第 1 話
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その男の出現に、寛也は一歩退く。男はそんな寛也と、背後に突っ立ったままの翔に目を向けてくる。
「そっちのガキは…?」
翔は直感する。
「あんた達なの? 杳兄さんをさらったのはっ」
「兄さん…? 成る程、寛也にでもたぶらかされたって訳か」
「何をっ」
睨む寛也を無視して、男は翔に目を向けたままで言う。
「会いたいなら、杳に会わせてやるぞ」
「えっ?」
「俺はお前の敵ではない」
そう言う相手は、翔には信用できそうにも見えなかった。何よりも、力ずくでさらって行ったと言うのが気に入らない。
「敵じゃないのに、何で杳兄さんをさらったりするんだ?」
翔の問いに、男は肩をすくめる。
「さらった訳じゃない。こいつらの手から救い出しただけだ」
「黙れっ」
寛也が怒鳴る。それは、この男の言葉を翔には聞かせたくないようにも聞こえた。
「寛也、考え直せよ。人についても、所詮、報われる身でもないだろう?」
「俺は人間だ。お前みたいな化け物と一緒にするなっ」
怒鳴る寛也に向けて、どこからか青い稲妻が降りかかった。寸での所でそれをよけて、寛也は床に転がった。
翔は呆然とそれを見やる。何が起きたのか、また、理解できなかった。
その彼に、男は近づいてきた。
「名前は?」
「え?」
声をかけられて、振り返る。薄明かりに見える男の顔は、ひどく冷たいものに見えた。
「お前の名前を聞いてるんだかな?」
「し、翔…葵翔」
慌てて答える翔に、男は口の端を上げる。
「一族に相応しい名だな」
「一族…?」
何の事かと聞き返そうとする前に、男に腕を取られた。