08
ラッシュ


トリノの宿に無事に着いたオレらはというかオレは、直ぐに部屋に入るとそのまま布団に飛び込んだ。
そしてそのまま寝込んだ、ようである。


大会まで残り"3日"
我慢できなかったのか、リディはオレをたたき起こしに来たらしい。

 『眠るのは私の専売特許なのに、リッ君ときたら、まったくもう!』

何処に用意していたのか分からないが、ハリセンのようなモノでオレの体などを叩いていた。

 「どんな特許だよ。
 こっちは疲れてたんだから少しぐらい休ませてくれてもいいだろ」

 『休むにしても寝すぎですよ。丸1日以上寝てる人見たのは初めてだもん』

ま、丸1日?

 『リッ君が中々起きないから隊長は暇つぶしに町に出かけちゃうし
 リノちゃんは長期睡眠モードで喋ってくれないし、暇なんですよ、暇』

いや、暇なのは知らないけどな。

 「ジュリは居ないのか?」

 『うん。黙っていても体が鈍るって言って、トレーニングを兼ねて散歩に行くって出て行ったよ』

 「はは、そう・・・なのか。
 それじゃ、オレのマテルの話はジュリが戻ってきてからだな」

 『そんなにもったいぶるって事は、リッ君のマテルはすっごいマテルなの?』

 「何が凄いのかこの世界の基準が分からないからなんとも言えないけど、
 能力の使い所的には、あまり他人に気づかれない方が良いマテルだと思う」

 『うむ。私が見つけたエリアスターですから、リッ君は凄いマテルを持っていても当たり前かもですぞ』

その中途半端なジュリの物真似は突っ込まないでおこう。
オレが突っ込むからなんだろうけど、リディはネタを振りたがる傾向があるので
こういう時は今後も話題を変えた方がいいな。

 「トリノの長期睡眠モードは良くあることなのか?」

 『うん。たま〜に、あるね。変化している時は特に多いかも』

都合よく考えると、建物に変化している関係で色々維持するのに力を使うって設定なのかもな。
トリノにもオレのマテルについては聞きたいことがあったんだが、その状態では無理っぽいな。

 「都合が悪くなると喋らなくなるだけじゃないのか?」

 『ん?』

聞こえない振りをするのはこっちも同じか。
ジュリが戻ってくるまで少し横になっているか。
丸1日寝てたという割には、体はまだ疲れているようだ。
マテル診断の後遺症なのか、マテルを使いすぎたのか分からないが体はダルイままだ。


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トレーニングを兼ねて町に出て来ていたジュリレスターは
クラークが居るとされている換金屋近くにある雑貨屋に再び来ていた。

 「申し訳なかった。ウチには何も出来なかった」

店主にジュリレスターが謝っているのは、リクと出会うきっかけにもなった
エアポケットを盗んだ犯人(ハリネズミ頭の男)を捕まえれなかった事である。
けして窃盗犯の事を忘れていたわけではなく
ジュリレスターにとっての優先順位が入れ替わったので、捕まえるのを諦めてしまったという事にしていた。
実際は、リクに弁償することで頭が一杯になっていただけだったのだが。


 「いやいや。こちらこそ態々来てもらって悪いね。
 あれからエリア警察にも連絡はしたし、こうなった以上は彼もここには来れないだろう」

 「だが、何かお詫びをしなくてはいけないな。ウチに出来ることなら何でもやるぞ」

 「そう言われてもね・・・。
 あ、それなら一つお願いしてもいいかな?」

 「うむ。いいぞ」
 
 「この町に来てるって事は、君も大会に出るんだろ?
 例年同様だと大会中にはいくつかのエネジスを見つけるチャンスがあるはずなんだ。
 種類は問わないけど、多くのエネジスを見つけて持ってきてくれるとありがたい」

 「わかった。ウチもあるエネジスを探しているからちょうどいいぞ。
 必ず一つはエネジスを持って帰ってくる」

店主はほとんど期待してはいなかったが、
ジュリレスターを納得させて自分も得をするにはこれしかなかった。
のちにこの条件がジュリレスターの行動の足枷となるのだが、それはもう少し先の話である。


 「で、まだ用事があるのかね?」

 「うむ。ある人を探しているんだ。
 クラークとか言う人物なのだが、聞いたことはあるか?」

 「クラーク?聞いたことないね」

 「ここを一つのアジトにしていると聞いていたのだが、人違いだったようだな」

 「ウエブじゃ色んなガセ情報が出回っているからね。
 もしクラークって言う人の情報を得たら"公開"するよ。これ番号ね」

そう言って店主から一つのカードを渡された。
ソレにはいくつかの記号と数字が書かれていた。
このカードは世界各地にある【通信屋】という場所で売られており、
正式名を【レコードカード】と言い、一般的には【レコカ】と言われていた。
ちなみに通信屋とは、地球でいうインターネット専門店みたいな場所である。

レコカは最初はまっさらな状態だが、通信屋にある器具に差し込んで記号や数字を登録させることで
始めて使えるようになる。
この記号や数字はインターネットでいうURLアドレス的な役割になっており
同時に所有者のマテル性質も登録される為
仮に記号や数字が全く同じになったとしても、マテル性質によって識別される仕組みになっていた。
マテル性質がパスワード的な役割を担っているという事である。

記号や数字が登録されたレコカを使って器具に差し込むと、
器具を通じて様々なデータをレコカに登録させることが出来る。
データ登録以外にも、別の差込口にまっさらなレコカを入れる事で複製を作ることも出来るようになる。
ジュリレスターが受け取ったのは、その複製されたレコカになる。

なお、複製をレコカ所有者から受け取ると、受け取った人のマテル性質が複製カードに登録され
所有者の情報を共有できるようになる。
ただし、複製カードは所有者から渡されないと、受け取った人の情報が登録されない為
ただカードを拾ったからといって、そのカードの情報を見る事は出来ないようになっていた。

そうして共有できるようになれば、所有者のデータを見るだけでなく
所有者以外のデータを加える事も可能になる。
この加えた情報は、加えた本人と所有者以外には見れないようになっているので
複数の人が複製カードを持っていても、
情報の行き来は所有者とその人だけになる仕組みになっていた。

緊急時には使いにくいが、情報を伝達し合う手段としては最適なカードである。
共有された人がレコカの複製カードの中心を親指で一定時間押さえると
文字と画像だけ情報が浮かび上がるようになっており
カードを持っていないモノでも、共有者が居れば一応は見る事が出来るようになっていた。
なお、情報を浮かび上がらせずに頭の中に直接情報が入ってくるタイプのレコカもある。


話して分かる情報なら、携帯電話を使えばレコカを使わなくても済みそうなものなのだが
かつては、この世界中で使えるようになっていた携帯電話も
現在は繋がるとしても同じ町内でしか使えないほど通話範囲が狭くなり
さらには、マテルやエネジスによって通信電波を簡単に受信できてしまう技術も発達した為、
利用価値が下がり、退化している状況にあった。

以前、エスケの町でアレンジが携帯電話を使っていたが
それは同じ町での緊急の伝達の場合や、会話内容が漏れて良い内容ならば携帯電話で十分事が足りるためで
アレンジの場合はサーティスに会話内容が聞かれても問題なかった為、使用していたらしい。


その複製レコカを受け取って、ジュリレスターは雑貨屋を出て行った。
リクであれば、カードを無償で得た事に疑いを持ったであろうが
彼女はソレに何の疑いを持ってもいなかった。



ジュリレスターを見届けたあと、店主は意味ありげな顔を浮かべて奥の部屋に入って行った。
そこは唯一2階へ行ける階段があり、店主はゆっくりと上って行く。

 「彼女はボクに用事がアッタのでは、ないのカナ?」

そこにはジュリレスターならば見覚えのある黒マントの男が珈琲片手に寛いでいた。

 「あぁ。お前を探していたようだが、そのメレオンに関係ある女ってことか?」

 「ボクは"昔"の事を覚えている程、暇じゃナイよ」

黒マントの男とは、ウエブの城からメレオンを盗み出した張本人のクラークである。
珈琲が入っているカップをテーブルに置くと、その横に何色にも輝くエネジスを手に取った。
ソレこそがメレオンである。

 「ボクはエネジス自体には興味はナイんだ。
 様は、この価値。ダイアとシテノ価値。それだけダよ」

 「ダイアを稼ぐだけなら、こんな大会に出る必要もないだろうに」

 「労をセズに手に入レたダイアには、興味はナイよ。
 こう見えテモ、ボクは正統派ナンダよ」

正統派の使い方を間違っているのだが、店主はあえて突っ込みをしなかった。
そういう性質のクラークを好んでおり、ジュリレスターの様な性質がはめられる様を愉しんでいたからである。

 「ところで、お前のメンバーの話だが」

 「キノウ、会って来まシタよ」

 「あのマスターなら、お前に最適だと思うが問題はなかったか?」

 「エェ。話の分かるヒトデしたよ」

 「それは何よりだ。是非、大会を愉しんでくれよ」

 「アリガトウ。結果を楽しみにして下サイよ」

クラークはそう言うとメレオンをテーブルに戻すと
再び珈琲を手に取って一口飲んだ。
その状況を店主は不気味な笑顔で見守っていた。


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オレはマテルの使い過ぎだけが原因とは思えないほど睡魔に襲われていた。
今日も半日は寝ていたようで、気がついた時にはジュリが普通に帰ってきていた。

 「ようやく目が覚めたようだな。リク」

 「あ、あぁ。ジュリ帰ってたのか」

 『帰ってたのか、じゃないのですよ。リッ君。
 いくら暇だからって寝て過ごす日々じゃ、働くのが嫌な大きな大人じゃないですか!』

寝過ぎのは流石に自覚してるけど、大きな大人って何の事だ。
小さい大人っていうのがこの世界にはあるって事か?
わけが分からないな。

 「リディに突っ込まれてもしょうがないぐらい、確かに寝てたな。
 どうも能力診断が終わってから体の調子が良くないようだ」

 「リクは、診断以外にも何かされたのかもな」

ジュリは冗談で言っていないだろうから、本当にそんな気分になってくる。
マルティの診断の時の言動も意味深長な所があったし
なんだかのペナルティがあったとしても、別におかしくはないのかもしれん。


 『3人そろったところで
 それじゃあ、リッ君のマテル発表のコーナーの始まりですね〜』

これは何かの番組なのか?
慣れては来たが、リディのこのノリにはやはりついて行けないな。
矛盾的な考えだとは思うが、一方で気が楽になる効果もあるのは否定しないけどな。

 「いや、そんなに珍しいマテルじゃないと思うが、
 オレのマテルは簡単にいうと"解除"することが出来るモノだ」

 「解除・・・か?」

 『へぇ〜・・・』

オレにとっては意外な反応だったのだが、二人共それぞれ考え込んでいる表情をしていた。

 「目を覚ましたり、鍵を解除したりする程度のマテルだぞ。
 そんな珍しくもないように思うんだが?」

 『うん。珍しいマテルじゃないんだけど・・・ちょっと拍子抜けした・・・というか』

 「ウチには相性の悪いマテルかもしれないな。
 ウチは造形のマテルだから、解除されると元の物質に戻る可能性もあるからな」

どうやら二人ともそれぞれに理由があっての反応だったようだ。
リディはどういうマテルを期待していたのやら。

 「そういう使い方はしたこと無いけど、一度試してみる価値はありそうだな。
 ジュリ、試しに何か造形してみてくれ」

机にあったボールペンをジュリが持つと、それが短剣に変化した。
ソレを見てオレは、その剣に手を触れて解除のマテルを使ってみる。

 「む・・・」

ジュリの予想通り短剣が解除されたが、ボールペンに戻ることはなく
プラスチックの様な欠片がジュリの手元付近に落ちていく。

 『隊長も・・・リッ君も、面白いマテルだね・・・』

リディの言葉が少し歯切れ悪いように聞こえた気がしたが
ソレよりも自分のマテルでの変化の方が気になった。

 「これは、変化させたモノを解除しても、元の製品に戻るわけではないようだな。
 そして、物質を解除させるだけでなく、おそらくマテルの効力も解除出来るって事だな」

こう結論つけたのには理由がある。
エスケでのサーティスとの戦い、ソコで出てきたブレイカーという剣での攻撃を
切り傷だけで防いだ理由がこの解除のマテルだろう。
ブレイカーの持つ吸収したエネジスの力を解除できたから、切り傷だけで済んだ。
そう考えればあの状況は納得できる。
あと、サーティスが保管していた巨大な水のエネジスに手を突っ込む事が出来たのも
この解除のマテルが要因だろう。

戦闘向きではないが、オレの気持ちを代弁してくれているマテルと言える。
この世界から元に戻りたいという気持ち。
移動するマテルは使いこなせないという結果から生まれたマテルなんだろうと言えるな。
06エリアと呼ばれているこの作られた世界を抜け出す為に。


何度でも繰り返すが
やはり無茶苦茶で、ご都合主義な世界で、そしてマテルだ。

戦いの為のマテルであるジュリの【造形】
案内の為のマテルであるリディの【移動】
そして、
補助的役割のマテルだろうオレの【解除】

この3つのマテルで大会に挑むことになった。
優勝できるかは未知な部分だが、それでもオレに迷いはなかった。
賞金以外にもエネジスを見つけ出せれば、それを換金してダイアを集めることはできる。
受付時にルールブックのようなモノを見た所では、命に係わる行動は出来ないようになっているようだしな。
単純にイベントとして挑めるようになっているのは、オレにとっても助かる。


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大会当日。

トリノから封筒を取り出して、オレ達3人は大会が行われる銀色で円柱の建物へ向かっていた。
ウエブの町の一つ【ラッシュ】で行われる「ダイア・トゥ・マスター」で賞金を得る為に。

以前同様、5つの入り口があったが"中央突破"という理由で、やはり真ん中の入り口から入る。
入るとソコには受付を行った時より圧倒的に少ない人数の集団がたむろって居た。

 「む。この少なさは封筒を奪われた人が居ると言うことか?」

 「まだ到着していないだけかも知れないが、ジュリの予想通りだと思う」

 『それでも1000人ぐらいは居る感じがするけどね〜』

リディの人数把握能力の酷さは置いておくとして
見た感じだと200人は居ないように見えた。
受付の時はソレこそ会場の外も含めると1000人以上は居たのは間違いないので
明らかに参加数が減っている。
今日に至っては外に待機している人は皆無である。

オレ達がある意味平和に5日間を過ごせたのとは別に、既に予選は始まっていたという事だろう。
この封筒を持って来れなければ大会に参加することが出来ないわけだから。


少しすると時間になったのか5つの扉は全て閉められたようだ。
ようだというのは、他の4つの入り口はこの場所から見ることが出来なかったからである。
そういう意味では全ての参加人数を把握出来ていないわけで、
リディが言っていた1000人ぐらい残っているというのも実は間違っていなかったのかもしれない。

人が居てよく見えなかったが、奥の方に扉があったようで
ソコからなにやらキャスターつきの台に乗せられた機械を、青い制服を着た人が運んで来ているようだ。
どうやら、大会についての説明を始めるらしい。

 「まず一人ずつ、このスキャナーに封筒を入れて下さい。
 スキャンされた封筒の中にはこの大会に使うカードが入ってます。
 ソレが予備予選の参加資格証になりますので、けして無くさないようにして下さいね」

予備予選・・・。
どうやら、これは予選ですらないらしい。
オレ達は締め切り時間終わりごろに到着した為、出口に近い所で待機する形になっていた。
スキャンが出来るまで結構時間がかかりそうだ。


 「む。これは、のんびり待機していて良いものなのか?」

 「確かに人数もいるから、全ての人がスキャンすると相当時間を食うだろうな」

 『じゃあ、私は先にスキャンしてもらうよ〜』

変な意味で和やかな空気を割り込もうと、リディが動きそうだったため
一応、止めておいた。

 『でも、リッ君。受付は早い事に越した事はないと思うよ』

 「リディの言うことに一理あるが、割り込みはマナーとして良くないだろ?
 それにこの人波に割り込めるだけの余裕もないしな」

 「道を作ればいいのだろう?それなら、ウチが切り込んで・・・」

 「待て待て。リディよりソレはまずい」

今度はジュリを抑える形になったが
ソレを見てなのか、近くにいた一人の男が不気味な笑みを作る。


 「そろそろだな。予備予選に出るための予選がな」

 「どういう意味だ?」

 「ソコの二人の女の子の行動が正解って事さ」

その言葉の瞬間一つの長い笛が響く。
まさかこれでおしまいって事はないだろうけども、嫌な予感がした。

 「残り10分で締め切ります!!」


おいおい。ちょっと待て。
まだ100人以上はこの会場に残っているぞ。とても
10分じゃ終わらない人数だ。
受付時間で切られるなんて最悪な終わり方だぞ。

 「リク。このままだと時間が無いぞ」

 『強行突破するしかないよ』

二人は勝手なことを言っているが
この後のことを考えると、強行っていうのは後々に影響を受けそうな気がする。

 「心配ないさ。そのためのマスターなんだろう?」

オレの考えを読んでいたかのように言うと
不気味な笑みを残したまま、その男はオレ達の前からいなくなった。

また、マスターかよ。
マスターってこの世界のなんなんだ。
と、考えているオレを無視するように、行動に移した奴がいた。
オレとジュリを捕まえて、そいつは笑った。

 「だから、早まr・・・」

オレの言葉が終わるよりも早く、リディの「移動」のマテルが発動していた。


一瞬で会場が騒がしくなる。

そりゃそうだ。
突然、スキャナーの前に3人が飛んできたからである。
正確にはリディだけは空間移動しているので、オレとジュリが飛ばされたということになるのだが
それでも騒ぎになるには十分な行動だった。

 「おいおい、何割り込んでるんだよ!」

 「そういう実力行使なら、こっちの得意分野だぜ?」

明らかにソレ系の人達がオレら3人に殺意を向けている。
その雰囲気でジュリも抗戦態勢に入ろうとする。
オレは戦いの殺気に圧されてこの場で何もできなかった。
当の犯人のリディといえば
あきからに怖がっている振りをして、ジュリの後ろに隠れている。


 「入れてやんなよ。その子マスターだぜ?」

その殺気立った空気を変える言葉を発したのは
先程の不気味な笑みの男だった。

すると、先程まで好戦的だったソレ系の人達もすっかり大人しくなった。
不気味な笑みの男が何かをしたとは思えないから、
やはり「マスター」が関係してるんだろうな。
リディを見て、何人かはしょうがない的な事を言っているように見える。

この世界のマスターって呼ばれるモノはよっぽど優遇された存在って事らしいな。
リディが優遇的な扱いを受けているというのは、以前のトリノ話などで分かっていたが
ここまで来るとよっぽどだ。
しかし、今までもそうだが、リディを見ただけでマスターだとわかるというのも何かしっくりこない。
珍しいアイテムを身に着けているわけでもないので、顔で判断しているとしか思えない。


 「おい。マスターって一体何なんだ?」

 「ん?面白いことを聞くね。
 たぶん君は新種なんだろうけど、マスターはマスターだよ。
 替えのきかない存在という人ではあるだろうけどね」

トリノやジュリの時と同じような返答だな。
そして、そのまま奥の部屋に消えていく。
気が付いた時には、なんだかんだでこの不思議な笑みの男とその仲間らしきな人が
オレ達の前にスキャンを終わらせていたようだ。

思いっきり強引ではあるが
マスターのおかげでオレ達も予備予選に出ることができる形になった。
そして、一気に注目を浴びるチームにもなったようだ。




先程の男達同様に、奥の部屋にオレ達は入った。
そこは小さなホールの様なつくりになっており、スキャンを終えたと思われる人達が集まっていた。

 『フフフ。これも全て…計算通り』

当の本人は空気を読まない勝ち誇った台詞で満足しているようだった。
だが

 「マスターだから、強引に入っても問題ないと思ってたのか?」

 『そ、そんなことないよ。マスターって私もいまいちわかってないし』

 「わかんないって、どういう事だよ」

 『女の子には言えない秘密が沢山あるんだよ。だから秘密〜』

 「ふざけるなよ。
 間違えたらあの場で無駄な戦いをする事になってたんだぞ」

変に悪意を感じないリディの言動でオレは逆に頭にきていた。
周りの人がこちらを見ていることもお構いなしに畳み掛けようとしていた。
手をあげる性格じゃないモノの、今回の件はさすがに我慢できなかった。

 「リク、落ち着け。
 あの場で待っていたら、この予選すら出ることが出来なくなる所だったぞ」

 「それはそうだろうけど、もう少しやり方があるだろう?」

 「ないな。
 リクはこの大会の事をどう思ってるか知らないけど、先に残るためには争うことも必要だ。
 まして、賞金がかかってる大会だからな」

ジュリまでそうなのか。というよりこの世界がこうなのか?

 「リクはきっと平穏な町で育ったんだろうな。
 ウチはそうじゃなかったし、この大会もそうじゃないって事だな。
 盗賊でも、凶悪犯でも、身元不明でも参加できるのがこの大会の売りでもあるからな」

どうやら、オレの考え方が甘いって事を言いたかったんだろう。
確かに、死に繋がらないという点で、それほど緊張感を持ってここに来ていたわけじゃなかった。
ただ、何でもアリじゃ、それこそ凶悪犯とかと同じレベルになってしまう。
それだけはオレは嫌だった。

 「それは、自分だけが良ければって事か?
 仮にそれが大会の本質だとしても、オレはそんな行動は遠慮するぞ」

 『リッ君。ここで言い争ってもかえって目立つだけだよ。
 みんなこっち見てるよ』

いつもの調子じゃなかったリディを見て、一瞬我に戻る。
確かに周りのほとんどがこちらを見ていた。
しかし、この気持ちのモヤモヤが消えることはなかった。

リディとジュリの方を向くことなくオレはその場は少し離れた。
リディが追いかけようとしたようだが、どうやらジュリが止めたようである。

確かにオレは出来た人間じゃないし、いい子になっているっていうのもわかる。
だからと言って一定のルールっていうのがあるはずだ。
ここが作られた世界だからといって、それを無視するのは人としてダメだろうと。
それを無視しないと手に入れられないダイアであるなら、いっそのこと予選落ちでも構わない。
別の方法でダイアを集める事もこの時だけは真剣に考えた。


 「大した事じゃないのにな。早くマスターのところに戻った方がいいよ」

いつの間にか先程の男がオレの横に付いていた。

 「ここじゃそういうルールも守れないのが普通って事か?」

 「いやいや。そこまで目くじら立てる事じゃないだろって話だよ。
 どうも、君は自分の臆病さをマスターの行動で誤魔化そうとしてるように見えるなぁ」

 「この場合、臆病かどうかは関係ないだろ。
 あれだけ人がいた状況で、割り込んでここにいるって事が人としてどうなのかって事だ」

正直、この男に当たってもしょうがないのだが、
モヤモヤをぶつけないと自分がどうにかなってしまいそうだった。

 「順番通りスキャンをするっていうルールなんてなかったはずだよ。
 きっと君は、順序が乱れるとそれに対して抵抗したりする人が出てくるだろう。
 そうなると、その人と対応しないといけない。
 そうなると、無駄に争いをすることになる。
 相手が自分達の出場を遮るマテルを持っているかもしれない。それなら戦わない方が得だ。
 人としてのルールを守ったんだから、負けてもしょうがないよね。
 君の考えてることは、こんなところかな?」

 「・・・ソレのどこがいけないんだ?
 そんな無理をしてまで、不利になる状況で予選を出ても周りから潰されるだけだろ?」

 「さぁ?それは出てみないとわからない事じゃないかな。
 確かに君の行動を間違ってるって言う人は少ないと思うよ。
 でも、それだけ終わりだ」

この男は何が言いたいんだ?
わざわざ説教しにオレに近づいたのか?

 「マスターには割り込んででも、君達をこの予選に進めたい気持ちがあったんだじゃないかな?
 自分が悪役になってでもね。
 君は、きっと自分だけしか考えていないだろう?」

自分だけで何が悪い。
この作られた世界を抜け出すためなら、何を言われようとも・・・

・・・。

何を言われても、何をやっても構わない・・・ってか?

矛盾してるって事はわかるけどさ・・・。
オレはもともと一本筋の通った真面目な人間じゃないからな。
都合よく考えてしまうのは仕方ないさ。


 「あのマスターは君の考えてる事なんかお見通しなんじゃないかな?
 人は自分の都合の良い時だけ動いてくれるわけじゃないよ」

この男の話は明らかに話の本筋を変換した、ただの屁理屈だった。
だったら、それならルールを破ってまでリディはオレ達の為に動くという事だったのか?
いや、それはないはずだ。
むしろ、戦いをけしかけるだけのような気がする。
現に割込んだ時にはジュリの後ろで何もしてなかったわけだし。

 「お前が"マスター″をどう見てるか知らないけど、買いかぶりすぎだろ。
 あいつは何も考えてないで突っ込んだだけだ」

 「そうなんだ。マスターの事をよく知っているんだね」

知っている?いや、ほとんど知らないな。

この男のいう通り、オレは自分の事で精一杯で
周りの人がどうとかそんな事を考える余裕なんてなかった。
いや、考えようともしてなかった。
それでも、リディが何かを考えて割り込みをしたとは考えられない。
あいつはただ、早くスキャンを終わらせようとしただけだ。

だが、それは何のためだ?


 「君達には少し期待してるよ。また会おう」

捨て台詞の様な事を言い去って男はその場から居なくなった。

オレ一人ではここまで来れなかったことはわかる。
でも、だからと言ってやり方というのはあるはずだ。

ぐちゃぐちゃした頭のまま、体だけはマスターの方に進んでいた。


再び二人の前に戻ってきたが、オレは何を言うわけでもなく無言でそこに座った。

 『おかえり〜。何か目ぼしい情報でもあった?』

リディに顔を向けるわけでもなく、返事をするつもりもなかったが
口元だけはなぜか緩んだ。

 「お前・・・本当に空気読まないのな」

呆れる様に勝手に言葉が出た。
そして、それでなぜか安心してしまった。

 『突然、ここにきて説教をはじめちゃう人には言われたくないなぁ〜』

 「だからそれは、お前が」

 「リク。リディはああ言ってるけど結構反省していたんだ。
 ウチは問題ないけど、リクには迷惑をかける結果になったってな」

視線をリディの方に変えたが、リディは照れくさそうに顔をそむけた。

 「今更、リディの行動に突っ込む気はないけどさ・・・
 もう二度とああいう軽率な行動はやめてくれ。
 オレは争いになっても守れる余裕はない。自分自身で精一杯だ」

 『うん知ってるよ。それに今は隊長もいるから大丈夫』

 「うむ。リクもウチが守るから心配するな」

 「あ、いや。それはだな・・・」

オレも"照れくさくなって"それ以上言葉にするのをやめた。
ぐちゃぐちゃになった頭の中は相変わらず何も変わっちゃいない。
というか、これじゃ情けない男宣言しただけじゃないか。

普通のマナーを自力で守る事すら出来ない
ただの、ダメな男だな・・・。




 「それでは、これで受付を終了します。
 各人、封筒の中にあるカードを確認してください」

どうやら、受付が終わったらしい。
あれから10分以上はとうに経っていた気もするが、今となってはどうでもいい。

 『フフフ。リッ君
 あの説明の人、中々やるね』

 「何がだ?」

 『各人(かくにん)と確認(かくにん)って。
 これはダジャレだよね〜』

 「いや・・・
 なんか変な言葉だと思ってたが、それは正しく読むなら各人(かくじん)と確認のはずだ。
 あの説明の人が、おかしな言葉を使っただけだろ」

 『だからですよ。わざと読み間違えて、ダジャレに使う。
 中々高度な技ですよ〜これは』

いや、どんな技だ。

というかリディの奴、駄洒落にこだわりでもあるのか?
やはり、変な女だ。


 「33のFのFの13と書いてあるな。リク達はどうなっている?」

ジュリは早速封筒を開けていたらしい。

 「ジュリ。その最初の記号は階数だな。
 オレは35のF。つまり35階。ジュリは33階という事だな。
 後の記号はおそらく、席順みたいなものだろう。
 この大会はチーム戦と言いながら、チームのメンバーがそれぞれ分かれて予備予選が行われるって事だろうな」

 『私は30のFだね。
 ほんと、みんなバラバラになるみたいだね。
 リッ君大丈夫?』

 「・・・何がだ?」

 『隊長の護衛とか無くて大丈夫?』

 「お前・・・本当に怒るぞ」

言葉と裏腹にオレの目は笑っていた。
リディはそれを見てほっとした表情をする。

 「リク・・・。ウチは何もできないが頑張るんだぞ」

ジュリはジュリで、本当に心配しているようだ。
まったく、何時からオレはいじられキャラになったんだ。

 「二人ともいい加減にしろよ・・・。
 こうなったら意地でも優勝するからな。いいな」

 「うむ。ウチは最初からそのつもりだぞ」

 『もちろんいいよ。
 まぁ、私がいるから優勝は大丈夫だと思うけどね』

ジュリは心強いが、根拠のない自信のリディはいつも通りアテにはならない。
ならないんだが、今回ばかりは感謝するしかなかった。


 「む。これは【レコカ】なのか?」

ジュリはカードの真ん中を触りながら聞きなれない言葉を言っている。

 『そうみたいだね。
 って、隊長はレコカ持ってるの?』

 「うむ。最近手に入れたぞ。
 レコカという事は、このカード自体に情報が入ってるということだな」

どうやらコレもこの世界の新アイテムのようだな。

 「レコカってなんだ?」

 『リッ君は知らないんだね。簡単に言うと情報が入ってるカードだよ』

それはジュリも言っていた気がするので、当然の事ながらもう一度ジュリに聞き直す。
そして、今度はレコカの大体の内容を把握した。

 「ここで見ない方が良い内容もあるかもしれないが
 一応このカードの中身を見てみるか?」

 『うん。というかすでに隊長が見てるよ。リッ君』

そうだろうな。とは思ったが改めてジュリの方を向いた。
そこにはカードの上にホログラムのようにこの建物の画像が出てきており
現在地を示すのか、1階部分あたりが他の画像と違う色で光っていた。

 「うむ。これは地図代わりになりそうだぞ」

地図・・・か。


ジュリのレコカの話では出て来なかったのだが
オレはある可能性を感じて3人のカードを、それぞれが触るように指示する。
ここで試しても意味がないので、確認はそれぞれの階数に移動してからにする事にした。

ジュリの説明だと
所有者とそのカードを持っている人以外の情報は、そのレコカには入らないようになっているみたいなので
3人が3つのカードに触る意味は結果的に無駄かもしれない。
かもしれないが、可能性は色々試してみた方がいい。
なにふり構っている余裕は今のオレにはない。


 「そこに書かれている階数で予備予選を行います。
 私の後ろに直通のエレベータが用意してありますので、ご利用ください。
 なお、ここに来ている皆さんならご理解しているでしょうけども、予備予選はすでに始まっております。
 無事に会場に来ていただけるようお願いします」

受付のモノがそう言うと壁を軽く押す。
するとただの壁だったはずの場所に、30Fから39Fまで書かれた入口が現れた。

にしても、あの説明だとエレベーターの密室で何をしてもいいですよって言ってるようなもんだな。
そんな危険を冒してまで楽に進もうとは思わない。
エレベータの一番左側に時間はかかりそうな階段らしきなモノも出ていたけどな。


結果から言うと、どちらを選んでも同じ事だ。
時間はかからないが密室で逃げ場がないエレベータと
時間がかかるがそれなりに逃げ場はありそうな階段。

階段は万が一狙われても避けることもできるだろうが、持久戦になる可能性がある。
エレベータは逃げれないものの少し耐えきれば会場に着くことができる可能性がある。

どちらを選ぶかというと、オレは慎重派だ。

なので"階段一択"しかなかった。
もちろん地道に階段を上るなんてベタな事はしない。

 「リディ、ジュリ。一応言っておくがエレベータは選ぶなよ」

 「うむ。体力勝負ならうちの専門分野だな」

 『え〜。私は楽に行きたいんですけど〜』

やはり、この二人は何も考えてない。

 「こういう時に使えないなんて、リディの移動も大したことはないな」

 『ん?
 言っちゃったね。ついにそれを言っちゃったね。
 私が本気を出したら、ビックリしちゃうよ?』

 「あぁ。それで頼む。あと・・・」

またしてもオレのセリフを聞き終える前に、再びオレとジュリを捕まえてそいつは笑った。

先程の平行移動と違って今度は垂直移動も絡むんだが、リディはわかっているのか?
オレとジュリはロケットのように突き飛ばされるって事になるんだが。

まず一度、階段まで瞬時に移動する。
そこで直ぐに上を確認して、間髪入れずに上に突き飛んでいく。
平行移動と違って、地面がなくなるこの移動感覚は恐怖の方が大きい。
実際リディがオレら二人をものすごい力で上に投げ飛ばしてるようなものだからな。
地面に着陸できなければ1階に墜落してしまう。

ただそこは移動のマテルを持ってるリディだから、
オレもジュリもきちんとそれぞれの階に降りるように突き飛ばしているはすだ。
・・・はずだと思いたい。


期待は見事に外され、3人とも同じ階に到着する。
それでも地道に階段を上らなかった分、無事に会場には着けそうではある。
それにしても、突き飛ばしたわりには着陸の時に足の衝撃をほとんど受けないのは
移動のマテルの力が影響しているという事なのか?

 「リディ、ここは何階だ?」

 『とりあえず30階だよ。リッ君はもう5階上らないといけないけど、もう一回飛んでみる?』

 「手元が狂うとかないよな?」

 『う〜ん。垂直移動は100%成功ってものじゃないからね。
 今度は失敗するかも・・・』

 「・・・嘘だな」

 『うん。大嘘。でもリッ君は自分で行く気してるでしょ?』

 「まぁな。少しは運動をしておかないとな。
 すでにジュリは33階に上ってるみたいだし」

 『あれ?いないと思ったら隊長早いね』

ジュリが33階に行った事を確認したのち、自分のレコカを取り出してみる。
親指で中心を押さえ見ると、やはりこの建物のホログラムが出ており
上の方で違う色の光を見ることができた。
微妙に2つあるように見える。

おそらくだが、これがオレとジュリの居場所を示しているはずだ。
3人が3つのカードを触った効果なのかはわからないが
これで離れていても場所だけは確認できるはずだ。

 『この光は私たちの居場所って事だよね?』

 「あぁ。これで再会するのも簡単に出来るだろうな。
 あと5階もあるからオレは行くぞ」

 『うん。気を・・・』


階段に背を向けていたオレには見えなかったが
リディはソレを見てオレの腕を引っ張った。

 「お、おい。何を」

振り返ったオレが見たのは、轟音と共に35階あたりから下の階段全てが崩れ去っていく光景だった。
先程まであった足場も崩れ去っていた。

 『あら〜これじゃリッ君、35階に行けないね・・・』

 「・・・な、なんだよこれ。
 っていうか、何を他人事みたいに言ってるんだよ」

 『だって他人事だし〜
 って嘘だよ。
 それに崩れてない所から見るに、この階段を崩した犯人は35階に居るとみるよ』

冗談はさておき、確かにこれはリディの言う通りだ。
単純にリディの「移動」で35階に行った所で、そのあとで何かのイベントが待っているのは必至だ。

 「だが、行かないと会場に行けないからな。
 飛ばしてくれ」

 『私も行くよ』

 「いや・・・いや、頼む」

 『アハハ。
 それはどっちの"いや"ですか〜?
 逃げる時には何時でも準備できるからね』

 「逃げること前提で話を進めるなよ。
 もちろん無駄な戦いはしないけどな。オレは慎重派なんでな」

 『オッケイ。じゃあ行くよ』

オレは三度リディに飛ばされて、目的地の35階に着く。
予想通りというべきか、そこには一人・・・いや
二人の人物がこちらを待っているかのように立っていた。






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