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【クオリファイ-2】
リクとジュリレスターは無事合流したものの
ソコに居たはずのクラークと白髪の老人風な人物は何処へ消えたのか。
リクはソレを深く考えるよりも先に、リディが居るはずの最上層のフロアに移動する方法を考えていた。
それ以外にもジュリに聞きたいこともあった。
「フロアを移動するには、建物に入るのが条件だと思うんだが
安易に入ると、ジュリがクラークにハメられた状態になる事もあるだろうな。
それ以外にも、建物内ではカードバトルになる可能性だってある。
そもそもメインはレコカ集めだから、まずはレコカを見つけだす事が必要だな。
認めたくないけど、オレ達のチームのリーダーはリディのようだから
あまりゆっくりと集めてもいられないけどな」
「うむ。ようは70の数字が入ったレコカを4種類集めればいいんだな」
「そういう事だな。あとさっき、1枚のレコカを偶然見つけたんだが、
コレはこの不自然な大地に転がっていた枯れ木の中に挟み込まれていたモノだ。
記号は「24」の【+】だから、オレ達には不要なレコカだけどさ」
「建物の中や人物以外でも、レコカを手に入れる方法はあるという事だな」
「そして、レコカは交渉にも使えるから、なるべく多く集めるべきだ。
クラークの様な奴らもいるから一筋縄では行かないだろうけども」
幾つかの要点を確認していたオレとジュリは、ベースレコカによると左から右へと進んでいたらしい。
途中、幾つがあった建物を全てを無視して、フロアの広さを確認する意味で端へと軽く走って進む事にした。
別に走る必要性は無かったのだが、何だかそういう気分だった。
クサい台詞を言ったからなのか、ジュリの落ち込み見てなのか、きちんとした理由は分からない。
ただ、モヤモヤを吹き飛ばしたかったのかもしれない。
「フェリス?
確かにウチが探してるエネジスの一つだな。」
「それは一体何のエネジスなんだ?」
端へと進みながら、この大会で出てきた疑問点をジュリに聞いてみた。
新種であれば探しているはずのフェリスというエネジスの事である。
「そういえばリクは以前も、別の世界がどうとか面白い話をしていたな。
フェリスを探すのは、ウチらエリアスターが新種って呼ばれる理由の一つかもな。
多分、親に教えてもらった気がするんだけど、マスターと共にフェリスを見つけると
新種でもエネジス無しでマテルが普通に使えるようになるっていう話なんだ。
伝説的な話だけど、実際使えるようになった新種もいるという噂だし
本当にそうなれば不自由なくウチも造形のマテルが使えるようになるな。
これはリクだから話したけど、公にフェリスの話はしない方がいいらしいんだ」
「フェリスはエリアスターの極秘情報って事か?」
「さっき伝説的な話って言ったけど、実際に存在しない空想のエネジスという説もあるんだ。
新種って普通にマテルを使いこなせない人が多いから、
夢を持たせるために"フェリスが作り出された"って話。
そんなエネジスを探してもバカにされるだけだからっていうのと
別の意味では、新種は少数しか居ない異端な扱いって事で差別の対象になったりするんで
表だってフェリスの話題をするのは止めなさいって事らしいぞ」
ジュリの話が本当だとすると
予備予選の時に、キユウにフェリスの話を聞こうとして止められたのは
この事が理由という事なのかもしれんな。
「・・・そうなのか。話を変えるけど、ジュリも新種って事は混色のエネジスを持っているのか?
それはやはりデックスの図書館で貰ったのか?」
「うむ。持っているが、それはデックスの図書館ではないぞ。
ウチは本はあまり読まないし、そもそもデックスに行った記憶もないぞ。
それに、あの町はマテルが使えないから色々不便だしな」
混色のエネジスとは、話の通りオレがデックスで"儀式"を行った時に手にしたエネジスの事だ。
儀式をした図書館には部屋に番号が振られていたので、てっきり全てのエリアスターがデックスに行くものだと思っていたが
デックス以外にもあの儀式をする場所があるって事になるのか。
それとも、デックスでの儀式の記憶も元の世界の記憶のように封印されてるって事なのか?
何にしろ、フェリスについての新情報だな。
マスターと共にという部分も気になるが、その伝説が本当ならば・・・
実際どうなるんだろうな。
この世界から抜け出すカギではなさそうだが、ジュリの為に見つけていいかもと少しだけ思っていた。
ずっとジュリと一緒というわけにはいかないが、盾になる人は多い方が良いのも事実。
この大会で賞金を手に入れたら、情報が入るまではフェリス探しに付き合うのも一つかもな。
「以前にも聞いたと思うけど、マスターについてもう一度教えてくれないか?」
「うむ。前にも言ったと思うけどマスター以外の言葉がないぞ。
マスターのリディが言っていたから、リクもエリアスターというのは間違いないんだろうけど
何も知らないっていうのも妙な話だな」
「疑ってるのか?
知らないモノは知らないからな」
「うむ。本当に知らないみたいだな。
リクはウチよりは頭の出来が良いし、忘れるって感じではないから
何だかの理由があってきちんと教えてもらえなかったんだな」
なんか勝手に勘違いしてくれているので、これ以上話を膨らませるのはやめておこう。
マスターについては依然はっきりしないな。
これはネルソンに再会出来た時にでも聞くことが出来れば・・・といった所か。
「今度はウチから話題を出すけど、ウチには一つ不安要素があるんだ」
「不安要素?」
「気付いていると思うけど、ウチの腕輪にはエネジスがない。
クラークの"仲間"に結果的に奪われてしまったからな」
腕輪を付けた方の腕をジュリが見せてくれるまで実は気が付いていなかった。
ただ、悟られないように知っている顔はしておいた。
「無くなってからだと思うんだけど、妙に力の入りが悪いというか・・・」
「少し疲れたのか?オレも走り疲れてきたから、少し歩こうか」
この歩こうという提案は本音だった。
軽くとはいえ喋りながら走るのは、特段運動をしていたわけじゃないオレにはきついモノがある。
「うむ。そうするか。
・・・ただ、これは疲れが原因とは思えないんだ」
そう言ってジュリは近くに落ちていた木の枝を拾った。
歩きながら数秒間、木の枝とにらめっこをしているように見えた。
「ほら、何も変わらないんだ」
?
ジュリは一体何の話をしているんだ?
「うむ。どうも腕輪のエネジスを失ってから、マテルが使えなくなってるみたいなんだ」
「本当か?
とすると、この腕輪を付けている間は付属のエネジスが無くなるとマテルが使えなくなるって事か」
・・・とすると、あの時の水女の謎の行動は、この事が原因という事か。
水女がエネジスを集めると言っていたのは本音だろうが、マテルを使わせなくするのが本当の狙いという事か。
そしてオレがエネジスとマテルの関連性を知っているのかを確認するために、一度エネジスを腕輪から外させた。
知っていれば素直に外さないけれど、オレはあの時一度は外した。
でも、ほどなくして元に戻したから危険なのを勝手に察知して、あの場から逃げたという事だろうか。
「オレのエネジスをつけたら使えるんじゃないか?」
ともあれ、終わった事よりも今の事だ。オレは外したエネジスをジュリに渡した。
そのエネジスは問題なくジュリの腕輪にくっつき、木の枝は短剣へ造形された。
「つまり、マテルを自由に使うには、まずこのエネジスを一つ確保する必要があるって事だな。
ジュリから奪い取ったクラークの仲間から取り戻すのが一番だけど
大量のエネジスを持っている女に心当たりがある。
ただ、その女に会えるかどうかはわからないけどさ」
「このエネジスはリクが持っていた方が良いんじゃないか?」
「いや、オレのマテルは咄嗟の時に攻撃には向かない。
ここはジュリに任せる」
「・・・いや、ウチが持っていない方が良いと思うぞ。
ここ最近、運が悪すぎるからな」
「ま、そこをサポートするのがオレの役割だな。
ジュリには前線で頑張ってもらわないといけないからな」
「う、うむ・・・」
いまいち納得はしていない顔で、ジュリは先へと進む。
その後ろ姿からは、それでも人を守らないといけないという使命感の雰囲気が漂っていた。
ベースレコカで確認すると、オレ達は半分ぐらいまで歩いてきたようだ。
途中まで軽く走っていたとはいえ、ここまで20分程度かかっているので
徒歩1分80mという不動産的な方式で考えると、狭く見積もっても端から端が3キロ程の距離という事になる。
外から見たこの会場の広さは、大きく見ても陸上競技場のトラック程度の大きさだったと思うので、
地下の部分だけは相当大きな空間で作られている事がわかる。
あとは相変わらずというべきなのか、リディは落ち着かずに移動を繰り返している。
早く合流しておきたいところだが、こう勝手に彼方此方動かれては合流のしようがないようにも見える。
仮に同じ最上層へ移動しても、オレ達の居場所を確認せずに動き回る可能性の方が高い。
だからといって進まないわけにもいかないし
かといって必ず最上層に行ける建物というのもわからない。
普段の元気があるジュリならば、手当たり次第建物に入って行くのだろうけどな。
・・・しかし、こっちは元気なのかわからないが
20分程度も移動のマテルとやらで彼方此方移動できるものなのか?
このリディの動きに違和感を感じなかった方がおかしかった。
それはリディだから。で、片付きそうな気もするがそれでも動き過ぎに見える。
そんなわけで暫くオレは、ベースレコカでリディの動きを追う事にした。
どうも特定の場所だけを移動しているように見える。
移動しなければいけない理由があるのか、強制的に移動させられているのかのどちらかだろうな。
「この動いているのがマスターか?」
「ああ。ただ、ほとんど休みなく移動だけを繰り返しているように見えるな」
「・・・そういえば、リクに先程聞かれた事で一つ答えてなかったことがあったな。
マスターはリディ以外にもいるぞ」
「そうなのか。・・・もしかしてマスターっていうのは職業か何かか?」
「いや、職業ではないぞ」
「リディ以外にというのは想定してたけど、その話をしたって事はこのリディの移動と別のマスターが関係しているのか?」
「うむ。マスター同士の争いならリディは戦わずに逃げるんじゃないかと思ってな」
「リディは戦闘向きじゃないとは思うけど、どうしてそう思うんだ?」
「ウチも詳しくは知らないけど、マスターっていうのは何かを争っているっていう話だからな。
リディの場合はそういう状況になったら、自分で戦うよりウチ達を頼る気がするぞ。
ウチにはマスターが必要だけど、マスターにもウチ達が必要なのかもしれないな」
オレ達を頼るっていうよりは使うっていう感じだけどな。それよりも、また新情報だな。
だとすると、オレがエリアスターとしてこの世界に連れて来られているのは
マスターの争いの為って可能性が高くなってきたな。
ジュリがこの事を知っているのは、おそらくフェリスの時同様、混色のエネジスに埋め込まれた記憶って事か?
だとすればジュリはリディを助けようとするだろうけど、オレは勝手に巻き込まれそうな争いは勘弁願いたいね。
とは言っても、この大会でダイアを得るためには、これも仕方ないイベントって所になるのかね。
「逃げてるにしてもこれだけ休みもなく移動し続けてるというのはちょっと異常だな」
「うむ。これは、早く合流した方がいいと思うぞ」
ジュリにそう言われたものの、オレは即答を避けた。
ベースレコカでも確認したが、最上層にはカード交換所があるはずなので、参加者のほとんどが集まっている事は想像するまでもない。
となると、この中層から最上層に上がる場所には、クラークの幻覚ではないにしろ似たような罠があっても変ではない。
万が一その時に対応できるように、最低でもエネジスを1つ得てから最上層に行きたいのだが
この状況だとそうも言ってはいられないだろう事は分かる。
「どうもリクには何か考えがあるみたいだな」
中々言葉を発言しないオレに痺れを切らしたように、ジュリは上の方を向きながらそう呟いた。
「いや・・・正直、頭の整理がつかない状態だ。
リディと合流しなければいけない事も大事だし、でも、このフロアの状況も確認しておきたい。
どちらを優先しないといけないかなんて、すぐにはわからない」
返した言葉通りに本当にオレの頭の中は混乱していた。
それが不本意ながらも前向きに行動しているジュリを見てなのか、
状況を把握できずにどう進んでいいかわからない自分自身へのイラつきからなのか
それさえも分からなかった。
「そうなのか。ウチは考えるのが苦手だから先に進むしか考えられないな」
「・・・本当なら、エネジスをもう一つ見つけてから上に行きたかったが
ここに居てもどうにもならないしな。
ジュリの言うように、この先に見えた建物に入ろう」
「それでいいのか?」
「わからない。だが、このフロアで、未だに大会参加者に一人も会わない事は変だ。
これはおそらく、ほとんどの参加者が最上層のフロアに居るって事なんだろう。
エネジスを手にするには参加者と会う必要があるから、結局上に進むしかないってわけだ」
半分以上は自分自身を納得させるためにジュリへ返答していた。
分からないから、そう思い込むしかなかった。
「だけど、どうやって上に進むんだ?」
「建物に入るしかないだろう。他に手はあるのかもしれないけど今は時間が足りない。
それに万が一の時にはジュリの力技で何とかできるさ」
ジュリは今度も納得した顔ではなかったが、オレの言葉の半分以上は本音だった。
自分の考えで納得した答えではないが、失敗したとしてもジュリが居るおかげで気が楽になれる。
情けないけど、切羽詰った時というのは自分の本心というのがコレだ。
人のせいにできれば楽なモノなのだと。
少し歩くと幾つかの建物が見えてきたが、真正面にある建物に入る事に決めていた。
決めたのはジュリだが、結果的にオレが決めたような感じに進んでいた。
他の建物と同様にレコカを入れる機械が付いていた為、オレのベースレコカを差し込むと当然に扉は開いた。
中は普通の民家?の様な作りだが玄関がなく、そのまま居間になっている空間がそこにはあった。
とりあえず誰も居ない事に安心をして、2階への階段を無視してそこに配置されている机や家具などの中身を検索することにした。
さながらRPGゲームの要領だが、ここが元々の住居ではないと思い込んでいるから抵抗は無い。
幾つかのレコカを見つける事が出来たが、70番のレコカは当然に?見つける事は出来なかった。
しかし、このレコカは隠せそうな所なら遠慮することなく置かれているようだ。
【○】のレコカでない限りは相当ダブりがあっても問題がないという事なのか。
建物内の検索を終えて、いよいよ2階へと進む。
フロアの移動の法則としては建物の2階へと進む事が条件になっている事が多い印象だから
階段を上りきった時が勝負だろうな。
ジュリが先を進み、オレは後方で状況判断をする形になった。
階段を上りきって2階へ辿り着くと最初はただの2階だった風景が一瞬で変化を起こした。
上ってきた階段は消え、その部屋はただの一室と変わり、そこには二人の人物がこちらを見て待っているように見えた。
「む?」
オレはジュリの後ろ側にやや下がり警戒をするがジュリの様子が少しおかしい。
そして相手側の様子もおかしい。
「お前は・・・シロクロか?」
「あぁ。やっぱりあの時のねえちゃんか。無事この大会に出れたんだな」
「うむ。」
どうやらジュリはこの二人組と面識があるようだ。
話によると、オレ達と組む以前にちょっとしたイザコザで協力した仲らしい。
この二人共、見た目は優男と優女なのだが、非常に言葉使いが悪かった。
「シロクロは少し黙ってな。
あんたらが大会に出てるのは暴走マスター女の件でよ〜く知ってるよ。
ま、あんだけ派手に割り込みして、しかもマスターとくりゃ、目立たない方がどうかしてる。
よく他の参加者に目を付けられずにここまで残ってたもんだねぇ」
言葉とは裏腹に呆れたような声で、後ろの方で偉そうに腕組みをしていた少し魅力的な体の女性が
シロクロという男を押し退けて前に出てきた。
しかし、この女の言う通りだ。その割り込みをしたマスターとはリディのことであり、オレら二人の事でもあるからな。
オレだけなら気が付かなかっただろうが、ジュリという顔見知りが居たからこの女は余計に目についたんだろうな。
「うむ。ウチの探していたクラークにもハメられかけたし
それがマスターのせいだとは思わないが、少し大変な目にはあったぞ。
あと、この貰ったエネジスありがとう」
ジュリは微妙に話がかみ合ってない気がするが
会話をしている3人を見ている風にしながら、オレは周りの風景や状況を把握していた。
話を聞いている感じだと、知り合いといっても仲間的な知り合いでもないようだ。
「エネジス?あぁ、ソレはウチの馬鹿ギンがやらかした件での詫びだからな。
ま、あの時はくれてやったが、それをそのまま持って良い話でもないんだけどねぇ」
「うむ?」
何だか、話がキナ臭い方向に進んでいる気がするな。
ここは、一応クッションを入れておくか
「ところであなた達はここでオレ達が来るのを待っていたのか?」
「ん?待ってるって表現はおかしいんじゃね?
あんたらがワタシらを待って居るようにしか見えなかったが」
この女は一体何を言っているんだ?
「姐さん。このねえちゃん達は下から来たんじゃないですか?」
「んなのどっちでもいいんだよ。さっきから突っ込み所がズレてるんだから少し黙ってな」
叩きこそしなかったが、今にもシロクロという男を引っ叩きそうな勢いだ。
所謂、姉御肌というモノなんだろうけど、オレはこういう男には成り下がりたくないな。
「確かにどちらが待っていたかはどうでもいい話だな。
この予選ルールに則ってカードバトルでもするか?」
「はは、面白い事を言うね。やっぱ暴走マスターの面子は面白い奴って事かい?
本当に気が付いてないのか、とぼけてるのかは知らんけど、ワタシ達は正々堂々って奴じゃないんだよ」
それは、そうだろうな。
ジュリはいまいち気が付いてないようだが、いや気付いたところでジュリもカードバトルをする性格ではないだろうし
実力で奪い取るって事になる展開なのは、キナ臭い会話の時点で想定出来た事だ。
女が体を構えた事で、ジュリもようやく状況を把握したようだが
それでもまだ戸惑いがあるように見えた。
「ウチ達のカードを奪うのか?」
「必要のない物はいらねぇけどな」
そう言うと、その女はこちらへとゆっくりと歩きだす。
「一応言っておくけど、あんたのマテルは以前シロクロが見てるから使っても無駄。
使えるマテルが偏ってる新種には、ワタシらに敵う道理はないんだよ」
偏っていると不利なのかは使うマテル次第だとは思うが、これはジュリの力技でどうにかならない雰囲気のようだな。
向こうのハッタリならジュリも特に気にしないだろうけども
明らかに攻撃をするのに戸惑っている表情に変わった。
リディの行動も気にはなるし、ここで時間を食うわけにはいかない。
色々考える部分があったが、オレは一つの手を打つことにした。
「これはお前らが欲しいレコカの一つだろ?」
オレが見せたのはジュリが持っていた「1」の【≡】のレコカである。
ジュリがオレの腕輪のエネジスを持つ条件として、ジュリのレコカを全てオレが持つという事になっていた。
そういうわけでジュリの腕輪にはベースレコカ以外何も入っていない状態になっていた。
そしてオレが「1」のレコカを出したのは当然、この二人組が「1」の腕輪をしていたのを見ていたからである。
「確かに、そのレコカはワタシ達に必要なもんだが、それでどうする気だい?」
「協定と思ってもらいたい。
オレは無駄にこの予選でバトルをしたくないし、厄介な選手がいるから協力してもらいたいという事もある」
「カードバトルを提案したと思ったら、次はレコカ一つで協力しろってか?そんなのお断りだね。
無駄にバトルしたくなっていうけどさぁ、むしろ決勝までは多くのエネジスとかを手に入れるチャンスなわけ。
あんた、面白いを通り越して呆れたわ」
「・・・そうか。ただ一つ言える事は
オレ達と接触した事で、オレが言う厄介な選手にお前らも目を付けられたと思った方が良い。
対策などをオレ達は取れるが、お前らは恐らく何も知らない相手だ。
100%とは言わないが、お前らじゃ敵わない相手だと断言できる。
話よりも手が先に出るなら尚更な」
一部は本当だが、ほとんどがハッタリの言葉だ。
とりあえずジュリと繋がりがある部分を利用して、無駄に戦わないようにしておきたかった。
「厄介な選手っていうのは恐らくクラークの事だろうけども、確かに目を付けられたくない相手だね。
協力を求めるその気持ちは理解してやるよ。
でも、それとこれは全く話が違うねぇ。ワタシらは危機管理能力が高いからね」
口調は荒くれ者だが考え方自体はとても冷静な女だな。
オレの考えを見透かされてる感じすらする。
しかも、次にその女は意外な行動をした。
「まぁ、今回はこのレコカで手を打ってやるよ」
手に持っていたレコカを、いつの間にかその女は奪い取り手にしていた。
恐らく何だかのマテルを使ったのだろうが、こんな行動をする相手じゃ実力では敵う気がしない。
「姐さん。この場を早く移動した方が良い」
その行動とほぼ同時に、シロクロと呼ばれていた男が口を開いた。
「あぁ?こいつが何か仕掛けてるのか?」
「違う、何かが来る!」
シロクロがやや叫ぶように言うと前方から突如一つの影が現れた。
「来るって、シロクロさ、此処って2組以上入ることも可能って事なのか?」
「それは分からないけど、面倒な感じがしますよ」
何かが来るのも気になるが、ソレよりも女の言葉の方が気にかかっていた。
同じ建物に入れるのは2組までという事なのか?
腕輪のナンバーが予備予選の突破順なのはほぼ間違いないだろうから
こいつらは1番目に突破しているわけで、オレ達よりも先に地下フロアに居る事になる。
オレ達が知らない事を幾つか知っていても何もおかしくない。
ソレを聞こうとしたその時、それを吹き飛ばす影の正体が姿を現した。
「あらん?
余計な面子も居るみたいだけど、また会ったわね」
この口調に魔女みたいな黒に近い紺色のマントで覆われている服。
表情の見えにくい、しだれ髪の女。
予選でさっき遭ったばかりなアノ水女だ。
「リク、気を付けろ。この女も厄介な奴だ」
どうやら、ジュリもこの女を知っているらしいな。
なんにせよややこしい展開になってきた事だけは確かだ。
「あんた・・・確か予備予選で水撒いてた奴じゃね?
どうやってこの部屋に入ってきた?」
「アハハん?
どうやってって、レコカ差して入ったに決まってるじゃない?
とゆーか貴方達、正直邪魔なんだけどね。
だって用があるのは、k」
「はぁ?何言ってんだ?あんた」
今にも飛びかかりそうな女をシロクロが必死で押さえている。
ジュリ同様にこの女も水女を知っているようだな。
どうせだったらこの2組でイザコザやってもらって、その隙にここから出ておきたいモノだが
いくらここがご都合主義の世界とはいえ、そんなに上手くいくわけはない。
「リク。ウチは何が何だか・・・」
「オレもこの展開はさっぱりだが、あの水女は多くのエネジスを持っている。
上手くいけば腕輪のエネジスを取り戻せる可能性がある」
「リクもあの女の事をく知っているみたいだな。
ところで、エネジスはまだウチが持っていていいのか?」
水女のマテルを考えるとオレが持っていた方が良いのだろうが
それだとジュリの攻撃がほぼ出来ない。
シロクロ達が協力してくれるなら少し変わってくるが、ソレを当てには出来ない。
「で、さっきから、コソコソ何を話してるのん?
そっちの外野も気になってるみたいだから、一つだけ種明かししてあげるよ」
「この地下フロアの建物にはベースレコカを使うと入れるわけだけど・・・」
水女はおもむろに一つのレコカを取り出した。
「70」の【☆】である。
「アハハん。
そう、これは貴方達の必要なレコカよね?
私がここに入ってこれたのはこのレコカのおかげよ」
「って事はアレか?ベースレコカじゃなくても建物は開けられるって事かよ?」
少し魅力的な体の女が気が抜けたように言い放つ。
「アハハん。
それだけじゃなくて、その該当の数字の選手がいる空間に移動も出来るわけ。
もちろん3人いるわけだから、どこに当たるかは運次第だけどね。
あんと、同じ室内に2組しか入れないっていうのは、私には良く分からないけど
実際3組入ってるから違うんじゃない?」
つまり、この水女はオレを直接狙ってこの建物に入ってきたって事か?
シロクロ達を外野扱いしているようだし、オレとはイザコザもあるしな。
「そこまでして、オレらの所に来た理由はどうしてだ?」
「アハハん。
べっつに深い理由なんてないわよ。
適当にレコカを選んでここに来ちゃっただけだし」
それは嘘だな。
この水女は明らかにオレを狙ってここに来ている。
オレのエネジスを狙って・・・
こんな展開になっているのにもかかわらず、何故か妙に頭の中が空っぽになったように静かになっているのが分かった。
腕輪に手を付けていたオレは、水女と喋るのと同時に2つの行動を取っていた。
一つ目の行動は、幾つかのレコカを取り出し、幾つかをジュリに渡した。
その時にオレが水女を相手するので、ジュリにはシロクロ達を相手するように話をしていた。
「適当でも何でもいいが、オレらのエネジスも奪いに来たのか?」
「アハハん。その通り。
私としては君のじゃなくてもいいんだけどねぇ」
「こちらとしては、お前と戦うのは勘弁したい所だが、この状況ではどうにもできないな。
肉弾戦は無駄ってわかってるだろうから、大会らしくカード勝負しないか?」
水女が一瞬だけ考えるような表情をしたようにみえたが
さほどせずに即答した。
なんにせよ水女は腕輪のエネジスを奪いたくて仕方ないはずだ。
今は混色のエネジスがついているオレのエネジスだがな。
2つ目の行動はオレの混色のエネジスを腕輪につけてみる事だった。
大きさ的にもほとんど同じだったのと、くっつけてみて外れなかった事からして
おそらくエネジスであればこの腕輪には付くようだ。
しかし、マテルは使える感じではない。
この腕輪についていたエネジスは何だかのマテルを持っていた可能性もあるな。
なお、この状態でも言語や記憶については問題がないようだ。
混色のエネジスを腕輪につけるのは以前に試したわけではないので未知な部分が大きかったが
水女を騙すには仕方ない行動でもあった。
「勝負は何回戦がいい?」
「あらん?
勝負っていうのは一度しかないのよ。一回で十分よ。
ルール的には勝者がレコカをもらうことになってるけど、このルールを今回だけは改定させてもらうわね。
私は君のエネジスを必ず貰うのが勝利条件って事に変えるわ。
お互いに同意をし、第3者によって監視が付いている状態ならば、この場だけのルールの改定は認められてるのね。
外野がいなければルールなんて無用なんだけど、
ルールを破った場合には、大会規定違反により100万ダイア以上の罰金っていうのもあるしね」
ルールを改定できる事と罰金とは、ある意味で優しい規定があったんだな。
一応大会規定は読んだつもりだったが、全部を網羅していたわけじゃないしな。
ルール改定についてはどちらでもいいが、一回勝負については好都合だ。
ただ、向こうが提案した以上は水女にも策はあるのだろうけどな。
「一回勝負で構わない。そして、こちらの条件も同じだ。
オレが勝った時もお前のエネジスを必ず貰う。」
「アハハん。
それじゃお互いに同意って事でいいわね。外野のお二人さんも聞いてるわね?
あっと、私を甘く見てるみたいだけど、肉弾戦の方が君には有利だったかもね。」
表情が見えはしないものの、水女が不気味に笑みを作った事だけは理解できた。
シロクロ達は返事こそしなかったが腕を上げてルールを承認した。
「リク。ウチは本当に何もしなくていいのか?」
「あぁ。オレの事よりもシロクロ達が何か仕掛けても良いように常に見張っていて欲しい。
水女と違ってあの二人は肉弾戦しか頭にないだろうからな」
「うむ。わかったぞ。
ウチもそっちの方が専門だからな」
ジュリは予備予選で一度も正答を出せなかった事からしても、レコカ絡みでは何もできないとオレは思っていた。
シロクロ達が実際肉弾戦しか仕掛けないとは思えなかったけど、カードバトルにならないように仕向ける必要もあった。
「1」であることからしても、こいつらは予備予選で1位突破している事になるが
予備予選の途中経過からしても、おそらくその中の1人は透視的なマテルを持っている可能性が高い。
となるとカードバトルをしてもほとんどの確率で負けになるのは見えている。
そういう理由もあって、最初にあの女に協定を結ぶ提案をしたのは、本当に戦いたくないというのもあったけど
あの場でのカードバトルという選択肢を消すためでもあった。
シロクロ達はオレが「1」の【≡】を見せる前からカードバトルを否定はしていたが、その裏をかく可能性はまだ残っていた。
次に、協定を結ぶ代わりに無償でレコカを渡す提案をしたわけだが、それはレコカを強引に奪われる結果になった。
しかし、その行動によってオレとはカードバトルをしない事はほぼ確実になったと言える。
カードバトルを否定しているのが嘘であるなら、あの協定の提案の時にオレがレコカを無償で出すことに先ずは疑問を持つはずだ。
カードバトルを提案するモノが、一番といって良い有効なレコカをダシにするなんて事は
普通は罠以外何もないし、あの女からすれば自分に有利過ぎて気味が悪くなるだろう。
だがあの女は、罠とも考えていないかのように力技でレコカを奪った。
仮にソレが罠であると思っていて行動しても、その後、何も起きずにレコカを手に入れた事で
オレがこのレコカを使って協定をしようとしていた事が本気だという事を感じ取れたはずだ。
それと同時にカードバトルを拒否されたオレが、肉弾戦を拒否している事も理解できたはず。
そうなれば、オレと戦うには肉弾戦がより有効であると考えるだろう。
何よりも、透視が出来るならカードバトルを受ける方が向こうには都合が良いはず。
ソレをしなかったって事は透視が出来るモノがココにはいないのか、透視ではないマテルで予備予選1位を取ったかになる。
それならば、余計にカードバトルには出来ないだろうから、やはりオレの想定通りの展開になっていく。
万が一、この水女との勝負でオレが負ければ、水女はマテルを使ってシロクロ達のエネジスも奪いに来る。
そうなれば結果的に協定を結んでいる展開になっていくはずだ。
少し時間がかかる展開にはなったが、オレのハッタリでもある「厄介な相手」として、この場での水女は適役なのかもしれないな。
水女と一つの机に向かってお互いに向き合い、カードバトルが始まる。
カードを腕輪から5枚引き出して、裏向きにした状態でソレを1列に机の上に並べていく。
このカードバトルはそのうちの1枚を使って勝負をする。
カードバトルとは言うモノの、これはカードを使った「じゃんけん」みたいなものだ。
よって、バトルに勝つための対策は実にシンプルだ。
「勝負の前に一つ聞いておくが、なぜ肉弾戦の方が良いって思った?」
「あらん?
君も細々したことを考えるのが好きみたいだからね。
このカードバトルでも何かやるだろうって事は想定してるのよ。
そんなわけで私としては対策を練ってもらってここに居るって事よ」
読まれて"は"いる。
それは想定の範囲内って所だろうけども
この水女はオレがカードバトルしかしてこない事を想定して、ここに来たって事になるな。
考えれば、オレのマテルがある限り水女の能力はほぼ無効化してしまう。
解除のマテルは攻撃には向かないが防御的には相当な効果を生むことは分かる。
しかし、肉弾戦となるとその防御を超えた攻撃をする事も可能になる。
よってオレが肉弾戦を仕掛けないという考えは当然な考え方だ。
だから、お互いにカードバトルの展開は想定通りの流れって事だ。
「ベースレコカ以外で建物に入っていない君は知らないと思うけど
このレコカはねベースレコカと同じ効果が備わってるわけ。
えっと、君は確か70番だったよね?
つまりは、70のレコカがあれば君の居場所を知る事は容易だし、君が持っているレコカのカードやエネジスの情報すら分かるって原理なのよね」
・・・正直、コレは想定してなかった。
居場所を知る事はオレとジュリの所にピンポイントでやって来た事からも想定していた。
水女は最初、3人のうちどこに当たるか運次第って言っていたが、そのあとで適当にレコカを選んだらここに来たと言っている。
それでいて、さっき言ったカードバトルをする対策を練っている発言。
どう考えても、オレの居場所を確認して、準備が出来てからここに来たと言っているようなものだ。
想定外なのは、オレの持っているレコカとエネジスの情報だ。
ソレがハッタリだって事は分かっているが、この場合はそうではなく、ハッタリを先に言われたことが想定外って事だ。
それでも勝負を仕掛けなければならない。
「カードの中身が分かるって・・・じゃあ、今ここに伏せてある5枚のカードの事も想定済みって事か?」
「アハハん。
流石の私も沢山のレコカを一々覚えているほど万能人間じゃないわね」
・・・これは本音だろうな。少なくとも水女は透視のマテルは得意とはしていないだろう。
だとすれば、オレの想定通りに事が進められそうだな。
勝負を仕掛けるならここか。
「このカードバトルには欠陥がある。
流石にお前も気付いていると思うが、このバトルは圧倒的に負けになる確率が低い。
3種類とは互角か勝ちになるが、1種類のみが負けになる。
つまり、とあるカードを出せば必ず負けないっていう法則を作りやすいわけだ」
「アハハん。
それは可能な事ね。でも、そんな分かりきった事を言ってどうするの?」
「だからこそ、この勝負は相手を絶対に負かす事も可能って事だ。
自分が負けない確率が高いって事は、相手を負かせる確率も高いって事だ」
「あらん?それは違うんじゃないの?
負けない確率は高いけど、勝てる確率は高くはないわよ?」
「そう思ってる時点でお前はオレには絶対勝てない。
なぜならオレが出すカードは「70」の【☆】だからな。
お前が持っているレコカの一つであり、オレ達に必要なレコカでもあるが、すでにオレが持っていたってわけだな」
裏のある笑みを浮かべた上で、一枚のレコカを裏返しのままで水女の方に動かす。
「言うまでもないが、オレが言う事を信用するのであれば【≡】を出せばお前は絶対負けない」
今度はオレのハッタリだ。
しかし、このハッタリに意味は全くない。
それ以前に幾つかの言葉の種を撒いていたオレはすでに何を出すのかは決めていた。
あとはあの水女が上手くハマってくれることを祈るだけだ。
そもそも、水女が持っていた「70」の【☆】をオレも持っている可能性はかなり低い。
【○】のレコカ以外は複数存在することは、あの水女も知っているはずだが
かといってわざわざハッタリとして「70」の【☆】を持っていると言う必要がない。
向こうからすれば、端からオレが嘘をついていると言っているようなものだからな。
何故オレがそんな事を言うのかというと、ハッタリを言っているように見せている演技をしている事をわざと分からせるためだ。
水女がどんな対策をしてきたかは知らないが、オレの選んだカードの中身が見えてない限り
【☆】をオレが選ぶのは難しいと考え、そしてその逆も考える。
先に向こうがハッタリを使ってきたので、正直オレのは効果が薄いと考えているが
オレには水女がどっちを考えようが負けない自信だけはあった。
オレは【≡】と【☆】をワザと印象付ける様に三味線を弾いていたからな。
わざわざ「70」の【☆】を出すと言って【≡】を出せば負けないと言われたわけだが、オレが素直に【☆】を出すとは考えにくいだろう。
つまり、その裏を考えると【≡】を出すことになるわけで、万が一【☆】を出しても水女が【+】を出せば負ける事は無い。
ただし、そのことに気付く事をオレが想定しての発言と考えると、逆に【+】は危険になる。
つまりオレが選んでいるレコカは、一番印象に残らないようにしている【□】という可能性が高くなる。
そして、オレは相手を負かせる確率が高いというハッタリもついている。
水女の突っ込み通り、負けない確率は高いが逆の確率は高いわけではない。
引き分けの可能性が半分あるために、勝ち負けが付きにくいゲームだというのは少し考えれば分かる事だ。
しかし、水女とオレとの間には一つの布石がある。
オレはその時には知らなかったわけだが、結果的に水女を欺いてエネジスを奪い取ろうとした行動を取っている。
予選開始後、水女と同じ部屋だったオレだが、腕輪のエネジスを取り外しまた取り付けたあの行動が
水女にとってはオレが欺いた行動をしたように映っているはずだ。
普通の相手なら考えなくても良いハッタリをオレだからこそ深読みして考えてしまう状態になっていた。
オレはこのカードバトルの説明を受けた時に、ある方法で負けないようにする方法を考えていた。
中身はほとんどがハッタリなのだが、この水女には特に有効なハッタリでもある。
「ところで、選んだカード以外を表向きにするのはルール的にありなのか?」
「何を言ってるの?
そんな事して何になるわけ?」
水女から余裕が消えている事をオレは確実に認識した。
ここで一気に勝負を決める。
「意味はないけど、負けたら結局カードを見せる事になるんだから先か後かって事ぐらいじゃないか?
ダメなら開かないけども」
「駄目ではないはずよ・・・」
「オレはそもそもこのカードを選んでるわけだし、今更な感じなんだけどな」
適当な言葉で水女を動揺させ、そして4枚のレコカを表向きに変えた。
「な・・・」
言葉が出なくなった水女以外の3人も同じ気持ちになっただろう。
ジュリに至っては不安そうな顔をしている。
「とんでもないペテン師だな。お前は。
それで勝つ確率が高まるとでも思っているのか?」
少し魅力的な体の女が、数秒の無音を引き裂くように言葉を出す。
こちらとしてはありがたい言葉のサポートだ。
オレが表向きにした4枚のレコカは全て【☆】だった。
もちろんわざとそういう構成にして腕輪に入れたモノだ。
というよりオレはベースレコカを除けば必要最低限のレコカしか腕輪に残さなかった。
だからこそ、「70」の【☆】を出すという嘘を最初についていたわけだ。
伏せてあるレコカが【☆】である想定を低くするために。
「あの時もハッタリで私をハメかけた君ならこんな事をする事ぐらい想像で来たけども
流石にコレは驚いたわね・・・」
水女は冷静になっている風に喋っていたが、実際は相当動揺をしているようだ。
しかし数秒して本当に冷静になっていく。
「あららん。
策を考えすぎて私に負けないヒントを与えてくれたわね」
「負けない・・・か。その考えには興味があるな」
水女の最後のハッタリだろうけども、あえて乗ってみる事にする。
「アハハん。
このカードゲームは確かに欠陥があるわね。
5枚のカードを使うのに実際4種類しか選びようがない。
それぞれ1種類を腕輪に入れて残りは自分の好きなレコカでも入れておく。
つまり5枚だけ入れておけば自分の意図したレコカを全て常に出すことができるわけよね」
「どういう意味なんだ?リク」
「あとで説明する。ジュリはとりあえずあいつらを見ていてくれ」
「う、うむ・・・」
ジュリには悪い気持ちだが、ここで多くを語ってしまうと向こうの思う壺だと感じた。
「君はきっと私が一人だから、ランダムに出てくる腕輪のレコカも操作できないと踏んでいたんだろうけど
ソレは想定済みだったわけよ。
当然二人居れば余分なレコカをもう一人に渡す事も出来るからね。君がそこの長身の女性にしたようにね」
確かに、オレは腕輪の中のレコカを選別して、要らないモノをジュリに託している。
だがソレは今更な話だ。
「私はね、はなから4種類と残り1枚のレコカしか腕輪に入れてないのよ。
別にレコカを全て腕輪に入れないといけないルールはないからね。
そして、君はそれを想定してこのふざけたレコカの構成にしたわけでしょう?
先手を打ったつもりだろうけども、残念。私には全てを回避できる可能性があるのね」
「・・・だいたい正解・・・だな」
水女が4種のレコカを腕輪から出せるようにしていた事は想定済みだった。
しかも、ソレをオレがわかった上でこういう偏った構成にしていた事がばれるのも想定済みだ。
ようは水女の出すレコカを都合の良いように誘導させるのがオレの作戦というわけだった。
しかし、水女はその誘導を見切って逆にオレにプレッシャーをかけ始めている。
水女がオレの意図しないレコカを出そうとすれば、オレは言葉で誘導するしかないからな。
「あははん。
君はもう選択を選びようがない。私が【☆】を出して負けないようにしてしまえば、
全てのレコカを私にばらすことになってしまう。
仮に引き分けになっても4枚が同じ種類って事は、次以降の勝負で私は100%負ける事は無いのよね。
今回も最後のレコカが【≡】でなければ【☆】を出せば私は負けないからね」
完全に水女は誘導を始めている。
誘導をしているという事はオレの選んだレコカが何かまでは理解していないという事だ。
ここでオレが何も答えなければ【≡】である確率は高い。
水女は最初に【☆】を出せば負けないと言っているが最後に【≡】でなければと念を押している。
オレの立場になって考えると【≡】以外を選んでいると、この勝負は引き分けか負けしかなくなる。
逆誘導をせず何も答えないというのは【≡】の可能性を高めてしまい、水女は【+】を出せばほぼ負けがなくなる。
しかし、仮にオレが【≡】を選んだとしても誘導という意味では何かを喋るべきだ。
そうなるとオレの言葉から水女はヒントを得る事が可能になる。
負けないヒントというのは水女のハッタリだが、ここで負けさえしなければハッタリではなくなる。
この場合、追い詰められているのは確実にオレの方だ。
そう水女は考えているはずだ。
オレは決して頭の回転が良い方ではないと思っている。
そしてこういう状況に強い精神力を持っているわけでもない。
だが、頭の中だけは妙に冴えわたっている。
ここでオレはカードバトルとは全く違う事を考えていた。
混色のエネジスの効果は効いている。
内面・・・つまり精神を解除している状態なのでは、と。
表面上にマテルを出すことは不能だが、自分自身に効くものならマテルの効力は無くなっていない。
そういう仮定を思いついていた。
オレが何も言わない事に水女は焦っているように感じた。
実際そういう発言をしたわけではないし、表情も見え難いからどう考えているかは分からないのだが
誘導させない事で、水女に逆のプレッシャーを与えている事だけは確実だと感じていた。
「あらん?
シカト作戦って事かしら?
それとも、選んでいるのは【≡】だから答える必要もないって事かしらね?」
そう、何も答えなくていい。
【≡】でなかったとしても、喋ることは水女にヒントを与える事になる。
ここは黙って、自滅を待つしかない。
「オレはもう選んでいるんだから、お前が何を言っても変えようがない。
さっさと選んだらどうだ?」
しかし、先手を取ることは重要だ。
「じゃんけん」における勝つための対策は、先読みをする事だ。
つまりは、主導権を奪われない事。
だが、それを実行する方法は単純ではない。だから「じゃんけん」は勝負になるわけだ。
「アハハん。確かにそうね。
私には4つ選ぶ権利があるのに、君は1つしか選べない。
何やら急いでいるようだけど、私はじっくりと選ばせて頂くわね。
このバトルに関しては時間制限はないのだから」
時間がないのは事実。
そして制限を設けなかったのは失策かもしれないとは思う。
だが、それもオレの想定内の事だ。
「あぁ。時間はないな。
この予選は最大突破数が25と決まっているが、それ以下の可能性もあるからな。
時間制限も不明。もしかしたら残り1時間って事もあり得る。
いやいや。決勝は世界に放送されるわけだからある程度のチーム数は必要。
ようはさっさと予選を突破する事が重要。
オレはエネジス集めに没頭するチームの足止めをするだけだからな。
5種類のレコカはリーダーが集め終わってる頃だし。嘘だと思うなら70のレコカで確認してみな」
ここまでハッタリをベラベラと言う事が出来るのは、オレが本来持っている才能なのか?
時間がないのはオレの方だが主導権はこちらが頂く。
何を選ぶかなんて迷いがある方が結局は不利にしかならない。
「あらら・・・
時間制限の事は私も知らなかったわね。ただ、ソレを言うならお互い様じゃないかな?
私も、そして向こうの外野もリーダーは独自で行動している気がするけどね」
「そう、お互いにな。
こうしている間にも多くのエネジスを得るチャンスがなくなっているわけだ。
オレには関係のない話だけどな」
何も言わなくなったが、エネジスにはやはりと言って良いほど反応する女だ。
あまりにも分かり易い反応だけにかえってそれが演技に見えてしまう。
「アハハん。
君のハッタリを聞いているのも面白いけど、そろそろエネジス回収といきますか」
水女の言葉は笑っているが、見えない表情のはずが歪んで見えた。
そしてついに水女も一つのレコカを前に出した。
「この勝負は引き分けにする。そしてそれは同時に君の負けを意味するわね。
こう見えても危ない橋は渡らない主義なのよね」
「だから、オレは選びようがないんだから、一々前置きはいらないな」
危ない橋を渡らないのはお互い様だ。
水女の言葉を否定しなかった事で、向こうは一つの仮説を立てる事になる。
今の所【≡】か【☆】を出せば負けはないと言っているが
それに対してオレはコメントを特に返していない。
そしてわざわざ「引き分け」にする宣言をしたことからも選んでいるレコカはこの二つのどちらかだろう。
しかし、オレの返答を見て一度出したレコカを引っ込めた。
ようはそのレコカならオレが勝てる可能性があると思っているのだろう。
ほんの数秒考えて先程選んだレコカの右を前に差し出した。
「アハハん。
もう何も聞かないわね。コレでいいわよ」
もちろんオレには何を選んでいるかわかっていない。
水女はそう思っているに違いない。
しかし、オレにはおおよそのカードの目安がついている。
「勝負!」
水女が出したレコカは「44」の【+】
一方、オレが出したレコカは「6」の【☆】だった。
「引き分けか・・・お前が裏を読んでくれたおかげか・・・」
安堵というよりは落胆のため息と共に、オレはその場に座り込んだ。
実の所、オレは水女が【□】を出すだろうと読んでいたのだ。
一番怪しくない目立たないレコカであり、全てのレコカを【☆】で構成するなんて事は想定しにくい。
【☆】4つを先にオレが見せたのも、それがハッタリであることを示していたからだ。
水女は引き分けでいいと言っていたが、間違いなく勝ちに来ていたはずだ。
勝つためには、まずオレ側の考えを読む必要がある。
万が一引き分けになった場合、【☆】の対角線にある【+】を用意しとけば次の手を読みにくくできる。
他の手だと近辺のレコカを出せば負ける事がなくなるため、オレが勝てなくなる事になる。
よって、水女はオレが【+】を出す可能性が高いと考えていたはずだ。
引き分けにならないように【□】を出す事で間違いなく勝てる状況を作り出したはずだった。
しかし、オレの読み通りにいかず、水女はオレが【≡】を出したと思っていたようだ。
それほど焦ったわけではないが「【≡】だから答える必要もないって事かしらね?」と聞かれた時
オレはレコカをさっさと選ぶように急かしている所は確かにあった。
時間がないという部分もあるが、オレの焦りを見て素直に【+】を選んだという事なのか?
「アハハん。
とんでもない手を考えていたものね。でんも、コレでジエンドね。
そして予告するわ。私は次に【≡】のレコカを出すわ。
というかあなたに勝ち目なんてあるのかしらね」
「そう言われると・・・そうだな。
だが、勝負は最後までやるべきだろ・・・一応な」
「あらん。
時間の無駄だからさっさとエネジスを用意しなさいな」
「いいや。そこの男の言う通りだ。勝負を続ける必要があるぜ」
シロクロが第3者の監視として口を挟む。
水女はシロクロの方を軽く睨んだように顔を向け、再びオレの方へ向き直した。
広げていたレコカを腕輪に収納し、再び5枚のレコカを裏向きの状態で1列に並べたが
すぐさま一枚だけオレの方に進めたように見えた。
「ほら、さっさと準備しなさいな。
君の【☆】レコカをさっさとこの机に出しなさいよ」
優位であるはずの水女は焦っていた。
焦りたいのはオレの方なのだが、ここはあえて時間をかけて立ち上がると
同じく自分のレコカを集めて腕輪に収納し、再び5枚のレコカを登場させる。
ゆっくりと時間をかけて1列に並べると、少し悩んだ表情をした。
「君が迷う必要なんてないはずでしょ。
モタモタしないでくれない?」
オレは勝ちのなくなったショックから手を出すのを躊躇っている状態になっていた。
ソレを見ている外野も妙な雰囲気に見えているようだ。
「シロクロ。この勝負が終わった瞬間分かってるね」
「いいや、姐さん。
もうちょっと事の顛末を見た方が良いですよ。
何かおかしいぜ」
「あの男の事か?
勝負以外で何か企んでるって感じか?」
「いや・・・それだけじゃなくて・・・」
どうやら、シロクロは感づいているようだ。
そしてオレはさっさとこの勝負を終えてリディの所に向かう必要がある。
この水女のエネジスを頂いてからな。
「今度は私がオープンにしてあげたわよ。あはん?
変な時間稼ぎはよしなさいってな」
言葉通り今度は水女の方が残り4枚のレコカを表にした。
【+】【+】【☆】【□】の4枚を。
「予告通り【≡】のレコカを残したってわけか。
先手を取るのは確かに間違っていないけどな・・・」
「アハハん。
そうね。さっき君がしていた事がまさにそうね。
でんも勝てなければ何の意味もないわね」
「あぁ・・・そうだな」
オレも覚悟を決めたように一つのレコカを前に進める。
「アハハん。勝負よ!」
水女が出したレコカは当然「56」の【≡】
一方、オレが出したレコカは「24」の【+】だった。
「え?・・・なにソレ」
「オレのレコカだけども、何かおかしなところがあるのか?」
オレ以外の全てのモノが豆鉄砲を食らったアレのような顔をしていた。
水女は良く見えなかったが、呆然としているように見える。
「え、いや・・・き、君。
レコカに細工したのね!」
「細工というより小細工ならしたけどな。
それよりもエネジスを一つ頂こうか」
水女は周りを見渡し、最後に諦めた表情でオレに一つエネジスを投げつけた。
「リク、流石に今のはウチにもおかしいとわかったぞ。
一体何をしたんだ?」
「オレは何もしてない。普通にカードバトルをしただけだ」
ジュリの方を向き、オレは余裕の笑みを浮かべる。
「ど、どういう事よ?」
水女にとっては当然の疑問だな。
「なるほどねぇ・・・確かにあの男は何もしてないってわけだな。
思い込みを利用したって事だろ?」
少し魅力的な体の女も気が付いたようだ。
というよりはシロクロが説明したっぽいな。
「そう、思い込みだ。
4種類のレコカを使えば相手が何を出しても対抗できるのがこのカードバトルの基本。
そして4種類にするには、ランダムで出てくる腕輪のレコカの数を特定数にすればいい。
だから、4種類をこの場に出すためには、4種類のレコカと適当な残り1枚のレコカだけを腕輪に入れれば良い事だ。
腕輪の中のレコカ数に決まりはないから、こういう対策をするのがこのカードバトルにおける基本だと思う。
だけど、それだと相手のレコカも4種類になってしまって、腹の探り合いになってしまう。
そこでオレは、ソレを逆手に取った戦法を取ったわけだ。
同じ種類のレコカ5枚と、別の種類のレコカ1枚を入れておくだけのな」
「あ・・・」
「そう。敗因はお前はオレも腕輪に5枚しかレコカを入れていないと思い込んでいた事だ。
4枚の【☆】を出した事はお前にとって想定外な事だったはず。
そして全てが【☆】であるとわかった時、まだオレがレコカを持っている可能性があったのにもかかわらず
勝手にコレが全てだと思い込んでしまっていた。
もちろん、オレのショック演出も手伝っての事だけどな。
ただアレは、演技ではなくて本当にショックだった。本当はお前に【□】のレコカを出させるつもりだったからな」
本音を言うならこの種明かしは、この水女との戦いでは見せたくなかった。
一回の勝負で【□】を水女に出させて、完全に掌握した状態でシロクロ達と戦う状況にしておきたかった。
未知な部分が多ければ多いほど、相手には脅威に映るはずだからな。
「ふ・・・ふふん。
そうね。今回は君の勝ちだわ。認めてあげるわ。
でもね、本当の勝負は決勝に上がってからよ」
そういうと不気味に笑ったように見え、同時に腕輪を見せつけるようにオレの方へ向けた。
「★・・・?」
「アハハん。そうよ。私達は★チーム。
よって、こちらから手を出せないけど、君達が手を出す事も出来ないわ」
そこにはオレやシロクロ達の腕輪には書かれている数字が水女にはなく
代わりに★が描かれていた。
そしてソノ回答をすることなく、ゆっくりと歩いて部屋を出て行った。
「言葉通りで考えるなら、あの水撒き女は予選突破したって事だろ?」
少し魅力的な体の女の回答とオレも同意見になるな。
水女はマントをしていて腕を常に隠している状態だったから確証が得られないが
ここに来た時点で、すでに予選を突破していた可能性もある。
「だとすると、あんたエネジスを返さないといけないかもな」
「どういう意味だ?」
「大会規定の一つだよ。
決勝進出確定者は予選参加者に被害を与えてはならないし、逆に予選参加者が決勝進出確定者に被害を与えてはならないって奴。
コレに逆らうと1000万近くの罰金のはずだぜ?」
ソレは流石にオレも知っているルールだが、だとすると、あの水女はエネジスを奪われても平気だったというのか?
いや、そもそもこの規定を適応すればこのカードバトル自体無効になるはずだ。
なぜこんな無駄なゲームを水女は飲んだんだ?
・・・!!
違う!
水女とのカードバトルは「この場だけのルールの改定」でお互いに同意して行ったゲームだ。
ゲームそのものをするだけなら、お互いに被害を受ける事もないから規定違反にはならない。
それに決勝進出確定者のルールに気付いた場合、勝敗が付いていなければ
そのことを理由にして途中で勝負を止める事もできるはずだ。
だが、内容がどうであれ「勝敗が付いた時点」でルールを破れば罰金100万以上になる。
しかも今回のルールには、勝者が必ずエネジスを得る事を条件に加えていた。
そしてその結果
オレはバトルに勝ったから被害を受けてないが、水女はエネジスを失うという被害を受けている。
かといってオレがエネジスを得ることを放棄すると、今度はオレがルールを守らなかった事になって罰金を支払う事になる。
どっちにしろオレは、罰金を背負わされるという状況になっている・・・。
水女はエネジスに執着していたように見えたが、むしろその動機を利用して一芝居売ったって事か?
このカードバトルを行った理由も、最初からオレに罰金を支払わせる事が目的って事だったのか。
なんにせよ、オレはあの水女に良いようにハメられたって事だ。
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