かくれた名作8 2001/2/3

釈尊の歴史的実像
 磯部隆(1997年 大学教育出版)


 タイトルは地味だが、これぞ、かくれた名作

 筆者は名古屋大学の教授であり、本書もそのテキストに用いられているのだろうから、ほんとは「かくれた」名作とはいえないのかもしれない。でも、そういうのは他にもあるから(^^;)、許してね。

 ちまたには釈尊の実像にせまる著作などはいくらでもあるが、そのうちかなりのものは、さまざまな経典から適当にいろいろな部分を抜き出して、勝手に作った釈尊像だと思われる。(最近出版されたミステリーにもそんなのがあったよね)
 世の中にはおびただしい数の経典があるのだから、こんな方法なら、どんな仏陀像でもつくれてしまうよね。

 経典のなかでも、それが後世でつくられたものは、そこで釈尊がとりあげられていても、すでに神話化されていたり、その教団に都合のいいように虚飾されている可能性が高い。
 そこで筆者は、経典のなかでも、最古層に属する『スッタニパータ』(岩波文庫で『ブッダのことば』として翻訳されている)をとりあげ、釈尊の実像にせまろうとする。
 
 しかし、その最古層に属する経典であっても、それはやはり初期仏教教団が編成したものであり、教団の運営を守るため、あるいは他の宗派との理論闘争などのための何代にもわたる、さまざまな付加、修正、脚色からまぬがれてはいない。

 本書ではそのほとんどが、経典内の矛盾の指摘や、後代の付加、修正部分を剥ぎ取り、原伝承部分を抽出することにより、歴史的事実を確定していく作業にあてられている。そして、そこがめっぽうおもしろいのだ。
 経典のなかのかなりの部分が、ここはこういう意図のために教団によって付加された部分であろう、などと否定され、残りは数行になってしまう経もある。その根拠も十分説得力があるように思われるし、ミステリーの謎解きを聞いているようにも感じられるだろう。

 この手続きによって原伝承として残された部分はごくわずかのものになるが、そこから浮かび上がってくる釈尊像は、他の著作にはない圧倒的に実在感のあるものとして、私たちにせまってくるだろう。

以上、大絶賛 (^_^)


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