FUNNY BREAK
洗面台の蛇口を捻り、タオルで顔を拭くと、彼はそのまま鏡を覗き込んだ。頬はまだ少し脹れている。街の人々にそのことで散々からかわれた事を思い出した。自然と顔が上気する。また喧嘩かい、仲がいいねえ。等と訳のわからない冷やかしを浴びせられて、何となく照れてしまったのだった。
喜んでる場合じゃないんだよなあ・・・。ヴァッシュはため息をつくと、顔をもう一度拭って踵を返した。振り向きざま、顔に下方から冷たい物が押し付けられた。
メリルが氷嚢を脹れた頬にあてがおうとしていた。
「顔・・・。その、まだ、脹れてるみたいでしたから」
彼女はヴァッシュの顔に氷をあてがったまま、そっぽを向いて話した。頬は羞恥心の所為か、紅く染まっている。
「あの・・・今朝はごめんなさい。驚いてしまって」
ヴァッシュは突然の展開にすっかり動転していた。久しぶりに(といっても半日ほどしか経過していないのだが)メリルを間近で見た上に、許してくれそうな気配にすっかり有頂天になってしまっていたということもあるが、それ以上に昨晩急浮上してきた問題そのものが眼前に突然現れたことが主な原因だった。これはチャンスだ。ヴァッシュは大きく息を吸うと、メリルの両肩を掴んだ。メリルは大きな目を見開いて彼の顔を見つめた。
「メッ、メリルッ!!」
ヴァッシュは鼻先10センチ程先にいる人物に向かって鼻息荒く声をあげた。メリルは突然の事態に目を見開いたまま固まってしまっている。
「俺・・・俺と!!・・・その、俺と・・・俺・・・」
声は尻すぼみに小さく途切れた。俺と・・・本当に・・・いいのかな?でも彼女が誰かとどうかなるってのも。肩を掴んだ手に知らずと力がこもった。
頬に衝撃を受けて、ヴァッシュは横転した。転んだ拍子に頭が壁にぶつかる。痛みに眩暈を起こしながら身体を起こすと、怒りで顔を上気させ、肩をいからせたメリルと目が合った。
「なッ何なんですかッ、今朝から!?ふざけるのもいいかげんにしてください!」
温かな湯気。熱いスープ。いつも通りの晩餐。
ヴァッシュの両頬が脹れていることを除けば。
これは珍しいことだったが、暗黙の了解で全員礼儀正しく無視した。少しぎこちない会話。食器が控え目に触れ合う音。食べ終えたヴァッシュは食器を流しに運びながら、ぽつりと呟いた。
「我慢しなくてもいいんだよ、ミリィ」
「ヴ、ヴァッシュさん、私、そんな!すみません、別におかしいなんて思ってるわけあったりもするんですけどははははは!御免なさい!!」
ヴァッシュは拗ねたように肩をすくめると、皿を洗い始めた。
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