第 2 話

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 しかし次の日もその次の日も、耶邦の助けた少年は目を覚まさなかった。

 耶邦は心配になりながらも、自分が手を触れると今にでも壊れてしまいそうなほど頼り無げに横たわる彼を見守るしかできないでいた。

 ただ、日ごとに生気の蘇って来るのを確実に捕らえることができていたことが、耶邦を安心させていた。

 少年は三日三晩こんこんと眠り続けた。

 そして四日目の朝、そっと襖を開けて覗き込んだ耶邦の目に、布団の上に上体を起こして座し、じっと目を閉じている少年の姿が映った。

 耶邦は思わず、大きな音を立てて襖を押し開けてしまった。すると少年は、茫然として立つ耶邦の方へと目を向ける。

 涼しげにほほ笑む様が、耶邦の身体から一気に力を抜きとった。彼はその場にペタリと座り込んでしまった。

「よかった…」

 自然と口をついた言葉と共に、胸の内が熱いもので満たされていくような気がした。

「耶邦さま…?」

 名を呼ばれて耶邦ははっと顔を上げる。

 と、目の前の少年は布団の上から降り、床の上に三ツ指をついていた。

「助けていただいたようで、何とお礼を申し上げたらよいか…」
「お…おいっ」

 耶邦は慌てて少年の側に寄り、その細い肩に手を当てる。

「礼なんていいから、まだ寝てろって」
「でも…」
「三日も眠ってたんだ。いきなり動いたら壊れてしまうぜ」

 変な言い方だが、耶邦には本当にそんなふうに思えたのだった。

 耶邦はそっと少年を布団の上へ促し、横たわらせた。

「あともうしばらくはおとなしく寝てないとな」
「ご迷惑をおかけします」
「気にしてると良くなんねぇぜ」

 耶邦は心配そうに自分を見上げて来るその少年の頭にそっと手を触れてみせた。柔らかい髪が指に絡まることなくさらさらと流れる。彼はくすぐったそうに目を閉じてみせる。

「何か欲しいものないか?」

 声をかけると彼は目を開け、僅かに首を振ってみせる。

「ありがとうございます。でも今は…」

 少しがっかりして、耶邦はつぶやく。

「そっか、まあ、何か欲しいものがあったら遠慮せずに言ってくれよな」
「ありがとうございます、耶邦さま」
「その“さま”っての…何かくすぐってーから…耶邦って呼んでくれよ。それから…オレ、お前のこと何て呼べばいいのかな」

 聞かれて少年は再び起き上がった。しかも、跳び起きたと言っても言い過ぎではないほどいきなりで、耶邦の方が逆に驚いてしまった。

「申し遅れておりました。志津樹と申します。助けていただいておりながら名前一つも名乗らず、無礼の数々お許しください」

 耶邦は目を丸くする。

「えっと、あのー、しず…志津樹? そんなおっかながんねぇでいいからよ」

 言って耶邦は再びその少年――志津樹を横にさせる。

「早く元気になれよ、な」

 耶邦の言葉に志津樹は僅かに瞳を潤ませながら、それでもほほ笑んでみせた。


   * * *



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