04
【エスケ】
金色がベースとなり煌びやかな町並みが構成されている。
町はドーナッツの様に円周上に固まっており、その名の通り、円の中心には何もない。
何もないというが、実際は人工に作られた湖がある。
この湖こそがこの町の財産の一つである。
金色の地にとっては水は命に関わるモノである。
ウエブの町に行く途中にあるこの地は【エスケ】の町と呼ばれている。
ウエブへ普通に進むと特に寄らなければいけない場所ではないのだが
この町で小さな一つの出来事が起きていた。
「水が無くなるってどういう事だ?」
白いローブのようなモノをかぶり、表情が見えにくいが、その口調からも苛立っている小男が一人と
「契約切れということだそうで、どうにもなりません」
同じく白いローブのようなモノをかぶっているが、表情が丸見えになっている冷静な大男が
中心にある湖で話し合いをしていた。
「ならないって・・・この町はどうなるんだ?
ここにはまだエネジスが星のように埋まってるんだぜ?」
「その事が問題なのでしょう」
「アレか?ここ数年で増えてきているマテルを持たない"新種"の関係か?
あいつら、共通してエネジスを持ってるからな」
「エリア警察機構の役人が最近この地に多く滞在している事も
おそらく関係しているのでしょうね」
「あの長髪白髪の女か」
「今月だけでも3人も捕獲しているようですね。
どうやら、"新種"はデックスの方から来てる事が多いようです」
"それでは、水と引き換えに一つ頼まれてはもらえませんか?"
二人の背後にいつの間にか一つの人影が現れていた。
後ろを振り向きこそしなかったが、水面に映ったその髪を見て二人は覚悟を決めた。
「どうすればいいのですか?」
ゆっくりと振り返り、そのエリア警察機構の役人と話を始める大男。
小男は恐る恐る大男の方を向きつつ対面する。
その役人は氷のように鋭い目をしていたのだが、軽く微笑むとそれが柔らかい視線へと変わった。
「湖の方は私の役職と名にかけて保証致します。
あなた方お二人には、この後この地を通り過ぎるはずのナビ職の車をこの町へ誘導してもらいたいのです」
「ナビ職?
それってあんた・・・いや、あなたの仲間って事じゃないのか?いや、ですか?」
「そうなのです。仲間なので私から手を上げる事は余り好ましくないのです」
「それは、僕達がここに誘導する事をきっかけに捕まえるという事でしょうか?」
「それについてお答えするつもりはございませんが、
この事を実践していただければ、この砂漠の地のエスケの町は救われるはずですよ」
「・・・わかりました。僕の【黄金の風】を使えばこの町へ誘い込む事は容易いことです」
「お、おい。何で簡単に話を飲むんだよ。
本当に水が保障されるのか分からないんだぞ」
小男は大男の服を引っ張りつつ、役人から隠れるように小声で話をする。
大男はの方はうっすら笑みを浮かべながら答えを返す。
「あのお方はエリア警察機構の中でも重要な役職に勤められておられますよ。
そのお方が頼むということはよっぽどの事でしょう。
立場的に僕達のような一般人でなければ出来ない大役なのですよ。これは」
「いや、だからだな・・・」
「僕の言うことに今まで間違いがありましたか?
むしろ、この町に誘い込むだけで良いのですから、僕達には適役なのです」
「まぁ・・・いいけどよ」
小男は渋々ながら大男に賛成し、役人に言われたようにナビ職の車を町に引き込む任務を請け負った。
対価がこの町にはあまりにも大き過ぎるモノなだけに、小男は全く信用してはいなかった。
「なぁ、何で信用したのかオレには全く理解できんのだが」
「僕も信用したわけではありませんよ。
ただ、あの役人に心当たりがあったので、逆らうのは得ではないと思っただけです」
「知り合いか?」
「いいえ。ただ、あの方が女性の変装をした男の人ということだけは間違いないでしょう」
「はぁ?あの役人は男なの?」
「確か、名前は・・・【ガンプ】と言ったはずです。
役人の中でも異色の存在で、世界各地をふらついていると聞いたことがあります。
女装が好きというわけじゃなくて、正体を知られないために変装しているというのが事実でしょうね。
7種類の声を持つとも言われてます」
「お前・・・何でそこまで詳しいんだ?」
「それは企業秘密ということで。
まぁ、変装はするのですが、あの氷のような鋭い目と、額にあるもう一つの目のようなアザだけは隠さないようですね。
その2つはガンプという役人の特徴なんですよ」
「・・・へぇ〜、オレは役人とかお偉いさんには興味ないし、ほんと知ったことじゃないけどな」
「ただ、異色の存在と言われるだけあって、性格も変わっているようです。
気分次第で一つの町を世界の地図から消したこともあるとか・・・」
「ってどんな奴だよ。そんな奴の言うこと聞いて大丈夫か?」
「聞かないよりは大丈夫だと思いますよ」
「おいおい。お前、ちょっとやばい橋渡ってる気がするんだがよ〜」
「僕の考えでいけば、今回の"彼"は約束を守ると思いますよ」
「考えって・・・まさか」
「えぇ。僕の勘です」
小男は返答を聞くと予想していたかのように頭を抱えた。
ただ、とりあえず、二人でこの後に来るであろうナビ職の車をエスケの町へ誘導しなくてはならない。
大男のマテルで、それは可能ではあるのだが、相手も一般のモノではないだけに
小男の出番もあるであろうということは自覚していた。
「とりあえず、10qぐらいレーダーを張っておく」
力なく小男は返答した。
大男のマテルは【黄金の風】という通称であり、風を起こす。
言うまでもない事だが、この黄金とは砂漠の砂を巻き起こす時の色の事である。
一方、小男のマテルは【レーダー】という通称であり、その能力は先の返答で言うならば
自身10Km範囲に居るモノを把握するものである。
その個人の性格や環境によって、マテルには特化されたモノが存在する。
所謂、必殺技のようなものである。
普通は06エリアでいう三大属である【熱・大地・空間】のどれかの力が特に特化される。
この場合では大まかにだが、大男は【熱】、小男は【空間】、の力のマテルをより使いこなす事が出来るという事である。
ただ、この分類も細かく分析すると数千種類以上になると言われている。
具体的に言うと、一般的にランプの代用となる【照明】のマテルというのがあるのだが
大男が使うマテルと小男のマテルでは、明るさや継続時間が変わってくると言う事である。
この例でいくと、熱のマテルに特化している大男の方が照明能力が高くなるということである。
デックスからの通過ポイント付近で二人は待機をしていた。
といってもすぐに何かが起きるわけでもなかった為、小男は仮眠までとはいかないが岩陰で横になっていた。
大男も小男程ではないが、その近くにある岩に腰をかけナビ職が来るのを待っていた。
数時間後。
小男が急に立ち上がった。
それはレーダーにナビ職の反応を感じ取ったからである。
ちなみにこのレーダーであるが、特別何かをしているわけではない。
10Km程度なら呼吸をする感覚で感じ取る事が可能であった。
これは同じ「レーダー使い」でも、能力差によって範囲も変化するものになる。
ちなみに、小男はそこそこのレーダー使いということになるらしい。
「来ましたか?」
「あぁ。
今、完璧にレーダーを張ってみたけど、ナビ職の車には2人乗ってるようだ」
この"レーダーを完璧に張る"とは、マテルの能力をきちんと使ったという事である。
小男の場合は対象とソコに乗っている人も把握する事が出来るようである。
この"能力"も人によって変わってくる部分である。
「方角をお願いします」
「あー。面倒だから直接見てくれよ」
小男はそう言うと大男の額に右手をあてた。
大男が言った方角とは、もちろんナビ職の車の位置の事である。
そして小男が右手をあてたのは、レーダーを直接大男に感じ取らせる為である。
マテルによっては使用者が触れていれば、能力を共有させる事が可能であるが
コレも相手の能力の個人差などの影響を受けるモノになる。
「わかりました。
それでは作戦を実行致します」
大男はそう言うと左手を黄金の地、つまり砂漠につけ、右手の平を天の方へ向けた。
たった数秒であるが目的付近の天候が変わり、遠くで竜巻のような大風が発生する。
ナビ職の車は進行方向に出来た風を避けるように、エスケの町の方へ進んでいった。
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「何だよ、この風。 周りがほとんど見えないけど大丈夫なのか?」
『リノちゃんは優秀なナビ職だから大丈夫だよ〜』
リディが言うと信用できる話も信用できなくなる気がするから、本当に怖い。
この時点では、オレはこの風がマテルで出来たモノである事はわかっていなかった。
トリノは分かっていたのかもしれんが。
「だんだん砂漠のほうに進んでる気がするんだが、大丈夫か?」
"どうやら・・・引き込まれているようだな"
『ちょ・・・! リノちゃんしっかりしてよ!』
それはお前には言われたくないな。
と、トリノの代わりに心で突っ込んでおいた。
ただ、そんな余裕がなくなるぐらい周辺の風は勢いを増しているようにみえた。
進める道がワザと作られているとオレにでもわかるぐらい極端な風の起こり方だった。
「余裕がないだろうが、簡潔に説明してくれ。このふざけた風はマテルの力なのか?」
"そうだな。ただ、それを知ったところでこの風を防ぐ手段はない"
「それはある意味では助かるな。だが、誘われているって事か」
"おそらくな。誘われる先は・・・エスケの町か"
『エスケ?
砂漠にあるオアシスだね』
「リディは行った事があるのか?」
『行った事はないけど、確かエネジスが多く埋まってるとか聞いた事はあるね』
「エネジスが埋まってる?
このエネジスって自然に出来た石みたいなモノなのか?」
『う〜ん。リノちゃん解説よろしく』
"余裕はないな"
そりゃそうだろう。周りは砂嵐で進まされている部分以外は全く見えない状態だ。
トリノももちろんその進めされている道を行こうとは思っていないようだが
どうあがいても、別の道に進めないように風の壁が出来上がっているようだ。
トリノに余裕がないのは、その別の道を必死に探しているからである。
「このまま進めば不味い事になるんだろうな」
"お前にとっては、そうかもな"
『お、町が見えてきたよ〜』
いつも通りの空気の読めないリディの発言だが、何故かこの時は心強く聞こえた。
「エネジスのある砂漠の町か」
『ちなみにリッ君の持ってるエネジスと、ここのエネジスとちょっと違うんだなぁ。
リッ君には分からない違いだけどね』
「どういう意味だ?」
『ヨユウハナイナ』
片言のトリノの口真似で返答されたのが非常に腹ただしかったが
そんな余裕すらないほど状況は変わっていた。
町の近くに来てから全く進んでいない事もそうだが、目の前に長髪白髪の人が立っていた。
トリノがその人物を見て、先に進めない様にも見える。
「あの女がこの風を起こしているのか?」
"多分、違うな。だが・・・"
その言葉と同時にトリノは変形を強制的に解除した。
急な事だったためリディと同じように砂漠に打ちつけられるように腰から落ちた。
『リノちゃんどうしたの? おかけですっごく腰痛ですけど〜』
リディでも知らない状況が今起きてるという事なのだろう。
彼女は怒っているはずなんだが、言葉の口調のせいでイマイチ緊迫感もない。
当のトリノの方は、まるで本当にボールになったように反応しなくなった。
唯一空に浮いている事が、生きている証になって見える。
「どうもはじめまして。お名前はなんて言うのですか?エリアスター君」
長髪白髪の女がオレの目の前まで近づいていた。
オレがエリアスターである事に気がついているという事は、つまりエリア警察機構絡みの人って事だろうな。
理由は分からないが、トリノが動かなくなった事で、そう勝手に確信した。
リディはどう動いてくれるか少し見てみる事にするか。
「これは、答えないとダメなのか?エリアドライバーさん」
『えー私に振るの?
すみません・・・どちら様ですか?』
質問を質問で返すあたりがリディらしいな。
しかし、長髪白髪の女は特に表情を変えることなく、だが、鋭い目つきでこちらを見ていた。
「コレは失礼致しました。私はガンプと申します。
現在はこのエスケの町に駐在させて頂いているエリア警察機構の者です」
予想通りの回答ありがとう。だな。
「じゃあ、オレを捕まえに来たのか?何だか犯罪者扱いになってるみたいだしな」
「いいえ。私は特にあなたを逮捕するつもりはありません。
むしろ味方といっていいかもしれません」
「どういう・・・意味だ?」
「あなたが不本意に犯罪者扱いになっている事は私もついさっき知りました。
そこで一つあなたの罪を帳消しにする提案をしてみようかと思いまして」
「提案?お前の言う事を聞けばいいという事か?」
「そうですね。提案はこうです。
この砂漠の地は【エスケの町】と言う所なのですが、今までこの地には水が全くありませんでした。
ところが10年程前でしょうか、突如、湖が出来まして、そこに小さな集落が誕生しました。
その誕生の頃でしょうか、この地には希少なエネジスが多く眠っていると言う噂がどこからか出てきまして
どうも、湖が出来た事と関連性がありそうなのです。
そして、その湖を管理されている人がおりまして、その方がこの町を作り上げたと言っても過言ではありません。
勘の鈍い人でも、その管理人が何かを握っている事は分かると思うのですが
その管理人は湖の保護を理由に町へ水の供給を止めると言い出した様なのです。
砂漠の地にとって水は命に関わるモノですから、町の人達は困っているのです。
もう、わかりますね。水を供給してもらえるよう交渉して欲しいのです」
「別に、それはいいんだが、コレはお前が言えば済む話じゃないのか?」
「エリア警察機構としては関わる事が出来ないプライベートな部分なのですよ。
私達の言葉は権力ですから、それは非常に重たいモノになります。
この町の場合、湖の管理者が町を支えている部分が大きいので
下手に権力を使うことはこの町そのものをエリア警察機構が仕切ってしまう事になってしまうんです。
それはこの町に反した行為なのです」
まどろっこしい言い方をしているが、ようは自分の手を汚したくないから
オレの様な赤の他人を使って丸く収めようということなのだろう。
それに、今回の件で恩を売ろうとしている雰囲気すらする、胡散臭い事この上ない奴だ。
しかし、エリア警察機構のモノ自らがオレの罪を帳消しにすると言っている点は使える部分だ。
一癖ありそうだが、追われたままこのエリアに居るのも気が落ち着かない事だし
ここはガンプとか言う"女"の提案をのんでみるのも悪くはないのかもしれん。
ただ一応、話しについていけなくなった雰囲気のリディさんに振っておくか。
「この提案はのんで間違いないのか?」
『う〜ん。これはちょっとわからないよ』
何が分からないのかを聞いても多分意味がないのだろうな。
大きく分類すればリディもエリア警察機構寄りの奴だろうからな。
本当に話の筋を理解していない可能性もあるが。
「わかったけど、その管理人の所まで案内してもらえるか?」
「本当に交渉して頂けますか。大変助かります。
では、こちらへどうぞ」
長髪白髪の女の後ろをオレとリディと空に浮いてるだけで動かないトリノがついていく。
動かないトリノはリディが手に掴んで持ち歩いている状況である。
それにしても町のほとんどが金色で構成されているのは、驚きを通り越して呆れるばかりである。
その中でも町の中心、つまり湖の近くに一つのこれまた呆れるほどの豪邸が一つ見えてきた。
「ここが、管理人の家か?」
「そうですね。ただ、一つだけ注意点があります」
一つだけとは思えないが、一応聞いておく事にする。
「この先は・・・そういえばあなたのお名前を聞いていませんでしたね」
流れ的に忘れていて欲しかったが、偽名を使った所でリディがいる時点で意味もないだろうな。
渋々答えておいた。
「では、リクさん。この先はあなた一人だけで行って下さい」
「何故だ?」
「この湖の管理人は女性が苦手みたいなのです。
先程もっともらしい言い訳をしましたが、実のところ、そういう理由で私では交渉できないのです」
「管理人って男か?」
「はい。女性恐怖症という話で」
それで一人で行けという話か。
女性恐怖症ならリディも連れて行くわけにはいかないしな。
何だか、上手い事言いくめられてる感じの展開だが、やるしかなさそうだな。
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女性恐怖症と聞いてある程度の覚悟は出来ていた。
オレの偏見だが、そういう奴は逆の方向に走るモノが多いという事だ。
一応、管理人の家に入る前に長髪白髪の女ことガンプに"確認"をしておいたが
そこまでは知らないとの話が返ってきた。
嫌な雰囲気を感じながらも豪邸の門前に移動する。
どうやら、サーティスという名前のようだ。
門にある立派な呼び出しを押してみる。
「どちらさん?」
「えー、ここに湖の管理をされている方が居ると聞いてきたんですが」
「・・・いま門を開けますので、少しお待ちください」
予想外に簡単に中に入れてくれた。
あと、声を聞く限りだと20代の青年風に感じた。
門が自動で動くとそのまま中へ進むように言われた。
いわゆる豪邸で家にたどり着くまで大きな庭の中を歩く事になる。
その庭には湖から引いているのだろうが、十分すぎる水が存在しており
さながら日本庭園のような雰囲気になっていた。
「こんにちは。サーティスさん居ますか?」
室内は外見と違い意外とあっさりした作りになっていた。
目の前に長い通路が左右と正面に3つあり、その通路を結ぶ中心は
高級ホテルのロビーでもそうはない広さだけが存在していた。
その正面の通路から嫌に目立つ赤と白で構成された冬服を着た一人の人物が近づいてくる。
白ひげこそないが、その風貌はサンタクロースのようでもある。
「私が町長です。ようこそいらっしゃいました」
「湖の関係で話がしたいんだが」
「そうでしたか。では、こちらへどうぞ」
声も見た目も若いのだが服装のせいで変に浮いて見える。
砂漠に住んでいる人の格好でない事は確かだ。
女性恐怖症だけでなくほかにも色々問題がありそうな奴だな。
さっさと用件を済ませて罪を帳消しにしてもらう方がいいだろうな。
とりあえず、サンタじゃない、サーティスについて行くように室内の奥の部屋に案内される。
その部屋はさらに異質な作りになっていた。
フローリングには何の獣か分からない毛皮がひかれており
壁のあちこちにはコレも何の獣か分からない剥製が備え付けられている。
ここには、こういう獣が出るのか?
それ以前に、こういう部屋に通す神経がオレには理解できない。
ここがお客さん用の部屋とはとても思えない。
「ビックリしたでしょう。ここは私のコレクションルームなのです。
応接室が今使えないのでこんな部屋になってしまってすみませんね」
「それは別に構わないけど、用件だけを単刀直入に言うと
サーティスさんが管理している湖の水を町に供給して欲しい」
「そうですか。ソレは困りましたね」
「供給できない理由でもあるのか?この町はサーティスさんが作ったようなもんだと聞いてるが」
「見たところ、あなたは警察の人と繋がっているようには見えませんが
こういうお話を持ってきてると言う事は頼まれたのでしょう?
その頼まれたお方に言ってもらいたいのですが、ここから警察関係者をすべて排除してもらえるなら
この町に再び水を供給させてもらいます」
「警察も嫌いなのか?」
「えぇ。あの方達はこの土地の資源を奪おうとしているのです」
「水をか?」
「いいえ。水はそのひとつに過ぎません」
「というと、エネジスか?」
「・・・そういう事です。
この部屋を見て分かるように私はモンスターハンターをしておりまして、
10年ほど前でしょうか、この砂漠に珍しいモンスターが居るということで、こちらの地域に来たのです。
残念ながらモンスターはガセネタだったのですが、偶然にもエネジスから作られる天然水を見つけたのです。
そして、そのエネジスの可能性を感じた私は、ハンター仲間とここに小さな集落を作りました。
それがこのエスケの町です」
「砂漠にオアシスが出来たぐらいなら誰も気に留めなかったのでしょうが、
ある程度町が形ついた頃になると、仲間の一人がエネジスをダイアに換えはじめたのです。
そうする事で結果的に私達は多くの財を得る事になるわけですが、
同時に砂漠の町が急に発展した事を不思議に思う人も出てきたわけです。それがエリア警察機構です」
「彼らは町の護衛という名目で駐在するようになりました。
来た当時は警察を疑っているわけでもありませんでしたし、町のためにも良いと私は判断したのです。
しかし、事実は違いました。
ハンター仲間だと思っていた一人の女性が警察と繋がっておりまして、
警察の方へエネジスをほぼ無償で供給するだけでなく、湖を構成するエネジスを奪おうと計画していたのです」
「特に、天然水を作るエネジスは非常に価値があるもので、それを売れば一生遊んで暮らせるだけの財が手に入るとの話。
私は失望しました。警察にもですが、その女性ハンターにです。
このエネジスはこの町のみなさんで共有するモノで、誰かの利益だけのために取りあさってはいけないはずです。
しかし、表立って警察の人に出て行って下さいというと、その後どういう報復をされるか分かりません」
「そういう事から、エネジスを守るために、この地の命である水を絶つ決断をしたのです。
もちろん町のみなさん同意の上です。同意していないのは警察関係者だけです」
ずいぶんと長々と説明してくれたのだが、女性恐怖症というか女性嫌いな部分は納得できたのだが
それ以外はいまいち納得がいかなかった。
このサーティスの肩を持つ気になれないのは、オレがガンプから罪を消してもらえる条件があったからなのだろうが
ソレを抜きにしても何かおかしいと思った。
ただ、その部分を突っ込めば、けっして水を供給するとは言わないであろう。
仮にこのサーティスの条件をのめば、ガンプは町からいなくなる事になるが
そうなると、オレの罪の帳消しの話もなくなるのではないかという不安もある。
どうもオレには都合の悪い展開になっているようだ。
「サーティスさんの思いは分かったけど、ここままの状態で自分だけ水を蓄えていたら、
住民は同意してるって言ったけど、そのうち暴動か何か起きてあなたの立場が危なくなるんじゃないのか?」
「それはありません。この町は私が居て成り立っているのですから」
この人がずれているのか、ダイアやエネジスを得ている事でずれているのかはわからないが
やはり味方にはなれそうもない奴だな。
力を持ってしまうとこうなってしまうのだろうかね。
「じゃあ、こうしよう。
水を供給してくれたら、警察の人は全て出て行ってもらい、今後この町には関与しないという事で」
「あなたにソレができるのですか?」
「サーティスさんが信用してくれなければ、オレが何を言っても無駄だよな」
「わかりました。それではその警察の人の誓約書を貰ってきてください。原稿は今こちらで作成します」
そう言うと小走りで部屋を出て行った。
コレだけ広いのに住んでいるのはあいつだけなのだろうか。
というか他のハンター仲間とやらは、サーティスの事をどう思っているのだろうか。
何だか腑に落ちない部分が多いが、あとはガンプの方が上手く折れてくれればこの用件は終わりそうだ。
腑に落ちないといえば、モンスターハンターとか言っていたよな。
この世界にはモンスターと呼ばれる見たことのない生命体が居るってことなんだろうな。
そんな事を考えていると、ふと、【24エリアで想像できるモノは06エリアには全てある】という言葉を思い出していた。
ゲームとかでの想像でしかないモノでも、この世界では現実として存在するって事なのだろか。
そう適当な事を考えているとサーティスがまた小走りで戻ってくる。
「それでは、コレをお願いしますね。」
受け取ったのは良いのだが、果たしてガンプはどう返事をするのだろうか。
不安を感じつつもオレは豪邸を出て、ガンプ達と待ち合わせの店へ向かった。
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「あの〜あなた、さっきサーティスの家から出てきましたよね?」
この町の人は大概が白いローブみたいなものをかぶって居るのだが
この声をかけて来た人も例外ではなかった。
「あぁ。そうだけど?」
「お願いします!サーティスを助けてください!」
な、なんだ?
突然声をかけてきて、妙に暖かい両手でオレの両手首を掴んだと思ったら、助けろって・・・
何かもう一癖ありそうだが、事情だけは聞いておいたほうがいいのか?
「どういうことだ?」
「サーティスはエネジスに飲み込まれてるんです」
「飲み込まれてる?」
「そうなんです。サーティスの家に行った事情はエリア警察機構の役人から聞きました。
あなたならこの町もサーティスも救える力があると思うんです」
おいおい。一気に雲行きが怪しくなってきたな。
この男は、ガンプと繋がってるのか?
なんだかオレのことも誤解している雰囲気だし。間違いなくガンプが適当な事を吹き込んだんだろうけどな。
とりあえず一度ガンプに会う必要がありそうだ。
「ちょっと待ってくれ。
こちらにも事情があるんで、一度警察の人に会ってから詳しい話を聞きたいな。
一緒に来てくれんか?」
「それは無理です」
「何でだ?」
「何か急用があるとかで、連れの女性の方と共にこの町から出て行かれましたから」
な、なんだと。
コレは・・・まさかオレは、はめられたって事か?
ガンプが居ないんじゃ、オレの罪を消す条件の意味がない。
さらに言えばリディもトリノも居ない状態で、このあと別のエリア警察機構の奴が来たら
オレは捕まるってことだろ・・・。
ガンプの奴は端からオレを捕まえるために、一芝居したって事か。
振り返って考えてみれば変な点はいくつかあった。
リディはガンプに会ってからほとんど喋っていなかったし、トリノにいたっては行動不能になってた。
ソコに気がついていながら、罪がなくなるという点だけを信用したオレが馬鹿だな。
とりあえず、ガンプが居ない以上はサーティスの条件をのむ事ができない。
かといってコイツの言う事を聞いても、下手するとサーティスも敵にまわしてさらに都合が悪くなる気もするな。
ここではマテルが使えるみたいだし、移動のマテルで逃げるか?
「とりあえず、詳しい事情だけを聞かせてくれよ」
「わかりました。
この町が出来た経緯はサーティスから聞いていると思いますので省略しますが
私もハンター仲間でした。
過去形なのは、今はサーティスを仲間だと思っているメンバーがいないからということです。
サーティスは湖を作り出したエネジスの魅力に飲み込まれてしまって、人が変わってしまったんです。
警察の人がここに居るのも、そのエネジスを奪おうとしてるからと勘違いしてるのですが
サーティスはその勘違いを信じようともしません。
もちろん裏切った仲間が居た事も要因なのでしょうが、自分以上の権力を持つものを信じようとしません」
「一番簡単に解決するには、そのエネジスをサーティスから引き離す事ですが
コレはほぼ不可能に近い事だと思います。
おそらくサーティス自身の中にそのエネジスがあるとしか思えません。そこまでする可能性は十分にあります。
しかし、あなたにはソレができるはずなんです。
私達はマテルを持って生まれてきていますが、あなたには生まれ持ったマテルがないはずですよね」
このオレがマテルを持ってないという点を理解しているのもガンプからの情報だろうな。
しかし、これほど都合よく理解出来るものなのだろうか。
一応、確認は必要だろう。
「ちょっと、待った。
何でオレの事情をそこまでわかってるんだ?」
「あなたに限った事ではありません。
ここ数年でマテルを持たない"新種"と呼ばれる種族がいる事は世界の常識になりつつありますから。
それに警察の役人の方もあなたが"新種"である事をおっしゃってましたしね」
ここ数年でマテルを持たない新種・・・というのはリディが連れて来た、オレを含むエリアスターって事か。
そして当然のようにその事実をガンプは話していたようだ。
ただ、この町に来るにはガンプだけの力じゃ無理だろうな。
これはおそらくトリノも一つかんでるぽいな。
ナビ職の仲間を攻撃されてたわけだし、リディはあの感じだとオレについて来る気でいただろうから
そこでオレとリディを引き離すためにこの町へ誘い込ませたということなのか?
砂漠の風はガンプの力じゃないとトリノは言っていたが、ガンプが使っていない保障は一つもないしな。
ガンプはガンプで、警察という権力を使わせずにこの町の水問題をオレに解決させ
更に自分が身を引く事で、オレをこの地に孤立させ解決後に何もなかったようにマテル犯罪者として捕まえる。
そう考えるとガンプ側に都合が良いように出来すぎたシナリオだ。
ただ、気になるとすれば
ガンプがこの地から居なくなれば、オレがそのシナリオになんとなく気がつくのも分かるはずってことだ。
態々気づかせる意図は何なんだ?
「で、話の途中でしたね。
マテルを持たないあなたにはエネジスの魅力が通用しないと言われてます。
マテルとエネジスには密接な関係があるようで、詳しいところまでは解明されていませんが
大概の人はエネジスの魅力に飲み込まれて、自分を見失うと言われてます」
魅力か。
確かに記憶を消したり、知識を埋め込んだり出来る非常識なアイテムのようだしな。
マテルという魔法の力を生まれ持ってる奴からすれば、そういう状況になってもおかしくはないんだろうな。
ある程度、この世界の知識はデックスの図書館でのエネジスで得てはいるが
こういう本質な部分は全く分からないときている。
本当に都合よく出来たアイテムだこと。
「確かにその話だと、オレじゃないとサーティスを助けるのは不可能になるな。
だが、オレはボランティア精神を持った賢人じゃないんで、きちんとそれに応じた対価が欲しいモノだな」
「確かにそれはそうですね。
それでは、報酬は100万ダイアで如何でしょうか?」
この世界のダイアの価値がイマイチ分からない部分もあって、
それが割に合ってるのかは理解できなかったが
とりあえず、ある程度のお金を得る事が出来れば今は良い。
この金額をオレ世界の国での単位で置き換えると、そこそこの大金にはなるけどな。
しかし、ガンプにはめられたばっかりで、"安請け合い"は出来たものじゃないな。
「それじゃ、契約金として半分だけ最初に頂きたいな」
「それでは、やっていただけるのですね?ありがとうございます!
それでは早速口座に振り込ませていただきます」
口座?
あぁ。そりゃそうか。現金を持ち合わせているとは限らないわけだな。
まずはその事情から話さないとダメか。
「口座がないとなりますと・・・この町には銀行はありませんからどうしますか・・・」
「銀行が無いって、それじゃお前はどうやって振り込むつもりだったんだ?」
「口座さえあれば、この携帯で・・・」
こういう知識がエネジスに入っていないのは
オレの世界でも同じ事が出来るから必要ないと思われていたのかはわからんが
24エリアで出来る事は06エリアでも出来てるってわけだな。
それにしても、奴の持っている携帯はただの薄っぺらい透明なプラスチックにしか見えないが
必要に応じて画面が出てくるようになっているのだろうな。
″24エリアで出来る事は―″の考えに準ずれば、逆に考えると
オレの世界にもいずれこういうタイプの携帯が出てくるって事なんだろうか?
「オレは現物主義なんでね。ダイアの変わりになるモノはないのか?」
何だか、お金にがめつい人に成り下がってる気がしたが
この際、体裁など気にしてもいられない。
むしろコレぐらいがめつくないと、この先生きのこれる気もしなかった。
「それでは・・・この【ジュエルリング】を先払いとして差し上げます。
この地方でしか得ることができない鉱物で出来たチェーンリングです」
確かに二つと無さそうな見るからに高級品なチェーンを貰った。
コレがどれだけの値段で売れるかは分からないが、下手したら100万ダイアは越えるんじゃないか?
コレはコレで得をした気がする。
しかし、問題はここからだ。
「契約はしたけど、オレはサーティスと一つ約束をしているんだ」
「どのようなお話ですか?」
「内容は言えないが、その約束を守る前にサーティスのところに戻るのはちょっと難しいかもしれん」
「そうですか。それでは私も一緒に行きましょう」
「本当か?だが、さっきの話だとお前はサーティスの事を・・・」
「ハンター仲間が今のサーティスを避けているのは事実ですが
サーティス自身は私達を避けては居ませんし、他の仲間も元のサーティスに戻って欲しいと思っています」
「それならいいんだが、オレもサーティス程じゃないが軽く人間不信に成りそうになってるんで
ちょっと疑い深くなってるところがあるんだよ。
お前が会ったエリア警察機構の奴のおかげでな」
「そうだったのですか。
ということは警察の役人の方と会う約束をされていたと言う事でしょうか?」
「まぁ・・・そういうことだ」
「それがサーティスと絡んでいるのなら使えますよ。実際居ないのですから」
こいつ・・・忘れかけてたが、ガンプと繋がってる可能性があるんだったな。
ということは、オレの事情を知っていてついて来る可能性もあるわけだな。
とはいえ、元仲間について来てもらえる方が色々と話がしやすそうなのも事実。
とりあえず話をあわせておくか。
「わかった。一緒にサーティスのところに行こう」
「ありがとうございます」
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再びあの豪邸の門前に移動し、立派な呼び出しを押す。
「どちらさん・・・あぁ。あなたですか」
「ちょっと事情が変わったんだがいいかな?」
「・・・あ、アレンジ君も一緒ですか。いま門を開けますよ」
いつの間にか隣の男は白いローブみたいなものを外していた。
どうやらこの男はアレンジという名前のようだ。
以前と同じように門が自動で動くとそのまま中へ進んだ。
相変わらず庭には十分すぎる水が潤っていた。
中に入るとすでに、嫌に目立つ赤と白で構成された冬服を着た一人の人物が待っていた。
「まさか、アレンジ君がここに来てくれるとは思ってませんでしたよ。元気でしたか?」
「まぁ。それなりに元気でしたよ。
私が来たことで分かってると思いますが、こんなことはもう止めなさい」
「・・・アレンジ君なら分かってくれると思ってましたが、君も警察の手下になったのですか?」
「そんな事はありません。私もあの人達のやる事は賛同できません。
しかし、サーティスのやっている事は無駄骨ですよ。
エリア警察機構はその気になればいかなる手段でも取るでしょう。
サーティスのためを思って言いにきたのです」
「なら、何で今まで私の所に来てくれなかったのです。仲間でしょう?」
「サーティスのやっている事も賛同できなかったからです。
今までこちらに来れなかった理由は一つ・・・」
そう言うとアレンジはオレのほうを向いた。
その行動が一瞬だけ何を示すか理解できなかったが、すぐに意図を掴んだ。
「サーティスさん。今エリア警察の人はいない。
なのであの誓約書にサインをもらう事はできない。
仮にこのまま帰ってこなければサーティスさんの思う通りになる。
帰ってきた時はオレが話をつける。
こうして仲間の人も来てるんだ。この町の命の水だけでも開放してあげてくれないか?」
かなり強引な言葉の使い方だが、元々喋りに自信があるほうではない。
なんとか水の解放をしてもらおうという気持ちだけで話を進めて言った。
すると、ソレが伝わったのか分からないが、サーティスの様子に変化が生まれる。
あのサンタの服を脱ぎ始め、それを下に置く。
中にはスーツを着用していたようだが、汗一つかいていないのはどういうことだろうか。
「アレンジ君。君は私のやる事に賛同できないと言いましたね。
私もこういうやり方は本位ではありません。
しかし、この地にあるエネジスを守るためには仕方ない行動なのです」
「ということは他のエネジスもこの家にあるというのですか?」
「全てを見つけたわけじゃないですが、私がこの町のために保管しています」
「それならこの家に警察の人を寄せ付けないように
私達ハンターの一員が住む形にして守っていくという方法はどうですか?」
「・・・私は、アレンジ君は信用してますが他のメンバーは完全に信用していません。
以前のミカのような裏切り者がまた出てくる可能性もあります。
エネジスとはそれほど危険な魅力を秘めたものなのです」
「私は、サーティスがその魅力に取り込まれていると思ってます。
目を覚まして再び仲間と共にエスケの町を作っていきませんか?」
二人が白熱した思いをぶつけている間、オレは一つの変化を見つけていた。
先ほどサーティスが脱いだサンタ風な赤と白で構成された冬服から何かが出ているように見えた。
その、実態はよくわからないが。
一方、サーティスはアレンジの説得に応じかけているように見えた。
「私がすでにエネジスに取り込まれている・・・。そうなのかもしれません。
アレンジ君。君が本当のことを言っているのならね」
「分かってもらえましたか?今ならまだ間に合うはずです」
「えぇ。あとは警察のほうだけですね」
二人してオレの方を向いた。
こいつら始めから猿芝居してたんじゃないだろうな?
そう思うぐらい息の合った行動である。
「オレはワケがあっていつまでもここに居るわけには行かないんだが」
「確かにご迷惑はかけられませんが、足もない状態でこの地を抜けるのは危険ですよ」
アレンジは警察を追い出す事については別にどちらでも良い立場だからこういうコメントになるのだろうが
サーティスは軽く睨んだ程度で、何も言わない。
「確かに・・・この地にはモンスターも出るようだしな」
「モンスター?」
意外にもこのオレの言葉に反応したのはアレンジの方だった。
「あぁ。サーティスさんに通してもらったコレクションルームのことを思い出してね。
あの剥製とかってこの地のモンスターのじゃないの?」
「アレはこの地のモノではないですよ。
私達は以前も言いましたが珍しいモンスターを探すためにこの地に偶然来たのです」
「そうだったのか。なら距離の問題かい?」
モンスターの話を振る事で少しはサーティスの機嫌も良くなったようだ。
睨んでいた表情が一気に緩んでいた。
一方でアレンジの方は一瞬戸惑った顔をしたが、オレに気がついてすぐに表情を戻した。
「そうですね。移動を得意とするマテルを持っている者でもこのネスケ砂漠は歩ききれないほどの距離があります。
あなたは確かナビ職と共にここに来たのですよね?
ナビ職なら普通に進める砂漠の地ですが、人が歩いたり進むには"地場"の影響でほとんどまともに進むことが出来ません」
磁場ではなく地場か。
理屈はよくわからないが、おそらくエネジスが影響してるんだろうな。
アレンジはオレがナビ職と一緒に来ていることは知っているし、
なによりこの理屈からすると、ナビ職がいない限りこのエスケにはたどり着けないことになる。
事情を知らなくてもそういう結論になるという事だな。
「となると、オレではここから抜け出せないってわけか。
でも、あなた達はどうやって移動してるんだい?」
「定期的に【ナビ職便】が来てるので、それに乗って移動することは可能です。
ただし、あなたにその資格はないと思いますけどね」
「どういう意味だ?」
「マテルを持っていないあなたには乗る視覚がないということです」
アレンジは何を言っているんだ?
擬似的にはとはいえ、オレも今はマテルを持っている形なのだが。
生まれ持ったマテルでないとダメな理由でもあるということか?
「それは、生まれ持ってマテルを持たないからなのか?」
「・・・いいえとは言えません」
ガンプがオレをここに置き去りにした本当の目的が見えた気がした。
どうあがいてもオレ一人ではこのエスケからは出られないという事。
他のエリア警察機構の手で逮捕させなくとも、オレをここに閉じ込めて管理することが出来るわけだ。
「警察の人が来るまで、ここでゆっくりしていくといいですよ。
コレは部屋の鍵です」
事前に準備が出来ていたかのようにサーティスは赤白の服を拾うと、一つの鍵という名のカードをオレに手渡した。
そしてそのまま奥の通路へ歩いていく。
逃げるようにアレンジもサーティスのほうについて行った。
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鍵No.569
別に5階にある部屋というわけでもなく、それとなく歩いていると見つけた。
外観同様に部屋の中も豪邸そのもので、部屋というよりはソコが一軒家である。
ドアを開けると、一軒家の玄関風な作りになっており、
廊下になっている部分を少し先を進むと、20畳はある空間にソファーと机が置かれている。
入口側以外の壁はほぼガラス張りになっており、そこには命の水が一面に広がっている。
入り口側の壁側には3つのドアがあるが、ソコは寝室と洗面室になっていた。
この作りからしても、元々ハンター仲間と共に住むための″部屋″だったのだろう。
そして、それがようやく実現になろうとしているようである。
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