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【序幕】


周りは桜色。
人は新たな気持ちで、新天地を迎えている。
暖かく、そしてちょっとだけ肌に差し込む風が、他人を祝福しているようにも感じる。

日が沈み、黒色が周りを覆う。
所々に、唯一の希望とも言える光が輝いている。

どんなに明るい声がしようとも
そこはまるで白黒写真のように色の無い風景だけを映し出している。
すべては、こんな時代のせいだ。


働ける場所はあると、人は言う。
選んでいる人達が我侭を言い、道を閉ざしているだけだと。
こじ開ける根性も無いのかもしれない。
それを含めて我侭だというのかもしれないが
今の世界は黒く、光は一向に見えてこない。

今日も、何の目的もなく、
何を得るかも分からずにコンビニでバイトをする。
人とは機械のように対応し、機械のような笑顔を作る。


そろそろ交代の時間。
この人を対応したら、今日もお疲れさんだ。

で、なんだコイツ?

それまで、ただの白黒の風景でしかなかったはずの場所に色がついて見えた。
どこのアニメのキャラだよと思いたくなる桃色の肩近くまで伸びた髪と、印象に残る吸い込まれそうな大きな漆黒の瞳
現実と非現実が同時に居有しているようなそんな印象を受けた。


ミネラルウォーター一つだけを買い、ソレは普通に居なくなるはずだった。
お札をもらい、手に余るほどの硬貨を渡す。
いつもどおり機械のような笑顔で対応をする。
軽く手に触れたのか、やや冷たいモノに触れた印象が残った。

 『あなたが・・・星』

独り言を言い残し、桃色の女は居なくなった。
少なくともこの時点では独り言だと思っていた。


 「お疲れさんっす」

ようやく、時間が来た。
交代するコイツも今の場にはいたから、この状況を知らないわけじゃない。

 「あぁ。時間だな」

まるで時間など気にしていない風に返事を返す。
実際は1秒でも時間が延びるのが嫌なくせにだ。

 「そういえば、最後の客だが、あんな髪の毛の奴も実際に居るモノなんだな」

 「最後すか?あんなの普通に居るんじゃないすか?」

なにか薄ら笑いを浮かべて返答が来た。
おいおい。
確かにコイツはオレより若いし、あんな奇抜な奴も周りに居るのかもしれないが
桃色が普通に居るのかよ。
コイツとそんなに違う時代を生きてはいないぞ。

 「それよりも、ただ話だけして帰っていったほうが珍しくないすか?」

何を言っているんだ。コイツは。
ちゃんと買い物して行っているだろ。
・・・あれか?
あの意味不明な独り言の前に、桃色の女は何かを喋っていたのだろうか。
普段ならどうでもいい事なのだが、今日は何か引っかかる。

 「ちゃんと水買っていっているだろ?」

 「え?何言ってるんすか?その人、金ないから何も買わなかったんですよ?」


何がなんだか分からない。
もしかしてコイツと別の客の話をしているのか?
それなら話が微妙にかみ合わないのも分かる。

いや、待てよ。
今日の客で金が無いから帰った奴など居なかった。
噛み合わない以前にコイツは見ている客自体が違うのか?

 「そんな客とは対応してないって」

 「ちょ・・・何言ってるんすか?いつも通りクールに対応してたじゃないすか?」

 「なぁ・・・その人どんな格好だった?」

 「格好・・・すか?中途半端な茶髪で、時期に合わないコートを着てたことぐらいしか覚えて無いっすね。
 顔もそんなに好みじゃなかったし」


茶・・・茶髪?
やっぱり、コイツとは対応した人すら合ってないようだ。
コートを着ていた気はしたが、桃色を茶色に見間違えるほどではない。

 「あぁ・・・そうだったな。
 なんか疲れているみたいだな。じゃ、お先」

首を軽く回し、控え室に移動した。


このコンビニはレジ横が控え室になっている作りだが、
その中には控え室と更衣室がありそれぞれ別室になっている。
客が居ない暇な時間は控え室で待機し、仕事が終われば更衣室に入る。
店の出入り口つまり勝手口も更衣室側についている。

ドアを開けるが黒色の時間ということもあり更衣室は暗かった。
外から来る奴が困るだろ。
と心で軽く突っ込みを入れスイッチを探す。




??
なんだここ。

ドアが閉まって完全に闇の個室と化した。
しかし、何かがおかしい。
いくら暗闇といっても、かすかな光で目も慣れてくれば何かが見えるはずだ。

ここは明らかに更衣室ではない、そう思える事実が先ず一つ。
部屋の壁がないのだ。

天井から落とされでもしたなら、ドアのすぐ横に壁が見当たらないのも理解できる。
そもそも落とされたらドアなど存在しないのだが。

異変に気づいてすぐに戻ろうとするが、そこにあるはずのドアも無い。
パニックになるのを必死に抑えるが、
まるでここは上も下も無い空気がある宇宙のような空間のようであった。
ただ、下には地面は存在しているようで、出口の無い宇宙をただ走り回っていた。

夢であるなら、とんでもない夢だ。
確かにさっきの桃色の女から何かがおかしかった。
寝たらこんな闇ともおさらばできるだろうか。
夢で寝ると目が覚めるのか、そんなことは分からないが、咄嗟に目を閉じた。


何だ?何か冷たい。かすかに声も聞こえる。
夢から覚められるのか?

 『・・・きて』

どこかで聞いた声だ。

 『・・・けて、起きて』

あぁ。やはり夢か。
言われなくてもこんな夢覚ましてやるよ。

 ・・・

目が開いているのか?
それとも、まだ夢が覚めていないのか?
そこにあるのは同じ黒色だった。

だが違うことが一つ。
手に自分より冷たいモノが触れている。何かがいる。


 「誰だ?」

 『やっと起きたのですね』

会話が成立した。
いや、正確には成立はしていないのだが
人が居ることにやや安心感を覚えた。

 「ここ、どうなっているんだ?」

 『あぁ。びっくりするのは当然ですね。
 今は視覚が消えていますので何も見えなくなってますね』

何を言っているんだ?
という思いと同時に声の持ち主を思い出していた。

桃色の女の声だ。

 「何で、お前がこの部屋に居る?これは不法侵入だろ」

話の内容など構わず、とりあえず現実を確認しようとした。

 『それを言うなら、キ・・・あなたが不法侵入ですよ。
 この空間はあなたが居た場所ではないのですから』

現実を即座に否定されてしまった。
更衣室に来て、壁が無いのは今までいた空間でなく
黒色にしか見えないのは視覚がなくなっているからだという。

誰がそんな話を信じられるというのか。

 『信用してない顔をされてますが、それも当然ですね。
 ですが、これから大切なお話をしなければなりません』

 「・・・話だけならな」

言葉と裏腹に、話を聞く気など更々ない。
仮に桃色の女のいうことが事実なのだとしても
ありえない事実を即座に受け入れることは普通の人間には無理だ。
どうやってこの状況を乗り切るか。
それを考えていた。

 『私は、あなたを選びました。
 選んだ理由を今は詳しくは話せませんが、あなたがこのエリアの代表であることは間違いありません。
 そ、そして、代表となったあなたは私と共にやって頂くことがあります。
 ど、どのエリア、きっとこのエリアでも問題になっていると思いますが
 えー今、すべての生命世界において問題になっているのが、せ、生命体の飽和問題です。
 んと、豊かになり、エリアを知ることで生命は生きるための知恵を得ています。
 そのたま、いや、その為に、エリアによっては生命を維持し続ける技術も・・・か、開発されています。
 そこで・・・』

 「ちょ、ちょっと待て待て」

突っ込みどころが色々あって、どこから突っ込んだらいいんだ?
この状況で何を言い出すかと思えば、また滅茶苦茶な話だ。
選ばれた人っていうのは悪い気はしないが、何の代表か分からないのは困る。
あと、エリアって何だ?
生命体の飽和問題って、地球環境問題についてでも語るつもりなのか?この女は。
そして一番気にかかるのが、
なにか話し方が原稿を読んでいるかのように不自然だ。

 「先ず、一つずつ話をして行こうじゃないか」

苦笑いを過ぎると口元が緩みすぎになることを、今日はじめて経験した。
この不思議な感覚のまま疑問を一つずつぶつけていく。

 「エリアとは何だ?」


やや、間があいた。
桃色の女の表情が、彼女曰く視覚が無くなっていて見えない以上
この間が何を意味しているのか理解できない部分だが
おそらくは、そんなことも分からないのか?的な怪訝な表情をしていたのだろう。

 『そ、そうですね。説明してませんでしたね。
 エリアとは・・・そうですね。
 う、宇宙と考えてもらえばいいかと』

 「ようは、その宇宙の代表ってことか?
 ・・・
 ちょっと待てよ。宇宙って何個も存在しているのか?」

 『ええ。
 私が知っているだけでも、あなたと同じ生命のあるエリアが100ぐらいあります』

おいおい、おい。
もう突っ込みきれないぞ。宇宙が100ぐらいもあるって?
いや、100あると認めてもだ、この桃色の女はどうやってそのことを知ったんだ?
それに、宇宙って地球みたいな塊な存在なのか?

そりゃ、地球もかつては天動説だったかがあったぐらいだ。
宇宙について詳しいわけじゃないが、実はとてつもなく大きい球体だったと判明したっておかしくは無いのだろうけど
それにしたって、「100もある」は無いだろう。

 「何で100ぐらい宇宙があると分かっているんだ?」

 『私の住むエリアではそれが常識だからです』

 「いや、それは答えになってないだろ・・・」

今度はなんて言った?この桃色の女。
私の住むエリアとか言い出したな。

・・・
これが仮にオレの夢の中だと過程した場合、とんでもない妄想の持ち主ってことになるな。
こんな発想したことすらないのにさ。
これは、頭がどうにかなってしまいそうだ。

 『でも、そういう事実なんですから、それは受け入れてください。
 あなたの知っている常識が正しいわけではないのですよ』

無茶言うな。

だが、ここまで現実離れしていると、かえって信用してしまう気にもなる。
現実が黒く見えていた為に、現実離れするために咄嗟に作り出した、非常識な妄想なのだろうか。
そういう事なら、目が覚めるまで適当に付き合ってみるか。

 「じゃ、そういう事にしておくけど、その宇宙の代表って何だ?」

 『はい。キ、あなたはこの24(にーよん)エリアの代表に選ばれました。
 先ほどの話にあったように、24エリアを含むすべてのエリアで生命体の飽和状態が起こっているのです。
 そこで、時空案内人(エリアドライバー)である私が、エリアの代表を見つけ出し
 エリア正常化を実行するため、今ここにいます』

どうやら、この地球を含む宇宙は「24エリア」という名前がついているらしい。
エリアドライバーが何なのかもどうでもいいが
それよりも、代表を見つけ出して、正常化って・・・
何か「可笑しな薬」でもやっているんじゃないかと、この夢の主を疑ってしまいたくなる事だらけだ。

 「エリア正常化って・・・具体的に何をするんだ?」

 『簡単に言うと、自然に生命体が増えないように、調整をします』

全然簡単に言ってないと思うが、突っ込むのはもう疲れてきた。

 「それと宇宙の代表を選ぶ事と関係があるのか?」

 『大有りです。あなたの選択次第ではこのエリアはなくなりますから』

へー。
エリアっていうか宇宙がなくなるんだ・・・

もう・・・もう、付き合いきれん。


 「なぁ・・・仮な話ばっかりだが、仮に代表に選ばれたとして、その選択で宇宙が消える?
 どれだけの力があって、そんな非常識な状況になるんだ?
 夢じゃないなら、まじめな話をしてくれないか!」

最後は混乱する気持ちを完全に露呈してしまっていた。
表向きは冷静沈着で居るために、けして他人には見せない姿。
黒色しかない空間で、コブシを思いっきり下に向けて叩きつけた。
床があるはずなのに、何故かソレは空を斬るだけだった。

 『真面目ですよ。
 最初から信用する人がいないことも承知です。
 それに、あな・・・いや、キミの視覚を消してた事も、全ては本音を聞きたいから。
 私だって守るために必死なんです』


口調が変わったこともそうだが、その景色が見えたことが一番の驚きだった。

それはやはり、桃色の女だった。

 「お前・・・さっき、コンビニに来ていた奴だろ?」

桃色の女は何も言わずにただ頷いた。
彼女に気をとられていて、風景の変化に驚いたのはその後だった。
目に見えるのは桃色の髪の女で、今は両腕を掴まれている。
彼女はベランダから乗り出した状態でベランダの奥は黒色で見えない。
そしてそれ以外も黒色であった。

地面があると思っていたが、この空間を認識した瞬間その床が無くなり
体が空間にあって、彼女が支えている状況であることを実感した。
仮に彼女が手を離せば、その黒色の中へ消えてしまうであろう空間。


 「コ、コレは一体なんだ?」

 『視覚を消したのは本音を聞くためと、キミがこの無空間にいることを実感させないため。
 ここは全てのエリアを繋ぐ空間。
 キミを私達のエリアに連れ出す為の唯一の入り口』

こんなふざけた空間(現実)があってたまるか。
勝手に代表に選んで、勝手に連れて行くって、それじゃ拉致じゃないか。

 『キミは疑ってはいたけど、他の誰よりも・・・』

桃色の女が何かを言っていた気がするが
そんな事よりも、この非現実から抜け出したいという思いも空しく
拒否権は無く、体が彼女の方へ"引き釣られて"いった。





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