02
【デックス】
『デックスという所には、大きな図書館があるんだよ』
ナビ職が変化した車に乗せられ、オレとリディはデックスへ向かっていた。
リディが色々と説明をしてくれるのだが
あの後、ナビ職が全く話をしなくなった事がやや気にかかっていた。
『リッ君は06エリアが初めてだから、その図書館で色々勉強をしないといけないんだよ。
なんか結構大変みたいだよ〜』
勉強・・・ね。ソレが儀式という奴か。
リディにしてはまともな説明なので、適当にではあるが相槌は打っておいた。
『ところで〜エネジスって知ってる?』
「あぁ。トリノから聞いた」
『な、なんだ〜。リノちゃんが先に喋ったのかぁ』
「オレはデックスで独り立ちしないといけないんだろ?
その為にこの世界の言葉などを翻訳するアイテムらしいと聞いているが」
『そっか・・・そこまで聞いてたんだ。
じゃ、私から説明すること・・・もうないね・・・』
エネジスの内容はオレの仮説ではあったが、
リディの反応を見る限りそういうアイテムらしいという事が理解できた。
それと、よっぽどエネジスについて説明したかったのか
一気にテンションが下がったようで、リディは窓を眺め始めた。
どんだけ子供だよ。と心の中でつぶやいた。
「そういえば、トリノからは聞いてないんだが
お前は他のエリアスターも見つけているんだろ?
そいつらも同じくデックスから出て行っているんだろうが、その後は何をしているんだ?」
??
返事がない。なんだ?まだいじけているのか?
人がせっかく質問を用意したというのに。
少しイラつきながらもリディの方を見ようとすると
"寝ているな"
久々に聞いたナビ職の声はリディの状況説明だった。
「さっきまで説明攻めかと思ったら、もう寝ているってどんだけな奴だよ」
これには頭の後ろで手を組んで、ただただ呆れるしかなかった。
「そういえば、お前さっきまで静かだったけど喋れなくなったのかと思ったぞ」
"俺らナビ職は基本的に眠らない生命体だが、ある程度の充電は必要なんでな。
本能で行動はするが、時々話しをしない時間というのは生まれる。
コレばかりは生理現象だからどうにも出来ないな"
「眠らないというのは凄いな。
でも、それじゃ脳・・・。いや、まずお前に脳とかってあるのか?」
"人間と同じに考えない方がいい。お前らでいう脳の組織はナビ職にも当然にある。
だが、お前らのように脳そのものを常に使うわけじゃなく、
組織の一部は動くが、一部は充電できるようになっている。
常に起きて寝ている状態というべきか"
相変わらず言っていることが滅茶苦茶だと思うのだが、もう慣れてしまっていた。
慣れというのは恐ろしいものだと感じる。
そして、それで納得してしまっているのだから
オレはすでにこの世界に取り込まれているのだろうな。
なんにせよ、オレは人間だから少しだけ仮眠させてもらうよ。
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何だろうか、何かの衝撃を感じる。
頬のあたりを擽られるというか。
いや・・・これは、叩かれているな。
『いつまで寝てるの!この寝ぼすけ!』
目の前には桃色の髪があった。
とりあえず"襲われて"はいないようで一安心だが
お前にだけは寝ぼすけとは言われたくないな。
「刺激的な目覚ましだな。どうも"ありがとう"な」
言葉とは正反対の表情でナビ職の車を降りた。
町に入る手前の高台で降りたため、町全体を見渡すことが出来た。
そこには、石畳の地面と大理石のようなモノで建てられたと思う白い住居が広がっていた。
「凄い町だな」
『キレイでしょ?私の好きな町ベスト10には入るね〜』
誰もそんな話は聞いてなんかいないが、確かに地球でもこんな町はそうそうないと思う。
というより、出来すぎたぐらい綺麗な町並である。
「ここは車の使用が禁止されているからな。
少しかかるが"歩いて"いくぞ」
ソレは突っ込んだほうがいいのか?
と思いたくなるトリノの言動だが、すっかりナビ職は元の"野球ボール"に戻っていた。
またリディの肩の辺りで不安定に浮きながらクルクルと横回転している。
「勉強だか、儀式だかはこの町のどこかで行うんだろ?」
『あれ?リッ君に言ってなかったっけ?
デックスには大きな図書館があって・・・
ほら、まだ小さいけどあの丸い建物がそうだよ』
リディが指さした先には住居群から外れ、広場のような所が見えた。
そこには確かにドーム型に見える建物が見えた。
目には見えるが歩いて行くにはいささか遠すぎる印象を受ける。
「あれは遠いな。
車がダメでも、そのマテルか何かで移動できるモノは無いのか?」
「移動できるマテルならあるが、それをこの町で使うことはできん」
「それは、マテルを規制されているのか?」
「あぁ。デックスは戦力放棄を掲げている町だからな。
マテルも戦力に相当するモノだから自主的に使用を禁止している」
『そういう事だね。この町がこんなにキレイなのも戦いをしてないからだよ』
「仮に使ったらどうなるんだ?」
「ここはエリア警察機構の駐在地でもある。
平和を維持するという名目でマテル使用者を罰している」
「ということは、お前も監視役ってことか?」
ナビ職は横回転をやめ"カーテン部分"しか見えなくなった。
「そうだな。
俺には罰する権限は与えられてはいないが、報告する権利は与えられている。
ただ、使用しそうな危ない奴が居るから気が気ではないんだがな」
『え?ここにそんな危険な人が住んでるの?』
いやいやいや。それはお前の事だろ。
相変わらず、リディは本気なのか天然なのかよくわからん。
いや、こういう奴を天然というのだろうけども。
しかし、初めてご都合主義から外れたルールが出てきた気がするな。
マテルがある意味なんでもありなモノを作っているのだとすれば
それを規制する必要は当然にあるだろう。
ただ、戦力放棄を掲げていない町はマテルを使えるという事にもなるわけだが。
図書館に着くまでの時間は、オレにとってはこの世界を知る大事な時間でもある。
マテルを持っていないオレには万が一のための対処も知識として入れとく必要がある。
こいつらとは、この町で別れないといけないのだから。
「以前、マテルは魔法のような力だと言っていたが具体的にどのようなものがあるんだ?」
『色々あるよ。
三大属の力を中心に使うんだけど、身近なところだと
光を出したり、火をおこしたり、鍵を閉めたり開けたりとかね』
「さんだいぞく?」
「【熱・大地・空間】の事だ。
マテルはこの3つの基礎を組み合わせて作られている」
てっきり【火・水・雷】とかの魔法定番なモノかと思ったが、かなり広い範囲での属性らしいな。
この【空間】という属性が、一番の違和感を抱かせる要素のようだ。
リディのエリアドライバーの力もこの空間の属性が大きく関わっているのだろう。
ただ、ソレがこの世界では普通に存在するモノなのだろうから
一々驚いているわけにもいかないだろうな。
頭ではそう思っていても、実際みるとやっぱり驚くだろうけどさ。
「オレがここで得るエネジスというのは翻訳するマテルしかないのか?」
カーテンしか見えていなかったナビ職だが、再びリディの肩あたりで適当に浮いている。
リディは分からないという表情をしているので分かるのだが
この奇妙な野球ボールまでダンマリされるのは話が違うな。
それともまた、充電時間なのだろうか。
『リノちゃん・・・多分眠ってるよ。
動きながら眠る事が出来るって器用だよね』
「そうだな。
そういえば以前聞きそびれた話なんだが、お前は他のエリアスターも見つけているんだろ?」
『うん。そだね』
「やっぱり、ここに来て、それぞれ独り立ちしていったのか?」
『うん。そだね』
なんだ?
やけにそっけない返事しか返ってこないな。
ま、リディにとってはオレはエリアスターの一人にしか過ぎないんだろうから
そっけないのもしょうがないのか。
「オレ達エリアスターが全員揃ったら、何が始まるんだろうな」
『なんだろうね。お祝いにパーティでもするかもよ』
エリアのリフォームをする前のお祝いか。
全ての宇宙が集まるという設定のこの世界にとってはお祝い・・・だろうがな。
リディからはこれといった情報を得るのは無理っぽいから
残念ながら、トリノが目を覚ますまで、適当に図書館に向かって時間を潰す事になりそうだな。
『私もこんな家に住んでみたいな〜』
オレ達は住宅地まで歩いてきた。
住居だらけで目的の図書館が見えなくなったが、石畳の道を進むと、そこの先にあるらしい。
リディと同意見というわけでもないが、確かに立派な住居が並んでいる。
貴族の城というたとえはちょっと違うかもしれないが、
大理石風の外観とそれぞれの家にある塀と門がそういう雰囲気をかもしだしているように見えた。
そして、この世界でリディ以外の人間を見た初めての瞬間でもあった。
「当たり前だが、リディ以外にも人間は居たんだな」
『そっか。リッ君は私以外の人間に会うのは初めてだもんね』
「不自然なほど普通な世界だな。
マテルとかを使えないこの町ならオレでも普通に生活できそうだな」
『う〜ん。それはどーでしょー?』
「なんだ?その変な言い方は。
何か住むのに条件でもあるのか?」
『いんや。リッ君ならデックスじゃない他の町の方がいいかもしれないって意味だよ』
「そう・・・なのか。オレはこの町しか知らないからな」
ここは住宅地の中にある市場だな。
ずいぶん人も増えてきている。
リディは相変わらずどうでもいい話をオレに続けている。
この町の特選である野菜の話。近くの港町で取れた魚の話。
デックスの素晴らしさの話。
相変わらず奇妙な野球ボールは言葉を発しない。
どれだけ歩いたか、住宅街を越えて少し広がりが出てきた。
ソレは頭だけ見えてはいたのだが、下りの階段の先に立つと全貌が見えてきた。
そこで見える景色は通路である石畳以外、一面が緑になっており
石畳を進むと、そこには屋根は曲線、外壁は銀色に光るドームにようになった建物が立ちふさいでいた。
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「これが図書館か。思った以上に大きいな」
階段を下りていくうちにその図書館の大きさに圧倒され始めていた。
地球にある普通の競技場が5個ぐらいは入りそうな大きさはある。
そして、石畳が指す道は図書館の壁で終わっていた。
「これって・・・入口がないぞ」
『フフフ。
この図書館は普通には入れないのですよ。非常に大切なモノがあるのでねぇ。
これからリッ君が貰うエネジスもその一つだよ』
「とりあえず、オレは見ているしかなさそうだな」
『ん?何言ってるの?
そのまま真っ直ぐ道なりに進んでいってね』
「進む?壁にぶつかるんだが」
『ぶつからないと入れないんだよ。
とりあえず、ドーンとぶつかってみて』
・・・リディの言う通りにするしかないんだろうな。
せめて奇妙な野球ボールの目が覚めてから説明を聞きたかったものだが。
先にリディが壁に向かっていく。というか、走っていく。
そして、そのまま壁に吸い・・・込まれた?
奇妙な野球ボールも連れて行かれるように一緒に吸い込まれている。
吸い込まれたというか、この壁は見せかけなのか?
一人残されても仕方ない。
ドーンとぶつかるしかないんだろうから同じく走って壁に向かっていく。
そこは思いっきり壁だった。
走った勢いそのままにオレは弾き飛ばされる。
頭に強烈な痛みが走り、石畳に腰から激突した。
その瞬間右手に何かを掴んだ気がしたが、そのまま記憶が飛んでいった・・・。
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真っ白な景色が見える。
頭からいったから、もしかして、本当に記憶がぶっ飛んだんじゃないだろうか。
ベッドの上でオレは寝ていた。
病院なのか、今までの出来事は夢だったのか、ぶつけたはずの頭や腰はどこも痛くない。
桃色の髪の女も奇妙な野球ボールも居ない。
ゆっくり立ち上がり周りを見るが、ここがどこかは分からない。
窓に近づき外を見るが、確かに一面が緑だが先程まで進んできた景色ではないように見える。
そして何よりも、静か過ぎる。
ここはどこなんだ?
何がなんだか分からないまま窓と反対側にあるドアを開けた。
同じく静かな空間ではあるが
その目の前には奥の奥まで山のように連なる本棚が広がっていた。
「本・・・棚?」
ここがあの図書館の中という事か。
気絶しないと入れないというのも無茶苦茶な話だ。
そう思いながら、目の前でうっすらと笑いながら敬礼風に顔に手を当てる奴を本気で叩きたくなった。
『ようこそ。デックス図書館へ。こんちは〜』
「・・・うるさい」
『ごめんごめん。でも、ビックリしたでしょ?』
「ここに入るには、こんな面倒な事をしないといけないのか?」
相変わらず笑っているリディを恨めしそうに睨みながら
両肩を軽く上げた。
『この中に入るには無意識になる必要があるんだよ。
だから気を失うしかないって事なんだよ』
「だったら、もう少しやり方があるだろ」
『でも、自分で失う方がいいでしょ?
私が後ろからドーンってやるよりは・・・ね?』
どちらにしても、衝撃で気を失わせたかったらしいな。
とりあえずは、中に入れた事を喜ぶべきなのかね。
「これ、絵なのか?」
本棚の多さに目を奪われて図書館自体を良く見ていなかったのだが
天井や窓は全てステンドグラス風になっていた。
本棚もよく見てみると実際の本ではなく、全てが描かれた美術品のように連なっていた。
『うん。ここは見せかけの空間だからね。
誤ってこの図書館に来た人が、何も知らずにこの絵に触れると
外に吸い出されてしまうように出来てるマテルだね』
相変わらずくどい説明で感謝するよ。
どうやらこの本棚はダミーで触れてはいけないのと
この図書館の中ではマテルを使えるようだということは理解した。
『このままついてきて。リッ君の部屋に案内するよ』
「オレの部屋?
そういえば、奇妙なボールはどこに行った?」
『あー、リノちゃんは別の仕事があるから私しかいないよ』
別の仕事って。
ナビ職は確かエリアスター集約しか任務が無い的な事を言っていた気がするんだが。
なんにせよ別れる前にこの中の事とかを聞きたかったのだが、
ここで駄々をこねたところで、結果的にオレが不利になるだけだ。
渋々リディに連れられるように、本棚の絵をくぐり抜ける様に歩く。
「これもエリアドライバーの仕事なのか?」
『そだね。それぞれのエリアスター専用の勉強部屋があって
そこまで案内するのが仕事かな』
「そこに入ったら出てこられないんじゃないだろうな」
『う〜ん。今までそんな人はいなかったけど保障は出来ないよ』
おいおい。
相変わらずサラッと返答する奴だな。
だが、この会話も今回で終わると思うと少しは寂しくは感じるのかもな。
本棚の絵を越えると1本の長い廊下が続く。
窓から見える景色には日本庭園の様な中庭が見える。
廊下を抜けるとまた先程の本棚の様な山並が見えてきたが
今度は本棚ではなく木製のドアが描かれている。
「コレも絵なのか?」
『いんや。ここはもう勉強部屋の空間に入ってるよ。
あとはリッ君の番号のドアを見つけるだけだね』
よく見るとドアの左上の方に数字が描かれている。
オレのエリアが24だから「24」の数字のドアを探せばいいということか?
『部屋には教官が居るから
ちゃんと言う事を聞いてこの06エリアの事を勉強してね』
リディが立ち止まったところには予定通りに「24」と書かれたドアがあった。
ようやくリディともここでお別れだ。
「あぁ。お前もエリアドライバーの仕事頑張れよ」
『うん。お互いにね』
リディがドアを開けるとその先はあの無空間のような黒色が見ていた。
「ここでいいのか?真っ黒だぞ」
『私には中が見えないけど、入ったらちゃんと部屋になってるらしいよ。
私を信用しなさい』
いや、あまり信用は出来ないんだが・・・。
だからといって、入らないわけにもいかないだろうからな。
覚悟を決めて、オレは黒色に吸い込まれるように先へと進んだ。
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部屋に入ると、一気に風景が変わる。
黒色だったはずが教室のような風景になっていた。
「よくきたな。エリアスター」
何がよくきたな。だよ。別の仕事ってそういう事か。
そこには見慣れた奇妙な野球ボールが一つ。
教壇の上でクルクル回っている。
「これはこれは
は じ め ま し て。 トリノ・先・生」
コイツもこういうキャラだったのかと呆れ顔で、そのナビ職を眺めていた。
「リディに聞いてなかったのか?別の仕事だって」
「こういう仕事だとは思ってなかったからな。
しかし、色々聞きたい事があったから助かるよ」
「聞いても無駄だと思うがな。だが、とりあえず質問は受け付けるぞ」
無駄?ここで別れるからと言う事か?
ただ、そんな事を気にしている余裕はオレには無い。
「ここでオレは何をするんだ?」
「話の前に、先ずはエネジスを渡しておこう」
手に収まる大きさの透明な石のようなモノが教壇に出てきた。
初めて見るはずなのにオレにはソレが初めてではない感じはしていた。
そして、手に取るよう指示されたため、オレは恐る恐るそのエネジスを手に掴む。
「ソレが翻訳のマテルを含んだエネジスだ。
そのエネジスさえ無くさなければ、06エリアで行動するには不便はしないだろう」
「身に着けておけばいいということか?」
「それは人それぞれだが、中には飲み込んで体内保管している奴もいたな」
さすがにこの大きさを飲み込むのは無理だな。
とりあえず保管しろということでポケットの中にしまった。
当然なのだろうが、こういう話をするということは、
トリノも今までのエリアスターの"教官"を担当しているのだろうな。
「マテルが禁止されているはずの町で、こういうマテルを使った空間があるのはどういう理由だ?」
「この図書館がデックス唯一のマテルを持つ場所にはなっているが、もともとは普通の図書館だ。
お前のようなエリアスターを06エリアに適応させるための空間を作る必要があったのだが
エリアスターをこのエリアに集めること自体、機密条項になっている事だから
ある程度目立たないように行う必要がある。
そこで、マテルの使用を禁止している町にこの空間を作りだしたのだ」
「それがエリア警察機構の奴らの仕業か?」
「いや、違う。
エリア警察機構はその上の指示を受けて行動している。
それしか言えないな」
胡散臭さがさらに増してきたな。
オレ達エリアスターを集めているのは極秘というのはなんとなく理解できるが
このナビ職が所属しているらしいエリア警察機構もその上の機関の命令で行動しているということか。
となれば、このナビ職も知らない事がここで行われようとしている可能性も十分あるというわけか。
「普通の図書館って言ったけど、入口がないのが普通なのか?」
「06エリアはマテルが普通に存在しているということは知っているよな。
それを逆手に取った空間がここだ」
「意味が分からないな」
「マテルを持っていない者には、入口が無いように見えるように仕組まれてるだけだ。
マテルを持っている者がこの入口に来ても、ほんの少しの違和感を抱くが
それはこのエリアで生活している者にはたいした問題にならないものだ。
つまり、お前には俺やリディが壁に吸い込まれるように見えただろうが
俺達からすると普通に図書館の入口に入っただけなんだ」
「じゃあ、最初に図書館に入った時に見たダミーの本棚は
オレにしか見えてなかったということか」
「ダミーとなるのはお前だけだな。マテルを持っていればただの本棚で終わる。
あのダミーが見えるのはマテルを持たずに偶然この空間に入った者だけだ」
「オレが気を失ったのは?」
「マテルを知らないお前に説明するのは難しいが
都合上、記憶が残っているとこの空間に運ぶのに不便なんでな。
入口、つまり、お前にとっては壁に触れた瞬間にマテルで衝撃を与えただけの事」
久々に出た、ご都合主義な設定だな。
壁があるようにするのはまだ理解できるのだが、
気を失わせたり出来るのはこのエリアではごく普通のことなのか。
それに気を失わせるだけでいいなら、ここでなくても最初に連れてこられた場所でもいいと思うんだが
何だかイマイチしっくり来ない部分があるな。
「この空間・・・ここはデックスではないということか?」
「コレも説明が難しいが、あの図書館の中には居る。
ここにある本なども全てデックスにあるモノだ。
ただ、今の俺達は06エリアの人達が見ている空間と別の空間に居るということだ」
「確かに、その話を聞いても理解は出来ないな」
「してもらおうとも思わんけどな。
さて、そこの机に座ってもらおうか」
教室風な図書館というのも違和感があるが
コレばかりはこの世界の事なのだろうから慣れるしかないのだろうな。
教壇前にある机に座る。
「机の中に教科書があるから出してもらおうか」
教科書?
まさか06エリア入門とかそんなベタな・・・
ベタな本があるのがこの世界なのか。
500ページはある厚さなので、教科書というより辞書に近い。
そして何故かページが開けないようにテープのようなモノで固定されている。
「で、トリノ先生。コレを全て読めと言わないですよね?」
「心配するな。ある程度読めば意味が分かる」
「ある程度って・・・。
その前に質問がまだ残っているのだが」
「悪いが、そろそろ時間だな」
時間、ね。
まぁ、都合が悪くなるとこうなるわけだろうけど。
オレもこのナビ職の言うことを聞く必要はないわけだが
この世界の設定に入るには従うしかないんだろうな。それが仮に、はめられてようが、な。
「教科書の封を開けて6ページを見てくれ」
言われるままに封を開ける。
ページを開くとほんの一瞬だが、ページから光を感じた。
予想の範囲内だが、この本もこの世界で作られたマテルか何かのモノなのだろう。
こういう不可思議な出来事が起きても、普通に対応できている自分が変な感じがした。
文章はもはや恒例な事だが、ご都合宜しくオレの住んで居た世界で使われている言語になっており
6ページにはただ、これだけが書かれていた。
【エネジスをこのページの上に置け】
「エネジスって、さっき貰ったあの石みたいなものか」
「そうだ。
そのエネジスは情報装置のようなモノで、この教科書の内容もエネジスに入れるというわけだ。
ともかく指示通りやってくれ」
少し思うところがあったが
とりあえず指示通りにエネジスを取り出し6ページの上に置く。
その瞬間、そのエネジスは先程の比ではない光を発した。
それと同時に機械音的な声が頭に響く。
"エネジス カラ 手 ヲ 離スナ"
ナビ職でももちろんリディの声でもない。
何者か分からないがその指示通りにするかしなかった。
なにより、教科書とエネジスと手が一つになったように動けない。
頭の中に色々な知識が入り込んでいる感触を受ける。
それと同時に今までの何かが抜けていくような感覚にもなった。
エネジスからの光はだんだん大きくなっていき
すでに教科書を直視できない状態になっている。
目を避けても光が入ってくるため、オレは目を閉じた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
しばらく続いた光が消え、暗くなった。
しかも、それまで静かだったこの空間に物音が聞こえるようになる。
状況の変化に驚いたオレは急いで目を開けた。
右手には先程のエネジスがある。
透明だったはずのエネジスは何色もの色が混じった石と化していた。
しかも、それまでエネジスの下にあったはずの教科書が消えていた。
本当にあの教科書をこのエネジスの中にでも入れたのか?
オレが新たに得たと思われる知識で、そういう発想に繋がっていた。
それよりも図書館の状況が一変している。
トリノ先生が居なくなっているのは後で考えるとして
今まで居なかったはずの人達が、この図書館で普通に読書をしている。
相変わらず教室風なのが違和感あるが。
ただ、トリノ先生がいたはずの教壇は無く、そこには本棚が置かれていた。
つまりこれは、オレが擬似的にだがマテルの力を得たということなのだろう。
先程のトリノ先生のご説明どおりなら
マテルを持っているモノなら普通にこのデックスの図書館に入ることが出来るわけだ。
オレもこのエリアでは普通の部類になった・・・
ようは、マテルを持っているモノの図書館の空間に戻されたということなのだろう。
さて、これからどうしたものか。
独り立ちはしたが、することが特に無い。というより何をするべきかが分からない。
この世界から出る方法でも考えておくべきだろうが
手がかりとも思える記憶がエネジスには入っていないようだ。
この世界に順応する為のアイテムだからという事なのだろうけども。
他にもマテルなどの知識も得ているのだが、肝心だと思われる部分の知識は
全くもって伏せられているかのようにわからないままだな。
それに、エネジスを無くすとこの知識もなくなってしまうのか
一時的に忘れてしまうのか、そういう部分も未知ではある。
わからない部分は動いて得るしかないって事だな。
オレは図書館を出て先程の道を逆に進む。階段を上り住宅地の方へと戻った。
この世界で使われているお金の単位は【ダイア】と言うらしい。
紙幣で1000、500、100ダイア、硬貨で50、20、10、5、2、1ダイア
というのが使われているが、今は地球同様に「カード」を使う人が増えているようだ。
ダイアかカードを手にする事が当面の目的になりそうだ。
この世界でもやはりお金は大事だろう。
地球のお金は使えないだろうとは思うが、仮にも06エリアの一部のモノなのだろうから
繋がっている部分がアルだろうと考え店を探す事にした。
ここはコンビニのような店らしい。
レジの方へ行きそこの店員に尋ねる。
「オレは地方から来た者なのだが、このお金は使えるのか?」
明らかにおかしな聞き方なのだが、この時はよく考えていなかった。
「ん〜確かに硬貨っぽいけど、ここじゃ使えんよ。
てか、ダイアはよっぽどの過疎地域じゃない限りみんな同じはずだけどなぁ。
あんた〜どこの田舎モンだい」
この店員。最後はあからさまに笑っていた。
腹は立つが、今はとりあえず我慢して情報を得ることに専念した。
「じゃあ、コレは?」
ふと思いついたように、オレはそれを見せる。
ソレまで田舎者を見るような目で見ていた店員の表情が一変した。
「あんた、今度はこの店でも買い取る気かよ。
ソレを普通に持ち歩いてるって・・・あんたもしや」
なんだ?
店員だけじゃなく、その店に居る者の表情まで変わっていた。
実はエネジスは相当高価なモノなのか?
と、考えている余裕は無いな。
いつの間にか囲まれ気味になっている。というか殺気すら感じる。
少し何も考えず行動しすぎたか。
人並みになりかけるのを避けるようにその店を飛び出した。
というより誰かに追いかけられている雰囲気だな。
ここでマテルを使って逃げようとすれば、エリア警察とやらが来る設定のようだから
人力で逃げるしかないというわけか。
だが、地理条件を分かってない、まして運動が趣味でもないオレが逃げ切れるとも思えん。
こうなったら一つを捨てて見逃してもらうか?
いや、見逃してもらえる保障など無いわけだから、やはり逃げ切るしかないな。
わき道に逸れ住宅街の裏道を走る。まるで犯罪者の様な気分だ。
しかし、あれから誰も追いかけてこない。
こんなに簡単に逃げ切れるような町でもないと思ったんだが、人が来ている雰囲気がない。
だが、歓声が上がっているのは確かだから騒ぎになっているのは間違いはずだ。
追いかけられていないことを確認した上で、大通りの方を住宅の陰からのぞき見てみる。
そこには何だか軍隊の様な制服を着た者が複数集まっている。
おいおい、オレはそんな大事な事をやったのか?
このエネジスって、この世界じゃ相当なモノなのかよ。
そんなモノを余所者(エリアスター)に渡すわけだから、呼び込みも極秘に行うわけだな。
しかし、そんな重要なモノだと感じてないエリアスターが今回のオレのように
エネジスを見せる可能性だってあるだろうにトリノは特に何も言わなかったな。
教科書の方にも知識として入っていないし、情報があからさまに偏り過ぎてる。
「またマテル犯罪者か。ここのところ頻繁だな」
「ここ数ヶ月で10件以上というのも異常です。やはりこれは隣国の・・・」
「勝手な推測はいい。早く探し出せ!」
軍隊の奴らの話しからするに、マテルを使った奴がこの町にいるって事になるな。
まさかオレがエネジスを見せたことが犯罪行為になるって事か?
そんなの滅茶苦茶だろ。
どちらでもいいが、この町からは逃げた方がいいな。逃げ切れたらの話だが。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
オレの焦りとは裏腹に、意外とあっさりと町を出ることが出来た。
町の入口で検問ぽい事をしている人が居たが、オレには特に構わず通してくれた。
どうやらこの件の犯人がオレではないようだ。
それにしても、人騒がせなアイテムだな。
翻訳や、知識を入れ込んでおけるアイテムがエネジスだと思っていたが
それ以外の付加価値があるのかもしれんな。
金と情報は、こことは別の町で得るしかないようだな。
出来ればマテルが使える町でな。
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