05
【エネジス】


さて、一度状況を整理しておくか。

まずオレは、ガンプというエリア警察機構のモノに間違いなくはめられている。
ガンプはこの地の水問題を解決すれば、今オレにかけられているマテル犯罪容疑を解除すると約束はしたが
その約束の本人はリディとナビ職を連れてこの地を後にしたらしい。
マテル犯罪者となっているオレの動きを止めるためなのか、
このままこの地に永住させる気なのかは分からないけどな。

次に、水問題の方だが
当初は水を供給する為に、この豪邸の主サーティスを説得する所からはじまった。
サーティスはガンプらエリア警察機構のモノを一切排除するなら、水の供給を復活するという話になったが
ソレとは別にサーティスのハンター仲間であったアレンジが
サーティスを説得して結果的に水供給問題は解決の方向になったようだ。

今や、エリア警察機構の一切排除の方は別の約束になっており
コレを解決しない限りオレはこの地から出られそうにもない。
一切排除のためにはガンプに話をしないといけないわけだが
そのガンプは上記の通り居なくなってしまっている。

更に悪い事に、その約束を仮に反故にしたとしても、この地から出るにはナビ職の車を使うしかなく
自力で行くにも砂漠には【地場】と呼ばれる力が働いており、マテルの力があってもまともに歩く事はならないそうだ。
元々マテルを持っている者なら【ナビ職便】といわれる定期便で外に出られるそうだが
オレのような"外からきた"人間には使用することが出来ないらしい。

つまり、オレがどうあがいてもここから出るのは無理のようである。


納得できない所を上げればキリはないが
この世界にも差別は存在しているのだと実感させられた。
無理矢理にでもナビ職便に乗り込めばここから出られるのだろうけど
恐らくまたマテル犯罪者とか何とかになるのだろうな。
すでに罪を重ねているわけだから、別にそれが増えた所で捕まってしまえば結末は同じだろうとは思うが
それでも、オレにも一応意地がある。
それに、乗り込んだ所でどっちにしろ、箱に閉じ込められるのと同義なわけだからリスクが高すぎる。
ここから出るには、ナビ職便ではない別の方法を考えるしかないな。

納得できないといえば、水問題が解決に向かったとはいえ、この2人のハンターには何か引っかかる点がある。
サーティスの方は砂漠という日中は暑い気候にもかからわず、冬服を着ていた点。
アレンジの方はガンプと繋がっていると思われる点。
そういう不審点からも、すんなりこのまま水問題が解決に向かっていくとは思えなかった。

ガンプが帰ってこない限り、オレにはこれ以上どうする事も出来ないようだ。
仮に地場という設定が嘘だとしても、土地感が全くないオレが一人で移動するのはある意味で自殺行為に思える。
出来る事といえばこの部屋を出て、あのハンター達からこの世界の情報を得るぐらいだろうな。

この部屋は入口も出口も鍵で開ける仕組みになっており、逆に言えば鍵がないと中から出れないことを意味している。
・・・そのはずなのだが、鍵をなくしたわけでもないのにオレは今ここから出れなくなっている。
鍵をさしても全く反応しない。
内線用の電話があるようなのでかけてみるが、これも全く反応がない。

 「コレは一体・・・どういうことだ?」


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それは、オレが"閉じ込められる"小1時間前の事。
とある一室のサーティスの部屋ともいえる、この豪邸一番の大きさの空間である。


 「水のエネジスはやはり自分で持っていたのですか?」

 「そうです。他の所で保管するより一番確実ですからね」

 「それで、その冬服の中に入れておいたというわけですか」

 「流石アレンジ君。その通りですよ」


ここで起こるは、巨大な力の求め合い。
砂漠の地に埋まっている多くのエネジスの力が地場となり、人を縛りつけている・・・。

【アグリエア】と呼ばれる水の源になるエネジスである。
砂漠の地に埋まっている事自体が不自然極まりないのだが
ソレを見つけた事によって、エスケという町は誕生したのである。
ソレを見つけたサーティスはモノを見つける能力に優れており、それはハンターとして適役のマテルでもあった。


 「えぇ。ちょっと聞いてみますね」

サーティスとアレンジはその一室にあるソファーに腰をかけ、向かい合う形となり談笑をしていた。
アレンジはどこからか電話がきたようではあるが、その場を離れることなく会話をしていた。

 「サーティス。これからお客さんが増えても問題ないかな?」

 「アレンジ君の友達ですか?」

 「いえ。私の部下みたいなモノです。用事を頼んでいたのを忘れていたのでね」

 「そうですか。問題かどうかは出迎えをした時にでも判断させてもらいますよ」

 「それは助かります」

そう言うと再び電話の主と会話を再開するアレンジ。
サーティスはさほど嫌な顔もせず、外の水を眺めていた。
少しして電話を止めるとアレンジが神妙な顔で話をはじめた


 「私と一緒に来たあの少年のことなんですが、サーティスはどう思います?」

 「どうと言いますと?」

 「あの少年はこの地域の者ではありませんし、なによりマテルを持たない"新種"ですしね。
 そんな人が、なぜ見ず知らずの町に協力をすると思います?」

 「・・・そういえば、警察はそういう種族を捕まえてるという話がありますね」

 「そうなのです。
 これは私の仮説ですが、あの少年は警察とグルになって
 サーティスの【アグリエア】を含めたこの地のエネジスを狙っているのではないかということです」

 「・・・確かに、あの少年は警察に頼まれて、私を説得しに来たようでしたね。
 警察が"新種"を捕まえてる事実があるのに、彼が協力出来ているのはおかしい感じがしますし
 何より、今はその警察がいませんしね」

 「えぇ。だから気になるんです。
 実の所、警察が捕まえてるというのは表向きで、裏の仕事を隠れてやっているのが
 マテルを持たない"新種"の彼らなのではないかという事です。
 今回で言えば、サーティスに水を開放するように要求したわけですよね?
 でもこれは別の手を使っただけで、結果は警察が開放させるように要求した事と変わりはないですよね」

 「・・・そうですね。
 でも、警察がここを仕切ろうとしたり、エネジスに絡んでこなければ私はソレでもいいのですよ」

 「そこが警察の狙いなんですよ。
 この地に居なくなった事で、結果的に居なくなっただけなのに目的を果たした感じがしませんか?」

 「そう言われると・・・」

サーティスが複雑な顔をすると、神妙だったアレンジの顔が逆に緩んだ。


 「警察としては、私がここに"戻って来た"ことが誤算のはずです。
 水を開放するきっかけで新種の少年はこの豪邸の中に入り込む事ができたわけですが
 私が居るせいでエネジスを得るチャンスは確実に減ったはずです。
 もしかすると、この件で警察と連絡を取る可能性があります。
 あと、先ほど私の部下がここに来ると言いましたが、その内の一人にはこの豪邸への監視を兼ねさせます」

 「そこまで考えていたとは、アレンジ君は流石ですね。
 はじめから君を頼りにしておけばよかったのでしょうね。
 ミカの裏切りの一件から人自体が信用できなくなっていましたが、逆に信じられる人も当然に居たんですね」

サーティスもアレンジの話を聞いてホッとした表情に変わる。
アレンジは一瞬だけ悪役のような笑みをすると話を続けた。


 「更にもう一つ、警察と彼への対策をしてありまして
 私が警察の人と繋がっているように演技してあるんですよ」

 「ん?アレンジ君の推測ですと、少年と警察は手を組んでるんですよね?
 ソレに何の意味があるのですか?」

 「少年とは別に警察と繋がっているという部分を見せておけば
 ここにも仲間が紛れているんだと言う事で、油断も生まれるでしょうからね」

 「私を罠にかけたつもりが、実は自分が罠にかかってるという事ですか」

 「まぁ・・・そんな感じですよ。現に彼の行動はある程度制御させてもらってますし」

 「そこまですでに行っているとは・・・手際が良すぎですね」

 「サーティスの豪邸を訪問しているモノは常に情報に入れてるんですよ。
 私は外からこの地を守っているつもりだったものですから。
 具体的には、一度少年が豪邸から出てきた時にカマをかけつつ情報を得たという事です」

 「そこまでしていたのですか・・・。
 そこまでの手際の良さという事は、具体的な罠もすでに実行しているのですか?」

 「まずは泳がせてから・・・と思ってましたが、この豪邸に入って一つ思いついた事があります。
 このカード式の鍵はエネジスの性質を持っているようですね。
 ということは、こちら側で開かないようにロックする事もできるのではないですか?」

 「えぇ。それは可能です。この部屋ですぐ出来ますよ」

 「それでしたら、新種は閉じ込めておきましょう。
 そして、こちらのメンバーが揃ってから事の真相を吐かせましょう。
 ただ、完全にロックするには新種が間違いなく部屋に居る事を確認してからですね」

 「えぇ。それではソレもあわせて確認して、ロックしましょう」

サーティスは立ち上がると一番奥にある鉄製の扉へ向かった。アレンジもその後ろからついていく。
扉を開けたその部屋はモニタールームのような所になっており、監視室といえる場所になっていた。
ただ、全ての部屋をモニターで見れるわけではなく、リクがいる部屋もモニターでは見ることは出来なかった。
それとは別に、屋敷全体の設計図が白線で書かれたような画面があり、そのいくつかの所が赤く点滅している。


 「あの少年の部屋を覗く事は出来ませんが、そこに居るかどうかならここでわかりますよ」

 「569号室に一人居る事になってるが、これがあの新種の少年ということですね」

 「はい。この状態なら今すぐロックできると思いますよ」

 「それではお願いします」


サーティスがモニター下にあるパソコンのような機器の場所へ行くと、なんだかの操作を始めた。
数秒もせずに設計図の方の画面が変化を起こす。
569号室だけ黄色で表示され、部屋全体が×表記されている。
よくよく見ると、黄色ではなく白色ではあるが×表記された部屋がいくつかあるようだ。

 「これであの少年はあの部屋を出れなくなりましたよ。
 水側はガラス張り風になってますが、あのガラスを壊すには複数のマテルの力が絶対ですから
 新種であるあの少年には不可能でしょう」

 「この豪邸の鍵を開けるには、このカード式の鍵が必要みたいですが
 ロックをかけると鍵が無効になるって事ですか?」

 「そういう事になりますね」

 「それでしたらコレでとりあえずは安心ですね。
 もう少ししたら部下が到着すると思いますので、迎えに行きましょう」

 「そうですか。それでは行きましょう」


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――というような
真相があったことを知らないオレは、必死で鍵を差し込んでみるがドアは反応しない。
次にドアも叩いてみるがやはり全く反応しない。
どうやら、オレがはめられたのはガンプだけでなく、このハンター達にもって事か。


どうも終盤の話の切り替えがまずかったのだろうな。
オレがこのエスケの町から居なくなるという事を言ったせいで、
サーティスはガンプが帰ってくるまでオレを逃がさないようにここに留めさせようとしてるんだろう。

・・・いや、待てよ。
地場がある時点で逃げ切れない事は分かっているはずだ。ソレなのに閉じ込める理由があるのか?
それはオレにこの中で行動されるとマズイという事なのか?
それとも端から、ガンプとアレンジとサーティスは手を組んでおり
オレを捕まえるために色々と細工をしてたという事か?
いや、そんな回りくどい事をしなくても、それはエスケの町に入る所の砂漠でオレを捕まえれば終わる話か。

だとすると、コレはあのハンター二人の作戦というにもなりそうだが
それにしても、この湖の件を解決させろと言ってきたのはガンプだしな。
その話がなければオレはこの町に留まる理由がなかったわけだし
あの二人だけの作戦というわけでもないのか?

いやいや、そうでもないかもしれないな。
ガンプとアレンジは繋がってはいるがそれぞれに目的が違うという事なら、なんとなくこの展開も分かる。
そもそもガンプと繋がっているのであれば、オレがエネジスを持っていることも知っているはすだ。
オレを犯罪者確保の名目で監禁しておいて、のちに警察に引き渡す時にハンター達はエネジスを報酬としてもらう。
そういう展開も十分ありだな。

となればハンター二人の狙いは、オレのエネジスだろう。
デックスのとある店で見せた反応からしても、このエネジスは高価なモノであることは間違いないわけだし
ソレを狙ってきた盗賊団もどきもいたわけだしな。

ただ、その説が本当だとすると
このままここで大人しくしているわけにはいかないわけなんだが、どうしたものか。
マテルという非常識な力が当然にあるのなら
逆に、ここがマテルの力が通用しない部屋の作りになっていても、おかしくはないだろう。
やれる事はやっておくべきだな。


鍵を持ったオレは、あるマテルの力をイメージして差し込んでみた。
驚く事に、今度は素直にドアが開いた。

 「"こういう"使い方もあるわけか?」


部屋を勢いよく出たオレは、出口に向かって走り出していた。
エスケの町からは出れないわけだから、このまま屋敷から逃げれたとしてもいずれ見つかる事にはなるが、
それでも、アノ部屋に閉じ込められるよりは何かの対策は立てられるだろう。

そう考えながら入口付近に到達した時である。
タイミング悪く別の方角からあのハンター二人の話し声が聞こえてきた。
声からするにオレよりは遠くに居そうだが、このまま入口に向かって走っていけば見つかるであろう。
近くに二つの部屋があるが、今持っている鍵で開くとはとても思えない。
それでも何もせずに捕まるのなら、足掻いてでも"鬼"から逃げるべきである。

また、先ほどと同じようにマテルの力をイメージして鍵を差し込んでみる。
これはマスターキーではないはずだが、普通にドアが開いたため
奴らが別の所へ移動するまでこの部屋で待機する事にした。


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入ったは良いが、この部屋は異様に寒い。
更に、電灯自体が見当たらないので真っ暗だったのだが、
かすかな光がもれているおかげで、時間が経つ事で周りを見る事ができるようになった。
そして、目が慣れた事により"寒い"正体が判明した。

オレの身長をはるかに越える大きな石がソコにはあった。

 「これも・・・エネジスか?」


この部屋には色々と配管が通っており、よく見ると壁を貫通して外に何本か配管が伸びているようだ。
単純にだが、考え方によってはここを壊せば外に出られるかもしれない。
いや、それもだが、この巨大なエネジスは「この土地の命」のようだ。
そのエネジスからは溢れるように水滴が溢れ出していた。

流石にこのエネジスを奪って逃げることは不可能だが、このエネジスが無くなれば
この町自体が存続できなくなる事はように想像できた。
奪わなくてもこのエネジスを町に開放すれば、水の支配者であるサーティスの意義は無くなる。
ただ仮にそんな事した所で、水問題は解決するのだろうが、オレの立場が危うくなるだけである。
オレが捕まりそうになったときの"人質"には使えるだろうけどな。


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入口に移動していたハンターの二人は、アレンジの部下と合流していた。

 「彼らが私の部下です。
 こちらの大きい子がマイケル。もう一人の子がラルフです」

 「サーティス町長よろしくお願いします」

 「よろしくな。町長。
 そういえばここには新種の一人が居るんだろ?
 "レーダー"張らなくてもソイツが居るのはわかるけどさ、アレンジさんに確認しておきたい事があるんだけど」

 「どうかしましたか?」

 「新種っていうのはマテルの存在が薄いからきちんとレーダーを張らないと探しにくいんだけどさ
 どうした事かこの新種ははっきりと分かるんだよな。
 確かアレンジさん"封印"したって言ってませんでしたっけ?」

 「そうですが・・・そういう新種も居るという事なのでしょう。
 先ほど電話で話した通り、怪しい動きをみせそうでしたので、彼の行動は止めてはありますよ」

 「じゃあ、ソコに別の気配が来たら連絡すればいいんだな。
 一応、外で見張ってた方が良いかい?」

 「外から別の者がやってくる可能性もありますからね。お願いしますよ」

アレンジにお願いされた背の小さいラルフというモノはそのまま外に出て行った。
ところで、アレンジの部下もとい後から来たこの二人組だが
実は背の大きいマイケルと共に、リク達をこのエスケの町に誘い込ませたあの二人組なのである。

しかし、この二人はガンプの命令で、リクというよりナビ職の車を引き込ませただけであり
今ここに居る新種がその時の人物の一人である事はわかっていなかった。
ラルフはなんとなくレーダーの雰囲気でソレを感じてはいるようではあるが、確信を持てるレベルではなかった。
なお、ラルフは今の段階で唯一リクが別の居場所に居ることをわかっている人物でもある。

ただし、ラルフは元々リクがいた場所を教えてもらっていないので
居る事はわかっていても、ソレが別の居場所に移動したという事までは分からないのである。
そして、そのおかけで
ラルフのレーダーを信頼しているアレンジはリクの居場所を再確認することも無かった。


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 「声が増えたな・・・ハンターの仲間か?」

いや、ハンター仲間というか、アレンジの仲間なんだろうな。
オレは水のエネジスがある部屋で聞き耳を立てつつ状況を感じていた。
しかし、段々と声がこちらに近づいてくる。
コレはまさか、ここに入ってくるんじゃないだろうな。


 「この部屋が【アグリエア】を移転保管している部屋になります」

サーティスがなにやらこの部屋を案内しているようだ。
そして、このパターンはほぼ間違いなく入ってくる。
ただ、この部屋はこの水のエネジスと配管以外何もないように見える。つまり、隠れれそうな場所がないのだ。
光でも灯されたモノなら一発で見つかってしまう。
仕方なくベタではあるが、エネジスの裏側でこの場をしのぐ事にした。

久方に見る大きな光がドアの向こうから飛び込んできた。
目が痛くなる強さなので一瞬だけ目を閉じた。
目が慣れてうっすら開けてみたが、どうやら部屋のドアは開けっ放しである。


 「コレ程の大きさになっていたとは・・・」

 「えぇ。私が見つけた時より倍以上に大きくなっていますよ。
 どうやら空気に触れることでこのエネジスは成長を続けているようです」

 「コレだけの大きさなら、奪われる心配はないでしょうね」
 
 「アレンジ君。それはわからないですよ。
 全部屋に鍵を使わずに侵入した時には警報を鳴らす仕組みにはしてはいますが
 それでも心配なのです」

 「今後はラルフも居ますし、今よりは安心して暮らせますよ」

 「そうですか。ラルフ君のレーダーはソコまで信用できるものなのですね」

 「えぇ。彼は相当"神経質"な性格ですから」


あのハンター二人がこのエネジスを見ながら会話をしているようだ。
それともう一人居るようだが、神経質というキーワードで苦笑いをした程度でしか存在を感じ取れなかった。

コレでわかった事は、ハンター仲間は全員で最低でも4人は居ることになるな。
ここに居ないと思われるラルフというヤツはおそらく外にでも居るのだろう。
信用できるといわれてる割には、オレがここに居る事を知らせてないようでもある。
ある意味そのラルフというヤツのおかげで助かっているのかもしれないな。

結局隠れているオレに気づく事もなく、光と声が消えた。
すっかりエネジスに背中をつけていたので、背中だけがビチョビチョである。
そしてエネジスから背中を外そうと両手をエネジスにつけた時である。
ソコにあるはずエネジスを貫通して体ごと水のエネジスに突っ込んでしまった。

 「な・・・なんだこりゃ」

まるでそれは、後ろ向きで背中からプールの中に飛び込んだ状態であった。
巨大な石のエネジスは実は見せかけで、実際はその見せかけの中に本物のエネジスが浮いた状態になっていた。
慌ててその"プール"から飛び出し、すぐさま状況を確認した。

しかし、何もなかったように巨大な水のエネジスがソコにはあった。
どうやら視覚的には巨大なエネジスがあるように見えているだけで
実際には小さな水のエネジスがあり、ソレを守るために巨大なエネジスに見せかけているという事なのだろう。
だが、コレはオレの様に実際触ってしまえばバレてしまう筈だ。
何故こんな作りになっているのか、また疑問が増えてしまった。

オレの手で触れるまでは背中によしかかっていられたのだから
中に入り込めた事自体がおかしい事だ。入り込む為の条件が何かあるはず・・・
水をかぶった事で冷静になったのか
そう考えた時、オレの中で一つのある推測が頭をよぎった。

再び水のエネジスの前に立つとソコに手を突っ込んだ。
またしてもエネジスを貫通し、その中心にある「本物のエネジス」に手が届いた。
ソレに手を触れるとソコから引きずり出した。

すると、今まであったはずの巨大な水のエネジスが消え
手にしたエネジスから水滴が出るわけでなく、一気に水が枯れてしまった。

 「なるほど。だから"移転保管"なのか」

突如、この部屋にハンター達が突然来て焦ってはいたが、彼らの台詞は聞き逃してはいなかった。
ハンター達の会話から考えるに、原理は不明だが
この手にしているエネジスは、水を生み出すエネジスの水を移転するためのモノなのだろう。
実際、巨大な水のエネジスがあった所には配管と、このエネジスを置いてあったであろう台座だけが残っていた。

ただ、このままにしておくのは不味いと思ったオレは、直ぐ様台座にエネジスを戻した。
そうすると何もなかったように巨大な水のエネジスが復活し、水滴がまた溢れてきた。

それは僅かな時間であったが、本体を持っている人物に違和感を感じさせるには十分の時間のようであった。
別にソレを計算をしていたわけではなかったが、確信があった。


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 「アレンジ君。これである程度のエネジスの紹介は終わりますが、先に私の部屋で待っていてください」

 「別に構いませんが何かあるのですか?」

 「たいした事ではないのですが、直ぐに戻りますよ」


表向き冷静に振舞っていたサーティスではあるが、実の所は服の中の違和感で微妙に苛立ちを感じていた。
それをアレンジも察知してはいたが、あえてソコは気づいていない振りをしていた。
お互いの理由でなのだが、ソレは少し先の話になる。

サーティスは服からあふれ出してきた水によって、あの部屋の違和感を直ぐに察知していたのである。
溢れたと言っても水が流れる程度ではなく、軽く汗をかいた程度ではあるが
ソレは冬服を着ているサーティスには十分な程な量であった。


再びこの部屋に近づいてくる足音で、オレは先程と同じように巨大なエネジスの裏に隠れた。
ただし、今回は隠れるわけではなく"人質"の為である。
光が再びこの闇の部屋に差し込んできた。


 「どうやってこの部屋に入り込んだかはわかりませんが、ソコに隠れているのはわかっています。
 おとなしく出てきて下さい」

大人しく?ここに閉じ込めようとした奴には言われたくない台詞だね。
手を再び巨大なエネジスに突っ込むと中心のエネジスを引っこ抜いた。
あえて登場することなく水が消えたことで、オレの存在が顕になった。

 「先程も感じましたが・・・どうやって手を中へ?」

 「それはオレが知りたいぐらいなんだよ。サーティスさん。
 あの部屋に閉じ込めたりさ、何で一人でここに戻ってきたとかさ」

 「質問をしているのは私ですよ」

 「それに答えるつもりはない・・・
 というより、そういう事を言うという事は、普通は手を突っ込めないという事か?」

 「・・・なるほど。
 やはりアレンジ君は、私に嘘をついていたようですね。
 とりあえず、私が先に質問の回答をしますが、
 この水の移転装置であるエネジスに触れるにはマテルがあれば可能です。
 ですが、あなたのマテルは封印されているはずだったのですが・・・」

封印?どういう事だ?
それにアレンジが嘘をついたと言っているが、このハンター同士でも何かあったようだな。
何かあったとすれば、アレンジがオレのことを利用して適当な事を言ったという事かもしれんな。

 「よくわからんけど、オレのマテルは封印はされてないと思うぞ」

 「えぇ。移転装置のエネジスを取っている時点で封印はされてませんね。
 とりあえず、そのエネジスを元に戻してください」

戻した所で不利になる要素は何もなかったので素直に従うと
三再び巨大な水のエネジスに戻った。

 「水の素になるエネジスはサーティスさんが持っているんだろ?
 何でわざわざ、こんな手間をかけて水を作り出してるんだ?」

 「あなたのような侵入者によって、水を奪われないようにですよ」

 「この地では水は大切なモノなんだろうけどさ・・・
 この移転装置のエネジスだって結構価値があるんじゃないのか?」

 「・・・これ以上あなたに無駄話をする時間はありません。
 他にすることが増えましたし、あなたには暫くおとなしくしてもらいます」

 「おい、待てよ。
 オレも黙ってここに居るつもりはないぜ?
 部屋に閉じ込めさせたと思ったら、今度は大人しくさせる?冗談じゃないぞ」

なにやらサーティスは呪文のような独り言を言っているようだが
オレは再び移転装置のエネジスを取り出し、それに拳を軽くぶつけた。
サーティスはおそらくアレンジに会う必要があるのだろうが、まだ聞きたい事はある。

 「私に喧嘩を売った所で、ここからは出ることは出来ませんよ」

 「そうだろうな。だからサーティスさんに協力するしかないんだよ」

 「・・・その言葉は何のつもりです?」

 「オレはこの地に水を取り戻させるだけだ。それが約束なんでな」

オレは余所者だから、何を言おうが信じてもらえるわけがない。
結局、ガンプに言われた水の開放という点だけをサーティスに訴えるだけになった。

この地の水がどうとかは正直どうでもいい話である。
オレにかけられたマテル犯罪者という理不尽な罪を消すためだけに行動している。
いや、こんな事を言ったって、ガンプも居ないこの状況では意味がないことは分かっている。
分かってはいるが、これ以上何もする事が出来ないのも現実だ。


 「結局、それは私の水を奪うという事ですね」

 「まぁ・・・そうなるな。
 だけど、サーティスさんだって、このまま水を止めておくつもりはないんだろ?」

 「えぇ。あなた達のような警察関係者を完全に追い出してからですね」

 「だったら今追い出して欲しいものだけどな」

 「それでしたら、警察の人を呼んでください。
 あなたを人質にして、開放の条件としてこの地から出て行ってもらいますから」

 「サーティスさんは信用しないだろうけど、オレも警察の人に騙されてここに居るんだよ」

 「えぇ。全く信用できませんね」

そう言ったかと思うと、左手のひらを壁に叩く様につけた。
なんだかのマテルを使ったのだろうが、対応するスベがないように感じた。

 「警察の人を呼ばない限り、あなたは一生その中ですよ」

サーティスは後ろ向きになり、開きっぱなしになっていたドアに手をかけた。
鈍感な奴でも気が付くほど、それはこの部屋に閉じ込める宣言である。
オレは考える間もなく移動のマテルを使った。

そして、向かい側にある部屋のドアに激しく衝突した・・・


 「使いこなせないマテルを使ってまで逃げようとは無様ですね」

オレの首根っこを掴んだサーティスは、まるでモノを投げ飛ばすかのように
再び水を移転しているエネジスの部屋に放り込んだ。
そしてそのまま光が消えた。


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気絶していたわけではないが、長い時間気を失っていたように錯覚した。
今回は堂々と監禁宣言をされた事と、この部屋自体に何かのマテルを使った事で
この部屋に完全に閉じ込められたのは間違いない。
おおよそ、サーティスが左手のひらをつけてマテルを使ったのは
オレがこの部屋を破壊して外に出られるのを防ぐといった所だろう。

そしてもう一つ。
先程まで水が出ていた、水を移転していたエネジスから、水滴一つも出てこなくなった。
水を移転するエネジスがこれだけではないという事がこれで確実になった。
オレを閉じ込めるためだけに、サーティスが持っていると思われる本物の水のエネジスを
水源に使用する事は考えられない。
サーティスが言うマテルを使いこなせないオレでさえ、この部屋とかに侵入できているわけだから
大切な水のエネジスを手放すことは絶対にないはずだ。

ただせめて、お役御免になったここにあるエネジスは
慰謝料として頂いておきたいモノだな。


2回も光が入った事でこの部屋の仕組みを理解できたつもりでいる。
豪邸の部屋と違い、この部屋は中から"鍵"を使って開ける事が出来ない。
何より外から来たサーティスが2回ともドアを開きっぱなしにしていた事が最大の理由だ。
電灯がないからドアを開けて光を確保していたという考えもあるが
マテルという"便利設定"がある以上、光ならマテルで確保できるはずだしな。
大方、マテルとかの光を浴びると、この移転のエネジスがダメになるとか、そんな理由をつけて
光は自然光のみにしていたのだろうな。
実際にそういう設定なのかどうかはわからないが、今はどうでもいい。

とりあえず鍵がないとなると、部屋を破壊して外に出るぐらいしか出来ないが
それは先程想定した通り、サーティスがマテルによって壁を防御していると考えた方がいいな。


これからどうなっていくかは分からないが
サーティスとアレンジ達がもめて、あやふやになってもらった方が、オレ的には良い展開になるのだろうな。
情けないほどの完全な他力本願状態だ。

それでも、こんなわけの分からない世界で何もできずに終わるくらいなら
この流れのままで終わるのだけは、絶対お断りだ。

気がついたら自然と、開くわけがない出口のドアに手をかけていた。
それは当然のようにロックされていて開かない。
それならばと、ドア自体を破壊しようと"壊すイメージ"で蹴りをかましてみるが
鈍い鉄の音が振動するだけで、オレの足が痛くなっただけで終わった。
どうやらオレには、モノを壊す関係のマテルは使えないようだ。

先程はそれほど疑問に思わなかったが、
何でもありに思えるこの世界でも、出来ないことはあるという事を実感できた。
ということは、出来ない事があるのだとすると
先程の"光のマテル"の推測も、サーティス達には出来なかったという可能性もあるわけか。
いやいや。
これは"新種"であるオレ達だけが、出来ないだけなのかもしれないな。


そんなグチャグチャな思考回路を巡っているだけなのだが、豪邸の部屋を出た時がふと巡りはじめていた。
ソレと同時に、先程のサーティスとの会話も巡っていた。

確かサーティスの奴は、オレが豪邸の部屋を脱出した事には触れずに
この部屋に侵入したことだけを気にしていたな。
豪邸の部屋の時は、オレを閉じ込めていたわけではなく
実際に何かの故障で、本来は鍵そのものは使えていたという事だったのか?

しかし、オレが助けを呼んでもサーティス側に何も反応がなかったわけだから、
あの時点で閉じ込めていると考えるのが妥当だろうけどな。
そうなると、豪邸から脱出したことに触れていないのは、どうも納得はできない。

・・・いや。
豪邸の部屋は、こじ開ければ出られる位の強度だったのかもしれない。
そしてこの部屋は、移転のエネジスを守るために外からの侵入に備えていたと考えれば
少しだけサーティスの言動も納得できてくる。
豪邸の部屋はマテルがなくても強引に出られるが、この部屋に強引に入るにはマテルの力がないと無理という事ならば。


と、いう事は、単純にだが
マテルによって鍵を開ける事が出来れば、この部屋に入ることも可能という事になる。
それは、鍵を開けるマテルならオレは使えるという事を意味することでもある。
だとすれば、鍵を挿す部分がこの部屋の中のドアにはないが、ここを開けることは非現実的ではないという事になるはずである。

今度はドアを開くイメージで入口のドアに手をかける。
これは、この部屋に入る時と同じイメージだったので開かないわけがなかった。


【鍵を解除するマテル】


違ったのはカード型の鍵を使うか使わないかだけである。
オレはなんとなく、鍵を開けるマテルっぽいモノを使えるとは感じてはいたが、
それはカード型の鍵の力もあってのモノだと思い込んでいた部分もあった。
この屋敷のドアはカード型の鍵でないと開けられないという先入観があり
強引に開けるにしても、カード型の鍵の力とマテルの力があって初めて鍵を開けることができるのだと思ってしまっていた。

そのアイテムなしで、マテルの力のみで開けられたという事は
移動するマテルよりは相当使いこなすことができそうだが、
脱獄や鍵のかかった宝箱以外には使い道がなさそうな地味なマテルである。


部屋から出られたのはいいが、このまま簡単に外に出れるとは思えない。
これも推測ではあるが、アレンジの仲間の一人のラルフという奴は外に居るはずだ。
それに何かのレーダーのようなマテルを持っているような話だった事を考えると
今は下手に外に出るより、部屋に閉じ込められて居たほうが、実は安全である可能性は高い。

オレを見つけたことでサーティスとアレンジの関係が変わりつつある今
そのどさくさに紛れて外に出ることも出来る可能性も実はある。
とりあえずは"騒ぎ"が起きるまでは、この部屋の出口で待機する事にした。

僅かな可能性にかけて。


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リクを閉じ込めたつもりのサーティスは、とある部屋に寄った後
アレンジが待機している予定のサーティスの部屋に急いだ。

サーティスがリクを閉じ込めただけで先にアレンジのところに向かったのは、
嘘をついたアレンジが許せなかった事もあるが、リクをエリア警察機構との取引に使えると思っていた部分が大きい。
それにアレンジと争う事になれば、お互いソコソコのマテルを使って戦うことになるのは予想がついていたので
余裕がある状態でアレンジの所に向かう必要があった。
実力的にはアレンジと互角だと思っていたサーティスは
確実にアレンジを倒す為に、とある部屋に寄って奥の手を持ち出していた。


自分の部屋のドアを勢いよく開いたが、そこにアレンジは居なかった。
だが、わかっていたかのように、ソレを確認するまでもなく奥の鉄製の扉へ進む。
ソコも鍵がないと入れない部屋なので、アレンジがその部屋に居ることはまずない。

鉄製の扉の中に入ると、そこにあるモニタールームと全体設計図を確認した。
当然の事ながら、アレンジはこの部屋と全く関係ない場所に居る事が判明する。
その場所は、サーティスにとって水のエネジスの次に大事な所であった。

 「アレンジも、やはり裏切り者だったか」

鋭い表情に変わったサーティスがモニター下にある機械を操作すると
全体設計図全てが黄色で表示され、部屋も全て×表記に変更された。

これでサーティスが持つマスターキーがない限り、部屋に入る事も出る事も不可能な状態となった。
それはアレンジと仲間の一人が部屋に居る事を確認してからの行動である。
ただ
そこの部屋に居座られるとサーティス的には都合が悪い。
鉄製の扉を開けっ放しにして飛び出すと、すぐさまアレンジが居る部屋へ向かう。


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 「アレンジさん。開かないみたいですね」

アレンジの部下であるマイケルは、状況の変化に少し戸惑っていた。
一方のアレンジは想定内という表情である。

 「心配するな。
 この屋敷の設計主から情報を貰っているから、この屋敷の中はサーティスより詳しいんだよ。
 こうやってエネジス保管庫に入り込めているのも、この合鍵が通用してるからだしね。
 出れなくはなったけどさ」

アレンジは自慢げにカード型の鍵をマイケルに見せ付ける。

 「ただ、私の予想では新種君ともう少し遊んでくれると思っていたんだが
 思ったより早くこちらに目を向けたようだな・・・
 いや、向けたというより、端から信用されていなかったと言うべきかな」

アレンジの推測を聞きながら、マイケルは黙々とそこにあるエネジスをヒョウタンのような袋に詰めている。
どう考えてもエネジス2、3個しか入らない大きさの袋なのだが、吸い込まれるかのように次々と入っていく。
これは″ヒョウタン″の中に入れたモノをある程度無限に入れる事ができる、空間マテルのエネジスの成分で作られているモノで、
【エアポケット】なる商品名で日常品として売られている。
余談だが、この商品名はエアという会社が作ったからというだけで
本来の?意味である、急激な下降気流的なモノではないらしい。

なお欠点としては、ヒョウタンの口より大きいモノを入れる事は出来ないのと
袋自体を破壊されると、中身もすべて破壊されてしまうので、実の所あまり重宝はされていない。

それでも今回は、破壊できない理由があるので、逆にエアポケットを使う利点がある。
むしろエアポケットに入れたエネジスを"人質"にして、サーティスの行動を制限させることも可能である。


 「しかし、中から出られないのは問題ではないですか?」

鍵を差し込んでいるアレンジの方を見ながらマイケルは不安そうにつぶやく。
それでもアレンジの表情は変わらない。

 「問題ない。サーティス君が必ずここに来ますし。
 彼の支配欲の貪欲さは元仲間である私が一番よく分かっていますからね。
 エネジスの魅力以前に彼はそういう男です」

 「そうですか・・・。
 それにしても、別件もありましたが、何故急にエネジス回収を決行したのですか?」

 「その別件、つまりはエリア警察のガンプが絡んだからですよ。
 マイケル君も知っているでしょうけど、彼は私達の企みに気がついてる節があります。
 ですが、ここはあえて彼の提案に乗っておきましょう。
 変人で有名なガンプではありますが、現金な人間という点でも有名ですからね」

 「新種をエスケに誘導した報酬として、回収したエネジスの8割を"こちら"が得る事ができるというのは
 胡散臭いとは思いますけどね」

 「ガンプとしては、ここにあるエネジスを労せずに得ることができるのであれば
 私達を泳がせるのはアリなんですよ。
 そして、今回サーティス君が暴れてくれれば、警察的にも確保する理由付けが出来ますからね」

 「しかし、エネジスを見つけた後で僕達も捕まえたりとかしそうな印象もありますが・・・」

 「確かに私は元仲間ですから、私とサーティスが繋がっているという考え方も出来ますね。
 ただ、現金なガンプの事ですから、私達が得る予定のエネジスの報酬をある程度渡す事で
 ソコは何とでもできますね。
 あとは、水のエネジス【アグリエア】を私達が守れば、捕まえる理由もなくなるでしょう」

強引なアレンジの説明に納得できない表情のマイケルだったが

 「アレンジさんが考えての事なのでしょうから、僕はこれ以上何も言えません」

 「最悪、私達の取り分が"2割"になるかもしれませんが、それでも十分なダイアになります。
 欲を出しすぎると人間良い事はないんですよ・・・」

そう言った後、何かを感じて鍵を抜くと
出口から少し遠ざかったかと思うと、出口に向かって話を始める。



 「サーティスさん。居るのでしょう?
 少しお話をしませんか?」

アレンジはドアの近くにサーティスが近づいていた事を感じ取っていた。
事実、そこには形相が変わったサーティスがドアを挟んで立っていた。

 「もう、顔色を伺う言い方は結構だよ。アレンジ。
 そして、そこにあるエネジスの"レプリカ"ならいくらでも持っていけ」

サーティスの言葉にマイケルは動揺した表情をし、アレンジの方を伺うが
アレンジは相変わらずの表情である

 「レプリカはレプリカで売れるんですよ。
 それよりも私達をこのままココにほおって置くのですか?」

 「そう言って私を怒らせてドアを開けさせる魂胆だろうけど、残念だったな。
 ここに来たのは本当に閉じ込められているか確認のためだよ」

 「そうですか。
 てっきり本物のエネジスを使って、私達をこのまま眠らせるのかと思ってましたが
 おかげで簡単にここから出られそうですね。
 閉じ込めたと思いながらずっとこの屋敷に居ればいいと思いますよ。
 私達はレプリカを沢山頂いてここを出て行きますので。ハハ」

完全に挑発したアレンジの言動だが、サーティスはそれでも乗ってこない。
ただ、アレンジとしては、挑発に乗っても乗らなくても何も問題はなかった。
この屋敷の設計主から裏口を教えてもらっていたからである。
こういうカラクリ屋敷的な建物だと、万が一という事が起こると困るので
緊急用に非常裏口を作っている場合が多く、この屋敷も例外ではなかった。

 「強がりを言った所で、全ての部屋はロックされてるんだけどな。
 しかも、この部屋はマテルの力を吸収する素材で出来てるから
 お前の仲間がどんなマテルを使うか知らんが、破壊してここから出るのは不可能だ」

サーティスの口調が段々荒っぽくなっている事をアレンジは感じ取っていた。
こうなるともう一息である。

 「いや?壊さなくても出れますよ。
 この屋敷はいずれ私のモノになるんですから、壊すなんてそんなバカな事しませんよー」

わざと素っ頓狂な声でアレンジは返した。
それがサーティスの沸点に達したのは言うまでもない。

 「そうやって私を見下した言い方が気に食わないんだよ!
 あえて挑発には乗ってやるが、ドアが開いたその時、お前らは星になって散るだけだ!」

言い終わると同時にドアのロックが外れた音がする。
ソレまで表情を変えなかったアレンジが一瞬凍った表情をしたが、すぐに元に戻った。
それと同時に、自分の後ろに下がるようにと、手でマイケルを誘導させる。

ドアが開いたのと同時に青い煙が部屋を一瞬にして包んだ。
アレンジは諸にその煙を吸い込んでしまったため、その成分を自覚した時にはすでに侵されしまっていた。
マイケルは吸い込むまではいかなかったが、小規模な風を起こし青い煙を一蹴させた。

 「毒の霧か・・・」

時すでに遅かったアレンジはその場で倒れこんだ。



ガスマスクのようなモノをつけたサーティスがそこに登場した。
アレンジの離脱によって不安が一気に増したマイケルは、無造作に風のマテルをサーティスにぶつける。
部屋を壊しかねない風のマテルは、先程サーティスが言ったように部屋に吸収され
3割の風がサーティスを襲った。

しかし、その風もサーティスが手にしているエネジスに吸収された。

 「この部屋に埋め込まれているエネジスがコレだ。
 風程度ならこのように簡単に吸収される。もちろん逆も可能だがな」

そして、風を吸収した方と別の手には先程の青い煙が少しずつ膨らんでいっていた。
風を吸収されたことで更に焦りを感じたマイケルだったが、
それがかえって機転を生むきっかけになった。

今まで試した事がなかったが、倒れているアレンジの鼻と口を覆うように手で塞ぎ
体内に風を送り込んだ。
ようは部屋の中の煙をはじき出したのを人間の体内で行ったという事である。
ただ、コレは加減を間違えると体内組織を破壊しかねない危険な方法でもあった。

アレンジの耳そして口から青い煙が放出されていく。
完全に取り除けたわけではないが、意識を取り戻すには十分な量であった。
無理矢理に空気を送り込んだ為、数秒間せきこんだが、咳が止まるとゆっくりと立ち上がる。

 「マイケル君。ありがとう。本当に星になる所だったよ」


その状況をみてサーティスは青い煙を服の中に隠し、それと交換するように赤く揺らめいた石が現れた。

 「毒であっさり逝けば苦しまずに済んだモノを」

赤く揺らめいていた石がその色を濃く変えていく。
そしてそれをアレンジの方に投げつける。

 「今度は熱のエネジスですかー」

またしても素っ頓狂な声を出したアレンジは
マイケルが持っていたエアポケットを奪うと、投げつけられたエネジスをそのまま捕獲し吸収させた。

 「あのエネジスがあのまま地面に落ちれば、この部屋がウン百℃の高熱に晒されて
 そのまま熱死できたのでしょうけども、
 折角良いエネジスを持っていても、使う側がこれじゃあねぇ」

まさにアレンジのいう通りである。宝の持ち腐れな使い方だったのである。
何も言えなかったサーティスは、顔を熱のエネジスよりも赤くしてまた服の中をまさぐりはじめる。


 「この部屋は捨てるか」

サーティスが新しいエネジスを取り出したかと思うと、それを床にめり込ませた。
ソレと同時にサーティスは部屋を出てドアを閉めた。

 「アレンジさん。あいつ」

 「床に埋まるということは・・・。マイケル君、床はマテルを吸収していないようです。
 あのエネジスを取り出すように床を風を使って壊して下さい」

 「え?あ、は、はい」

焦りつつ、マイケルは床に風を放った。
アレンジの予想通りにエネジスのある方向へ床を破壊しつつ進んでいったが、
エネジスが埋められたと思われる所で突如風が消えた。
ソレと同時に地震のような揺れを感じた。

 「大地と吸収のエネジスのコンボって事・・・か」

やや苦笑いのアレンジだったが、揺れの原因であるエネジスの元に近づこうとする。
しかし、大地のエネジスの影響か、床が激しく凹凸を繰り返し、マトモに近づくことが出来ない。
そしてその凹凸の影響で部屋全体が歪みはじめる。

 「アレンジさん。天井とかにひびが入ってます。このままですと・・・」

 「とりあえず、この地震の発生源を止めますよ。私を風でエネジスの所まで飛ばしてください」

マイケルの風によって、埋められたエネジスの所にアレンジが飛ばされた。
しかし、床を触り大地のエネジスを手にした瞬間、そのアレンジが倒れこんだ。
ソレをマイケルが見た瞬間、天井の一部が崩れ、そのままこの部屋全体が崩れ始める。
マイケルはアレンジの方を先に見ていた事もあり、自分の所が先に崩れ始めていた事に気づくのに少しだけ時間がかかった。
結果、崩れを風で防ぐ前に、二人とも崩壊に巻き込まれてしまう事になった。


 「この屋敷の一部は独立した建物になっていてな。
 エネジスの保管庫は全て独立した作りにしてあるんだよ。
 ここ一つが崩壊しても屋敷自体に何も影響はない。
 そして、これが本当の熱のエネジスだよ」

エネジス保管庫のドア、つまり今となっては裏口の出入り口になったドアを開けたサーティスは
崩壊した部屋の残骸へ赤く揺らめいているエネジスを投げ込んだ。
そのエネジスは赤色から赤黒く変化し、崩壊した建物自体を熱で溶かしはじめた。

 「手間をかけさせやがって。
 大地と吸収と毒のエネジスを1つ失う事にはなったが、エスケの町の為の犠牲と考えれば仕方ない」

熱で溶けきるのを見届けることなく、サーティスはドアを閉めて奥へと消えていった。
ちなみに
熱のエネジスは他のエネジスのように何度か使用できるものではなく
1度使用すると溶けてなくなるためサーティスの言葉にも登場しなかったのである。


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地震が起こった頃、部屋の外で待機状態だったオレは
"いよいよ騒ぎが起こる"と期待通りの展開になっているのを感じた。
向こうで騒ぎが起これば、オレの方を構う余裕はないはずだ。
外の見張りは、レーダーのようなマテルを持っていると思われるラルフだけのはずなので
オレでも何とかなりそうな気はしていた。
もちろん、向こうはマテルっていう都合の良いモノを使いこなせているようなので
レーダーのようなモノ以外もそれなりに使えてると考えた方がよいだろうけどな。

そうして出口に向かい、勢いよくドアを開こうと手を伸ばした瞬間、
ソコは自動でドアが開いた。

 「な・・・なんだ?」

オレが状況を飲み込むには時間が足りなさ過ぎた。
そこには、ガンプと背の小さい白装束の人物とよく見たことのある桃色の髪の女が立っていた。

 「お前がエリアスターか。
 中に居たから状況は分かってるだろうけどサーティスが動いたようだな。
 事情は後で話すから、そこのエリアドライバーと共にここで待機しててくれ」

背の小さい白装束はそう言うとガンプを誘導するように屋敷の奥へ入って行った。

さて・・・
これは一体どういう事なのかね。


 『えー。リ、リッ君が言いたい事は分かってるつもり・・・だよ?
 とりあえず私の話を聞いてくれるかな?』

納得できる気はしないがとりあえず釈明の時間を設ける事にした。

 『簡単に言うとね、この今起きた事件をリッ君が解決した事にしようとしてるの。
  だから、そのためにリッ君にはこの屋敷に残って貰う必要があったってことかな』

 「全く話が見えてこないんだが、リディはガンプと最初から話がついていていたのか?」

 『いや、違うよ。リッ君が一人でこの屋敷に行った後、ガンプさんから話しを聞いたの。
 リッ君には一応、マテル犯罪の容疑がかかってる状況だし、何もせずにその状態をなくすことは出来ないって。
 そこで、リッ君がこのエスケの水問題というか、この屋敷でエネジスを確保してる人達をどうにかして排除出来たら
 マテル犯罪の件をもみ消してくれるように仕組んでくれるという事になったわけ』

 「だとして、その事をオレに隠す理由は何だ?」

 『私にはわからないよ。
 ガンプさんがそういう事にしときなさいって言ってたし、警察関係者でもない私には何も出来ませんって事ですよ』

 「だが、オレがここに居たらオレが解決したことにならんだろ?」

 『えーそのことなのですが・・・その通りなので一緒に屋敷に入って下さい』

確かにガンプや背の小さい白装束に説得されても入る気はしないだろうが
だからといってリディに言われてもそんな気にはならないのが正直な気持ちだな。
そして、話の筋からすると、オレがサーティスになんだかの行動をしないといけないような雰囲気だしな。

 『まー、リッ君は賢いからきっと大丈夫だよ!』

自信を持ってサムズアップをするリディを見て、一度ひっぱ叩きたい衝動に駆られたが
"おかげで"かなり気持ち的には楽になった。

突然と居なくなった同行人を信用する気など更々ないのだが
オレに選択肢がないのも確かである。
この屋敷を出たところで、ナビ職が居なければこの町から出るのはほぼ不可能なので
後でどうにでもできるとガンプが考えていたとしてもおかしくは無いし、
小さな町を逃げ回った所で見つかるのは時間の問題だ。

更に言えば、ガンプがオレをこの屋敷に潜入させたのは、
サーティスらのハンター達を捕まえる為に利用しただけだったとしても、何も抵抗できない。
サーティスの味方をするぐらいが唯一の抵抗だろうけど、
そんな事を今更したってサーティスがオレの事を信用するとは思えない。
結局、この状態ではオレには何も抵抗できないわけだ。


 「何かお前達の誘導にはめられている気がするが、ついて行くしか方法がなさそうだな・・・」

 『流石は切れモノのリッ君と言われるだけありますね。憎いねぇ〜この〜』

・・・やはり、一度ひっぱ叩いた方がいいのかも知れんな。

 『・・・でも、ありがとう』

後ろ向きになった状態でそう呟くと、逃げるように屋敷内へ走り去っていく。
・・・って、いやいや。
お前、この屋敷の中、分かってないだろ・・・。


・・・とは言ったモノの、オレもサーティスの現在地を知っているわけではない。
リディに追いついてとりあえず地震が起こったと思われる辺りに進む事にした。

 「ガンプと一緒に居た白装束は誰なんだ?」

 『私も良く知らないけど、この屋敷の外でボーっとしてたよ。
 ガンプさんとは知り合いみたいで、ラルク・・・?って呼ばれてたかな?』

あぁ。
あの白装束がラルフというレーダー使いだったのか。
という事は、ハンター仲間内でガンプの手下がスパイをしていたという事になるな。
サーティスとアレンジというハンター同士で対立してるのはなんとなく分かるが
更に状況をややこしくしてくれてるみたいだな。

結果論になるが
オレは別に地震が起きる前に屋敷の外に出ても問題がなかったって事にもなるのか。



 「ところで、野球ボールはどうなったんだ?」

 『ボールって・・・リノちゃんの事だね。
 どうやら過労みたい。
 でも、死んじゃいないからね。心配しないでね』

死ぬ心配はこれっぽちもしてないんだが、突然動かなくなったようだから少し気にはなっていた。
しかし、過労っていうのもある意味で無理な言い訳だな。
エリア警察とナビ職には関連あるようだから、ガンプが何かをしたというのが正解だろうな。
リディの力で車とか家になっていたから、リディが何かをしたという説も一応あるけどな。

さて、地震が起こっただろう的な場所に着いたが、特にこれといったモノはなかった。
ガンプ達が本当にサーティスを追いかけているなら、いずれ騒ぎが起こるだろう。
リディがいう事が本当なら、オレがその現場に行かないといけないだろうしな。


闇雲にだが、一つのドアを開けてみる事にした。
特に理由はないのだがこの辺りで何かがあったのは確かだからだ。

ただ、部屋ではなく裏口のような所に出たのは面食らった。
そこには建物があったような形跡の瓦礫が散らばっていたので、地震の震源地であろう事は理解できた。

 『ねぇ・・・リッ君。
 あの瓦礫の下に人が居る気がするんだけど・・・』

珍しく目色を使った声で話してきたと思ったら、オレの服を掴んで目を背けていた。
その状態を見て瓦礫の方に目をやると、確かに人らしきなモノがうつ伏せで瓦礫に埋まっている。

 「お、おい!」

それが恐らくはアレンジかその仲間である事はわかっていたが
どんな奴であろうとこの状況は危険だと感じた。

 「目・・・がもう見えないけど、その・・・声は新種君かね?」

枯れた声だったが、それはアレンジで間違いなかった。

 「今、そこから出してやるから待ってろ!」

近づいて瓦礫をよけようとしたがある程度近づいて、無理な事を悟った。
ものすごい熱が瓦礫を覆っていて、普通に手でよける事は不可能であった。

 「新種君・・・には無理だよ。
 ちょっと・・・以上、サーティスに油断・・・したかな。
 悪い事・・・すると・・・きちんと・・・報いが・・・くるものだね」

 「お前が何をしようとしたかはオレにはわからんけど、このままほっとくわけにもいかない」

熱を無視して瓦礫を動かすイメージをしながら再び近づく。
しかし、状況はほとんど変化せず、一定の場所からアレンジに近づく事は出来なかった。

 『リッ君。多分だけど、その場所には熱のエネジスが使われているんだよ。
 氷のマテルを使いこなせないと近づけないと思うよ』

 「お前は使えるんだろ?だったら早く使えよ!」

 『短い間でリッ君も分かったと思うけど、人には得意、不得意なマテルがあるんだよ。
 私は【空間】の属性で、移動に関するマテル以外はてんでダメなんだよ』

 「こういう時には都合が悪くなるのか。やっぱり滅茶苦茶な世界だなここは」

熱を無視ではなく、熱をなくすイメージで今度は近づく。
先程よりは瓦礫に近づく事ができているようだ。
手を軽く火傷をしている気がするが、瓦礫を取り除いていく。
喉元を過ぎればじゃないが、こうなれば意地だった。
大きな瓦礫は取り除けたが、アレンジの体のほとんどは熱に冒されていた。

 『ヒドイ・・・』

リディが言葉に出さなくてもその一言に尽きる。
それは助けた所で半日も持たなさそうな雰囲気がした。

 「これをやったのはサーティスなのか?」

 「正確には・・・エネジスだけど・・・ね」

 「どっちでもいい。
 リディ。この屋敷を出て医者を呼んでこいよ」

 『え?医者?』

 「アレンジが何をしようとしてサーティスと争ったかは知らんけど、こんな状態の人をほおって置けるほど
 オレは人間腐ってないからな」

 『でも、私はリッ君を・・・』

 「この状況で逃げようがないだろ!お前は人を見殺しにするのか!」

リディに当たってってどうにもならないことは分かっていたが
こんな後味悪い状況のままサーティスの所に行く気にもならなかった。
リディはオレの迫力に押されたのか逃げるように出口に向かっていった。

 「医者・・・を呼んでも・・・無理だ・・・よ」

 「ソレは、お前らの理屈だろう。オレの世界じゃ通じない!
 最悪でも、オレは・・・」

そう言いかけて続きを言うのをやめた。
今までのオレはこういう状況に出会った事もなければ、出会ってもここまで必死になっていなかったはずだ。
世界が白黒だと感じていたオレにとって、こんな台詞が出ること自体がありえないはずだった。

 ―何熱くなってんだよ―

もう一人のオレが頭で囁いているだろうというのも感じた。
正義とかそういう信念的なモノがなかったオレでも、流石に危機的状況には感じるモノはある。
後で冷静に考えれば、もう少しやり方があるはずだと思いつく事だが
この時のオレは、正義のヒーローになったかのように熱くなっていた。


 「無理とか、決め付けるなよ!」

 「新種は・・・やはり、面白いな・・・。
 私も・・・結局は・・・エネジスに・・・負けたの・・・だろうね。
 サーティスと・・・同じ・・・だったんだな」

 「もう喋るなよ」

 「いいえ。
 君には・・・生き残って・・・欲しい。
 だから・・・最後まで・・・聞いてもらい・・・たい」

 「何のことだ?」

 「生きなければ・・・」


アレンジはその後の言葉が出てこなかった。

 「おい!しっかりしろ!」

体中が熱に冒されたアレンジに呼びかけるが、二度と言葉が帰ってくる事はなかった。
オレは、熱による手の痛みなど忘れてしまう衝撃に駆られて、その場に立ち尽くすしかなかった・・・


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一つの悲しみの一方で
サーティスの元に向かっていたガンプとラルフは
エネジス保管庫に居るサーティスが出てくるのをドアの前で待っていた。
言うまでも無いが、レーダーのマテルを持つラルフが居たため、サーティスの居場所はすぐに割れていた。

 「この状況を知っているのは、アレンジの部下のレーダー使いだけだな。
 ドアは開いてるから入ってこいよ」

サーティスの挑発に乗るようにガンプはドアを開ける。
そこは霧のようにもやがかかった状態になっており、そこにサーティスが居るか見た目では全く判らない状態になっていた。
以前の毒の霧と違い、色は真っ白である。

ガンプは共に入ろうとして来たラルフを手で静止したかと思うと、右手だけを部屋に突っ込んだ。
その瞬間部屋の霧が一瞬にして溶けた。
そこにはエネジスを持った手だけが地面から出ていた。

 「私にはエネジスでの攻撃は効きませんし、そこから地下に逃げようとしてもすぐに追いつきますよ」

言葉と同時にガンプはその手を掴んでおり、ソレと同時に勢いよく地上に引き上げた。

 「・・・。
 警察の犬か・・・?」

ラルフが来るとばかり思っていたサーティスは一瞬呆気に取られたが
手を振り払うと同時に表情を変え服の中をまさぐり始める。
ソレを見たガンプは、小さなため息を一つついた。

 「もう抵抗はやめてください。何をしてもあなたには、仲間の命を奪った罪が待っています」

 「仲間?私に仲間なんて居ないよ。
 私のエネジスを狙って近づいてくるバカばかりさ」

 「ソレはあなたのエネジスではありませんよ。この土地のモノです」

 「あぁ?この土地は私のものだ!貴様ら警察には一つとして渡さん!」

 「私もエネジスを狙っている一人だという事ですか?
 仮にそうだとして、あなたが勝手にこの地から奪い取ったエネジスもあなたの物にはできませんよ」

 「うるさい!貴様らの話は聞いてられん!」

ガンプの説得に応じることなく、サーティスは服をまさぐって取り出した二つのエネジスをそれぞれの手に広げる。
すると右手から風が起こり、その風の方へ左手を近づけ、その状態から風をガンプの方に向けた。

緩めの風と共に雨の様なモノがガンプへ襲い掛かる。

 「水素と酸素が結びつく事で、この地の命が生まれています」

 「何を言ってるかわからんが、お前もここで星になれ!」

風が強くなりガンプに襲い掛かったその瞬間、
紛れていた雨は右手を出したガンプの周りに雪のように降り落ちていく。
更に襲い掛かっていた風も方向を変え分散されて消えていく。

 「な、何をした・・・」

 「先ほども言いましたが、私にはエネジスでの攻撃は効きません。
 全てのモノは結びついて生まれてきているのです。
 あなたは先ほど仲間は居ないと言いましたが、一つで存在するモノは例外なく一つとしてないのですよ」

サーティスはガンプの奇妙なマテルに戸惑いを隠せない表情をみせた。
エネジスでの攻撃が効かないというのはどう考えてもありえない事だが
ガンプのマテルによってこれまでの攻撃では通用しない事は理解できた。

 「そんな理屈で私が騙されるとでも思うのか?」

 「騙してるのでありません。これは事実です。
 ただ、私はその結びつきを強制的に解かす事もあるのです」

 「何を言ってるかわからんが、貴様のいう事は聞かん!」

再び同じ行動を行うが、結果は同じく雪が舞うだけであった。


 「ラルフ君。マスター達の居場所はわかりますね。
 そろそろ終わりますのでこちらに連れて来てください」

背を向けたままガンプは部屋の外に待機しているラルフに伝える。

 「そのことなんだけどさ、ガンプさん。
 エリアドライバーは屋敷から出て行ってるんですが大丈夫ですかね」

 「マスターならこの町から出る理由もないですから心配ないでしょうし
 新種君のところに行けば理由が分かるでしょう」

ソレを聞いたラルフは返事をすることもなく、すぐさま行動に移った。
居なくなったことを確認後、右手をサーティスの方に出したままガンプは話を続ける。

 「ソレと水は淡水となり汽水し、食塩水から塩水となる。
 いくら酸の水を私に浴びせても、私はソレに変化させるだけ」

 「酸を塩に変化させたから、なんだと言うんだ?
 守るだけで攻撃をすることは出来ないじゃないか」

 「そうですね。私はただの時間稼ぎに過ぎませんね。
 次はどのエネジスを使うのですか?」

 「き、貴様!」

左手を服の中に再び入れると今度はエネジスではなく短剣を取り出した。

 「ただの剣ではないようですね」

 「いや、ただの剣だ。貴様にはこれで十分だよ!」

ソレを聞いたガンプは少しだけ笑みをこぼし、右手を下げて拳法の構えに変化した。
ただ、その状態になるとサーティスは動こうとしなかった。
それはガンプに近づけないという理由ではなく、別の理由があったからである。
そして数分間、この膠着は続いた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


オレが瓦礫の前に立ち尽くして数分が経った頃、ようやく一つの足音が近づいてきた。

 「遅いわ。もうすでに・・・」

後ろの人を確認せず、呆れるようにオレはつぶやいた。

 「これはヒドイな・・・。
 アレンジと、見えないが向こうの瓦礫にはマイケルが埋まってるんだろうな」

男の声でオレははっと後ろを振り返る。
そこに居たのは白装束の男だった。

 「お前、ガンプと一緒に居た奴・・・ラルフだったか?」

 「あぁ。名乗ったつもりはなかったがそうだな。
 ところで、エリアドライバーは何しにここを出て行ったんだ?」

 「この状況を見て何もしないほうがおかしいだろ」

 「って事は、医者でも呼びに言ったのかよ。余計なことするなって」

 「余計だと!」

 「あぁ。悪い。
 こっちの都合が優先だったんでな、ちょっと失言したな。
 どっちにしてもお前も分かってるようにそいつらはもうアレだ。
 元々この地のエネジスを闇売買してた奴らだからな、どちらにしても良い死に方は出来なかっただろうな」

 「お前、いい加減にしろよ・・・」

 「だから失言だって言ってるだろ。
 ガンプさんから聞いた話だとお前もうちょっとクールな奴だと聞いてたんだが、意外に情熱家なんだな」

 「言いたい事はそれだけか?それ以上何か言ったら今度はオレが・・・」

 「待て待て。お前は何か勘違いしてるぞ。
 オレらはお前のマテル犯罪容疑を解く為の事をしてるだけだ」

 「は?」

 「こいつらの事はオレらが対処するから、お前はとりあえず付いて来い」

 「お前の言ってる事は信用できないって言ってんだよ!ここから消えろよ」

 「あ〜まったく。人の死が絡むとこれだからいけねぇな。
 そういやチラッと聞いたけど、お前、元のエリアの記憶持ったままここに居るらしいな。
 そのせいもあるんだろうけどよ、お前のエリアの常識でこのエリアを量るな・・・」

ラルフが喋り終わる前にオレは右拳を振り下ろしていた。
しかし、ラルフはソレを左手で軽く捕らえる。

 「話の途中で拳を混ぜるなよ。″早い″のは嫌われんぞ」

ラルフから手をほどこうとするが、吸いつけられているかのように動かない。
その力が怒りを通り越してしまい、奴の方を見るのも辞めた。

 「お前にとっては理不尽な事だらけだろうけどな、ここはそういう所だよ。
 もう一つが片付くまでここは目を瞑ってくれんか?」

 「うるさい。もう手は出さんから離してくれ」

 「いんや。ここまま連れて行く。
 お前は忘れてるだろうけど、ここの水問題を解決するのはお前なんだからな」

その発言でハッとし、ふとラルフの表情を見たら、怒りは完全に吹き飛んでいた。
ふざけた言動と裏腹に奴は泣いていうように見えたからだ。
男の涙に惚れるような趣味はないが、それだけで気持ちは十分伝わった。

 「あぁ・・・分かったから、泣くなよ」

 「ん?これ生欠伸の涙だぞ」

今時そんなベタな言い訳をする奴もいたんだな・・・。
なんかこっちが恥ずかしくなってきた。
にしても、結局手は離さずじまいで連れて行かれる形になった。


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そこには、ガンプとサーティスが微動だにもしない雰囲気で睨みあっていた。
ただ、サーティスの方は動けなかったのではなく、動かなかったのである。
一方でガンプもソレを察知していた事と、受け手に回っているため動くつもりがなかった。

 「ようやく主役の登場ですね。
 さて、サーティス。その"ブレイカー"を使ってここに居るモノを一掃するつもりならお止めなさい。
 コレは警告ではなく命令ですよ」

ガンプは拳法の構えを解き、ノーガード状態となった。
一方で目論見を見破られた事に驚きの表情をサーティスが見せる。

 「な、何を言ってる。この剣はタダの短剣だぞ。
 貴様らにはこの剣一つで十分だ」

サーティスの言葉を聞くまでもなくガンプはその場にしゃがむとこちら側に顔だけを見せる。

 「リクさん。ラルフから例のモノを受け取ってますね?」

 「あ・・・あぁ」

 「サーティスを殺人容疑者として逮捕してください」

 「ち、ちょっと待て。オレは警察でもなければ、あいつは武器も持ってるだろ。
 そもそもオレはお前らの事を信用してるわけじゃないんだぞ」

 「えぇ。信用しなくても結構です。
 ただ、サーティスを捕まえるという事がどういう事かぐらいは分かりますよね?」

ここに来る途中でオレはラルフから手錠のようなモノを渡されていた。
理屈から言うと、オレが"この事件"を解決させるには、犯人を見つけて捕まえるのが手っ取り早いわけだが
マテルを使いこなせるわけでもないオレが、片方に剣をもう片方にエネジスを持っている"サンタ"を捕まえるのは容易ではない。

 「そういう事じゃなくて、どうやって捕まえるんだよ。
 オレはマテルを使いこなせないんだぞ」

 「では、こうしましょうか。
 5分以内で捕まえなければリクさんをマテル犯罪容疑で逮捕します。
 はい。コレで、あなたに逃げる時間はなくなりましたよ」

こいつ・・・端からコレが狙いだったのか。
この調子だとサーティスを捕まえても、「はいご苦労さん」と言ってオレも捕まえかねん。
かと言って逃げようにもラルフが目を光らせている。
ここでラルフかガンプと戦っても、逃げ切れない保障がほとんど確定している。むしろ罪を重ねるだけになる。
それなら、マテル犯罪の容疑が本当に解けるかわからんが
サーティスを捕まえた方が気持ち的にもまだ納得して捕まる事ができる。

でも、ガンプの言う事を・・・

 !


オレが何かに気づいた事を察知したのか、氷のような目の女はうっすらと表情を崩した。
そしてサーティスのほうへ向き直る。
あれこれ考えてもしょうがない。
どういう事情であれ、アレンジ達の命を奪った事はどんな世界であろうとも許される事じゃないはずだ。

 「信用するかはサーティスの勝手だが、オレはこいつら警察とは関係は無い。
 だが、大人しく捕まってもらうぞ」

 「はは?
 新種が警察の後ろ盾を得たぐらいで何が出来る?
 どうせ、ここに居るモノは事故で星になるだけだ。
 最初に星になりたければ勝手になればいい!」

 「・・・残り4分です」

本気なのか冗談か分からないカウントをしているガンプを無視をして、その先へ一歩進む。
ソレがサーティスの間合いに入ったことを意味していたのか、短剣をオレの方へ振りかざす。

 「左に動きなさい!」

ソレまでなかったガンプの低音のおかげで反射的に体が左へ動いた。
同時に振りかざした剣の波動が突き刺さったように壁に大きな切り傷を作りあげた。
仮に動いていなければ、壁ではなくオレの体に一生モノの傷が付くところだった。
これは、たいしたタダの剣だな。

 「前を向きなさい!」

再びガンプの声によって前を振り向いた。
そこには"タダの剣"で突き刺そうと走りこんできたサーティスの姿が瞬間的に映った。
防ぐモノがなかった時、咄嗟に出てしまうからしょうがない。
"タダの剣"を右手で掴んで刺されるのをギリギリで阻止した。
痛さで声にならない声を上げながらも強引に"タダの剣"を奪い、
走りこんできた反動を利用して左拳をサーティスの顔面近くに振りかざした。

ノーガードのサーティスは諸に入った拳によって横へ倒れこんだ。
そのまま無心で手錠を取り出すと無防備になった右手にかける。

 「腕を後ろに回しこんで左も抑えろ!」

後ろからラルフのアドバイスを受け、痛さをこらえつつも手錠を引っ張り
サーティスの右腕を後ろに回しながら左腕も後ろに回して両腕を拘束した。
人は窮地になれば、出来ない事は無い。そんな気に一瞬だけさせてしまう俊敏な行動だった。


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 「お疲れ様。右手を見せてください」

自分でも驚く行動力ですっかり腰が抜けて座り込んでいた。
ガンプに何を言われたのかも分からないまま、なすがままに右手を差し出していた。

 「骨まではいってないようですが、ブレイカーを直に触ってコレだけで済むというのは奇跡に近いですね」

ガンプは包帯のようなモノを懐から取り出したかと思うと
特に止血もせずそのまま掌に巻きはじめた。
ヤブ治療もいいところだが、どうやら包帯そのものに仕掛けがあるようで、自然と痛みも流血も止まった。


 「もう、5分経ったろ・・・。コレでオレも捕まえて一件落着か?」

気の抜けた声でガンプに問いかけるが
氷のような目は何一つ動くことなくオレの視界から消えていった。

 「その話はまた後で、ですね」

ソレを聞いて諦めたかのようにオレは仰向けになって寝転んだ。
一応の達成感を感じて、もうどうでもよくなった。


人影を感じて目だけを動かすとガンプと入れ替わるようにラルフとリディがそこに居た。

 「少しエリアドライバーと一緒に居てくれ」

来たばかりのラルフもリディ置いてその場から居なくなった。


 『リッ君が捕まえたんだってね。さっすが私が選んだエリアスターなだけあるよ。うん』

 「そんなのどうでもいい。
 それより結局アレンジ達はダメだったのか?」

 『・・・私達にはどうする事もできない事もあるんだよ。リッ君はよく頑張ったよ』

ソレを聞いて気だるそうに何度か手を振ると、諦めたように目を瞑った。


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なにやら周りが騒がしくなってきた。
瞑っただけだったはずがいつの間にか寝ていたようだ。
飛び起きるように目が覚めると、嫌な意味で見慣れた制服の人達が周辺でうろついている。

 「ここは・・・どこだ?」

 『お。起きましたな。お寝ぼけさんコメントありがとうございまーす』

しゃがんでオレを見てるリディが普通にそこに居た。
よく見ると制服の人が増えた以外は何も変化なく、あの豪邸の一室にオレは居た。

 「・・・サーティスはどうなったんだ?」

 『リッ君のおかげで無事逮捕できましたよ』

 「・・・この警察の奴らはいつ来たんだ?」

 『ちょっと前かな。
 なんかこの家の主の人も沢山持ってたけど、エネジスが大量に発見されてさっきまで大騒ぎしてたんだよ。
 んーなんだったかな。"アグリエア"って呼ばれている水のエネジスとか、他にも色々あったみたい』

 「どうやら、それでここの水問題は何とかなりそうだな。
 町自体の問題は残ってそうだが」

 『そうでもないみたいだよ。ラルクっていう人が町長になるみたい』

 「ラルフな。
 いや、誰がなるかはどうでもいいが、町長決めるの早過ぎないか?」

 『それはね〜水問題が出てきた頃から、次期町長候補は決まってたみたいだよ。
 今回のエネジス発見の件でエリア警察管理地域に指定される事も決定したみたいだし』

どっちにしろ、根回しが早すぎるな。
まるで、近日サーティスが逮捕されるのが分かっていたかのような手際の良さだな。
さて、それはそうと
こちらに近づいて来てるみたいだが、氷のような目の女に審判をくらう時が来たようだな。


 「リクさん。目が覚めたみたいですね」

 「あぁ。
 一応、水問題は解決したみたいだな。
 で、次はオレのマテル犯罪の件になるわけだな?」

 「はい。この通り、逮捕状がこちらにあります」

 『え?じゃあ、リッ君は捕まるの?』

 「はは、どうでもいいよ。
 捕まえるなら、逃げる気もしないからさっさとしてくれ」

 「逮捕状があるのは当然です。
 リクさんはデックス地域の外れで、禁止されているマテルを使用していますから」

逮捕状なんてモノは今まで縁の無いオレには当然見た事はなかったが、
目の前に落ちてある紙切れがそのモノらしい。
オレの世界でも似たような紙なんだろうが、そんな情報はどうでもいい。

・・・というか、目の前に落ちて、ある?


 「さて?
 さっきまで逮捕状があったはずなんですが、どうやら無くなってしまったようですね。
 逮捕状は特殊な紙で出来ているのと、複製も出来ないようになっていまして
 破れたり、燃えたりしてなくなると、逮捕状の効力も消えるようになってるんですよね。
 なくなると非常に困るのですが・・・」

な・・・なんなんだ、この三文芝居は。
下手糞な芝居をしたガンプはそのまま、何もなかったように他の警察の元へ混ざっていった。


 『リ、リッ君。コレどういう意味だと思う?』

 「さぁな。
 オレの目の前に"よくわからない字"で書かれた紙があるが、オレの逮捕とは関係ないだろ」

紙をポケットにしまうと、リディと共に出口の方へ歩いて行った。



高級ホテルのロビーでもそうはない空間には、待ち伏せしているモノが一人居た。

 「お互い今回は大変だったな。おかげで得るモノもあったけどな」

 「新町長か。
 こっちは勝手に連れて来られて、こうなっただけなんだがな」

 「まだ町長じゃないって。それにオレは一時的になるだけだし」

 「そうなのか。色々あるみたいだな。
 あと、この町を出る前にいくつか聞いておきたい事があるんだが」

 「アレンジ達の事か?ソレも含めて説明してやるよ。
 オレはガンプさん同様にエリア警察機構の一人だ。
 ここにはこの町が急な発展を始めた頃にやってきた。
 砂漠しかなかった町に急な発展がある時ってのは、大概エネジスとかが絡んでるからな。
 だが、表向きにエネジスの存在が出てこなかった。
 これで裏側でエネジスを売ってるだろうと推測できたわけさ」

 「それで、ある程度住んでみると、サーティスを含むハンターグループが怪しいという展開になったわけよ。
 んで、サーティスの元仲間ハンター関連を調べてる時に出会ったのがマイケルだ。
 お前も会った・・・だろうけど、風を使ってた大男な。
 それからマイケルと共に、アレンジの部下になって色々やって、ここに埋まっているエネジスの闇売買関連も突き止めた。
 で、今回の実行時期に上手いこと、エリアスターのお前が来たってわけよ。
 ここに初めてきた時に砂嵐に襲われただろうけど、あれはマイケルの風だ」

聞こうともしないことを話しはじめたな。
コレはコレでこのエリアでのヒントになるかもしれんから、一応全部聞いておくか。

 「あとは、お前も知っての通りの展開だ。
 結局の所、サーティスもアレンジ達もお互いにエネジスを自分達のモノにしたかっただけだった。
 だが、そのエネジスの力によってアレンジとマイケルは命を落とすことになった。皮肉だな。
 マイケルの遺品になるんだが、このエアポケットに詰めるだけエネジスを詰めていたみたいでな」

目の前にヒョウタンのような袋を取り出すと、オレに渡した。

 「コレがエアポケットっていう袋だ。
 流石にエネジスは抜いてあるが、袋の口のより小さいモノならある程度無限に入る袋だ」

なんかプレゼントまでくれる気前の良さで大体の事情も理解できたが、
ひとつ気になる部分がある。

 「サーティスと最初に会った時に聞いた話だと、
 エネジスの売買をしてた女性のハンター仲間に裏切られたと聞いてたんだが。
 今の話から考えると、その女性はアレンジの仲間な気もするんだが」

 「確かに居るみたいだな。
 ただ、アレンジ達の口が封じられた以上、これ以上の手がかりも出てこないだろうな」

何か引っかかる言い回しだが、調べられない以上どうにもならないのだろうな。

 「逆にオレからも聞きたいんだが、
 サーティスが最後に使った奥の手の"ブレイカー"を素手で防いだのは、お前のマテルの関係か?」

 「ガンプも似たようなことをいっていた気がするが、オレがそれを聞きたいぐらいだ。
 あのブレイカーっていう剣は何なんだ?」

 「知らなかったのか。
 あのブレイカーっていう剣は、エネジスの成分を吸収して
 剣を通してマテルの力を強力にしたり成分の力を使ったり出来るアイテムだ。
 サーティスはかなりの数のエネジスを持っていたから、
 剣の刃に触れただけでも色んなエネジスの影響を受けるはずなんだが」

それで、ガンプは奇跡に近いといっていたのか。
剣から斬撃が飛んでいたのも、風のエネジスとかの影響ってことか。
だとすると、オレがブレイカーを掴んでも軽症で済んだ理由は・・・

 「まぁ・・・ソレがお前の持つ似非マテルって事だろうな。お前も薄々感じては気づいてるだろうけどな」

いや、全く感じてはいないんだが。
だが、向こうが勝手に納得したみたいで、これ以上の話はなさそうだ。

 「おっと、忘れる所だった。
 このナビ職が居ないと少なくとも新種のお前はここから出れないからな、余り無理させんなよ」

 『あ、リノちゃん』

久しぶりに見た空飛ぶ野球ボールもといナビ職。
ようやくフラフラクルクルが復活して、リディの肩近くまで移動する。

 「久しぶりだな。リディ。
 ・・・お前もどうやら犯罪者の肩書きが取れたようだな」

 「あぁ、過労のナビ職か。
 この町じゃ何もすることがなかったな」

 「この町ですることは何も無いだろ。
 お前の目的はウエブの町でダイアを稼ぐ事じゃなかったのか?」

そういえばすっかり忘れていたが、この町には確かに用はなかった。
ウエブの町に行く途中で、マイケルの風によってエスケの町に誘い込まれてしまっていたのだった。
ナビ職に本来の目的を教えられて苦笑いするしかなった。


ラルフとも別れて、ようやくこの屋敷を出る事ができた。
そうして元の3人?になったオレらは、ようやく砂漠のエスケの町を抜ける事になった。




そこは金色がベースとなり煌びやかな町並みが構成されている。
町はドーナッツの様に円周上に固まっており、その名の通り、円の中心には何もない。
何もないというが、実際は人工に作られた湖がある。

決して全てが解決したわけではなく、だが、それでも
この砂漠の地に命の水は蘇った。






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