第 1 話

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 ガタン、ゴトン…。

 聞き馴れない音に、翔はようやく目を開けた。

 ぼんやりしながら起き上がろうとして、ズキンと左肩に痛みが走る。

「っつーっ」

 途端、覚醒した。周囲を見回す。どこだろうか、見覚えのない部屋だった。遠くでガタゴトと聞こえるのは、電車の走る音だと気づいた。

 と、襖が開かれる。

「やっと起きたか」

 その声に振り返ると、寛也が立っていた。手には盆を持っていた。

「ここは…?」
「俺んちだ」

 言いながら、寛也は持っていた盆を翔のいる布団の側に置いた。おいしそうなみそ汁の匂いが漂う。

「腹ごしらえ、しておけ」
「え?」
「あいつら、助けに行かなきゃならねぇだろ」
「助けるって…」

 どこに連れて行かれたのか、知っているのだろうか。首を傾げる翔の頭を乱暴にかき回す。

「とっとと食ってしまえ。てめぇは自分の兄貴が心配じゃねぇのか」

 言われて、ムッとする翔。

「心配だよっ。何が何だか分からない分、あんたよりずっとね!」

 声を大きくする翔に、寛也は一瞬だけ目を丸くして。

「ふーん…元気だけはいいな」

 言って、口の端を吊り上げた。その様子が翔には気に入らないものだった。

「あんた達、一体何者?」

 翔の問いに、寛也は肩をすくめる。

「あの潤也って人、本当に人間?」
「お前と同じくらい、俺達だって人間だ。だが、人間の血に中に混ざる比率は低くても、中には変わらない濃さを持つ奴だっているんだ」
「何の…?」
「まあ、一種の超能力かな。ジュンは…双子の俺にはそんなもののかけらもないが、あいつはあの通りだ。お前の兄貴も同じだ」

 寛也の言う意味が翔には理解できなかった。昨夜見た、潤也が鳥のようなものに変身するのと同じように、兄の杳も何かに変身すると言うのだろうか。

「まさかっ。兄さんはそんなんじゃないよ」

 翔の言葉に、寛也は鼻で笑って見せた。

「信じなけりゃそれでいいさ。とにかく早く食っちまえ」

 言って、寛也はみそ汁とご飯だけの乗った盆を差し出した。


   * * *




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