SCENE 02

  大柄な男が歩いている。木々は高く茂り、ドームの天井に届きそうな勢いだ。遠くからこども達の歌声が聞こえる。あれはなんて曲だったっけ…?男は立ち止まり、首をかしげた。思い出せない…?
 その時、すぐ側で呻き声が聞こえた。若い女の声だ。男は慌てて声のする方へ向かった。

「ホントにありがとうございます!!」
カールした髪を勢いよく前後に揺らしながら、声の主は深々と男に頭を下げた。池に落ちかかっているところを彼に助けられたのだ。落下を防ぐため、咄嗟に池に刺してある看板を掴んだのはいいが、そのまま身動きが取れなくなって困っていたのだという。
「どうしてこんなところにいたの?「立ち入り禁止」って書いてあるでしょ?」
「花が見たかったんです。スッゴク不思議ですよねこの花!!どうなってるんでしょう?」
 池の表面では、大きな桃色の花が満開だった。彼は何故か胸騒ぎを感じた。どうして…?
 その時、また歌声が聞こえてきた。声のする方に目をやる。
「キレイな曲ですねえ。なんて言うんでしょう?」
 刹那、彼は思い出した。同時に不安がよぎる。
「この曲もこの花と同じ名前なんだよ。きれいだよね」

「ロータス…?」

 突然女の声が、背中の中ほどから聞こえてきた。声が違う気もする。冷たいものが身体中を走った。恐る恐る振り向く。

 菫色の双眸と目が合った。


 「先を急ごう、ウルフウッド!!」

巡回牧師は旅の道連れを見上げた。いきなり大声を上げたので、食堂中の人間が彼らを見つめている。そこには朝食のために立ち寄った旅人が大勢いた。
 やたら無駄に目立つやっちゃな…。ウルフウッドは心の中で毒づいた。無論自分の巨大な十字架のことはきれいに忘れ去っている。まあでも、先を急ぐ分には構わんか…。しかし、ウルフウッドは心に引っかかるものを感じた。何かがおかしい。何故ヴァッシュは急にそんな事を言い出したのだろう。急ぎたいのなら、とっくの昔に旅立っていても良かったのだ。何しろ怪我は随分前に全快していたのだから。
 …そういえば、こいつがワイよか遅く起きてくるちうのは、初めてなん違うか。ウルフウッドは眼前に座ってメニューを眺める男をまじまじと見つめた。彼は何事も無かったかのような顔をしている。だが、視線はあからさまにさまよっていた。ウルフウッドは試してみることにした。

「そやなあ、急ぐんなら、バイク買うたほうがええやろなあ。…しかしケッタイやな。なんでそないに急にやる気になってんか」
「いやあ!なんていうんですか?初志貫徹?休息もとりすぎるぐらいとっちゃったし、遅れた分は取り戻さないとね!」
「ほうか。…ワイはまた何かヤバイもんにでも追われとるんちゃうか思ったわ。オドレの場合は賞金稼ぎやなかったら、借金取りやろなあ…それともナニか?ひょっとしてあの保険屋の嬢ちゃん達か!?…それもちっこい方?」

 ウルフウッドは動揺の色を押し隠そうとする大男を見ながら食後の一本に火をつけた。


 「先輩!ヴァッシュさん達はバイクを買ったみたいですよ!」
「それで隣町まで行くつもりですのね。そうなると、バスを待っていては追いつけませんわ。そうですわ、車を買いましょう!!」
「ナイスです先輩!」
「絶対に追いつきますわよミリィ!」

 都会から来たキャリアOL、通称保険屋さん達はガレージに向かって歩き始めた。

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