを解くイメージというのがいまいち分からない部分があったが、リディを降ろすと解除を試みてみる。
相変わらずリディが目を覚ます事は無いが、顔色が変わった事だけは見て分かった。
「こんな単純な事に気付けなかったのか、オレは・・・」
「うむ。キユウには2つも恩が出来てしまったな」
顔色が良くなったリディをジュリが背負うと、オレらはカード交換所へと急いだ。
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「貴方達で5組目です」
カード交換所には久々に見る事になった青い制服の人物がおり、オレは「70」の5種類のレコカを渡す。
適当に機械操作をして少しすると、予選突破の印となる★マークが70の代わりとなってオレの腕輪に表示された。
「おめでとうございます。時間までここに残るのも自由ですし、決勝会場となる入口へ向かうのも自由です。
ただし、その入口に進んだ時点でこちら側には戻れませんのでご注意ください」
何もなかったように見えた壁にうっすらと入口のような扉があるのを見つけた。
カード交換所は2階建て構造になっており、1階で予選参加者は待たされ、代表者一人のみが2階へと呼ばれる。
予選を通過した時点で下に居る残りの仲間も2階に行く事を許される。
なお、カード交換所ではカードバトルを含むバトルは禁止となっており
それはあのフレンツの様な殺人剣士でも例外ではなかった。
もちろん青い制服の者が監視しているという部分もあるが、そういう部分での戦いは大会側の意図からずれているらしい。
なんにせよ長い予選が終わった事は確かだ。
キユウのようにここに残る理由はないから、決勝への入り口へ向かって歩き出す。
抑々キユウはここに残って何をしているんだ?
オレと同じ事を思ったのか、ジュリの足も止まる。
「リク。ウチは時間までここに残りたいが駄目か?」
「キユウの件なら気にするな・・・っていう方が無理だけど、オレも少し気にはなってる部分だ」
「いや、それだけじゃないんだ」
ジュリの顔は確かにそれどころではない表情を浮かべているように見えた。
何かを思い出したかのように不安になっている。
『・・・ん〜』
「む?マスター気がついたか」
『あっれ・・・?
隊長?
・・・おはようございます』
完全に寝ぼけているマスターが長い眠りから目を覚ました。
「寝てくれていたおかげで、予選を突破する事が出来たぜ」
寝かされたというか呪いを受けたのはリディのせいではないのだが
無関心なその表情に、嫌味な一言が出てしまう。
『んん?
予選突破したの?私が居なくて?』
「あぁ。眠っていたおかげで大活躍だったぜ」
ジュリも不思議な顔をしていたが、不思議とそれがオレには安心できる状況だった。
今となればこの2人がメンバーで良かったのかもしれないな。
『なんか腑に落ちない状況ですなぁ〜。
あのストーカー君が私に呪いのマテルをかけてたのはわかったんだけど、リッ君が居るから問題なかったわけだね』
「まぁ・・・な」
危うくあのまま目を覚まさない状況だったとは言えないな。
なんて言い返されるかわかったもんじゃない。
「マスターは状況がまだわかってないと思うが、ウチ達は予選を突破できたけどウチにはまだここに残る理由があるんだ」
「そうだ。ジュリはさっき何か言いかけてたな」
「うむ。ウチはある人にエネジスを持ち帰る事を約束してるんだ。
リクにも3000万ダイア返す約束をしているが、ウチには賞金以外にエネジスも必要になるんだ」
『じゃあ、この腕輪のエネジス隊長にあげるよ』
「あぁ。決勝に出て勝てば、3000万ダイアも手に入るからな」
「リク、マスター。本当にありがとう。
それでもウチは時間までエネジスを探してみるぞ。
この大会はエネジスも見つけることが出来る筈だからな」
オレはソレについて返答はしなかったが、無駄だとは思っていた。
今回の大会でエネジスを得る方法は、腕輪のエネジスだけなのだろうと感じていた。
散々建物の中を捜索して分かった事たが、レコカが見つかり易いせいもあるかもしれないが
逆にエネジスは一つも見つける事は無かった。
ジュリもソレを分かっているはずだが、あと数時間だけなので好きにさせてあげようと思った。
しかも、状況によってはオレのエネジスも水女に渡すために無くなる可能性があるからな。
ここでエネジスを失う話をすると、余計にエネジス探しに執着する事になるだろうし。
何よりジュリは、一つの事に集中すると他の意見を聞かなくなる性格っぽいからな。
1階に戻るとオレは一人で休憩させてもらう事にした。
体力がそれほど回復したとは思えないリディがジュリを追いかけていく。
女性の考える事はわからない事が多いが、特にリディに関してはそれが顕著な印象がある。
やはり苦手なんだろうな。オレは。
少し時計の針が動いた。
一人の男がココに入って来て人探しの動作をしていたが、オレを見つけるなりこちらへ向かって歩いて来る。
一応、腕輪をわざと見せつけるように警戒の動作をしたが
男は軽く笑っただけで、目の前近くで止まった。
「そう警戒しないでくれよ。
ほら、予備予選前の会場であったの覚えてないかい?」
この男、確かに見たような気はするのだがよく覚えてない。
「しょうがないか。君一人って事はマスター達は別行動なのかい?」
「お前にソレを言う必要があるのか?」
「まったく。
それでも僕の予感通りに君達は決勝にまで上り詰めてきたね。
マスターが居ればよっぽどな事がない限り、そうなるのは既定路線だけどね」
「そうかい。それはどうも」
「ただ、決勝に残ったという事は気を付けないといけない事があるよ。
一つは決勝は世界に中継をされるという事。
つまり顔が売れるって事だからね。
君みたいな新種やマスターの組み合わせはある意味で危険でもあるんだよ」
この男、オレがエリアスターである事をどこで知ったんだ?いや何処かで遭ってるからこその発言か?
やはり、下手な返答はしない方がいいな。
「顔が売れるって、まるで指名手配されるような言い方だな」
「それに近い感覚で正解だと思うよ。
君は気付いていないっぽいけど、この世界にはマスターを良しとしない集団がいたり
新種である君達を良く思わない差別主義者もいる」
「そうか、それはご忠告ありがとう」
「まだ僕の事思い出せないのかい?」
「なんとなく、思い出した気はするがオレに構わないでくれないか」
「どうも嫌われたみたいだね。ただ、これだけは言いたくてね。
キユウって子と君は知り合いみたいだけど、あの子はちょっと何ていうか僕の経験からするとちょっと厄介な相手だね」
「そうかい。それはどうも」
明らかにオレはこの男を邪険にしていた。
キユウの悪口っぽい事を言っていた事が余計に頭にきたかもしれないが
完全にこの時に、この男の事を思い出していた。
予備予選前の受付でリディの暴走割込みをした際に、オレに助言ぽいというか説教をした男だ。
ほんとこの手の説教は勘弁して欲しい。
ようやくあの男がオレの傍から離れて、また一人の時間になった。
確かにキユウが厄介っていうのは分からなくもない。この世界ではあまりにも普通すぎる感じもするからな。
個性がない分、対策を練るのも少しばかり苦労しそうだ。
ジュリとのカードバトルもキユウが本気でやっているようにも見えなかった。
ソレはソレとして、あの男も予選突破しているのだろうな。
オレにキユウの印象を残していった事からも、キユウを囮にして決勝に向けた何かを企んでる可能性もあるな。
当然なのだろうが、決勝は曲者揃いの集まりって事になりそうだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
時計の短針が一つ動いたあたりで、ジュリとリディが疲れた顔をして戻って来た。
「どうだった?」
「うむ。レコカしかなかったぞ」
『リッ君が探してくれたら見つかったかもしれないのに、こんな所でサボって楽しかった?』
「楽しくはないけどな。それにサボるって・・・」
『まったく。
か弱い女の子に働かせて、あれですか。リッ君はヒモですか?』
・・・。
いや、本当勘弁して下さい。このノリにはもうついて行けません。
「リク。一つ気になる噂を聞いたんだが・・・」
「ジュリ、その話はちょっと待った。とりあえず先に決勝会場に向かおう」
このカード交換所の1階にはオレ達以外にも数組が残っていた。
ほとんどが予選突破していないようにも見えるが、なんにせよ下手な話をして余計に目を付けられるのも面倒だ。
マスターが居る時点で注目はされてるっぽいしな。
と、もっともな理由を自分自身に思い込ませて納得させたが
ジュリが何かを掴んでる表情をしてた上に、リディのネタ振りに付き合わされるのも勘弁だったので
場所を移動する事にしたのが本音だけどな。
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