-1-

8/9


 目を覚ました時、一番に飛び込んで来たのは、心配そうな表情をしたあの子どもだった。

「あ…」

 かける言葉が見つからないのか、弘毅が目を覚ますと一転、ホッとしたような色を浮かべる。余程心配していたのだろうかと、内心で少しうれしく思いかけて、いきなり思い出した。

「峻っ!」

 叫び様に跳び起きて、クラリと目眩がした。弘毅は頭を抱えてそのまま突っ伏す。

「峻はどうしたっ?」

 唸る弘毅に、彼は複雑な色を浮かべる。

「再生して、逃げたよ」

 その言葉にホッと息をつく。そんな弘毅に、遠慮がちに声がかかる。

「まだ横になっていた方がいいよ」
「お前なっ」

 そっと手を触れようとする彼を振り払うように、弘毅はその手を叩く。ピクリとして、子どもは身を引いた。

「ゴメン、頭、痛い?」

「いてーも何も…チクショウ…」

 それでも何とか上体を起こした。

 落ち着いて辺りを見回した。ここはどこだろうかと思いかけていると、横から声がかかる。

「組織の管轄の宿舎。三澤さんに送ってもらったの」

 そう言えばホテルのようでも、病院のようでもない。殺風景な部屋にはベッドとテーブルがあるだけだった。

「組織? 俺は追放の身だぞ」

「そうなの? でも東藤司令官が連れて来いって」

「あぁ?」

 弘毅は子どもを睨むように見やる。

 目付きが悪いと昔から定評のある弘毅だった。脅えるものと踏んだのだが、相手は一向に怖がる様子も見せないどころか、にっこり笑顔を浮かべる。

 それに気抜けする弘毅。

「俺はあの野郎の顔なんて見たかねぇんだ」

「またそんなこと言って」

 含み笑いを込めたその言葉に、弘毅は一瞬違和感を覚える。

「相手は上司なんだから、きちんと命令には従っておいた方がいいと思うよ」

 知ったかぶりの口調に、弘毅はムッとする。


<< 目次 >>