第 2 話
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「聞いたかね、火の里でのこと」
村で、耶邦はそう声をかけられた。
それは志津樹の着物を仕立ててもらった――耶邦の着物では大きくて着られず、もと身につけていたものは破れてしまっていた――帰りのこと。いつも村へ降りた時に立ち寄る饅頭屋でのことだった。
「火の里?…あの千間川の川上にある、火を操るって村のことか?」
噂には聞いたことがある。
耶邦の住む村を流れる千間川のはるか上流の地に、炎を操る一族の村がある。そこに住む人々の力は他の村のものから恐れられ、今では僅か近隣の村とだけ交流をもつと言う。
「そうだ。罰当たりなことに、御社を焼き払ってしまいおったんじゃ」
「へー」
興味無さそうに答えたら、饅頭屋の主人に頭を殴られた。
「何するんだ」
「いいかよく聞け。火の里の村人が祀っとった御社にゃ、水の神様が祀られとったんじゃ」
「は?」
「火の神とて人間じゃ。己が性の激しさを自覚してそれを鎮めるためと言い、自らの村に水の神様を住まわせとった。じゃのに、水の神様の御社を焼き払ったんじゃ。唯一のたがが外れた火の村人は、昨夜もほら、東の大供の村が焼き払われたそうじゃ」
「大供の村って言やあ、この近くじゃねぇか。じゃあこの村も…って…?」
「だんだんにこの村に近づいとるということじゃ」
「……」
耶邦は考えるふうをする。村とは少し離れて住んでいるとは言え、自分もこの村人の一人である。
「まぁ安心せい。お前のような子供の力を借りることはあるまいて。それよりも耶邦、お前の拾ってきたという子じゃが…」
「志津樹のことか?」
「ないこととは思うが、火の里におった水の神様に仕えておった巫女の名がシズキと言ったそうじゃ」
「……え?」
「もちろん巫女の方は可愛い女子であったと言うがな」
耶邦は急に気になり始める。
志津樹を助けた時、彼の着ていたものは何であったか。
倒れていたのは水嵩の増した千間川の――川上に火の里のある――川辺ではなかったか。
そして、少女と見まがう風貌。
偶然にしては揃いすぎている。
「どうした耶邦、ほれ、饅頭一個おまけしといたぞ」
饅頭屋の主人はそう言って、まだほかほかと湯気の立つような饅頭の包みを差し出した。
* * *