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その姿に、動けなくなった。
それは弘毅より一回り小さな少年だった。柔らかな栗色の髪が風になびいていた。一日として忘れることのなかったその姿。
「やっと…見つけた…」
その声はかつてのままの、柔らかな少年の声のままだった。ただ違うのはその深い赤色をした瞳だった。かつて自分が作り上げた人間――クローン人間だった。
「峻…」
かすれた声が喉からもれた。何年も前に失われた存在、我が半身、見まがう筈もなかった。
弘毅は目の前の人物に吸い寄せられるように歩を進めた。無表情なその顔にかつてのこぼれるような笑顔を見たことはなくても、自分を慕う澄んだ瞳はなくても、それでも、それでも、引き付けられた。
「コウ…キ…」
冷たく、抑揚のない声が自分を呼ぶ。
「峻」
手を伸ばす。
抱き締めようとしたその寸前。
「ばかっ!」
怒鳴られると同時に突き飛ばされた。何か小さな塊に横合いから体当たりされ、弘毅は地面に転がった。
「いてて…」
頭を振って、自分の上にのしかかっている者に目を向けた。それは見覚えのない子どもだった。
「このガキ、何しやがるっ」
振り仰いで、怒鳴る弘毅を見返した子どもの瞳が彼を捕らえる。確かに見覚えのない顔だった。それなのに、何故か胸の奥で熱くなるものを感じた。
が、それも一瞬で、すぐに自分達に覆いかぶさるように、別の影がさした。
見上げると、クローン人間が立っていた。
「コウ…キ…」
弘毅に手が伸ばされる。その手を取ろうと伸ばしかけて、叩き落とされる。
「ダメだっ」
「お前、何を…」
邪魔をする子どもに怒鳴ろうとして、彼の指さす方向に目を向ける。
そこはつい今し方自分の立っていた場所だった。地面が焼け焦げていた。よく見るとクローン人間の手首が黒く蒸気を出していた。
「峻…」
「どうして、逃げるの?」
一歩ずつゆっくりと近づいてくる。
素早く立ち上がったのはその子どもだった。弘毅の手を引く。
「ここじゃ、怪我人を巻き込む。逃げるよ」
言うが早いか、そのまま駆け出す子どもに弘毅は引っ張られるようにして従う。クローン人間を振り返り、呆然と立つその姿に、かつての自分を思い出す。
峻を置き去りにして逃げた自分を。
再生しようとした身体に峻の魂が宿ることはなく、そのまま失われてしまったと知った時、自分は――。
引きずられるようにして走った先に、ジープが止められていた。
「早く乗って」
子どもに背を押され、弘毅は後部座席に座った。子どもはジープの前方から回り込んで素早く助手席に着く。
「全速力でお願いします。なるべくここから離れてください」
「オーケー」
間延びした口調で返す運転手の聞き覚えのある声は、しかし弘毅を振り返ることはなかった。そのまま、いきなりアクセルを踏んだ。
「うわっっ」
振り落とされないように、弘毅は慌てて座席にしがみついた。
ジープはおよそ乱暴としか言いようのない勢いで、山道を突っ走っていった。
* * *