07
【エントリー】
酒場の件から数日後。
「ダイア・トゥ・マスター」出場者の締切日。
ウチは「メレオン」を奪った賊であるクラークの居場所の情報を掴んだ。
大会に出場すれば会う事は容易だろうけど、ウチはそんなにゆっくり待てる性格じゃないな。
見つけて「メレオン」だけでも取り返さないと、気がおさまらないぞ。
そんなわけで、換金屋近くにある雑貨屋にウチはいる。
ここにクラークとその仲間が居るとの話らしいんだ。
とりあえず出入り口に立って、周りの人物をよく見てみることにした。
が、
これといった怪しい人物を見つけられないまま時が過ぎていった。
今日はもう諦めようかと思った頃、そこにハリネズミのような頭をした一人の男が入ってきた。
男は商品に目をくれずそのまま会計場に向かったかと思うと、少しして店員と何やら言い争いをしはじめた。
「用意出来てないとはどういうことか?」
「えぇ。ですから、まだこちらには入荷していないものでして・・・」
「今日までに入荷してもらうように予約しておいたんだぜ?
その理屈はおかしいだろ?」
「申し訳ありません。こちらの手違いで入荷が遅れてしまったようです」
「じゃ、このエアポケットでいいわ。ブツが来るまでこれを代わりに借りとくわ」
ハリネズミのような頭をした男はソコにあった商品の一つであるエアポケットを手に取ると、
ダイアも払わずそのまま立ち去っていく。
「ちょ、ちょっと、お客さん困ります!」
出入り口でクラークを探していたウチの前に、慌てて走ってきた店員が現れた。
「む?何かあったのか?」
「今出て行った男が、商品を持ち逃げしたんですよ!」
「今という事は、ハリネズミのような頭をした男のことだな。
うむ、わかったぞ。ウチが捕まえてくる!」
何かを言っていた店員の返事を待たずにウチは外に飛び出していた。
左右を見渡して、右を再び見るとその男が50m先を歩いていた。
「ソコの窃盗犯止まれ!」
周りの人物が一気にウチの方を向いた。
その男はウチの声に反応すると、すぐに状況を把握して走り出した。
「逃がさんぞ!」
ウチは自慢じゃないが、長身のわりに短距離の加速には自信があるんだ。
少々の人混みはあったけど、その男との距離をあっという間に縮めた。
その速さを見てか、男は私に追いつかれる寸前でその場に建っていた換金所の中に逃げ込んだ。
苦肉の策と言うべきか、これははっきり言って袋の鼠だぞ。
中に入ると、男は室内の右側にある階段を上りきりかけていた。
上に逃げたところで逃げ場が減るだけだと思うんだけど、こちらを見てうっすらと笑うと、振り返って走り出した。
ウチにはその笑みの意味が理解できなかったけど、本能で逃げ切る策があると感じて
脆くなって外れかけていた階段の木製手すりを一部掴み取ると、急いで2階に駆け上った。
その男はすでに廊下中間部まで逃げていたが、
ウチは手すりを造形し、その男の動きを止めるために木の槍を伸ばした。
何かを貫く感触が手に伝わり、これにて御用になった
・・・はずだった。
その瞬間
男は何かが伸びている事に気がついていたのか、こちらを振り返らずにギリギリの所で槍を避けたのだ。
その代わりに貫いたのは、ヒョウタンのような形をしたエアポケットだった。
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数時間前
ナビ職であるトリノに乗せられていたリクとリディがウエブに到着した。
変形を解いてまたクルクル回っているナビ職とリディは"いつも"の会話をしている。
『思ったより早く着いたね〜。リノちゃん結構飛ばしたんじゃない?』
「予定通りだな。
というよりも、リディが時間を計算していたとは思えないけどな」
『心外だなぁ。私は移動に関してはプロなんですよ。プロ』
「あぁ。移動に関してだけだな」
『今日のリノちゃん、突っ込みきっついですなぁ〜。
やっぱり疲れてる?』
・・・というようなアホな漫才をしている二人を無視して、オレは換金所を探していた。
まずはダイアを手にしないと始まらない。
ウエブの町での金稼ぎ、通称「ダイア・トゥ・マスター」というモノに出るには10万ダイアが必要らしい。
だが、優勝すれば1人1000万ダイアが貰えるらしく、出場は3人1組なので総計3000万ダイアになる。
換金額次第では出場するかどうかを考え直そうとは思っているが
お金は多い事に越したことはない。
オレが換金しようとしているのは、
エスケの町でアレンジから水問題の報酬の前払いで貰った【ジュエルリング】である。
そのアレンジはエスケで命を落としてしまったので、本来の報酬である100万ダイアを貰い損ねていた事を今更思い出したが
後味が良くない結果だけに、気がついていたとしても貰う気分にはならなかっただろうな。
06エリアと言われてるご都合主義な世界とはいえ、数日経っても、人が死んだ事のショックは忘れられないモノがある。
ここが現実の世界だとは未だ心奥では信じていなかったけども、"実際"を見てしまうと、ソレはとてもリアルに感じ取ってしまっていた。
ゲームや漫画のキャラクターがフェードアウトするような感じにはなれなかった。
そのせいか、リディとナビ職のやり取りもどこか別世界の映像に映っていて
"漫才"に関わる気分にならなかったというのもあった。
『・・・って、リッ君聞いてる?』
考え事をしているオレの所に、痛みと同時に声が響いてきた。
「何の話だ?
と言うか叩くなよ」
『あら〜上の空ですか。
あのですね。一昨日言ってた"能力検定"をしに行きますよって話しをしてたんですよ』
「あぁ。このウエブにはオレの得意マテルを調べる所があるって話だったな。
・・・って、待て待て。
確かソレもダイアが必要だって話もしてたよな」
『そうですよ。
リディ銀行さんがご融資いたしますよ〜』
「だから、ソレは遠慮するって言っただろ。
まずは換金所に行くぞ」
『ん?リッ君は換金するアイテム持ってるの?
ま、まさかエスケの町からエネジスを盗んできたとか?』
「リディはそんなにオレを犯罪者扱いしたいのか。
エスケの町に居た時点で犯罪者の疑いがかけられてた状況なのに、そんなことする余裕があるわけ無いだろ」
『盗みは冗談だよ〜。
でも、リッ君って正義の味方って感じでもないよね〜』
・・・この女、ケンカを売っているのだろうか。
今更リディに突っ込む方が野暮ってモノだけどな。
でも、指摘自体は確かに間違ってはいないな。
正義を振りかざすほどオレは誠実に真っ直ぐに生きてきたわけじゃない。
なんとなく生きてきて、その結果、世界が白黒にしか見えてなくて
こういうふざけた世界に居るのは、オレの現実逃避の部分が現実化しているのかもしれないな・・・
なんて、おかしな事も考えたりしていた。
夢なら早く覚めて欲しいとか、ありがちな思いと共に。
「換金するのは、ある所でダイアになりそうなモノを見つけただけだ。
10万ダイアになるかわからんけど、それでも借りを作るよりはマシだ」
『とことん意地っ張りですな〜。
い・い・ですけど〜』
「で、換金所はどこだ?」
『う〜ん。
で、換金所はどこですか?リノちゃん』
・・・で、結局知らないのかよ。
色々なんだかんだで、数時間後にナビ職の案内で換金所に到着した。
この町は今までと違い、それほど違和感を覚えていなかったのだが
それは、この町が一番地球に、つまり、オレが住んでいた世界に近い感じがしたからだ。
機械的な町並みとか、ホログラムのような映像物体やナビ職だと思われる走る物体はやや未来的に感じたけど
それでも少し発展した地球という印象だった。
おかしな話だが、ご都合主義の世界に来て初めて落ち着ける町という感じがしていた。
『リノちゃん、案内終わったらオネム状態みたいだね』
「休息する前にココを案内してくれただけでも助かったよ」
『んじゃ、リノちゃんの代わりに私が説明するね。
ここは1階と2階で分かれてて、2階がリッ君の目的の換金所。
1階はマテル補給所になってるんだよね』
場所は知らなかったくせに、そういう情報だけはしっかり覚えているんだな。
「その、マテル補給所とは何だ?」
『う〜ん。ブレイカーとかにマテル能力を吸収させる場所って感じかな?』
確かブレイカーといえば、エスケの町でサンタことサーティスが持っていた短剣のようなモノだったな。
オレはその剣の刃を直接掴んで手に切り傷を受けた"程度"で済んだが
本来はエネジスの力を吸収しているモノなので、それだけで済まないアイテムらしい。
「この補給所はどの町にもあるものなのか?」
『いんや。
マテル禁止地区にはまずないし、正式に補給所として店を開いているのはそんなにないらしいよ。
エリア警察が管理しているらしいから、そういうのが苦手な人は店を開けないみたいだしね』
「禁止地区に無いのはマテル使用に絡んでくるからか。
というか正式って事は、認可されてないところもあるって事だよな」
『その通りですよ〜。
じゃあ、私は換金するもの無いから1階で補給してるね〜』
「って事はリディはブレイカーを持っているのか?」
『フフフ。女の子の一人歩きは危険ですからね。
護身用に持っているのですよ。これが』
リディの場合、移動のマテルがあるんだから使う機会が無いような気もするんだが
マテルに関してもだが、やはり何かを隠してるくさいな。
ソコを突っ込んでも、のらりくらりとかわすだろうから、聞くだけ無駄だろうけどさ。
というわけで、リディとナビ職と別れて2階へと上った。
この換金所の建物には入り口が北口と南口の2箇所あって、オレは北口から2階に上った形になる。
2階には手前、中間、奥に3箇所ぐらい部屋があるが、換金所にあたる部屋は中間がそうらしい。
途中、南口の方つまりは奥の方から走って来た人物がいるが、室内では大人しく歩いて欲しいもんだ。
奥の方が騒がしいからソレも関係してるのかもしれんが、構わない方が良いだろうな。
換金をするため、ジュエルリングが入ってる【エアポケット】を取り出したその時
こちらに向かって来ていた男が不意に横へ移動し、オレは妙な衝突音を聞くことになった。
それはエアポケットが見事に木の槍に貫通された音だった。
木の槍の元には、長身長髪で黄色をまとった女性が突きのポーズで立っていた。
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!!
ハリネズミのような頭をした男がオレの横を走り抜け、階段を下り北口から出て行った。
エアポケットに槍が刺さったままオレと長身の女性は固まっていた。
エアポケットは、袋の口のより小さいモノならある程度無限に入れておけるが
破壊されると中に入れていたモノも全て破壊されるというアイテムであり
当然に中に入っていたジュエルリングは綺麗に粉々になっていた。
「な、な・・・な」
「あ・・・いや・・・ウチは・・・」
声にならないとは真にこの事で、本来なら怒りに震える所なのだが
長身の女性の様子がおかしい事で、一瞬だけ怒りが打ち消されてしまっていた。
「す、すまない。
ウチはさっき走っていた窃盗犯を追いかけていて、大人しくさせようと木の槍を突き刺そうとしたんだけど、うまくかわされて、あんたのエアポケットに・・・」
「せ、窃盗犯?・・・」
オレはまだ状況を完全に飲み込めていなかった。
というか窃盗犯を突き刺すってこの女、警察か何かか?
いや、警察にしても過激過ぎるだろ。
「お、追いかけなくていいのか?」
「また・・・またウチは、犯人を逃がした・・・」
なんか勝手に自虐モードに入っているけど、窃盗犯なら追いかけるべきだと思うんだが。
「オ、オレの事はいいからさ、犯人追いかけなくていいのか?」
「そ、それどころじゃないぞ!
あんたのエアポケットを破壊してしまった。
弁償できるものなら、ウチが弁償するぞ」
こちら的には弁償してくれるなら言うことは無いんだけど、窃盗犯の事はどうでもいいのか?
何にせよこういう場合は、吹っかける方が良いのだろうな。
「この中には3000万ダイア分のアイテムが入っていたんだ。
ソレを換金するためにここに来たんだが・・・」
「さ・・・三千・・・。
ウチの全財産では全く足りないぞ・・・
む?三千?
あんた、三千万ダイアが得られればいいんだよな」
「あ、ああ?」
この女の珍しい口調のせいなのか、怒りと緊張感がすっかり無くなっていた。
ソレもあったけど、吹っかけたのにアテがありそうな事が怒りを収めた要因だろうけどな。
「あんた、ダイア・トゥ・マスターには出場するのか?」
「あ、ああ?・・・一応。
まだ、参加申し込みはしてないけどな」
「申し込むって事は人数はそろっているのか?」
「いや。まだ一人足りないんだけどな」
「なら、ちょうどいい!
お詫びも兼ねてウチもダイア・トゥ・マスターに出場するぞ。
こう見えてもウチは武闘派だから役には立つぞ」
おお・・・って、ちょっと待て待て。
何だ何だ。話が急展開な上に都合よく進み過ぎてないか?
確かにオレは3000万って吹っかけたのはダイア・トゥ・マスターの優勝賞金額分を得るためだけど
つまり、この女は自分を含めて参加して優勝する事で、ソレをチャラにするって事か?
確かに上手くいけば賞金も出るからお互いにとって良い結果になるだろうけども
仲間になる面子は慎重に選んだほうがいいな。
「お互いに悪い話じゃないから出場は良いんだけど、
その前に確認したいんだが、お前今いくらダイア持ってるんだ?」
「うむ。給料が入らなかったから、20万ちょっとしか・・・」
ってソレが本当なら、オレとこの女の参加料で終わりじゃないか。
かといって、20万だけを貰っても大した足しにならないしな。
万が一賞金が得られなくても、3000万ダイアを返してもらうまでの協力って事で「お詫び」してもらう方が後々で得になるかもな。
「20万ダイアならオレとお前の参加費をギリギリ払う事が出来そうだな。
だが、仲間にするかどうかはもう一人の仲間と相談してからだな」
「うむ。ウチに出来ることなら何でもするぞ。
あと、さっきからあんた呼ばわりしてすまなかった。ウチはジュリレスターと言うぞ」
「あぁ。それは別にいいよ。オレはリクだ。
もう一人は1階に居るからついてきなよ。ジュリレスター」
「リクか。よろしくお願いするぞ」
ジュエルリングを換金できていれば、この大会に出る必要も無かったかもしれないのだが
無くなった以上は、大会に出場して賞金を得る方法でとりあえずやってみるとするか。
さっきの槍さばきを見ても、ジュリレスターは武闘派らしく確かに強そうには見えるが
リディと別の意味で癖のあるキャラだな。
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『あれ?リッ君、早かった・・・ね?』
1階に下りたオレとジュリレスターは、ブレイカーにエネジスの力を充電させていたリディと再会した。
「色々・・・あってな」
「リク。この女性がもう一人の仲間か?」
「あぁ。この子はリディ。
んで、そっちでクルクル回ってるナビ職がトリノだ」
「む?よく見たら、あの女性はマスターだな」
「?」
『あれ〜?
リッ君はダイアの代わりに女の子へチェンジさせてきたんですか?』
「なんでそうなるんだよ。
事情があってジュリレスターをダイア・トゥ・マスターの仲間にするか相談に来たんだよ」
『私にリッ君が相談とは珍しいね』
確かにリディの言う通りだ。オレは端からリディに相談する気などなかった。
ただ、リディに確認したかった事はあった。ジュリレスターもエリアスターなのかという事である。
エリアスターだと思った根拠は唯一つ。
オレがそうであるように、エリアスターはこの世界の住人でないからかダイアをあまり持っていない印象があったからだ。
そして仮にエリアスターであるなら、地球でオレを探し出したエリアドライバーのリディなら
別のエリアでジュリレスターを探し出している設定になるわけで
だとすればジュリレスターの事を少しは知っているはずなので、仲間にする基準として少しは役に立つと思ったからである。
「参考程度に聞くだけだよ」
『そうなの?
じゃあ・・・つまり、リッ君は両手に花状態で良いのかって話ですね』
「いや、全然違う」
『え、違うの?
じゃあ真面目に言うと、意外に頭の回転が良さそうなリッ君と、結構武闘派な彼女なら良いバランスだと思うよ。
何より私が居るから優勝は間違いないけどね〜』
何の根拠を持って優勝が間違いないのかは置いとくとして
直接は言わなかったが、リディはジュリレスターの事を知っていると確信した。
長身という点だけで武闘派と判断するのは、強引でも無理がある。
ジュリレスターが武闘派である事実を知らないと出てこない台詞だと感じたからだ。
リディを信用するというのもアレな話だが、戦闘はとりあえずジュリレスターに任せれば良さそうだな。
色々賭けになる部分はあるが、オレはこの大会においてはジュリレスターを仲間にする事を決断した。
リディの言動を見てというのもあったが、何より決断させた最大の理由は、参加申し込み時間であった。
受付が今日までになっていたので、これからもう一人の仲間を探す余裕というのがなかったからな。
「あぁ。出るからには優勝するぞ。ジュリレスターもよろしく頼む」
「うむ。ウチなりに頑張るぞ。マスターもよろしく頼むぞ」
『マスターって。あんまりその呼び方好きじゃないんだよね〜。
リディだからリーちゃんでいいよ』
「うむ。わかったぞ。リディ」
『あっれ〜?なんでみんなリディって呼ぶかなぁ?』
ジュリレスターも中々やるな。
リディの残念そうな顔を尻目に、オレのジュリレスターへの好感度が少しだけ上がった。
って、そんな事よりも【マスター】とは、ほんと何なんだ?
「ジュリレスター。
リディのことをマスターって呼んでたけど、ナビ職が居る奴をマスターって呼ぶモノなのか?」
「む?マスターはマスターだぞ。確かにナビ職が居ることが多いけどな」
「じゃ、エリアドライバーの別名って事か?」
「エリアドライバー?
リディはエリアドライバーなのか。
それならマスターの中でも優秀な部類だな。これは大会も期待できるな」
そんなに期待できる奴には見えないんだけどな。
というかジュリレスターはリディがエリアドライバーであることを知らないのか?
・・・あぁ、そうか。
本来のエリアスターは元々居たエリアの記憶を失ってるって設定だったか。
ということは、オレがデックスの図書館でこの世界の情報を少し得たのと同様に
他のエリアスターはリディの事を【マスター】という通称であるという情報を得たって事か?
「・・・リディ。マスターって何の事だ?」
『私も良くわかんないけど、一部のファンからはそう呼ばれるよ』
絶対嘘だな。というか一部のファンってなんだよ。
いつも聞いてから反省するが、リディに聞いたのが間違いだった。
かと言って今のナビ職は、質問に答えないモードだしな。
答えるモードの時になんとなく聞いてみるしかないか。
出会いは偶然か必然か。
オレらはこうしてジュリレスターと出会って共に行動する事になった。
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『う〜ん、と。名前が長いからジュリ隊長って事で』
え?・・・何が隊長?
リディはジュリレスターの名前が長いという理由で、「ジュリ」というあだ名をつけた。
珍しくこの呼び名にはオレも賛成だったが、その後で何故か隊長を付け足した。
隊長を付けた方がジュリレスターより読み方が長くなる事は言うまでも無い。
「うむ。ウチはなんでもいいぞ」
『じゃあ、ところで隊長は"能力検定"やった?』
・・・何故隊長がメインになるんだ。
深く考えてはいけないんだろうけど、かなり気になる部分だ。
「ウチはそういうのはやったことが無いぞ。この町で出来るのか?」
『うん。大会の受付が終わったらみんなでやってみよう』
普通に会話が成立してるって・・・もう勝手にやっててくれ。
「なぁ、リディ。
オレら二人は大会の参加料を出したらほとんどダイアが残らないんだけど
"銀行の融資"をするのか?」
『フフフ。
ダイアが無いものは食うべからずって言うじゃない?
世間の風はシビアなんですよ〜』
「どんな格言だ?
オレはともかくジュリに融資は止めとけよ」
『う〜ん。リッ君は女性に弱いねぇ。
隊長の件はいいけどさ。一応ね〜私も女性のはずなんだけどなぁ。
おっかしいなぁ〜』
何を言っているんだこの"マスター"は。
オレに金を貸して借りを作ったら何をする気なんだか。
「ちなみにジュリはオレに借金をしてるから、オレに融資をするって事は結果的にジュリがその融資分を支払いする事になるけど、ソレで良いならオレに融資をしてくれ」
『なんか小難しい事をしてますね。
隊長がリッ君に借金って・・・じゃあ隊長は借金のかたにココに居るって事なんだね』
「いや、全然違う」
『うん。わかった。
今回は隊長に免じて、リッ君も特別に無償で融資を致しますよ〜。
もってけ泥棒って感じだね』
「あぁ・・・そう、かい」
なんとか・・・借りを作らずにこの大会に望めそうではあるな。
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換金所を出て東側へ少し進むと、停留所みたいな所に数人が行列を作って集まっていた。
「このバスに乗れば受付会場へ迷わずに行ける」
ようやくお目覚めか、ナビ職が道案内をし始めた。
『ん?リノちゃんお目覚めですね。
というわけでみんなでこのバスに乗りましょう!』
「いや待て。
乗るのはいいが、オレとジュリはダイアが無いんだ」
『もう〜全く。おごってもらう気満々ですか。今回だけですよ〜』
そんなつもりは無かったが、結果的にリディが乗車賃を出す形になった。
借りは作りたくないと言っておきながら、それでもこの"バス"には乗ってみたかった。
丁度オレらが行列を見つけた時にそのバスはやってきた。ソレも上からである。
タイヤの無い中型のバスがゆったりと降りてくると
乗客を乗せて、また建物の3階程まで浮上すると空中を走行していった。
それは、近未来のSF系映画とかでありがちな空中を走る車そのモノであった。
『リッ君。口が開きっぱなしだよ。
確かに〜リッ君には珍しいバスかもしれないね〜』
「あぁ。確かに珍しいモノだ。
ただ、この町の作りはオレの住んでいた世界より少し進んでいるような雰囲気だから
割とこういう所は嫌いじゃない」
「む?リクは少し不思議な事を言うんだな」
「あぁ。ジュリには信じられない話だよ。
オレ"も"本当はこの世界の住人じゃないんだよ」
「なんの冗談だ?ウチをからかってるのか」
「違う違う。色々とワケありだって事だよ」
ジュリはオレの発言で頭を悩ましてしまったようなので
この手の話題は止めておいた方が良いようだな。
このまま続けると武闘派だけに、手の方が先に出てくる可能性もありそうだからな。
と、会話で適当に時間を潰していると、同じように上からバスが降りてきた。
オレの世界同様に中央部にあるドアが開くと、行列がバスに飲み込まれていく。
当然にオレらも飲み込まれていった。
中は"想像通り"のバスであり、程々に空いている二人掛け座席にそれぞれ座る。
流石にというべきかリディとジュリが同席、オレだけは一人で座る形になった。
想像と違うという点では、降車を知らせるボタンがそれぞれの座席にある腕掛け部分に付いている事ぐらいだろうか。
もちろん乗車した後、3階近くまで上昇する点も違うけどな。
空にいる事も感じさせないスムーズな運転で空の旅を楽しむ事ができた。
『え〜リッ君。一人で寂しくないですか?』
窓側に座ったリディがジュリを通して逆の窓側に座ったオレに話しかける。
「一人の方が気楽で良いよ。"本当"に」
"本当"にアクセントをつけて言葉を返した。
すると、もう子供なんだから的な返答で、リディは直ぐにジュリと別の話題に切り替わった。
リディ的には一人のオレに気を使ったんだろうけど、子供はどっちだよと言いたくなるような言動だな。
少しするとガールズトークと言えるかわからない二人についていけなくなったのか
ナビ職がフラフラとこっちにやってきた。
「話についていけなくなったのか?」
からかう様にナビ職に問いかけると
「今はこういう時間も大事だろう。
この先どうなるかわからないからな」
回答と言えるかわからないけど、ようやくオレに返事を返してくれた。
「この大会に問題があるのか?」
「この大会は確かに胡散臭いモノだ。
しかし優勝すれば賞金が出る事は事実だな」
「リディの為には本当は出ない方が良いのか?」
ワザとらしくナビ職に返事を返した。
「いや。リディは問題ない。
むしろお前達の方がと言う意味でな」
「エリアスター"は"って事か」
「流石に気がついているようだが、あの女もエリアスターではあるな」
今度はやけに喋る方のナビ職になったみたいだな。
どうやら一部を休ませて一部を動かすという"設定"のせいで
喋る時と喋らない時がきっちり分かれているみたいだな。
色々聞くなら今しかないだろう。
「やっぱりそうか。
リディをマスターと呼ぶのもエリアスターの特徴なのか?」
「それはエリアスターに限らないが
例外を除くとエリアスターは確かにリディの事をマスターと呼ぶ」
マスターといえば、デックスで警察に捕まってどこかに運ばれている時に
襲撃してきた巨躯な男もマスターがどうとか言っていた記憶があるが
その時の会話を思い出すと、その巨躯な男もエリアスターの可能性が高いな。
デックスで盗賊ぽい事をしていたようだから、もう会う事はないだろうけども。
「何でマスターなんだ?」
「お前が何でリクなのかと言っているようなモノだ。聞くだけ無駄だな」
「そういう"設定"って事で納得しておくよ。
で、バスに乗っていてアレだけど、トリノはこの町では変形して乗り物にならないんだな」
「この乗り物はナビ職のソレとは違う。
バスの種類によって走行できる場所が決められている。
例えるなら、決まった透明の筒の中をバスが進んでいる状態だな」
「例えるって事は実際は筒ではないのか?」
「分かり易いように説明しただけだ。
進路以外にバスが動くと強制的に進路へ戻す力が働いてるわけだ。
あるマテルの応用なのだが、ソレによって高さを分ける事で
幾つもののバスが同じ地点を同じ時間帯に走る事が可能になったわけだ。
逆に言うとそれ以外の乗り物はこの町で走ることは出来ないという事だ」
「じゃあバス以外は走っていないと言う事か?」
「それも違う。
この町の住民であれば免許を得る事で上空を走らせることができる。
このバスよりさらに上空を走っている小さな車が個人の乗り物だな」
確かにバスじゃない車のようなモノも上の方で走っているのを見ることは出来た。
「この町以外では走れないのか?」
「長距離を浮かせて走らせる技術はあるはずだが、
この町以外に必要ないと判断しているのか、技術を他の町に広める気が無いらしいな」
「それは、ずいぶん閉鎖的な町だな。
良いモノはもっと世界に広めればいいんじゃないのか?」
「それを俺に言われても困るな。
そういう場所だからとしか。な」
そういう場所・・・か。
他の町でも感じた事だけど、町そのモノが鎖国的な所があるわりに
言語や通貨は世界共通だったりするのは、まるでRPGの世界だな。
つくづく再認識する。
やはりこの06エリアと呼ばれる世界は"作られた世界"なんだろうと。
そうこう考えているうちに一つの停留所に到着した。
ナビ職が言うには、大会受付場所はもう少し先になるらしい。
大会参加者が多いのか乗車する人が増えてきた。
そんなわけで空きのあったオレの横の座席にも一人の青年が座った。
どこにでも居そうな、ごく普通の好青年といった感じだ。
「あなたもダイア・トゥ・マスターに出られるのですか?」
なので、突然話しかけてきたのにはびっくりした。
「お前も出るのか?」
「ええ。どうしてもダイアが必要なので」
「何度か出た事があるのか?」
「いいえ。今回が初めてです」
「そうなのか。
それじゃ、オレもライバルって事になるな」
「そうなりますね。お手柔らかにお願いしますね。
決勝にさえ出られればダイアが受け取れるみたいですので、決勝を目標に頑張ります」
「優勝以外にも賞金は出るのか。ソレは初耳だな」
「ダイアの額は少ないですけどね」
「ところで、何でオレが大会に出るってわかるんだ?」
「このバスってダイア・トゥ・マスターの受付会場が終点なんですよ。
次が終点ですから」
そうだったのか。
全く車内アナウンスを聞いていなかったので気にもしていなかったが
じゃあここに居る乗客はほぼ大会に出る面子って事だな。
「見た所一人だけみたいだけど、他の仲間は居ないのか?」
「仲間とは会場で合流する事になってるんですよ。
貴方の仲間は一緒なのですか?
ナビ職が居るって事はエリア警察の関係者みたいですね」
「いや、このナビ職はオレのじゃないよ。
違う所に乗ってる仲間の奴だ」
どうもトリノの奴の動きが落ち着かないように見えた。
あまり余計な事を言うなって事なのか、何かを伝えようとしているのか
ソレはわからなかったが、気にしてないように、だが、動きだけは目で追っていた。
「貴方もよっぽどダイア不足なんですね。
警察関係者なら給料は良いでしょうし」
「ソレは色々あるんじゃないか?」
「そうなんですか。
ワタシには縁のない職ですからよくわかりませんけどね」
なんだかこの青年のペースに巻き込まれそうになっている事を感じたオレは
色々と情報を誤魔化しつつ会話した。
どういう奴が大会に出てくるかわからないし、この会話を聞いている奴が居る可能性もある。
用心して損する事は一つもないはずだ。
「ダイアが必要って何か大きな買い物でもするのか?」
「買い物・・・と言われればそうですね。
エネジスの一つを探しているんですよ」
「エネジスか・・・アレは結構高額なんじゃないのか?」
「そうですね。この大会の賞金だけでは足りないかもしれません。
それでも、ワタシの帰りを待っている町の人達の為にも一生懸命頑張ります」
「町の人達?」
「お恥ずかしいお話なのですが、ワタシの住んでいる町は非常に寂れておりまして
どうにかして活性化するために、エネジスを使っての町興しをしようと町の皆さんで考えまして
ワタシがその中の代表として、この大会に出場したというわけです」
「ただ、エネジスって中毒性もあるって聞いた事があるな」
この中毒性とはエスケの件があっての事だ。
この青年には、ああいう末路になってもらいたくないしな。
「そうなのですか。やはり警察関係の方だとエネジスに詳しいのですね」
「いや、オレは噂程度の話しか知らないよ」
何とかこの場をごまかしたのだが、健気過ぎてかえって応援してあげたい気分になった。
ジュリを仲間にしなければ、こういうタイプの奴を仲間にしていたかもしれないな。
エスケの件もあって、今は情にモロくなっているみたいだ。
「そろそろ着きそうですね」
確かにアナウンスも終点を知らせている。
−次は終点【ラッシュ】です。ご乗車ありがとうございました-
「じゃお互い頑張ろう」
「ええ。そうですね。
折角こうして出会ったので最後にお名前を聞かせてもらってよいですか?
ワタシは【キユウ】と言います」
「リクだ。また大会で、だな」
「そうですね。さようなら」
先にキユウが席を立ち降りていく。オレは思いの外乗客が残っていたので最後に降りる事にした。
既にリディとジュリは降りている様だ。
「何か言いたかったんじゃないのか?トリノ」
「いや。お前も上手く話を誤魔化していたようだから気にするほどでもない」
お前も?
と、言うことは
「キユウが何か隠して話していたのか?」
「会話の内容は隠していないと思うが、あいつの仲間はこのバスに乗っていたはずだ。
妙な視線を常に感じていたからな」
「キユウで油断をさせて、上手い事言葉の誘導でオレの情報を得ようって事だったのか?」
「さて、な。
もう俺らしか乗っていないようだし、降りるぞ」
あぁ。答えてくれる事は期待してなかったよ。
降車口付近には、待ちくたびれている顔をした一人が、急かす様に降車を催促していた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
『まったく。
リノちゃんと話が盛り上がるのはいいけど
バスの運転手の人が困った顔してたよ』
「そんなに長居はしてなかっただろ。
それに直ぐに降りなかったのは、情報を得ようとオレに近づいた男が居たからだしな」
『そうだったんだ。リッ君モテモテですな〜』
「男にもててもあまり嬉しくはないな」
『あ、そっか。
だから私達の組は女の子二人なワケなんですね〜』
「む?そういう動機もあったのか。リク」
リディはいつものアレだから無視すするとして、ジュリまでそうかよ。
というかジュリの場合、自分から仲間になる提案をしてきたんだろうに。
呆れて声にならないオレは
前に居る人波に混ざって二人を置いて行くように受付会場へと進んでいた。
『冗談ですよ〜リクサ〜ン。怒らないでクダサ〜イ』
何故に片言?
リディは一体何がしたいんだか。
「冗談だったのか?リディ。
リクは女性に貢ぐためにこの大会に出ているという話も冗談か?」
リディの奴、ジュリに何を吹き込んでるんだ?
それよりもジュリは妙に生真面目なところがあるようだ。
リディと別な意味で騙され易いタイプのようだな。
「ここが会場だな」
と、ナビ職に言われなくても人の多さで実感した。
40階ほどはあるだろうな銀色で円柱の建物に、人が次々と吸い込まれていく。
入り口が等間隔に5箇所あるようで、特にどこから入っても支障がないように見えた。
『真ん中から行こう!』
何故お前が仕切る。
という台詞を言おうとしたオレを遮るように、リディは先頭を切って中央の入り口へ進んだ。
「うむ。中央突破は戦いの基本だな」
おいおいジュリ。
オレ達はケンカしに来たわけじゃないんだぞ・・・。
結果的に二人の後ろを歩く形で、渋々中央の入り口へと進んだ。
入るとリディが既に参加登録を終えており、後は参加料を払うだけになっていた。
リディが10万、ジュリがオレの分を含めた20万を払い、受付は無事終了した。
なお、受付の最後にそれぞれ一つの封筒が渡された。
「これは大会出場の証ですので、無くしたり当日まで封を開けたりしないように気をつけてくださいね。
大会予選は5日後にこの会場で行います。
あと、ご存知だと思いますが、大会期間中はナビ職の使用を禁止しておりますのでお気をつけ下さい」
確かに三人一組なわけだから、ナビ職が居ると問題ではあるな。
それにしてもトリノとは町に入るたびにお別れをする機会が多いな。
ただ正直、今回に関しては居ないとなると不安が大きいな。
あと、この封筒。
何かの紙というかカードみたいなモノが入っているのはわかるが
予選まで開けてはいけないというのも嫌らしい"仕掛け"だな。
ソレも5日間もこの封筒を守らないといけないわけだ。
既に予選は始まっているって事だな。
「リディ。先に言っておくが、封筒は絶対開けるなよ」
『え〜。私そんなに信用ないの?』
オレは大きく頷いておいた。
と、冗談を言うのもここら辺で止めた方が良いようだな。
ジュリもその気配を感じていたようで、会場を出た時に周辺にいる一部の者の視線がこちらを向いた気がした。
「む。これはウチ達が見られているという事か」
「トリノも居るから余計目立つのかもな。
まずは、予選に出れるようにこの封筒を視線から死守しないといけないらしいな」
『いんや、その前に"能力検定"をしに行かないと、ですよ』
頼むからお前は黙っててくれ。
『リッ君。封筒が心配なんでしょ?
そんなときのためのリノちゃんなわけですよ』
後ろに回っていたリディがボソッと不思議な事を言い出した。
どうやらリディはトリノを手に掴んでいるようだ。
『封筒を渡して。"ジュリ"もはやく』
なるほど。
ナビ職を金庫代わりにするというわけか。
リディもそれなりに考えてはいるんだな。
トリノをやや大きく変化させると3人の封筒を食わせた。
動きはしない口の部分を強引に開くようにして手を突っ込み封筒を入れ込んだらしい。
『これで私以外取り出せませんよ』
ソレを見てなのか、今まであった視線が一気に消え去った様に感じた。
『コレで安心して大会に臨めるでしょ?』
「いや、これで仮にトリノが盗まれたらどうなるんだ?」
『フフフ。リノちゃんをああいう形に変化できるのは私だけなんですよ。
人によってマテルの性質が違うので、同じようには出来ないって事ですよ』
「補足するとだな、使用者のマテルの性質が鍵にもなっているから
俺を捕らえて強引に口を開けたところで、リディが入れた封筒までにはたどり着けない仕組みという事だな」
オレやジュリには生まれ持ったマテルがないので、トリノを変化させる事はできないらしいのだが
仮に変化できる者でも、それぞれのマテルに応じた変化しかしないと言う事のようだ。
飽きるほど繰り返しているが、ご都合主義で良かったというべきなんだろうな。
「いや、そんなに楽観は出来ないぞ。
ナビ職を盗まれたらウチ達は大会に参加出来ないな」
視線から逃げるように歩いていた事もあり今の所は追ってくるモノは居ないのだが
確かにジュリの言う不安も一理ある。
封筒を取らなくても金庫自体を盗んでしまえば、オレ達はどうにも出来ないわけだ。
『ああ見えてもリノちゃんは抵抗は出来ますので、盗まれる心配はないですよ〜』
「いや。その前に捕まるようなヘマはしない」
少し怒ったようにトリノが言葉を返したが、意外に人間ぽい可愛い一面もあるんだな。
「うむ。リディとナビ職がそう言うなら、大丈夫なんだろうな」
ジュリはどうもリディを信用しすぎだな。
同じエリアスターとしては、変に利用されないようにけん制しておかないといけないかもな。
「で、封筒はコレで何とかなるとして、このまま歩いて"能力検定"に行くのか?」
『本当はバスに乗りたいんだけどね〜。
乗ったら乗ったで密室封筒争奪戦が始まっちゃいそうだし。難しいねぇ』
「それもだが、5日もあるからどこか宿泊する場所も確保しないといけないよな」
『リッ君は何を言ってますか。リノちゃんが居るじゃないですか』
「この町で変化させて5日間待つという事か?」
『そうだよ。
この町の建物風に変化させたら他の参加者もわかんないでしょ?』
「確かにソレはそうなんだが・・・」
「リクの不安もわかるが、ウチ達が思っている程、予選段階では心配はなさそうだぞ」
「どういう意味だ?」
「ウチ達は今完全に三人しか居ない状況で歩いているけど、誰かが追ってきている感じがしないからな。
ナビ職が居る点もウチ達に有利に働いていると思うぞ」
「オレ達は諦めたって事か?
かえって目立つからマークされてもおかしくないと思うんだけどな」
『それじゃ、手っ取り早くリノちゃんを建物にしちゃえば盗むにも盗めないでしょ?
ここら辺は少し空き地もあるからちょうど良いかも』
オレ一人が心配しすぎって事か?
いや、心配はいくらしても足りないんだが、そんな不安をよそにナビ職は建物に変化した。
『今回はちゃんとリッ君の部屋も作ったから安心してね』
それはそれは、ご丁寧にどうもありがとうだな。
さっそく中に入ると、以前同様に暖色系の中に部屋の入り口が5つほどあるように見えた。
「で、どれがオレの部屋になるんだ?」
『どこも同じつくりだから好きに入っていいよ』
同じね・・・。
あまり期待せずに一番左側に部屋に入る。
なんというか、この部屋で5日間過ごすのはある意味の罰ゲームに思えた。
「リディ・・・この乙女風な部屋で5日間過ごせと?」
『贅沢言わない!
一つだけ違う部屋を連想するのは結構大変なんだよ。
私達も同じ部屋なんだから、条件は一緒だよ』
いや、もう・・・
分かってはいたけどリディに突っ込んだら負けだ。
寝る時以外は外で情報を得ている事にしよう。
このまま住み慣れると、違う方面に目覚めそうだからな。
「リディ。聞きたいことがあるぞ」
『どうしたの隊長?実は隊長もこういう系ダメとか?』
「いや、ウチは気にしないぞ。それより北はどっちになるんだ?」
『き、北?』
「ウチは北枕は出来ないんだ。落ち着かないというか」
『そ、そうなの?
リノちゃん、北ってどっち?』
・・・ま、今回は部屋があたっただけでも良しとするか。
ジュリも北の方角が分かったようだし、さっさとこの乙女空間を出よう。
「休息場所も確保したから、さっさと能力検定しに行かないか?」
『リッ君はそんなに楽しみだったのかい。
もう、しょうがないなぁ。それなら、出かけますか』
「ウチも本当に行っていいのか?」
「あぁ。ダイアを出す人も居るから心配するな」
『な〜んか私、一人だけ損してる気がするんですけど〜。
まぁ〜いいか』
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「換金所は知らなかったのに、検定の場所は分かるのか?」
『そこは抜かりないのですよ。あらかじめリノちゃんに教えてもらいましたからね』
「ウチは一応得意マテルは分かっているんだけど、それでも参加していいのか?」
『確か、同じマテルでもレベルとかで色々変わるとかあるらしいから
調べる価値はあると思うよ』
「レベルか。うむ。それは少し楽しみだな」
先程の道を逆に進む形で町の中心に戻ってきた。
大会会場である銀色で円柱の建物を超えて更に数百メートル歩いた所に、武道場のような巨大な建物が現れた。
『ここが検定場所だね』
「む、緊張してきたぞ」
ここまでは気にしてなかったモノの、ジュリの台詞でオレも何故か緊張してきた。
重い引き戸を開けるとソコは大きな広間になっており、中心に向かってすり鉢状に下っている造りになっていた。
その底には正方形の台座のようなモノだけが設置されており、そこで闘技が行えるようになっているようにも見えた。
闘技とはいうが周りで観戦できる場所らしきなモノは無いようだな。
「む。誰もいないようだが受付は何処でするんだ?」
『う〜ん。受付の人が居なさそうだねぇ』
「そこまでは調べてないってオチか。
中央に誰か居るようだから、そこに行けば分かるんじゃないか」
リディのコレはいつもの事なのだが、流石に今回は少し心配になった。
『すみませ〜ん。ここマテル能力検定出来る所でいいんですよねー』
中央に居る人に向かってリディが叫んでみるが、反応は返ってこない。
聞こえていないのか、聞く気がないのかは分からないが近くまで行かないと駄目らしい。
『リッ君並にシカトされちゃったね』
あぁ。
面倒だから、そういう事にしといていいわ。
きっと中央の人も空気を読んでるんだろうさ。
「どうも、何かバリアのようなものが張られてるみたいだぞ。
それで声が聞こえていないのかもしれないな」
ジュリの言う通り、台座の周りには目に見える透明バリアというかシールドが張られていた。
どうも向こうにはこちらの状況が見えても聞こえてもいないようだ。
「それ以上は進めんヨ」
なにやら足元から妙な口調の声が響いてきた。
『うわ。何この子達』
リディが先に気づいたようで、足の周りには七人どころじゃない数百人は居ると思われる小人が取り囲んでいた。
お伽噺に出てくるような白ひげを生やしたシルフ風という表現が正しいのか分からないが
ソレと緑色で統一された服を身にまとっていた。
気づくのが遅ければ危うく何人か踏みつけてしまう所だった。
「な、なんなんだ?お前ら」
「それはこっちの台詞だヨ」
「つまり、診断を受けに来たのかヨ」
「一人・・・あ、いや、野郎は100万ダイア。女の子達は1ダイアで診断してるヨ」
何を言ってんだ、この小人達は。というかこいつらが診断をするのか?
「お前達が能力診断するのか?」
「あー?野郎の声は聞こえないんだヨ」
本当になんなんだ。
この小人達はオレにけんか売ってるのか?
『ごめんね〜。
じゃあ、私が聞くけど、どうやって能力診断するの?』
「一人ずつ、そこの台座に入って、いくつかのテストをするんだヨ」
「全裸だヨ」
「野郎は脱がなくていいヨ」
ただのエロ小人達だな。
しかし、この二人なら本当に脱ぎそうで困る。
「そうか。しかし、脱衣所がないのは困るな」
『リッ君はしばらく外で待機しててね』
・・・思いっきり脱ぐ気満々だしな。
「そんなわけないだろ。騙されんなよ」
『でも、診断する時って言うのは見も心も裸にって言わない?』
「オレの世界でも似たような言葉はあるが、実際脱いでる奴は居ないな」
「野郎は黙ってろヨ」
「そういうこと言う奴は、100万から101万ダイアに引き上げるんだヨ」
「野郎は晩飯抜きだヨ」
・・・コレは、オレのツッコミ待ちなのか?
仮にそうだったしても、絶対突っ込まないからな。
「今、診断中だヨ。少し静かにしやがれってんだヨ」
「野郎は早く150万ダイア出すんだヨ」
急に値段上がってるだろ。
というか他の奴が台座に居るから今はここで待つしかないのか?
『リッ君。流石の私でも150万ダイアは無理だよ。
今回はあきらめるしかないかも』
「だが、オレには交渉出来そうもないな」
『ということなんで、50万ダイアまけてくれませんか?小人さん達』
何で50万だけなんだよ。それでも支払いは100万ダイアだろ。
「リディちゃん。小人じゃないヨ。マルティだヨ」
「リディちゃんのお願いだから聞いてやるヨ。そこの野郎も10ダイアにしてやるヨ」
『え?何で私の名前知ってるの?私、そんなに有名になった?』
ソレは絶対ない・・・とは言えないから困るが、違うだろうな。
「マルティはなんでも知ってるヨ」
「そちらはジュリレスターちゃんだヨ。マルティは知ってるヨ」
「ウチも分かるのか」
「あーでも、そこの野郎は知らないヨ。というか知っていても言うのが面倒だヨ」
こいつらみんな踏み潰してやろうかね。
一々癇に障る奴らだ。
『リッ君完全に嫌われたねぇ〜
ところで、みんなマルティって言うの?』
「皆じゃないヨ。マルティは一人だヨ」
『え?』
「いっぱい居るように見えるけど、マルティは一人だヨ」
「見た目は小人、素顔も小人、それがマルティだヨ」
「どうやら、ここに居る小人は全てマルティっていう名前みたいだな」
「黙れ、野郎。マルティは一人だけだヨ」
「いっぱい居る様に見えてるだけで、マルティは一人だヨ」
「ウチ・・・頭が痛くなってきたぞ」
『う、うん。とりあえず、今診断している人が終わるまで待ってよう』
リディ達は考えることを放棄したな。
そりゃそうだ。こんなわけの分からん小人がいっぱい居る時点で混乱するのに
何が一人だよ。
「黙れ、野郎。マルティは理由があってこの姿なんだヨ」
「今オレは何も言ってないだろ」
「聞こえるんだヨ。醜い野郎の考えてる声がだヨ」
という事は考えていることが読み取れるのか?
そういうマテルという事か?
「先客が終わったヨ」
小人共は当然に疑問に答えることなく、今まで台座に居た人が突如としてソコから消えた。
そして同じように透明バリアもなくなった。
「おい、今までここに居た人はどうなったんだ」
「診断回答場所はここと反対の部屋になるんだヨ」
「消えるのが怖いなら診断はやめるんだヨ」
「野郎の癖に度胸なしだヨ」
お前らに言われたくはないわ。
というか横の二人もそういう目でオレを見てるし。
『リッ君は支払いダイアが高いから、無理しなくていいんだよ〜。
じゃあ、私が次行きます』
リディは躊躇することなく透明バリアがなくなった台座へ進む。
台座に入った瞬間、先程の透明バリアが張られた。
・・・というかリディは診断受ける意味あるのか?
「リディの次はウチでいいか?」
「帰ってこれない可能性もあるんだぞ。いいのか?」
「大丈夫だな。リディが能力検定の場所を案内したんだ。
リディはマスターだし、リクもリディが嘘をつく人には見えないだろ?」
オレはそこまで信用はしてないんだけどな・・・。
ジュリはこの世界の人を信用し過ぎな気がするな。
それ程までに信用できるのがマスターっていう設定なのかもしれないが。
「なんか頭ん中で色々言い訳考えてるけど、あの野郎は結局怖いんだヨ」
「女の子に先行かせて、情けないんだヨ」
「黙ってろ!慎重だといって欲しいな」
「慎重といえばいい響きだヨ。臆病の癖にだヨ」
「やるのかやらないのかどっちなんだヨ」
どんなにハッパかけようとも、その手には乗らん。むしろ臆病で結構だ。
慎重すぎて悪い事はないからな。
そんなに時間は経っていないはずだが、気が付くとリディはソコから姿を消していた。
「む、早いな。じゃ、ウチが先で良いか?」
「待てよ。
ジュリは能力を分かっているんだから、未知の場所へわざわざ足を踏み込む必要はないだろ」
「ウチは自分で決めた事に後悔はしないぞ。
仮にこの診断後、変な所に飛ばされたとしても全然後悔しないな」
オレもジュリも実際このふざけた世界に飛ばされてるんだけどな。
飛ばされてるって事実を理解してる分、躊躇いも大きいんだろうな。オレは。
「既に変な世界に飛ばされてるとしたらどうだ?」
「む?リクは以前も妙な話をしてたな。
仮にウチが別の世界から飛ばされてここに居るのだとしても、その世界のルールで生きていくと思うぞ。
今が仮にそうだったとしても、自分で思う行動をしないと後悔しか残らないと思うんだ」
「その行動をしてなければ自分の大切な場所や人を失わずに済むとしたらどうだ?」
「ウチにはそんなこと分からないな。
仮にそれが失う結果になっても、それまでの行動に後悔はしないぞ」
・・・。
そうかよ。勝手にすればいいさ。
ジュリの元の世界にもジュリを知っている人が居るだろうに。
その人達の気持ちを考えると・・・
いや、本人は飛ばされたと自覚してないわけだから考えるわけがないか。
「先に行っていいよ。オレも次にやるからさ」
「さて、本当にやるのかヨ」
「この野郎は口だけだヨ」
何とでも言ってろ。
ジュリもリディ同様に台座につくと、数分後には診断が終わったようで同じように消えた。
「さて、どうするんだヨ」
「二人は裏の部屋で待ってるんだヨ」
「・・・やるよ。一応コレでも男なんでな」
頭の中はぐちゃぐちゃだったが、操られたように台座へと進んでいた。
そして、台座に入ると景色が一変した。
リディにこの世界に連れ去られた時の無空間を連想させる、上下左右が全く分からない暗闇状態の場所。
足が地面についている感触がなく、周りの景色は徐々に様々な色に変化していくが風景は何もない。
「おい、やっぱりここは・・・」
言いかけた時、そこには小人のはずだったマルティの一人が2m近くの大きさになって横になっていた。
横といっても足場がないのでオレの周辺をぐるぐる回るように存在している。
「コレが・・・お前の正体かよ」
「色々あってこの姿をこの空間に閉じ込める必要があるんだヨ」
「ここはこの世界じゃない空間じゃないのか」
「あー。エリアドライバーの無空間とは違うヨ。これはマルティのマテル空間。
思う存分マルティとか周辺に、マテルをイメージして攻撃してみなヨ。
そのマテルの使い方で能力を診断するんだヨ」
「お前に攻撃してもいいのか。それなら遠慮なく・・・」
加速するイメージで横になっていたマルティにパンチを食らわせようとしたが
拳をぶつけた瞬間、蜃気楼のように消え去った。
そしてその横に再びマルティが現れた。
「虚像か?」
「違うヨ。お前のマテルに適してない攻撃はマルティには無効なんだヨ」
「つまり、適応なマテルを使うまでこの状態がずっと続くって事か?
ずいぶんと面倒なことをするんだな」
「マテルの使い方も同時に学べる空間だからだヨ。
黙っている時間があったら、色々試したほうがいいヨ」
能力検定という名の体力測定みたいなモノだな。
なんにせよオレの能力が分からない限りは、この空間から出れないって事なのだろうから
今まで使ったマテルをイメージしながらやるしかないだろうな。
今までの・・・か。
ふとした考えでマルティにゆっくりと向かって行った。
そして、ゆっくりと手で触れるとソレだと理解できた。
「やっと気がついたのかヨ」
「あぁ。気がついていたはずなんだけどな。
だが、想像はしてなかったからコレがオレのマテルだとは思いもしなかった」
「ある意味、隠してた方がいいかもヨ」
「戦闘向きじゃないからか?」
「いや、そのうち分かるヨ。今は絶対教えないヨ」
「あぁ、そうかい」
今はって事はそのうち教えてくれるとでも言うのかね。
とりあえず、自分のマテルの特性を分かっただけでもよしとするか。
「もう診断は終わったんだろ?ここから出してもらっていいか?」
「ぐちゃぐちゃうるさい野郎だヨ。もう少し調べてるから待ってろヨ」
何の事だ?
今はマテルも使ってないが、分析とかで時間がかかるって設定か?
なんにしろ、いいように使われているな、オレは。
少し考え込んでいたマルティは何かを悟ったようにオレに話しかけてきた。
「無理はするなヨ。リディちゃんとかに会えなくなるからヨ」
どういう意味の無理だ?
その言葉を最後にマルティがその場から消えた。
消えたというより、オレが別の所に移動させられていたようだ。
すり鉢状の底に出てきたので、一見同じ場所に見えるけども、
ここには正方形の台座が無かったので、似たような場所に飛ばされたというのが正解なのだろうな。
診断という診断を受けた結果にならないような気がしたが
自分の得意マテルというのを理解できただけでも良しとするしかないか。
先に診断を終えていた二人は、待ちくたびれているようにソコで待っていた。
『ずいぶん遅かったね』
「リクはずいぶん嫌われていたようだからな。それが原因かもな」
勝手に言っててくれ。
とりあえず、このマテルで出来る事を大会までに試す必要はありそうだ。
『で、リッ君のマテルはどんなモノなの?』
「教えるのはいいが説明が難しいな」
『ん?リッ君はバカキャラでしたっけ?』
「・・・。
何でもいいけどナビ職の所に戻ってから話す。ここじゃ色々アレだからな」
「知られると不利になるマテルという事か。ウチには使えなさそうなマテルみたいだな」
『うん。マテルは性格にも影響を受けているらしいから、
リッ君みたいな小難しい人だとマテルも小難しいモノかもしれないね』
リディさん・・・ソレは褒め言葉として受け取っておくよ。
それを言葉にする事なく、オレは出口に向かって登って行った。
『リッ君、また怒ってます?』
別に怒ってはいないが、突っ込む気力はすでにない。
意外とマルティの空間でマテルを使っていたらしく、すり鉢を登りきった時には軽く肩で息をしていた。
「疲れているようだな。ウチが背負って行ってもいいぞ」
ジュリは間違いなく本気だろうから、右手を大きく横に振っておいた。
いくら武闘派といえ、オレにも女性にはっていうプライドぐらいはあるからな。
その言動で、リディが何やら言っていた気がするが聞こえなかった振りをしておいた。
リディの場合はほとんどが冗談だからな。
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