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「お前、何なんだ? そう言えば…」
あの時、クローン人間と戦っていた時に使っていたのは、多分、超能力。見ると、腰のベルトに銀色の鎖がかかっていた。
「お前…」
弘毅の視線に気づいて、彼がポケットの中から取り出したものは鈍色の時計だった。
「組織の、超能力者か?」
「うん」
あの戦いぶりと言い、強大な攻撃系超能力と言い、小さな子どもとは思えない技能に驚かされたが。
「ここに来て、2年になるんだ」
改めて見ると、ただの小さな子どもである。11-2歳くらいか、色素の薄い髪が子ども特有の柔らかそうな面立ちの顔を包んでいた。見上げてくる瞳が、光の加減で金色に輝いても見えた。
「取り敢えず今夜はゆっくり休んでよ。司令官のところへは明日行くって言伝したから」
そう言って彼はそのまま背を向ける。
「待てよ」
ドアに手をかけるその小さな背中に慌てて声をかける。
「俺はあいつの命令なんて聞く気はねぇぞ」
あのクローン人間を目にして、東藤の狙いは察しはついた。十中八九あのクローン人間をどうにか始末しろと言うことなのだろう。
そんな弘毅を振り返り、彼の顔をじっと見てから子どもは返す。
「いいよ、僕がやるから。松田さんは司令官の命令だけをハイって受ければいい」
「な…?」
驚く弘毅に相手の笑みは柔らかかった。
「松田さんにできないことなら、僕がやるから。心配しなくていいよ」
それはあのクローン人間と何とか渡り合っている自信からくる言葉なのだうか。
いや、それだけではないようにも思えた。
「それじゃあ、また明日迎えに来るね」
「待てって」
弘毅はドアを開けて出て行こうとする彼を、ベッドから出て捕まえる。
掴んだ腕は思った以上に細かった。こんな腕で戦っていたのかと、一瞬戸惑う弘毅に、小首をかしげて見上げてくる瞳。
「何?」
聞かれて慌てて手を放す。
「お前、名前は?」
見上げてくる目がまっすぐ弘毅を捕らえて、それからスッと離される。
「…」
「え?」
呟く声が小さくて、聞き返すときっぱり返ってきた言葉。
「紫田真雪(しだまゆき)」
それだけ言って、彼は部屋を出て行った。
一瞬合わされた瞳が、何かを言いたそうに見えた。