次の街に一緒に行こう、と提案したのはヴァッシュだった。牧師が抗議の声を上げたが、みなまで言わない内に保険屋二人に却下された。ウルフウッドは渋々荷造りを手伝おうとして、肝心のヴァッシュの手が止まっているのに気づいた。すかさず蹴り倒す。ヴァッシュは無防備に顔から地面にめりこんだ。牧師は踏みつけると、怒鳴った。
 突如、ヴァッシュが勢いよく立ち上がり、ウルフウッドはよろめいた。謝罪らしきものを呟くと、そのままヴァッシュは猛ダッシュで駆け出していった。
 「なんや、遂にオカシなったん違うか」
 牧師は首をかしげた。出発はしばらく先になりそうだった。

 少女は陽の射さない路地の入口で待っていた。驚いたヴァッシュはつんのめったが、なんとか姿勢を立て直した。彼女は微笑んでいた。暗くてはっきりとは判別できないものの、初めて見る彼女の顔は大きな濃い色の瞳が印象的だった。長く、暗い色の髪がさらに深く瞼の辺りまで影を落としている。
 「何か御用?」
「花を・・・花を売ってほしいんだ、売り物でしょ、それ」
「もちろんよ。リボンもつけてあげる。どれがいい?」
 少女はどこに持っていたのか、色とりどりのリボンを取り出した。ヴァッシュは紫を求めた。彼女の瞳の色なんだ、と、照れながらも付け加える。
 「あら偶然、私とおんなじ」
 暗がりの中に二つ、澄んだすみれ色の光が浮き上がった。
 「面白いわね。じゃ記念にカードもつけてあげる。名前は?」
「・・・・メリル」

 答えは聞かなくても分かっていた。

 「ちょっとちょっと、こんなところで立ち止まらないでくれよ」
 背後から強く押されて、ヴァッシュはよろめいた。振り返ると、壮年の男が腰に手を当ててこちらを睨んでいる。側のリヤカーから果物がこぼれ落ち地面に散らばっていた。慌てて謝罪しつつ辺りを見回すと、行き交う人々の群れで道はいつの間にかいっぱいになっていた。路地にいたはずなのに?少女は消えていた。わずかに失望を滲ませつつ、それでもヴァッシュは自分が落とした果物を拾おうとして、片手が塞がっているのに気づいた。

 ロータスの花を一輪握っていた。

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