このお話はアニメ終了後なのですが、ハッピー・エンドを旨としているため、何故かウルフウッドが生きていたりします。しかもストーリーにあんまり関係ありません(だってばめりですもの…)。ちなみに、4人組+ナイヴズでどこかの町外れの一軒家に住んでいることになっています。








OUT THERE SOMEWHERE?-1


GHOST
 じりじりと照りつける太陽を背に受けて、男は砂漠を歩いていた。自分と、背中のもう一人の重みで、歩く度にブーツが砂に深く埋もれる。汗と血が混じった苦い味が口の中に広がったが、何故か苦痛や疲労は感じなかった。
 彼は前方に人影が見えることに気付いた。熱砂から立ち上る陽炎のおかげで不鮮明だったが、丸みをおびたシルエットはどうやら女性のようだ。
 彼女が迎えに来てくれたのだろうか。まさかそんな。自分の行先なんて知らないはずだ。でも、もしかして。期待と不安が錯綜する。彼の心に応えるように、陽炎がゆらいで消えた。

「!!?」

 それは、男の(それから、彼の背中の人物も)よく知る人だった。尤も150年程前に死に別れたのだが。
「偉いわヴァッシュ。何かをやり遂げるってとっても素晴しいことよ。私、とってもあなたが誇らしいわ!」
彼女は両手を胸の前で合わせて祈るようなポーズを取った。それから呆然としているヴァッシュの鼻先に向かって、勢いよく人さし指を突き出した。
「今度は新しい目標に向かってがんばらなくっちゃねっ!ふふふ、実はもう知ってるのよ。ヴァッシュったら結構ちゃっかりしてるんだから、憎いぞこいつう」
レムは突き出した指をそのまま彼の頬にぐりぐりと押し付けた。ヴァッシュは話が見えない上に、とっくの昔に亡くなったはずの人間に当り前のように話しかけられてすっかり面喰らっていた。もしかして幽霊って奴なのかな?
「レ、レムってあの、本当にレム?…それから、話がさっぱり見えないんだけど…」
彼女は無視して話し続けた。亡霊は耳が遠いらしかった。
「…簡単な事よ、あとはプロポーズだけよ!ヴァッシュ」
「プ、プロ…!?」
そのときになって、ようやくヴァッシュはレムの後にもう一人立っている事に気付いた。大きな青灰色の瞳が光を受けてきらめいている。彼は激しく動揺した。
「メ、メリ…!?」
「こーんなかわいい子見つけてくるなんて、ヴァッシュたら意外にやるわね。がんばるのよっ!男は度胸っ!」
レムは彼女をぐいぐいとヴァッシュの方に押しやった。プ、ププププロポーズだなんて、そんな、いきなり!?

 「わああああああ!!」

 起き上がると、いつもの自分の部屋だった。朝焼けの光が少しだけシーツの上に漏れている。 ヴァッシュは額の汗を拭った。こんな夢を見るなんて、自分はどうかしている。プロポーズだなんて、プロポーズ…。それってつまり、結婚するってことじゃないか。いや当然そうなんだけど、そんな夢みたいな話。ヴァッシュが煩悶していると、肩と胸に柔らかく温かいものがそっと触れた。薄闇の中でほのかに白い肌が浮き上がって見え、喉元に温かく湿った吐息がかかった。ヴァッシュは身体中の血が沸騰するのを感じた。
「ヴァッシュさん、うなされてたみた」
「うっうわっ!!わああああああああ!!」
「ちょっ、ちょっとなんですのいきなり!!落ち着いて下さ…もうっ!やめて下さい!!」

 芳醇なコーヒーの香り。厚切りトーストにたっぷりと塗られたバター。眩しい朝日。ダイニングに置かれたテーブルには家の住人が全員揃っていた。他愛のない会話。食器のぶつかる音。いつもと同じ朝の情景が繰り広げられていた。
 ヴァッシュの片頬が赤く腫れ上がっていることを除けば。
 しかし実際にはそれは珍しいことでもなかったので、全員礼儀正しくそれを無視した。ヴァッシュはコーヒーを飲みながら、向かいに座っているメリルをうかがった。彼女は自然に振舞おうと努力していたが、どう見てもまだ怒っているようだった。
 参ったなあ・・・。彼女を怒らせたくない。いつも笑っていて欲しいし、もっと仲良くしたい。・・・いや、仲良くしたいだとかそういうレベルの話じゃなくて。そこで昨夜のレムの言葉が脳裏に蘇ってきて、ヴァッシュは危うくコーヒーを吹きそうになった。それはいくらなんでも、ちょっと・・・。第一自分は彼女と「同じ」ではないわけだし、全てを知った上で受け入れてくれただけで、僕は十分満足してる。でも・・・。
 「ヴァッシュさん、コーヒーがどうかしましたか?もっ、もしかして虫が入ってたりしてたんじゃ・・・」
 ミリィが心配して声を掛けてきた。どうやらコーヒー・カップを両手で挟み込んだまま、自分の思考に没入していたらしい。何でもないよ、と慌てて声をかけた。気分転換しよう。ヴァッシュはコーヒーを飲み干そうとして、手を止めた。
ナイヴズが彼女を見つめている。まさか。ヴァッシュは言い知れない不安が押し寄せてくるのを感じた。

 僕は今のままで満足だし、何もいらない。でも、もしも誰かが彼女を好きになったら?そして彼女が他の誰かを好きになったら?

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