06
【ウエブ】


けして後味が良かった終わり方ではなかったが
オレはリディと共にナビ職のトリノが変化した車に乗せられ
本来の目的地であるウエブに向かっていた。

金色が次第に草木色に変化していく。
日数としてはそれほど滞在していたわけではなかったのに、草木色がとても懐かしく見えた。

 「なぁ、リディ。お前は確か移動に関するマテル以外は使いこなせないとか言う話をしてたよな。
  エリアスターでなくても使いこなせるマテルが偏ってるっていうのも居るという事か?」

 『う〜ん。難しい質問だね。
 リノちゃんならサクッと答えてくれると思うよ』

予想はしていたが、やはりトリノに聞いた方が早いか。
ただ、答えてくれる日ならいいのだけどな。

 "リディはこのエリアの中でもマテルを使いこなせていない部類に入るな。
 エリアドライバーという特殊な能力も影響している可能性はある"

どうやら今は質問に答えてくれる状態のようだ。
コレも大きく見ればご都合主義な事だけどな。


 「それじゃ、この世界にいる″普通のモノ″は
 ある程度のマテルならソコソコ使いこなせるって事でいいのか?」

 "お前の言うある程度がどれぐらいか分からんが、特殊なマテルじゃない限りそうだな"

言葉をそのまま返しておきたいのだが、
トリノの言う特殊なマテルがどんな特殊か分からないけどな。


 「ちなみに、次の町のウエブではマテルは使えるのか?
 また犯罪者にさせられたら、たまったもんじゃないしな」

 『大丈夫だよ。特にダイア稼ぎにはマテルも必要になるから』

 「マテルを使って何をするんだ?」

 『その時にならないと分からないよ。
 でも、大半はマテルを使う事になってるから安心してね』

もはや恒例になりつつある、何が安心なのかわからないリディのお言葉だな。
安心という事ならば、そのウエブの町とやらはデックス地域と逆にマテルを推奨している町だという点ぐらいだろうな。
そのマテルを使ってお金稼ぎをする町か。

 「それは何をするか分からんが、マテルの能力によっては不利になるんじゃないのか?」

 『前回は確か、町全体を使った宝探しだったはずだけど、不利かどうかはその時によって変わるだろうね』

その時とは言うが、よく考えなくても
マテルを使いこなし難いオレの様なエリアスターには、ほとんどが不利な条件なんじゃないだろうか。
そんな疑問も今日のトリノは答えてくれた。

 "それは、エリアスターでも使いこなせるマテルを上手く活用する事でどうにでもできるな"

 『リッ君はなんとなく自分の得意マテルに気づいてるんだよね?』

 「・・・その事なんだが、ラルフも気づいているような感じで言ってくれてはいたが
 大体の見当しかついてないな」

 『う〜ん。それならウエブに着いたら、まず能力検定をしに行こう♪』

 「能力検定?」

 『適性検査みたいな感じかな?
 三大属を見つけてそこからある程度の適正を検査するって感じ』

 「・・・だが、ソレにはダイアが必要なんだろ」

 『あ、そだね。じゃあここは私が貸そうか?』

 「いや、ソレは結構です」

この世界でもお金がないと始まらないのは分かってはいるつもりだったが
適正だか能力を見つけるのも、ダイアって事か。
自力で理解できれば無駄な出費を抑える事はできるが、それもちょっと難しい感じだし

・・・ちょっと待てよ。

 「なぁ・・・リディ。
 そのウエブの町でのダイア稼ぎにも、参加料的なダイアが必要になるんじゃないのか?」

 『フフフ。気づいてしまいましたか。
 リッ君は結局の所、私に借りを作らないといけない運命なのですよ』

ソレを自分で言うか?

考えないようにしていたが、そりゃそうだろうな。
だが、リディに頼らなくても、今はお金そのものを手に入れる方法はある。
換金できる場所さえ押さえれば、実の所お金稼ぎ自体はどうでもよくなっている。
しかし、このエリアの情報を少しでも多く得る事は、変わらずに必要な事だったので
不本意ではあるが、リディとナビ職が居たほうが何かと便利だな。

 「借りはギリギリまで作らないさ。とりあえずウエブに向かってくれ」

 『むむ。頑固一徹ですなぁ』

 "車内後方で休息を取れる形に変形したから、時が来るまで休んだらいい"

今日のナビ職はやけにサービスが良いようだが、なにか裏がありそうな予感だな。

 「ここまでしてくれるという事は、結構長旅になるのか?
 大体何時間程かかるんだ?」

 "走り続けて2日ぐらいか"


なるほど。
そりゃあ休息も必要になるわな。
どれだけの距離を走る事になることやら。

この車というかナビ職のスピードはオレの世界のモノと差がないように感じる。
それで2日を走り続けるとなると、時速60キロで単純計算すると2800キロの距離という事になる。
確かに隣町的な事は言ってなかったが、もう少し手前の町でお金稼ぎは何とかならなかったのかね。

 『お、以外に驚いてないね。
 他のエリアスターなら結構呆然としてるのに。
 それとも〜移動距離が想像できない感じですか?』

 「こんな何でもありな世界で、そんな程度で一々驚いていられんよ。
 別にオレの世界でもありえない距離では無いからな」

 『へ〜。
 リッ君も結構長旅するんだ。リッ君のエリアでもソレぐらい普通なの?』

 「別に普通な距離ではないけどな。
 仮にだが、トリノに乗ってこの世界を一周するにはどれだけの時間がかかるんだ?」

 『う〜ん。正確に測った事は無いから大体だけど、1年ぐらいかかるんじゃないかな?』

という事は
時速60キロという仮定からだが、周辺50万キロ以上ある世界という事になるわけか。
とまぁ、そんな仮定の話はどうでも良く
流石にオレの世界同様に球体な世界ではあるようだな。

 「そうか。
 じゃあ、最速で移動できるとしたらどれぐらいかかるんだ?」

 『フフフ。ソレは私に対する愚問ですよ。リッ君』

 「ん?」

 『例えば、今居るエスケ地方の裏側にある地方に移動するとするなら、一瞬ですよ』

 「意味が分からんのだが」

 『リッ君が言う、何でもありな世界という事になるかもだけど、私のマテルなら一瞬だよ』

 「・・・いや、いまいち話が見えてこないんだが」

 『移動という事だけなら、私のマテルは距離を無視出来るんですよ』

 「・・・それは、瞬間移動的なことでいいのか?」

 『そういう事ですね。ハイ』

 「なぁ・・・それじゃ、トリノに乗って移動する意味があるのか?」

 『もう!リッ君には学習機能がないんですか!
 また捕まりそうになってもいいなら、どうぞどうそ〜』

 「あ・・・あぁ。
 マテルの使用禁止の地域もあるんだったな。
 ソレは仮にウエブみたいな所から禁止地域に移動するときにも該当するのか?」

 『その通りでございます。つまりはマテル禁止地域のデックスとかには
 マテルを使わずに入らないといけないわけですね〜』

 「じゃあ、現在地と移動先はマテル使用可だが、移動の際に禁止地域を経由する場合はどうなるんだ?」

 『経由?』

 「ん?瞬間移動になると現在地と移動先の間は経由していないことになるのか?」

 『空飛んだり、その禁止地域をまたいだりするわけじゃないんだから経由しないよ』

 "補足するとだな、リディのいう瞬間移動というのは空間の中を移動するものだ。
 場所から場所に飛んでいるわけではなく、移動先の空間に移動しているモノと考えてくれ"


本当に今日のトリノは親切だが、反動がありそうで怖いな。
この話を総合するに、目的地が分かっていて、現在地と共にマテル使用可能地域なら
リディのマテルで瞬間移動が可能ってことになるのか。
という事は

 「今回の場合、ウエブもこのエスケもマテル使用可能地域なんだから
 やはりトリノで移動するのはおかしくないか?」

 『残念。瞬間移動的なマテルは自分自身にしか使えないし
 リッ君を移動させる時に使うマテルだと、空に体を飛ばして場所から場所に移動するようなイメージだから
 ソレこそ禁止地域を経由しちゃう恐れがあるんだよね』

 「リディにしては分かりやすい回答ありがとう。
 他人も移動させることは出来るが、瞬間移動的な事は出来ないってことだな。
 最初に会った時のエリア話の時にも聞いたが、無空間を移動できるのは自分だけとも言ってたよな」

 『そーいうことですね。
 私はすぐウエブの町に行けちゃいますが、リッ君には無理って事なんです』

根拠の無い自信を持っているヤツだとは思ったが
そんな便利能力を本当に使えるんだとすれば、確かに重宝される存在だな。
トリノが以前言っていたが、リディは"自由"と"人生の一生"をエリア警察機構によって保障されているらしいからな。
逆を言えばリディを失えばエリア警察としても困る事になるはずだ。
その為にナビ職のトリノが護衛というわけか?
デックスでオレを捕まえようと命令したナビ職と違う感じがあるのも、
トリノがリディ用に充てられた特殊なナビ職ってことなのかもしれんな。

 『それでは、夜更かしはお肌に悪いので、私はお先にお休みさせていただきますね〜』

まだ十分太陽が活躍している時間だが
リディは車内後方に作られた休息空間へと消えていった。
ソコはカーテンで区切られているだけだが、一応、2人分の空間がそれぞれ用意されていた。

 「トリノはこのまま2日間走り続けるのか?」

 "そうなるな。
 お前達のような生命体と違って肉体疲労というモノがないからな"

本当、便利な生命体だこと。
そう呆れながらオレも休息空間で休む事にした。


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時は数日さかのぼる。

そこはウエブと呼ばれる町である。
近未来的な町並みというありふれた表現が良く似合う
機械的で冷たい印象を持つ中堅都市である。

町という名称ではあるが、ここにはウエブ国王と呼ばれる人物がおり
代々ウエブ国王の血筋の者がこの町を仕切っていた。
今で17代目になるそうだが、特に17代目でも17世とでも呼ばれるわけでもなく
ウエブ国王、もしくは国王と呼ばれている。

ダイア稼ぎをさせるほどなので、当然といっていいほど財力に富んでいる町である。
世界的に有名な財閥の多くが住んでおり、それだけにその財産を狙う賊も多く存在している。
そういう賊から財産を守る為に、エリア警察とは別に自衛兵と呼ばれる警備員を配置しており
特に「国王の城」と呼ばれる住居には、多くの自衛兵が配置されていた。

その為、歴史的にも国王の家から財産を奪われた事はなかった。


ウエブに伝わる秘宝の一つに【メレオン】と呼ばれるエネジスがある。
メレオンは見る角度によって様々な色に変化する特性があり
エネジスの特性としても、色を変化させる事ができる能力を持っている。

その秘宝は、″城の入口″に入ると、すぐに拝む事ができるようになっていた。
拝めるメレオンは本物からの映像を映し出している"偽物"であるが
それでも秘宝と呼ばれるだけの価値を映し出していた。
その秘宝はセキュリティがかけられた、とある部屋に置かれており、更にレプリカとなるエネジスも多数存在していた。


本物のメレオンがある部屋は勿論だが、レプリカがある部屋の入り口にも自衛兵が配置されていた。
入り口は四方全てに作られており、上や下からの侵入を防ぐという理由から部屋は全て2階にある
天井と床に相当する3階と1階にも自衛兵が配置されているので、六面全てで警備をする徹底振りであった。
その為、外から侵入した所ですぐに秘宝に辿りつけないようになっていた。

警備優先順位としては2階が優先され、1階、3階という形になっており
3階には比較的経験の若い自衛兵とベテランの自衛兵がセットで配置される事がお決まりになっていた。
なお、自衛兵には護衛している部屋にあるのが秘宝なのかレプリカなのか知らされる事は無かった為
常に緊張感を持った警備をこなす形になっていた。


その日

とある部屋を護衛するため、3階に配属となった長身な女性の自衛兵がいた。
漆黒よりやや蒼色の入った腰程ある長い黒髪も特徴的で、背の高さと合わせて彼女を印象付ける部分であった。
流れるような赤茶色な目も印象的で、偏見な表現をすると厳しい言葉を言い放ちそうな風貌である。
自衛兵の制服を着ているため目立ちはしないが、全体的に黄色を纏っている印象もある。
このウエブに来て三ヶ月とまだ若く、ようやく自衛兵として警備に慣れてきた頃合でもあった。

そんな彼女はエリアスターである。

リクのような例外を除き
エネジスを与えられたエリアスターは、以前住んでいたエリアの記憶を全く残していない。
ただ、彼女が06エリアに来てから警備をする自衛兵の仕事を選んでいるのも
以前のエリアでも護衛をする任務に就いていたからという事が影響している。
記憶には残っていないが本質的な本能は消えることがないのである。


 「よろしくお願いするぞ」

独特な口調の彼女とセットになったベテラン役の一人は
黒髪短髪の好青年に見える男だが、彼女の背の高さのせいもあって弟のような雰囲気になって見えた。
それでも自衛兵としては5年以上も国王の城を守り続けているベテランである。

 「あんたが今回の相棒か。
 気を張らずに交代まで気を引き締めて頑張ってくれ」

張っていいのか張らなくていいのか分からないコメントだけに戸惑いをみせているはずなのだが
彼女の表情がほとんど変わる事がなかった為、彼は普通に話を続ける。

 「オレはブルックス。あんたは?」

 「ウチはジュリレスターだ。改めてよろしくお願いするぞ」

 「ジュリレスターか。ココは初めてか?」

 「いや、ここの警備を始めて一ヶ月だぞ」

 「あ〜いやいや。
 この下の部屋の警備の話だよ」

 「この場所は初めてだけど、何かあるのか?」

 「ま〜な。
 数年間この"城"の警備をしていて、薄々感じてる事なんだが
 この下の部屋にメレオンがあるんじゃないかという事だな」

 「何処にメレオンがあっても、ウチ達が警備する事は一緒だと思うぞ」

 「そ〜でもないんだな。
 最近、そのメレオンに関する妙な噂があってな、
 ど〜も、とある盗賊がメレオンの居場所を見つけて
 近いうちに奪い取るだろうって話が、その手の筋の所から出てるんだってよ」

 「む?
 その噂というのは、下の部屋にメレオンがあるという物なのか?」

 「いや、部屋の予想はオレの推測に過ぎんけどさ。
 ただ、そ〜いうつもりで警備してくれって事よ」

 「う、うむ。頑張ってみるぞ」

 「う〜ん。
 ま〜、初めて会った人の事をあまりとやかく言うのは失礼だろうけどさ
 女にしては変わった口調だな。ジュリレスターは」

 「うむ。
 よく言われるけど、気になるのなら謝るぞ」

 「ま〜オレはそれでも良いけどな。
 自衛兵として、きっちりココを護ってくれれば良いわけだし」


うむ。確かにこの場を護るのが最優先だな。
ダイアを沢山得る為には、警備を失敗するわけにはいかないからな。

ウチは新種と呼ばれる種族だからなんだろうけど
小さい頃の記憶がかなり曖昧で、だけど、【フェリス】というエネジスを取り戻さないといけないことは覚えてるぞ。
フェリスがある場所は大体分かってはいるけど、ソコに行く為には多くのダイアが必要なんだ。

必要といえば、【マスター】も見つけないといけないな。
新種のウチ達には、親というべき存在のマスターがどこかに居るとされているな。
されているっていうのは、ウチの小さい頃の記憶にしか残ってないからなんだけど
フェリスを取り戻すにはマスターが必要だという事になってるはずなんだ。


 「ブルックスは実際にメレオンを見た事があるのか?」

 「いや〜ないない。
 オレのようなベテランの自衛兵とはいえ、国王の家宝を目の前で見ることは出来ないさ」

 「見たことも無いのに、この下にあると推測できる理由はなんだ?」

 「理由ね。大有りさ〜
 ・・・
 っと、コレは新人ちゃんに教えるワケにはいかないんだけど、なんていうか一つの儀式みたいなもんかね。
 実際ソコにメレオンがあるかどうかは、ジュリレスターの言うように関係なくて、緊張感を保つ為の方便さ。
 ま〜、この感じだと別に必要なかったみたいだけどな」

悪い人ではないのだろうが、少し以上絡み難い人が相方になってしまったな。
緊張させたいのかリラックスさせたいのか、いまいちわからないな。


 「さ〜て、闇の深入りの時刻だが、賊とやらはやってくるかね」

ウチに問いかけているのは分かるのだが、もう少し黙っていて欲しいものだな。

 「初日から気を張っては明日から堪えるぞ。
 こういう時間だからこそ、息抜きをしておかないと後々で失敗する事が多いんだ。
 先輩の言葉は聞いておくもんだよ」

 「そう・・・か。頑張ってみるぞ」

 「頑張らなくていいって。適当に雑談して人の気配を感じたときに緊張すればいいんだよ」

 「それは中々ウチには難しいな」

 「ま〜そんな表情してるわな。無理は言わないさ。
 さて、大事な話があるわけだが、いいか」

また、この展開。やはりやり難いな。
ただこの絡み難い会話のリズムに、ウチはいつの間にかハマっていたのかもしれないな。


 「ジュリレスターの得意分野はなんだい?」

この場合の得意分野とは、マテルの事を指すのが常識らしいな。

 「うむ。相方のマテルを知る事は、いざという時必要だな。
 ウチは造形のマテルが得意だぞ」

 「造形か・・・
 なら、この床のタイルとかでも造ることは出来るか?」

ブルックスに回答するためと、マテルをきちんと使えるかどうかを確かめる為に
ウチはパネル風な意匠の床に右手をついてみた。
すると
マテルを使用した瞬間、右手を中心にまるでゼリーのように床が溶け出した。
すぐ解除しようと右手を離したけれど、足場そのものが勢いよく溶けてしまって
ウチらは護衛するはずの部屋の中へ落ちていた。
3メートル以上の高さがあったけど、ブルックスが咄嗟の判断でマテルを使って
床に衝撃材の様な草木を出現させたおかけで、間一髪で墜落の衝撃を和らげる事が出来た。

当然だけど、警備している部屋に無理矢理入った事おかげで
セキュリティ警告音が鳴り響く結果になったな。


 「これは・・・やりすぎだね〜ジュリレスター」

 「ウ、ウチのせいなのか?」

 「いやいや。
 ジュリレスターだけのせいじゃないさ。上を見な」

ブルックスに言われた瞬間、ウチは先程まで居た3階に人影を感じ取った。
見上げると確かに一人の人物が写っていたぞ。

 「ワザワザ入口を開けてくれてアリガトウ」

全身が黒マントになっており表情も見えないけれど
微妙にカタコトな言葉から男と判別できる人が、ソコから降りてきた。
衝撃材代わりの草木はすでに解除済みだから、そのまま降りてくると衝撃を受けるはずだけれど
まるでスローモーションのようにゆっくりと降りてきたな。
ウチが気がついた時には、ブルックスが目の前に歩み出ていた。

 「ま〜警告音が鳴っているのに、随分と余裕がある泥棒だな」

確かに、喋り声がかろうじて聞き取れる音量の警告音が響き続けていたぞ。
当然に、この部屋の階を警備している自衛兵にも聞こえているので
四面にある入り口のそれぞれのドアを叩く音も響いていた。
叩くというより破壊に近い程の衝撃音が響いていたけれど、全くドアが開く様子は無かったな。

 「サテね。
 タダ、この部屋じゃないノカ。ハヤク案内してもらオウカ」

その言葉のあと
黒マントの男が右手を上げたのを合図に、突如ブルックスがウチに襲い掛かってきた。

右手がウチの首を掴もうと伸ばしてきたので、本能でソレをかわして同時にしゃがんだ。
また床が溶ける可能性はあったけれど、再び床に手をやって瞬時に盾を造形させた。
今度は溶けずにきちんと形となったぞ。

だけど、ソレを見てもブルックスは攻撃を止めようしなかったから
ウチはブルックスの拳を盾で必死に防ぐしかなかった。

 「これは、一体どういう事なんだ?」

ブルックスの反乱とも言える攻撃に、ウチにはどうする事も出来なかった。
これは黒マントの男に操られているという事なのか?
だからといって黒マントの男の所に攻撃する余裕もないな。

ようやく攻撃が収まった時には
黒マントの男の右手が下りていて、ブルックスはその場に倒れていた。


 「ドウヤラ、見えニククなっていたヨウダナ」

黒マントの男の言葉と同時に、何も無い所で何かが崩れる音がした。
音の方へ黒マントの男が進むと、そこで何かを見つけたようにしゃがむと、ソレを掴んでいた。
その手には虹のように色が変化しているエネジスがあって
そのエネジスを置いてあったと思われる机と箱の一部が溶けた状態で現れた。

 「コレが、メレオンですネ。
 お二人さん。ご協力アリガトウございます」

丁寧に礼をした黒マントの男だが、協力した覚えは一つも無いぞ。
ソレが国王の秘宝メレオンなのだとすると、当然そのまま逃がすわけにはいかないな。
これだけ時間が経てば、3階に居る他の自衛兵が駆けつけるはずだぞ。
この部屋のドアを開くのに時間はかかっているけれど、2階の自衛兵だっているんだからな。

 「逃げられると思っているのか?」

造形の盾をウチの得意な造形である槍へと瞬時に変化させて
エモノを黒マントの男の方に向けた。

 「綺麗な変化ダナ。
 タダ、ボクとは相性が悪いヨ」

黒マントの男が何か言っているようだったけど、隙があるように見えたウチは
一撃必殺の突きを黒マントの中段中央へ決めた。

 「と、溶けた・・・?」

・・・決めたはずなのに、造形の槍は刺さった先から溶け出した。

 「良い突きダナ」

黒マントの男は刺さってない槍を右手で払いそのまま手を上げると、ゆっくりと空に浮いて3階へと消えてしまった。
特定のマテルしか使いこなせないウチには、風を使って空に浮いたりする事は出来ないな。

でも、黙って見てるだけではないな。
すぐに床に触れると、天井の3階へ繋がるような階段を造形した。
でも、造形する床の素材が足りなかったせいもあって
3階近くの造形部分は弱くなり、一人が上ったら簡単に壊れてしまいそうな強度でしか造る事が出来なかった。

そうして上ろうとした瞬間

 「緊張し過ぎだって言っただろ〜」

先程まで倒れていたブルックスが突如立ち上がり、ウチの代わりに階段を駆け上がった。
駆け上がったせいもあり、3階に到達した時には中段部分以上が跡形もなく崩れて消えてしまった。


 「・・・?」

ウチには何が起こったのか分からなかった。
この部屋のドアの一つがようやく壊れた音と、そこから駆けつけた自衛兵がウチに何かを言っている事しかわからなかったな。

 「オイ、君。ここで何があった!」

体を揺さぶらされても現実がわからなくなっていて
先程まで起きた状況も、夢のように理解できてなかった。

 「ココにあったのが秘宝だとすれば一大事だぞ!
 手分けして賊を探しだせ!」


他のドアもようやく壊れたみたいで、
2階を護衛していた8人の自衛兵が揃い、それぞれ行動しているようだった。
ウチの所に一人だけ残ってこの状況を確認しているみたいだ。

 「お前の相方はどうした?」

ウチは言葉無く、3階の方を指差すだけだった。

 「3階で倒されたのか?で、お前はどうやってココに降りてきた?」

時間にして数秒だったのだろうけど
長い数秒が過ぎた事でようやく、頭の整理もついてきた。
そこに居る自衛兵に、今起こった事をゆっくりと話した。


 「信じがたい話だが、お前も災難だな。
 この部屋のドア全てが、何かで溶接された状態だったわけだが、
 となると、この部屋の天井を溶かしたのも同じヤツという事になる。
 ここ数ヶ月で頭角を現した賊の一人に、物を溶かすマテルを得意としているモノが居るらしいが
 今回の賊はソイツで間違いないだろう。
 これだけ強固に溶接出来てる事からしても、エネジスとかを使ったとは思えないからな」

事情を話した後、一応の為にウチは身体検査を受ける形になった。
ウチは確かにエネジスを持っているが、実際見たことでソレがマテルの力を持っていない事を
検査した自衛兵は理解できたようだ。

 「ウチにはよく分からないけど、物を溶かすマテルを持った人が
 ここから3階に上がれるだけの風を使ったり、
 逆に衝撃を和らげるように3階から降りる風を使ったり出来るものか?」

ウチは黒マントの男がメレオン以外のエネジスを使っている様には見えなかったし、
溶かすのも体を浮かすのも、黒マントの男が使っている様にしか見えなかった。

 「風のエネジスで暴風クラスの風を使えば、物を溶かして浮き上がるのも可能だが
 そんな風を使えば、この部屋の内部が乱れる衝撃のはずだ。
 だが、ここを見る限りだとそんな風が起こった形跡が無いな。 
 当然、風を使うマテルが得意じゃないと、自身を浮かせたりするのは無理だろうし
 風が得意なマテルを持つとすると、今度は物を溶かすマテルを使った者が居なくなる。 
 お前が風を使って逃がすか、もしくは溶かしたりしない限りはな。
 ブルックスとは付き合いが長いから知っているが、風も溶かす能力も得意な方じゃないからな」

何故かウチに疑いをかけられているみたいなので
階段の造形に手を触れると、ソレを槍へと造変形させてみせた。

 「ウチは、先程言ったように階段を造形して追いかけようとしたけど
 そのブルックスが上っていって使えなくなったんだぞ」

 「造形か。
 その技術を応用すれば物を溶かすことも可能だろう?」

全くウチの言う事を信用してくれそうにもないな。
どうにも嫌な空気になってしまったけど、ある意味での救いの声が上から響いてきた。

 「3階は全滅だ!」

その声と同じくして一人の自衛兵が3階から顔を出す。

 「賊は3階の外壁を溶かして逃げたようだ。
 完全にやられたな・・・」


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状況はどうであれ、ウチは国王の秘宝の護衛に失敗した。
国王によって即日で自衛兵の任を永久に解かれ、
ウチが得るはずだった三ヶ月分のダイア報酬は0となってしまった。

本来なら、ウチは処刑されてもおかしくはなかったんだけど
状況の調査などを行ったところ
ブルックスと黒マントの男は仲間だったようで、ブルックスは長い年月をかけてメレオンの場所を探っていたみたいだ。
そして、運が悪いというか、今回ウチのような新人と組んだ時に奪い取ったという事らしいな。
状況的に、ウチもある意味の被害者という事で
自衛兵の任を永久に解かれるだけで済んだという事らしい。

黒マントの男と仲間だったという事は
ブルックスが操られていたような動作も、演技でなんとでもできたという事だろうな。

運が悪かったといえばソレまでだけど、
ソレよりも護る事が出来なかったウチのひ弱さにショックを受けたぞ。


自衛兵としてウエブには居られなくなったけど、ウチにはまだここに残る理由がある。
ダイア稼ぎのイベント「ダイア・トゥ・マスター」が開催されるからだ。
出る理由は、ダイアを稼ぎたいという事もあるけれど、
それ以上に、多くの賊がこの時期にウエブに集まるらしいから
メレオンへの手がかりが掴めるかも知れないと思ったからだぞ。

優勝賞金以外にも、エネジスなどのダイアに換金できるアイテムも獲る事が出来るらしいけど
そこまでウエブが太っ腹なのにはワケがあるらしいな。

このイベントは、全世界にウエブが豊潤な資金がある事をアピールする場であるそうだけど
それは豊潤な資金によって多くのエネジスなどをウエブに蓄え、そのエネジスをイベントで利用する事によって
多くの有名財閥がウエブに興味を示す事となり、その結果、その財閥がウエブへ集まるようになって
その結果、町の資金源が増える事に繋がり、またその資金でエネジスなどを蓄える事ができるようになる。

・・・という仕組みらしいんだけど
ダイア持ちの考える事はウチにはよく分からないな。

兎も角、そんな「ダイア・トゥ・マスター」に出る為の仲間探しをしなければいけないぞ。
今回は三人一組という条件だからな。


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「ダイア・トゥ・マスター」出場者締切まで残り数日。

ジュリレスターは賊が集うとされている酒場へ向かっていた。
そこに、ブルックス達が来ているかは分からないが
同じ業種なのだから、きっと繋がりがあると思い込んでいた。

ジュリレスターは、結構思い込みの激しい性格である。


その酒場の見た目は、機械的なウエブの町の中では少し異質の、人間的な木造風造りなのだが
入口の引き戸をずらすと世界は一変する。
玄関には二つの鉄製のポール状な物が置かれており、ソコを通らないと中に進めないようになっていた。

この機械をつけた人物は、その酒場の現在の店主であり、とある賊の一人である。
金になりそうなモノを持っている人物なら大歓迎、それ以外ならお断りという分かりやすい性格をしていた。


カウンターしか空いていなかったため、ジュリレスターはその一番奥のところへ座った。


 「ねえちゃん。
 あまり見かけない顔だけど、"大会"にでも出るのかい?」

横に居た男が声をかけてきた。
大会とは「ダイア・トゥ・マスター」の事だ。

 「うむ。その予定だけど、まだ人数が足りないんだ」

 「それでここに来たってワケかい。
 確かに、ここには色んな人材が集まってくるからな」

 「それもあるんだけど、ウチはある噂を聞いてここに来たんだ」

 「噂?」

 「名前は分からないんだけど、モノを溶かすのが得意な男が
 国王の城からエネジスを奪い取ったって話なんだ」

 「本当かい?
 あの国王の城から盗みを働ける奴がいたとはな。
 ・・・いや、待てよ。
 今、モノを溶かすのが得意って言ったよね?
 あの野郎なら可能かもな」

 「その男の事を知っているのか?」

 「最近、ここでも噂になってる"新種"でな、確かクラークとかいう名前だったはずだ」

 「クラーク・・・」

 「あぁ、でも、ねえちゃん。
 クラークを仲間にするのは無理だと思うよ。
 すでに大会にエントリーしてるって話だからな」

 「・・・そうなのか」

あの黒マントの男はクラークという名前なのか。
それと、「ダイア・トゥ・マスター」に出る事が分かったのはありがたい情報だな。
ウチと同じ新種だった事は驚きだけどな。

 「ところで、ねえちゃんは何を持ってきたんだ?」

 「何をって何の話だ?」

 「まさか、人材を集めるためだけに、ここ来たって事は無いよね?」

 「うむ。それだけではないな。
 そのクラークについてもう少し知りたいんだ」

 「・・・いやいや。
 どうもこの店のルールを理解してないで来たっぽいな。
 いいかい。
 ここではダイアの代わりにエネジスとかを支払う事で食事が出来る所なんだよ。
 入口のセンサーをクリアしてるって事は、ねえちゃんも何か持ってるはずなんだよ」

あの入口のポールがなんだかのセンサーになっていたという事だな。
という事はウチの場合は、エネジスに反応してここに入る事が出来たようだ。
だけど、このエネジスを失うわけにはいかないな。

 「持ってはいるけど、それを支払いに使うわけにはいかないな」

 「知らないでここに来たっていう所で大体見当はつくけど
 そんな事言ってたら、平和にこの店を出ることは出来ないよ」

 「その時は・・・その時だぞ」

 「騒ぎを起こす気かい?
 でも、止めておいた方がいいよ。
 ここの店主も血が騒ぐタイプらしくて、元々の店主から奪い取ってここを"経営"してるそうだからね」

 「ウチもそちらの方が得意分野かもしれないな」


ウチらのやり取りを見ていたのか、いつの間にか後ろから大男が割り込んできた。

 「なんだか、おもしれぇ話をしてるみたいじゃねぇか?」

 「お前か。へんなチョッカイをかけないでくれよ」

 「む?」

この二人は知り合いなのか?

 「ねえちゃん。この男"も"ちょっと癖のあるヤツでね。
 この話はもうやめよう」

 「いいじゃねぇか。
 もしかしたら、この姉ちゃんも目的が同じかもしれんからなぁ?」

隣の男が首を横に振って話を止めようとしているようだったけど
ウチの勘で、この大男はクラークに繋がる何かを持っていると感じ取った。


 「ウチの目的を知ってるのか?」

 「さっき話してただろ?
 クラークについて知りたいんじゃないのかぁ?」

 「うむ。
 それと、国王の城から盗まれたエネジスにも興味があるな」

 「やっぱり思った通りだなぁ。姉ちゃんもエネジス集めてるんか。
 じゃ同業って事になるけどよ、お互い有益な情報なら分け合わないかぁ?」

コレは困ったぞ。
上手い事、大男からクラークの情報を得ることができそうだと思ったが
ウチにはネタといえるモノがないな。

 「ウチはここに来てまだそんなに日数が経ってないから
 有益な情報と言えるものがあまりないと思うぞ」

大男は一瞬目を止まらせたように動かさなかったが
アゴに指を当てると、何かを思いついたように見えた。

 「俺もよぉ〜実はさぁ、あんまり有益といえる情報はないんだわ。
 ただ、国王の城のエネジスが盗まれたって話は初耳でなぁ」

ウチはこの時、ミスをしている事に気づいていなかった。

 「それは・・・ウチが城で働こうとしてたからだな」

 「なるほどねぇ。だけどな姉ちゃん。
 国王ってヤツは表面(オモテツラ)をすっごく大事にするヤツでねぇ
 変な噂を広められないように彼是小細工をする事で有名なんだわ。
 つまりね、姉ちゃんが握ってる情報は本当の城の関係者じゃないと分からないってわけよ。
 ウエブに来てばっかで働こうとしてるヤツに噂が広まるようなヘマはしねぇな」

 「いや、それは・・・」

ようやくウチは気がついた。
この大男は国王の城で警備をする事を関係なしに、ウチが嘘をついている事を疑っているんだ。
このままだと、これ以上の情報を教えてくれなくなる可能性が高くなったな。

 「何処で得たネタかしらねぇけど、姉ちゃんも変な噂をつかまされたもんだなぁ」

む?

 「この町じゃ、そういう適当なガセネタがゴロゴロ転がってるからなぁ。
 いくらダイアを払ったかは知らんけど、いい社会勉強になったと思えば安いかもな」

この大男、ウチがガセの情報をつかまされたと勘違いしてくれてるようだ。
これ以上、下手な話をする前にここを出たほうがいいだろうな。

 「そこの男の人に言われたんだが、
 この店はダイアじゃなくてエネジスとかで支払いをすると聞いてるんだが
 生憎ウチには支払いできるエネジスとかがないんだ。
 どうにか他に出られる方法は無いのか?」

 「姉ちゃん。流石にソレは無理な相談だな。
 ここに入ってる時点でエネジスとかを持ってるのは確定してるわけだしさぁ
 それとも〜俺に協力してくれるって言うなら話は別だがなぁ」

横の男が先程より更にオーバーに首を横に振っているが
ウチには脱出以外の選択肢は無いんだ。

 「何をするんだ?」

大男が急に近づいたかと思うと耳元で囁く

 「ここの店を奪う。そうすれば支払いは0だからな」

む?
それは、つまり・・・

 「暴れるという事か?」

 「まぁ、平和には出れないさ」

ソレを聞いてか横に居た男がスッと立ち上がる。

 「ギンエイ。このねえちゃんは無関係だろ」

 「あぁ?シロちゃんは姐さんの命令を無視するのかぁ?」

 「そうは言って無いけど、万が一関係者ならどうする気だ」

 「そん時は、ここで道連れにすればいいだけの話だろ?」


ウチには分からない会話をこの二人が続けていたが
急に大男が棒の様な物を掴んで叫ぶ。

 「お〜い!ここの店主!食い逃げ犯が逃げんぞ!」

その言葉の瞬間、他の客人が一斉にウチら3人の方に振り向いた。

 「姉ちゃん。この店の奴らはほとんどがここの店主の仲間みたいだぜ。
 俺は姉ちゃんも"同類"だと思うから協力するんだぜ?
 失望させんなよ?」

どういう理屈でこういう話をしたのかウチには分からないけど、
とりあえずこの大男のせいで逃げ場を完全に失ったのは確かだ。

 「なぜ、ワザと騒ぎになるような言動をしたんだ?」

 「こうでもしねぇと、ここの店主のバカは出てこないだろうからな」

 「いや。ギンエイは単純に喧嘩がしたいだけだろ」

シロと呼ばれた男が軽い言葉のツッコミをする。
それと同時にウチを庇う様に前に立っていた。

 「戦闘向きじゃねぇんだから、シロちゃんは下がってろよ。
 それに、その姉ちゃんもココに居るってことはタダの姉ちゃんじゃねぇよ」

確かに、ウチも戦えと言われたら別に逃げるつもりはない。
でも、ウチに戦闘の理由は無いんだ。
それでも防衛という意味で、床に手をあてると瞬時に盾を作り出した。
城の時ほどではないけれど、近未来的な町なだけあって強固な盾を作り出す事ができた。

 「へぇ・・・シロちゃんは姉ちゃんに護ってもらうほうが賢明だなぁ?」

 「いや、ギンエイ。護りは大事だぞ」

 「シロちゃんの場合、護りって言うか強運って感じだけどなぁ?」

ウチら3人はいつの間にか小さな三角形を作るように背中合わせの状態になっていた。
というのも、その三角形の周辺を囲むように、円の集団がこちらを牽制していたからだった。


 「ギンエイと言ったか。
 店主はこの中に居る様なのか?」

 「いぃや、居なさそうだな。
 というか見てみなよ姉ちゃん。この雑魚共は"似た者"しか居ないだろ?」

ギンエイの言う通り、確かにウチらを囲んでいる他の客人は
嘘のように似たような顔をしていた。

 「複製(クローン)と言うべきかね。
 こんなのを相手にしてもおそらくキリが無いな。
 俺が店主を探し出すまで何とか耐えてくれよ。ギンエイ」

シロと呼ばれてた男は目を瞑り両手を祈る様に胸の部分に合わせた。

 「彼は大丈夫なのか?
 ウチはどうすればいい?」

 「姉ちゃんは、シロちゃんを護りつつ、この"似た者"集団を蹴散らしてくれよ。
 その盾は武器にも出来るんだろ?」

 「うむ。ウチは槍のほうが得意だからな」

 「へぇ〜。
 じゃあ一つ、俺の剣も作ってくれないか?」

棒のような物をギンエイは持っていたのだが、使えないかの様にその場に投げ捨てた。
槍を作れると言ったウチに対して、今まで持っていた武器を捨てた事で
直感的にギンエイがこの店主の仲間ではないだろうという事をウチは勝手に理解した。

 「わかったぞ。
 どのような剣が良いんだ?」

 「そうだなぁ。こんだけ居るとなると長剣タイプがベストじゃないかねぇ?」

実は剣はあまり得意な造形ではなかったのだが
槍に似た長剣を即座に作り出し、ギンエイに渡した。

 「ちょっと細い感じがするが、コレはコレで使いがいがありそうだなぁ。
 店主は俺が始末するから、そこんところよろしくなぁ!」

三角形の陣を崩したギンエイは"似た者"の客人の方へ突っ込んで行った。
動いた事で"似た者"の周辺の円の形も変化し、人数が減った二つの円が出来上がった。
ウチはシロという者を護るように槍を構えた。


大男なはずのギンエイは"似た者"が囲んだ事で姿が見えなくなったけど
"似た者"が消えていく事で次第にその姿が現れ始めた。

長剣を振り回すギンエイだったが、その動きは非常にゆったりとしている。
すると"似た者"もその動きに合わせる様にゆっくりな動きになっている。
まるで、その場所だけ時間が遅くなっているかのような錯覚に落ちいった。

 「おいおいおい!
 いくら操れるかしらねぇけど、出てこないってなら徹底的にぶっ壊すぜぇ!」

ギンエイを囲んでいた"似た者"はすでに全滅しており
物足りないのかそこにある机や椅子を叩き壊していった。
破壊する時のみ勢いがついて、それ以外の動きはゆっくりとしている不思議な動きをしていた。
それを見てか、ウチ達を囲んでいた"似た者"が少しずつギンエイの方へと流れ出していく。

 「ねえちゃんは意外と冷静に見てるんだな」

目を瞑っているはずだけど、シロという者はウチの状況をきちんと把握していた。

 「ギンエイのような無駄な攻撃はウチは好きじゃないな。
 武器は守るために身に着けるモノだと思うぞ」

 「人にはそれぞれ理由があるからね。
 ・・・さて、目的の人がそろそろ降りてくるようだぜ」

 「目を瞑る事で人物の動きを把握できるのか?」

 「いやいや。
 俺のマテルはソコまで高性能じゃない」

ウチらが"似た者"を避けつつ会話を続けていると
ギンエイの近くに粉煙と爆音が舞い散った。


 「シロちゃん!これはメインが来たのかぁ?」

ギンエイの後ろにウチらがいる状態だったけど
ギンエイはこちらを向かずにシロという者と話を続ける。

 「ああ。ギンエイの苦手なタイプの印象がするけど、頑張れよ」

 「小細工系かぁ?
 シロちゃんの援護射撃に期待かねぇ」

 「こっちにはねえちゃんもいるし何とかなるだろうよ」

確かにこうなった以上は戦わずに出られそうも無いけど
勝手にウチを戦力に加えるのは止めてほしいものだ。
・・・と思っていた矢先、さっそく出番がやってきたみたいだ。

粉煙で店主らしきな人物は見えなかったけど
突然岩のような物が飛んできたかと思うと、ギンエイは横にあったカウンターの方に吹き飛ばされてしまっていた。

 「なんだアレは?」

 「ねえちゃんも確かにギンエイと"同類"みたいだな。
 アレはマテルの一つさ。
 この粉煙にしてもそうだけど、土系統のマテルを使っているみたいだ」

 「複製(クローン)の方は別の人物のマテルなのか?」

 「多分、どっちも店主のマテルだろう。
 この店主の場合は複製(クローン)がメインで、おそらく土系統の方はエネジスとかで代用していると思うぜ。
 この店主以外に人らしきな人が居る感じがしないからな」

ウチは複数のマテルという点で黒マントの男を思い出していた。
物を溶かすマテルを持ちながら、風も操れる。
例外なく、得意なマテル以外をまともに使おうとするなら、エネジスの力が必要らしいけどな。
黒マントの男は、物を溶かすマテルを持っている事で有名になったみたいだけど
風のマテルもそれなりに使いこなせる可能性もあるんだろうな。

そんな事を考えても、終わった事はどうにもならないな。
粉煙が晴れない限りその店主に近づくのも難しいという事だけど
何とかこの場を乗り切ってみせたいと思った。
護るモノは違うけど、メレオンの二の舞だけは絶対阻止してみせるぞ。


 「痛ってぇなぁ。
 その煙がマテルの供給源ってわけかぁ?」

ギンエイは剣で土の塊の衝撃をかろうじて防御していたようで
ダメージはあるものの最小限で抑えた雰囲気だった。

 「シロちゃん。あの粉は何とかならんのかね!」

 「そうだな。とりあえず人の代わりに土の複製(クローン)がくる雰囲気だな」

 「ちょ・・・さっきのが複製されるのかよ」

シロという者の読み通りで、ギンエイが喋り終わった瞬間
粉煙からいくつかの土の塊がウチ達めがけて飛んできた。
ウチはとっさに槍を盾に造形し直し、シロという者の前に立ち防御を試みている。
残念ながらギンエイの方まで護る余裕や時間は全く無かった。

数十秒間、土の攻撃は続いたが、ウチの方には無駄と思ったのか
ギンエイが倒れた事を確認した後に攻撃を止めた。

 「おい!ギンエイ生きてるか!」

剣で防御はしていたようだけど流石に全てを受け止めるのは不可能だったようで
倒れているギンエイからの返事は無い。


ウチはまた護る事が出来ないで終わるのか?


そう思った瞬間、盾を槍に造形し粉煙の方に突進していた。

 「ねえちゃん、そりゃ無茶だって!」

シロという者が止めていたのだろうけども、ウチの耳には届いていなかった。
突進していたウチは気づいていなかったけど、粉煙はウチを囲むように動いていたのだった。


 「ワシの店でなにしとるか、小娘」

粉煙に囲まれたのに気が付いたのは、店主の姿を見た時だった。
店主とウチの二人を粉煙がお椀状に覆っていた。

 「この店は元々の店主から奪ったと聞いたぞ」

 「そらそうよ。
 だが、この町じゃそれが当然の事だ」

 「ウチはそういうのは好きじゃないぞ。
 暴れた大男の分を含めたお代ならダイアできちんと払うから
 ここから返してもらえないか?」

 「それは無理ってもんだな。小娘。
 お前ら3人とも、エネジスを全て置いていくというなら少し考えてやってもいいが」

 「ウチのエネジスはどうしても渡せないな」

 「じゃあ、命置いてけ」

その瞬間、そこ居たはずの店主は粉煙に消え
ウチの周辺、上と四方から土の塊が飛んできた。
どう考えても全てを防ぐ事は不可能な数だ。


ウチは槍をその場に刺し、両手を床につけた。
瞬時にウチ全体を護る甲羅のような防御壁を作り出し、土の塊の攻撃を防いだ。
ここの床が硬物質を使っているおかげで、ほとんどダメージを受けずに済んだ。

護るために、その結果、攻撃の主を殺める事は仕方ない事だ。
ウチはそう思っている。
その防御壁を触ると、店主が居ると思われる粉煙の方をめがけて
槍の矢をイメージし掌で押し出すように発射した。

その瞬間土の攻撃が止まり、粉煙も一気に晴れていく。
ソレを確認して防御壁を解除し、槍へと戻した。
飛ばした槍は店主の右肩に突き刺さり、瞬間で気を失っていた。


 「ねえちゃんがやったのか?」

 「不本意だけど、ウチ自身を護るために店主の気を失わせた」

 「助かったよ。ねえちゃんにも分け前あげるからな」

 「ウチはいらないよ。
 うちが欲しかったのは情報だから」

そういった瞬間、声と言うより怒号な様な音が急にウチ達を包む。
ギンエイが奇跡的に生きていたようで、気がついた事で怒りを爆発させていた。

 「シロぉ・・・ソコでぶっ倒れてんのが、クソ店主かぁ?」

 「いやギンエイ、大丈夫か?フラフラしてるぞ」

 「いいから、答えろよぉ。こいつなんだろ?」

 「ああ。さっさとエネジス頂いてここから出ようぜ」

 「身包み剥がすのは俺の仕事だからなぁ!邪魔すんなよ!!!」

フラフラになりながら、ギンエイは店主の元へ近づく。
ウチが作った右肩に刺さってる槍を抜き取ると、
そのまま剥ぎ取るという表現では生ぬるい形で、店主が身に付けていたエネジス類を強引に取り出した。


 「お前達も被害にあったから、見ない振りをしようと思ったけど
 そのやり方はウチは嫌いだな」

 「はぁ?姉ちゃんもエネジス置いてけよぉ!
 新種なんだろ?俺にはわかるんだよ!」

フラフラになりながらウチの方にギンエイが向かってくる。
ウチも槍を持って攻撃態勢になる。
だが、その間を裂くように、一つの影がギンエイの腹に一撃を食らわせた。
瞬間でギンエイは気絶した。
その影は深めの帽子をかぶっているせいで表情はわからなかったが
声調からして女であった。


 「すまんな。バカが暴れたみたいで」

 「あ、姐さん。何でここに?」

 「お前らの行動は、お見通しなんだよ。
 しっかし、その子が居なかったら、お前らもあの世で宴会してるところだわ」

 「す、すみません」

 「謝るぐらいなら、するんじゃねぇよ。
 シロクロ。ソコで眠ってる馬鹿ギンを連れてさっさと帰るぞ」

どうやら、この二人のリーダーのようだな。
だけど、このまますんなりと帰せる気分じゃないな。

 「ちょっと待て。
 お前はこの二人のリーダーみたいなもんだろ?
 ウチはこういう事は好きじゃないんだ」

 「ん?こういう事?
 ってか、あんたの好き嫌いなんかどうでもいいけどね。
 とりあえず、うちの馬鹿どもを形的に助けてくれたみたいだから、礼しとくよ」

そう言うとウチの前に黄色のエネジスを転がし
煙のように消えていった。
エネジスに気を取られたせいで、その女が消えたのを確認した時には
シロクロとギンエイも居なくなっていた。




近未来的な町並みのウエブにあるもう一つの顔。
ソレがこういった賊同士の争いみたいだ。

ウチは少しずつその争いに巻き込まれていこうとしているのかもしれないな。
「ダイア・トゥ・マスター」は、そういう者が集まる大会だという事を少しだけ感じた。

それにしても、ウチは黄色のエネジスを捨てられずに居た。
元々、ダイアに換える気はしなかったけど、その色がウチの行動を抑制してしまっていた。

情けないほど、ウチは黄色には目がないのだ。







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