01
【エリア】
久々に見る光が、地面のある景色を把握するまで数秒をかけた。
オレの足がソコに着いた事を確認したかのように、支えていた手が外れた。
辺りを見回すと、先程まで居たはずのベランダから見える景色は
無空間ではなく日常の外が写っており、この場所はただの一室と化した。
ベランダを開けて外を探しても、無空間はどこにもなかった。
奇妙な経験さえなければ、ここも地球だと言われてもけして疑いもしない場所。
それを感じ取った瞬間に何かを諦めたかのように座り込んだ。
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「さっきの話の続きいいか?」
後ろ向きになっている桃色の女に話を続ける。
「オレが地球の・・・いや、宇宙の代表になった理由は何なんだ?」
『先ほど、いや、さっき私が言った【エリアドライバー】って言うのが関係してるんだよ。
私はこの06(ぜろろく)エリアのエリアドライバーだからね』
桃色の女は振り向くと、先ほどよりもさらにくだけた様子になった。
『06エリアにはキミを含めて100程度の【エリアスター】がいるの。
何度も言うけどエリアスターって言うのはエリアの代表。つまりキミみたいな人の事だね』
「・・・で、お前はそのエリアスター?を見つける役という事か」
『うん。そういう事。飲み込み早くて助かるわ〜』
いや、飲み込んではいないのだが。
『あ、そういえば、お互い自己紹介がまだだったね。
私は・・・【リディ】って言うよ。リーちゃんて呼んでね』
いや、呼ばないから。何だよ、そのノリ。
もう打ち解けているモードに入っているようだが
オレがほとんど信用してないって事をこの女は分かっているのか?
「オレは・・・【リク】でいい」
『うん。リッ君か。
覚えやすくていいね。よろしく』
いきなりあだ名をつけて呼びはじめたが
こういう手の奴は言っても直す気がないだろうから、諦めておく。
それよりも、最初と比べてなぜここまでノリが違うのか、それが謎だ。
とりあえず整理してみると
桃色の女ことリディの言うことをまともに信頼するなら、
エリア(宇宙)の代表・・・つまり、【エリアスター】を探し出すのが【エリアドライバー】って事になる。
そのエリアドライバーっていうのが、リディというわけだ。
どういう原理か理解できないが、リディは別のエリア(宇宙)に行くことができ
そのエリアで見つけた【エリアスター】を、これまたどういう原理か理解できないが
この06エリアと呼ばれる場所に引き込んでいるって事だろう。
おおかた、別のエリアに移動できるから【エリアドライバー】って事なんだろうけどな。
「何か話がずれてきたが、結局オレがエリアスターになった理由は何なんだ?」
『う〜ん。
実は・・・うまく答えることが出来ないんだよね。
直感でピーンと来たという感じだし』
おいおい。ふざけるな。
リディとかいう女の思いつきでオレはここに連れてこられたのか。
何度も思うが、滅茶苦茶だ。
「じゃ、誰でも良かったんじゃないのか?」
『いや、それは違うよ。
リッ君の奥底には24エリアの核が眠ってるから』
核?
何か・・・嫌な予感がする。
『簡単に言うと、リッ君が06エリアに来た時点で24エリアも06エリアに来たって感じかな?』
だから、全く簡単じゃないって。
この女はやけに物事をややこしく言う性格のようだ。
「オレ自体が24エリアだとでも言いたいのか?」
『大の正解。この06エリアは全てのエリアを統率するエリアなんだよ。
他のエリアじゃ出来ないことも多く出来るし』
事情が分からないから、まだおとなしく聞いているが
普通にこんな感じの女がいたら、引っ叩きたくなると思う。
気の長い方でもないオレがいつまで我慢できるか、それが心配だ。
「た、例えばどういうことが出来るんだ?」
『そうだねぇ。まず、私達は【マテル】が使えるよ』
「へぇ・・・。
で、マテルって何だ?」
『そっか・・・説明ごとが多くて大変だ。
マテルはそうだなぁ・・・魔法の力って考えてもらえばいいと思うよ。
私がエリアスターを連れて来れるのもマテルの力が関わってるし』
「魔法の力ね。なるほどね。
じゃ、ついでに聞いておくと、どうやって24エリアに来て、オレと出会って、
この06エリアだっけ?・・・に拉致したんだ?」
『ちょっと・・・拉致っていう言い方はよろしくないんじゃない?
まぁ、冗談はいいけど、私のエリアドライバーの力はすんごいよ』
『まずこの部屋。
見た目は普通だけど、リッ君も連れて来られて分かってると思うけど
この窓は外を写すだけじゃなくて、全てのエリアを繋ぐ無空間とも繋がってるんだ。
それも私のようなエリアドライバーしか移動できないわけ。ここが凄いのね』
『で、無空間に入って、まずはいろんなエリアの入口を探すの。
リッ君側からすると出口になるわけだけど。
そうして見つけた入口に入るわけだけど、私自身はそのエリアに入ることは出来ないの。わかる?』
どこまでが凄いのか分からないところが凄いが、とりあえず語らせてやろうと思った。
とりあえず、目で頷いておく。
『私の分身的なものをそのエリアに送ることが出来るわけ。
リッ君がコンビニで見た可愛い女性は私の分身ってことね』
可愛い?あぁ、そうね。そういう設定にしとくよ。
ようは、コンビニでオレが見た桃色の女がこのリディの分身って事だな。
『何か不満そうなお顔をされてますが、続けるね。
その可愛い女性はリッ君には私と認識されてるけど、
他の人にはどこにでもいる普通の女性にしか写ってないんだ。凄いでしょ、それ』
「会話も変化させられるのか?」
『むしろ逆。リッ君が見た私が架空で
あの時の"普通の女性"は水も買わずに、ただ喋って出て行ってるんだよ』
理屈は分からないが、これで、あのコンビニでの不可解な出来事の辻妻は一応合う事になる。
強引に解釈すれば、オレだけが別の映像を見せられていたということなのだろう。
『もちろんリッ君以外の人が見た普通の女性は、本来24エリアには存在してない人物なんだよね。
私の分身だから、当然なんだけど。ややこしくなってくるよね』
『で、次はリッ君が無空間に入る事が出来た理由だけど
可愛い女性に触れた時点で、本体の私の所にはエリアの核を持ってる人という情報が脳にピピッと送られてきて
その核を持ってるリッ君がどこにいるのかというのも空間認識できてるんだ』
『そこでリッ君が移動する場所、つまり、あのお店の更衣室をエリアドライバーの力で無空間に変化させたんだよ。
しかも、これはエリアスター以外の人が入ってもただの普通の空間で
リッ君にしか入ることの出来ない入口なんだよ。凄いでしょ』
確かに、この話が事実なら今までの出来事の辻妻が合うが、なんというご都合主義な力なのだとも思う。
そんな出来事をどうやって現実と思えばいいのだろうか。
だが実際、オレはご都合主義なこのエリアに存在させられているようだ。
早く"事実"を見つけないとオレの現実がなくなってしまう。
理屈は分からないがそんな気がした。
「そして、オレが無空間に入った時に視覚を失わせたのか?」
『うん。無空間には足場はないからね。
視覚を失わせないと、好き勝手に移動できるから出口の無い空間へ放浪の旅になっちゃうし
部屋と地面があるように錯覚させるには視覚を消すのが一番なんだよ。
ちなみに無空間は、24エリアの空間じゃないよ』
24エリアの空間じゃないって当然の話だな。
結構サラッと言ってくれたが、
コレは無空間を認識出来ていたら出口の無い空間を彷徨う事になったって意味だよな。
そんな場所を経由してここにやって来たというのか?
それもご都合設定だとは思うのだが、そのおかげで一つの仮説も浮かび上がった。
無空間とは、精神的に感じることが出来る空間で、その視覚というのも精神的な部分から見た視覚なのだろう。
今の今までここを現実に感じないのは恐らくその為だ。
さらに仮説を続けるなら、オレの本当の肉体はこの06エリアと呼ばれるココにはない。
おそらく24エリアと言われている地球の、あのコンビニの更衣室で倒れているだろうな。
それも意識不明でな。
オレの精神・・・つまりオレの意識だけが、この06エリアに存在しているという説だ。
そう考えると、この06エリアを含む世界の滅茶苦茶さが強引に理解できた気がした。
残るは、エリアの核つまりエリアスターの事だが、
ソレをリディはあやふやに話すところをみるに、そこにオレが元に戻る鍵があるとふんだ。
仮説に過ぎないが、オレはそう思い込むことで、この滅茶苦茶な世界を"設定"として受け入れることにした。
それは、自分の体が元の世界にあるだろうという安心感がそう思わせたのだろうけども
一方で、戻れなかったらどうするという不安も同時に発生していた。
「一応、聞いておきたいのだが・・・
この世界から自分の世界に戻る事は可能なのか?」
『残念だけど今は出来ないよ。
私がエリアスターを連れてくるお仕事を放棄することになるし、放棄したら大変な目に遭うしね。
ただ、エリアスターとしての任務が終われば帰ることができる気はするよ』
「気だけかよ・・・
ところで、確か先程100ぐらいのエリアスターがいると言っていたよな。
で、お前・・・いや、リディはそのエリアスターを探していると。
宇宙をエリアスターという形で擬人化して、一つの世界に集める意味。
それは、エリア正常化を実行する為に、エリアスター・・・つまり宇宙を減らす選択をするって事なのか?」
『減らすって、もしかして生命体の飽和問題とかの話?
コレってオフレコな話だけど、あの話はエリアスターの人に覚悟を決めてもらう為の方便だから
実の所関係なかったりするんだよね〜。
それに、この06エリアにみんなを集めて
「じゃ、これから皆さんにはここで戦ってもらいマース」とか、そういう展開は聞いていないからね。
もし本当に減らすんだとすれば、
スリムにするってことでエリアスターのみんながダイエットをするんだよ。うん。』
「ふざけてるのか?
じゃあ、何か?オレはダイエットする為にココに呼ばれたって事か?」
『ごめんごめん。
でも、私が聞いてるのは全てのエリアをこの06エリアに集めるって事だけだよ。
理由は分からないけど、生命体の飽和問題を解決するためじゃないはずだよ』
とんだ茶番だな。
これ以上、リディから話を聞いても無駄な気がした。
というよりこの女・・・
「先程から気にはなってたんだが
聞いているという言葉からも、誰かの命令でこういうふざけた事をしているわけだな?」
『うん。あとで紹介するけど結構可愛いよ』
「いや。紹介してもらわなくていい。
それよりも、今すぐこのふざけた世界から24エリアに帰してもらおうか」
『そんな事言われても・・・私』
そういった後、リディは黙り込んで下を向いた。
ヤバイ。この手は泣きに入るパターンのヤツだ。
女性の強大な武器の一つである【泣き脅し】は非常に厄介だ。
どうやらコレはどのエリアも共通みたいだな・・・
そんな事を考えていた瞬間、リディはゆっくりを顔を上げオレのほうを見て笑みを作った。
正確にはオレの後ろに居た存在に向かってだったのだが
その笑みが妙な罪悪感を抱く形になった。
自分に向けられた笑みじゃないと気づいたのは
オレの目の前を通過した奇妙な物体を見つけてからだった。
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なんだ・・・コイツは?
オレじゃなくても、第一印象はこれ以外ないだろう。
見た目は少し大きな野球ボールだが黄色と黄緑で構成された容姿
中心には形だけ取っ付けたように見える目玉と口がついており、
触覚みたいなモノもあれば、下の方には足があるのか靴をはいて?いる。
さらには、マントをその球体でどうやって着けているか分からないが装備している。
ソレがオレを通り越してリディの方に向かって歩いて・・・
いや、空に浮かんで進んでいる。
いくらなんでも何でもありすぎだ。
『あ、丁度リノちゃんが来た。
説明系はリノちゃんの方が得意だから、あとは〜ヨロシク!』
「おい、よろしくって・・・」
この奇妙な野球ボールに何が出来るというんだ?
「ったく、リディはいい加減自分で説明することを覚えろ」
な、なんだ??
ボー、ボールが喋っている・・・喋っているというか口みたいなものはついているが
別に口が開いて喋っているわけじゃないし・・・
な、なんなんだコイツは。
『リッ君、驚いてるね〜。うんうん』
開いた口が塞がらないのを予感していたかのように、リディは頷きながらにやけていた。
奇妙な野球ボールはリディの肩の辺りまで浮いており
そのまま不気味にゆっくりとクルクル横回転している。
「最初は誰もが通る道だ。
色々と疑わしい部分はあるだろうが、先ずはこのエリアについて軽く説明しておく」
エリアの話の事より、奇妙な野球ボールの声の元探しに必死だった。
それだけ、この物体はありえなすぎる。
「て、聞いているか?」
頭に軽い衝撃がはしる。
何かが伸びている。
どうやら、奇妙な野球ボールの触覚のようなモノに頭を叩かれたらしい。
「聞くも何も・・・お前は何なんだ?」
「説明して理解できるなら話してもいいが、ソレはとりあえず置いておけ。
この世界がどういう所なのか、
そして、ここにいる意味の方が知りたいんじゃないのか?」
この奇妙な野球ボール。少なくともリディよりは話が見えてきそうだ。
オレは素直に納得して頷いた。
「リディが選んだ割にはまともな人間のようだな」
『リノちゃん、それは心外だなぁ』
「いい加減、変なあだ名で呼ぶのは止めろ。
オレはトリノだ」
奇妙な野球ボールの触覚がまた伸び、リディの頭を軽く叩く。
そのまま横回転をしながらフラフラと俺のほうに近づく。
「さて、話を続けようか。
リディにどこまで聞いているかは知らないが、お前がなぜここにいるのかを話しておこう。
生命体は必ず、出身エリアの一部を生まれ持っている。
お前を含む「エリアスター」という存在は、その一部というのがそのエリアを構成する核になるわけだ。
エリアはお前と共に成長していると言ってもいいだろう」
「で、その核がこの06エリアに来るという事は、結果的にエリアそのものを06エリアに引っ張ってくることになる。
エリア、いやお前の感覚だと、宇宙を引っ張ってくるというのがイマイチ想像つかないだろうが
この06エリアという宇宙の中に他の宇宙が存在していると考えてもらえば分かるか?」
相変わらず滅茶苦茶だが、少しだけ納得してきた。
大きな宇宙が06エリアで、その中に24エリアと呼ばれる宇宙もあって
その中にオレが住んでいる地球があるという"設定"だな。
それならリディがオレのようなエリアスターと呼ばれるモノを、06エリアから見つけ出す事ができる。
「次にだが、このエリアには「マテル」という精神技術が存在する。
お前のエリアでは魔法と言われるような奇跡の力だ。
ましてそれはお前にとっては空想の力だろう。
しかし、その空想は全てこの06世界が生み出したものだ」
「どういう・・・意味だ?」
「お前達が想像したり、構成したりしている全てはこの06エリアにはあるということだ。
きっとお前はまだ、この06エリアが空想上のものだと思っているだろうが
ここは現実であり、繰り返すが、お前自体も含めて全ての宇宙は
この06エリアの中に存在している」
奇妙な野球ボールの言うことが本当に事実なら
オレがさっき考えた仮定の一つは外れということになる。
精神だけがここに飛ばされたというのは、夢でなければ確かにぶっ飛びすぎた考えなのかもしれない。
いや、この状況でぶっ飛びすぎた考えと思うのもどうかとは思うけどな。
「そんな06エリアで、全てのエリアスターを集めるということは
文字通り全てのエリアを06エリアに集めて再構築するということだ。
それが全エリアにおける生命体の飽和状態の解消になる」
「再構築だと?
それに、生命体の飽和関係はリディが言うには方便だと聞いていたが
結局それはエリアを減らすって事じゃないのか?」
「いくつかリディと話をしたと思うが、信用できそうな話があったか?」
『ちょっと、リノちゃん。そのコメントは心外だなぁ』
あぁ・・・リディのは話半分で聞いておくべきだったか。
という事は、エリアが無くなる事もありえるって事か。
「話を戻すが、お前の感覚と俺達の感覚は根本から違う。
俺達は便宜上分けたエリアに数字を付けて呼んではいるが、それは結局06エリアのひとかけらに過ぎない。
一部のかけらが突然変異を起こせば、それを抑えるために調整するということだ。
だが、調整っていうのは削るだけで、無くすことではない。
言わば、リフォームというものだ」
いつしか奇妙な野球ボールは回転をやめ、上下にホバリングするように動いている。
考え方の違いという事なのだろうが、それでも理解できる話ではない。
話の流れからすると、オレは06エリアを構成している「ひとかけらの一つ」って事だろうから
そのかけらがおかしい事になれば直そうと考えるのは
全体を見ることが出来る06エリアのモノにとっては当然の考えなのだろうけどな。
「06エリアのリフォームって言ったが、具体的に何をするんだ?」
「きちんとした06エリアのリフォームをするために、
まずは各エリアの代表となる核、つまり、エリアスターを06エリアに集めて
各エリアスターが選択する事によって、それぞれのエリアがリフォームする事ができる。
エリアスターというのは、そういう事が出来る存在ということだ」
「その選択のことが聞きたいんだが」
「一度に知らなくてもいいことだ。
それにソレは、今の俺にはわからん」
「どういう意味だ?」
「分からないものを説明できるほど、俺は優れてはいない」
奇妙な野球ボールは上下のホバリングをやめ、フラフラとリディの肩のほうに戻った。
後ろから見るとボールというよりは、小さなカーテンがフラフラと動いているようにしか見えなかった。
それにしても、リディの説明よりは分かりやすいものの
この06エリアの奴らは話をくどくするのが好きなようだ。
大事な要点をずらして話をしているせいなのだろうけどな。
「あぁ。リフォームの内容以外はなんとなくわかったよ。
それじゃ、別のことを聞くが、お前はどうやって話をしているんだ?
その口は飾りだろ?」
飾りなのでその口が笑う事はないのだが
その時、奇妙な野球ボールが笑ったように見えた。
「マテルの概念を理解していれば説明しやすいが、お前に分かるように話すとなると・・・
そうだな、お前の脳に直接話しかけているってことになるな」
『リノちゃんは【ナビ職】だから、私達人間とはちょっと違うんだよ』
またまた新語の登場か。
どうやらこの06エリアを理解するには、マテルというものを理解する必要がありそうだ。
「ナビ職とはお前ら人間とは別の生命体と思ってくれ。
こう見えても一応、生命体だ」
「わかった。そういう生き物だという事にするよ。
脳に直接声を届けるっていうのは凄いな」
「音というのは、知っての通り振動によって伝わるものだからな。
マテルによって俺らナビ職はお前達が聞き取る事ができる発音を可能にしている」
『リノちゃんみたいなナビ職は、ナビ職同士でしか聞こえない会話も可能なんだよ』
あぁ、なるほど・・・ね。
またもやご都合がよろしい事で。
話が逸れてしまっているが、どうもオレがこの06エリアとかいう所に連れて来られたのは
一つに24エリアのエリアスターであったこと、
一つに06エリアで選択をして、24エリアを06エリアの奴らが考える正常化にする役割をするって事か。
全くもってふざけている話だし、滅茶苦茶だ。
こうなるってくると、夢では済まないところまできているのを認めざるを得ないな。
こいつらがこの後どういう行動をするかによるが、今は極力ついて行くしかないんだろうな。
それに、この06エリアにマテルとかいうモノがあるのだとすれば
そんな力を持たないオレは無力そのモノだしな。
ただ、マテルっていうのがオレにも使えるモノなら話は変わってくるが。
「さて、これからオレは、そのリフォームや選択やらの為に何をすればいいんだ?」
『そうだね。まずは【デックス】に行くことになるね』
「デックスという場所がお前の選択の場所でもある。
それほど遠くないが、今日は疲れただろ?
デックスには明日向かうから、今はゆっくり休め」
そう伝えたかと思うと、奇妙な野球ボールはリディの左手に収まった。
リディがそれを持って振りかざすとボールは手を離れ大きく変形をした。
ソレは外から見ればただの一軒家にしか見えない。
改めてご都合主義な力を見せ付けてくれるものだ。
「おいおい。ナビ職っていうのは建物にもなるのか?」
『違うよ。
リノちゃんは私のマテルによって、リノちゃんの変形させるマテルが発動して
高級住宅一戸建てになるんだよ』
"俺達ナビ職は、人間と違い物質を変化させる事ができる生命体だ。
なので小型の球体からこのような住居にまで変形が可能だ"
何故か家から声がする・・・。
声が出ているというより響いているというべきか。
リディの言っている事は相変わらず訳がわからんが、ナビ職の言う事はかろうじて理解できる。
とにもかくにも、この即席住宅で一晩を過ごす事は出来そうだ。
だが
今まで色々疑っておいて、何故この時は特に疑問も持たず中に入ったのだろうか。
冷静に考えると、おそろしく無鉄砲な行動だが、
この時は色々ありすぎて、精神的にも参っていたのだろうか。
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「これは・・・あのナビ職の体の中って事か?」
『うーん。そこんところどうなの?リノちゃん?』
"何でリディが説明出来ないんだよ。相変わらず面倒くさい奴だな。
この建物はリディが想像した空間を俺が作り出しただけだから、俺自体の中身とは違うな。
想像主のリディ次第でこの中身(住居)は色々変化する"
あぁ、確かに。と思える部屋のつくりだ。
一人暮らしの女性の部屋など入った事はないが、暖色系で固められた部屋の構造になっている。
ところで、部屋の数が足りない気がするのはオレの気のせいか。
『あ、ごめん。リッ君の部屋を想像するの忘れてた。
悪いけど今日はリビングで休んでね〜』
この女・・・オレはお客の立場じゃないのか?
お客様を机一つしかないリビングで寝かせて、自分だけは個室って・・・
"素晴らしい"宿主さんだな。
全く悪びれた様に見えない謝罪をした後、リディは個室とはまた別の部屋に消えた。
『あ、リッ君も一緒に入る?』
「!!」
どうやらその部屋は浴室のようで、声も壁に隔てられて聞こえてきたのだが、
この女には恥じらいって言うものがないのか?
「おう、入るぞ」となんて言おうものなら、歓迎して向かえてそうで怖いな。
『あ!ごめん。今の発言なし!!』
声こそ聞こえなかったが、おそらくナビ職の奴が注意したのだろう。
そりゃそうだ。
今まで異性と一緒になった事がないのか、オレなど異性の対象でもないのか
よく分からん発言だが、やはりこういう奴は苦手だ。
とりあえず
リビングに不自然で無造作に置かれている布団を手にしてさっさと寝る事にした。
我ながら適応能力がありすぎだとは思うが、
この生活感はオレが住んでいた24エリアと何も変わらなかったせいだからだろうか。
ナビ職が言う事が正しければ、地球がある24エリアも06エリアの一部分という事なのだから
当然なのだろうけどな。
『あら?もう寝てるの?』
"大体の奴は緊張して寝られないヤツが多いのだが、この男は大物かもしれんな"
『大物?・・・かもね』
『あ、そうだ。
寝てる人にする事といったら、やっぱりマジックで・・・』
"なんでだよ。リディも早く寝ろ"
まだ眠れず狸寝入りしていたオレは一瞬焦ったが
アホなやり取りを聞きながら、心の中でナビ職と全く同じ突っ込みをしていた。
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目が覚めたら"現実"に戻っているのかもしれない。
そんな淡い期待を一瞬抱くものの、すぐに暖色系のレイアウトが目に飛び込んできた。
あぁ・・・同じだな。と
"ずいぶん早起きだな。あまり眠れなかったようだな"
「あぁ、おかげさまで。"ぐっすり"と休ませてもらったよ。
・・・ところで、早起きって言ったが今は何時だ?」
"8時だな"
一瞬、06エリアも24時間進行なのか聞こうと思ったが、壁にかかっている時計を見て理解した。
24エリアで想像できるモノは06エリアには全てある。だったか。
確かにそのようだな。
「オレの世界じゃ8時は別に早起きの部類でもないけどな」
"あぁ、ウチのお嬢様と比べての話だな。早くても昼頃まで起きてこないからな"
あぁ。なるほど。
ソレは早起きになるというわけだな。
「今日向かうデックスだったかは、どのぐらい時間がかかる場所なんだ?」
"『俺で行って』2時間ぐらいの場所だ。デックスはこの地域では一番大きい町になる"
移動手段もこのナビ職を使うわけか。
しかし、相変わらず便利な世界でございますな。
「そういえばお前、物質が変形とかマテルがどうとか言っていたけど
その変形ってオレがやっても可能なのか?」
"それは無理だな。
マテルを持っている生命体が、俺の中のマテルを操作して変形させるからな。
お前には俺のマテルを変形させる為のマテルもない"
「それは、オレにはマテル自体がないという事か?」
"あぁ。そういう事だ"
この時、一瞬だけ妙な違和感を抱いたのだが
それが何かなのかまではわからなかった。
どうやら06エリアの奴以外にはマテルは使えない事になっているようだ。
「オレはまだ完全にこの世界の存在を認めたわけじゃないが
いくつか質問をさせてもらうぞ」
「この世界には、どれだけの人が存在しているんだ?」
"そんなことでいいのか?
きちんと調べたことはないが100億ぐらいはいるだろうな"
「じゃ、次。
国というか民族的なものは存在しているのか?」
"ここはお前の住んでいるエリアとさほど変わらないとだけ言っておく。
多くの国が存在し、多種の民族や生命体がいる"
「それじゃ、言葉とかはどうなっている?」
"当然に多種に渡って存在しているな。
ようは、お前は別の言葉や文字が出てきた時の心配をしているのだろう。
そこは心配ない。
リディや俺がいる限りはマテルで翻訳できるからな。
今、こうやって会話できているのが何よりの証拠だ"
予想はしていたが、当然のようなご都合主義な回答だ。
マテルというのは、本当にご都合よく出来た魔法の力のようだな。
腑に落ちない点を出すとすれば、
リディの分身がマテルがない事になっているはずな地球に来ている事と
そこでオレにだけ本来の姿を見せたという点だ。
オレはマテルというご都合物はこの06エリアという世界でしか使えないと思っているからな。
24エリアでも使えるなら、分身ではなく直接本人が24エリアに来てもいいはずだろうしな。
「リディが言っていた話で
エリアスターであるオレを見つけに24エリアへ来た際、リディは分身を飛ばしたって事なんだが
マテルというのは06エリアでしか使えないんじゃないのか?」
"分身が飛んでいるということは、使えるということだ"
「マテルを使えるなら、何で態々分身を使ってオレを引き込んだんだ?」
"リディは「エリアドライバー」と呼ばれる要因でもある、特殊なマテルを使える。
マテルには色々種類があるが、リディのソレはとても貴重価値のあるモノで替えがききにくい。
万が一のことも想定して、本体に危害がないように分身を別のエリアへ飛ばしているのだ。
エリアドライバーとは、そもそも別のエリアを見つけて行くことができる者を指すからな"
エリアドライバーについては大体予想通りという事だな。
それを実際に実践してもらえれば、オレもこの世界を信じるしかないだろうけど
このリディの保護状況を聞く限りだとソレは不可能に近いな。
いや、実践された事はオレも分かってはいるはずなんだ。
あの視界を奪われた更衣室の無空間。
リディの分身がオレ以外には別人に見えていたという事実。
それはありえなさ過ぎるから信じたくなかっただけだ。
あと、リディはナビ職であるトリノの言う命令を聞いて行動している。
とてもそうは見えない関係だが、トリノはリディを監視する役割もあるのだろうか。
「お前は、何処かの組織とかの命令でリディと共にエリアスターを探しているのか?」
"そういう疑問は当然に出てくるだろうな。
俺の方はエリア警察機構という組織に所属している。
リディはただの一般人だ。
ようは、エリアドライバーの素質があったから、協力してもらっているということだな"
エリア警察機構というのは、こちらでいう国際的な警察みたいなモノらしい。
マテルを使った犯罪等を主に取り締まっているとの事だった。
「一般人が、こんな感じで協力しているのは違和感があるんだが」
"それは大変だったさ。見ての通り、リディはあんな調子だしな。
その分、色々と条件もつけている。
その中でも一番の魅力は【自由】だろうな"
「自由?」
"人生の一生をエリア警察機構によって完全に保障されている。
エリアスターを見つける任務を遂行する条件で、基本何をしても良いことになっている"
なんという話だ。
たかが人探しで、人生の一生を保障するという優遇がされているっていうのか。
それが事実だとすると、リディの能力とエリアスターの集約は重要な任務って事なのだろうな。
「全て本当ならば、とてつもないプロジェクトを実行しているようにみえるが
オレ以外のエリアスターはどうしているんだ?
オレが最初の人ってこともないだろうし」
"あぁ。普通に06エリアにいるな。
今何をしているかは知らないが、全員が集まるまでは自由に行動しているはずだ"
「はず?って、ほかのエリアスターもリディが見つけたんだろ?」
"・・・あぁ。
いずれお前もそうなるが、俺達とはデックスでお別れする形になる。
その後は、来るべきその時まで06エリアを見て回ると良い"
「で、その時が来たら、リフォームを始めるのか?」
"俺はリディがエリアスターを見つけ出す為の補佐しかしていない。
よって、先程も言ったがリフォームの選択内容は分からない。
それに選択はお前自身が行う事になるはずだしな"
少し話をそらされた気がしたが
これ以上聞いていても無駄と感じた為、話題を変えることにした。
何より、ナビ職と別れて行動するというのは、今の何も分からない状況ではきつい。
「いや、待てよ。一人になったら"翻訳"する奴がいなくなるぞ」
"そうだな。
そこで、デックスの町でこのエリアに適応する為に、とある儀式を行う。
その中で、翻訳を可能にするマテルを擬似的に与えることになるな"
「ぎ、儀式?
仮にだが・・それを拒否したらどうなるんだ?」
"簡単なことだ。お前・・・つまり24エリアがなくなるだけだ"
サラッと言いやがった。
ここに来るのも拒否権がなかったが、こいつらの言うことを聞かなかった時点でエリアが無くなるのかよ。
何度も思うが、滅茶苦茶だ。
「擬似的にマテルを与えるって言ったけど、それはオレにもマテルが使えるようになるって意味か?」
"それは違う。
【エネジス】と呼ばれるマテルの力を持つアイテムによって、擬似的にマテルを所有出来る様にするだけだ"
また、新語か。
このエネジスというモノを得ることが出来たなら、この世界でも何とかなるという事か?
そんなご都合主義なアイテムの存在をどうやって信じればいいのか。
オレは神でも仏でもないただの人なのに
核があるだかそんな"適当"な理由だけで宇宙の代表扱いされてるこの状況はなんだ。
エネジスだか、マテルだか知らないが、ご都合主義な力がオレにも使えるようになるのなら
この世界の奴らの思惑通りには絶対にならないように足掻いてやる。
オレの行動によって宇宙が無くなるなんてとんでもない事だ。
「そのエネジスとやらを使ってオレに何をさせる気だ?」
"俺はエリアスターを集める任務しか与えられてないから
この件に関して何を聞かれてもお前の質問の答えにはならないだろうな"
「じゃあ、いずれ全てのエリアスターだったかを見つけ終わったら
その後お前はどうするんだ?」
"さぁな。
俺は仕事でここにいるだけだから、次の任務がでたらソレに従うまでだ"
「コレは・・・お前にとって魅力的な仕事なのか?」
"お前から見てもナビ職は変わった生命体だろう?
変わり者っていうのは、お前ら人間ほど選択肢が多いわけじゃないのさ"
何も言うことができなかった。
そもそもこんな生命体に会ったことすらないのだから、なんと言えばいいのかわからない。
でも、それはオレの住む世界にも間違いなくある問題なのだろうけど
ソレを考えることを拒絶してしまっているように感じた。
オレは、そこまで出来た人間じゃないからな。
ただ、こういう会話をしていると、このナビ職も本当に生きた存在なんだと思えてくる。
人ではないが、人と変わらずにこのエリアを生きている。
たいした長く生きてもいないし、自分の世界すら満足に知らないオレは
自分の小ささを実感させられてしまっていた。
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気がつくと、10時を過ぎていた。
「"お嬢様"がご起床するまで少し外を見てくるわ」
まだナビ職のトリノには聞くことはあるが、勝手に気まずくなってしまった為
少し一人で状況を整理してみることにした。
オレがこの世界、つまり06エリアのルールを拒否すると24エリアは消える。
これはおそらく間違いない設定なのだろう。
トリノが所属しているエリア警察機構が全てのエリアスター、つまりエリアを集めているということもわかった。
トリノは全てのエリアを集めて再構築(リフォーム)すると言っていた。
それは削るだけで、無くすわけじゃないとも言っていたが
恐らくはリフォームという名のエリア存続をかけた何かが行われるのであろう。
そしてデックスという場所には、エリアスターと呼ばれるオレのようなモノが
06世界に染まるための何かがあるって事だ。
独り立ちするために翻訳できるアイテムを持つ・・・か。
それは、リディやトリノから離れないといけない理由があるともいえるな。
仮にだが、それがエリアドライバーとしての力を持つリディを守る事だとすれば
極端な条件だが、リディに近づいたモノは消えるとか、そういう理不尽な悪条件が与えられる事も覚悟しなければならないな。
そう考えていると、すっかりこの世界に"はめられている"ことに気がついた。
寝る前まではこのエリアの存在を現実と認めようとしてなかったのにだ。
それほど、普通にこの世界に溶け込みはじめていたのだろう。
この世界のふざけた設定を受け入れてでも、絶対オレは生き残って見せる。
『アレ?起きてたんだ?
せっかく寝起きを襲おうと思ったのに』
家に戻ると、まだ寝ぼけ面で思いっきり危険な事を言っている女がそこにいた。
悪いが、襲われたい趣味はない。
「言っていることおかしいから。
とりあえず、さっさと顔洗ってこいよ」
さっきまで悩んでいたことが、吹き飛んだ気がした。