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【クオリファイ-3】
水女をハメたつもりが、逆にハメられたことに気付かされた結果になったが
まだそれでもなんとかする手立ては残されている。
優勝さえすればその賞金で罰金を払うことが可能だからだ。
自分の分の1000万ダイアを失うと考えてもまだジュリの分が残っている。
とりあえず優勝して"1000万"だけでも確保しておきたい所だ。
「ショックのところ悪いけど
ワタシらはあんたらとカードゲームするつもりはないけれど、このまんまって事にはならねェんだよな」
このおかしな状況になったオレらの所に
少し魅力的な体の女ことアオイが追い打ちをかけるように詰め寄ってきた。
「いや・・・実力でエネジスを奪う方がこちらとしても助かるな」
冴えのないハッタリをかましてみるが、それはアオイにもお見通しである。
それでも、シロクロだけは違ったようだ
「姐さん。ここは引いておきましょう。
イメージが出て来ないんですが、こいつらなんか奥の手を持ってる気がします」
「はぁ?
ま、シロクロが忠告するんだから一応その通りにしとくけどさ。
ったく、水撒き女の"毒"にでもやられたんじゃないか?」
あまりにもこちら的には好都合な展開になって来てるな。
こういう時は、たいがい嫌な事が起こるのがお決まりな展開ってモノだろう。
「リク。ウチはどうすればいい」
近くにあった椅子を槍に造形していたジュリが、戦闘態勢を解かずに問いかけてきていた。
オレは完全にジュリの方は向かずに対話を続けた。
「向こうは戦う気がないようだが、ジュリはどうする?」
「うむ。シロクロ達とは無理に戦う必要はないぞ。
それよりも、あの女を追った方が良いんじゃないか」
「クラークの件を忘れたか?
追いかけた所で、罠を仕掛けてる可能性があるからな。
あの水女はオレ達よりも頭が切れそうだ」
「う、うむ。
ウチには良く分からないが、リクがそう言うなら無理はしないぞ」
前から思っていたのだが、ジュリはどうも従順過ぎる嫌いがあるな。
オレの事を信用しているという事なんだろうけども
こういう純粋な点は、この大会ではプラスには働かない気がするな。
「ジュリはこう言ってくれてるが、オレは疑い深い人間なんでね。
まして下手すると借金になってしまう状況だけに、こちらはエネジスを多く得る必要もあるわけだ」
ジュリの方からアオイの方へ完全に向き直し
腕輪に手を当てると、何かを出そうとする構えだけを見せた。
「そのハッタリには、乗るつもりはねぇぞ。
先ずは決勝に出る事が先で、お前らとの戦いはそこでも十分可能だ」
「後ろの姐さんとやらは戦う気満々にみえるけどな?」
何故かオレらと戦うのを避けているシロクロには強気に行ける。
コレ自体がシロクロの罠という可能性はあるが
オレが引かない事で主導権を渡さないようにする狙いもあった。
「お前が小細工で勝負を仕掛けるタイプっていうのは、あの女とのやり取りで十分理解してるぜ。
俺達はそういうタイプは苦手なんだよ。
それでも戦うってなら、望みどおりにやってやるぜ?」
さすがに実戦で戦うのは分が悪い。
しかし、こういう展開に向こうが持って行こうとしてたなら、ここで引くのは逆にマズイ。
「あぁ。こちらも助かるな」
足は震えてないつもりだろうけど、それでも明らかにマテルでは実力差のある相手という認識があるので
体が動く気配はない。
仮に本当に実力戦となればジュリが必死に戦うだろうけども、勝てそうなイメージはない。
そんなことを考え、オレが向こう2人から目を軽くそらした瞬間、事が起きた。
結果的にオレは二人に守られていた。
オレが弱気になったのを見てか、アオイが一気にオレの所に攻めこもうと進んでいたようだが
ソレをシロクロが必死に静止している。
一方でジュリもアオイの動きとほぼ同時にオレを守るために、目の前まで移動し攻撃態勢を取っていた。
「姐さん!だから駄目ですって。
この男、実戦には向いてないですから、攻撃したら殺してしまう可能性が高いですって!」
・・・!
シロクロがオレと戦いたくない理由ってそれだったのか。
それだけアオイとの実力差が離れているという事なのだろうが、ソレは少し複雑な気分だな。
「リク。ここは戦わずにリディと合流するのが先だと思うぞ。
ウチが防御している間に早く外に逃げろ」
それでもジュリに言われるまま、ワザとらしい不本意な表情をしてオレは外へ急いだ。
「シロクロっ!おめぇそんな理由であの男と戦うのを避けたのかよっ!」
シロクロに腋を抱えられ、今にも檻から出て来そうになっている猛獣的な雰囲気のアオイは、完全に頭に血が上っている状態だった。
「そうですよ。姐さんはガチの喧嘩じゃ手加減しないでしょ?」
「たりめぇだろ。男(やろう)のくせに。どいつもこいつも野菜食って満足してるような顔しやがって」
「姐さん。その例えは良く分からないぜ・・・」
「あぁ?」
よく分からない夫婦漫才風な二人を振り切ってオレは建物の外に抜け出した。
ジュリもほどなくして出てくる。
「リク。
シロクロが口を出してくれたから助かったけど、ウチ達じゃあの二人には実力では無理だったぞ。
特に、アオイという女はウチらのマテルでどうにかなる雰囲気じゃないな」
「オレでも、力の差がある事ぐらいは分かる。
だけどな、あそこで下手に出てたら、更に付け込まれる可能性もあったからな」
「うむ。そうか・・・」
表情を硬直させたままジュリはオレから目をさけて上を見ていた。
オレの狙いもシロクロの狙いも同じだったはずだ。"ここ"では戦いたくない。
ただ、ジュリにも言ったように、向こうに付け込まれるのだけは避けたかった。
オレらが実戦では勝ち目がない事は、お互いに分かっている事だ。
しかし、それでも何だかの奥の手を残して対抗できる雰囲気を見せておきたかった。
アオイという人物には特に。
シロクロ達から逃げるように走っていたオレらは、完全に気配がなくなった事を確認して、何もない場所に立ち止まる。
この予選では恒例となりつつある、ベースレコカによる現在地とリディの居場所の確認を行った。
当然に最上層に移動出来ていたが、同じ最上層に居るリディの居場所は相変わらず安定せず
コロコロと移動を繰り返している。
ジュリにリディの居場所を常に見てもらいつつ、オレは幾つかのレコカを親指で押さえていた。
その結果ほとんどの参加者が最上層に居る事になっていたが、一つのレコカだけは全く誰もいない状態だった。
ちなみに「48」の【□】のレコカである。
多分だが、この数字が水女のチームなのだろうと推測した。
これが分かった所でオレが罰金を帳消しにする事は、今は出来ないけどな。
「動きが段々遅くなっているぞ」
ジュリが言うのはリディの移動速度の事である。
オレがカードバトルをしていた事を考慮しても30分以上、下手すると1時間近くはリディは休みなく移動し続けてるかもしれない。
そして動きが遅くなっているのはマテルを使い果たしている可能性が高い。
とにかく、リディが行きそうな場所に向かって大急ぎでオレ達は移動していた。
行きそうだと目星がついているのには理由がある。
何度かリディの移動を見ていて気が付いた事だが、移動先がほとんど同じ道筋で繰り返し辿っているようにみえたからだ。
良いように考えると、合流する時に分かりやすいようにとリディが考えているのかもしれないが
このまま移動を続けていると、リディが倒れてしまうだろう事は確実だろう。
数分後に何とかその移動ポイントであろう建物の近くにオレ達は来ていた。
それから時計の細い針が一周する間もなく、聞きなれた声が飛びかかってきた
『・・・ったぁ!』
体に衝撃が走る。
何かに押されるようにオレはその場に尻を付いた。
「この、お前・・・」
怒りをぶつけようとその衝撃の主をどかそうとしたのだが
その主には明らかに異変が起きていた。
尋常ではない汗とやや青くなった顔。
何とかオレの肩を掴んで気を保っているように見える。
『リッ君・・・遅すぎ・・・』
「悪かったな。
それよりも、なんでそんなに動いて・・・」
その主は肩から手が外れるとそのままオレの方へ倒れ込んで気を失った。
女性に抱かれている感触で、ある意味悪い気はしなかったが、ジュリの方へ眼を配ってリディを預けた。
ジュリは"小荷物"を背中に背負う状態で待機する事になったが、
コレで追われていると思われるモノに対抗するのは厳しいモノがありそうだ。
「む。何か来るぞ」
ジュリの感覚通りというか、当然というか、リディが動き回る原因となったモノがその場に登場した。
「おやおや。
ようやく大人しくなったと思ったら、すっかり仲間に介抱されてるのかい?」
聞きなれた声と見慣れた2人組。ラフな格好の男と革製品の男。
予備予選前の階段で出会った、ある意味で運命的なヴィルとネルソンの二人である。
「リク、ようやく来たか。
だが、そっちのマスターは限界を超えてるぜ」
「そっち?
じゃあネルソンと一緒にいるそのラフな男がお前のマスターって事か?」
「そうなるな。
そして、お前のマスターは一つ勘違いをしてる」
「そ〜いうことだね。
リディさんは私の事を勘違いしてるんですよ。
確かに最後は戦う運命にあるけれど、それでもこの大会では私はリディさんの味方なんですよ」
このヴィルという男がリディを気に入っている事は分かるのだが
勘違いとは何のことだ?
「リク。その二人の言っている事はウソだぞ。
前にも言ったけど、マスター同士は何かの争いをしているからな」
「ちょっと待った。スレンダーなお姉さん。
確かに争うのは運命だけども、リディさんは私にとって特別なんですよ。
君達には任せられない」
「あんたは何を言ってるんだ?」
「今だって、危険な敵からリディさんを守るために移動をしてただけなんだから」
ジュリの表情は固まったまま動かなくなった。
オレも同じ気持ちなのは当然なのだが、このヴィルというマスターは思った"異常"に思考がズレているようだ。
「ヴィルは確かにおかしなマスターだが、お前らのマスターを守っていたって事は事実だ。
・・・ちっ。
喋りが過ぎたから向こうから来たぜ」
向きをオレ達からやや変えて
革製の手袋を付けたまま、ネルソンは指を互いに重ね合わせた状態で指を慣らし軽く両手を振り回す。
そちらの方角から音もなく、だが、ヴィル以上にやばそうな男が一人ゆったりと歩いてきた。
「スレンダーなお姉さん。早くリディさんを私に渡してください」
「何を言っているか訳が分からないぞ。あの男もあんたらの仲間か?」
「いやいや。
流石にあんな危険人物は仲間じゃないよ」
その危険人物はジュリとヴィルの会話に反応したかのように、突如走り出してきた。
まだ50mほど先ではあるが、長めの髪が逆立つ勢いで迫っている。
「お前のマスターが移動をしない限り、この剣士と戦う羽目になるな」
「剣士?」
オレの疑問と同時に、手袋を脱いだネルソンは危険人物の走行ルートに割り込んでその勢いを止めた。
今までは遠くで見えなかったが、それでようやく剣士だとわかった。
腰に大きめのチャクラムの様な円形の剣が装備されており、もう一つ同じ武器を手に持ってネルソンの手を突き刺している状態に見えた。
しかし、見たのはその一瞬で、危険人物はすぐ様その円形の剣を捨てるように手を外して、攻撃した反動を使って少し後ろに飛び下がった。
ネルソンの手には円形の剣が刺さっている様に見えてたが、事実は違っていた。
「む・・・」
ジュリが大きく反応したのと同時に
ネルソンに刺さっていたはずの剣は手から溶けるように消えていく。
「リクはこの2人と顔見知りのようで悪いが、ウチは協力は出来ないぞ。
マスターを頼む」
ジュリはネルソンの状態を見て、背負っていたリディを強引にオレに押しつけたかと思いきや同時に走りだし
突如手から出てきた銀色の槍をネルソンの首元に突きつけて止まっていた。
「おい、ジュリ。一体何をやってるんだ?」
「リク・・・本当にすまん。
だが、疑いのある者は全て叩き潰すのがウチのやり方だ」
疑い?
ジュリは確か、モノを溶かすマテルを持っているらしいクラークという男に何だかの因縁があるらしい。
そして、変化をさせるエネジスであり、この町の宝の一つでもある【メレオン】を盗み持っているとも言っていた。
つまりこの状況は、ここに居るネルソンが変化したクラークだとジュリが思い込んでいるという事か。
確かに、この男があのネルソンだという保証はないけどな。マテルも似たようなモノだし。
「おい・・・リク。この女をどうにかしろ。
こんな事やってると、全員あいつに殺されるぞ」
「その心配はないだろ。罰金制度もあるからな」
「何、悠長な事を言ってんだ。あの剣士はこの準決勝で何組かを消して来てんだ!」
「どうしてわかる?」
「オレらがお前のマスターと共に動き回ってたのは、
行く先々であの剣士が参加者を斬っていたからだよ!」
それが本当だとすると、このジュリの行動は危険すぎる。
危険人物の剣士はネルソンの状況を見て、間合いを取ったまま動かないが
いつ飛びかかって来てもおかしくはないって事になる。
「ジュリ、気持ちは分かるが、まずはあの剣士をどうにかするのが先だ」
「あの剣士がこの二人の仲間じゃないという保証はないぞ。腕輪も良く見えないしな。
それに、剣士に殺されると脅しておけば、共通の敵と思い込ませる事も出来るからな」
確かに危険人物の剣士は、着物の袖の様な長袖を着ている為か、腕の部分が良く分からない。
何よりジュリはネルソンをクラークと思い込んでいるから、引くに引けない状況なのだろう。
「ネルソン。何故あの剣士は参加者に危害を加えているか分かるか?」
「分かるわけないだろ。ただ、この大会の裏の顔って事かもしれんがな」
裏?
そういえばナビ職のトリノもこの大会が胡散臭い的な事を言っていた気がするな。
だとすると、あの剣士は大会参加者じゃない可能性すらある。
「我に答える事は何もない」
その剣士は渋い声で独り言のようにつぶやいている。
声によって、初めてここに現れてからこの剣士をよく見る形となった。
実物を見た事は当然に無いが、落ち武者と表現するのが最も分かりやすい雰囲気で
髷こそ最初からないものの、ボサボサな黒い長髪で無精ヒゲを蓄えていた。
見た目より老けて見えるが、おそらくオレとそう変わらない年齢だろうと推測した。
そんなこの緊迫した状況で、それとは全く違う空気を持っていた男が1人だけいた。
剣士の方に目をやってから気が付いたというのも不思議だが、真後ろに誰かがいる。
それが、誰なのかはだいたい想像はついてはいたが。
「いやいや。殺しなんて野蛮な事は良くないね。
で、リック君だっけ?リディさんを渡して貰えないかい?
君はリディさんの希望を叶えるのに相応しいギフトとは思えないんだね」
この状況でこの男は何を言ってるんだ。
いや、この男にはリディしか見えてないって事か。
何故か、このおかしな空気でのおかげで一瞬考える事が出来たからなのか、"この状況"が呑み込めてきたな。
リディはこの剣士じゃなく、このヴィルから逃げ回っていた。
この剣士はヴィルらを含めた参加者を狙って追いかけてきている。
そしてヴィルは、初めて会った時には移動のマテルが無いような話し方をしていた気がするが
似たモノのネルソンがモノを溶かすようなマテルを使っていた事を考えると、
リディを追いかけたマテルを使えたのはヴィルという事になるだろうな。
得意マテルを隠しておくのは戦略としてはアリだが
こうなると結果的にソレが意味のあることにはならなかったようだな。
と、余計な事を考えたおかげで聞き流しそうになったが
「ギフトって何の事だ?」
「エリアスターの君には関係のない事だよ」
また新たな言葉が出てきたな。
そして、いつもの通りご都合よろしく、謎の存在になっている単語がな。
オレの世界の意味で考えれば贈り物って事になるが、それと同義とは思えない。
答えがすぐ出てくるとは思えないが、落ち着いてからソレを聞いてみるといういつもの展開になりそうだ。
もちろん、今はそんな事を考えている場合じゃない。
お互いがお互い、面倒な状態になっている。
ヴィルか剣士が動けば状況は一気に変わるだろうけども
剣士の方が動かないのは分かるとしても、後ろに居るヴィルはその気になれば強引にリディを奪える状態なのだが、今の所動く気配がない。
ジュリはネルソンを槍で牽制し続けている。
オレの方とはいうと、小さな女一人とはいえ、この重さは「どちらかというとインドア派」には厳しいモノがある。
『体・・・つらそうだね・・・』
声になるのがやっとの大きさだったが"背荷物"が気が付いたようだ。
「今まで、後ろに居るマスターから逃げてたのか」
冗談の一つでも返したかったが、ヴィルに聞こえないようにという事もあり
声の大きさを合わせるように小声で返事をした。
『ストーカー君、やっぱりここに居るんだ・・・。
って・・・何で、ストーカー君がマスターって・・・知ってるの?』
「そんな話より、正面に居る危険な剣士か、後ろのストーカーをどうするかって事だが
リディ的には後ろをどうにかした方が良いんだろ?」
『前?・・・剣士?』
「あぁ、お前らを追いかけてここまで来た剣士だよ」
『それ・・・ストーカー君の仲間じゃない?』
リディもこの剣士の事を知らないって事は、ヴィルと剣士がグルって可能性も確かにあるだろうが
このストーカー君が本当にリディを守るために、逃げ回るようにしていた事を信用するしかなくなった。
そもそも、グルであるなら逃げ回る意味がないからな。
仮にヴィル達が予選を突破していて、リーダーであるリディにカード交換所に行かせない為っていうならわかるが
それでもストーカー行為だけで十分なはず。
つまり、この余分な剣士っていうコマは、ヴィルの仲間である必要がないって事だ。
リディを気に入っているという部分も演技でなければ、危害を与える事は無いだろうが
オレには手段を選ばずに、リディを奪い取ろうとするだろうな。
なんにせよ敵対する相手には変わりない。
それにヴィルには、オレと似た考えのネルソンというモノがいる事も大きい。
「リック君。リディさんを背負っていては動くに動けまいよ。
私の事を疑っているようだがね、まずはあの剣士を何とかしないといけないんじゃないかな?」
「そりゃそうなんだろうけどさ、一番手っ取り早いのは
今のとこ自由に動くことができるお前が、剣士と戦う事だと思うんだけどな」
「冗談はやめたまえよ。そういうのはネルソン君に任せているんだよ。
私は補佐の立場。戦いは悲劇しか生まない野蛮な行為なのさ」
相変わらず何を言ってるのか、な男だな。
「そこはマスターの力で何とかできないのか?」
「リック君は知らないのかい?
マスターには権限があるのだよ」
「権限?」
「あらあら。リディさんはリック君には隠し事をしておきたいお年頃みたいだね」
お年頃で肝心なことは言わないんだったら、少しだけリディを見直してやりたいが
絶対そんなことはあり得ない。リディはそういう女だ。
「ソレがオレ達の関係って事だな。
権限の事もこういう状況じゃなければ聞くこともなかった」
「リック君は何を言ってるのかね。俺達の関係だと?
リディさんとそんな関係だと言いたいのか?」
・・・この男の勘違いというか妄想ぶりには付き合いきれない。
他が緊迫しているのに、ココだけ何故か雑談モードなのはいかがなモノかね。
「マスターの1人として、リディさんを守るためリック君を排除する!」
『リッ君・・・私がここは何とかするから・・・降ろしていいよ』
ほぼ同時に二人の声が、不協和音の様に混じり合って聞こえた。
この状況は最悪だが、リディにこの場を任せて・・・とは流石に行かない。
まずはジュリを何とかしなければ。
「ジュリ!マスターが危険だ!」
考える余裕などなかった。
が、これはかえってジュリには効果的になった。
「む・・・」
ネルソンに突きつけていた銀の槍を地面に振り落すと、そのままヴィルの方に突撃した。
その動きを見て、剣士もやや遅れて走り込んでいる。
ジュリはその動きに反応し、咄嗟に方向を変えると円形の剣を槍で受け止める。
その剣閃の威力でヴィルは一瞬躊躇する。
ジュリの動きに釣られて一瞬目をそらしていたオレは、結果ヴィルの奇襲を受けずに済んでいた。
が
ヴィルの方に顔を向けていたオレが再びジュリの方を向こうとした瞬間、腹に激痛が走る。
明らかになんだかの打撃を受けていた。
しかも、この奇襲でリディを腰から地面に落としてしまっていた。
リディを背負い直し、打撃の主の方を向こうと顔を移動させようとするが、今度は頬に平手打ちの痛さを感じ取った。
痛さだけではなく実際にその威力まま、後ろに体も弾き飛ばされていた。
起き上がろうとしたその目に前に、一つの掌が視界を奪う。
「リクの仲間が剣士を押さえつけてくれたおかげで、俺が楽に動ける状態になった。
あの時、お前はヴィルと戦うべきだったんだよ」
まさに上から目線でネルソンがオレに言う。
マウントポジションを取った状態でオレは起き上がる事は不可能な状況だった。
マウントとは言うが、力技で押し退ける事は出来る程度の状態だった。
だが、非力なオレにソレをするのは不可能に近い。
「お前とは戦いたくなかったんだがな・・・」
前にも言ったオレの本音だ。ネルソンとは戦いたくない。
向こうもソレをわかっていて攻撃を仕掛けていた。
「俺がリクの立場なら同じことを思っただろうな。
この世界自体を胡散臭く感じ、何のためにか分からないが、フェリスを探す。
マテルをまだ完全に理解できず、俺の様な非力なエリアスターにすら、マウントを取られて動けなくなる実力。
おそらくこの大会に出たのも、この世界で生きていくためにダイアが必要だと思ったからだろ?」
やはり、ネルソンはオレの考えそのものだ。
ジュリが疑っていたクラークの変化という説は完全にオレの中からは消えた。
「だが、リクに足りない物はダイアじゃなくて情報だ。
情報を得ていれば、その状態でこの大会に出るなんて考えはしなかったはずだ」
「どう・・・いう意味だ?」
「見た所、リクはマテルを使い慣れて間もない感じがするな。
一つのマテルのみ特化できるエリアスターでも、使い方次第で十分力にする事が出来る。
こんなマウント状態でも俺を弾き飛ばせるほどの、な」
「確かに、オレはマテルについてほとんど知らないと言ってもいい。
だが、マテルによっては攻撃に使えないモノもあるだろうが」
「それはリクがマテルを完全に理解していないだけだ。
ま、それはここで言っても仕方ない事だが、悪いことは言わない。ここで離脱した方が良い。
お互いマスターがいる分有利なのには変わりないが、お前はその恩恵すら理解していない」
「マスターって何なんだ?」
「それは口で言って分かるものじゃない。自分で理解するしかない。
リクがここで離脱する事を宣言したら、お前のマスターにこの大会では手を出させないようにするし、あの剣士もなんとかする」
ネルソン・・・さすがにそれは嘘だな。
しかし、この先に進むなと言っている事は理解できる。
オレの知らない何かがこの先の決勝にはあるという事だろう。
情報が足りないと言って、わざわざ情報を与える方法は、オレがネルソンの立場になって考えるとすると100%罠だ。
だが、オレが、いや、この大会に出てるモノのほとんどは、ダイアかエネジスを得ようとしてるんじゃないのか?
「忠告はありがたいが、オレはこの大会を続ける。
色々情報を与えてくれた時点で、お前もオレとは戦いたくないって事もわかるけどさ」
「そうか・・・。リクは意外と楽天家なんだな。
そうじゃないなら、折角こうやって出会ったことだし、この大会が終わった後に仲間に加えてやろうと思っていたんだけどな」
また上から目線か。
向こうの方が多くの事を知っているから当然と言えば当然だろうが
自分に不利な状況になるだけなら仲間になる必要なんてない。
「楽天家ではないさ。
それに仲間っていうのは無理じゃないか?
お互い裏を読むのが好きそうだからな」
「はは。それもそうだな。だが、協力はする。
ヴィルの"マスター愛"程じゃないが、俺もリクの事は悪いようには思わん」
「攻撃しといて、マウント取ってるモノに言われても説得力がないな」
「あ、それもそうだな。
だけど、とりあえず事の顛末を見守る事にしないか」
オレはそれを否定しなかった。
自分がエリアスターで、解除というマテルしか使えない事が
ここに居る誰よりも戦闘に向いていないと思い込んでいるからな。
チームとしてはリディやジュリを助けないといけない。
だが、今のオレにはソレを助けられるだけの力も状況もない。
こんな事をこの状況で考えているオレはネルソンが言うように、本当は楽天家なのかもしれないな。
鍔迫り合いというには歪な武器同士だ。
向こうの剣士が攻めを続ける限り、ウチには攻撃をする余裕もない。
そして、この槍を別の武器に変化させる余裕もない。
リクは"クラークが変化した男"に押さえつけられているし
マスターは別の男にちょっかいを受けているように見える。
ウチがこの剣士をどうにかしないと、この状況は変わらないだろうな。
それにこの剣士、ウチの事を殺すつもりで向かってきている。
だけど、一撃必殺とも言える剣の動きは、ウチにとっては守りやすい流れだ。
生まれて戦場に参加した覚えは無いが、ウチにはそういう動きを読み取る才能があるように思う。
だからこそ今その才能を生かせないと、ウチは本当に何もできない役立たずでしかない。
幾つかの攻撃を受けて、向こうの剣士の隙も見切れるようになってきていた。
元々この剣士は円形の剣を二刀で使っていたはずだ。
二刀の剣士が一刀を使えない事はほとんどないけれど
この剣の特殊な形状では振り降ろした時の隙が、タメを作る分だけ普通の刀よりも大きくなる。
その隙を防ぐ為に二刀を使っていたはずなんだが
そのうちの一本は"クラークが変化した男"によって溶かされ、一刀になっている。
好機だとは思うけど、この隙がウチには剣士が誘っているようにも見えた。
だからといって手を出さないわけにもいかない。あの剣士がウチの力を侮っているのなら好都合だぞ。
また円形の剣を右手で振り降ろし致命傷を狙ってくるが、ウチもそれに合わせるように槍で対応する。
そうして予定通りの隙を作った剣士に対して、素早く槍を回転させ持ち替え左肩を狙って一気に突きを繰り出す。
それはそのまま剣士の肩を貫き、動きを止めることに成功した。
剣士は突きの勢いに押されるように倒れかかり、左腕でかろうじて体を支えるというおかしな体勢になっていた。
それでも右の円形の剣で反撃をする形を辛うじて取っていたのが気になったから、
突いていた槍を無理ヤリ体から抜き戻すと槍をまた回転させて反撃に備えた。
普通の人ならば突かれた痛みと引き抜いた痛みで声を出す所だと思うんだが
槍を抜かれた反動を利用してそのまま起き上がり"二刀"の円剣でウチに反撃を始める。
二刀でもウチには攻撃を防ぐだけの余力はあったけど、
今までなかった一刀が突如出てきた事で一瞬同様してしまい、一瞬体が石のように動かなくなっていた。
それでも何とか右の剣は防いだけど、左の返しの剣を防ぐのは無理だ。
ただ、怪我を負っている方の剣だったのが救いで、右肩に一撃を食らったけど傷は浅い。
その軽い痛みのおかげで石化が解けたウチは、三度槍を回転させると今度は右肩を狙って突き飛ばした。
致命傷を与えずにウチに出来る最低限の事はとりあえずしたつもりだぞ。
だけど今回の相手は、それで済む感じではない。
剣を一度腰に戻した剣士は、腕を交差させつつ両肩を押さえながら立ち上がってきた。
通常なら全治数週間な傷が、みるみるうちに回復していくのが分かったぞ。
これが普通のマテルの力という事だな。
ウチの様な新種には使いこなせない複数のマテルの力だ。
しかも、この剣士はウチと似たマテルも持っているな。
ウチが左肩を狙って突き倒しかけた時、左手を地面につけただけで円形の剣を即時に作り出したからな。
剣技自体はウチの本気よりはやや劣る気がするけど
それでも二刀に戻った事で、その差もほとんどなくなった気がするぞ。
相手の怪我の状況によっては罰金を負うことになるのは知っている。
リクにも三千万という多額のダイアを支払うことになっているんだ。これ以上無理な事は出来ないぞ。
この縛りさえなければ一気に片を付ける自信があるけど、気絶程度で済ませれるだけの実力差がないな。
剣士の男は両腕を下して円剣を低くたもって、何時でもウチに攻撃できる態勢をとっている。
このまま打ち合っていても決着は中々つけられないだろう。
ウチに残された手段はそれほど多くない。
懐に右手を入れると、ある物を手に取った。その時、わざと剣士から目線を避けて油断を誘うのも忘れてはいないぞ。
予定通り剣士は懐に手を入れているウチの方に突き進んできた。
狙い澄ました今までで一番の剣閃がウチの左肩に襲い掛かり、それが軽く食い込んでくる。
骨を切らせてではないが、今ウチに出来る精一杯の奇襲戦法だ。
次の斬撃の隙を狙い、ウチは右手にとった物を剣士に向かって振り投げた。
それは眩い光となり剣士の動きを縛り付けた。
光る瞬間に下を向き直撃を避けていたウチは、光りが弱まる瞬間に正面に向き直り
左手の槍でその光の元を狙いつつ、剣士の左肩へ突き抜いた。
この光の正体は、ウチが以前アオイからもらった黄色いエネジスだ。
電気を溜めてあるエネジスで、ウチの突撃を組み合わせる事で体内に直接電撃を与える事が可能になり
いわば電気ショックの様な状況を作り出す事が出来た。
電撃のエネジスを刺したウチにも多少は電撃を受ける事になるが、そのエネジスを肩に突き刺された剣士ほどのダメージではない。
直撃を受けた剣士はショック状態で後ろに倒れ込んだ。
これが致命傷になることはないだろうけど、しばらくは目を覚まさないだろう。
それを確信して、最後に剣士の袖を上げて腕輪の数字を確認した。
これが一番の不安要素だったけど、きちんと数字が入っている事で余計な罰金を払う事は無くなったな。
でも、それはウチの予想を裏切っていた。
男マスターが言っていた「大会参加者を斬っている」が仮に嘘だとしても、この剣士がウチを殺す気で向かってきていた事は事実だ。
そして殺してしまうと罰金1千万以上だ。
罰金など怖くないといえばそれまでかもしれないけど、ウチはこの剣士が大会参加者だと思ってなかった。
だからこそウチは攻撃に関しては躊躇することなく出来たわけなんだけど
罰金を払ってまで、斬る行動しているのは理解に苦しむぞ。
次はリクを助けないといけないな。
男マスターはリディに手を挙げる様子がないし、リディ自体が目的みたいな雰囲気があるな。
それはそれで問題だと思うが、今はマウントを取られているリクを助けるのが先だ。
何よりリクを押さえつけてる男は、クラークが変化しているだろうからな。
「ネルソン。この状況はお前の予想通りか?」
ジュリが剣士を気絶させた事で、再びネルソンに標的を合わせ直している。
このままオレを人質にする事も考えられるが、電撃のエネジスを使ったジュリの攻撃を見た今はあまり効果的ではないという事も理解できているはず。
ソレをネルソンもわかっているから、返答の言葉は何も出て来ない。
「こんな状況でいうのもアレだが、ネルソンのレコカ次第では交換しないか?
リディと共に逃げ回っていたんなら、お前らも大してレコカが集まっていないだろ?」
「・・・お互いに損がないならそれもありかもな」
そう言ってもネルソンはマウント状態は解かないが、腕を回しレコカを取ろうとする動作をしたためやや隙が出来た。
ジュリの様な体育会系の力があればその隙で押し退けられたのだろうけども
オレには無理というのと、何よりも
「オレもレコカを出すから、まずはソコを・・・」
ネルソンの腕輪の数字を見るためやや目線をずらしたが、
その瞬間様々な事が一度に起こっていた。
「どうかしたのか?リク」
けして笑っているわけではないが、有利なポジショニングをしながら不利な状況だったネルソンの表情が変わっている事に気付く。
ジュリもネルソンから標的を変えている。
ネルソンの腕輪と逆の方から一人またここにやって来ていたみたいだ。
その正体はジュリの取り乱し方からして想像はついた。
「っクラーク!!」
ジュリは完全に冷静さを失った状態で、そこに現れたクラークに向かって突撃していく。
どうも今度は本物らしい。
「あぁ、やっと合流か」
ネルソンがつぶやかなければ即座には状況を理解できなかっただろう。
これまでネルソンはヴィルの二人で行動していた。
必ずもう一人の仲間がいる事を忘れていたわけじゃなかったが、ここまでその事を都合よく忘れていた。
そして、ネルソンの腕輪を見た時の一つの事実。
「ジュリ!!クラークは予選突破している!」
それでジュリが止まるとは思えなかったけど
そして信じたくもなかったが、ネルソンとクラークは同じチームという事だ。
ネルソンの腕輪に数字は無く、★が付いていた。つまり、レコカ交換など端から無用だった。
オレとリディが合流した時にはすでに予選を突破していた可能性すらある。
「だ、ソウだよ。お嬢サン」
黒マントの男ことクラークは、無心で槍を突きだしているジュリに向かって冷静に語りかける。
「テェヤァー!!」
オレの声も、そして近くに居るはずのクラークの声すらジュリには届いていないようである。
ただ、狂ったように突きを繰り返す。
「ネルソン。そこをどけてくれないか?
お互い無駄な戦いをする必要はないだろ」
焦ってはいたが、冷静にこの状況を乗り越えるための策を考えていた。
・・・策というか、ジュリを止めるしかない。
「クラークが俺のチームと言った覚えはないけど、この一瞬で全てを把握する観察力はたいしたもんだよ。
ま、俺がリクの立場でも同じ考えをするだろうけどな。
あのジュリって槍使いはクラークによっぽど恨みを持っているみたいだけど、よかったら話をしてくれないか?」
「そんな場合じゃない。今のジュリは罰金を無視してでもクラークに致命傷を与えかねない」
「リクはよっぽどジュリってこの力を信用しているみたいが
オレにはクラークの方が上手に見えるけどな」
「だからだよ!ジュリが何をするかわからない」
「へぇ・・・。てっきりお前はチームって言っても、他の面子はただの数合わせだと思ってたが
そこは俺と違ってキチンとした者をチームに引き入れてたんだな」
こんな状況で冷静に考えるのもどうかしてるが、ネルソンの言う通りだ。
オレは最初ジュリを数合わせの一人としか考えていなかった。
攻撃力が無いオレとリディを埋めるにはちょうどいいとも考えた。
何よりあの時には時間もなかった。
そんな考えでチームとして仲間に加えたが
短期間でしかないが、ジュリの行動をみて少しながら情が動いていたのは事実。
そして今は数合わせの仲間ではないとまで思うようになっていた。
クラークの様な仲間であれば、こんな感情にはならなかっただろう。
それが似たモノであろうオレとネルソンの唯一であり最大の違いになっているのかもしれない。
「そんな必死な顔をされたら、俺もこんな事は出来ないな。
ジュリを止めてきな。そして決勝で会おう」
先程まで冷静だったつもりの頭と目は、ネルソンが体を動かした残像しか残っていなかった。
それを見てすぐに起き上がり、無謀とも言える槍の嵐を繰り出しているジュリの方へ無謀にも突っ込んでいく。
しかし、それがかえって状況を悪化させる。
その動きを先読みしていたクラークによって、オレの両腕が捕まえられるとそのまま後ろに回され束縛されてしまった。
それから少しだけ遅れて、ジュリの槍がオレに向けられて止まる。
「リクを人質にするとは卑怯にも程があるぞ!」
「彼が無謀に突っ込んで来たカラ、それヲ利用したマデですヨ。
デモ、早くしナイト、ボクのマテルによって彼は・・・
彼はここで力尽きるコトになるカモですヨ」
この言葉の間は、オレにはクラークのマテルを防げる何かがあると感じ取れた。
解除のマテルはクラークにも有効であると。
最悪な状況だがそれが分かっただけでも、人質になった意味はあったかもしれない。
「ジュリ!手を引け!
クラークにダメージを与えるのはここじゃ難しいし、何より、決着をつける舞台はここじゃない!」
コレでジュリが止まるとは思えなかったが、思いの外あっさりとジュリは槍を下におろした。
「しかし・・・コレでウチは何度目だ」
「何度でも挑んで、最後に勝てばいい」
どこの少年漫画的な言葉だよと自分で突っ込みを入れたくなる言葉を咄嗟に出してしまった。
それが本音なのか、適当にこの状況を終わらせるために出た言葉かは分からない。
だけど、今はどちらでもいい。ネルソン達が予選を突破した以上、こんなところで時間を食う必要もない。
「ボクがこのママ手を離さなカッタら、君達はドウする?」
「決勝進出確定のクラークが予選中のオレらに予選突破への被害を与える事で罰金を払うのと、
オレらが予選敗退って所だな。そんなことするメリットは何処にもないと思うが」
「イイエ。ボクが罰金は支払ウ事になるデショうけど、君達にも突破の可能性はアリマすよ。
言わなクテもモウ分かっテルと思いマスが」
「あぁ。この腕輪のエネジスだな。それこそ論外だろ。
ジュリは罠にかけられて一度奪われてるんだからな」
「デは、被害とはイツの段階で受ケタ事になる判断ナンでしょウネ」
クラークが言いたい事はだいたい分かる。
オレらが被害と確定するのは予選落ちになったその時である。
この状態では動きを止められてはいるが、それが直接被害に結びついてるかはすぐには判断できない。
どこまで参加者の状況を大会運営側が把握できているかという事もある。
しかし、参加者全ての動きを把握できているなら、この状況も十分被害という事が言えるはずだ。
この状態がクラークには有利な状況ではない事だけは確かな為、おかしな事にオレには余裕があった。
「この状況を大会側が理解してないとでも思ってるのか?」
「デスから、被害とはイツの段階で受ケタ事に・・・」
クラークは何、同じ事を繰り返しているんだ?
その言葉と同時に何故か片手が軽くなった違和感も合わさって嫌な空気になっていた。
クラークが片手を離したのは、腕輪をオレに見せつけるためだった。
★であるはずのその腕輪は「22」になっている。
仮にネルソンがオレに嘘をついたとしても、この状態でメリットが全くない。
いや、ネルソンはクラークが仲間だと一度も言っていないな。
そして腕輪を信用するのなら、クラークはまだ予選参加者って事になるわけだ。
考えているオレの隙をついて、クラークは離れていたオレの腕を再度捕まえると、再び後ろに拘束し直す。
ただ、これはオレもわかった上で抵抗しなかった。
そして一つため息をつく。
「時間稼ぎをする意味が分からないが、本当に罰金を払うことになるんじゃないか?」
クラークはオレの問いに何も答えなかった。
しかし、代わりの声がこの時間稼ぎを止める事となる。
「もういいよクラーク君。だいたい終わったからねェ」
その瞬間、体が自由になっていた。
そして、すっかり存在を忘れていたが、もう一人のマスターであるヴィルがそう言うと
気絶しているように見えるリディを抱えた状態で
いつの間にか移動していたクラークとネルソンと共にこの場を離れようとしている。
ただ、声の瞬間、ジュリがその状況を見て即座に行動を起こしていた。
「ちょいまち。スレンダーなお姉さん。どちらにしても、もう時間切れだよ。
そんなわけでリディさんは私が大事に保護致します」
「何の時間だ?予選時間なんてあるのか?」
ジュリの言う通りなんだが、ここまでオレはあえて考えていなかった。
この予選ルールでも一切出てきてなかったが、予選の時間制限は一切聞かされていない。
ベースレコカなどでルールを確認してもそれは何処にもなかった。
予選突破最大数が25組となっているが、最低の突破数でもなければ必ず25組となるわけでもない言い回し。
よって、ヴィルのこの時間切れというのは予選の話ではない事は想像できる。
いや、どこかで予選の残り時間が分かるっていうなら話が変わってはくるが
このストーカー男の事だ、リディを束縛するための時間という意味で使っている方がしっくりくる。
クラークともどこかで打ち合わせしていたのか、わざとらしく目立つ行動をさせて
オレとジュリにヴィルとリディの方の意識を消させていたって事だろう。
「保護するのは勝手だが、クラークは兎も角、お前らは予選突破してるんだから
リディを含めたオレらのチームの邪魔する事になるぞ」
「そうかな?私の手にはリディさんの全てのレコカがある。
これはここに置いておくよ。
この予選ルールを邪魔しなければ気絶した選手を保護するのは、邪魔でも被害を与える事にもならないだろう?
目が覚めたらまた大会参加させればいいわけだし。覚めたらね」
このストーカー。何だかのマテルでリディを睡眠か気絶状態のままにしたっぽいな。
しかし、それでもその状態にすること自体が被害を合わせる行為に代わりはないのだが。
「いや、それは十分リディの邪魔をしている事になるだろ」
「私がリディさんを保護したのは、まだ予選突破前。
リック君がネルソン君にマウントを取られて、スレンダーなお姉さんが危険な剣士と戦っている頃だね。
その時点でのマテルを使う行為は仮にその間に予選突破していても、突破前の継続マテル行為として認められるわけだよ。
とはいえ、私が予選突破したなんて一言も言ってないけどね」
今度は完全に虚を突かれた。
クラークの「22」は、ジュリが言っていた変化のエネジス【メレオン】で★をごまかすのに使えるが
ヴィルまでが「22」のままの腕輪を見せてきた。それもメレオンによる変化である可能性の方が高いのではあるが。
「じゃあ、お前らもオレらと状況は一緒って事だな」
冷静になれば、このおかしな状況に対応できていただろうが
ここまでコロコロと展開が変わっていく状態ではそれは無理があった。
「いや。俺達が予選を突破しているかは、大会運営にしかわからないかもな」
ネルソンもこの状況を楽しんでいるかのように、やはり★の腕輪をオレに見せる。
これが全て本当だとすると、可能性としてはほぼあり得ないが、ヴィルとネルソンが別のチームというのもある。
だが、この3人はチームだ。
そうでないとこんな意味不明なトリックを作る必要がないからな。
こんな面倒な事をするのはネルソン達が本当に予選突破をしているかを分からなくするためだ。
罰則金を払わせるためなのか、それ以外の目的があるのか?
「リディが人質って事か。返してほしければエネジスって事か?」
「私は特にいらないけど、クラーク君が是非っていうんでこんな面倒な手を使ってみました」
ストーカーの性格を考えれば、エネジスを渡したところで素直にリディを返すとは思えない。
いや、返したとしても、再び手元に戻す策を張っている可能性は十分ある。
つまり、どちらにしてもエネジスを渡すのは得策ではない。
何よりマテルが使えなくなるし、デメリットの方が大きい。
「それで、リディを返してくれるんだな!
ウチには、もうこれしかできないからな」
オレが止めるよりも早く、ジュリは腕輪のエネジスを外しヴィルの方に投げつける。
これではまたクラークにハメられた時と同じだって事をジュリは学習していないのか。
だが、そのショックを上回る出来事が目の前に起こる。
そこには気絶していたはずの"マスター"がジュリのエネジスを手に持って戻って来ていた。
『隊長は、そうやって無駄に・・・エネジスを投げつけないの』
エネジスをジュリに返すように放ると
明らかに体力の限界を超えているが、ヴィルの方を向き戦闘の構えっぽいポーズだけをする。
「リディ、お前どうやって・・・」
『リッ君。私を誰だと思ってるんだい?
可憐な美少女戦士、リディちゃんだよ・・・』
どこかで聞いたような台詞をごちゃ混ぜにしたふざけた言葉だが
何かそれが安心を生んでいた。状況は最悪な事にかかわらず。
「リディさん。さてはタヌキ寝入りしてましたね。
いや、リディさんにタヌキは失礼だな。
ということで、ウサギ寝入りしてましたね」
ウサギって・・・意味が全く分からないモノになってるだろ。動物なら何でも良いのか。
マスターっていうのは、突っ込まれる事を前提で喋らないといけないルールでもあるのか?
そんなどうでもいい事が先に思いついてしまう程、状況が変化したのを感じた。
「すまんねぇ。クラーク君。
ターゲットは他にもいるんだろ?ここはリディさんに免じて次へ行こうじゃないか」
最後までわけの分からない台詞を吐くストーカーマスターだ。
そんな事より、リディの持っていたレコカはどうなっている。
居なくなってからじゃ遅いと思いリディを一瞬見ると
「70」の【○】レコカを自慢げに見せつけていた。
『私のテクニックにかかれば、レコカを奪い返すなんて・・・朝飯前って事ですよ』
それを見届けたヴィルは仕方ないように二人を連れてその場から一瞬で消えた。
トリノは否定していた気がするが、マスターっていうのは移動に長けたモノの総称って事なのか。
『そこの剣士が起きる前に、私達も移動しよう』
「移動ってお前もうマテル使えないぽいだろ?」
『へっへっへ〜。私はマテルの省エネに関しては天才的実力を持っているのだ。
なので・・・』
そう言いつつフラフラになって倒れかかったリディをジュリがギリギリですくい起こす。
『隊長・・・大丈夫だから。今のは演出。
ほら、リッ君も早く私の所に来なさい』
来なさいって、どう見ても限界を超えてるようにしか見えない。
顔の色が明らかに血の色を帯びていない。
ソレを間近で見ているジュリが心配そうに見つめて体を支えている。
『二人とも、私を助けるために必死で頑張ってくれたんだから
たまにはマスターのちょっと良いところ見てみたいって思うでしょ?』
何の話だ。
『いいから、ここはワタシに任せなさいな』
リディの気絶と合わせるように瞬時に画面が変化した。
「リディ!しっかりするんだ!
何でここまで無茶な事を・・・」
「ジュリ。とりあえず建物に入ろう。
・・・ここは明らからに今までと違い過ぎる」
「リク・・・アンタはこんな状態のリディを見て何とも思わないのか!」
ジュリは言葉の勢いのままオレに掴みかかってきたが、オレの表情を見るなりその手をすぐに離した。
この場所は、まるでウエブの町のような雰囲気だ。
もちろんこの大会会場がウエブであるから当たり前だが
そういうことではなく、今までの様な草原に建物が点々としている状況ではなく
本当に一つの町の様な、つまり、ここが地下ではなく、地上に戻ってきた錯覚を見せつけられていた。
建物それぞれにレコカを入れる事が出来る機械が付いていなければ、
そして、たくさんの人が歩いている状況ならば、ここが地上だと思ってもおかしくない。
オレはリディをジュリに任せて【○】のレコカで目の前の建物に入った。
【○】のレコカを使った理由は、各チームに一つしかないという点と
このレコカを手に取って分かった事だが、エネジスそのモノに近いイメージを実感したからである。
コレなら、他のレコカではできない事を実現する事が出来るのではないかと。
そして、選んだ建物が特殊だからとは思えなかった。
中は保健室というか、診療所といえる作りになっていた。
何よりも最上層だからなのか、今まで必ずといって設置してあった2階がない。
これは、リディがトリノを使って建物の中をイメージしていた事を、レコカを使って試した結果かもしれない。
ソレが正解なのかは分からないが、オレのイメージする休憩場所がソコに現れていた。
【○】のレコカはそれ以外にも色々他と違う効果があった。
まずは実は最大の問題かもしれない予選の制限時間を知ることが出来た点。
他のレコカよろしく、親指で押さえると他のルール説明でなかった項目がいくつか出てきた。
予選制限時間は2日間(48時間)、これは1番目に予選に参加したものから数えてとなり
俺達は最終の予選参加となったため6時間遅れで参加している事になっている。
ちなみ残り時間はここに入った時点で24時間ちょうどである。
残り1日というのは分かりやすくていい。
あとは【○】のレコカを使って入った建物には、他のモノが移動して入ることが出来ないという特権があるようだ。
これはチームメンバー同士でもそうで、オレらは偶然3人とも入る状況になったが
コレをリディが先に使って建物に入っていれば、そこから出ない限り、リディとは合流できずじまいだったとも言える。
ただ、このルールを知っていたとしても、リディがベースレコカを使わずに【○】のレコカを使ったとは考えられないけどな。
だからこそ、ヴィルからマテル切れになるまで逃げ回っていたわけだし。
しかし、この【○】レコカの特権は何度も使えるわけじゃなく3回までしか使えない。
4回目からは他のレコカと同じ効果しかなくなるようだ。
つまりオレらは残り2回【○】の特権の恩恵を受けられるわけだが、これは、休息に使うための特権と思った方が良いな。
この状態で中に入っていると【○】以外のレコカを押さえても何も表示されなくなるようだ。
それはベースレコカも例外でなく、今現在何処に居るのかもわからない状態だ。
リディがどこまで回復するか、そしてここからどうやってレコカを集めるかというのが問題だ。
まず3人のレコカを集めて「70」のレコカがいくつあるか調べてみる。
リディは逃げ回っていたわりに随分とレコカを持っていた。
それでも【○】【+】の二つしか揃っていない。
さらに【☆】は水女が一つ持っていたが、すでに予選突破しているから別の所から得るしかない。
これしか揃わないのも当然といえば当然で、オレとジュリがレコカ集めをしたのはシロクロ達や水女と戦う少し前だけだからだ。
リディは逃げる事に精一杯だったろうから集める場合ではなかったのだろう。
休憩で数時間取られるとして、カード交換所に行くまでに1時間は残しておきたい。
自由に動けるのは12時間と考えた方が良いだろうな。
いやそれだけ動けたら良い方かもしれないな。
「さっきはすまなかったぞ・・・」
今までで一番深刻な表情をしたジュリが俯きつつつぶやいた。
「いや、アレはオレの対応も悪い。
それにオレは、リディの事をジュリ程に心配してない。
オレ達よりはマテルの使い方に関しては知識があるようだし、命に関わる使い方をしてるようには見えなかった」
「リクはリディを信用しているんだな」
「信用とは、ちょっと違うかもな。
あの時、ジュリが思った通りオレはリディの事は二の次だったのかもしれない」
「いや、そんな表情には見えなかったぞ」
当然だが、ソレはオレ自身がそれは一番良く分かる。
今までこの作られた世界に来る前でさえした事がなかったであろう表情だっただろう。
心配してないと言ったが、危うく自分のせいでまた一つの命がなくなるかもしれなかったわけだから。
誓う事は出来ないが、2度とそんな状況にはしたくない。
こんなご都合主義な世界に連れられさえしなければ、こういう気持ちにもならなかっただろうな。
当たり前な事だが再確認した。
こんな非常識な世界でも、オレが一人で最終的に何かが出来るほど都合良くできるわけがない。
だからといって、ジュリ達に助けられたり助ける事で、この世界に情をうつすのも違う。
ジュリにならまだいいが、この世界の住人という設定のリディには今のまま距離を置くべきだ。
幾つか気持ちがフラフラした所があるが、こんな世界に慣れてはダメだ。
この世界に居場所を作る必要はないのだから。
「ジュリも少し休め。残り1日で「70」のレコカを3種類集めないといけない」
「うむ・・・。そうしたいのは山々なんだが・・・」
ジュリが俯いているのは、どうやらリディの件だけではないようだ。
忘れかけていたが、またクラークを取り逃がしていたんだったな。
この町の宝の一つであるメレオンを盗んだクラークとメレオンを護衛しきれなかったジュリ。
そして、ジュリには守るという事に関しては異常な反応がある気がする。
だからこそ、このいくつかの出来事に関して一つとして納得いくものがないのだろう。
自分へのイラつきで寝るところではないといった所だろうか。
「リクが先に休むといいぞ。ウチはこうしていても十分に仮眠を取ることができる」
座って壁に寄しかかっている状態だが、これでもジュリがいうには十分な休憩スタイルのようだ。
かといって不十分な状態なのは困る。
「ここは他の大会選手が入ることはできない状態になってるから、安心して休めよ」
一番奥にあるベッドに横になると、オレは何も考えずに目を瞑る。
今日は流石に疲れた。
リクがどう思っているかはわからないけど、休みたくないわけではないぞ。
ただ、自分に腹が立って眠れないだけだな。
クラークとここでは決着をつけられない事は分かってるつもりだぞ。
ただ、それでもメレオンは取り戻したい。
それ以外にも黄色いエネジスを使ってしまった事に苛立ちを感じたんだ。
あれはアオイに返すつもりだったし、そうでなくても使いたくなかったからな。
ウチにとってのラッキーカラーでもある黄色。
おかしな事に、これがクラークを逃がした事よりもショックだったんだ。
それに、リディに助けられなければ、またエネジスを失う所だったぞ。
エネジスを持ち帰る約束もしている事を忘れたわけじゃない・・・。
こうなったら、明日から本気を出す。
絶対にだ。
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