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 慌てて視線を向けたそこに、地面に手をつく子どもがいた。その手元から無数の矢が伸びてきた。その矢はクローン人間に向けて地面を蹴るように飛び出した。

「サイコキネシス…」

 思わず、口をついて出た言葉。

 地面に埋まる石を変形させて矢のようなものを作り、それを敵に向けて繰り出す。

 クローン人間は軽く身をひるがえしてそれらを避ける。その隙に子どもは反対側から突っ込み、そのまま両手の平をクローン人間の腹部に押し当てる。

 クローン人間の身体の子どもの触れた部分が、内部から破裂した。

「う…わっ」

 クローン人間が叫び声を上げて吹き飛んだ。飛び散る肉塊。

「峻ッ!」

 弘毅は思わず車から飛び出した。

 峻の姿をしたクローン人間に駆け寄る寸前、弘毅の身体を止めたのはその子どもだった。

 立ち止まった弘毅の目の前で、クローン人間はよろよろと立ち上がる。押さえた腹部が大きくえぐり取られて、空洞になっていた。

「峻ッ!」

「ダメだよっ」

 小さな身体が弘毅を力いっぱいに止める。その目の端でクローン人間の身体はすぐに復元していった。その様は明らかにヒトのものではなかった。元に戻っていく肌は、あっと言う間に傷も消えてなくなった。

「ヒドイよ、こんなの…」

 クローン人間が弘毅を見る。一歩近づいてくる。

「コウキ、ボク、会いたかった…コウキ…」

「峻…」

 弘毅は自分を止めようとする手を振り払う。思いっきり払った拍子に、子どもが地面に倒れるのが横目に見えた。しかし、目の前の者から視線を逸らせなかった。

「峻」

 虚ろな瞳のまま、弘毅に向けて両手を差し出してくる。

「コウキ…」

 その手を取る。冷たい手だった。血の通わない、魂のない、この悲しい身体を自分が作った。

 この中に本当の峻はいない。分かってはいる。だが――。

「峻、ゴメンな…」

 呟くように言って、抱き締める。何度も何度も口をつくのは、謝罪の言葉。

「コウキ、ボクを…」

 弘毅の腕の中のクローン人間が小さく呟く。何なのかと、聞き返しかけた時、脇から腕を引かれた。

 勢いに負けて、クローン人間から引きはがされる。見ると、弘毅に体当たりするかのように飛び込んできた小さな身体があった。


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